余談ですが、仮面ライダードライブの小説とVシネマが出ましたね。自分はまだ鎧武の小説のほうも読んでいないので、早く両作品ともに見たいです。
──音ノ木坂学院・屋上。
本日のμ'sの練習は午後からのはじまりとなっており、先ほどまで公園で真姫の生徒手帳を探していた一年生組も、いまは練習に励んでいる。なにせ彼女たちは第二回『ラブライブ!』の優勝を目指しているのだ。そのためには、同じ東京区に存在するスクールアイドルのトップ、『A-RISE』を倒さなければならない。スクールアイドルのトップに君臨する彼女たちを越え、『ラブライブ!』本戦へと駒を進めるためには、生半可な気持ちでは到底成し遂げることなどできない。彼女たちの熱意は凄まじいものだった。
その熱意の表れか、十月の空に少女たちの声が響き渡る。
──のだが、
「真姫! ちょっと遅れてます!」
いま行っている練習は、この前と同じ既存曲でのステップ確認。センターに置くメンバーを変えてみるなどの変化をつけながら練習しているのだが、ひとり前に立ちメンバーのステップを確認していた園田海未から声が飛んだ。
ステップが遅れていると指摘された真姫は、改めて意識を集中させステップを刻む。しかし、しばらくするとまた海未から指摘が飛んだ。
「ちょっと止めて」
絵里がタイミングを見計らい曲を止めるように指示する。海未は足元に置いておいたラジカセに手を伸ばし曲を止めた。
絵里は額から流れる汗を袖で拭うと、苦い顔をしている真姫へと近づく。
「真姫どうしたの? 今日はミスが目立つわよ?」
絵里の言った通り、今日は真姫のミスが目立つ。普段であれば、人一倍こういったことに気を使っている真姫なのだが、今日に限っては違った。その異変は午前中から行動を共にしていた凛と花陽も感じており、ここへ来るまでに電柱にぶつかりそうになったり、石に躓きそうになったり、ストレッチ中でもぼーっとしていることが多い。加えて、先ほどのようにステップミスも多く、明らかに真姫の様子が変だと証明していた。
「ごめんなさい、次は気をつけるわ」
「それ、さっきも言ってたわよ。本当に大丈夫?」
「真姫ちゃん、具合でも悪いの?」
花陽が心配そうな瞳で真姫を見てくる。周りを見てみれば、ほかのメンバーも心配そうな瞳で真姫を見ている。
どうやら、今の自分はかなりひどい状態なのだろう。たしかに、今日はイマイチ集中できていない、と真姫自身も感じていた。しかし、だからと言ってこれ以上みんなの足を引っ張るわけにはいかない。自分たちが目指す場所はとても高いところにあるのだから、と考え改めて気持ちを切り替える。
そして自分は大丈夫だから、と言おうと口を開きかけたとき、真姫より先に口を開いた者がいた。
「凛知ってるよ、真姫ちゃんはねぇ〜、『あの人』のことが気になってるんでしょ?」
星空凛だ。μ'sのメンバーの中でも秀でて運動神経が抜群で、なおかつ体力も一番多い彼女は、涼しい顔をしながら言った。彼女はニヤニヤと笑みを浮かべながら、「どういうこと?」と聞いてきたμ'sのリーダー高坂穂乃果に答える。
「実は凛たち午前中、真姫ちゃんが落とした生徒手帳を探していたんだけど、その時出会ったイケメンさんに、真姫ちゃんは惚れたんだにゃ!!」
真姫を指さし、ドドン! と効果音が付きそうな勢いで宣言する星空凛。凛の衝撃的な発言にメンバーがざわつき始める。
真姫は凛の発言に対し「なっ!? ちょっと──」と抗議の声を上げようとしたが、迫ってきた二つの影によって遮られてしまった。
急接近してきた二つの影に、真姫は一歩足を引く。
「本当なの真姫ちゃん!?」
「真姫ぃ!! アンタ、アイドルは恋愛禁止だってこと知らないの!?」
凛の爆弾発言により、ものすごい形相で詰め寄って来たのは花陽と三年生である矢澤にこの二人だ。この二人はメンバー内でも、というか日常においても『アイドル』に並みならぬ情熱をささげており、アイドルの禁断領域である『恋愛』に真姫が片足を突っ込んだことに黙っていられなかったのだろう。
特ににこに至ってはグイッと真姫に顔を近づけ、超至近距離で真姫の説教を始める。
「いい? 真姫。アイドルってのはね──―」
「ちょっと待って! だ、誰がアイツなんかに惚れるのよ!! 冗談じゃないわ!!」
にこの体を押し返しながら叫ぶ真姫。その顔は真っ赤に染まっており、それが羞恥から来るものなのか怒りから来るものなのか、真意は分からないが花の女子高生でありこの手の話が大好きな彼女たちにとって、そんなことはどうでも良かった。
いま重要なのは凛の口から出た青年に対し、真姫が
「『アイツ』なんて呼んじゃって、真姫ちゃんまさか本当に……!?」
「違うわよっ!!」
凛と並びニヤニヤとした視線を向けてくる穂乃果に向け一喝する真姫。
その隣にはこういった話を一番面白おかしくしそうな人物、東條希がいた。
「それで凛ちゃん、真姫ちゃんが惚れた人はどんな人なん?」
「だから惚れてないわよっ!!」
「うーん、それがよくわからないんだにゃ。最初は髪が長くて緑色のメッシュが入ってたんだけど、途中からそれがなくなって雰囲気も変わったし」
希の言葉に真姫が反論を飛ばすが、二人は華麗にスルーして話を進める。
凛はうーんと首をひねりながらも説明を続ける。
「目はつり目で髪は赤っぽかったにゃ。みどり色のメッシュが入っていた時はすごく優しそうだったけど、メッシュが取れたら怖そうな雰囲気になったし、うーん、なんだかにゃ〜。あのツンツンとした雰囲気、凛どこかで感じたことがあるんだけど……どこだっけ?」
「どういこと?」
「凛もよくわからないんだにゃ。凛とかよちんが見たのはこうやって」
そう言って凛は穂乃果の手を取り、自分の両手で上下から優しく包み込むように握る。
そして──―、
「君のことは俺たちが必ず守る。だから、安心するんだ」
と、あの時自分が見た光景を再現した。しかもわざわざ声のトーンを変えているあたり、この少女本気である。
穂乃果の方はまんざらでもないのか、ほほおー、と唸ったあと真姫の方を見る。
「これで落ちるって、真姫ちゃん以外とチョロいの?」
「そんなこと言ったらあかんよ。相手は曰くイケメンさんや、ならコロッと落ちてもおかしくない」
穂乃果と凛のやり取りを隣で見ていた希はうんうん、と頷きながら言う。
「そういうものなのかしら?」
「そういうもんや、えりちもやられたらわかる。それに真姫ちゃんって以外とコロッと行きそうなタイプやしな」
「ちょっとそれどういう意味!?」
「真姫ィ!!」
ガシッ、と真姫の名を叫びながら肩を掴んできたのは──海未だ。
実家が日舞であるためか、こういった恋愛話などにめっぽう弱い海未は先ほどの穂乃果と凛のやり取りにさえダメージを受けたのか、顔を赤くして、若干プルプルと震えながらも真姫の眼を見据えて叫ぶ。
「騙されてはいけません! それは罠です!」
「……はい?」
海未の発言に先ほどまで沸騰していた感覚が一気に冷めていくのが自分でもわかった。というか、どうやったら先ほどの流れから『罠』といった発想に至るのだろうか? 真姫は逆に冷えた頭で海未の言葉の続きを待った。
「海未ちゃん、罠ってどういう?」
「わからないのですか穂乃果!? そうやって女性に甘い言葉をかけてくる殿方は十中八九悪い方です! この前お母さまが視ていたドラマがまさにそうでした。髪を染めた若い殿方が『君を守ってあげる』、『僕には君しか見えないんだ』などと女性の手を取り甘い言葉を囁いておきながら、結局その女性をないがしろにしたんです。お母さまも言ってました。『あのような軽い殿方には気をつけなさい』と。真姫の手を取った殿方も髪を染めていたのでしょう!? 罠に決まっています! そもそもいきなり女性の手を取るなんて、は、破廉恥です!!」
『…………………………………………………………………………………………………………………………………………………………』
その場に居る全員が沈黙した。
え? え? と全員が沈黙した理由がわからない海未はうろたえている。
何となく、園田海未という少女の将来が心配になった。
そんな中、彼女の親友であることりはポツリと、
「でも私、二ヶ月くらい前に海未ちゃんが髪染めた若い男の人に手を引っ張られているのを見たよ?」
「…………」
今度は海未が固まった。
「しかも海未ちゃん、その人を家に泊めたって……」
「──ことり!! そんなことはありません絶対にありませんあなたの勘違いです見間違いです私は『あの人』とは関係ありません泊めた覚えもありませんケガを治した覚えもありませんご飯を作った覚えもありませんなにもありません!!」
『…………』
もはや、いろいろと手遅れだった。早口に一息でことりのセリフに被せるように言った海未であったが、発言内容がすべてを明かしていた。
顔を真っ赤にして肩でぜぇ、ぜぇ、と息をする海未全員から呆れの眼差しが向けられる。
「あんた、それ全部言ったようなものよ」
「まさか、海未ちゃんが一番進んでたなんて、ウチちょっとショック」
「ハラショー」
「まさか海未ちゃんが……」
「まさか海未ちゃんがそこまで進んでいたとは──ってかよちんどうしたにゃ!? 急に倒れないでほしいにゃ!!」
「どういうことなのことりちゃん!! 私何も知らない! 何も聞いてない! 私聞いてない! どういうこと? ねぇ! どういうこと!?」
「落ち着いて穂乃果ちゃん」
「…………」
すでに空間が混沌と化していた。あるものは涙し──まあ十中八九ウソであるが──、またあるものは倒れ、あるものはその介護。あるものは幼馴染がまさかそんな体験をしているとは露知らず、真意を知るためにもう一人の幼馴染に詰め寄っていた。
一応元々の事の発端であろう真姫は、この現状にどう終止符を打てばいいのかわからずあたふたしている海未を見た後、長いため息を吐き自分の決まり文句を言うのだった。
「はあ、もう意味わかんない」
☆★☆★☆★
結局、あの後の練習はお開きとなった。
原因は真姫ではなく海未。どうやら、よほど思い出したくないことなのか──といっても、頬が緩む当たり、悪い思い出ではなさそうだ──、時々顔を真っ赤にして奇声を上げたところを見ると、一体何があったんだと聞いてみたくなってしまうが彼女の瞳がそれを許さなかった。
『絶対に聞かないでください』と瞳がマジに語っていたのだ。
これにより練習は終了。解散となる予定だったのだが、恐れをしない
曰くサボった分の仕事にそろそろ手を付けないとマズイとのことらしく、ことりも二人の後を追った。
一応二年生が就学旅行中に元生徒会のメンバーが少し手伝ったらしいのだが、それでも秋行事に向けての仕事が増えてきたらしい。来月行われる部活予算の日程も決めないといけないらしく、そう考えると絵里と希は生徒会長と副会長と言う立場でありながらよくスクールアイドル、さらにいうなれば勉強の方も両立できたものだ。
「……っで、なんでにこちゃんたちが付いて来るのよ」
そんなことを考えていると、普段の帰宅メンバーよりの明らかに人の気配が多いことに気付いた真姫は、ジト目で後ろに振り返る。そこには昨日と同じように一緒に帰る凛と花陽に加えて、三年生メンバーがそこにいた。
「カードが告げてるんよ、このまま真姫ちゃんに付いて行くと、すごいものが見れるって」
そう言って取り出したタロットカードを唇に当て微笑む希。
「別に私は興味があってきたわけじゃないのよ。希に無理やり」
「にこはこの先のスーパーに用事があるだけよ。ポイントが今日だけ十倍なのを思い出して、帰りに寄るって決めていたの」
「とか言っちゃって、本当は二人とも気になってるんやろ?」
『…………』
「沈黙は是也、やで、二人とも」
ぷい、と二人は希の視線から逃れるように顔を反らす。
どうやら二人とも女子高生である以上、この手の話に興味があるらしい。視線をそらした二人を見ながら笑う希も、カードというのはあくまで建前で本当は自分の意思で来たのではないか?
まあ、確認することはできないので真姫はため息を吐きつつ歩き始めた。そもそも、今朝会った青年が真姫たちの前に再び現れる確率などたかが知れている。会う会わないの確率で言えば、圧倒的に『会わない』の方の確率が高かった。
しかし、こういった時は悪い方向へと予感が当たるのが相場というものだ。何せ、こういった『運』が絡むものにはめっぽう強い東條希がいるのだ。何か起きるのではないか? という予感が真姫の脳裏を横切った。
別に会ったら会ったで構わない。それならそれで今朝から感じるこの『違和感』のの正体もわかるはずだ。頭の中を駆け巡る『詩音』と言う単語の意味。
いつもの帰宅路だというのに、ほんの少しだけ緊張する真姫だった。
しばらく無言が続いたが、やがてにこが口を開いた。
「それで? 真姫が惚れたってのは、どういう奴なの?」
だから惚れてないってば!! と吠える真姫を尻目に、凛は先ほどと同じ説明を繰り返す。
「えっと、身長は一七〇以上はあったにゃ。髪は赤みがかってて、目はツリ目で…………、あっ! そうそうちょうど
え? と全員が凛の指さした方向に視線を向ける。
そこには、エコバックを片手にスキップをし、鼻歌を歌いながら真姫たちの目の前を通る青年の姿があった。もちろん、赤みがかったクセ毛に緑色のメッシュ、スキップに合わせて長い髪が上下に飛び跳ねており、着ている服も今朝真姫たちが見たものであった。
間違いない、あの青年だ。
どういう運命が働いたのか、一体何の因果が働いたのか、あの青年がいま、自分の目の前にいる。もう真姫は、何もかも放棄してこう呟いた。
「ウソでしょ……」
再び詩音とした出会った真姫達。果たして彼女の感じている違和感とは……?
次回
Episode05に続きます。