「みーいーちゃーん!遊びに来たよぉー!」
「帰れ」
私は戸を開け、ニコニコ顔で玄関に立っている少女を一瞥すると、
一言告げて戸を閉め「ちょ、ちょっと、閉めないでよ!」られなかった。
兎耳を着けた存在が、素早く戸の間に靴を挿みやがったのだ。
なので、すかさず靴を踏みつける。
以前はまさか踏まれるなんて思わなかったようで、痛がった隙に戸を閉めた。
だが、まるで鉄板でも仕込んでいるかのように、靴はびくともしない。
「むっふっふー、前回のような失敗をしない束さんなのですよ。
無防備な靴を踏みつけられないように、安全靴を作ってみ・・・へぶぅ!?」
なので、戸を開け、呆けた隙に束本体に蹴りをかます。
とりあえず、脛を蹴ってみた。
予想外の行動か、兎耳は蹴られた痛みで悶絶したので、
「次からは足にプロテクターでもつけて来なさい」と言って、
ぴくぴくする束を抱きかかえて家へと上がらせた。
「酷いよ、みーちゃん!
いくら天才の束さんでも、身体の構造は人間なんだから、脛を蹴られたら痛いんだよ!?」
「なら約束も連絡も全くなく、突然家に来るのは止めなさい。
これでも私は忙しい身なんだよ」
プンプン!と頭から湯気を出しながら怒る束の言葉を、私は読書をしながら聞き流す。
「忙しいって、そんな訳ないじゃん!
束さんは、みーちゃんのことは、ぜーんぶ知ってるんだよ!?」
「ほう?どれくらい知っているんだ?」
「むっふっふー、とりあえず戸籍や家族関係といった書類関連、
学業やこれまでやってきた仕事についてもそうだし、
いっちーや箒ちゃんとの一週間の予定もぜーんぶ知ってるんだよ!」
「ふむ、それは凄い。ちなみに、先週の日曜日、私は何をしていたんだい?」
「午前中に遊びに来た、いっくんと買い物に出かけて、お昼に一緒にパスタを食べたんだよね。
多めに作って、ちーちゃんの夕食に食わせてやれって言ってたよね。
その後は、箒ちゃんやその他のために、いっくんと一緒におはぎを作ってた。
里芋を混ぜたおはぎなんて束さん、知らなかったよ!
午後からは、遊びに来た箒ちゃんたちに、かくれんぼや鬼ごっこに駆り出されてた」
「おお、その通りだ。それで、どうしてお前がそれを知っているんだい、束大先生?」
「それはもちろん、市役所に忍び込んでハッキングしたり、
この家にこっそりとカメラやマイクを置いた・・・り・・・」
ふと、兎耳の顔がどんどんと蒼白になっていく。
「おやおや、どうしたんだい束大先生?今の続きを聞かせてくれないか?
一体、私の家に何をしたのかを・・・?」
私が本から顔を上げ、そのまま彼女の方へ向けると、兎耳が「ひぅ!?」という可愛い声を出した。
あらあら、可愛い声を出すじゃぁないか。
「私は話を寸止めされるのが嫌いなんだ。ほら、続きを聞かせてくれないか?」
私は本をテーブルの上に置き、ゆっくりと兎耳へと近づく。
私の顔が歪むのを見た兎耳は、もはや震えだしている。
織斑姉のようなアイアンクローは出来ないが、私にだって必殺技くらいはあるのだよ。
私は右手を前に付きだし、わざとゆっくりに兎耳へと近づける。
そして中指と親指をくっ付け、そう、凸ピンがなぁ!
「で、言うことがあるんじゃないかな?」
「ごめんなさーい!」
束が謝ったことで、私は指を引っ込めて溜息を吐く。
「今度同じことをやったら、織斑姉とコンボだからな」
私の言葉に、束は本当に恐怖したと思う。これで少しは懲りてほしいよ。
「それで、今日は何しに来たんだ?」
弄っておいて言うのもなんだが、私は束に尋ねる。
取りあえず、通販で取り寄せた茶請け用の醤油せんべいを渡す。
「そうだったよ!(バリボリ)
束さんとしたこが(バリボリ)すっかり(バリボリ)忘れてたよ(バリボリ)
みーちゃん(バリボリ)実は(バリボリ)みーちゃんに(バリボリ)プレゼントがあるんだ!」
「とあえず、喋るか食べるかどっちかにしようか?
食べてる時に喋るのは私に失礼だし、聞き取りづらい。そして畳が汚れる」
束は、そのまませんべいを一袋食べ終えた後、私に尋ねきた。
「ねぇ、みーちゃん。この世界についてどう思ってる?」
「急に哲学家にでもなったのか?
そうだな、生きるのは大変だが、かといって嘆かない程度には絶望もしない。
私がこの家で平穏に生きれるなら、まだまだ救いはあるんじゃないかね。
ま、今では忙しすぎて楽しくもあるんだがな」
「そう、みーちゃんらしいね」
私の言葉に、束は苦笑しながら、何かを私に差し出した。
丸く光り輝くもので、一見すればビー玉かガラス玉、トンボ玉のように見える。
だが、私は騙されない。
こいつが何か渡す時は、絶対に何か仕込んでいることが多い。
万能包丁を持ってきた際は、まな板ごと斬れるほどの切れ味を備え、
眼鏡を持ってきた際は、赤外線や紫外線、果てに映像を傍受する無駄な機能を搭載し、
ドライヤーに至っては、鉄板で目玉焼きが焼けるほどの出力であった。
取りあえず、調整し直して使わせて貰っているが。
「ほう?これは変わったプレゼントだな。
突然魔法のステッキになるのか?それとも銀河天使戦闘機の起動キーか?
暗器が貯蔵庫されているのか、タイムマシンに必要な機械か、
もしかしたら、全身装甲のパワースーツにでもなるのかね?」
私が適当に茶化し、束の反応を窺うと、束は面食らったような顔をしていた。
「おい、待て。今のは冗談だぞ?
本当に冗談だからな?いや、本当に勘弁してよ?
今話したことは全てアニメーション、お伽話だからね?
まさかそんなことはないと思うし、思いたいのだが、え、本当に?」
私は願った。
今言ったことはまさにアニメーションのお話であり、現実ではない。
確かにこの世界はライトノベルの世界ではあるが、
それはここでは違う場所で起こる事であって、私とは無関係のはずだ。
だから、お願いだから平穏を、私に平穏をください、神様。
「うん、それ、私が作った機械のコア。
インフィニットストラトスって名づけるつもりなの」
束、私はたった今、世界に絶望したよ