プロットを見返してたら、あと一個イベントを書いたら終盤突入というのを見て、一気に書くしかないなと思い久しぶりの更新に至りました。
とは言っても、数話ほどこんな感じのが続くと思います。
新しい包帯を巻き終えた詩音は、部屋の外で待っている海未に声をかけた。
律儀に待っているあたり、本当に彼女は真面目な性格をしている。そんなことを思いながら海未の入室を待っていると、ひとつあることに気づく。
「あ、やっぱり待ってください」と、口にした時にはすでに遅かった。
入室した海未はバッチリとソレを見てしまっている。詩音の血で赤く染まった包帯を。
みるみる海未の顔が青く染まっていく。
あー、と詩音が後悔しているうちに海未は真っ先に叫んだ。
「病院に行きましょう!」
それはもう詩音が気圧されるほどの勢いが込められていた。
「こんなに出血していて問題がないはずありません! 今すぐ行きましょう! ……ああ、やっぱり無理にでも連れていくべきでした。そうですそうですよ。普通に考えてこんな怪我をしていて病院に行かない方がおかしな話なんです。どう考えても寝て治るわけないじゃないですか私のバカ。もっと考えてください!」
頭を抱えて叫ぶ海未。加えてその目はグルグル回っている。
どうやら相当テンパっているようだ。ひとりで勝手に部屋を右往左往したりと、見ているこっちが落ち着けと思ってしまう。
そんな詩音の視線に気ついたのか、海未を見ると血相を変えて叫んだ。
「何をしているんですか!? 今すぐ救急車呼ぶので待っていてください!」
「いや、大丈夫です。もう血は止まってますし」
「血が止まっているからと言って大丈夫な訳ないでしょう!?」
一喝した後、手にとったスマートフォンの画面を見ながら「えっと救急車は117? 119? どっちでしたっけ!?」と本来であればしっかりと覚えているはずの番号がわからず避けに慌てていた。
はあ、とため息を吐いた詩音はまだ痛みがある体をなんとか動かして立ち上がると、慌てている海未の手からスマートフォンを取り上げる。
「ああ!」
「だから前にも言いましたけど、俺はある理由から病院には行けないんです。だから自然治癒に任せるかないんです」
「ですが……!」
「それに、これ以上は学校に遅刻しますよ? いいんですか?」
スマートフォンに表示されている時刻を見ながら言う詩音。
「いいです。欠席の連絡はもうしてありますので」
「あっそ、そうですか……え、え?」
あまりにも予想外の返答に詩音は固まった。
今、目の前の少女はなんと言った? 欠席の連絡? あの真面目な園田海未が学校に欠席の連絡を入れた?
「……は? え? え?」
「さすがに驚きすぎではないですか?」
おそらく、今詩音はとてつもない間抜け顔をしているだろう。普段から眉間にシワを寄せた目つきの悪い顔をしているので、こう言った表情はなかなかレアだったりする。とはいえ詩音だって人間だ。予想外のことにはそれなりの反応を示す。
「欠席って……なんで……」
詩音からすれば海未が欠席をするなど考えられないことだった。真面目でしっかり者である海未が一体どんな理由で欠席の選択肢を選ぶのか。
「けが人が家にいるんですよ? 私はそんなに薄情な人間じゃありません」
「…………」
つまり詩音のためということだ。
……なんとなくこそばゆくなってそっぽを向くことにした。
「ふふっ。そういうところはかわいいですね」
やめてほしい。より恥ずかしくなってしまう。
頬に熱を感じながら、詩音はスマートフォンをさっさと返して寝ることにした。
「……もう寝ます。寝てれば治るので」
「はい。ゆっくり休んでください」
と、言ったくせにその場にいる気配がする。もしかしたら詩音が寝付くまでいる気なのだろう。
(あー、ホントやりにくい)
やっぱりこの人は苦手だ。捻くれている詩音にどこまでもまっすぐに付き合ってくれる。
でも、苦手なだけで悪気はしない。
(ホント、意味わかんねぇ)
☆★☆★☆★
詩音が横になると、部屋は静寂に包まれた。
本当なら海未は部屋から立ち去って詩音を一人休ませるべきなのだろう。
しかし、海未はわかっていながらどうしてもそれができなかった。どうしても、この場にいたい。この青年のそばにいたいと心の底から願ってしまう。
(どうして……)
布団にくるまる詩音の背中を見つめながら、言葉になりそうになる感情を押し留める。
(どうして、何も言わずにいなくなってしまったのですか? どうして、その苦しみを私に言ってくれないのですか? どうして、本当のことを言ってくれないのですか? どうして、また怪我をしているのですか? また、何も言わずに去ってしまうのですか?)
きっと答えてはくれないだろう。
きっと本当のことは言ってくれないだろう。
いくらこっちが懇願しても、彼はその口を決して開かない。まるで何かを拒むように。まるで自分にか関わって欲しくないかのように。何かの決意のもと、彼はこの場にいる気がする。
「……っ」
その体に触れようと伸びていた手を止め、ゆっくりと自分のもとに戻す。
そして、その場からゆっくりと立ち上がり、詩音の元から去っていく。
きっと自分がいては休めるものも休めないだろう。まだここにいたい気持ちを抑えて、海未は部屋から出ていくことを決めた。
──それなのに、体は一向に立ち上がらない。まるで縫い付けられているかのように、体が動こうとしない。
また勝手にいなくならないのか不安なのだ。前回、初めて詩音と出会った時も、今回と同じように大きな怪我を負っていた。そして今回と同じように、部屋で休み、海未が少し目を話した好きに消えていた。
あの時のショックは今でも忘れられないほど、海未の心に深く刻み込まれている。
だから、今回も、部屋から出て行ったすきにいなくならないのか不安なのだ。まだ話したいのに、まだ一緒にいたいのに、忽然と姿を消してしまわないか。不安でたまらない。
「──今回は、勝手にいなくなりませんから」
そんな時、彼の声が聞こえてきた。
ハッとなって彼の背中を見つめる。
「……前は、勝手にいなくなってすみません。理由があったにしろ、何も告げなかったのは俺が完全に悪いです。だから、その……」
「……そうです。勝手にいなくなったあなたには罰を与えます。ですから、まずはしっかり休んでくださいね」
「……はい」
彼の返事を聞き、海未の体は安心したのかすんなりと動かすことができた。
部屋から去り、ひとまずは私服に着替えよう。そう思うのだった。
☆★☆★☆★
気づいた時、詩音は重たいまぶたを持ち上げるという行動をしていた。
思考に一瞬の空白。そして事態を把握した時、真っ先に思い浮かんだのは焦りではなく呆れだった。まさか本当に眠ってしまうとは。
言い換えれば、それほど体が疲弊していたということ。思い返せばここ最近は連戦続きだった。もしかしたら、それも関係しているのかもしれない。
上体を起こしてみる。体に痛みはない。鈍い、重いという感覚もない。傷口も塞がっている。
もしかして、と思い畳まれているパーカーのポケットからカードホルダーを取り出し、そこにあるカードの枚数を確認する。
枚数は詩音が記憶しているのと同じままだった。消費はされていない。
「……今、何時だ?」
詩音がいる部屋に時計はなく、また詩音も時間がわかるものを身につけていない。
とはいえ、部屋に差し込む日の光から日中であることは確認できる。具体的な時間を知りたいのだが、どうするべきか。
ひとまず、これ以上寝ている理由がないので起き上がることにした。デネブからの連絡もないことを考えれば、今のところは向こうで何も起きていないと考えられる。
体が動くならば、次は行動に移すこと。
と考えたところで、
(そういえば、今度は勝手にいなくならないって言ったばっかだった……)
普通に、とても自然にこの家から出ていこうと考えていた。最後には海未の記憶から消えるのだから結果は変わらないとしても、ああ言ってしまった手前、一言告げてから出ていくべきだろう。
布団をたたみ終えた詩音は、早速海未を探すため部屋から出ようとして、
「あ」
「あ」
障子を開けたら海未の姿がそこにあった。
「…………」
「…………」
「…………」
「……おはよう、ございます」
「……今、どこにいこうとしていたんですか?」
ジト目でこちらを見てくる海未。
おそらく誤解をしているであろう海未を説得するべく、思考を回転させる詩音。
「待ってください。俺は──」
──あなたに会おうと思っていたんです、と言いかけて止めた。
意味は間違っていない。言いたいことも言葉になっている。
しかし、どうしても自分の知っている『園田海未』の姿が重なってしまい、その言葉を言うのが憚れる。
何か、他にいい言葉は出てこないのか、と考える詩音。
すると、ぐ〜と言ったなんとも間抜けな音が詩音のお腹から聞こえてきた。
「…………」
「…………」
先ほどとは別の意味で静寂が訪れる。
海未に至っては先ほどまでこちらを睨むような視線だったのに、驚きで目を見開いている。それからゆっくりと微笑み、
「お腹、空いたんですね」
「……はい」
もう、この理由に乗っかるしか手はないと思う詩音だった。
区切りが良かったのでここで一旦閉じます。