ゼロの名の戦士―その未来を守るために―   作:水卵

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Episode08:新章


二週間ぶりの更新です。
サブタイトルに「新章」と書いていますが、ぶっちゃけ前回のタイトルの方があってる感じがしますね……。
でも内容的には次の段階に行ったので「新章」と言っても間違いはない、はずです。




Episode08:NEW CHAPTER

 三度目の再会を果たした西木野真姫と詩音。

 まさか三日連続で同じ青年に、しかもこんな簡単に出会えるとは思ってもいなかった真姫は、驚きで目を見開きながら詩音と対面していた。

 真姫が持っている詩音の情報は、その名前と『ゼロノス』という名の赤銅の戦士に変身して怪人と戦う、そうしなければ自分の運命を守れない、という情報だけである。これ以外の情報──例えば住んでいる場所など──は一切持ち合わせていないため、こうして今出会えていることは奇跡といえるだろう。

 しかし、詩音と出会えたというのに真姫の心には何か違和感のようなものが残っていた。今まで詩音や怪人に対してのとは違う、新たな違和感だ。それが一体何なのかはわからない。探ろうにしても、それを探ってはいけない気がしたのだ。

 まあとにかく、こうして再会できたことには素直に喜んでおこう、と真姫は思った。何せ聞きたいことが多すぎるのだ、このチャンスを逃すわけにはいかない。

 意を決して言葉を発しようとしたところで、詩音が先に言葉を発してきた。

 

「……どういうつもりだ?」

 

「え?」

 

 眉間に皺を寄せ、こちらを睨みつけている詩音の声音には怒りが込められていた。なぜかは分からないが、詩音の顔付きは昨日ナイフを持った男に向けられていた表情と同じであり、明確な『怒り』と『殺意』が込められている。

 詩音の表情を見た真姫はその『怒り』と『殺意』に脅えてしまい、一歩後退る。

 詩音は後退る真姫を追うように一歩前に出る。

 

「どういうつもりだ、と聞いてる。答えろ」

 

「な、なにを、言ってるの……?」

 

 詩音の威圧に気圧され声が震える。

 真姫はなぜ自分にそんな感情が向けられているのかがわからない。詩音と出会ったのはこれで三回目、思い返す限りでは詩音にこのような感情を向けられる理由が見当たらない。公園で出会った時はイライラとした感情を向けられたが、今回の詩音の表情はその時とは明らかに違った。

 詩音の視線にはまるで戦闘中かのような威圧が感じられ、真姫の体を……。

 ──―いや。詩音の視線を追った真姫はそこで違和感と感じ取った。

 一度冷静になって真姫は詩音の視線を追う。確かに詩音の視線には『殺意』と『怒り』が込められている。

 しかし、

 

(この人、()()()()()()()?)

 

 詩音の視界に()()()()()()()()()()()

 いや、きっと視界の端にはいるのだろうが、真姫を()()()()()()。その視線が捉えているのは真姫とは別の、おそらく感じる通りであれば真姫の左後ろにいる誰かに向けられている。

 ──いったい誰だ? 

 ──誰に視線を向けている? 

 気になった真姫は振り返ろうと首を動かそうとする。

 しかし、首は動かなかった。いや、正確には()()()()()()()。真姫の本能が()()()()()()()()()()と告げている。強く、頑固たる忠告が真姫の脳をガツガツと叩いていた。頭の中に警報機でもあるかのように、鳴り響く警告音が真姫の首を止めていたのだ。

 ──―振り向くな、振り返ってはいけない。

 警告が、脳内に響く。

 何なのだ、一体自分の後ろに何があるというのだ? 

 背後には確実に巨大な何かがいる、そう考えざるを得ないほどの『なにか』が真姫の背後にいるのは確かだった。

 

「──待てっ!!」

 

 思考の海に溺れている真姫の意識は、詩音の一言によって引き上げられた。

 駆け出した詩音は真姫の横をすり抜け背後にいるであろう誰かを追う。そこで真姫の固定されていた首も動くようになり、振り返る。

 先ほどまで動かなかったことも気になるが、直感的に真姫は詩音を追った。ここにきて見失ってしまっては本末転倒だ、急いで追わなければ、と構えたが詩音はすぐ後ろにいた。どうやら相手を見失ってしまったらしく、上の方を見上げ睨みつけていた。

 

「くそっ」

 

 舌打ちと共に一言。

 そして真姫の方へと振り返ると、

 

「お前、どういうつもりだ」

 

「え? 一体何……」

 

「なにって……。

 ああ、そうか。視界から外れると忘れるんだったな。くそ」

 

 真姫の反応に心当たりがあるのか、自己完結した詩音は舌打ちをするとその場を去ろうとする。

 自己完結する詩音に唖然とした真姫だったが、ここで彼が去ってしまえば自分の目的を達成できないことを思い出し、慌てて手を伸ばす。

 

「待って!」

 

「……なんだよ」

 

「聞きたいことがあるの」

 

 パーカーの端を掴まれ、引き止められた詩音は不機嫌な顔で真姫に振り返る。

 相変わらずつり上がった瞳が不機嫌そうに見下ろしてくる中、真姫は負けずと同じツリ目である瞳で詩音を見返す。

 

「教えて、どうして私はあなたと出会ったことを忘れていたの? 

 それだけじゃない。昨日あなたが怪人を倒した後、街は何事もなかったかのようになっていた。普通怪人が、うんうん、それ以前に私達はナイフを持った男に襲われたのよ、警察がいてもおかしくない。それなのに誰も呼ばなかった。

 どうして? まるでみんな忘れているみたい──」

 

「知るか」

 

 真姫の言葉は、パーカーを掴んでいた腕が弾かれるのと同時に詩音の言葉によって遮られた。

 詩音はパーカーを整えると、真姫を一瞥してから歩き出す。もちろんその場から去るという意味で。

 まだ答えを聞いていない真姫は去ろうとする詩音を睨み、今度は肩を掴んで止める。

 

「待ちなさい、まだ終わって──」

 

「知らねぇよ。どうせ事が終わればみんな忘れる。()()()()()()()()()な。お前もそうだ。結局最後にはすべて忘れて、なかったことになる。

 なら、説明するだけ無駄だろ」

 

 吐き捨てるように詩音は言う。

 その言葉にはどこか寂しさや儚さが込められており、真姫は追及しようとしたが言葉が引っ込んでしまった。

 彼の背後に一体何があるのか真姫にはわからない。それでも先ほど彼の言った言葉からは詩音がそれ相応の重たい何かを抱えていることが感じ取れた。

 詩音は真姫の手が緩んだことを確認すると、顔を下に向けている真姫を一度見てから歩き出す。

 真姫は去って行こうとする詩音の気配を感じ取り、顔を上げて彼の背中を見る。その背中はだんだんと遠ざかって行く。

 ──ことが終わればみんな忘れる。

 詩音の言葉が再び脳内で再生される。もし彼が言った通り、彼の言う『こと』が終われば真姫はすべて忘れてしまうのかもしれない。いや、完全に忘れるのだろう。

 でも、だからと言ってこのまま引き下がれるわけでもない。

 それに詩音の言ったことの意味を別の見方で見れば、『ことが終わるまでは覚えている』ということになる。

 確信はない、真姫はその『こと』が一体何なのかはわからない。

 だが確実に『こと』というものに自分が関わっていることが、真姫にはわかる。

 忘れていた記憶を取り戻した今だからこそ、思い返してみれば怪人は二回も自分を狙ってきた。二回狙われた共通点を上げるならば花陽も当てはまるのだが、それならば昨日真っ先に花陽が狙われるはずだ。だが、実際先に狙われたのは真姫だった。

 それに何より、あの公園で詩音とデネブはこう言っていたはずだ。

 

『大丈夫、君のことは俺達が必ず守る!』

 

『いやだって、これから守らなきゃいけないんだから、挨拶は大切じゃないか』

『必要ねえよ! 第一、俺はコイツを守るなんて決めた覚えはねえ!! 俺は俺のために戦うだけだ!!』

 

 わざわざ真姫の手を取り、『必ず守る』と宣言したのだからこの先も真姫は狙われるのだろう。となれば詩音の言う『こと』とは自分に関わっているということになる。

 

 

 

 

 ──―自分が関わっていることを最後には忘れるとはいえ、片付くまで放置されるのは嫌だった。

 

 

 

 

 だからこそ真姫は詩音の後を追った。

 例え最後には忘れようと、ことが終わるまではきっちりと覚えているために。

 

 

 

 

 ♢ ♢ ♢

 

 

 

 

「……」

 

「……」

 

 街の中を歩く二人の影があった。

 いや、正確には歩いているというより真姫の方が詩音の後を一方的に付いて来ていると言った方が正しいだろう。尾行、とは言えない。真姫は物陰に隠れるといった素振りは見せずズカズカと詩音の後を追ってた。

 もちろんそんなことでは詩音にすぐばれる。

 

(バカだろ……)

 

 詩音は隠れる様子を見せない真姫の尾行に呆れる。普通尾行するならまず相手にバレ無い様に物陰に隠れたり、ある程度の距離を取るのが定石だ。それなのに真姫の尾行はただ後を付いて来るだけ。というより鬼ごっこで鬼を捕まえる為にその背を追っているといった方が正しいだろう。

 実際真姫は尾行をしている、という意識はなく詩音を捕まえる為に後を追っているのだ。その背中を見失わないように、睨みつけるように見ながら詩音の後を追う真姫。その距離はだんだんと縮まって行き、このままいけば詩音は捕まる。

 詩音はそれを察したのか突然ダッシュを始める。脚力を生かして一気に真姫を引き離すつもりなのだろう。真姫も慌てて追いかけるが、その差はだんだんと開いて行った。

 それもそのはず、詩音と真姫は男と女。つまり元の運動神経が違うのだ。よほどのことがない限り、女性がかけっこで男性に追いつくのはまず不可能であるだろう。真姫にはもちろんそれがわかっており、普段から体力づくりの一環で走っているとはいえ悔しかった。

 

「待ちなさいよ!」

 

 だからついつい声が出てしまう。

 

「誰が待つかよ!」

 

 真姫の言葉に言い返す余裕があるのか、時折振り返りながら詩音は走る。

 日曜日だということもあってか街には多くの人が外出しており、中には外国からの観光客の姿もある。人混みがそれなりにある中を詩音は器用に避けて走る。真姫も詩音を見失わない様に後を追うが、詩音とは違い人ごみに突っかかってしましその距離は開いていく。それでも真姫は負けるもんか、と詩音の後を追う。人の肩にぶつかるたびに「ごめんなさい」と一声言ってから、詩音の背中を探す。

 詩音の方は時折こちらを振り返りながら、まるで真姫の様子をうかがっているように見えるそぶりをしながら走る。

 

「待ちなさいってばっ!!」

 

 さすが、普段からスクールアイドルとしての練習で体を鍛えているからなのか、だんだんと人込みを避けるのが上手くなっていた。ここ最近は基礎体力に重点を置いた練習をしていたのも大きかったのだろう、普段ならば息が切れそうになるのだが一切そんな気配はなく、むしろまだ体が軽いくらいだ。

 さすがの詩音も真姫の粘りに驚いたのか、振り返った際に目を見開いたのを真姫は確認した。

 さらに運が真姫に味方したのか、詩音の前方の信号機が点滅をし始めた。信号機が赤になれば詩音は立ち止まるしかない、その隙に捕まえようと考えた真姫だったが、詩音はむしろ逆にスピードを上げて無理やりにでも信号機を渡ろうとしていた。

 

(ウソでしょ!?)

 

 絶対に間に合わない! 

 そう思った矢先──、詩音の体が左横にすっ飛んだ。

 

「……へ?」

 

 ……何というか、明らかにギャグマンガでしか見ないようなすっ飛び具合に、思わず真姫は変な声を出してしまった。全力で真っ直ぐ走っていた青年が、目の前でギャグマンガのように真横にすっ飛ぶ姿は、いろいろと残念としかいようがなかった。

 というか、突然横から人が引っ張ったようにも見えたが、人の影はない。それはつまり──。

 

「いってーなっ! ふざけるなよ、デネブ!!」

 

 横にすっ飛び、腰をさすりながら怒りの声を上げる詩音。どうやらデネブが何かを下らしい。おそらく詩音の中にいるデネブが無理やり体の主導権を握り、危険を冒そうとしていた詩音の体を横に飛ばすことで危機を回避させたのだろう。結果的に詩音の危機は回避されたが、ケガをすることには変わりなかった。

 加えて、真姫も詩音に追いつくことが出来たので詩音には悪いが、真姫にとってはありがたい結果となった。

 

「まったく、何やってるのよ」

 

「……ちっ」

 

「ちょっと、人の顔見るなり舌打ちするってどういうつもり?」

 

「うるせぇよ」

 

 吐き捨てるように言い、パンパンとズボンに着いた砂利を叩き落としながら、

 

「ったく、デネブのヤツ」

 

「あのままだと赤信号を渡ってたわよ」

 

「お前の捕まるよりマシだ」

 

「なによそれ。私の質問に答えるだけでしょ」

 

「嫌だ。言っとくけど、俺は話す気ないからな」

 

「……じゃあ、勝負しましょう」

 

「…………はあ?」

 

 何言ってんだコイツ? と言った眼差してくる詩音の視線に耐えながら、真姫は別の道の先にあるゲームセンターを指さす。 

 真姫の指の先を追い、ゲームセンターの存在に気付いた詩音は、真姫が何を言いたいのかを理解したらしく、しかめっ面になった。

 

「その様子じゃ、私が何を言いたいのか理解したみたいね。そうよっ!」

 

 ビシッ! と今度は詩音の方を指さして、真姫は宣言する。

 

「ゲームセンターで勝負よ! 私が勝ったら洗いざらいはいてもらうわっ!!」

 

 

 





とまあ、こんな感じです。

次回
Episode09に続きます。


























 一人の少年が歩いていた。
 髪は赤茶色に染められており、瞳は相変わらず濁っていた。白いブレザータイプの制服を着た少年は今日も街の中を歩く。
 前から歩いて来るスーツに身を包んだ女性はスマートフォンとにらめっこしており、少年の方に気付いていない。少年は濁った瞳を女性へと向けると、ニヤリと一度笑った。
 そして、少年は女性を視界にとらえているのにも関わらず、ドン、と真正面からぶつかった。女性の方は慌ててスマートフォンから顔を上げて、少年に気が付くと「すいません!」と頭を下げる。
 性格が真面目な方なのだろう。避けなかった少年を一切攻めるような言葉は言わず、深々と頭を下げて謝罪する当たり、女性の人の良さを感じられる。

「ねぇ」

 少年が口を開いた。
 顔を上げた女性は少年の方を見ると、嫌な気配が背中を走った。濁った瞳を向けられ、女性の体が小さく震え出す。
 少年は右手を女性の頬へと持って行き、まるでキスをするかのように顔を近づける。
 女性は抵抗をするそぶりを見せず、ただ小さな恐怖を感じているだけだった。やがて少年の口から、そっと囁くように言葉が発せられた。




「――きみは、ぼくを観測したのかい?」




 女性から答えは発せられなかった。
 というか、少年は最初から答えてくれることを期待していなかったのか、言葉だけを言い終わると女性の視界から外れる。最後に女性の黒髪を撫でることは、忘れなかった。
 女性の方はしばらく呆然としていたが、ハッとなって我に返ると、あたりを見回した後にスマートフォンで時間を確認すると早足に歩き始めた。
 少年の方は相変わらず濁った瞳でつまらなさそうに去って行く女性を見ていると、視界にとある人物を捉え目を見開く。向こうも少年の視線に気付いたらしく、少年との視界が交差する。
 少年の濁っていた瞳に奇麗な光が灯り、笑顔となって駆け出す。
 間違いない、間違えるはずがない。赤くウェーブがかった髪につり上がった瞳。
 少年は笑顔のまま目の前の人物――西木野真姫に抱き着いた。

「ゔぇえ!?」

「やっぱりそうだ! うん、ダメだ! 我慢できないよ!!」
 
 少年はその瞳で真姫を見ながら、

「無理だよ我慢なんてできないよ早く会いたいよ早く一緒に生活したいよ遊園地行きたいし天体観測もいたいし鍋パーティーもやりたいしやりたいことがたくさんあるんだだから早くぼくを見つけてよねえ見つけてってば観測してよ観測してよこれ以上待てないよこれ以上待ってられないよ早く見つけて見つけて見つけて見つけて見つけて見つけて見つけて見つけて見つけて観測してよ観測してよ観測してよ」

 少年は感情を抑えることが出来ないのか早口に言葉を発し続ける。
 真姫の方は少年の方に完全に『恐怖』を感じており、少年に掴まれた手を振りほどくために手を振るう。あっさりと手は解放されたが、少年の方は振りほどかれたことがショックだったのか、しばらく呆然と自分の手を見つめていると、

「なんで? なんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんで」

 真姫は少年から感じる狂気に一歩後退る。
 明らかにおかしかった、狂ってる、少年は壊れた人形のように「なんで」と言い続け、真姫はその場を逃げ出したくなった。
 そこへ、




「―――おい」




 一人の青年の声が届いた。
 聞き覚えのある声に真姫は後ろを振り返り、少年は先ほどまで狂っていた様子から一転、冷めた表情で声の主を見る。




 ―――そこに、明確な『殺意』と『怒り』を込めた視線をでこちらを見る、詩音の姿があった。




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