「いいぞ」
「へ?」
「だから」詩音は少し気怠そうに「ゲームセンターで勝負だろ? わかりやすくていい。さっさと行くぞ」
そう言って詩音は真姫が示したゲームセンターへ向けて歩き始める。
絶対に反対され、その上罵詈雑言を浴びせられると覚悟していた真姫は、すんなりと了承した詩音に驚いていた。彼の性格を考えれば絶対に反対すると思っていたのに、どういうつもりだろうか?
と、考えていたら詩音がこちらに振り返り、「早く来い」と言ってきた。真姫は考えるのを一旦置いといて詩音の後を追った。
先にゲームセンターに入った詩音は、ゲームセンター内を見回していた。
「へー、今まで来てなかったけど、案外こういうところは変わらないんだな」
「何がよ」
「いや、こっちの話だ。それより、何で勝負するんだ? ホッケーか? 音ゲーか? レースゲームか? コインゲーム?」
「そうね」
と言って真姫はゲームセンター内を見回す。
勝負、といっても具体的に何をするのかはまだ決めていなかった。詩音が提案した通り、無難に対戦ゲームであるエアホッケーでもいいが、その場合は男女の差が出てしまう。いくら常日頃から鍛えているとはいえ、男である詩音に力で勝てるとは思っていない。
それに詩音は『ゼロノス』となって怪人と戦っている。ああいうものは、変身者である詩音の基礎能力的な部分も少なからずは影響しているはずだ。となれば詩音の基礎能力は少なからず高いと推測してもいいだろう。
それにエアホッケーには先客がいた。男女一組が和気藹々とエアホッケーをやっているところを見ると、カップルだろうか?
まあ、それはどうでもいい。今は何のゲームにするかを考えよう。
真姫と詩音が同等で戦えるものがあるとすれば、それは……。
「ダンスゲームかレースゲーム。どっちがいいかしら?」
「…………」
詩音は押し黙った。
真姫は自分で提案しておきながら、少しだけ意地悪だなと思っていた。何せこっちはスクールアイドルとして毎日ダンスをしているのだ。そのおかげでダンスゲームはそれなりに得意である。もちろん、それだけが理由ではない。このゲームセンターにはμ’sメンバーで何度か訪れたことがあり、そのときに何度かダンスゲームで遊んだことがある。
当然、ゲーム内にある楽曲の何個かは覚えており、詩音が余程の実力を持っていなければ負けることはまずない。
だから、詩音はきっとレーズゲームを選択するだろう。自らわざわざ相手の得意分野を選択するとは思えない。
だが、これは罠である。
実は真姫、凛にレースゲームでコテンパンに負けて以降必死に練習をこなし、凛には及ばないもののそれなりに得意ゲームである。
つまり、どっちを選んだとしても詩音が勝てる確率は低いのだ。
(さあ、どっちの選ぶのかしら?)
「なら、ダンスゲームだ」
詩音は少し考えるそぶりを見せた後、あっさりと答えた。
「ゔぇえ!?」
まさかダンスゲームを選択してくるとは思っていなかった真姫は驚きの声を上げる。
詩音は「なに驚いてんだ?」と首を傾げながらダンスゲームが置いてある場所へと移動を始める。
ホッケーをやっている男性の方が『もう一回!』と負けたことが悔しいのか再戦をお願いしていた。
その横を通り過ぎて真姫もダンスゲームの場所へと向かう。
「ナイスだ」
「え? 何がナイスなの?」
「いや、こっちの話だ」
「また、それ……」
さっきから自分だけがわかるよなことしか言わない詩音に怪訝な視線を向けるが、意に介することなく無視されてしまう。
まあそれはともかく、真姫と詩音はダンスゲームが置いてある場所へとやってきた。幸いプレイしている人はいないため、今すぐに対戦が可能な状態だった。
「さっさと始めるぞ」
そう言って詩音はパーカーを脱いで腰に巻くと、一人先に硬貨を投入して台の上に立つ。
詩音の後に続いて真姫も硬貨を投入すると台の上に立ち、曲の選択画面へと移る。
「二曲プレイが可能、か……。なら、一曲目はアップに使って二曲目で勝負でいいか?」
「ええ、それでいいわよ」
ルールが決まったところで最初の曲と難易度の設定を行う。一応対決となる二曲目は同じ曲、同じ難易度にしなければならないが、アップのために使う一曲目は合わせなくてもいいだろう。
真姫は自分が踊りやすい曲を選択すると難易度を『NORMAL』に設定する。アップにちょうど適した運動量になるのではないかと考え『NORMAL』にしたのだが、詩音も同じ考えらしく『NORMAL』に設定していた。
そして、曲を始める前に一度後ろへ振り返った。
何かを確認したように見えたが、詩音の視線の先を見る何を確認しているのかわからなかった。
「始めるぞ」
詩音の声に促され正面を向くと、間もなくして曲が始まった。
アップのために選曲した曲、しかも『NORMAL』であるためそれほど難しいわけではない。チラリ、と横目で詩音の調子を確認するぐらいには余裕がある。
その詩音だが、ややつたない足取りではあるが順調にステップを刻んでおり今のところミスは見られない。
ただ、
(なんか、楽しそうね)
初めは慣れないゲームに苦戦してたのか険しい顔つきをしていたが、中盤に差し掛かるころにはその表情には笑顔がった。
本当に心から楽しんでいることを伺えるその表情には、先日まで真姫が見ていた険しい表情とは一転し、非常に子供らしかった。だんだんと体もリズムに乗って行っているらしく、順調で軽やかだった。
(まったく、普段からツンとしてないで、そうしていれば少しは可愛いのに)
と、真姫は思った。
詩音を見ていると、自然と真姫の表情も笑顔になって行った。
しかし、いつまでも詩音の方を気にしているわけにはいかない。アップとはいえミスをしていいわけではない。真姫は改めて画面を見てダンスに集中する。
程なくして一曲目が終わり、互いにSランクを取った。
詩音も前半が危なかったのだが、後半は一つのミスをすることもなく無事にクリアしたようだ。
ただ、
「──あっぶねぇ」
と言う呟きが聞こえてきたところを見ると、どうやらダンスは得意ではないらしい。
これは貰った、と正直に真姫は思った。
続いて二曲目。
「次は勝負になるわけだけど、難易度と曲は合わせるわけ?」
「ああ」詩音は右手で左手の掌をマッサージしながら「その方が単純に実力差が出ていいだろ。俺もこれには慣れてるし、何より言い訳なく白黒つけれる」
そう言って詩音は二曲目を選択し始める。
「と言っても、俺の方が不利だ。曲は俺が選ばせてもらうぞ」
「いいわよ」
真姫の了承を得た詩音は先ほどと同じ曲を選択。真姫も詩音に続いて同じ曲を選択すると、難易度設定のところで「どうするのか」と聞こうと視線を動かしたところで、詩音は何の迷いもなく一歩右にステップを踏んだ。
それはつまり難易度が変更されたということ。
そして右に踏んだということは難易度が上がることを意味する。
つまり、詩音は『NORMAL』から一段階難易度を上げ『HARD』に設定した。
「ゔぇえ!?」
「なんだよ、驚くことか?」
「驚くに決まってるでしょ。あなた、『NORMAL』でも危なかったじゃない」
「まあな」
と、あくまで素っ気なく答える詩音。
「いいから、さっさと設定しろ。時間が無くなる」
急かすように言う詩音。確かに画面を見れば選択の制限時間が刻々と過ぎているため、真姫は慌てて難易度を『HARD』にした。
両者共に決定ボタンを選択すると、間もなくして曲が始まった。先ほどとは難易度が一段上がっているため、流れてくる矢印の数も多くスピードも速い。先ほどより集中してステップを刻んでいく真姫。
さすがスクールアイドル、しかも今一番注目されているμ’sだけあって、真姫のステップは軽やかだ。今のところミスは一つもなく刻まれていくステップ。
間もなくして曲が終了し、真姫は一息吐く。日ごろからダンスの練習をしているとはいえ、勝負事となれば少しは疲れる。画面には評価が着々と表示されていき、最後に『S』と表示され紙吹雪が舞っていた。
そういえば、これを始めてやったときは『B』だったことを思い出し、あれから四ヶ月経っただけでここまで成長したことに、少し驚いていた。
(さて、向こうは……)
自分の得点は確認できた。あとは詩音の評価を確認するだけだ。視線を横に動かしてみれば、
「…………」
苦い顔をしている詩音。もしや、と思って画面の方に視線を向けるとそこには『B』と表示されていた。
つまり、真姫の圧倒的な勝利だった。
あんなに『俺余裕だぜ』という雰囲気を出しておきながら、まさかの『B』。コンボ数を見てみればミスをかなりしており、あの余裕は一体何だったんだと聞きたいくらいだ。
「ま、こんなもんだろ」
「なに余裕そうにしてるのよ。あなたの負けなのよ?」
「ああ、
負けたというのに、悔しそうな様子を一切見せない詩音。まるで当然の結果だと言いたげな表情に、眉を顰める真姫。詩音は結果がわかると台から降りてその場を去ろうとする。
「ちょっと、どこ行くのよ」
「あン? どこって
「はあ!? 次のゲームって──」
「誰も一回勝負何て言ってないだろ?」
何言ってんだ? と真姫を小ばかにした表情で言ってくる詩音。確かに勝負を提案したときに一回勝負何て言っていない、さらに言うのであれば詳しいゲームルールも決めていない。
詩音の言っていることは合っているのだが、
「往生際が悪すぎるわよ!! 男なら一回勝負でしょ!!」
「そんなルールは決めていない。それに、お前だって明らかに自分が得意なゲームを選択肢に持って来てたろ、次は俺の得意ゲームをやらせてもらうぞ」
なんて奴だ!
性格が腐ってる!!
先ほど見たダンスを楽しんでいる詩音の姿がガラスのように壊れるほど、目の前の男の性格の悪さを思い知った。あの時の純粋で子供っぽい笑顔はウソだったのだろうか。
はらわたが煮え返りそうな中、次のゲームでコテンパンにしてやると決意した真姫は詩音の後を追いかける。
「なら、改めて確認よ! 三本勝負で二勝した方の勝ち!!」
「なら、お前はあと一本、俺は残りの二戦を勝てばいいわけだな。
さて、次はこいつだ」
ルールを確認していると、どうやら次のゲームの場所に到着したらしく詩音はソレを示しながら言う。
詩音が次のゲームに選んだもの、ソレは──エアホッケーだ。完全に男である詩音が有利なものだった。
文句を言おうとする真姫だったが、
「ちなみにもう一つの選択肢はパンチングマシーンだが、こっちの方がお前にもわずかに勝てる可能性があるだろ?」
そう言ってさっさと準備を始める詩音。
最悪だ、外道だ、性根が腐っている。
どうやら詩音は、そこまでしてでも話したくないらしい。いいだろ、やってやろうじゃないの。
真姫は拳を握りながら、詩音をコテンパンに叩きのめそうと決意を新たにした。
詩音と真姫はそれぞれ向かい合うように位置し、コインを投入してマレットを手に取る。願わくばパックが真姫の方に出てきてくれることを願うが、真姫の方に出てきた様子はない。となると、
「っつ!?」
「どうやら、俺の方にパックがあるみたいだな」
パックは詩音の方に出てきた。最悪だ、これで一点は取られたようなもの、と考えた時、真姫は先ほど一組の男女エアホッケーをやっていたのを思い出した。確か、勝負はついたが男性の方がお願いして泣きの一回をやっていなかったか? もしそうなら、パックのそのゲームで最後にゴールした方に残っているということになる。
「まさかアンタ、ダンスゲーム中ずっとこっちの方を見てたの!?」
「ああ。俺は元々ダンスゲームが苦手だからな、あれは負けが確定していた。なら、ダンスゲームは捨てて他のゲームで勝てばいい、ただそれだけのこと、だ!」
同時に詩音はマレットでパックを打った。
不意を突かれつつも何とか反応した真姫は、ゴールに吸い込まれるぎりぎりのところで自分のマレットを引き寄せ弾いた。
弾かれたパックは左右に激突しながらゆっくりと詩音の方へと返って行く。
「汚いわね、そこまでして勝ちたい訳!?」
「勝負に汚いも奇麗もあるか!」
返ってきたパックを詩音は再び打つ、しかも今度はストレートではなく壁に衝突させ左右にぶつかりながらだ。不規則に迫るパックは真姫のゴールに吸い込まれ、詩音の得点となる。
本当に最悪な奴だ。先ほどのダンスゲームを捨ててまでこちらを見ていたということは、最後にどっちのゴールに入ったのかを確認できる。そしてルールを明確にしていないことをいいことに、自ら次のゲームへと足を運び、パックが入っている方で準備をすれば今の様に一点目を簡単に取れる。
真姫はパックを取り出しながら改めて目の前の男を見る。詩音はフン、と鼻で笑っている。
最悪だ、本当に目の前の男は性格が悪い。
真姫は込み上げる怒りをパックに乗せて打った。
☆☆☆
真姫と詩音のホッケーの様子をクレーンゲームを影に見ているデネブは、明らかに汚い詩音に呆れていた。
「詩音……」
先ほどダンスゲームが始まる直前で追い出されたデネブは、こうして影ながらに二人を見守っている。途中何度か店員から声を掛けられたのだが、クレーンゲームをやっている様に装ったので問題はないはずだ。店員からは不審な目を向けられるが、デネブがそちらを見れば向こうが視線を逸らす。一応、本当に目の前のクレーンゲームを数回プレイしてみるが、全く景品が取れる様子がない。
だからこうして二人を見守ることに徹しているのだ。
「まったく、詩音は。普通に真姫さんと遊びたいなら誘えばいいのに」
詩音があそこまでする理由を、デネブは何となくわかっていた。
単純に詩音は真姫と遊びたいだけなのだろう。ダンスゲームの時もそうだったが、エアホッケーで対戦している詩音の表情はどこか明るい。真姫はエアホッケーに向きになっていて気づいていないが、詩音の表情には笑顔があった。先ほどダンスゲームで真姫が見た子供のような純粋な笑顔。
詩音の打ったパックがゴールへと吸い込まれれば「よし!」と声を上げて喜べば、悔しさ全開の表情になる真姫。逆に真姫の打ったパックがゴールにい込まれるとその表情は逆になる。
本当に似ている、とデネブは改めて思う。
「どうかしら!? もう二点差まで追いつめたわよ! あんなに大口叩いておきながら大したことないじゃない!!」
「……ハッ! 俺が手加減してやってるのがわからねぇのかよ」
「その減らず口がいつまで続くかしら、ねっ!」
「おっと、残念だった、なっ!」
ゲーム内容的には序盤に大量に点数を取って行った詩音の勝ちで終わると思ったが、真姫が徐々に追い上げてきており、二点差に追い詰めていた。意外と接戦である。
互いの額には汗が少し浮かんでおり、次第にラリーの応酬となっていた。減らず口をお互いに叩き合いながら、相手の冷静さをかこうとするが、全く影響があるようには見えない。
「詩音……」
「あの、お客様……」
と、詩音たちの方を観察していたデネブの元に、女性店員が声をかける。
「え? あ、はいっ!」
「お手伝いしましょうか?」
「え?」
「こちらの景品でよろしいですか?」
そう言って女性店員はクレーンゲームの中にあるカメの人形を示す。
そこでデネブは先ほどクレーンゲームをやっていることを装ったことを思い出し、なかなか取れないと勘違いした店員が手伝いに来てくれたのだろう。デネブの性格上こういったことは断れない。迷うデネブだったが、詩音たちの方を見ればお互いに笑顔で楽しんでいる様子。一ゲームで決着がつかなかったのか、すぐに硬貨を取り出して二戦目に入る。お互いにメラメラとした熱気が見えてくるのではないか、というほどに燃えていた。これなら問題はないだろう。
「はい、それでお願いします」
ということで、デネブはクレーンゲームをやってみることにした。
向こうのゲームは、まだ終わりそうにない。
以上、四週間ぶりの更新でした。
そろそろもう一つの作品の方も更新しないといけないので、今回遅れてしまいましたが、次は遅れないようにかんばります。
それでは次回「Episode10」に続きます。