乱世を駆ける男   作:黄粋

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今年に入ってから初めての投稿となります。
リアルの事情が次々と荒れてしまい、一話投稿するのにずいぶんと時間がかかってしまいました。
申し訳ありません。

例年以上に投稿が安定しませんが、今年もこの作品をよろしくお願いいたします。


第八十三話

 冀州中央へ何事もなく到着した俺たちは現在。

 黄巾党本隊の根城と目されている砦から離れた森で息を潜めていた。

 大部隊を率いての行動のため、それなりに距離を取らないと相手側に気取られる危険性が高いが故の位置取りだ。

 

 もちろん、ただ隠れているだけではない。

 途中で都への調査から呼び戻された思春や明命たちによって黄巾党本拠地への偵察が行われている。

 

 今回の場合、警戒する相手とは砦の黄巾党はもちろんだが『冀州に黄巾党本隊あり』という情報を嗅ぎ付けた他の領土の勢力の事も指している。

 思惑は領主によって異なるため、安易に仲間意識を持つ事は残念ながら出来ない。

 背後から刺されない為にも、先んじて情報を握る為にも部隊の位置を隠さなければならないのだ。

 とはいえ今回の部隊規模から言えば完璧な隠蔽は不可能であるし、痕跡を消し続ける事も長くは出来ないだろう。

 

 人がいれば生活の痕跡がどうしても残る。

 これだけの規模ともなれば猶更だ。

 偵察部隊には迅速に任務をこなしてほしいが、連中の警戒がどの程度の物かによるから難しい所だろう。

 

 本隊での真っ向突撃でもそうそう遅れは取らないと自負している。

 しかし馬鹿正直に突撃しては被害が馬鹿にならない。

 相手に最大の痛手を、味方には最小の損害を、軍を率いる人間としては当然の思考だ。

 被害を最小限に抑えようとするならばきちんと策を練らなければならない。

 

「隊長……」

 

 息を潜めた賀斉の声に俺は考え事を脇に追いやり、耳をそばたてる。

 

「どうした?」

「甘卓、周泰他偵察部隊が帰還しました。彼女らの報告を受けながら策を練るので集まれと、伯符様からのご命令です」

「了解した。周囲の警戒を頼む」

「はいっ! お任せください」

 

 俺たちは現在、森の奥に簡易的な陣を敷いている。

 そこが集会の場所であり、雪蓮嬢、冥琳嬢の寝床でもある。

 俺や祭、慎に部下たちは野宿だが問題はない。

 

 遠征する事が多い俺はもちろん、二人も部隊の皆も手慣れたものだ。

 火を使えば遠目からでも煙が目に付き、森に何かが潜んでいる事が露見するので使用できない。

 食事は保存食のみで、身を清めるのも最低限にしている。

 

 徹底して身を隠すというのは不自由なものだが、今のところ不満は上がっていない。

 雪蓮嬢、冥琳嬢もいつもと変わらず、いざ開戦した時の戦略を慎たちと練っている。

 現孫家当主とその最も近い側近は実に頼もしい。

 

 俺が来た事に気づいて荷馬車の中で広げていた地図から顔を上げる雪蓮嬢、冥琳嬢、祭と慎。

 いずれも数日の不自由な生活で疲労した様子は見られない。

 そして数日ぶりに姿を見る、戻ってきたばかりの思春と明命の姿がある。

 

「来たわね、駆狼」

「お疲れ様です。駆狼様」

 

 雪蓮嬢、冥琳嬢が不敵に笑いながら出迎える。

 その様子を見れば思春達が攻め入るのに必要な情報をきちんと収集してきたという事がわかるというもの。

 俺もまた不敵に笑い返した。

 

「お待たせしました。ではこの黄巾の乱を終わらせる為の戦略を話し合いましょう」

 

 今回の部隊の総指揮官二人に敬語で会議をするよう促す。

 その場にいる全員が俺の言葉に頷き、改めて広げられている地図へと目を向けた。

 

「ではまず私と周泰から偵察の結果をご報告させていただきます」

 

 口火を切ったのは思春だった。

 

「本隊と呼ばれるだけあり、砦の規模、人間の数は今まで撃退した部隊の軽く数倍はありました。あくまで私の目測ですが人員だけでも軽く万を越えております」

 

 流石に今まで撃退してきた連中と本陣とでは格が違うな。

 人数だけを聞くだけでもそれがわかる。

 

「反面、装備は貧弱でした。手入れも行き届いていない槍や剣、鎧も打ち直された形跡が見られずボロボロです。鍬や木の棒に適当な鉱石を括り付けた粗末な斧などの方が多かったです」

 

 思春の言葉を引き継ぎ、明命もまた見てきた物を語る。

 

「そもそもが民の反乱。武器の手入れについて知っている者も少なく、鎧の整備など出来る者など早々いないだろう」

「とはいえ鎧を貫く事は出来なくとも、見えている皮を傷つける事は出来る。軽装の者には決して油断しないよう通達すべくでしょうな」

「もちろん心得ておりますよ。祭殿」

 

 然もありなんと顎に手を当てて頷く冥琳嬢に、祭は釘を刺すものの当人はその苦言すらも想定していたようで鷹揚に頷いて見せた。

 

「ふむ。余計な口を挟んでしもうたようじゃの」

「いいえ、必要なお言葉です。お気になさらず今後も口出しをお願いします」

「あい分かった」

 

 さらりと交わされるやり取りは彼女ら特有の信頼の証だ。

 雪蓮嬢が建業領主を受け継ぎ、冥琳嬢がその側近として付いてからだったか。

 祭と冥琳嬢は建業の治政や警備の関連で会話する事が急激に増えた。

 それまで会話をしていなかったわけではないのだが、そこまで深く関わり合う事もなかったのだ。

 それが今ではこの二人は軽口のような応酬でやり取りするほどに互いに心を許している。

 この二人の間に余人を交えない確かな信頼関係があるという証だ。

 

「張角たちが直接労っているようでその士気はとても高く、正面から事に当たれば無用な被害を被る可能性があります。聞き取った会話の内容から本当に一部の者は現在の戦局が劣勢に傾きつつある事を理解しているようです」

 

 これには驚いた。

 張角たちという美酒に酔って考える力などないものと予想していたからだ。

 

「負ける状況が見えてきても、それでも乱をやめる気はないという事かい?」

 

 慎が眉間に皺を寄せながら疑問を口にする。

 

「……おそらくもう引き返せない所まで来ているんだろう。『負けるからやめよう』なんて言ったら、張角たちの力が今の世の朝廷に負けたと認める事になる。狂信者はそんな気弱な発言を絶対に認めない」

 

 狂信者というのは自分が信仰する存在を否定する者を許さないのだから。

 

「信仰の為に自分が破滅しても周りの仲間が死んでもいいって事、なんだね……」

 

 俺の言葉に慎は辛そうに目を伏せて零す。

 戦う事を否定せず、しかし戦う事を忌避する慎には厳しい状況だろう。

 だがこちらの心情を汲み取る事があちらに望めない事もまた事実だ。

 

「奴らのほとんどは既に死兵であり、張角らに仇なす者はたとえ差し違えても、と考えていると思われます。逆に冷静に戦局を見れる者たちは奴らの間では鼻つまみ者のように扱われているようです」

「そこまで盲信している連中しか張角達の傍にはいないわけね。そんなに良い物なのかしらね? その子たちの唄や踊りって……」

 

 雪蓮嬢は黄巾党の有り様に呆れつつも、その気配には油断も慢心もない。

 理解できないと考えても、軽視する事はない。

 

「この世の中で心の拠り所に選ぶくらいだ。良い物ではあるんだろうさ」

 

 冥琳嬢が適当に応えると、雪蓮嬢もそれ以上この話題を続ける事はなかった。

 

 黄巾党の連中は気付いているのだろうか?

 張角たちを想って立ち上がった自分たちの行動で、旅芸人の踊りと唄は有名になった。

 しかしそれは優れた芸に対する称賛ではなく、前代未聞の乱を起こした首謀者たちの使う怪しげな術として、だ。

 黄巾党と言う存在の真意はどうあれ、この名声は血塗られた物でしかない。

 

 この乱の末に張角たちがどうなるかはわからない。

 だが捕まれば都に連れて行かれ、晒し首だろう。

 女性である以上、辱めを受ける可能性も高い。

 

 仮に逃げおおせたとしても、だ。

 その先の人生で張三姉妹は二度と己の名を名乗れず、追っ手や民の目に常に怯えて過ごす事になる。

 

 今のままでは全てが終わった時、どう転んでも張三姉妹に明るい未来は来ないのだ。

 

「黄巾党については以上です。次に砦の周辺についてですが……我々の他に部隊を展開している勢力が複数ありました」

 

 全員の目の色が変わる。

 黄巾党本隊の情報を頭に残しつつも、自分たち同様にこの場所に辿り着いた今回の競争相手について意識を切り替えたのだ。

 

「具体的にそれが『どこの誰か』はわかったか?」

「一つ確実な勢力があります。他については憶測交じりになりますが……」

「話してくれ」

 

 冥琳嬢とのやり取りを経て、思春は一度深呼吸をして間を置いてから話し出す。

 

「一つは漢軍旗ではなく自身の名と想われる『曹』の旗を掲げておりました。さらに私が個人的に見知っている顔を見かけました。旗に掲げられた一文字も合わせれば答えは明白となりましょう」

 

 そこで言葉を切ると思春は俺の顔を見る。

 俺にもここまで聞かされれば相手が誰であるか予想が付いていた。

 

 今の時代、領土を持つ者はすべて漢王朝という国の兵であり、旗は漢で統一されている。

 そこをあえて違う旗を掲げるという事は漢王朝という枠組みの中にあって己を誇示するという事になる。

 この時代では生半可な覚悟では出来ない事と言えた。

 そんな事が出来る『曹』を持つ者、加えて思春が個人的に見知っているとなればかつて陳留で出会ったあの三人のいずれかだろう。

 

「「曹孟徳の軍勢」」

 

 俺と思春は意図せず同時に勢力の正体を口にした。

 

「夏侯妙才、夏侯元譲の指揮する姿を見かけました故、まず間違いないかと」

 

 どうやら戦場での最初の再会は肩を並べての物になりそうだ。

 

「ふぅん、やっと会えるのね。あの曹孟徳に」

 

 雪蓮嬢の気配が、剣のような鋭さを持つ者に変わる。

 

「雪蓮……気持ちは分からなくもないがそう逸るな」

「どうせすぐに戦場で相見える事になりましょう。今からそう殺気立つ事もありますまい」

「……そうね」

 

 鋭い気配が鎮まるが、それは外に出さないようにしただけでこの子の中では未だに剣が入念に研がれている事だろう。

 

 まぁ戦意が高い分にはいい。

 暴走されるのは困りものだが、最近ではあの病気はまったく出てこなくなっている。

 あの誓いもあるし、ここでの心配は無意味だろう。

 

「曹孟徳がいる事はわかった。他の勢力がどこかわかっているのか?」

 

 話を変えるように俺から思春に水を向ける。

 彼女は一度咳払いをすると自身が注目されたことを確認して他勢力について語りだした。

 

「他はすべて漢軍旗のみのため、推測交じりになります。まず騎馬兵がすべて白馬で構成されていた事から幽州の勇『公孫賛(こうそんさん)』」

「おお、趙雲たちが向かった先ではないか」

「もしかしたらこの場にも来ているやもしれませんね。公孫賛は北部の山賊へ備え、実戦経験も豊富な勢力と言えましょう。特別に調練された白馬による行軍の速さは幽州随一。油断していい勢力ではありません」

 

 

 公孫賛伯珪(こうそんさん・はくけい)

 後漢末期の動乱で有力な将軍として頭角を現し、後の世にて群雄の一人として立つ事になる北方の勇将。

 北の異民族から領地を長年守り続けた存在で、異民族からは白馬長史と恐れられていたと言われている。

 黄巾の乱、反董卓連合以降の群雄割拠の時代で以前から確執のあった劉虞や袁紹と敵対。

 転がり落ちるように勢力を落とし、最後は袁紹に攻め入られた折に自らの居城に火を放ち、家族ともども自害したとされる。

 彼が敗れた要因の一つとして、彼が迫害した名士層が袁紹に付いた事が挙げられている。

 伝え聞く人格としてはそこまで善良でもない。

 自身が優遇した豪商人は至る所で悪さを働いたと言われている事から、人を見る目はなかったと言われている。

 公孫賛は人事に自身の私情を挟むことが多かったらしく、それが結果的に自分の首を絞める事に繋がった印象が強い。

 一説では盧植の元で劉備と共に学んだとされ、劉備三兄弟を一時期配下に置いていたと言われている。

 

 

「西方には大規模な軍勢。こちらは漢軍旗と共に『皇』の旗があったことから正式に黄巾党征伐の命を受けた『皇甫嵩』将軍だと思われます」

「都の正規軍……それも名声轟く皇甫嵩殿か。朝廷、いや十常侍の討伐への意気込みはどうやら本物のようだな」

「朱儁殿と肩を並べる漢軍が誇る将軍の筆頭、いえおそらく最も実力を持つかの方をこの役割に置いたわけだしね。遊びは一切ないって事よね」

 

 蘭雪様の代からの縁を持つ朱儁将軍。

 彼女を押しのけ、漢へ忠誠を誓う猛将として最初に出る者『皇甫嵩義真(こうほすう・ぎしん)』将軍。

 そんな彼を遣わせたという事実が、朝廷の本気を物語っている。

 

「まぁ十常侍の一角が『黄巾党と思しき人間』に殺されたのならば、いくら世俗に興味がない連中と言えど全力になるだろうさ」

 

 冥琳嬢は暗に『そこまで目に見える形で自分たちに直接的な被害が無ければ十常侍は未だに黄巾党の事など気にも留めなかっただろう』と言いたいのだ。

 この場にいるすべての人間が彼女の言葉の意図する所を把握している。

 

 十常侍が我関せずだった黄巾党討伐に乗り出した理由。

 それは冥琳の言葉通り、黄色い布をつけた人間によって十常侍の一人が殺害された事が原因だった。

 お供を引き連れて都の外へ出ていたらしいそいつは、今まさに都を襲おうとしていた黄巾党の一団と遭遇してしまったのだ。

 

 これがもしもどこかの領主の軍隊であったならば、異様に豪奢な馬車と護衛する身なりのよい兵士の姿を見れば何かを察して頭を垂れただろう。

 名うての賊の類であったならば連中に対して手を出すべきではないと冷静に、そして狡猾に判断して回れ右をするかもしれない。

 

 しかし黄巾党はそのほとんどが農民の集団だ。

 彼らから見た場合、政権を牛耳る十常侍と言えども身なりの良い貴族としか見えず、むしろ『格好の獲物』でしかない。

 権威を見せつけようと無駄に豪華な武装をした護衛もまた同様。

 むしろ十常侍と聞いても、それが何を示すのかわからない可能性すらあるだろう。

 加えて他者からの強奪に酔いしれていたとすれば『目に見えない権威』など通用するはずもない。

 

 結果、 いつも通り居丈高に振る舞った十常侍は数の暴力で蹂躙されてしまう事になる。

 身包みをはがされた上に、たかが農民と侮蔑する態度が彼らの不興を買う事で死んだ後の身体すらもズタズタにされてしまった。

 十常侍の身元が割れたのは、這う這うの体で逃げ帰った『護衛』の報告があったからこそだ。

 そうでなければ誰が誰だかわからない状態だったそうだ。

 

 黄巾党は高慢ちきな貴族を自分たちの手で倒した事に気を良くし、戦利品を手に意気揚々と帰ったのだろう。

 それが自分たちの滅亡の要因になるだなんて考えもしなかったはずだ。

 

 これらの情報を俺たちは周洪からの密書で知った。

 とはいえこの事件には違和感がある。

 例えば数の差は明らかであったにも関わらず『都合よく報告が出来る程度に無事な状態の護衛が逃げ出したこと』などがそうだろう。

 勢い任せとはいえ、彼らの上流階級に向ける怒りは本物だ。

 そんな彼らの執拗な追跡から逃れられるような者がいたという事実には作為的なものを感じる。

 どこの誰の謀かまではわからないが『十常侍の重い腰を上げさせる為に仕組まれた出来事なのではないか?』と考えられている。

 少なくともこの場にいる面々の中ではこれは共通認識である。

 

「それと皇甫嵩将軍の軍勢の中で異なる旗を掲げた軍勢がありました。旗は『呂』」

 

 明命の補足に雪蓮嬢と祭が首を傾げた。

 

「『呂』? ……皇甫嵩傘下にそんな姓を持って戦場に出る人なんていたかしらね?」

「いないとは言い切れんが……自分の旗を掲げる事を認められているほどの強者、あるいは権威を持つ者となると儂には思い当たる節がないな」

 

 冥琳嬢は目を細めて顎に手を当てて無言のまま思案し、慎は米神をとんとんと叩きながら記憶を掘り起こしている。

 俺は少なくとも片方にすぐ思い当ってしまったわけだが。

 

「確か今の代将軍何進(かしん)の命を受けて都に『丁原』が来ていたな?」

 

 俺の言葉を受けて『呂』の旗の正体に思い当ったのだろう。

 場の空気が緊張を増していく。

 

「なるほど、噂の『呂布』が黄巾党討伐に派遣されたのか」

「何進が丁原を都に呼び寄せた理由は十常侍との確執だろうが、十常侍を経由して帝から戦力を派遣せよと命じられれば丁原に拒否する事は出来ない。呂布は調査した性格ならば要請を断る事はないでしょう。可能性は高いですね」

 

 厄介な味方が現れたと言わんばかりの冥琳嬢の言葉には苦笑いするしかない。

 なにせ入手した情報だけ見ても、人間離れした能力を証明している。

 戦場を荒らすだけ荒らす人型の台風。

 下手をすれば手柄を根こそぎ奪われるという事もありえるほどの能力は早い物勝ちのような今回の戦いでは実に厄介だ。

 

「つまり今回の戦は、より迅速に事を為す必要が出てきたわけじゃな」

「元からそういう方針だったけど、思ったよりも他の軍勢が多いからね。奇襲目的で痕跡を隠して潜んでいたけれど、これは事を急がないと何も出来ずに終わるかも……」

 

 祭と慎の懸念は正しい。

 あちらもまだ様子見ではあろうが、隠れる事なく布陣している様子を見るに黄巾党側を挑発する意図が少なからずあるのは明白だ。

 追い詰められている自覚の有無は兎も角として黄巾党は憎き官軍がそこに在れば釣れてしまうだろう。

 

「雪蓮嬢、冥琳嬢。あまり悠長に構えてはいられない状況になってきた。これから俺たちはどう動く?」

 

 俺は意見具申する前にあえて今回の主役である二人に水を向ける。

 俺の言葉を切っ掛けに皆の視線が二人へと集まった。

 

「冥琳、私たちが手柄を立てる策はあるかしら?」

 

 臣下の視線を真っ直ぐに受け止めた雪蓮嬢は、傍にある最も信頼する朋友へ問いかける。

 

「無論だとも。その為には……刀厘殿、貴方に少し骨を折っていただかねばなりません」

 

 俺を名指した言葉に対して、俺は地面に片膝を付いて手を組み頭を垂れて応えた。

 

「何なりとご用命ください」

 

 この四半刻後、俺は祭と思春を伴い、自分の隊を率いて『曹』の旗を掲げる軍勢の元へと向かうことになる。

 


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