DARK SOULS The Encounter World【旧題:呼び出された世界にて】   作:キサラギ職員

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Lapse Of Time

 霧に覆われた村は混迷の極みにあった。騎士の襲撃。人食い植物の無差別攻撃。霧に蝕まれ正気を失ったものどものが味方を攻撃している。もはや統制などは無かった。市民も衛兵も関係なかったのだ。対処する術を失った市民たちはとにかく逃げようと焦る。子を連れて走る親は無残にも植物に食いつかれて地面の染みと化した。騎士達の戦闘の余波で舞い上げられる瓦礫が投擲武器として村中に襲い掛かっていた。火炎が、雷が、村々を飲み込んで行く。まさに地獄であった。慟哭さえ悲鳴にかき消されていく。

 そんな地獄へ無造作に足を踏み入れる狩装束(イレギュラー)が一匹。

 ちりーん。ちりーん。場に不釣合いな音が暢気に響いていた。

 音は空間に染み込んでいくとあらゆるものを驚嘆させる。人々を。人食い植物を。時空さえ歪めて他の世界へと侵入を果たさんとする狩人の身に宿す神秘は暗く、静かで、まるで宇宙そのもののよう。赤い燐光を纏った狩り装束姿が歪な短剣を右手に握り世界への侵入を果たしていた。世界への侵入者は同時に他の侵入者からも狙われる。殺すのだ、殺されもするのは当然のことだ。

 霧に沈みかけた村に不吉な鐘を鳴らす女が現れた。女はやせ細った屍のような容姿をぼろぼろのフード付き外套で包んでいた。敵対者を誘う鐘を鳴らす女の目的は定かではないが、一説によると、とある上位者は血を血で洗う争いに意味を見出すのだという。狩人同士の殺し合いこそが彼らの目的なのであると。

 世界へと侵入した狩人は、脳に植えつけられた異次元の瞳にて世界を俯瞰していた。あらゆるものが見える。音が見え、匂いが見え、空間の歪が見え、宇宙から飛来する目には見えぬ光線が見え、霧の発生源たる獣の奥に潜む影までも――あらゆるものが見えてしまう故に、人は発狂する。見えてはならないものを見るということは、対象から見られるということだ。深淵を覗き見るものは注意しなければならない。深淵もまた、覗き見るものを覗き見ているのだ。

 男は見た。時のひずみを。瞳を得た人類はいつか時間さえ超越するのだという。死さえも死する果てへと続く道を辿る男は、じゅるりと唇を舐め上げると、自らに食いつかんとしていた植物もどきの背後を瞬時に奪い取っていた。古狩人達が編み出した加速の業であった。

 刹那弾かれたように右腕の短剣が一直線に導かれる。植物の背後へと突き刺さるや、蝶の羽のように分離する。

 びしゃりと狩人の装束に植物の体液が染み込んだ。

 ぺろりと顔にかかった液を舐め上げて首を傾げる。おいしくもないしまずくもない血であった。

 

 「アァ……血のにおいに誘われたってのに化け物風情が揃いも揃って面白くもねぇな」

 

 狩人は落胆の色を隠せずにいた。強い力を感じ取り世界に侵入してみたというのに、怪物しかいないのだ。極上の得物がいればいいというのに。神父ガスコインやヘンリックのような狩人か、名状し難き獣達が好ましい。あるいは別世界の怪物共。上位者。誰でもよいのだ。強者と合間見えたい。

 狩人を取り囲まんとしていた植物たちは、すぐにでも嬲り殺せるようにと包囲網を築きつつあった。狩人が口元を綻ばせたことに疑問など挟まずに。

 狩人が消えた。否、もはや霞みとしか認識の不可能な速度域にてステップを踏んだのだ。

 狩人が植物の包囲網をあっさりすり抜けると、一体の背後に回った。

 霧に霞む空中に白き閃光が瞬いた。

 

 「サクサクサクと斬り甲斐があるなぁ!? ええ!?」

 

 笑う。植物たちの弱さに。刃が植物の肉体をバターかなにかのように切り裂いていた。背後を取られた植物はもだえることも許されず全身を細分化されて死んだ。

 狩人の手はよどみなく動く。一対の閃光が迸る度に人食植物の薄い表皮が裂かれていく。攻撃を仕掛けようとした植物は次の瞬間背後にてつまらなそうな顔を浮かべた狩人が振るった回転斬りに倒れた。まさに怒涛の連打であった。右が繰り出された瞬間には既に左手が攻撃を取り始めている。右薙ぎ左薙ぎ右突き左薙ぎ右引き寄せつつ突き左袈裟斬り――恐ろしい攻撃間隔の早さは隕石に由来する軽量かつ強固な金属が支えていた。死の山を築いた狩人の手が止まった。かすかに肩が上下していた。

 死屍累々。積み重なった死体を乗り越えて押し寄せる植物達へ威嚇するかのように刃を重ね合わせた。火花が飛び散ると一対の刃が一つに合体する。

 狩人が担うのは、人狩りの咎を背負ったものたちの古い武器であった。名を慈悲の刃といった。薄く尖った刃は仕掛けによって二つに分離する。一つ目の形態が取り回しの良い短剣であり、二つ目が真価たる軽く素早い連打を特徴とする双剣である。

 人殺しの武器は当然化け物を殺すこともできる。逆もまた然りである。

 霧から這い出た化け物を討伐し始めた奇妙な布と皮の合成服を纏った男を見て、衛兵達は味方であると勘違いしたらしい。顔を隠す覆いと尖った帽子の奥で煮えたぎる狂気が爛々と輝いていることなど知るはずも無く。

 

 「……なにを!?」

 「だまして悪いが味方でもなんでもないんでなぁ……デカブツを殺す前の前菜くらいにはなれ」

 

 一瞬にして狩人は衛兵の一人の眼前へと滑っていた。唖然とする衛兵の視界が四つに分断される。頭部が四等分されたのだと衛兵が気が付いた時既に生命のともし火は終焉を迎えていた。

 

 「こいつ! 正気を失っているのか!?」

 「いいや」

 

 衛兵の一人が槍を突き出す。

 狩人は獣のように身をかがめることでかわすと、右手の短剣で柄を弾き懐に飛び込みつつ武器の形態を変更する。胴を横一文字に引き裂き刃を分離。刃の上を滑り離れんとする片割れが引力で離れんと抵抗するのを利用し、柄を掴み取る。顔に吹きかかる血をぺろりと舐めると、横合いから盾で殴りつけようとする衛兵の足を蹴り潰す。

 

 「ひ、ぎゃああ!」

 

 狩人が口元を歪めた。

 怯んだ衛兵の首筋を横合いを抜けつつ切り付けると、刃を再度結合。頭部を掴み脊髄ごと引きずり出す。

 

 「俺は正気さ。いまのところはな。あるいは狂っているのかもしれんな。どう思う?」

 

 正気を保障するのが人であるならば、人ではないものの正気を保障し定義するのは何者だろうか。神でさえ畏れる宇宙の深淵に座する存在たちの正気は誰が保証するのだろうか。

 衛兵の体が前のめりに倒れ掛かった。

 狩人が引き抜いた脊髄付きの頭部を腰の引けている衛兵へと投げてよこす。

 地面へと頭が落ちる。苦悶と憎悪に歪んだ鬼のような形相があった。

 腰の抜けていた衛兵が今度は地面にへたり込む。他の衛兵達は腰こそへたっていなかったが、攻撃を仕掛けるべきか、刃にこびり付いた肉を悠々と服で拭っている男を遠巻きに警戒していた。決心が決まったのだろう。衛兵達が一斉に槍を繰り出す。槍衾をかわす隙間は微塵も無い。加速の業といえど全方位を囲まれては抜けられぬ。

 

 「――――――!」

 

 狩人の全身が瞬間的に隆起した。全方向へ獣の咆哮が響き渡るや、鎧を纏った衛兵が槍もろとも吹き飛ばされる。

 ―――獣の咆哮。

 背教者イジーが編み出した禁じられた術の一つ。対象者の肉体に潜む何者かを引き出すとされるそれは、驚くべきことに使用者の声帯から発せられる大絶叫に他ならない。地面にひび割れを無数に走らせる音というよりも衝撃波と化した声を人の身が発するなど、衛兵達は考えもしなかったに違いない。

 再び姿勢を起こしたとき、狩人の姿は消えていた。

 

 「あぁ神よ……」

 「祈ってる場合じゃない。早く立て直せ! 正気を保っている人員をかき集めろ」

 「隊長……! 了解しました!」

 

 隊長格の男が天を仰ぎ祈りを捧げ始めた一人の頭を叩くと、声を張り上げた。たとえ神に見放されたとしてもやれることはあるはずなのだから。

 狩人が駆ける。進行の上で障害物となるものに通り魔が如く斬撃をお見舞いしつつ。人も化け物も関係なかった。ただ、血を求めて。狩りに酔いしれる狩人の足が止まったのは、通行人数名を惨殺した時であった。

 灰色の装束に身を纏った男と、青と金色の優美な鎧に身を包んだ女と、頭巾を被った少女の姿を見たからだ。灰色の男は以前殺したはずの男で、女はついこの前殺しかけて殺せなかった女。子供はよくわからないが興味深そうな匂いを放っていた。

 狩人が足止めると、三名の様子を伺う。物陰に滑り込むと帽子の奥で輝く瞳を瞬かせた。

 青色装束の女が声を張り上げ市民の誘導を行っていた。正気を失った兵士共に次々ナイフをくれてやりながら。デュラは惜しむことなく銃をぶちかまし、やはり誘導をしていた。傍らの少女を守るかのように立っていた。少女は怯えた表情こそ浮かべていたが、人食植物と狂った衛兵や市民が接近してくるとすぐにデュラとキアランに対処してもらうべく、邪魔にならぬように立ち回っていた。

 一名ならばともかく二人を相手取るのは少々骨だ。狩人は考える。子供に重傷を負わせて一人に救護をさせる。殴りかかってきた一人を誘い出して殺し、数的有利性を削ぎ、最後に全員を殺す。

 

 「面白くない……全く面白くない」

 

 狩人が首を振る。戦術としては正しい。子供を守りながら市民誘導中の二人を始末する手段として最適ではあろうが、つまらないのだ。血肉踊る争いか、あるいは敵のあっけに取られた顔を見たいのだ。

 ならばと狩人は考えた。輸血液を封入したアンプルを懐から取り出すと踵を返し放り投げた。内容物が地面にぶちまけられた。血に誘われた化け物共が寄ってくることを期待しつつ、別の薬瓶を取り出した。青い薬剤を一息に飲み干す。狩人の体が透き通り始めた。

 青い秘薬は一種の麻薬であり、脳を痺れさせる。存在自体を現状の次元から別の次元へと逸脱させる故に、人は現次元における思考を静止させられるのだという。だが狩人は痺れを抑え副作用たる存在の希薄化のみを利用するのだ。狩人は薬には酔えぬ。血に酔うのだ。

 狩人の姿が風景に溶けて飲まれていった。

 

 

 

 

 

 

 デュラは手持ちの散弾銃を人食植物の頭部――はなく口から触手状の足が生えているような形状――へと撃ち放った。火薬の発明さえされていない世界において、元の世界から持ち込んだ火薬がいかに貴重かは理解している。工房とは名ばかりの研究所で火薬を手作業で製造していた分は既に撃ち尽くしてしまっていた。補充する機会がしばらくやってこないであろうことは理解していても、市民を逃がすために全力を尽くしたかったのだ。

 隣に立つキアランの両腕が蝶の羽の羽のように広げられた。指の隙間に投げナイフが挟まっていた。一息に右手を、踊るように回転しつつ左手を振るうや、狂った市民の群れの各々の頭部にナイフが一本ずつ生えていた。

 

 「キリがない! アッシュは無事だろうか?」

 

 キアランが言うと、ナイフの残量を数えるべく袖と懐に手をやった。

 デュラが次弾を装填する。空薬きょうを投げ捨てた。

 

 「あの男ならば大丈夫だろう。アルトリウスの心配はしないのか」

 

 キアランはおもむろに暗銀の残滅を投擲した。衛兵の一人の腹部に刃が生えるよりも早く疾駆していた。

 衛兵へと駆け寄ると、片腕に握られた黄金の残光で首を刈り取る。腹部に生えた剣を抜くと、両手を重ね、二人目の狂った衛兵の胸元に二条の斬撃を描き出していた。どうと倒れこむ死骸を乗り越えていく。衛兵の一人が大振りに剣を薙ぐ。黄金が空中に光の壁を構築し打ち払っていた。がら空きになった腹に猛毒を纏った剣が突き立てられる。泡吹いて倒れる死体を押しのけて、デュラとシャナロットの元に駆け戻ってきた。

 キアランは全く息を乱していなかった。先程の答えを口にしつつ、黄金の残光を一振りして血糊を落とす。

 

 「しないな。アルトリウスが負けるはずがないからな」

 「ほう? 随分信頼しているようだ………あの金色の騎士。貴公の仲間ではないのか?」

 

 デュラの問いかけにキアランが沈黙した。

 神々しい雷を放つ騎士といえばオーンスタイン以外にありえない。尋常ではない赤い瞳といい、殺意といい、何者かに操られているように見えた。オーンスタイン程の騎士を傀儡にする敵がいる事実に総身が震え上がる思いがした。

 キアランが静かにうなずきつつ、シャナロットを守るように立ち位置を変える。

 

 「騎士オーンスタイン……かつて私が属していた騎士の長を務める武人だ」

 「ならばアルトリウスも危ないと思うが」

 「理性を喪失しているならば、もはや奴は最強ではない。私はそう思う。アッシュもいるならば問題ない」

 

 キアランの言葉はどこか答えをはぐらかしているようであった。

 デュラは顎を擦ると、自らの背後で袋を抱えているシャナロットを見遣った。

 

 「大丈夫かね。心を強く持ちたまえ、さもなくば呑まれてしまう」

 「うん……怖いけど大丈夫……です」

 

 丁寧な口調に無理に戻そうとする姿。袋を後生大事そうに胸に抱え、あたりを見回している。修羅場をくぐってきただけあって凄惨な場面にも慣れたのか、パニックに陥ることはない様子であった。

 市民たちと衛兵は混乱の極みにあった。いつ誰が発狂し攻撃を仕掛けてくるのかわからないのだ。デュラとキアラン必死の誘導も聞こえていないどころか、不気味そうに避けていく。いつ二人が襲い掛かってくるのかわからないのだろうか。

 デュラは己に掴みかかってきた市民の頭部を散弾銃の柄で殴り倒した。

 

 「キアラン。撤退するしかないようだ……霧の発生の原理がまったくわからん。市民を正気に戻す方法があれば別だが……」

 「わからない……見たことも聞いたこともない術だ。そもそも術なのか? 対応できるのだろうか」

 「私も生憎剣と魔法の世界とは無縁の街に住んでいたものでね。毒を纏った胞子ならば口を覆えばよかったが、この霧はどうも違う。退こう。シャナロット、おいで」

 

 デュラはふむんと鼻を鳴らすと散弾銃を腰のホルスターに挿してシャナロットを片腕抱きした。

 シャナロットは不安そうに男の腕に掴まる。灰色の男は痩躯であったが、どこにそんな力があるのか、シャナロットを片腕で持ち上げてもふらつきの一つさえなかった。

 デュラが独特な帽子の奥で煌く理知的な瞳を瞬かせ空を仰いだ。

 

 「妙だ……人食植物どもが引き寄せられていく。目標物でも見つけたのか?」

 「わからん……よく、わかるな」

 

 戦いの喧騒はもはや指揮者を失ったオーケストラに等しい。めちゃくちゃな旋律。各々が勝手に楽器を打ち鳴らし、更に観客たちがやんややんやと騒ぎ立てているようなものだ。

 デュラは鼻を鳴らし、ニヒルな笑みを口元に湛えてみせた。

 

 「匂うんだ。あぁ、私のような男は“鼻”が良くてな」

 「その割りに紅茶の趣味は悪いようだ」

 

 キアランがちくりと皮肉ると前方に立ちふさがった人食植物の脚部目掛けてナイフを投擲した。

 デュラは乾いた笑いを上げた。

 

 「飲めればよいたちなんだ放っておいてくれ」

 

 

 

 

 「―――そいつは初耳だ」

 

 デュラの胸元に突如刃が生えた。鎧を破壊することよりも肉を引き裂き流血を狙ったであろう溝を掘られた槍先が。

 キアランはそこでようやく背後で狩装束が大柄な槍を突き出しているのを認めた。不自然に透き通った姿。間違うはずも無い。奇妙な術で自分自身を殺しかけた男だ。

 

 「き………がふっ………」

 「正攻法よりもこっちのほうが面白いだろ? 久しぶりだなぁオッサン。元気だったか? これから元気じゃなくなるけどなァ」

 

 狩人が囁いた。

 デュラが血を吐く。シャナロットの頬に血がかかった。目をぱちくりするシャナロットの視界の真っ只中で槍先から少しずれた位置に設置された銃口が火を噴いた。

 工房の武器の一つ。カインハーストの失われた武器を模倣した試作品。銃槍。原始的な抱え銃に槍先をくくりつけた武器であった。工房出身の男が工房武器に突き刺されるとは何たる皮肉か。

 シャナロットの間近を散弾が高速で駆け抜けていく。デュラの胸元という障害物をミンチに変えつつ突き抜けていくと壁に無数の弾痕を刻んだ。遅れて心臓だったものが壁に奇妙なオブジェとなって張り付いた。

 デュラが思わずシャナロットを取り落とした。たとえ狩人とて心臓を破壊されては行動はできない。即死しないだけ儲けものであったが。

 シャナロットは地面に転がったが若さゆえの弾力で意識は失わずに済んだ。

 

 「貴様!」

 「おっと」

 

 キアランが対応せんと武器を振りかぶるよりも早く狩人が銃を構えていた。

 エヴェリン。カインハーストの騎士達が用いたという武器の一つ。より強い血に反応し強い銃弾を吐き出すというそれの銃口から、白いもやのような物体が伝っていた。

 マズルフラッシュが花開く。

 刹那、キアランの腹部に大穴が穿たれた。内臓がミキサーされた果物よろしくジュースと化す。鎧の破片が飛び、血肉がキアランの背後に扇状となって散らばる。狩人の上位者に比肩する血を更に骨髄の灰で強化した弾丸は、鎧はおろか人体を粉々に破壊する威力にまで高められていた。

 

 「ぐ………こ、のくらい……」

 

 信じられないと言った様子でキアランが血を吹いた。蹈鞴を踏み、それでも黄金の残光を振り上げて反撃しようとし、狩人が槍の柄で頭を打ち据えたことで地面に転がった。衝撃で白磁の仮面が割れて怜悧なる相貌が露になっていた。

 狩人が無感情に次の弾を装填していた。なんと甘美な返り血だろうと舌なめずりをしていた。

 

 「ほう。美人じゃあないか……騎士サマにしとくにはもったいないぜ」

 

 死に切れないデュラが地面に這い蹲りつつ散弾銃を抜いた。照準先は狩人だった。足で踏みにじられることで合えなく抵抗の芽は潰されてしまった。

 デュラはシャナロットを見遣ると頷いてみせた。安心しろと言わんばかりに白い歯を覗かせていたが、体内からあふれ出してくる血液の逆流によって赤く染まっていった。

 

 「はやく………逃げろ……」

 

 狩人が無情にもデュラの頭を蹴り飛ばすと、銃槍を一振りして槍型に変形させていた。

 デュラは胸を吹き飛ばされ重傷。キアランは腹に大穴を穿たれ生命が危うかった。唯一無事なシャナロットは戦うだけの力を持たなかった。

 

 「やだ……! なんでこんなことをするの!? おかしいよ……」

 

 半狂乱になったシャナロットは腕を振り回して体当たりを仕掛けようとした。駆け寄る途中で躓いて男の前に跪く姿勢になったが。

 すると狩人は槍先をシャナロットの頬に当てがった。弾力のあるマシュマロのような絹肌が槍の圧で変形する。

 

 「おじさんは戦いが好きなんだ。あと血も好きで君みたいな妙な香りのする血の子が歩いてると……我慢できなくなっちゃうんだ」

 

 狩人が口調を猫撫で声に変えた。シャナロットの表情が嫌悪に歪むのを見て愉悦に表情を埋め尽くす。

 そうして槍をおもむろに振りかぶった。穂先からドス黒い血が滴っている。人の血管が蛇のようにぶら下がっている。

 

 「精々苦しまないように死んでくれ。後腐れなくていい」

 

 狩人が絶対零度の声で宣言した。死ねと。お前の生命はここで終わりなのだと。

 槍先の血が滴る速度が低下していく。

 狩人の手が素早く柄を掴みなおすと、シャナロットの顔面目掛け突き出して――。

 シャナロットが顔を覆ったときには既に遅く。顔を貫かれてしまった。

 

 

 

 

 

 

 はずだった。

 

 「………?」

 

 シャナロットは自分が死ぬ瞬間がいつまでも訪れないことに疑問符を浮かべた。目を開くと、まじかで槍が静止していた。狩人が手を抜いたのだろうか。震える手で腰を上げようとした。体は鉛でも括り付けられたかのように鈍かった。

 腕をあげようとする。育ての父親と湖にもぐった時のように、酷く動きが鈍い。

 

 「………なにこれ……」

 

 息を乱しつつも腰を上げて驚愕に表情を強張らせる。男が槍を突き出さんとした瞬間で硬直していた。それどころか地面で這い蹲るキアランと、地面に広がる血の海に倒れたデュラさえも。化け物たちも固まっていた。恐怖に身を震わせる老人が狂った衛兵に槍で殺される直前で静止していた。

 ふと胸に抱いた布が輝いていることに気が付いた。袋の中に手を入れて取り出すと、悪夢で老人から受け取った球体が神々しいまでの光を発していた。光は温かく、光でありながら光のようではなかった。一度放たれた光が目視可能な速度で周囲に放たれていく様が見えた。かと思えば光が雪のようにはらはらと落ちていく。

 

 「きれい……」

 

 シャナロットは球体を袋から出し胸に抱いた。頭蓋骨程の大きさがあるというのに、重さは感じられない。

 風景が歪み始めた。すべてが輪郭線を失っていく。まるで自らが高速で遠ざかって行くように風景の全てが前方一点へと収束し始めた。強烈な眩暈を覚え地面に倒れこんだ。吐き気。内容物が喉までせり上がってきた。全身が燃えるように熱い。肌をかきむしる。球体を抱いたまま地面の上で七転八倒した。

 肌の内側で何かが蠢いている。自分ではない何かが。翼を広げた永遠の傍観者の影を見た。それは自分の体内で蠢き、肌を破らんとして足掻いていた。

 シャナロットは永遠にも思える時間を苦痛と共にすごした。

 

 「大丈夫かね。心を強く持ちたまえ、さもなくば呑まれてしまう」

 

 デュラの声が聞こえた。瞳を開くと、父性を感じさせる柔らかみのある表情が覗き込んできていた。




【秘宝】
悪夢の街で老人が少女に渡した秘宝。
年月に晒され劣化し今にも壊れてしまいそうであるが、
なおも朽ちずに灰の霧を中に封じ込めている。



【人食植物】
出展:キングスフィールドの雑魚敵

【灰エヴェ】
許されない(大砲構えつつ)
アヴェリンと打ち間違っても許してください。
2で狙撃特化マンやりすぎてしまったのです

【バックスタブ】
初代のお尻掘りゲー嫌いじゃないけど好きじゃないよ

【狩人おじさん】
鬼畜。バトルジャンキーでアイテムコンプリートするためにNPC皆殺しも辞さない
聖杯ダンジョンに永延もぐって選別してるようなキ印
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