ゼロの名の戦士―その未来を守るために―   作:水卵

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意外とサブライダーを主役にした作品って少ないな、と思い書いてみました。
私が連載しているもう一つの作品とは違い、一話辺りに4000~7000字程度の量で書いて行こうと思います。


と言いつつ早速一話目から9000字なのは連載第一話と言うことで……。


Episode01:BEGINNING

 その日はいつもと同じで、何一つ変わらない日になるはずだった。

 いつも通りの時間に、いつも通りに起きて、いつも通りくだらないことでアイツと喧嘩になって、いつも通り無理やり家を出ようとした。

 でも、そのいつも通りが、その日で崩壊した。

 バタンと、俺の後ろで人の倒れる音がした。

 俺はその音が何なのかをすぐに理解した。俺の後ろには、アイツしかいないのだから。振り返ってみれば、案の定アイツが倒れていた。何かに苦しんでいるのか、息は荒く、苦悶の声を上げていた。自力で起き上がれる様子ではない。

 俺は、なんだかわからない恐怖に駆られて、急いでアイツに駆け寄ろうとした。

 でも、出来なかった。

 俺の身にも異変が起きたのだ。

 最初は、体の感覚が消えていった。今冷静に考えてみれば、五感の一つ『触覚』を失ったみたいなものだ。『立っている』という感覚が消え、視界が揺れた。

 次に、自分の体を見て、俺はその衝撃から声を失った。

 

 

 

 

 体が消えていたのだ。

 

 

 

 

 体が砂の粒子に変わっていく。蒸発しているように見える俺の体は、つま先から徐々に消えて行った。

 俺の体から力が抜けて行って、アイツと同じく倒れた。

 視界が徐々に見えずらくなっていく。

 光を失っていく眼で最後に見た光景は、アイツが泣きそうな顔をしながら俺に手を伸ばしていているところ。俺はその手を掴もうと、必死に手を伸ばしたのを覚えている。

 そして、意識が消える寸前で、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、俺は覚えている。

 

 

 

 

 ☆★☆★☆★

 

 

 

 

 ──―音ノ木坂学院・屋上。

 そこは、今大きく注目されているスクールアイドル『μ’s』の練習場所である。合計九人のメンバーからなるμ’sは第二回『ラブライブ!』優勝を目指し、日々練習に励んでいた。すでに地区予選を突破し、今は最終予選に向けての練習となっている。最終予選がどんなルールで行われるか不明な今、主にパフォーマンスのレベルを上げるべく、改めて基礎から練習をしていた。体力を上げるべく基本的な走り込みから体感トレーニング、筋力アップのための筋力トレーニングなど、正に基礎中の基礎となる部分を鍛えていた。

 しかし、さすがに毎日そういったトレーニングでは飽きてしまう。本日はメンバーの中に予定が入っている者がいるため、早めに練習を終えることになっている。その為、今は既存の曲のステップの確認をしている。既存の曲を踊ることで、今の自分たちが初めてその曲を踊ったときに比べて、どれほどレベルアップしているのかを身をもって体感できるのだ。

 そして彼女たちは実感していた。初めて踊ったときに比べて踊り慣れたこともあるだろうが、体の軸がブレなくなっていたのだ。彼女たちがスクールアイドルを始めたのは、初期メンバーでは四月。今のメンバーになったのは、六月のことだ。まだ経歴の浅い彼女たちだからこそ、小さな成長を感じることができる。

 自分たちのレベルは確実に上がっている。

 誰もがそう感じていた。

 先日行われたファッションショーでのイベントも成功に終わり、今一番勢いに乗っている時期だと言っても過言ではない。

 しかし残念かな、先ほど申した通り本日はあまり長く練習できないのだ。最後のステップの確認をし終えたところで、絢瀬絵里が声をかけた。

 

「今日はここまでにしましょう。お疲れさま」

 

 絵里の声に返すように、メンバーから「お疲れさま」と声が上がる。

 練習が終了となれば、彼女たちの行動はバラバラだ。疲労を軽減するべくストレッチを行う者もいれば、のどを潤すために水分補給を行う者、流れ落ちる汗を拭うべくタオルを手に取る者、和気藹々と話す者もいる。

 彼女たちだってスクールアイドルである以前に女子高生なのだ。そう言った一面もあるに決まっている。

 そして、メンバーが着替え終え、帰ろうとしたところで、一年生メンバーの方で動きがあった。

 

「真姫ちゃん、かよちん! ラーメン食べて帰ろっ!!」

 

 そう言って二人に抱き着いたのは、一年生組の中で一番活発な少女、星空凛だ。先日のファッションショーの一件以降、一年生組の絆はより強いものとなり、このメンバーで帰宅するのが最近の日課になっていた。

 

「また? 一昨日も行ったじゃない」

 

 そう言ってやや乗り気ではない様子を見せたのは、西木野真姫。

 真姫の言う通り、凛たちは一昨日もラーメン屋に寄ったのだ。いくら彼女がラーメン好きとはいえ、さすがに付き合う身としてはもう少し日を置いてほしいものである。

 

「この前行ったおかげで、スタンプカードが埋まったにゃ。これで餃子が無料なんだにゃ~」

 

「でも、私も今日は……」

 

「ご飯も無料で付いて来るよ?」

 

「行こう真姫ちゃん!」

 

「ゔえぇ!?」

 

 真姫同様あまり乗り気ではなかった花陽だったが、凛から放たれた魔法の言葉(ごはん)によって掌を返した。

 ここ最近凛が新たに見つけたラーメン屋は、ラーメンだけでなく餃子やチャーハンなどのサブメニューも豊富で美味しく、中でも新潟のお米を使ったご飯が程よい具合に炊かれ、お米の味を最大限に引き出しているとのこと。そのご飯の美味しさは、ご飯好きの花陽のみならず凛と真姫も十分に理解しており、なぜ定食屋ではなくラーメン屋なのだ? と真姫が思うほどだ。あのお米をメインにして定食屋になれば、客足は今以上にもっと伸びるはずなのに、と考えてしまうが、店長曰く「そういった美味しいもんは、サブとしておくとより一層輝くんだよ」とのこと。

 結局、二対一となってしまい、真姫は渋々凛たちの後に付いて行くしかなかった。

 

 

 

 

 ☆★☆★☆★

 

 

 

 

 ラーメン屋に着いた凛たち。テーブルへと案内され、お冷でのどを潤しながら、注文をしたラーメンを待っていた。

 そこでふと、花陽が何かを思い出したかのように二人に聞いた。

 

「そういえば、二人は『砂のお化け』って知ってる?」

 

『砂のお化け?』

 

 二人のオウム返しに、花陽はコクコクと頷く。

 

「凛は知らな~い。真姫ちゃんは?」

 

「私も知らない。何よ『砂のお化け』って」

 

「えっとね」

 

 そう言って花陽はスマートフォンを取り出すと、一つのサイトにアクセスを掛ける。数秒もしないうちに、お目当てのサイトにたどり着いたのか、花陽は画面を二人に見せた。二人は向けられたスマートフォンの画面を覗き込んだ。画面に表示されていたのは、どこかの掲示板らしきサイト。ポップなフォントで『どんな「望み」も叶えてくれる不思議な「砂のお化け」!』と書かれたタイトルが目に入ってきた。

 真姫は花陽に断りを入れ、画面をスクロールさせていく。

 

「なんでも望みも叶えてくれる砂のお化け。どこの誰なのか、どういった条件なら出会うことができるのかは一切不明。不特定の人物の前に現れてはどんな『望み』も叶えることを約束し、中には実際にその『望み』が叶った人もいる……。何よこれ?」

 

 画面に書かれていた文を読み上げた真姫は途中で読むのを止め、怪訝な視線を花陽へと向ける。

 見るからに何とも言えない怪しい話だった。

 どんな『望み』も叶えてくれる、すでにこの時点で胡散臭さが満点だ。どう見ても誰かが注目を浴びたがために作り上げた話にしか見えない。その後もスクロールは続くが、『百万ゲットしました!』、『彼女が出来ました!』、『公園のうるさい若者たちがいなくなった』などが書かれており、実際にどんな『望み』が叶ったのかが続いていた。

 だが、どう見てもありきたりのモノしか書かれておらず、また信憑性が取れるものが全くない。悪ノリした輩が書いている、そんな印象を受けた。

 

「あははは、なんかここ最近ネットで噂になってるんだよ。どんな望みも叶えてくれる『砂のお化け』。もし本当だったら会ってみたいな~って思って」

 

 怪訝な視線を受けた花陽は、スマホを自分の元に戻しつつ苦笑いをしながら言う。

 

「あなた、これを信じてるの?」

 

「別に本気で信じてるわけじゃないよ。いたらいいな~ぐらいに」

 

「それ、ほとんど信じてるのと同じじゃない」

 

「真姫ちゃんは信じてないのかにゃ?」

 

「当り前じゃない。こんな胡散臭いの、誰が信じてるって言うのよ」

 

「……サンタさんを信じてるのに?」

 

 花陽が漏らした言葉に、真姫はキリッとした瞳で花陽を見る。その視線を受けて花陽はひぃっ、と小さな悲鳴を漏らす。

 

「サンタさんは別よ。だって私サンタさんに一度会ってるもの。実際に見たんだから、信じるのは当たり前じゃない」

 

「「……………………」」

 

 凛と花陽は絶句した。以前、『ラブライブ!』予選の曲を作るために真姫の別荘を使い合宿をしたことがあったのだが、その時真姫は十六歳になった今でもサンタさんを信じていることが判明したのだ。それならばこの手の話も信じそうな真姫だが、まさか逆に否定するとは。それに加え、()()()()()()()()()と彼女は言った。それは……つまりアレと言うことになる。その場面を想像してしまう二人だが、今でも信じている真姫を見ると、どうも、何とも言えない感情に駆られるのだった。

 

「……どうしたのよ、二人とも」

 

「いっ、いや、何でもないにゃ!! ね! かよちん!!」

 

「そそそそそ、そうだね。何でもないよ真姫ちゃん!」

 

 二人がなぜか急に慌てだしたことに、真姫は「?」と首を傾げるしかなかった。

 

「そ、それより、かよちんはもし本当に『砂のお化け』さんがいたらどんな『望み』を言うつもりだったんだにゃ?」

 

 話題を変えるべく、凛は花陽に話題を振った。そしてさすが幼馴染といったところだろう、凛の考えをすぐさま理解した花陽は急いで思考を回転させ、凛の問いに答える。

 

「そ、そうだね。『ラブライブ! 優勝できますように』とかかな、あ、でも、お米をどんなに食べても太らない体とかもいいなぁ~。あ~でもでも、アイドルのライブチケット(特等席)やメモリアルグッツも捨てがたいしー」

 

「かよちん、意外と欲張りなんだにゃ~」

 

「ううぅぅ、だってぇ。……凛ちゃんは?」

 

「凛? 凛はね──」

 

「ハイ! ごめんよー。チャーシューメン、塩ラーメン、ミニ醤油ラーメンご飯セット、そして餃子、お待ちどう様!!」

 

 ちょうどそこへ、各々が注文したラーメンが運ばれてきた。

 凛の元にチャーシューメン、真姫の元に塩ラーメン、花陽の元にはこの店オリジナルと思われるミニ醤油ラーメンご飯セット、そして中央に凛のスタンプカードでおまけとしてついてきた餃子が置かれる。

 店員が伝票をテーブルに置いたのを確認すると、三人は一斉に割り箸を割る。

 パキッ、と奇麗に割れたものもいれば、少々不格好となってしまったものもいるが、そんなことは気にすることもなく各々がラーメンへと箸を伸ばす。一口すすったところで、凛は満面の笑みを浮かべ告げる。

 

「やっぱり凛は、ラーメンをいっぱい食べることをお願いするにゃ~」

 

「やっぱりね」

 

 凛らしい答えに、真姫は花陽と共に笑う。

 

「真姫ちゃんは、もしいたら何を『望む』の?」

 

「花陽、私は信じてないから何も『望まない』わ」

 

「ええぇ~、真姫ちゃん夢がないにゃ~。『もしも』なんだから何でもいいんだよ?」

 

「それでもよ。それに、『望み』なんて自分で叶えてこそのモノじゃない。そんなわけもわからないモノに、頼りたくなんかないわ」

 

「真姫ちゃん……」

 

「意外と現実的なんだにゃ~」

 

「うるさい」

 

 そう言って真姫は麺をすする。もし凛が真姫の隣に座っていたら、チョップされていただろう。そう考えると、花陽の隣に座って正解だ、と思いつつ凛も麺をすする。一方、この話題を出した花陽は、やっぱり心のどこかで『砂のお化け』との出会いを望んでいるのか、ご飯を食べながらも「でも、もし本当ならあってみたいな~、『砂のお化け』さんに」と呟く。

 何とも花陽らしい呟きを聞いた真姫と凛は微笑む。

 そこへ──、

 

 

 

 

「──もし会ったとしても、絶対に『望み』なんか言うなよ」

 

 

 

 

 まるで自分たちに釘を刺すかのように、青年の声がこちらに向けられた。

 真姫たちの席は、廊下を挟んでカウンター席の向かいにある。声の主は、ちょうど真姫たちのテーブル席の向かいに位置するカウンターに座っていた少年みたいだ。

 年齢は自分たちと同じか、それとも上だろうか。少なくとも、年下ではないことは絶対だった。音ノ木坂学院が女子高な故に、同年代の男子と触れ合う機会が少ない真姫たちから見ても、青年の身長がかなりの高い方だと見てわかる。赤みがかったクセ毛に、つり上がった瞳、青年が座っているカウンターのテーブルを見ると、先ほどまでラーメンを食べていたのか、額には少し汗が浮かんでおり、暑さを和らげるためか腰にパーカーを巻いていた。少年はティッシュで口元を拭うと、椅子から立ち上がり真姫たちの方へと近づく。

 突然自分たちの話題に入ってきた男に、真姫は怪訝な瞳を向ける。真姫の視線を受けてもなお、青年は怯むことなく、むしろ真姫と同じつり上がった瞳で真姫を見返す。

 

「──どういう意味よ?」

 

「言葉通りだ。もし仮に『砂のお化け』にあっても、絶対に『望み』を言うな。言ったら終わりだぞ」

 

 強い声音で言う青年。反論など許さないといった具合で放たれるその言葉に、花陽は脅えてしまい、肩身を狭くしていた。

 真姫は尚も青年を睨みつけ、凛も花陽を怖がらせたことに怒り花陽を自分の体で庇いながら少年を睨む。

 しかし、青年は二人の視線など気にする様子もなく、レジへと向かっていった。

 

「なんのアイツ」と真姫は去って行く青年の背中を睨みつける。

 

「かよちん、大丈夫?」

 

「うん、ちょっと怖かったけど……。それより、あの人の言っていたこと、どういう意味だろ?」

 

「そうね、まるで『砂のお化け』が本当に要るみたいな物言いだったわね」

 

『もし仮に「砂のお化け」にあっても、絶対に「望み」を言うな。言ったら終わりだぞ』と、少年は言っていた。それはまるで、『砂のお化け』が実在するような物言いだった。

 本来なら女子高生がネットの話題を題材に、和気藹々と話しているところに、土足で踏み込むような輩はいないだろう。それなのに、あの青年は踏み込んできた。

 自分たちの話題に、土足で踏み込んできた青年。さらに、『砂のお化け』が実在するような物言いを言い、絶対に『望み』を言うなと釘までさしてきた。それにより、真姫たちンテーブルにはあまり良いとは言えない空気が流れ始めた。

 それなのに、ズルズルズルと麺をすする音が豪快に響き、真姫と花陽は呆気にとられる。

 

「やっぱり、ラーメンは美味しいにゃ~」

 

 音の主である凛は、幸せそうに顔をほころばせ、ラーメンを堪能していた。

 その何とも凛らしい行動に、真姫と花陽は互いに見合うと、苦笑いを漏らしてお互いにラーメンに箸を伸ばした。

 

 

 

 

 ☆★☆★☆★

 

 

 

 

「ぷは~、美味しかったにゃ~」

 

 ラーメンを堪能し、帰り路を歩くμ‘s一年生組。提案者である凛は満面の笑みを浮かべ、満足げに背伸びをしていた。花陽もまた、美味しい白米を食べることが出来満足したのか、その表情はしばらくの間幸せそうだった。最初は乗り気ではなかった真姫も、今では満足げに頬が緩んでいる。結局、三人ともラーメンを十分に堪能したのだった。

 本来、花の女子高生が帰りにラーメンはどうなのか? と思う人もいるだろうが、最近は『ラブライブ!』本戦に向け、少々ハードな練習が続いているのだ。こういった量あるものを食べても、すぐに消費されるため特に問題はないみたいだ。もちろん、ほどほどにだが……。

 そんな具合に、ラーメンの余韻に浸りながら歩いている中、真姫がふと、あることに気が付いた。

 真姫たちの前にいる人物だ。

 服装は制服、そしてその制服は以前真姫たちが見たことあるものだった。μ‘sは今注目されているスクールアイドルの一つであり、人気も高くファンも多い。となればもちろん、有名人が経験する『出待ち』なるものに遭遇することが多々ある。今回もそれだろうと真姫は思った。目の前で自分たちを待っているのであろう女子生徒の制服は、以前真姫たちを出待ちしていた生徒と同じ制服だった。

 さすがに何回か出待ちに会えば、それなりに慣れてくる。いつも通り対応しようと決めたところで、真姫は直感的に嫌な気配を感じた。俗にいう『第六感』とでもいうのが働いたのだろうか。

 少女は何となくこちらに歩んでくる。真姫たちも歩いているため、いずれ両者の間の距離はゼロになる。

 ある程度の距離になったときだ、ザァー、と()()()()()()()()()()()()()()()、真姫は捉えた。

 

「──っつ!?」

 

 瞬間、真姫は何とも言えない恐怖が体中を駆け巡り、二人の手を取った。突然腕を掴まれた二人は、真姫へと振り返る。

 

「真姫ちゃん?」

 

「どうかしたにゃ?」

 

 二人の視線の先で真姫は震えていた。二人のブレザーを掴む腕は小刻みに震えており、小さく荒い呼吸を繰り返していた。

 そして、消えそうなほどの細い声で、言う。

 

「……逃げるの」

 

「え?」

 

「……逃げるの」

 

「真姫ちゃん……?」

 

「いいから!! 逃げるのっ!!」

 

 叫ぶと、真姫は二人の腕を引っ張って来た道を引き返す。

 

「真姫ちゃん!?」

 

「ちょっ、なんでいきなり走り出すにゃー!?」

 

「いいからっ! 走って!」

 

「なんで!?」

 

「いいからっ!!」

 

 疑問の声を上げる二人だったが、真姫は有無をいせない勢いで二人を引っ張り走る。

 何事かと思う凛と花陽だったが、切羽詰まった様子で走る真姫の後姿を見て、何も言えなかった。

 

 

 

 ☆★☆★☆★

 

 

 

 

 一方、その場に取り残された少女は、袖から落ちる砂を気にする様子はなく、去って行く真姫たちの後姿をただ見ているだけだった。

 そいて──、

 

 

 

 

 ──ザ―と、()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

 

 少女の元から落ちた大量の砂は次第に形を作っていき、一つの怪物となった。

 青い上下の体に、その上から赤いコートの様なものを羽織り、左手はアックスハンドとなっている。

 その姿はまさに怪物。

 その名は、モールイマジンである。

 モールイマジンは気怠そうに首を回す。

 

「あーあ、さすが()()()と言ったところか。面倒だな……でも、契約は契約だからな」

 

 気怠そうに言うと、モールイマジンは地へと潜り真姫の後を追った。

 

 

 

 

 ☆★☆★☆★

 

 

 

 

 真姫は得体のしれない恐怖から逃げるように、二人を引っ張り走り続けた。信号で止まった瞬間、この得体のしれない恐怖に捕まりそうな気がして、真姫は信号のない路地を走った。二人からは何度か静止の声が飛んだが、真姫は止まらなかった。

 

「真姫ちゃん! 真姫ちゃん!! 止まるにゃ!!」

 

 凛が声を上げ、真姫の腕を振りほどく。それにより、真姫はようやく足を止めた。

 食後ということもあってか、三人は全力で走った影響で少々お腹を押さえていた。

 

「真姫ちゃん、どうしたの? 急に走り出して」

 

「花陽……」

 

「かよちんの言う通りにゃ。どうしたんだにゃ、真姫ちゃん」

 

「凛……私──」

 

 真姫が話そうとした瞬間だった。

 ドゴッ!! と地中からモールイマジンが姿を現したのだ。

 怪物の出現に、三人は悲鳴を漏らす。

 

「やっと、追いついた。さて、契約を果たすか……」

 

 モールイマジンは、あくまで気怠そうに言い、左手のアックスハンドを構える。

 その光景が、まさに命を刈り取る死神ように見え、『死』という恐怖が三人の体に走る。真姫はかろうじて動かせる足を動かし逃げようとするが、恐怖で動けなくなってしまった花陽を見て立ち止まる。

 

「花陽!!」

 

「かよちん!!」

 

 凛がすぐに花陽の腕を掴み、崩れ落ちそうになる体を支える。

 

「凛ちゃん……」

 

「大丈夫! 凛が付いてるにゃ!!」

 

 花陽にそういうと、凛は威嚇のため近くに落ちていた大きめ石を拾うと、モールイマジンへと投げる。モールイマジンは、己の体に石がぶつかったことを、特に気にする様子は見せなかった。凛が石を投げたのと同時に、三人は再びその場から走り出す。

 やがて三人は、近場の大きな公園へと辿り着いた。後ろから追ってくる気配はない。それでも、地中から出てきたことを考えると、気が抜けなかった。

 三人はすでに肩で息をしている。いくら日々の練習で体を鍛えていたとしても、あんな得体のしれない怪物に襲われたとなると、体力だけでなく精神面をも削られていく。加えて食後だ。食後の体を動かすほど、キツイものはない。

 なかでも、こういった怖いものを苦手とする花陽は二人以上に脅えていた。

 

「かよちん、大丈夫?」

 

「う、うん。何とか」

 

 凛が心配するのも無理はない。顔は真っ青になっており、恐怖で体が震えていた。

 真姫は呼吸を整えながら凛に尋ねる。

 

「凛こそ、大丈夫なの?」

 

「凛はかよちんを守らなきゃだから、大丈夫にゃ!」

 

 真姫の問いに、ガッツポーズをして答える凛だったが、その手がわずかに震えていることを真姫は見逃さなかった。凛も脅えていることがバレバレだった。周りにその恐怖がばれないように、自分だけでも元気でいなくてはと、気丈に振る舞っているだけである。

 

「とりあえず、警察に電話を──」

 

 そう言って真姫が慌ててカバンからスマートフォンを取り出した時だった。

 

 

 

 

「あーあ、やっと見つけた」

 

 

 

 

『──ッつ!?』

 

 バサッと後ろか音が聞こえた。

 それだけで、三人の体に恐怖が走る。

 バタン、と花陽は腰が抜けたのかその場に座り込んでしまった。すぐさま凛が駆け寄り、花陽を背にしてしゃがむ。

 真姫はカタン、と音を立てて落ちたスマートフォンなど気にする間もなく、後ろへと振り返った。

 そこには、気怠そうに首を動かす、モールイマジンの姿があった。

 アニメや漫画の中にしかいなさそうな怪物が、目の前にいる。

 脳が、理解を放棄していた。

 三人の体に走るのは、頭を駆け巡るのは、『恐怖』だけ。アックスハンドを構えるその姿が、こちらの『命』を奪おうとしている『死神』ように見え、震えが止まらなかった。

 モールイマジンが一歩一歩確実にこちらに近づいてくる。

 三人は、逃げる気力すら残っていなかった。たとえ逃げたとしても、いずれまた捕まる。それを頭のどこかで理解してしまったのだ。

 モールイマジン(こいつ)からは逃げられない。そう確信してしまった。

 一歩、また一歩と近づいてくるモールイマジン。

 逃げなきゃ殺される、そう頭では理解しているのに恐怖で体が動かなかった。

 花陽は瞳に涙を浮かべ、凛は花陽を背にしてモールイマジンを睨みつけるもその体は震え、真姫はどうすればいいのかわからなくなっていた。

 ゆっくりと、ゆっくりとモールイマジンが迫る。

 ついには真姫でさえも、尻もちを付く。

 ──もう、ダメだった。

 その時──、

 

 

 

 

 ──笛の汽笛と共に二両編成の列車が突然現れた。

 

 

 

 

 比喩ではなく、そのままの通り。突然空間に穴が開いたかと思うと、笛の汽笛が響き列車が現れたのだ。

 突然の列車の登場にモールイマジンもその歩みを止め、舌打ちをする。

 真姫たちも目を点にして列車を凝視した。

 列車はその場を走り去るとまた空間に穴をあけ去って行く。

 しかし、列車が通過した場所に先ほどラーメン屋で見かけた赤髪クセ毛の青年と、一体の怪人が立っていた。おそらく部類としては、今自分たちを襲おうとしている目の前の怪人と同じだろう。

 新手か味方か、思考を放棄している真姫たちにはわからなかった。

 青年は、真姫たちの光景を見ると、すぐさま眉間に皺を寄せ隣の怪人の頭を掴み、ヘッドロックをかける。

 

「ったく、お前のセンサーどうなってんだ! 鈍すぎだろ!」

 

「痛い、痛いよ詩音(しおん)

 

「うるせえ!! 大体お前はいつもいつもいつも──」

 

 そこで詩音と呼ばれた青年は、モールイマジンの方を一瞥すると、ヘッドロックを解除する。

 

「まあいい。今はこっちだ」

 

「キサマ、何者だ?」

 

 モールイマジンの問いに詩音は鼻を鳴らすと、懐から黒いベルトを取り出した。

 それを見たモールイマジンは警戒心をむき出しにして詩音を睨む。

 

「キサマ、『電王』の仲間か!?」

 

「はあ? んな訳ねえだろ。

 ──行くぞ、デネブ」

 

「了解!!」

 

 詩音はベルトを腰に装着すると、左のケースより一枚のカードを取り出す。

 カードと言っても、真姫の見る限り紙製のモノではなく黒い板状のものだ。こちらに見える面に赤い色の『M』と『Z』が合わさったようなラインが走っている。

 詩音はカードを構えると、ベルトの上部にあるレバーを左手の親指で右側へスライドさせる。先ほど列車が現れた時と同じ、笛の音のような和風な待機音があたりに響き渡る。

 そして、青年は一言──告げる。

 

「変身!」

 

『Charge And Up』

 

 青年が掛け声とともにカードをベルトにアプセットする。赤い『Z』マークが浮かび上がり、青年の体を黒いスーツが包み込む。続いて、アーマーが装着され、最後にアーマー同様の赤銅色の牛の頭のようなものが頭部のレールを二頭走り、変形することで仮面が形成された。

 隣に立っていた怪人──デネブは自身をフリーエネルギーに変換させガトリング型武器へと姿を変える。

 そして、仮面の戦士の手に収まる。

 変身が完了した仮面の戦士──ゼロノスはモールイマジンを睨みつけ、宣言する。

 

 

 

「最初に言っておく、俺はかーなーり、強い!!」

 

 

 

 




早速オリジナル単語が出てきましたね。ちょくちょくオリジナル設定を加えている部分がありますので、うまく説明していけたらいいなと思ってます。

それでは、次回もよろしくお願いします。




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