先月、結局一回更新で申し訳ありません。
自宅へと帰ってきた真姫。両親はまだ帰ってきていないのか家の中は静かだった。
「ただいま」
言ってみたものの、返ってくる言葉はない。
真姫はそのまま自室へと向かいベットにその身を投げた。ボフン、と軽い音を立てって真姫の体がクッションの中に沈んでいく。
それなりにいい値段がするからなのだろうか。体が沈んでいくにつれて徐々に疲れを感じるようになった。
といっても、今日一日の出来事を振り返ればこの疲れは当然のもの。詩音を探すために歩き回り、その次はダンスゲーム。さらにはイマジンが出現してがれきの下敷きになりかける。そして最後に自分が特異体質の人間であることが説明され、なぜ家人が真姫を襲うのか、怪人の目的は何なのか、それらすべてが語られた。
思い返しただけでも、これだけ濃いイベントがあったのだからむしろ疲れを感じない方が異常だ。肉体的な疲労だけでなく、精神的な疲労も感じるのだからよっぽどのことなのだろう。
「観測者、か……」
ぼーっと天井を見上げながら呟く。
西木野真姫は『観測者』と呼ばれる特異体質の人間。死亡した場合、最悪今生きているこの時間が消滅するかもしれない。
「……ホント、ふざけてるわね」
敵はそんなことを承知で真姫を殺しにきている。時間が消滅しるかもしれないというのに、そこまでして手にしたい『時間』とはいったい何だ?
「私が考えても、仕方ないわよね」
それは敵と詩音しかわからないことだろう。ならいくら真姫が考えたところで思いつくはずもない。
それよりも、この体に圧し掛かって来る疲れをどうにかしたい気分だった。紅茶はまだあっただろうか。いや、それよりも家を出てから全く喚起をしていないこの部屋の空気を入れ替えるべきか。
考えた結果、先に空気の入れ替えをすることにした。ベットから体を起こし、部屋の窓を開ける。十月下旬の少しだけ冷たい風が頬を撫でる。部屋の空気が新鮮なものに変わっていくのを感じながら、一度だけ深い深呼吸をした。
「……ん? あれって」
ふと、家の門の方に視線を向けると、怪しい人影があった。門の前をウロチョロと歩き回り、時折こちらに視線を向けている。
(もしかして、泥──って、デネブじゃない)
よく目を凝らして見てみれば、その人影はデネブだった。
「何やって──」
──んのよ、と言い切る前に、その理由が何となく思いついた。
きっと、デネブは真姫の護衛──この場合は見張りともいえる──をしているのだろう。敵はいつ真姫を狙ってやって来るかわからない。しかしある程度近くに来れば、同じイマジンであるデネブはその気配を察知できるらしい。だからああやって、すぐに真姫の元へ駆けつけれるよう待機しているのだと思う。
ただ、少しだけこちらを心配そうに見てくる理由は分からなかった。
「もしかして、私を心配しているの?」
一つ思い当たる節があるとすれば、それはゼロライナーの中で倒れたということ。真姫自身に身に覚えはないのだが、詩音とゼロライナーのデッキで会話をしていた時、突然倒れたというのだ。きっとそれを心配しているのだろう。
「ホント、心配性ね」
少し笑みをこぼしながら言う真姫。
自分の身を案じてくれていることに感謝をしていると、ふと、デネブに近づく一人の警察官に気付いた。
「………………!?」
悲鳴よりも先に体が動いた。スクールアイドルとして鍛えてきた身体能力をフルに使い、部屋を飛び出し階段を駆け下りる。
よくよく考えてみたら、デネブが家の前をうろついているのはとてもまずいことだ。真姫はすっかり慣れてしまっていたが、デネブだって傍から見れば怪人。不審者にしか見えない。いくら今が十月下旬といえハロウィンにしては早すぎるし、仮装だとしても他人の家の前をうろついていれば警察官がやって来るに決まっている。
状況は手遅れだが、まだ完全にアウトではない。急いで行けばまだ何とかなるかもしれない。
そう思って、脳内で警察官への説明を考えるが、思いつくより先に玄関を開けていた。
「いや、だから俺は怪しいものではなくて」
「その見た目でも言っても説得力ないから。とにかく署までご同行願うよ」
「ええ!? ちょっと!?」
見ればデネブは警官に手を取られ、今にも連行されそうな状態であった。
「すいません! その人怪しい人じゃありません!」
「え?」
真姫は飛び込む形で二人の間に割って入った。
入ったはいいが肝心の説明がまだ思いついていない。警察官が呆気に取られている中、半ば自暴自棄になって思いついた言葉を羅列していく。
「この人、今度ウチの病院でやる予防接種のマスコットキャラクターなんです! 昨日この人に決まって、今日その打ち合わせとかあったみたいなんですけど! パ、父が忘れてしまったみたいで! 母も外出しているんですけど、私もそのことすっかり忘れてて、だから決して怪しい人ではないんです!!」
「え、予防接種って──」
「──西木野総合病院! 私の父そこの医院長なんです!! 十月ともなればインフルエンザの予防が始まるでしょ!! それの事前打ち合わせです!!」
我ながら出鱈目すぎると思う。よくもこんな言葉がすらすらと出てくるものだ。
しかしまあ、あながち嘘ではないだろう。季節を考えれば来月からインフルエンザの予防接種が始まるころだ。そして注射が怖い子供に向けて、こういったキャラクターを導入するのはある意味一つの手だろう。
故におかしな点はない──そう目で訴えながら真姫はデネブの手を引く。
「でも、恰好は──」
「この人すごい仕事熱心らしくて、自分でマスコットキャラの衣装作って実演したいって言ってたみたいなんです!! だから、決して、怪しくありません!! お騒がせしまたし!!」
「え、あの、ちょっと!」
玄関までくればこっちのもの。勢いと出鱈目に任せた真姫の行動は、結果デネブを無事に家の中に避難させることができた。
☆☆☆
「バッカじゃないの!?」
どかん、とリビングのソファーに叩きつけるように座らせて、有無を言わせない勢いで怒鳴りつける。
「こっちが心配なのはわかるけど、もっと隠れるとかほかに方法なかったわけ!? なんであんな風に堂々と家の前をうろつくのよ!!」
「お、落ち着いて真姫さん! 確かにオレが悪かったけど──」
「これが落ち着いていられるわけないでしょーが!」
怒鳴って、一直線に右手の手刀を振り下ろした。
俗に言うチョップという奴だ。
しかし相手はイマジン。その手に返ってきた衝撃は凄まじいものであり、
「…………」
「ま、真姫さん? ひょっとして、泣いてる?」
「うるさい!」
結果、手に返ってきた痛みに耐える羽目になった。
しかし自爆したことで思考は冷静になり、改めてデネブに向き直る。
「……それで、詩音は一緒じゃないの?」
「え?」
「あんたがどうして家の前にいたかは、ある程度予想がつくわよ。でもそれなら、詩音の姿は何で見えないの?」
「えっと……詩音は……」
なぜか口ごもるデネブ。しかしそれで、今彼が何をしているのかが分かった。
「ああ、いいわよ。何となくわかったから」
真姫がそう言うと、しばらく沈黙の時間となった。お互いに相手の出方を探っているのか、それとも単に話のネタがないのか、真姫もデネブも言葉を発さず時計の音だけが耳の中に入って来る。
飲み物でも出すべきか? と思ったが、いつ母親が返って来るかわからないこの状況で、下手にデネブを長居させるのはマズイ。しかしかといって、このまま帰れと言うのもなんだか無粋だ。
「……ねぇ、あなたはどうして詩音に協力しているの?」
だから、ふと思った疑問を投げかけた。少し会話をして、それで切り上げてもらおうと思ったのだ。
「敵と同じイマジンなのに、どうして?」
デネブは、少しだけ間をおいてから答えた。
「最初は、詩音に協力することがオレの本来の契約者との契約だった。でも今は違う。今は、いずれ来る別れまでに、たくさんのも思い出を、たくさんの触れ合いを、たくさんの……」
デネブの声はだんだんと小さくなっていく。その声音は哀愁を漂わせており、真姫は首を傾げるしかなかった。
「せめてオレだけでも、詩音の傍にいて、詩音の心の中にいて上げようと、詩音を絶対に覚えていようと、詩音が帰って来る場所になろうと思ってる」
「? どういうこと?」
ますます訳が分からない。デネブはこちらの問いの答えとして言葉を発しているのかもしれないが、何を言っているのかさっぱりだ。
その意思デネブにも伝わったのか、一度頭をかいてからしっかりと真姫の方の正面から見る。
そして、
「オレは、詩音が
何か大きな決意を感じさせる声音で、そう言った。
☆☆☆
「──―っ!?」
仮面の下で詩音は息を飲んだ。
鎌によって切り裂かれた車の隙間から突き出したゼロガッシャーの剣先は、僅か数ミリだけ届いていなかった。
それは詩音──ゼロノスが距離を間違えたのではない。イマジンが的確にゼロガッシャーの大きさを目視で判断し、身を後ろに引いて躱したのだ。鎌を振り下ろしたタイミングで、完全に意表を突いたはずのタイミングなのに、イマジンは驚異の瞬発力と観察力でそれを躱した。
「──甘いな」
そんな呟きが聞こえたのと同時に車が爆発。巻き込まれてはまずいとゼロノスは急いで後ろに飛んだ。ごろごろと背中から転がり──、
「──車の爆発にひるまず、あと一歩踏み込んでいればよかったものを」
──その最中、上から聞こえてきた声に急いでゼロガッシャーを上に構える。
ガキン、と金属音がこだまする。
「──うぐっ」
無理な体制で防いだ為、息が漏れる。弾いた一撃の行く末を確認する間もなく、急いで体制を立て直す。
「ほら、行くぞ──」
それは合図か、それとも余裕がある故に発せられた言葉なのか。耳に滑り込むように聞こえてきたその言葉に合わせ、ゼロノスはゼロガッシャーを縦に構える。
横一線に振り抜かれた鎌の刃が火花を立ててゼロガッシャーとぶつかる。そのまま絡め捕るようにゼロガッシャーを操り、イマジンの態勢を崩すとその動体に蹴りを放つ。
確かな感触と僅かに聞こえてきた呻き声。
ゼロガッシャーを構え追撃。刃先はイマジンの体を走り、連続してダメージを与え行く。
「おりゃっ!!」
大振りの一閃。それは確かにイマジンの体を捉え斬り付けた。
しかし──、
「……ほう、なかなかやるな。これは少し貴様を舐めていた」
ガシッと、ゼロガッシャーがイマジンの手によって握られる。
「──っ」
本能が警告を発する。ほぼ反射的にその場から逃れようとするゼロノスだったが、それよりも先にイマジンの腕が跳ねた。
ゴスッという鈍い音と同時に、腹部に貫かれるような激痛が走る。イマジンの武器──鎌の先が腹部に突き刺さったのだと脳が理解するより先に、さらにイマジンの腕が振るわれる。鈍い音が連続して鳴り、それに伴ってゼロノスからは苦悶の声が漏れる。
両者の距離が空き、続いて鎌の刃がアーマーを削り始める。耐えがたい衝撃と激痛。
まるで己の手足かのように操られる鎌は、一撃一撃的確にゼロノスのアーマーを削っていく。目で追うのがやっとの攻撃を辛うじて防ぐことに成功するが、横腹を足で蹴り飛ばされ数メートル転がる。
上体を起こそうと腕に力を入れたところで、殺気を感じそのまま身を投げ出すように横へ飛ぶ。
次に見たのは鎌の先がアスファルトに突き刺さっているところだった。
「────」
マズイ、とゼロノス──詩音は感じた。
そう感じている間にも、敵は攻撃の手を休めることなく迫って来る。刃を躱し、しかし逆手に持ち替えたことで持ち手の先が視界に迫る。
その突きを首を振って躱し、僅かな瞬間に反撃のゼロガッシャーを振るう。
しかし、イマジンはわずかに半歩下がってそれを躱す。
「そんな大振りでは俺を斬れん」
「あいにく、まともな剣術は性に合わなくてね」
「そうか、それは残念だ」
両者が弾け距離が開く。
ゼロノスは素早くゼロガッシャーをボウガンモードに切り替え、今度は遠距離での攻撃に入る。
しかし、剣術で対抗できなかった相手に遠距離の攻撃に映るのは失策だったかもしれない。放った狙撃はすべて叩き落され、瞬時に距離を詰めてくる。
『Full Charge』
ゼロノスはベルトのボタンを押し、カードにエネルギーを溜める。
その動作が必殺技を放つための動作だと知っているイマジンは加速。放たれる前に距離をゼロのしようとするが、先にゼロノスはベルトから取り出したカードをゼロガッシャーに挿入。こちらに向かってくるイマジン目掛けてトリガーを引いた。
放たれる一撃。
イマジンは迫る一撃を、その鎌を振るって防ぐ。
「──む」
だがさすがの必殺技。そう簡単にはかき消せない。
ならばと、鎌を操りその一撃を受け流すことにより、ゼロノスの放った必殺の一撃は後ろのあった一台の車を炎上させた。
そして、ゼロノスの方へと視線を向けると──、
──すぐそばにゼロノスがいた。
「──っ」
今度はイマジンから音なき声が上がる。
自分の必殺技を囮にして、自ら敵の懐へと飛び込んできたゼロノス。その手に持つ得物の刃にはすでにエネルギーが集中しており、それを振るえば回避行動によって無防備になっているイマジンの動体を真っ二つに切り裂くだろう。
だから、
「────なっ!?」
ひゅるり、とまるで風に舞うビニール袋のようにその一撃を回避した様は完全に意表を突かれた。
「──ふむ、俺にこれを使わせるとは、さすがと言っておこう」
倒せると信じていた一撃を躱され、驚愕に脳が埋め尽くされている中その言葉が耳に入り込んでくる。
「──故に、勝負は貴様の勝ちだ。だが、試合の勝ちは俺が貰おう」
そして、銀色の一閃がゼロノスの体を抉った。
☆☆☆
「お疲れ様でした」
そう言って園田海未は弓道場を後にした。
スクールアイドル部だけでなく弓道部も兼部している海未。『ラブライブ!』の本番が近づくにつれて弓道部の方に顔を出す機会が減りつつあったが、本日はスクールアイドル部が休みであるため、久しぶりに弓道部の方へとおじゃましていたのだ。
久々の弓道につい熱が入ってしまったが、残念ながら彼女には作詞という大きな仕事がある。絵里から聞いた話によると、もしかしたら今月末に行われる『ハロウィンイベント』にてライブをするかもしれないので、それ用の曲を作っといてほしいということ。
人前で披露する曲の詩を一日二日で作り上げる才能は海未にはない。よって、前もっていくつかの候補を用意しなければいけないのだ。最終予選への曲も未だしっくりくるのがない中ではあるが、これも『μ‘s』の人気を上げるため。そう思って家へと続く道を歩いていると──、
「──あれは……」
道の端に誰か倒れているのに気付いた。
「え? 大丈夫ですか!?」
周囲に海未以外の人影はない。しかしかと言ってほっとくわけにはいかず、よく見てみれば出血をしている様に見える。
もし大きなけがをしているのであれば、急がないとマズイ。そう思って倒れている人影へと近づくと、
「──え、あなたは……」
とても、見覚えのある赤みがかった茶髪の青年だった。
次回、Episode15へ続く……。