「みやこさん、どうしたの?びょうきなの?おなかいたいの?」
「みやこさん、かぜひいたの?」
「だいじょうぶ?」
「頼む、そっとしておいてくれ・・・」
ベッドで毛布をかぶって蹲っている私を、一夏や他の子供たちが心配そうに見ている。
止めてくれ、その純真な目で見ないでくれ。心に刺さるから勘弁してください。
そう思いながらも、私は頻りに、
「大丈夫だから、心配しなくても大丈夫だからね」と答える。
別にお腹が痛いわけではない。
そもそも私の場合、
『重大な肉体の損傷や病気にかかるといったことは、まずない』のだ。
それこそ本気を出せば、怪我をしても直ぐに傷口を塞ぎ、
病原菌をも寄せ付けなくすることも可能かもしれない。
もしかすると、モンスター映画や、ホラーゲーム真っ青の、超再生ができるかもしれない。
まぁ、試そうとも思わないし、したくもないが。
そんな私が、どうして体調を崩しているかというと、
原因は私自身がよく解っている。
『肉体面』ではない、ようは『精神面』で疲れてしまったのだ。
諸悪の根源は先日、卯耳束に渡されたプレゼントだ。
『インフィニットストラトス』と名付けられたものを見せられたのだ。
その名と役割を知っていた私は、あまりの衝撃的な話を聞いて精神的にまいって、
気が付けばベッドで横になっていた。
やはり精神的な疲れは、肉体と違って瞬時に直しようがないみたいだ。
そう言えば、同じようなことを、昔にもやってしまった気がする。
あれはたしか、学生時代だったか・・・。
私自身、半ば忘れかけていたが、この世界は、元々が本を題材にしたものだ。
そして、元になった本の名が、『インフィニットストラトス』
まさに、束のプレゼントの名前そのままなのだ。
そのことで私は、卯耳少女束が原作における重要人物であると、嫌でも気付かされたのだ。
もともと私は、神様のせいで前世で死に、二度目の人生として、
神様が用意した箱庭世界に新たな生を受けた。
私自身、転生前に大まかな内容を聞かされたが、私は原作に何ら興味はなかった。
私の望みは、原作に関わることなく、生前に出来なかったことに取り組み、
ゆっくりと生きていくことだった。
そのために私は、こうしたのんびりした町で、ひっそりとした家に引っ越してきたというのだ。
それなのに、出会った住民の一人が、まさかの原作関係者と気付ける訳がない。
しかも、何やら気に入られてしまったのか、何度も遊びに来ているではないか。
その上、原作タイトルまんまなものを、『プレゼント』として貰ってしまった。
これはどう見ても、『重要人物』や『友人関係者』という既成事実となっている。
まぁ私個人としては、『篠ノ乃束』は、一緒にいて退屈しない人物と評価しているが。
だが、それとこれとは別問題だ。
このままでは、私のゆっくりライフが木端微塵になってしまう可能性がある。
しかし!だがしかし!だからといって引っ越す気はない。
私はこの町もこの家も気に入ってしまったし、なにより、
引っ越してしまったらなんとなく『負けた』ような、そんな敗北感がある。
そうだ、私は私の意志でここに来たんだ。
たとえ元がライトノベルだろうが本だろうが、今この瞬間、私は生きているのだ。
たかが『原作』の分際で、私の人生を阻み、それに屈するなど、はっきり言って悔しい。
ええ悔しい。悔しいったら悔しい。
ならばどうすべきか?
布団に蹲りながらも、悶々と考える中、私は思い至った。
そうだ、好きに生きてしまおう。
原作?物語?そんなことは、私は最初から知らない。
そもそも、『インフィニットストラトス』という内容自体、私は大まかにしか知らないのだ。
何か、主人公がモテモテハーレムになるんじゃなかったっけ?
ならば私には関係ないな!私のような二十代に、惚れる理由など無いのだから!
学生は学生同士で、各々の青春を謳歌していればいいのだ!
そうだ、物語がどう動こうが、私には知ったことではない。
そう、『知ったことではない』のだ。
私のしたいことは何だ? 『のんびりと生きることだ!』
私の望みは何だ? 『のんびりと生きることだ!』
私の人生は何だ? 『のんびりと生きることだ!』
そうだ!『のんびりと生きること』それが私の目的なのだ。
何のことはない、後はそれに向けて行動すればいい。
うむ、目的が出来たことで、私の気分が晴れてきたぞ。
人間、『病は気から』と言うのは本当だね。
気が滅入っていたら、物事も良くならないし、悪いことに繋がってしまう。
皆さんも、身体には気をつけてくださいね。
ならば、こうしてベッドに蹲っている暇はない。
だが、今日はゆっくりと惰眠を貪ろうかな。最近、何かと忙しかったし。
ただ、
「みやこさん、だいじょうぶ?おなかいたくない?」
「いえからえいようのつくもの、もってきたよ」
「みやこさん、しんじゃやだー」
「ふぇーん」
私にために、必死に頑張っている子供たちを見ていると、少し罪悪感を覚えるが、
それはそれ、これはこれ。
まぁ、少ししたらベッドから起き上がりましょうか。
あんまり心配かけさせるのも、駄目だよね。
でも今は、少し休んでも良いよね?
そう思い、私は束の間の休息を貪ろうとし・・・
「大丈夫だよ箒ちゃん!
この、束さん特製、病気なんてお茶の子さいさい栄養ドリンク、『束汁』を飲めば、
風邪だろうがなんだろうが、直ぐに治っちゃ「それは貴女が飲みなさい!」
いつの間に侵入してきたのか、何か怪しいラベルの付いた瓶を兎から瓶を奪うと、
そのまま彼女の口に突っ込んで流し込んだ。
すると、兎の顔が、紫や青や赤や緑とカラフルな色に変わる。
ワー、キレイダナー。いったい何が入っていたのかなー?
そして、口から紫の煙を出した後、そのまま動かなくなった。
『私の睡眠を妨げる者には私の怒りに触れるべし』
気を失った兎を見下しながら、私は呪詛を唱える。
『貴様は私を怒らせた』
ちなみに、その光景を見てしまった子供たちは、1D6のSAN値減少判定を受けました。
一時的狂気に陥る子はいなかったので、問題はありません。
その後、気絶から立ち直った束は、
肌がつやつやで、血色も良く、そして気力に満ち溢れていた。
なお「ぽんぽこ狸さん」だの「ガッテンオー!」だの、「マーベラス!」だの言いだすわ、
髪が金髪ロングになるわ、ツインテールになるわと、恐ろしい変異が起こったとか、
そんな光景を見てはいない。見ていないったら見ていない。
ところで、『カズくん』って誰だったのだろうか・・・?