ゼロの名の戦士―その未来を守るために―   作:水卵

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お久しぶりの更新です。
もう一つの作品の方が佳境に入っていたため、こちらが疎かになっていました。

物語的にはここから説明回です。


Episode12:OBSERVER

 青年が放った一言は、詩音の表情をわずかに動かしただけで期待していたほどの効力はなかった。ほんの少しだけ目を見開き、そして予想していたのか素っ気なく呟いた一言に、青年は怒りを感じ一歩詰め寄る。

 

「忘れているのかって、君はみんなから忘れられていくのを知りながら戦っているわけ!?」

 

「ああ。それが()()()()だからな。戦うにはカードが必要。そしてカードを使えば、俺は人々の記憶から消えていく。当然の結果だ。それにこれは前にも説明した。同じ質問をしてんじゃねぇよ」

 

「でも……だからって……なんで戦うのさ! 君にだって忘れられてほしくない人がいるでしょ! 元の時間に戻って来た時、みんなが君を忘れていたら……そんなの、悲しすぎるじゃないか!」

 

「……」

 

 そこでようやく、詩音の表情がほんの少しだけ動いた。今まで反抗的だった瞳がわずかに揺れ、視線が下へと向く。それは今まで青年が見た中で一番の変化だった。

 それはつまり、詩音も誰かに忘れられることが辛いと思っていることを意味している。なら、ここですべてを聞き出して力になれば、もう彼はこれ以上孤独にならなくて済む。これ以上彼は誰かの記憶から消えなくて済む。

 畳み掛けるなら、チャンスはここしかない。

 

「まだ何人かは君のことを覚えている。もうこれ以上君を孤独になんかさせない。僕が力になるから、電王(僕たち)が力になるから。今起こっていること、君が何と戦っているのか教えて」

 

「……」

 

 詩音は青年から差し出された手をじっと見つめる。この手を取り、今起こっていることを全て話せば、目の前の青年は必ず協力してくれるだろう。一緒に戦って、一緒に事件を解決してくれる。詩音が守りたい『時間』が確実に守れる。

 しかし、それは無理な話なのだ。

 

「……前にも言ったが、お前らに話しても意味ないんだよ。()()()()()()()()時点で、結論は出てる」

 

 返ってきた答えは『拒絶』。詩音の瞳が再び鋭く細められ、青年の横を通り過ぎていく。青年は慌てて通り過ぎろうとする詩音の腕を掴んで呼び止めるが、詩音の目にはもう揺るぎがない。先ほどまで見えていた揺れがもうなくなってしまっている。

 

「どうして……どうしてそうやって一人で解決しようとするの!? 僕たち仲間でしょ!!」

 

「……」

 

「逃がさないって言ったよ。話して、全部」

 

 青年の瞳には断固たる意志がある。そして同時にそれは、何があろうと根は頑固である青年の性格を表していた。もうこうなってしまった以上、例えどんなことがあろうと詩音から今起こっていることを聞きだすまで、青年が引くことはない。故に詩音にある選択肢は、今ここですべてを話すことしかない。

 

「……はぁ。わかった。話せばいいんだろ」

 

「詩音……!」

 

「その前に、一つ確認したい。お前──」

 

 だが、たとえ話したところで青年が詩音の力になることはない。

 今回はそういう敵なのだ。いや、敵というより今回は()()()()()なのだ。他者がそう簡単に踏み入っていい問題ではない。

 だから詩音はこの場から逃れる選択をすることにした。

 青年の()()()()()()ことで。

 

「『ラファエル』は、ちゃんと届いたのか?」

 

「──」

 

 瞬間、青年の表情が固まった。

 笑顔のまま固まった青年の反応から、詩音はニヤリと笑みを浮かべると青年の古傷をえぐる。

 

「その様子じゃあ、まだ『ラファエル』は届いていないみたいだな。じゃああれか? まだお前の運の悪さは折り紙付きって訳か。いやはや、親子そろって大変だな」

 

「うわあああああああああああああああああ!!」

 

 ニヤニヤを笑みを浮かべて話す詩音。そしてえぐられていく古傷に耐えられなくなったのか絶叫を上げ頭を抱え込んでしまう青年。

 詩音は構わず続ける。

 

「なんだっけかなぁ、お前が中学の時に自分に付けたもう一つの名前。自分のその不幸さは、過去に幸運だったゆえの反動。そうとらえたお前が自分につけた仮の名前……。そう、確か堕天──」

 

「あああああああああああああああああああああああ!!」

 

『幸史郎!!』

 

 詩音がその言葉を放つ直前、絶叫を上げた青年に再び赤い何かが取り憑く。すると青年の黒髪が跳ね上がり、赤色のメッシュが入る。中肉中背だった体が筋肉質となり、その太くなった腕が詩音の襟元を掴み黙らせる。

 

「それ以上言うんじゃね!」

 

 声音が変わり、青年の人格が『モモタロス』と呼ばれるイマジンへと変わった。

 詩音はその変化を待っていたのか、特に驚くことも脅えることもなく、ただそれを確認すると掴んできた腕を振り払う。

 

「これで、津島は動けなくなった。お前達はさっさと元に時間に帰れ」

 

「ざけんな! お前が幸史郎のトラウマをえぐったせいでこうなったんだろうが!」

 

「こうでもしなければこいつは引き下がらないだろ」

 

「もっと他にやり方ってもんがあるだろ!」

 

 トラウマをえぐられ行動不能になってしまった青年の代わりに、モモタロスが詩音に噛みつく。至近距離で睨み合う二人だが、わざと青年のトラウマをえぐったことに対して、詩音から謝罪が来る気配はない。

 

「──ちっ。わかったよ。テメェがその気なら好きにしやがれ。あとからやっぱり手を貸してくださいって来ても、絶対に貸さないからな! ごめんなさいを言うまでやらねぇからな!!」

 

 そういうと、青年は踵を返して去って行く。

 その背中を見続けながら、詩音はポツリと呟いた。

 

「……悪いな。でも、今回は()()()()片づけなきゃいけねぇんだ」

 

 

 

 

 ☆☆☆

 

 

 

 

 青年と別れた後、真姫と再会した詩音だったがすぐさま腕を掴まれ嫌な予感を感じた。

 

「……説明して」

 

 と、詩音のことを睨んでくる真姫。逃がすつもりはないのかガッチリと腕は掴まれ、詩音が首を縦に振らない限りその手が離れることはない。青年に続き真姫にまでも説明を求められる詩音だったが、青年の時とは違い詩音は嫌がる素振りを見せなかった。

 

(今回も覚えている……となると、そろそろマジでリンクが強くなっているのか)

 

 真姫の様子からある程度、今の彼女がどういった状態にあるのかを推理し、もしかしたら説明をした方がいいのではないかと考える詩音。

 

「ちょっと、聞いてるの?」

 

「ああ。そうだな、そろそろ頃合いだろ」

 

「え?」

 

 キョトン、となった隙をついて腕を振り払うと、真姫に背を向け歩き出す詩音。その先にはゼロライナーが止まっている。

 

「その様子じゃ、逆に知ってもらっていた方がいいかもしれねぇ。来いよ、中で話す」

 

「……」

 

 今までかたくなに話そうとしていなかったのに、ここにきて急に態度を変えた詩音に戸惑いを感じつつ、真姫は急いで詩音の後を追った。

 ゼロライナーに乗ると、以前案内された時と同じ場所へと辿り着く。小さなテーブルが二か所に置かれており、真姫はその片方に腰を下ろした。デネブがお茶と赤い飲み物を運んでくる中、詩音は別のテーブルの方に腰を下ろす。

 

「はいこれどうぞ。お茶と真姫さんの好きなトマトジュースだから」

 

「え? なんで私の好物を知ってるの?」

 

「それはだって──」

 

「──デネブ! それは説明すんな」

 

 詩音に怒鳴られ、渋々説明を諦めるデネブ。真姫の方に頭を下げるとそのまま裏へと去って行った。

 一先ず、真姫は差し出されたお茶の方を口に含み喉を潤す。ふー、と一息ついたところで真姫は戸惑った。説明をして、と頼んだはいいがどこから説明をしてもらえばいいのだ? 抱えている謎が多すぎてどこから手を付けても理解できるのに時間がかかりそうなものばかりだ。

 そもそもこんなアニメや漫画の中でしかない、非現実的なことをしっかりと説明できるのか? 

 

「……」

 

 詩音の方に視線御向けると、向こうもどこから説明をすればいいのか、それともここに連れて来ておきながら「やっぱり説明しません」とでもいう気なのだろうか。壁際のソファーに腰を下ろしたままそっぽを向いてこちらに視線を向けようとしない。

 

「……ちょっと、説明してくれるんじゃないの?」

 

「……」

 

 ジトッと詩音の方を睨みつける真姫だったが、詩音はそっぽを向いたままこちらに視線を向けようとしない。その態度にムスッとした真姫は文句を言おうとしたところで、

 

「詩音、ちゃんと説明しないとダメだぞ」「うおっ!?」突然目の前に現れたデネブに驚いた詩音が椅子から転げ落ちた。ドンッ! と音が聞こえるほどにお尻を強く打った詩音は、その激痛に耐えながらデネブの方を睨みつける。

 

「……デネブ」

 

「詩音大丈夫か!?」

 

「お前のせいだろうが!!」

 

 そのまま流れる動作でデネブに関節技を仕掛ける詩音。

 

「うおおっ、だ、だって詩音ぼーっとしてて、真姫さんに全然説明しようとしないから」

 

「ぼーっとなんかしてねぇ! どこから説明するか考えてたんだ! バカ!」

 

 ゴツン、と音が響くほどの頭突きを放つ詩音。だが、どう見ても怪人相手に頭突きをして無事で済むはずがない。直後に額を押さえてしゃがみ込んでしまう辺り、ひょっとしてバカなのでは? と詩音に対する評価が変化する真姫であった。

 

 

 

 

 ☆☆☆

 

 

 

 

「さて、どこから話すべきなのか」

 

 相変わらず詩音と真姫は別々のテーブルに腰を落ち着けているが、それでも一応視線をこちらに向けてくれている辺り、先ほどよりはマシと考えていいだろう。

 と言っても、詩音自身もどこから説明すればいいのか困っているらしく、頬杖をつきながら自分の湯呑を口元に持って行っていた。

 

「真姫さんは何から知りたい?」

 

 間で中継役のように待機しているデネブが真姫へと聞いてきた。

 

「そうね……」

 

 聞きたいことは山ほどあるが、どれから聞けばいいのかわからなかった。あの怪人はなんなのか、なぜ自分が狙われるのか、目の前の人物は一体何なのか、様々なことが真姫の脳を右往左往するが、すぐに聞きたいことが決まった。

 

「……ねぇ、まずはあなたのことを教えてくれない?」

 

「……は?」

 

「あなたは突然私たちの前に現れて、それと同時に怪人も私達の目に現れるようになった。あなたが現れると必ず怪人も一緒に現れる。別に疑っているつもりはないの。何度も助けてもらっているし、あなたからはその、何だか悪い気配っていうか、むしろその逆でなんだか不思議な感覚を感じる。その正体を知りたいの」

 

「……」

 

 詩音は真姫の質問を受けてしばらく無言を貫いていた。

 確かに、真姫の視点から見てみれば詩音は突然現れた存在。そして同時に怪人が真姫たちの前に出現し、言ってしまえば詩音が引き連れてきている様にも見えてしまう。無論、そんなことは絶対に違うと百も承知だ。詩音は実際に真姫たちの目の前で『ゼロノス』と呼ばれる戦士に変身し、怪人を倒している。何かの目的のために、わざわざ自作自演をする性格には到底見えない。となれば詩音と怪人の繋がりがないことはわかる。

 それに、真姫が詩音から感じる妙な気配が『彼は敵ではない』と語っていた。すでに真姫の中では詩音は『白』となっている。

 だがそれでも、詩音が一体何者であるかはわかっていない。真姫が感じる『妙な気配』も一体何なのか、ハッキリさせておきたい。

 真姫からの問いに眉間に皺を寄せ答えにくそうな表情をする詩音だったが、デネブに睨まれ渋々口を開いた。

 

「俺は……にし──」

 

「──にし?」

 

「──ッ、錦輝(にしき)詩音(しおん)。それが俺の名前だ」

 

「錦輝、詩音……」

 

 ん? と真姫は少しだけ妙な引っ掛かりを感じた。

 

(違う……? 本名は錦輝じゃない……?)

 

 その妙な引っ掛かりが何なのかはよくわからない。だが今詩音が言った名前が彼の本名ではない、そんな気がしたのだ。完全に違うわけではなく、むしろ本当のようにも感じるが、どこか、何かが違うと真姫は感じていた。

 

「……やっぱり、相当リンクが強くなってるな」

 

「え?」

 

「今俺の名前を聞いて、妙な違和感を感じたんだろ?」

 

「……うん」

 

 真姫の返答を聞いてデネブと詩音が顔を合わせる。

 

「詩音、これって」

 

「ああ。こいつが『観測者』として目覚めるのも、もう時間の問題だな」

 

 そういうと詩音は真姫の方に視線を合わせ、

 

「俺の名前は錦輝詩音。アンタが違和感を感じようが、今はこれが俺の名前だ。そして俺はこことは違う、別の時間からやってきた。未来を守るために」

 

「未来を……守るために?」

 

「ああ。未来の時間である人物が殺され、その()()()()()()()。ヤツはその人物を殺すことで、自分が望む『時間』を手に入れようとしたが失敗し、望む時間は手に入らなかった。そこでヤツは何としてでも望む時間を手に入れるためにあらゆる手段を使い、そして今この時間にやってきた。もう一度ある人物を殺し、今度こそ望む時間を手に入れる。

 俺はそれを阻止するためにこの時間に来たんだ」

 

 

「……『ヤツ』って、いったい誰なの?」

 

「そこに関しては正確に答えることはできない。お前を襲う怪人、イマジンたちを操っている親玉的存在、とだけしか説明できない。今回の事件を引き起こした現区だ」

 

 つまり、ここまでの情報をまとめると、目の前の人物の名前は錦輝詩音(これが偽名なのか、それとも本名なのかはわからない。だが本名に近いとだけはわかる)。こことは違う時間から来た人物で『ゼロノス』と呼ばれる戦士となって怪人、イマジンと戦っている。

 その目的は、『ヤツ』と表現されている親玉の目的を阻止するため。その目的というのは『望む時間』と手に入れること。すでに未来で一度とある人物が殺され『時間が消滅』していること。そしてこの時間に来て、今度こそ『望む時間』を手に入れるのが、敵の目的。

 

「……待って、未来である人物が殺されて、でも敵の望む時間は手に入らなくて、それでこの時代に来てって……」

 

 敵の目的は、『望む時間』を手に入れること。

 そして一度は手に入ったが、それは違うモノだった。

 ここで重要なのは()()()()()()()()()()()。詩音は『未来でとある人物が殺された』と言っていなかったか? それはつまり、『とある人物』を()()ことで敵が『望む時間』を手に入れることができるということ。

 そして今、怪人は真姫を狙ってきている。

 つまり──、

 

「その様子じゃ、ある程度の察しがついたみたいだな」

 

「……うそ、でしょ……」

 

「残念だが、それが正解だ。イマジンたちがお前を狙う理由、それは──」

 

 詩音の目が細められ、その事実を放った。

 

 

 

 

「お前が特異点、分岐点の鍵に並ぶ特異体質の人間、『観測者』だからだ」

 

 

 

 

 

 




ちょっと久しぶりの執筆だったので不安が……まあ大丈夫かなと。
さて、最後の方と今回のサブタイに使われた『観測者』は本作オリジナルの用語です。詳しい説明は次回以降から始まり、徐々に物語が明かされていく頃かと思われます。そのほかにもいろいろな謎を明かしていこうかな、とか考えていますが果たして……。

それと、序盤にちょこっと登場した電王の青年。『今が不幸なのは前世が幸運すぎた故の罰』と言って、学生時代を痛い子として過ごした設定を持つ子です。『ラファエル』は不幸を直す薬として、彼が求めていたモノ。要は中二病だったってことですね。
プロットではこれ以上の出番はありませんので、概要を書かせてもらいました。この作品はあくまで『ゼロノスの物語』なので。

それでは次回、おそらく更新は来年かと思われますが、宜しくお願い致します。
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