今年一年、この作品を見ていただきありがとうございます。
来年も拙作『乱世を駆ける男』をよろしくお願いいたします
城門から飛び降りてきた俺たちは門に群がっていた兵士たちを片っ端から吹き飛ばす。
こういう時、面制圧が出来る長物が武器だと便利だ。
呂布の方天画戟、俺の三本連結させた棍。
周囲に味方がいない状況で遠慮なく振るえばそれだけで面白いように人が飛んでいく。
あっという間に最前戦は崩壊。
兵士たちは攻城兵器を放り出して逃げ惑うも、俺か呂布どちらかの攻撃を受けて倒れていく。
「ち、流石に対応が早いな」
ここに向かう幾つもの部隊が見えて思わず舌打ちする。
旗印が指す武将は関羽、張飛、夏侯惇、夏侯淵、楽進、李典、于禁。
おそらく曹操たちも後から来るだろう。
あいつらがここに辿り着くまでに一人でも多くの敵を叩き伏せなければ。
「奉先、あちらの主力が来るぞ!」
「うん」
警戒を促す意味で声をかけると、彼女も迫ってくる軍勢を見つめながら頷いた。
既に門前で立っているのは俺たちしかいない。
逃げたか、地に伏しているか、だ。
多少疲れはしたが、まだ体力には余裕がある。
呂布など息を切らしてすらいない。
頼もしい限りだ。
目前に迫った敵を前に一呼吸。
「刀厘様!!」
叫ぶや否や夏侯惇は自慢の大剣を俺目掛けて振り下ろす。
俺はその一撃を避け、すぐさま横薙ぎに棍を振るう。
危なげなく受け止められ、そのまま鍔迫り合いに。
「お相手願います!」
どうやら夏侯惇のご指名は俺らしい。
とはいえ、こちらがあちらに応えてやる義理はない。
そもそもそんな余裕もない。
「遠慮しておく!」
「なぁっ!?」
武器を弾くと同時に後方へ飛び退く。
馬の勢いを落とす事無く走り抜ける夏侯惇をいったん放置し、次の相手に意識を向ける。
そこに楽進、李典、于禁が波状攻撃を仕掛けてきた。
「「「覚悟ッ!!!」」」
李典の回転する槍を右手甲で捌き、左の掌底で彼女を吹き飛ばす。
「ぐっ!?」
続けて迫る二刀流の于禁は振り下ろされる剣を両手甲で身体の外側へ受け流し、足を払って宙に浮かせ、追い打ちの体当たり。
「きゃんっ!?」
楽進は隙の大きい蹴りではなく拳で乱打戦を挑んできたために真っ向から受けて立つ。
拳と拳のぶつかり合いが数秒続き、楽進が蓄積した痛みに怯んだ瞬間、腕を取って一本背負いで地面に叩き付けた。
「がはっ!?」
三人を相手にしている間に馬を操り、弧を描くように戦場を走って夏侯惇が戻ってくる。
「でぇえええいっ!!」
先ほどよりも速度が乗った下からの切り上げ。
俺は大きく避けようとしたが、跳躍しようと踏み込んだ足を楽進に掴まれてしまった。
女性らしい細い腕からは想像出来ない剛力で俺はその場に縫い付けられてしまう。
「逃しません!」
「くっ!?」
俺は咄嗟に棍を盾に夏侯惇の攻撃に備える。
「もらったぁっ!!!」
「があっ!!」
切り上げが当たる寸前に楽進が手を離したせいで、俺の身体は夏侯惇の斬撃によって空中へかち上げられてしまった。
その一撃の衝撃で俺の手から棍が離れてしまう。
身動きの取れない空中に浮き上がり、そこに追撃。
「ずぇやああああっ!」
大振りの刃による突きを俺はなんとか手甲で受け止める。
夏侯惇はそこで俺の腕を掴み、あろうことかそのまま馬を走らせて引きずりながら城門前から離れていく。
「いい加減に離せっ!」
掴まれていた腕を引き剥がし、地面を転がって受け身を取りながら立ち上がる。
城門との距離がかなり離されてしまっている事からも彼女らの狙いは明白。
この子の狙いは俺と呂布を分断した上で邪魔の入らない一騎打ちに持ち込む事だ。
しかも主戦場から外れているこの場所周辺には俺たち以外に人の気配がまったく無い。
やはり先日の武官複数を相手取った時の絡繰りは見抜かれていると見ていいだろう。
「徹底しているな。あくまで俺の相手はお前がするということか」
馬から下りてまっすぐこちらを見据える夏侯惇に観念して声をかける。
「その通りです。そしてこれだけのお膳立てをしていただいた以上、貴方はここで打ち倒します!」
これはいよいよ覚悟を決めなければならないな。
半身を前へ出し、左手の甲を盾のように相手に向けて構える。
「……いいだろう。来い、夏侯元譲。逃げも隠れもしない。凌刀厘が全身全霊を持ってお相手する」
夏侯惇は瞑目すると目を見開き、大剣を構える。
「感謝いたします。いざっ!」
踏み込みは同時。
「「尋常に勝負っ!!!」」
俺たちは瞬時に互いの距離を縮め、己が武器を振るった。
「……刀厘と離された。これが狙い?」
呂布の言葉に関羽、張飛、三羽烏、夏侯淵は答えない。
「……まぁ、いい。全員倒せばそれで終わり」
方天画戟が振るわれる。
余裕ある口調に関羽たちは侮られていると感じたが、実のところそうではない。
少なくとも呂布は自分が武器を振るって倒れないだけの強さを目の前の人間たちが持っている事を知っている。
そして呂布自身、力で劣っていたとしても自分を打倒する事ができる人間がいる事をその身を持って知っている。
故に口では余裕があるように振る舞っても、その心に油断も慢心もない。
関羽が前に出て方天画戟と打ち合う。
「はぁっ!!!」
一撃目は互角。
まるで木の枝でも振るうかのように軽々と引き戻された方天画戟が再度振るわれる。
関羽も負けじと青龍偃月刀を振るうが、速度が僅かに遅い。
「ぐぅっ!?」
二撃目は万全の攻撃を放った呂布の勝ち。
攻撃がぶつかり合った瞬間、武器ごと関羽の身体は宙に弾き飛ばされてしまう。
「まず一人……」
「させないのだっ!!!」
宙を舞った関羽へとどめを刺そうとする呂布に対して、張飛が身体ごと割り込み蛇矛を横薙ぎに振るう。
恐るべき速度で迫る蛇矛を前に彼女は眉一つ動かさず、方天画戟の標的を蛇矛へと切り替えて一撃を見舞う。
またしても武器のぶつかり合いで空気が弾ける。
ぶつかり合って止まった蛇矛の握りを、呂布は武器を持っていない左手で掴んだ。
「邪魔……」
「な、なにをするのだぁあああああっーーーーー!?」
「え、益徳っーーーーーー!?」
呂布は蛇矛ごと張飛を持ち上げ、あろうことか投げ飛ばした。
いくら張飛が小柄とはいえ、その武器諸共を放り投げるのは並の腕力では出来ない。
彼女より大柄な凌操ですら趙雲を投げ飛ばすのに遠心力を利用する必要があったのだ。
常識外れというよりも規格外と言うべきか。
「次……」
三国志最強は動きを止めず、次の標的を定める為に視線を動かす。
関羽は張飛が間に入っている間に体勢を立て直したようだ。
視線を曹操麾下の武将たちに向けると、呂布目掛けて矢が飛んできた。
武器を使わず、左手の手甲で弾く。
夏侯淵が矢を放つと同時に三羽烏は動いていた。
「くらえぇええええっ!!!」
楽進が正面から気を球体の形にして蹴り放つ。
「そりゃあぁああああっ!!!」
右から李典の螺旋槍が回転して地面を砕きながら迫る。
「ええええええいっ!!」
左から于禁のスピードの乗った双剣が迫る。
「私を追い込むには足りない」
真正面から迫る気弾が方天画戟によって真っ二つにされた。
別れた二つの気弾が左右から迫る李典と于禁の進路に着弾。
土煙が辺りを包み込む。
「なんやて!?」
「なんなのぉっ!?」
一瞬で視界が遮られてしまった二人の悲鳴が上がる。
遠距離攻撃をしていたために土煙から逃れる事が出来た楽進はこの状況のまずさをいち早く察した。
「二人とも下がれっ!」
しかし声を掛けるには遅い。
「ぎゃんっ!?」
「きゃぁっ!?」
悲鳴と共に二人が土煙から外へ吹き飛ばされる。
楽進のすぐ傍まで地面をごろごろと転がった二人は目を回して気絶していた。
「文謙、前を見ろ! 来るぞっ!!」
やられた二人の救護をする暇もなく、夏侯淵の警告した通りに土煙から呂布が飛び出す。
彼女の狙いは楽進だ。
「くっ!?」
その場で迎え撃つ構えの楽進。
しかしこの判断は悪手だ。
方天画戟が振るわれる。
横薙ぎの暴風を楽進は両腕で受け止めようとする。
「がぁっ!?」
しかし武器と接触した腕どころか身体ごと轟音と共に吹き飛ばされてしまった。
放物線を描いて吹き飛んだ楽進は虎牢関の石壁に激突してようやく止まる。
この場では凌操にしか伝わらない例えではあるが、彼女は戦車を相手に真正面から打ち合うべきではなかった。
「……あと三人」
楽進がどうなったかなど確認する事無く、次の標的である夏侯淵に足を向ける。
「ちょおりゃぁあああああああっ!!!!」
「やぁあああああああっ!!!」
彼女の行く手を阻むように巨大な鉄球とヨーヨーが地面を砕きながら迫る。
「……新しい奴、三人」
呂布は迫る武器を弾き飛ばし、その先にいる典韋、許緒、さらに後ろにいる曹操に視線を向ける。
誰を狙うかを考え、僅かに動きを止める。
ふと戦いに出る前にした凌操との会話が頭を過ぎった。
「もしも曹孟徳が出てきたら警戒しろ」
「なんで?」
「本来、彼女が最前戦に出てくる事はない。後ろで戦場の推移を俯瞰し、次の手を差配する。そういう立場の人間で、それができる人間だ」
「うん」
「そんな人間が前に出てくるということは『そうすることが必要』だからだ」
「……」
「もしも彼女が俺たちの視認出来る場所まで現れたのなら、間違いなく何か仕掛けてくる。その事を頭に入れておいてくれ」
「うん」
凌操が警戒しろと名指しした曹操。
そんな人物が出てきた事に対して呂布が出した結論は単純明快。
「なにかされる前に倒す」
軍を率いる者である以上、ここで倒してしまえば相手の士気を砕くことができる。
彼女は自分がそう思って動く事こそあちらの思惑だと察した上で曹操目掛けて走り出した。
「させん!」
同盟相手の危機に今まで隙を窺っていた関羽が飛び出す。
何度目かのぶつかり合い。
そこに夏侯淵からの弓射が関羽への援護として加わる。
夏侯淵の攻撃は関羽の隙を埋める絶妙のタイミングで行われ、呂布は曹操へ近付く事を諦め、目の前の相手の掃討を優先することにした。
そこに許緒と典韋が合流し、呂布をその場に釘付けにする。
囲まれる事を嫌った彼女は後ろに大きく跳躍し、立ち上がっていた三羽烏、戻ってきた張飛を含めたすべての敵を視界に入れた。
「……私がお前たちを相手にしている間に刀厘を倒そうとしているのはわかった」
相手側の思惑の一部を看破した呂布は戦友の危機に存外冷静だった。
彼女からすれば『焦る理由がない』のだからそれも当然なのだが。
「お前たちは一つ勘違いしている」
「……なにを言っている?」
武器を地面に突き立て、大きく深呼吸する呂布。
彼女の様子に得体の知れないものを感じた関羽はその言葉の意味を問いただそうと声を上げる。
数瞬、伏せられた顔を上げた呂布は笑っていた。
嬉しくてたまらないという、子供が家族を自慢するかのような無邪気な顔で笑っていた。
「刀厘は負けない」
同時に『呂布ではない』何者かの気配が膨れ上がる感覚が戦場に広がる。
武官も兵士も、少しでも察知できる力を持っている者たちが例外なく気を取られてしまうほどの存在感。
それが二つ。
「これは、姉者か?」
「ならもう一人は……」
曹操と夏侯淵のやり取りに誰もが思い浮かべた一人の男の姿。
「最後に立っているのは刀厘だから。私を相手に足止めされていたら負けるのはそっち」
絶対の信頼、そうなるという確信を口にしながら呂布は武器を握り直す。
「そしてお前たちは誰一人ここから逃がさない。逃げられると思うな」
一番遠い場所にいる曹操を見据えて告げる言葉。
それに返答する彼女の顔に浮かぶのは不敵な笑みだった。
「逃げる必要など無いわ。私の可愛いあの子は必ずあの方を倒したという報告を持ってくるわ」
互いに別の戦場で戦う相手を信じ、その勝利を疑わず。
戦場の空気は熱く燃え上がっていく。