乱世を駆ける男   作:黄粋

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第十話 巣立ちの時。それぞれの決意

 俺は心の奥底で切望していた。

 前世の俺を知る存在を。

 

 新しい人生と割り切って過ごしてきた二十年。

 そこに嘘偽りはなく、無理をしてきたつもりもない。

 

 だがそれでも前世の記憶がある以上、考えてしまう事があった。

 

 俺が言う『前世』は本当にあった事なのだろうか?

 俺が生まれ、育ち、死んだ九十年間は俺が都合良く見た夢幻の類だったのではないか?

 

 俺以外の人間に聞いても答えなど得られないだろう疑問。

 ずっと考えないようにしてきた、しかしふとした瞬間に頭をよぎるソレ。

 

 俺よりも強かった山賊頭を前にした時でさえ抱かなかった恐れを内包したソレ。

 殺されかけた時も、左腕が治らないと告げられた時も抱かなかった絶望を内包したソレ。

 

 その疑問は少しずつではあるが確実に俺の精神を蝕んでいた。

 もしもこの疑問に対する俺なりの答えが得られなければ。

 

 そう遠くない日に俺の心が壊れるだろうと自身で確信出来る程に。

 

 

 

 俺たちが蘭雪様の元に行く事を誓ったあの日からの一ヶ月はあっと言う間だった。

 

 五村同盟という明確な組織の枠組みに含まれている人間が、突然いなくなる訳にはいかない。

 この一ヶ月間は俺たちがいなくなってもいいように引き継ぎに奔走していた。

 

 さすがに事が事だけにそれぞれの部隊にも動揺が広がったが最終的に沈静させる事が出来た。

 

 ちなみに俺たち五人の代わりの部隊長はすべて俺の隊の人間を置く事でまとまった。

 実力が部隊の中で抜きん出ていた事がその理由だ。

 

 最初は突然の就任に戸惑っていたが一ヶ月後の現在は、なんとか部隊をまとめられている。

 我ながら急ピッチな対応になったがどうにか形になって良かったと思う。

 

「駆狼、そろそろ行くぞ」

「ああ、先に外に出ていてくれ。すぐ行く」

「あんまり待たせんなよ?」

「すぐ行くと言っただろう?」

 

 出立の時を控え、妙にそわそわした様子の激を追い出した俺は自分の部屋を見つめる。

 前世の頃に比べてお世辞にも快適とは言えなかったが、そこは確かに俺の居場所の一つだった。

 

 最後になるかもしれないのだ。

 挨拶くらい一人で静かに済ませたい。

 

 一度だけぐるりと部屋を見渡す。

 二十年を共にした場所を目に焼き付ける為に。

 

「……行ってきます」

 

 誰もいない空間に俺の声が響く。

 返答などもちろん返ってこない。

 だがそれでも俺は満足していた。

 

 

「遅いぞ、駆狼」

「激、刀にぃにも色々あるんだから」

「まぁ塁も昨日は親父さんたちに抱きついて大泣きしてたしな。駆狼もその口か?」

「なに人の秘密ばらしてくれてんの、バカ激ーーー!!!」

「おいおい、いよいよ出発と言う時に痴話喧嘩なんぞするな、二人とも」

「「誰と誰が痴話喧嘩してるって!?」」

「いや激と塁以外いないと思うんだけど」

 

 いつも通りに騒がしい限りだ。

 今日が人生の岐路だとはとても思えん。

 

「ふふ、なんだかこのやり取りを見ているとこれから先も安心だって思えるわね、泰空」

「まったくだな、楼」

 

 もう四十歳になる両親。

 前世では見る事が出来なかった二人の年老いた姿は、俺がこの世界でやってきた事が無駄ではなかった事の証でもある。

 

「さすがに建業に行ってもこの有様だと問題ですよ。父さん、母さん」

「その辺りはお前が締めてくれればいい。皆もお前がいるからああしてはしゃいでいられるんだ」

「そうよ、駆狼」

 

 俺たちのこれからにまったく不安を抱いていない様子の両親に俺は肩を竦めた。

 両親からの揺るぎない信頼がくすぐったくて、口元が緩んでいるのを誤魔化す為だ。

 

「やれやれ。先が思いやられる」

 

 口から出た言葉は無愛想だったが、それはただの照れ隠しに過ぎない。

 二人もそれを理解しているから笑顔のままだ。

 

「皆の諫め役は大変だと思うが頼むぞ、駆狼君」

「まぁ出来る限りの事をやらせてもらいますよ、豊さん」

 

 人を食った笑みを浮かべる豊さんに苦笑する。

 この人も初めて会った頃から変わらない。

 言い方は悪いが不気味なくらい若々しいままだ。

 祭と並ぶと姉妹にしか見えない。

 何か一族特有の不老の秘密でもあるんだろうか?

 

「あと個人的に祭の事を頼むよ」

「何度も言っていますけど俺にその気はありません」

 

 何かにつけて祭を嫁に取らせようとするのも相変わらずだ。

 

「むぅ……祭は君にぞっこんなんだがなぁ」

「だからと言って俺の気持ちは変わりませんよ。これは祭にも伝えた事です」

「ううむ……」

 

 

 そう俺はこの一ヶ月の間に祭に告白されていた。

 

 しかし俺には生涯ただ一人と決めた人がいる。

 七十年近くを連れ添ってきた番(つがい)。

 

 この世界に彼女が存在するとは思っていない。

 俺がこういう境遇だからと言って彼女も存在すると考えるのは余りにも短絡的で楽観的過ぎる。

 とはいえ『いない』と完全に言い切れない辺り、俺は心のどこかで『もしかしたらの再会』を願っているんだろう。

 

 我ながら女々しいとは思う。

 しかし未だに彼女を想っていると言うのに別の女性を想うと言う事が俺には出来なかった。

 それは陽菜に対する裏切りだから。

 そして陽菜の事を未だに想っている俺が覚悟を決めて想いを告げてくれた祭に応えるのは彼女に対しての裏切りにもなる。

 

 そんな不義理な事は俺自身が認められない。

 だから俺は既に想い人がいる事を告げて祭の告白を断った。

 祭は寂しげに笑いながらこう言った。

 

「儂の想いに真剣に答えてくれてありがとう」

 

 足早に去っていく彼女を追いかける事など出来るはずもなく。

 俺は彼女の姿が見えなくなるまでその場から動けなかった。

 

 次の日、普段と変わらぬ様子の祭に少なからず驚いたが。

 それは彼女の中で折り合いを付けられたという事なのだろう。

 

 折り合いがついていないのはむしろ俺の方だ。

 情けない且つ傲慢な話ではあるのだが、どうやら俺は自分が思っている以上に祭を好いていたらしい。

 その好いていると言う想いを『愛』と言えるかどうかと聞かれれば、やはり首を横に振るが。

 

 

「しかし君にもうそんな人がいるとは思わなかったな」

 

 俺が祭を振ったという話は既に村中、というか五村同盟全体に広がっている。

 あの時は祭にだけ意識を集中させていたせいで気づかなかったが、どうも塁と激が覗いていたらしい。

 真剣な彼女の想いに答える為とはいえ、隠れている気配に気づけなかったのは不覚だった。

 

「誰にも話していませんでしたし、そんな素振りも見せませんでしたからね」

 

 そもそもその相手とは今世では一度も会っていないのだから素振りも何もないのだけどな。

 

「しかし気を付けろよ、駆狼君。祭は諦めてないからな」

「はっ?」

 

 猫のような笑みを浮かべて爆弾発言をすると豊さんは唖然とする俺を放置して娘の元に行ってしまう。

 

「大変だろうが強く生きろ、駆狼」

「不誠実な事だけはしないでね」

 

 両親の言葉がやけに重く俺の耳に響いた。

 

 

 

「そろそろ行くとするか」

 

 別れの挨拶も一通り済んだ頃、俺は荷物の入った麻袋を肩に担いでそう言った。

 俺とて名残惜しくない訳ではないがいつまでもここに留まっているわけにはいかない。

 

「ああ、そうするか」

「そうね」

「うん」

「そうじゃな。名残惜しいが行くとしよう」

 

 四人がそれぞれに荷物を持って頷く。

 最後に俺たちの見送りに集まってくれた親しい者たちを見つめる。

 

「皆、息災でな」

「村長もお体には気を付けて」

 

 目を細めて笑う村長に言葉を贈る。

 

「では凌刀厘以下五名、これより出立します」

 

 俺が敬礼するのに合わせて祭たちもそれぞれに礼をする。

 元俺の部隊員をしていた人間たちが俺の敬礼に返礼してくれたのが妙に嬉しく感じられた。

 

「行ってきま〜〜す!」

「たまには帰るからさ。皆、それまで元気でいろよ!」

「行ってきます!」

「ま、適当に頑張ってくるとしようかのぉ」

 

 まとまりのない連中だな。

 割といつもの事だが。

 

「お互い、健康でありますように」

「ああ、お互いにな」

 

 最後に父さんと笑い合い、俺たちは村に背を向けて歩き出した。

 

 

 

「そういえば俺と塁ってでかい街には行った事ないけど建業までどのくらいかかるんだ?」

「村を出たのが昼過ぎだから、歩きで三日と言った所になるな。馬だと一日なんだが」

 

 激の疑問に答えてやる。

 

「こういう時、馬がないのはやっぱり不便だね」

「確かに馬がいれば楽だがな。乗れるのが俺とお前だけじゃあな。それに俺は馬無しでも特に不便はない」

「塁はなんでか動物に嫌われてるからなぁ。祭は単純に乗る機会がなかっただけだけどさ。と言うか駆狼、お前はなんで馬と同じ速度で走れんだ!? 前に馬に乗った慎と並走してたの見たけどあれおかしいだろ!?」

「日頃の努力の賜物だ」

 

 野郎三人で雑談していると女二人で談笑していた塁が話に入ってくる。

 

「あたしだって好きで動物に嫌われてるわけじゃないよ!」

「触ろうとしただけで逃げられておったからの。あの時の馬の怯えようと言ったらなかったな」

 

 その時の馬の様子を思い出してか、目を吊り上げて激を怒る塁を見ながらからからと笑う祭。

 

「確かに、あれはなかったな」

 

 猫に追い回される鼠ですらあそこまで必死にはならないだろう。

 今、思い出してみると塁が近づくだけで馬がびくびくしていた気がする。

 

「う~~、それならあたしみたいに馬に嫌われてるわけでもないのに乗れない激はなんなのさ!?」

「ばっ、俺は乗れないわけじゃねぇ!! 俺と相性の良い馬がいねぇだけだ!!」

「ふぅ、激。言い訳は見苦しいよ」

「んだとぉ慎! 少しばかり馬に乗れるからって調子に乗んな!!」

 

 元気なのは良い事なんだが、混じるにはちと騒がしすぎる。

 歩きながらわいわい騒ぐ三人から距離を取った。

 

「なぁ駆狼」

 

 不意に祭の声が俺の耳に届く。

 

「なんだ、祭」

「お前、儂の告白を断った事を気にしとるじゃろ?」

 

 思わず横を歩く祭の顔を見た。

 さっきまではしゃいでいたはずの陽気な表情はもう消えていた。

 

「……ばれてたか。もしかしてわかりやすかったか?」

 

 虚偽は許さぬと無言で訴えるその視線を前に俺は早々に折れる。

 

「そうでもない。気づいていたのは儂と慎、泰空殿に楼殿、それにうちの母くらいじゃったと思うぞ」

 

 形になっていない苦笑いを浮かべる祭。

 なるほど、案外少なかったな。

 まぁ塁と激の単細胞コンビが気づくとは思っていなかったが。

 

「まぁ誰が気づいていたかはこの際どうでもいい。せっかく慎がお膳立てしてくれたんじゃ。時間は有効に使わんとな」

「お膳立て?」

 

 前方を見ると三人は随分と先に進んでいた。

 少なくとも俺と祭の声が聞こえるとは思えないほど遠くに。

 つまり今この場は俺と祭、二人だけの空間になっていると言う訳だ。

 

「なるほど、お膳立てか」

「そういう事じゃ。後で慎に礼を言っておけよ」

 

 まさか祭と二人きりになるように話を誘導していたとは。

 慎のヤツ、随分と人の扱いが巧くなったな。

 しかしここまでして二人きりにされてしまったのだからな。

 どんな結果になるにせよ覚悟を決める必要があるな。

 

「さて駆狼」

「ああ」

 

 小さく深呼吸をし、祭の言葉を待つ。

 

「お前は儂を振った」

「……ああ」

 

 祭の声はとても静かでそこに俺を責める意図はなかった。

 

「別に恨み言を言いたい訳じゃない。振られる事も予想しとったしな」

 

 雲一つない空を見上げながら祭の言葉は続く。

 

「お前は儂を、いや儂等を子供のように見ている節がある。同年代じゃと言うのに年の離れた、それこそ親子か祖父と孫であるかのように、時に儂ら自身がそう錯覚してしまう程にそれが染み着いている」

 

 それはそうだろう。

 肉体年齢はともかく精神年齢は今年で百十歳になるのだ。

 俺から見れば祭たちは親子通り越して曾孫を見ているような気さえする。

 

「少なくとも儂の事を女として見てはいなかったじゃろ?」

「お前からすれば甚だ失礼な話だがな。俺はお前に対して友人としての親愛以上の感情は持ち合わせていなかった」

 

 これは本当の事だ。

 女性として日に日に美人になっていく祭を見ていても俺には男としての欲求は生まれなかったのだから。

 

 部隊の男連中や激、慎までも成長した塁や祭の姿に大なり小なり反応していたのだが、俺はまったくそういう劣情を抱かなかった。

 自分で言っておいてなんだが雄としては終わっている気がする。

 どうも俺は彼女らの事を女性である以前に『年の離れた子供』であると認識してしまっているらしい。

 

 だからこれは正しく親愛であり、友愛。

 それ以上には発展しない感情だった。

 

「今までそんな素振りを見せなかったから想い人がいると言われた時は正直、疑ったよ。儂に諦めさせる為の嘘なんじゃないかとな」 

「……真剣な想いに応える為に嘘を付くような真似はしない」

「わかっとる。お前はこれ以上ないほどに真剣に儂に応えてくれていたよ。たとえ答えが儂の望む物でなかったとしてもな」

 

 その目はどこまでも澄んでいた。

 本当に後に引いている訳ではないのだろうか?

 

 俺の事を罵っても罰など当たらないと言うのに。

 今まで築き上げてきたこの気安い関係が壊れても仕方が無いとすら思っていたというのに。

 それくらいの事は覚悟して、俺はお前を振ったのだと言うのに。

 

「儂は大丈夫じゃ。じゃからお前も気にするな」

 

 九十歳も年下の人間に慰められるとはな。

 本当に人生というヤツは何が起こるかわからない物だ。

 

「……ああ、わかった」

「今のうじうじしているお前は嫌いじゃからな。いつも通りの不遜なお前にさっさと戻ってくれ。儂が惚れたお前に、の」

 

 にんまりと笑いながら祭は俺の額を人差し指で付く。

 突きつけられた指は痛くも痒くもないが、浮かべられた笑みはとても美しく感じられた。

 

「善処するさ」

 

 ため息を一つ付き、俺たちはいつの間にか向かい合って止めていた足を動かし始めた。

 

「それと勘違いのないように言っておくが……」

 

 するりと祭が俺の右腕を取った。

 不意打ち気味の胸の感触に一瞬、硬直すると今度は頬に暖かい感触。

 

「儂は諦めたわけではないからな」

 

 耳元で艶っぽく囁くと祭は俺から逃げるように走り出してしまった。

 

「あ~~~……」

 

 遠ざかる祭の背中を呆然と見送りながら頬に触れる。

 祭の唇の暖かさが感じられた気がした。

 

「やられた」

 

 自分でもよくわからない呟きを口から吐き出し、俺は赤くなっているだろう顔が早く戻る事を願った。

 

 

 

 

 儂は駆狼の事が好きだ。

 

 一体いつからそうだったのかはわからない。

 

 ただ自覚したのは儂等が初めて人を殺した日。

 山賊たちの親玉と一騎打ちをした駆狼が死にかけた時。

 

 ずっと一緒だったあやつが血塗れになっている様を見て血の気が引いた。

 頭が怒りで真っ白になり、気づいた時には狩りで身につけた動きで自然と弓を引いていた。

 

 儂の攻撃で出来た隙を付き、駆狼はどうにか勝利した。

 けれどその身体は見るからにボロボロで、駆け寄った儂は思わず息を呑んだ。

 

 そんな有り様なのに先に村の皆を気にかける駆狼に儂は言ってやりたかった。

 

 もっと自分を大切にしろ、と。

 

 まるで死んだように意識を失った駆狼を抱えて村に戻る時、浮かぶ涙を抑えられなかった。

 駆狼を失う事への恐怖から浮かび上がる想いを留める事が出来なかった。

 

「(お前が死んだら儂らは、儂は!!)」

 

 それが想いを自覚するきっかけだった。

 

 それからの六年間、儂はずっと駆狼を見てきた。

 自分なりに拙いながらも色々と積極的に動いていたように思う。

 

 二人で狩りに出た時は心の臓が口から飛び出るのではないかと言うくらいに緊張した。

 酒の席でその場の勢いに任せてしなだれかかったりした時は自分でもわかるくらいに顔が熱を持っていた。

 早くから儂の想いに気づいた母や慎がそれとなく気を遣ってくれたりもした。

 

 しかしそうしてあやつを見ているうちに儂は気づいてしまった。

 

 駆狼の目が儂等をどのように見ているかを。

 

 あやつは厳しく、そして優しい。

 しかしそれは誰に対してでもそうじゃ。

 友人である儂らにも、自分の部隊の人間にも、村の子供たちにも。

 年上である儂の母や大守である蘭雪様にも遜りはしても自分の意見はズバズバと言うからの。

 例外はあやつの両親くらいじゃろうな。

 

 それはすなわち誰もを同列に扱っているからに他ならず。

 つまりあやつの中で儂は特別な存在ではないと言う事でもあった。

 

 その事に思い至った時、傷つかなかったと言えば嘘になるじゃろう。

 しかしあやつが儂をどう思っていようと儂はあやつが好きじゃった。

 想われていないからと諦められるような軽い気持ちではなかった。

 

 じゃから儂はあやつに振られる事を理解しながら告白した。

 いつまでも抱え込んでおくにはこの想いは重過ぎた。

 

 ましてやこれから儂たちは大守に仕える身になる。

 今まで以上に忙しくなり、戦による危険も大きな物になるだろう。

 

 想いを告げるのは怖かった。

 断られる前提で言うのだ。

 普通のソレよりも恐怖は上じゃろう。

 じゃがそれ以上に年月と共にこの想いが風化していくのが恐ろしかった。

 儂のこの六年越しの想いが行動せずに消えていくのがこの上なく嫌じゃった。

 

 

 結果を言えば儂の告白はあっけなく断られた。

 真剣な儂の想いに、自分を偽ることなく真剣に答えてくれた駆狼には感謝している。

 さすがに心に決めた人がいるとは思わなかったが。

 

 しかし想い人に想いを伝えた事で儂の心は晴れていた。

 吹っ切れたとでも言うのかの。

 断られた事で新しい目標も出来た。

 

 『あやつを振り向かせる』と言う目標がな。

 

 告白をして感じた事じゃが、あやつは儂の事を嫌っているわけではない。

 ならば後は儂のやる気次第じゃろう。

 例え駆狼の想い人とやらがどのような女性であろうとも負けるつもりなどない。

 

 一度の告白を断られたからなんじゃと言うのか。

 儂は絶対に諦めん。

 覚悟しろ、駆狼。

 

 唇に残るあやつの頬の感触に笑みを浮かべながら儂は慎たちの元へ走っていった。

 




これにて第一章は完結です。
次回からは任官してからの話になります。

以前、投稿していた分がまだ尽きていないので今しばらくは一週間に2回の更新を基本に投稿していきます。

今後もよろしくお願いします

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