乱世を駆ける男   作:黄粋

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第六十四話

 行軍は順調そのものだ。

 散発的な賊徒の襲撃はこれまで二度だけ。

 それも少数による襲撃のみで、撃退は容易く。

 

 それからさらに数日が経過した現在、襲撃は鳴りを潜めている状態だ。

 討伐に乗り出した身としては、ここまで平和であるのはそれはそれで考え物なのだが。

 まあともかく軍務は今のところ順調と言えるだろう。

 

 しかしそれとは別のところで問題が発生している。

 

「うーっ」

 

 行軍中ですらひっついているこの子についてだ。

 襲撃の時も俺から決して離れない。

 いつぞやの桂花を彷彿とさせる。

 しかし今までは思春や麟たちだけでも賊に対処出来ているが、今後もこれだと問題だな。

 さらに俺はソレとは別に『とある事』でここ三日ほど悩んでいた。

 

 

 ほんの数日前の記憶を思い返す。

 

「うーん、この子ってなんて呼べばいいのかしらね?」

 

 俺の悩み。

 それはこの子を引き取る事になったその日に雪蓮嬢が言った言葉に端を発している。

 

「名前がどういうものかも知らない。つまりこの子の親はこの子に名前すら与えなかったか……一度も呼ばなかったって事ですよね?」

 

 麟が気遣わしげに少女を窺う。

 彼女の気持ちを知ってか知らずか、少女の方は麟にはそれなりに心を許しているのか目が合って嬉しそうに笑った。

 釣られるように麟も笑う。

 

 しかし雪蓮嬢の疑問はしごく尤もな言葉だ。

 これから少なくない時間を共に過ごす間柄で、いつまでも呼び名がないというのは問題だろう。

 

 皆が微笑ましげに麟と少女を眺めている中、俺はこの子の名前を考え始める。

 俺がそんな事をしている間に話は進み、弧円が良いことを思いついたとばかりに手を叩く。

 

「いっそ隊長が名付けてみたらどうです? 保護するのを決めたのも隊長ですし」

 

 弧円の言葉に隊員たちは一斉に俺に視線を向ける。

 

「それはいいですな。名前は一生の物。良き名前を考えてあげればこの子も喜びましょう」

 

 豪人殿が少女を見つめながら柔らかく笑う。

 元々、考えていた事とはいえこうも期待されると人一人の名付けをする責任の重大さが改めて理解できるな。

 自分の子供に名付けるのとはまた別の責任だ。

 

「ああ。しっかり考えてこの子が気に入る物になるよう努力しよう」

 

 この子を保護すると決めた以上、名前は必要だ。

 自分が名を呼ばれ、名を知る者がいるという事実は意識的にも無意識的にも心の支えになる。

 自分自身をしっかり認識すれば、周りにいる者たちにも今まで以上に興味を示し意識を向けるはずだ。

 

「隊長、私がこういうのも変な話ですけど。どうかこの子にぴったりの名前をお願いします!」

 

 勢いよく頭を下げる麟。

 その様子を不思議そうな顔で見つめる少女。

 

「任されよう」

 

 重々しく頷き、麟の想いを受け取り、決意を込めて少女の頭を撫でる。

 

「……」

 

 そんな俺たちの会話に雪蓮嬢は珍しく口を挟まなかった。

 何をしているのかと横目で窺えば、口元に指を当ててじっと何事か考え込んでいるのがわかる。

 何を考えているかまではわからないがその様子は驚くほどに真剣だ。

 

 しかし考えに没頭しているところを邪魔して問いただす事もないだろう。

 何かあればあちらから言ってくれるはずだ。

 俺は俺で考えなければならない事が出来た事だしな。

 

「よし、では休憩終了だ。今日中に四つ目の村に到着する予定だ。各自、気を引き締めるように!」

「「「「「はっ!」」」」」

 

 立ち上がると少女は俺の背中にしがみついてくる。

 見た目年齢にそぐわず体重は軽いままなせいでよろける事も無く立ち上がれたが、やはり軍を率いる上でこのままだと示しが付かないな。

 

 

 そんな事があったのが三日前の事。

 俺は軍務の合間にこの子の名前を考えていた。

 

 名前とは一生物の事柄。

 じっくり考えた物をプレゼントしたいと思うのが人情だろう。

 候補は幾らか絞られており、真名に至っては確定している。

 

 自分の中で考えはまとまりつつある。

 遅くても明日の夜には決めるつもりだ。

 

 そう思っていたこの日の夜。

 建業領内における最後の村に到着し、村長他から近隣の情報収集を終えて隊員たちを交代で休ませている頃。

 

 俺の天幕に雪蓮嬢が現れた。

 ちなみに少女は俺と同じ天幕で過ごしている。

 これもいつかの桂花同様、俺から離れたがらないが故の処置だ。

 

「どうしたんだ、雪蓮嬢」

「あのね、駆狼。この子の名付け、私がやってもいい?」

 

 俺は真剣な顔で申し出る彼女の言葉に驚いた。

 

「何故だ?」

「うーん、上手く言えないんだけどね。ただこの子の為に何かしたいなって思ったのよ。次期領主として、そして一人の雪蓮として、ね」

 

 じっと『野人だった少女』を見つめるその目は真剣で、しかし優しくもある。

 何が雪蓮嬢の琴線に触れたのかはわからないが、俺にはこの子の為にという気持ちに嘘は無いように見えた。

 とはいえ、俺が保護した責任の第一歩としての名付けをそう簡単に譲って良いものか。

 

「……」

 

 じっと少女を見つめる。

 何もわかっていないが、それでも自分に関係する何かを感じ取っている瞳と目が合った。

 この子自身の事だ。

 出来ればどうしたいとこの子に問いかけたい。

 しかし何の知識も持たないこの子から明確な是非の答えは返ってこない。

 ならばこの選択を責任を持って行うのも保護する俺の務めか。

 

「わかった」

「ありがと、駆狼」

 

 緊張していたらしい雪蓮嬢はふっと息を吐きながら礼を言う。

 

「もう決まっているのか?」

「ええ。で、良ければなんだけど真名は貴方が決めてくれない?」

 

 その申し出に俺は二度目の驚きを覚えた。

 

「いいのか?」

「ええ。貴方は保護する者の責任として真名を、私はこの土地の領主の娘としての責任として姓名と字を与える。名を与えたこの子の生涯に私たち二人で責任を持つ。駄目かしら?」

 

 俺の悩みを見透かして責任の等分配を申し出たって事か。

 まだまだ子供と思っていたが、そういう気遣いも出来るようになったんだな。

 気遣われた自分が情けないが、しかしこの子の成長は嬉しくも思う。

 前世を含めて過去に何度も感じてきた思いに、懐かしさと寂しさを感じた。

 

「わかった。そうしよう」

「ありがとう、駆狼。それでこの子の名だけど……」

 

「姓は陳、名は武、字は子烈よ」

 

 告げられた名に妙な納得をしていた。

 

 そうか。

 この子は孫呉の武将の名を冠する事になるのか。

 

 

 陳武子烈(ちんぶしれつ)

 孫策の頃に家臣となった人物で任官当時十八歳でありながら身長が七尺七寸(およそ177cm)と高めだったとされている。

 孫権の代にも彼に仕え、思いやりがあり人に対する気前が良かったと民に評価を受けている。

 曹操軍との合肥の戦いにおいて命を駆けて奮戦して戦死している。

 孫権は彼の死を大いに悲しみ、葬儀には直接参加したと言われている。

 

 

 名付けが意味を為すというのなら、この子は今後孫呉に仕える武将となるのかもしれない。

 無論、名がそうだからと言ってそうなるように育てるつもりは俺にはない。

 しかしこの子が望むなら俺はそれを最大限、手伝う事になるだろう。

 子供の手の届かない所に手を貸すのは大人として当然の事だ。

 

 ならば俺はこの子のこれからに輝くくらいの幸福があることを祈り、その想いをこそ真名としようと思う。

 

「真名は福煌(ふーふぁん)だ」

 

 未だ名の意味もわからない少女は俺と雪蓮とを見比べるように眺めていたが、やがて意味もわからずに屈託なく笑った。

 翌日、この子に付けられた名は部隊に周知され、その名は知れ渡る事になる。

 真名についてはこの子がその辺りの知識をしっかりと持つまでの間は、決めた俺が責任を持って預かる事になった。

 俺自身も含めて預けるかどうかの判断は慎重に決めていこうと思う。

 

「うー」

「どうした、子烈?」

 

 服の裾を引っ張る彼女に応えると、彼女はある方向を指差した。

 その方向を見やれば、何らかの報告を持ってきたのだろう思春が駆け寄ってくる姿がある。

 

「凌隊長へご報告! 賊の迎撃は完了。現在、逃げる者に追跡をかけ本拠地が無いか探りを入れさせています」

「わかった、甘卓。引き続き、周囲の警戒を頼む。領内の村回りはこれで最後。これからは賊徒に対して攻勢に出るぞ。各隊にその旨を伝えておけ」

「はっ!」

 

 報告を終えた思春は子烈の頭を軽く撫でると、伝令へと走って行く。

 

「うーっ!」

 

 撫でられた頭を自分で触りながら嬉しそうに笑う子烈に俺を釣られて笑った。

 あの子もあの子なりに子烈と関わるようになったのは喜ばしいことだ。

 

 遠征開始からかれこれ三週間ほど経過している。

 そろそろ蹴りを付けて建業へ戻る算段を付ける頃合いかもしれない。

 

 今まで訪れた領内の村で得た情報、襲撃してきた賊たちの証言。

 加えて俺たちの故郷である五村で、豊さんたちから今この地で暴れている賊徒のほぼ全てが他の領地から来ている者たちだという情報を得られたのは行幸だった。

 最近、祭や陽菜とはどうなのかとからかわれたものだが、その分の価値は十二分にあったと言えるだろう。

 あとは今回の追跡で根城が領内にあるかどうかを確認できれば、今後の方針が確定する。

 

「さて忙しくなるな」

 

 俺は子烈の歩調に合わせて歩き出す。

 ここからが賊討伐の本番と気を引き締めて。

 

 

 

 その日はあいつが安定期に入ったという事で世話を駆狼のお袋さんたちに任せて見回りがてら昼飯を食いに行った。

 どうせなら飯も塁と一緒にって思ったんだが、当の本人が気分転換してこいと俺を追い出しやがったのでやむなく外に出る事になっちまったんだ。

 

「ほんの少し前まで死にそうな顔してた癖になぁ」

 

 ぼやきながらも俺は自分の顔が笑っている事を知っている。

 あいつが俺を気遣う空元気なんかじゃない『本当に元気な姿』を見せられるくらいに落ち着いた事が嬉しいんだ。

 

「……久し振りにあそこ行くか」

 

 言いながら歩く先にはあいつの世話でしばらく縁がなかった拉麺屋。

 相変わらず繁盛しているみたいだ。

 具材や汁の組み合わせを客の好みで変えられるって珍しい試みを始めてから、この店から客足が遠のくのを俺は見たことがない。

 あんまり盛り過ぎると値段が馬鹿にならんが、それでもそこそこ安いってのも客側からしたらありがたい話だ。

 今では暖簾分けした奴らがここ以外にも店を出すなんて、大胆な事考えてるなんて噂も聞くくらいだ。

 

 まぁ繁盛している店だから、偶に余所から来た馬鹿に嫌がらせされることがあるんだが。

 ただここは俺ら城の兵士たちにとってもありがたい場所だ。

 大体、兵士の誰かが飯食うために来てるから騒動を起こせば即鎮圧されている。

 

 そういう意味でもこの店は今の建業で一番安全に飯が食える場所なのかもしれねぇな。

 

 そんな事を考えながら外に出された席で飯を食っている客たちをすり抜けて暖簾を潜る。

 

「おーい、一人なんだが席空いてるか?」

「お、程隊長! 久し振りっすね。こっちどうぞ!」

 

 顔見知りの店員が俺を見て喜びながら席に案内してくれる。

 周りも俺が来た事に気付いたのか口々に声をかけてきた。

 

「おお、程隊長。そのお顔を見るに韓隊長の具合は良いようですね」

「ああ。だいぶ落ち着いてきたぜ」

 

 俺の答えにほっとした顔をするのは交番勤務の兵士たちだ。

 こいつらは元が同じ農民出だからか、俺たちをすげぇ慕ってくれている。

 別に豪族出身の宋謙のおやっさんとかを毛嫌いしてるとかはねぇから慕われるの自体は別に好きにすりゃいいんだが、なんというかこれが結構気恥ずかしくていつまでも慣れないんだよなぁ。

 

「今度、韓の姉御が元気になったら是非、この店にどうぞ!」

「言われなくてもそうするさ。あいつもここの拉麺は好きだからな。ほい、豚骨の叉焼大盛り頼むわ」

 

 渡された採譜を見もせずにいつものを注文する。

 店員も心得たもんで採譜を受け取り、注文を奥の厨房に告げた。

 

「豚骨の叉焼大盛り、入りましたぁ!」

「「ご注文ありがとうございます!!」」

 

 奥から聞こえる気合いの入った声が耳に心地よい。

 久し振りの拉麺が来るのを心待ちにしていると不意に視線を感じた。

 

 探るような、というよりはあからさまに挑発的な視線。

 偶に雪蓮様や塁たちが見せるのと同一の、いわゆる『戦いたがり』な連中のソレ。

 

「俺に何か用か?」

 

 振り返りながら問いかける。

 視線の主はすぐ後ろの席に陣取っていた。

 三人組の雪蓮様か蓮華様くらいの年齢のお嬢ちゃんたち。

 

 その中で冗談かというくらいメンマが盛られた器に手を付けている奴が視線の主だった。

 正直、挑発的な視線がどうこうよりも麺なんざ見えないくらい盛られたメンマの器の衝撃の方が大きい。

 思わずそっちを凝視しちまった。

 

「ふむ。不躾な視線を向けて申し訳ない。いきなり現れた強者につい興味をそそられてしまいましてな」

 

 飄々とする割に真剣な瞳で謝ってくるメンマの少女。

 挑発してきた割には冷静みたいだな。

 いきなり襲いかかるような阿呆じゃないようで何よりだ。

 

「(しかし構わない、と言っちまうのは一応建業で隊を預かる人間としちゃ駄目だよなぁ……)次からは気をつけな。俺だから声をかけるだけで済ましたが、血の気の多い奴だったらきっと騒ぎになるからよ」

 

 具体的には雪蓮様とか塁とか雪蓮様とか機嫌が悪いときの祭とか、だ。

 

「ははは、本当に申し訳ない。しかし偶然にも同じ店で食事する仲になったのです。これも縁、一時の談笑など如何ですかな?」

 

 最初からそれが狙いだったのに臆面もなく言うな、この子。

 彼女と同席している二人の少女も俺の返答に期待しているみたいだし。

 まぁいいか。

 

「構わねぇよ。ただ俺は既に妻がいて近々子供も生まれる予定だ。惚れられても応える事はないからそのつもりでな」

 

 ただその思惑に乗るのも癪なんで、ついらしくもない事を冗談めかして言ってやる。

 少女たちの様子を窺ってみると例外なく年相応に目を丸くして驚いていた。

 

 意趣返しが成功した事に内心で笑いながら、俺は席ごとその子たちの方に振り返る。

 

「さぁてまずは名乗ろうか。俺は程徳謀。建業に仕える武官の一人だ」

「建業が誇る武官四天王のお一人がご謙遜を。私は趙子龍(ちょうしりゅう)。しがない流れ者ですな」

 

 俺の名乗りに対してまずメンマの少女が名乗った。

 

「その名に恥じない働きをするつもりではいるが、初対面の人間に言われるとなんか照れるわ」

 

 俺たち五村を故郷に持つ四人を指した四天王という異名。

 蘭雪様は俺たちの将来性を期待してこう名付けてくださった。

 俺たちは全員がそれに応えるだけの働きをするつもりでいる。

 

「私は程立(ていりつ)と申します~」

 

 視線を移すと頭に人形を乗せた少女が名乗る。

 最後の一人、眼鏡をかけた少女を見つめると彼女は一度深呼吸をしてから名乗った。

 

「私は戯志才(ぎしさい)と申します」

 

 俺は『覚えのある名前』が出た事で、思わず席から立ち上がりそうになった。

 なんとか堪え、眼鏡の少女の顔を見つめる。

 こいつが名乗った名前は僅かな情報を頼りに駆狼が今でも捜している桂花ちゃんと一緒に人攫いされた同じ年の少女の名だ。

 

 流石にこの子がそうなのかどうか俺には判断出来ない。

 いや仮にこの場に駆狼がいたとしても、自称戯志才が本物かどうかなんて判断は出来ないだろう。

 なにせ俺たちは顔すら知らないのだから。

 

 とりあえず、この子については様子を見るか。

 もしも何か意味があってこの名を名乗っているなら、どっかであちらさんから動きがあるはず。

 

「さて話すっつったが何を話すんだ? あいにくと俺には一回り年下と盛り上がれる話題ってのは思いつかんぜ?」

 

 俺は暗にあちらから話題を振るよう促し、会話の主導権をあえて譲った。

 このただの旅人というには身なりが良くて、隊を預かる人間を相手にしても動じない肝が座ったお嬢ちゃんたちの事をその言動から少しでも知るために。

 

 そうして始まった談笑は本当にただ拉麺を食べながらの世間話だった。

 

 元々は戯お嬢ちゃんと程お嬢ちゃんの二人旅だったんだそうだ。

 まぁ普通に可愛い子たちだからな。

 治安の悪いところで見事に賊に襲われ、その時に助けてくれたのが子龍で、そこからの付き合いらしい。

 かれこれ一年くらいは一緒に旅をしているって話だ。

 

 しっかし他の領地の話をどこにも属していない人間の口から聞けるって言うのはありがたいな。

 うちの密偵連中の情報と摺り合わせれば、情報の正確性を上げられる。

 

 

 俺の方からは仕官した時の話やら仕えてからの他愛ない話をしてやった。

 領主自ら俺たちを求めたって話は噂程度に聞いていたらしく、そこについては全員が食いついて聞いてきた。

 自分の長く綺麗な桃色の髪と自身の命を対価に、しかも片方を先払いしてまで俺たちに仕官してほしいと言われたって教えてやると、蘭雪様の破天荒で型破りな行動に美少女にあるまじき顔をしていたな。

 

 さすがに仕官してからの城での日々については色々とぼかして話した。

 機密に引っかかりそうだし、俺の情けない話ばっかり出てきそうだし。

 

 仕官話について話したのは蘭雪様が余所の領主と良い意味でも悪い意味でも違うって事を印象づける為だしな。

 久し振りの拉麺を食べ終わるまでの間、俺はこの若者どもとの他愛ない話を楽しみ、そして何事もなく別れている。

 

「なんか楽しそうね、激。食事を外で取ったのは良い気分転換になったの?」

 

 病室で薬草を煎じた温めの茶を飲む塁に、俺は笑顔で頷いた。

 

「面白そうな子たちがいたんだよ。きっとお前も会ったら気に入る。ああ、それよりお前は子龍とは戦いたがるかもな」

「へぇ、面白そうな話ね。教えてよ、その子たちの事」

 

 その後は日が暮れるまで活力溢れる若者たちの話に花を咲かせた。

 

 

 塁の部屋を後にして自室に戻る間、俺はしばらくこの街に滞在すると行っていた三人組の一人を思い出す。

 

 時折、思い詰めたような顔をする戯志才と名乗ったあの子。

 ちょっと調べた方がいいか。

 あとはあの子たちがいる間に駆狼が戻ってきてくれればいいんだけど。

 

 あいつが自分の罪だと抱え込んでいる事柄に、大なり小なり関係していると思われる少女。

 

「先に文で教えるか? ……いや流石に今は軍務に集中させないと駄目だろ」

 

 あーでもないこーでもないと考えながら、俺は眠りについた。

 この翌日、兵士志願と称して子龍たちが兵舎に駆けこんでくるなんて思いもしないで。

 

 


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