年内になんとか更新できました。
本当に、長い間更新せず申し訳ありませんでした。
──このイマジン強い……!
ならばどうするか。ゼロガッシャーとイマジンが持つ鎌の形状押した武器が激しくぶつかり、火花を上げる中、詩音は必死に考える。この相手を出し抜く作戦を、意表を突く作戦を思いつかなければ、いずれじり貧になりこちらが負ける。
だが、作戦を練ろうとしても、首を刎ねようと迫る鎌の対処に追われ作戦など考える暇がない。作戦を考えながら鎌の対処をすることなど、このレベルの相手には無理なことだった。
まるで手足のように操られる鎌を何とか退けるゼロノス。
刹那、ゼロノスの脳裏に一つの作戦が思いつく。
(これしかない!)
すぐさまベルトに手を伸ばし、ボタンを押す。
『Full Charge』
同時にイマジンはこちらが必殺技を放つことを見抜いたのか、加速して距離を詰めてくる。だが、それより先にベルトからカードを抜き取りゼロガッシャーへ挿入。ゼロガッシャーが輝きを放ち始める。
照準を合わせる時間などない。ゼロガッシャーの先を素早くイマジン側に向けると、トリガーを引き必殺の光矢『グランドストライク』が放たれる。
躱せないと判断したイマジンは手に持つ鎌で『グランドストライク』を受け止める。しかし、必殺の光矢はそう簡単に防げるものではなく、押し切られることは明白だった。だからイマジンは、鎌で光矢の軌道を変えることで『グランドストライク』を躱した。
軌道を変更された光矢は一台の車を炎上させる。
だが、これがゼロノスの狙い。
すぐにエネルギーを再充填させ、サーベルモードに切り替えたゼロガッシャーに挿入。
──もらった。
詩音はそう思った。
しかし、イマジンはまるで風に舞うビニール袋のような動きでゼロガッシャーの刃から逃れた。
「な!?」
ゼロノスから驚きの声が漏れる。
無理もない。本来ならば躱せるはずのないタイミングなのだ。『グランドストライク』を躱し、体勢が崩れているところに『スプレンデッドエンド』で斬り込んだのだ。耐えるということならばまだ理解できる。しかし、イマジンは
躱せるはずがない一撃を躱された。その衝撃がゼロノスの判断力を低下させた。
「ふむ、俺にこれを使わせるとは、さすがと言っておこう。故に勝負は貴様の勝ちだ。だが、試合の勝ちは俺が貰おう」
ざぐり、と嫌な音がゼロノスの耳に入ってくる。そして同時に襲ってくる激痛。ゼロノスのスーツとアーマーによって体がバラバラになることはなかったが、火花を散らしながらゼロノスの体が吹き飛ぶ。
ゴロゴロと転がり、停車している車にぶつかる形でゼロノスの体が止まった。
「がはっ」
仮面の下でゼロノスは吐血した。
致命傷だ。これ以上の戦闘はどう考えても不可能。激痛によって体の自由が利かなくなり、意識もだんだんと薄れて行っている。
コツコツと、イマジンの足音が聞こえる。
「……殺すなと言われていたが、つい熱くなってしまった。だが、死んではいないのだろ?」
「…………」
「それに、その傷もいずれは回復する。ならば、片足でも斬り落としておくか。そうすれば、もう邪魔はできまい」
イマジンはゆっくりと近づいてくる。おそらくこのままでは詩音は戦闘不能にされ、真姫を守ることができなくなる。そうなればもはや時間を守るすべを失う。この場は何としてでも切り抜けなければならない。
「……思い、通りに、させる……かよっ!」
ゼロノスはあたりを見回し、咄嗟に近くにあった車に向けてゼロガッシャーを投げた。渾身の力を込めて投げたゼロガッシャーは車に突き刺さり爆発。爆風がイマジンの視界を遮り、同時に熱風が襲う中、ゼロノスは爆風に身を任せてその場から吹っ飛び戦線を離脱した。
☆ ☆ ☆
さきほどの戦闘を意識が戻った詩音は振り返っていた。作戦自体に問題はない。イマジンが有する能力の事を考えなかった自分のミスだ。今まで戦ってきたイマジンの中には必ずと言っていい程能力を有していた。となれば、あのイマジンも何かしらの能力を持っていると考えるのが筋だ。
しかし、決着を急いだ詩音の判断は能力によって返り討ちにされた。今振り返っても浅はかな作戦としか言いようがない。
(あのイマジンを倒すには、デネブの力を借りるしかないか)
あのレベルの敵は、ケンカレベルの腕しか持たない詩音では勝てないだろう。『戦い』を知っているデネブのほうがまだ勝つ可能性がある。
だがそうなると、詩音が使っているカードとは別のカードを使うことになる。おそらくこれには、デネブは難色を示すだろう。しかし、勝つ方法がこれしかないとなれば、渋々了承するしかない。
(……別にいいさ。もう誰も俺の事なんて知らないんだから)
ひとまず、あのイマジンへの対策を一通り考え終えた詩音は改めて自分がいる部屋を見回した。和装の部屋だ。木目の天井にきれいに掃除された畳と熊の木彫り。掛け軸には達筆な字が書かれており、その字が詩音にとても見覚えのある部屋だと確信を与えた。
「間違いない、な」
おそらく、大怪我を負っていた詩音を助けてくれたのは、今脳裏に浮かんでいる人物で間違いないだろう。腕や頬に当てられたガーゼ、そして巻かれている包帯は素人ながらに丁寧に巻いている印象だ。そもそも、血を流すほどの大怪我を追っている人物を病院へと運ばず、自宅で介護するなど詩音のことを知っている人物でない限りありえないことだ。
(まさか、まだ覚えているなんてな)
だが、詩音が彼女と一緒にいた時間は少ない。使用したカード枚数を考慮してみても、あの人が覚えている確率は低いはずだ。それなのに、現状を鑑みればあの人が詩音の事を覚えていると推測できる。
そして、控えめなノックと共に、
『起きていますか?』
とても聞き覚えのある少女の声が聞こえてきた。
「……」
できれば、詩音は少女に合いたくなかった。個人的に少女の性格が苦手ということもあるし、何より前回、何も言わずに少女の前から去って行ったのだ。当然、まずそのことを追及してくるだろう。寝たふりをしてやり過ごすという手もある。
しかし、こうして二回も手当てをしてくれたとなると、そろそろちゃんと礼を言った方がいい気もする。
結果、しばらく考えた後詩音が導きだした答えは、
『まだ寝てますよね。あの怪我ではやはり病院のほうが……』
「……起きてます」
返事を返すことだった。
『──え?』
障子の向こうに立つ少女は、返事が返ってきたことに相当驚いたのだろう。驚きの声を上げた後、しばらく立ち尽くしているのが障子越しにでもわかった。
そして勢いよく障子を開けると、驚きで目を見開く少女と目が合った。
「……」
「……」
互いに見つめ合ったまま静寂の時間が過ぎる。
時間にしては数秒だったが、二人にはもっと長く感じていた。
先に変化が訪れたのは少女──園田海未の方だった。突然膝から崩れ落ち、うつむいてしまったのだ。さすがの詩音も目の前で突然膝をつかれると驚きを隠せない。何が彼女の身を襲ったのか、駆け寄ろうと思い立ちあがろうとしたところで、か細い声が聞こえてきた。
「……よかったです。心配したんですよ……何も言わずに出て行って、怪我だってまだ治ってなかったのに、またこんな大怪我して、あなたは一体どんな生活をしているのですか!?」
海未の顔が上がり、涙に濡れた瞳が詩音を見つめる。
詩音は何も言えなかった。なぜなら、涙に濡れている海未の瞳が有無を言わせないほどの威圧を放っていたのだ。その瞳を見て、女の涙はなんとか、みたいな話を以前聞いた覚えがあったのを思い出したが、たしかにこうして実際に体感してみると女の涙の前では何も言えなくなる。弁解の余地すらない。次第に海未の嗚咽は増していき、流れる涙も大粒と化していく。それらがすべて詩音の心に突き刺さり、犯した罪を糾弾されている気分だった。
「……すいません」
もっと他にいうべき言葉があったのかもしれない。しかし、再びうつむいてしまった海未に対して、詩音がかけれる言葉などこの一言しかなかった。それほど詩音自身も過去にしてしまったことに強い罪悪感を感じたのだ。
しばらくは海未の涙だけがこの部屋に響いていた。
数十分くらい経っただろうか。海未は目元を拭いながらも落ち着いた様子で顔を上げた。
「すいません」
開口一番、謝罪の言葉を述べる海未。おそらく泣き出してしまったことへの謝罪だろう。
「いえ、別に謝ることじゃないです。全部、俺が悪いんですから」
「……理由は話してくれないんですか?」
「はい。すいません」
「……」
納得できないと、海未瞳が訴えている。
「傷を手当てしてくれたことには感謝しています。本当に、ありがとうございます。でも、もうこれ以上はほっといてください。これ以上、あなたの時間を──」
「──それ、本気で言ってるんですか?」
静かな、それでいて凜とした海未の声がその場に静寂をもたらす。
「怪我は前回よりひどいんですよ。それでもまだ、前回みたいに勝手に姿を消す気ですか?」
「……」
「あなたがどんな生活をしていようと、何をしていようと答えられないのなら仕方ありません。これ以上の追及はやめます。ですが、そんな大怪我を追っている人を、死にに行くような人を黙って見逃せると思いますか? 傷を癒す方が重要だとは思わないのですか?」
訴えかけるような海未の言葉。
詩音はただ黙って聞いているだけだった。
「今は傷を治すことを優先してください。傷が治るまではこの部屋から出てはいけません。もしできないのであれば、今回は無理にでも病院へ連れていきます。いいですか?」
海未の提案は詩音にとってうなずけるものではなかった。今、もしこの瞬間に『ヤツ』がアイツに会っていたら、アイツがイマジンに襲われていたらと考えると、ここで悠長に寝ていることなどできない。今すぐにでもここから飛び出して、アイツの状況を確認したかった。一応デネブが護衛にいるから大丈夫だと思ってはいるが、言いようのない不安が詩音の胸に渦巻くのだ。
だが、この傷ではまともに戦うことができないのもまた事実だった。あのイマジンの攻撃で受けた傷はかなり深い。下手に動けば傷口が開いて戦闘不能になるのがオチだ。ならば、傷口が完全にふさぐまで、もしくは最低でも戦える状態まで回復を待つのが得策かもしれない。
「…………」
ふぅと、詩音は一つ息を吐いた。そもそもここでいくら考えようと、まずは海未の追及をやり過ごさなければことを進めることができない。よってここは、海未が望む答えを言うしかないのだ。
「……わかりました。今はおとなしく寝てます」
渋々といった感じではあるが詩音がそう返事をすると、海未の表情が明るくなり、先程までの刺々しい雰囲気は霧散した。
「その答えが聞けて良かったです。さ、変えの包帯とガーゼです。タオルも用意したので、体を拭いてはいかがですか?」
看病モードとなった海未は出際よくその手荷物包帯とタオルを差し出してくる。詩音はそれを受け取り、体を拭こうとしたところで、
「……あの、そこにいる気ですか?」
「!? す、すいません、今出ます!」
詩音の言いたいことが分かったのか、海未は赤面しながら慌てた様子で部屋を出て行った。
その姿を見送った詩音は、シャツを脱いで自分の体を見下ろす。いたるところにガーゼが当てられ包帯も巻かれているが、そのどれも赤く血がにじんでいる。いくら二回目だからとはいえ、普通の女子高生がこの傷を手当てしたのは冷静に考えるとすごいことだ。
(さて、この間に逃げようと思ったが、障子の向こうにしっかりといやがる……これは、逃げるに逃げれないな)
傷の回復だけならゼロライナーで寝ていても治る。というか、ここにとどまるよりゼロライナーのほうが色々と勝手がいいのだが、障子の向こうにしっかりと待機している海未の気配を感じた。これでは下手にこの場から動くこともできない。若干監禁されている気分だ。
おそらくあの様子では、詩音が少しでも動こうとしただけで止めに来るだろう。
最悪の場合、海未に手を出すことになるかもしれない……。
「──いや、それは最低だろ」
『はい? 今何か言いました?』
「なんでもないですよ」
つい言葉に出てしまったようだ。いくら彼女の記憶から消えるとはいえ、乱暴なことをするのは最低な行為だ。
結局、詩音はおとなしくしているしかなかった。
もう一つの作品も含めて、早期更新を目指していきたいです。
次回、Episode16に続く……。