今回は序章というか、プロローグの終わりみたいなもので、たぶん次回辺りからいろいろ判明していくと思われます。
──悲鳴を上げたのは、マンティスイマジンだった。
体中から火花を上げ大きくのけぞるマンティスイマジン。その拍子にゼロガッシャーがその手から落ち、背中の重みが消え、動けるようになったゼロノスは落下するゼロガッシャーを掴むと転がって距離を取る。
「しーおーんー!!」
陽気な声が聞こえてきた。ゼロノスが声の方を向いてみれば、ゼロライナーのデッキからデネブがこちらに手を振っていた。先ほどの援護射撃はデネブの両手から放たれたものだったらしい。
その隣にはこちらを心配そうに見る六人の少女たちがいる。
「なに倒れてんのよ! しっかりしなさいよ!!」
ツインテールの少女が叫ぶ。
「頑張ってください!」
「そうにゃ頑張るにゃ!! こんなところで負けちゃダメにゃ!!」
ショートヘア―の少女二人が叫ぶ。
「がんばって! 詩音くーん!!」
「そうよ! こんなところで負けないで!! 立ちなさい!!」
金髪少女とその親友が叫ぶ。
そして──、
ただ一人、胸の前で拳を握り、五人の少女以上に心配そうな瞳でこちらを見てくる少女がいた。その目は戦いで傷つく詩音の姿をこれ以上見たくない、もう戦わないでとも語っていた。
しかし少女もわかっているのだろう、詩音が戦わなければならないということを。戦わなければ、詩音の運命が守れないということを。
戦わなければ、何も守れないということを。
だからこそ彼女は一度瞳を閉じ、ぎゅっと拳を握ると、何かを呟いた。
「…………」
詩音には少女の呟きがわかった。
彼女の口は確かにこう動いていた。
──死なないで、と。
「………………はぁ、最悪。見たくもんないもの見ちまって、かっこ悪いところ見せて、はーあ」
長く深いため息を吐く詩音。
腕からは力が抜けておりだらりと下がっていた。肩からも力が抜けており完全に全身が脱力状態だ。その姿はあまりにも無防備で、隙だらけだった。それをマンティスイマジンが逃すはずがない。
デネブの援護射撃のダメージから回復したマンティスイマジンは、隙だらけのゼロノスの背中目掛けて駆け出す。鎌を模した二刀剣を構えゼロノスに迫る中、詩音はポツリと言った。
「ああ、言い忘れてたな」
そう言って、ゼロノスは振り返りゼロガッシャーを一閃。迫っていたマンティスイマジンの腹部を斬り、火花が散った。肩の力が抜け全身が脱力状態だったのが幸いしたのか、自然体から放たれた一撃は素早く、ゼロノス本来の機動力が生かされていた。自ら刃に突っ込む形となってしまい通常以上のダメージを受け、悲鳴を上げ怯むマンティスイマジン。
ゼロノスは攻撃の手を止めない。一撃、二撃、三撃とゼロガッシャーを振るっていく。先ほどのお返しと言わんばかりの猛攻に、さすがのマンティスイマジンも地に倒れ伏す。
「このッ!」
追撃を避けるために口から毒を吐き牽制。ゼロノスはアーマーから火花を散らし、その隙をついてマンティスイマジンは上空へと飛翔する。
逃げるのか? と思った詩音だったが、マンティスイマジンは逃げずにその場に浮遊していた。そして自身の得意攻撃である毒を吐いた。しかし先ほどの毒攻撃とは違い、今回の毒は霧のように広がって行き、空を黒く染めていった。毒の霧が空を、そしてゼロノスの周辺を包み込み、只ならぬ雰囲気が漂っていた。詩音だけでなくゼロライナーに乗る少女たちも、広がって行く疑似的な夜に只ならぬ雰囲気を感じ、互いに体を寄せ合っていた。
「……詩音」
真姫は無意識のうちに呟いた。
そして──、周囲が疑似的な夜となった。
その夜はマンティスイマジンの戦闘力をさらに強化するためのモノ。明らかに先ほどまでとは、マンティスイマジンから感じる殺気の気配が変わっていた。より禍々しく、より鋭利となった殺気はアーマーに守られているはずの詩音の体に深く突き刺さってくる。
明らかにこの一撃で決める気だ。その雰囲気を仮面の下で感じ取った詩音はゆっくりと左と手持ち上げ、ベルト上部のスイッチを押す。
『Full Charge』
フリーエネルギーがチャージされたゼロノスカードをゼロガッシャーに差し込む。刀身が赤色に輝き出しゼロノスは腰を落として構える。
マンティスも二刀の鎌を構え、急降下する勢いを利用し確実にゼロノスを仕留める態勢に入る。
デネブと少女達が見守る中、両者の最後の衝突が始まった。
マンティスイマジンが急降下するのとゼロノスが跳躍するのはほぼ同時だった。急降下の勢いを利用している分、スピードはマンティスイマジンの方が上手だった。明らかに技の威力は向こうが上のはずだ。仮に剣を交えれば負けるのはゼロノスの方だろう。だが、飛び上がってしまった以上交差は一瞬、その隙に最善の判断をしなければならない。
詩音は仮面の下で視線を細くし、ゼロガッシャーを振るった。
衝突する緑と赤銅の光。
マンティスイマジンに遅れてゼロノスも地に着地した。
両者は武器を振りぬいた状態で止まっていた。
静寂があたりを包み込む。
少女達とデネブは、息を一つ飲んだ。
そして──、
「──―最後に言っておく、俺はかなり強い」
瞬間、短い悲鳴の後に赤い『A』マークが刻まれたマンティスイマジンは爆散した。
煙が空へと上がって行く中短く息を吐くゼロノス。
少女達の方も、だんだんとゼロノスが勝利したことを実感していき、やがて──。
『やったあぁああああぁぁぁぁぁぁああああああああ!!!』
少女達から歓喜の声が上がった。
互いに抱き合い、ハイタッチを交わすなどをしてゼロノスの勝利を称賛していた。
「見事な逆転劇やったで! 詩音くーん!!」
「お見事にゃ!!」
「やったわね! それでこそチビたちが憧れるヒーローだわ!!」
少女達から称賛の声を受ける詩音は、その仮面の下で小さく笑った。
一応、手を上げてその歓声に答えておく。
詩音の耳に『よかった』と小さな声が風に乗って聞こえてきた。
「──―、デネブ」
だが、詩音には勝利の余韻に浸っている時間などない。
詩音はデネブの名を小さく呼んだ。それだけでデネブは理解したのか、詩音に向かって頷くと少女達とゼロライナー内へと下げた。
「……」
少女達がゼロライナー内に下がって行くのを見届け、ゼロライナーが去って行くのを確認した詩音はベルトのカードに手を添える。
そして、
ゆっくりと、カードを取り出した。
☆★☆★☆★
「ただいまー」
「お帰りなさいです、お姉さま!」
「お帰りなさい!」
「……おかえりー」
矢澤にこが帰宅すると妹である矢澤こころ、ここあ、そして弟の虎太郎がにこの帰りを出迎えた。
にこは靴を脱ぐと早足に台所に向かう。
「遅くなってごめんねー、今すぐ用意するから待ってて」
そう言ってにこはカバンを下ろし、先ほど行きつけのスーパーで買った食材をレジ袋から取り出していくと、
「なにこれ?」
思わず声が出た。スーパーなどで無料でもらえる小さなビニール袋、その中に
(これ、買った覚え、ないんだけど……)
財布からレシートを取り出し袋の中とレシートに書かれている商品を照らし合わせても、このキャンディーを買った記録はなかった。
んー? と唸りながら見てみるとバーコードらしきものがないことに気が付き、これは売り物ではないという判断に至った。
となると、これはキャンペーンか何か無料で貰ったものだろうか? たしかにもうすぐでハロウィンだということもあって、スーパーやコンビニ、ショッピングモールなど街全体がハロウィンに向けての商品展開をしており、その関係でこういったお菓子を配っていてもおかしくはないだろう。
なによりキャンディーを包んでいる袋に書かれているキャラクターが、いかにもハロウィンという雰囲気を醸し出していた。
それならば好都合だ。キャンディーとなればハロウィンのお菓子としては十分な活躍をしてくれるだろう。毎年家の経済状況を考えてあまりお菓子を買って上げれていないのだが、今年はこれのおかげでチビたちも満足してくれるだろう。数はそれなりにある。後はハロウィンまで隠し通せるか否か。
(それにしても、一体どこで貰ったのよ、コレ)
ただ、このキャンディーをどこで手に入れたのかは、思い出せなかった。
☆★☆★☆★
その日、家に帰宅した真姫は真っ先に自室へと入って行った。「お帰り」と言ってくる母親に「ただいま」と素っ気なく返してしまったが、それを気にするほどの余裕が今の真姫にはなかった。
ガチャン、と扉の閉まる音が部屋に響く。カバンを下ろすと、真姫はベットにその身を預けた。真姫の体がベットに沈んでいく。
(なんで……)
真姫は天井を見ながら考える。
脳裏には先ほどまで繰り広げられていた怪人と赤銅の戦士の戦いが、
(なんで、──
──―今まで
夕日の公園を舞台に戦う、怪人と赤銅の戦士。違いがあるとすれば怪人の容姿。今回の怪人はカマキリのようだったが、前回はモグラのような怪人だった。
──―いや、重要なのはそこではない。
いや、人間は確かに嫌な記憶や思い出をすぐ忘れるものだが、翌日という短いスパンで忘れるわけではない。今だって自分の命が狙われたことをはっきりと覚えているのだ、怪人と赤銅の戦士の戦いも。
それに人間は、その記憶にゆかりのある場所を訪れると自然と思い出すこともある。しかし真姫は午前中にあの公園を訪れているのに怪人と赤銅の戦士を思い出さなかった。いくら生徒手帳を探していたとはいえ、あれほど衝撃的な光景が広がっていた公園で思い出さないはずがない。
それに不可解なのはもう一つある。
ゼロノスの戦いに決着がついた後、真姫達はスーパーの前に下ろされた。他のメンバーは気が付かなかったのか、それともあんな衝撃的な光景を見せられ心身共に疲れたのか早足に帰って行ってしまったが、真姫には異様な光景が広がっていることに気が付いた。
いや、
そこには、
(なんで? あんなことがあったのに……どうして? 誰も警察に電話しなかったの?)
普通なら警察などがいるはずだ。そもそも怪人が暴れる前にナイフを所持して人を刺そうとした輩がいるのだ。パトカーや警察がいるはずなのに、その姿はどこにもなかった。
(もしかして、みんな私みたいに、一時的に忘れてる?)
おそらくそれが一番ありえる可能性だろう。
昨日の戦闘も真姫は忘れていた。しかし今思い出したとなると、何かしらの影響で一時的に忘れているだけなのか?
もしそうならば、一体何の影響が働いたのだ?
いや、考える必要はないだろう。
おそらくすべての答えはあの青年が知っているはずだ。
大丈夫、今回は覚えている。
「詩音……」
真姫はその青年の名を呟いた。
☆★☆★☆★
翌日。真姫は自分でも驚くほどにすっきりと起床した。昨日あんなことがあったというのにと考えるが、やはりやらなければならないことが決まっているとなると自然と早くに目覚めるものだ。
本日μ’sの練習はお休み。どうやらハロウィンに向けてのイベントにスクールアイドルの出番があるらしく、そのイベント主催者に呼ばれたらしいのだ。リーダーである高坂穂乃果とメンバー内でこういったことに適していると思われる絢瀬絵里、音ノ木坂学院の生徒会長コンビが秋葉原に行ってしまったため本日はお休みとなった。
しかしこれは好都合。詩音と会いたい真姫ではあるが、彼がいつどこで何をやっているのかは不明なのだ。昨日みたいに街を歩いていれば会える、みたいな偶然が二度も起これば嬉しいのだが、そう簡単にはいかない。最悪今日一日使っても見つからないことがあるかもしれない。
しかしそれでも、見つけて問わねばならないことがたくさんある。
真姫は長くなることを覚悟したうえで家を出た。
詩音と出会ったのは一昨日の公園と昨日の街の中の二回だけ。明らかに手元にある情報が少ない故に、まずはその周辺を探すしかないだろう。
公園かスーパー周辺か、あくまでこの二択しかないがこの周辺にいるとは限らない。あくまで彼の生活上そこを通っただけなのかもしれない。
と、あれこれ考えてみるが結局どうすればいいのかはわからない。ここはあえて昨日と同じ場所での遭遇、という奇跡を信じて行ってみるのも手だろう。それにあれだ、こういった場合昨日と同じ場所で会うという一種のジレンマみたいなものがあるはずだ。昨日もそれに近い形でメンバーがいる中詩音と遭遇した。ならば、会えるはずだ。
…………などという淡い期待の中真姫はスーパーの方へと足を運ぶと、
「……うそ、でしょ」
「…………」
ばったりと、本当に何かの因果でも働いているのではないかと疑いたくなるレベルで、詩音と再会した真姫だった。
…………本当に何か働いてるの?
遂に三度目の邂逅を果たした真姫と詩音。
一体自分たちの身に何が起きているのか? なぜ怪人が暴れるのか?
詩音を問い詰める真姫。
語られる敵の目的、詩音の役目。
次回より新章開幕!!
みたいな展開になればいいなー。