後悔はしていないが反省はしている。
でも、やり過ぎくらいが丁度イイって言うよね?
そんなわけで投稿させて頂きます。
――――――“目覚めよ”。
“目覚めよ”――――――
誰の声か分からぬまま眠から起こされ、真っ暗な闇の中で目を覚ましたのは良いが、頭の芯は靄が掛かったようにはっきりせず、周りから上がる声に釣られるように一人、また一人と声を掛け合い互いの位置と現状を確認していた。
「……とぉる」
「なんだ? お前それしか言えないのかよ?」
不意に誰かがそう言ったが、相手も話し掛けようとしたわけではなく、単に思った事を口にしただけのようで、反応を返せない「とぉーる」とだけ呟き続ける者に対し、直ぐに興味を失ったようで先に進んでいた奴に追い付こうと離れていく。
何を考えているか分からない「とぉーる」と未だ呟く者は、ふらふらとした足取りで既に通り過ぎて誰も居ない通路を歩き始めた。
「ちゃらららーん、ちゃららららーん、ちゃらららーん☆ いえい!」
珍妙な声を発して突然現れた髪を頭の左右の両端で括った女が、ようやっと暗闇から出てきて困惑している連中を尻目に、この場にそぐわないほど陽気な雰囲気で話しだす。
「皆さーん、ようこそグリムガルへ。案内役のひよむーだよ! よろしくねー! はいっ! それじゃあ元気に皆さんもお返事ー」
更に場の混沌具合を深める情報を提供した「ひよむー」と名乗る女から、『グリムガル』と言う明確な地名らしき場所の名を聞き、記憶に無い名に対し驚きの表情を浮かべる連中だったが、それらには一切構わず「ひよむー」は一方的に凄まじい盛り上がりを見せ話を進める。
「えー、皆さん既にーお揃いのよーですし、早速移動しちゃいましょー!」
「はぁっ!? お前何勝手に移動するとか決めてんだ! どう言う事なのか、俺様に分かり易く説明しやがれつーんだよ!」
連中の中で適当に話を聞いていたらしい頭がぼさぼさの男が、馬鹿にされたとでも思ったのか怒りも露わに捲し立てた。
だが「ひよむー」にはこのぼさぼさ男に従う気は全くないようで、鼻歌交じりに一行の行き先を決めるその様子に、他の連中も怒りを触発させたが次の威圧が籠った一言で一気に冷却される。
「茶番はもういい、早くしろ」
そう発した背の高い銀髪の男の声は怒りの籠った風ではないものの、その簡潔な物言いは聞いた者達に対し普段目にしない“暴力”を感じさせるに十分な威力があった。
「物分かりのイイ皆さんにひよむー感謝感激ーっ! ではでは皆さん、確りついて来てくださいねー!」
語尾の最後の微かな声に「逸れたら漏れなく地獄へご招待ー」と言う小さな呟きが付いて来た事は、誰の耳にも届かず風に乗って消える。
どうやらここで何を言っても無駄らしく、今は「ひよむー」に従うしか無さそうだと感じた連中は渋々なのかどうかは分からないが、先程威圧的な一言を発した男に不満を持って居そうな者さえ、促されるように遠くに見えた明かりの先に足を向けた所で、今頃になって奥から出てきた者が現れた。
足取りは覚束なく、時折何かを呟きながら進むその顔には表情と言うものが一切乗って無く、どこを見ているのか分からない虚ろな眼を見て全員が不気味さを覚える。
しかし「ひよむー」だけはそんな事全くお構いなしに、再度元気な声を上げて皆の音頭を取るように叫んだ。
「あれあれー? まだ居たんだ……? んー、遅れない様に誰か相手してあげて。じゃあじゃあ、いよいよしゅっぱーつ!」
これからどうなるのか、そもそも本当この女について行くのが正しいのか、そんな得体の知れない不安と焦燥に駆られながらも一同はただ歩き出す。
その中の何人かが空を見上げると、不吉にも思える赤い月が妙に幻想的に輝く様に対し、誰に訊ねるでもなく各々体の内から湧いた疑問を言葉に乗せる。
「月って、赤かったか?」
当然ながら既に周りは暗く、丘を降りる途中で見かけた並んだ石の集まりに、誰かの「なんだここ? って、墓地かよ。辛気くせーなー」と愚痴る声が辺りに響く。
そこを横切りながら進んだ先に見えてきた街、名を『要塞都市オルタナ』だと言う説明がある。外周は所々高い壁で守られ門には鎧を着た兵士が歩哨に立ち、要塞の名に相応しいか疑問が浮かぶ作りだが、夜でも点々と明かりが灯され少し耳を傾ければ、喧騒と賑やかな雰囲気がそこかしこに在り、様々な生活の
そんな中を歩きながら、漸く目的地らしい一軒の建物の中へと案内され、中に入った途端食べ物と酒、それに微かに漂う人の臭気の歓迎を受け、全員が押し込められると此処まで一同を連れてきた「ひよむー」は、これで私はお役御免とばかりにさっさと消える。
部屋のカウンターテーブルの奥には、赤毛で前髪を顔に垂らした一人の男が座っていた。
「ようこそグリムガルへ、歓迎するわ子猫ちゃんたち。私はブリトニー。当オルタナ辺境軍義勇兵団レッドムーン事務所の所長兼ホストよ。所長と呼んでもいいけど、ブリちゃんでもオッケー。ただしその場合は、親愛の情をたっぷり込めて呼ぶのよ。いい?」
愛想良さ気にそう話し始めた男……は、気怠そうな言葉とは裏腹に鋭い眼差しで一同を値踏みでもするように見つめる。誰かが「げっ、なんだよあいつ、所長とか言ってっけど、オカマじゃねーか!」と、空気の読めているのかそうじゃないのか分からない返事を返すが、それを聞かなかったかのように気迫の籠った声がその場を塗潰す。
「質問に答えろ。ここがオルタナって街なのは聞いている。だが、辺境軍だの義勇兵団だのってのは何だ。なんで俺はここにいる。お前はそれを知っているのか」
「威勢がいいわねぇ。ワタシ、嫌いじゃないわよ、あんたみたいな子。名前は?」
所長はまるでお気に入りの玩具を見つけたみたいに笑みを浮かべ、まだ普通に微笑んでいる事から銀髪の男と違い余裕を感じさせる。
「レンジだ。俺はお前みたいなオカマ野郎は好きじゃない」
レンジと名乗った男がそう言いオカマの「お」が出た瞬間で、どこから取り出したのか所長はナイフをレンジの喉元に突きつけ終わっていた。
一瞬過ぎて誰の眼にも捉えられず、その初動はわからなかったようだ。
「レンジ。いいこと教えてあげる。ワタシをオカマ呼ばわりして長生きできた奴は一人もいない、試してみる?」
「そうだな、殺れるものなら殺ってみろよ、変態所長」
所長は目を細めながら言ったが、レンジは平然とナイフの刃を素手で掴んだ。
掴んだ手からは当然血が流れ出しているが、そんな事は全く気にせず寧ろ楽し気に挑発する二人の放つ雰囲気に呑まれた皆は、固唾を飲んで成り行きを見ながら息を潜めていた。
だがその中の一人だけは違って、今もふらふらと身を揺らしカウンターへ近寄り、宙を見つめ何事か呟く
「……何処まで話したかしら。そう、説明の最中だったわね」
それから気を取り直したように小さな袋からカウンターへ銀貨をぶち撒け、十枚の銀貨が入っている袋と団章、それと見習い義勇兵と言う役職についての説明を行う。
更に見習いとして戦い金を貯め、見習いではない正式な団章を買えと言う事だそうだ。
誰かが「あいつ放って置いていいのかよ? ちょいヤバくね?」とか言っていたが、誰も口を開く事は無く、現在進行形でカウンターの端にぶつかり、方向を変え壁に向かって直進する
一通りの説明が終わって
「今回十分見所の在る奴も居たけど、誰よ
◆
誰の声か分からぬまま眠から起こされ、真っ暗な闇の中で目を覚ましたのは良いが、頭の芯は靄が掛かったようにはっきりせず、周りの声に従う様に促され気が付くと酒場らしき場所にいた覚えはある。
そうしてよく分からないいまま、集った連中で繰り広げられるやり取りをぼーっと眺め、皆は話を聞き終えると数枚の硬貨が入っているらしい袋と首飾り、それと見習い義勇兵と言う役職を得た所までは何となく見ていた気がした。
だが所長の言に碌に返事を返す事も出来ず、ただ譫言のように己の名前だけを繰り返し呟く事に苛立ちと怒り、そして諦めを覚えた部屋の主によって外の廊下に追い出された所で、頭を横殴りされたような頭痛と眩暈を覚え、手足の感覚が徐々に遠ざかる恐怖と軽い吐き気にどうにも我慢できず、叫び声を上げながら頭を押さえ膝を突き崩れるように倒れ込む。
己の発する声と、心配する誰かの声も辛うじて頭の隅に引っ掛かっていた。
「うう、あぁあああああっ!」
「ひっ!? ど、どうしたの!! ねえ! 誰か助けて! 急に――」
そう、思い出す様に起きた出来事を脳裏で再生させれば、確か廊下の先を歩いていた短めの薄い青みがかった髪色の女の子が振り返り、倒れる視界の中焦る様な声を途中まで耳が拾っていたが、それも急激にあやふやになり考えると言う行動を放棄するように、意識が深い底へと沈んで行く。
◆
赤子の泣く声とそれをあやす為に誰かが歌っている。
その歌声はとても優しく穏やかで、聞いていると泣き喚き暴れていた筈の鼓動がゆっくりと落ち着いたものに代わり、泣いていた赤子の感覚が共有され安らぎを感じた事で、己がこの赤子と一体となっている事に気付く。
「良い子ね……よくお聞きなさい。あなたは私の可愛い息子。あなたはきっとこれからいろんな事を学び、心と体の成長と共に経験した事を活かし、家族とこの国を支える立派な大人になるでしょう」
「あぶぶぁ!」
「ふふ、いい返事ね。あなたはそこに到達するまでの過程を自由に選べるはずよ。だけど、その選択で得た結果は全てあなたへと戻って行くの。だから決して忘れては行けない。自由とは本来不自由と表裏一体で、何か事を起こす前に、必ずその後の結果まで考えてから行動すると言う約束を」
胸に抱かれながら思う事は、まだ碌な言葉も話せない赤子に諭す様に語るこの女性は、物心つく前に流行り病で亡くなった母だったのだろうと、朧気な意識の中漠然と感じた。
再び母の口から紡がれる歌声と、伝わる体温の心地よさに負けてしまい眠りに落ちる。
「父上見て下さい!
「うん、どれどれ……よろしい。綴りを間違う事無く書けているな。行ってよし。ただしマルコ達と一緒に喧嘩などせず仲良く遊ぶのだぞ」
「はいっ! 兄上を誘って一緒に森で遊んできます!」
落ち着いた低い大人の声と子供特有の高い声の会話が聞こえる。
何となく見覚えがある様な気がして、部屋の中を見渡そうとしたがそれは叶わず、勢いよく屋敷の中を駆け抜けるように風景が両脇に流れ、やがて外へ飛び出し鮮やかな濃い緑と生い茂る木々が視界に入った所で、急に夜にでもなったかのように目の前を闇に閉ざされた。
「万物の根源たるマナの力よ、我の言葉に従い可の者達に眠りを与えん<スリープ・クラウド>」
「よっしゃ! やっぱトールの魔法の腕は俺よりも上だな。親父には悪いがどーも俺は杖なんかよりも、こっちを振り回してる方が相に合うし、何よりよっぽど恰好良いってもんだぜ!」
「トーラ、そう興奮するのは構わんが今の内に止めを刺すんだ。お前の剣の扱いの巧みさは父上だって分かってらっしゃる。トールもよくやったぞ。では次に<エンチャント・ウェポン>を使って攻撃の支援をやってみなさい」
「はい兄上っ! 任せて下さい。次も頑張ります!」
次に浮かんだ情景は囲いのある畑と、そこに続く道で槍を構え揃いの革鎧で身を包んだ数人の兵士達と、子供から少し成長したよく似た顔付きの少年二人に、それらを指揮する位置に居る馬に騎乗し騎士鎧を着込んだ青年の指示で、対峙するゴブリンの一団に向かって眠りの雲の魔法を放った場面のようだった。
その後もその兄弟達を中心とした時の流れが数年置きに続くが、その中でも一番年下らしいトールを主にした視点で、更に時間が経過していく。
やがて三人の兄弟達が大人へと成長し、父親が亡くなったあと一番上の兄であるマルコが領地と家を継ぎ、次男のトーラは鍛錬で鍛え磨いた剣の腕を活かし、都会へ出て仲間を集め冒険へと旅立ち、三男のトールはトーラの生き方に憧れを持っていたが、己の磨いた魔法の知識や魔術の技よりも、途中で天啓を受け
赤子の頃に母が囁いた薫陶が生きたのか、不思議とそれは三男トールの生き方を予言するかのようになぞっていく。
しかし何の皮肉か三男の生き方には誰にも言えない秘め事があった。
その秘め事とは己の信ずる神は表向き
確かに彼は暗黒神に仕える司祭で在ったが、元々根が善良で民や家族を愛していた事に何ら偽りはなく、己の心の欲するままに生き誰にも恥じない人生を歩む。
別の見方をするなら子供の頃から周りに不満も己の欲求を妨げるものも無く、まさに順風満帆と言える暮らしをしていたのも、悪事に手を染める必要をトールが全く感じなかった理由の一つだろうし、何よりも結果を考えずに自滅した闇司祭をよく知っていたのも原因だった。
誰が見ても知識神の司祭に相応しい……いや、少々逸脱するくらいにあらゆる知識に興味を示し、己の力の原点とも言える魔法へも傾倒し、魔術師ギルドにも顔を出す程の熱の入れようで、術式の仕組みと魔法道具の解析にも情熱を注ぐ事となる。
そして晩年、彼は自分の神に抱かれる時期を悟るとそれを家族へ告げ、遺産の問題を早々に片付けると忽然と姿を消し、趣味で蒐集していた文献から得た知識である儀式を行う準備を整え、足り無い分は魔法道具や魔晶石で補い、残りの寿命が尽きる前に己の魂をも削りそれを行った。
その発動させた儀式呪文とは神聖魔法である<
本来使う事のできない呪文だが、今迄の人生の全てを注ぎ込んだ欲がそれを成した。
未だ尽きる事のない、飽くなき知識への探求には己の一生では短すぎると考え、次の人生への“知識と技術”の
己の信仰する暗黒神ファラリスの教えにある、虚無界に行くにはまだ早すぎると考えたのも、こうした転生を志した原因の一つだった。
後にこの隠された儀式場を発見した所謂冒険者達は、噂に聞いた宝を得る為探し当て此処まで追う事が出来たのだが、力を失い器だけとなった道具類の数々と、その主らしき朽ちた肉体を詳しく調べても、発動したと思われる儀式呪文が成功したかどうかは判らず、その結果は神のみぞ知るばかり――――
◆
「――はっ! ワシは……私は、いや俺、ボク? これは
「? なんや
唐突に
だが、寝台に寝かされ看病までしてくれていたらしい事は、今も額を冷やす為か適度に絞って濡れている温い布があることから、己の予想に間違いは無いじゃろう。
現状を把握しようと部屋の中を瞳だけ動かし観察する。
開いた窓からは太陽の光が入り込み、朝を通り越し昼近くだろうと予測できた。
椅子に座り横で「トオルちゃん、なんじゃろ、だって可笑し―」と言ってケタケタと笑う子以外に人の気配を感じ頭の向きをずらすと、見覚えのある薄青色をした髪の女性と目が合ったが、その途端に怯えた表情を浮かべ勢いよく目を逸らされた。
記憶が曖昧なんじゃが、もしかするとワシは彼女に何か嫌がる事でもやってしまったのかも知れぬな。
「いや、本当に忝い。もうだいぶ体も良くなったようなので、そろそろ邪魔者は退出すべきであろう。お二人とも世話になった。このお礼はいずれ必ずするのでお許し願いたい」
「……トオルちゃんって、長い言葉も喋れたんねぇ。なんや爺臭いけどずっと自分の名前しか喋らんし、あの所長とレンジのにらみ合いに突っ込んで行くし、その喋り方も変わってて芸人さんかと思っとったわぁ」
「ユメ、そんな事言っちゃ、悪いよ」
「御気に為さらず。では「ちょーっと待ちな! お前よ、それだけで帰れると思ってんのか? 礼なら今直ぐ出せよ。たったの1シルバーでいいぜ!」……うん?」
今迄気配の感じられなかったもう一人が、上の段のベッドから頭だけを此方に下ろし、逆さのまま勝ち誇るようにそう告げおった。
1シルバーと言われて思い浮かぶのは、普段使い慣れた1ガメル硬貨。わざわざシルバーと言い直す事に意味があるのか分からんが、それならば何ら問題はない。
礼を寄越せと言いつつ、最低額を告げるこの勝気そうな青年はかなりの好人物なんじゃろう。もう会うことは叶わないが、兄上であるトーラの事が一瞬脳裏に浮かぶ。
嬉しさを感じ思わず目を細め、微笑みながら返事を返す。
「うむ、今は……残念だが手持ちが無い故、片手間の時間はかかるかも知れないが、銀貨一枚で良ければ、必ずお主らへ届けよう」
「へっへっへ~、言ってみるもんだな! これで楽して俺ら1シルバーゲットだぜ! どうよ俺様のコミュニケーション能力は! これは天が俺に与えた才能だ! アビリティだ!」
「うるさい馬鹿ランタ! なに病人からお金毟ろうとしてんよ! 1シルバー言うたら100カパーやんか。屋台のお肉で4カパー、ここの部屋代かてそんなんせえへんわ!トオルちゃんも気にせんでおいてな」
快く返事をした所、今迄横で聞いていたユメという女性が、立ち上がって上の段から顔を出した青年の頭を下から押し戻し、彼女が怒りながら話した内容から先程の礼として持ちあがった1シルバーと言う金額は、ワシが想像していた額よりも少々価値が高そうじゃなと予想できた。
この青年、実は中々に強かで益々兄上に似た性格だと分かり、つい笑いが漏れる。
「うっせえな! 細かい事一々言ってんじゃねーよ。コイツだって喜んで俺様にお礼したいって話だろーが! せっかく上手くいってんだから、ちっぱい
「……ランタ、あんた最低」
もはや生き写しと言っても良いくらいに兄上に似た彼は、ユメに対し顔を顰めて文句を言い放ち、更に彼女の身体的特徴を論って貶す。
それに対するユメの返事は、底冷えするような声での簡潔なものじゃった。
思い浮かんだそのままを口から垂れ流すような話ぶりを見て、清々しいくらいに女性関係で浮いた話が無かった、兄上の悲しい一面も思い出す。
ユメの後ろには先程の怯えを見せた女性が、付き添う様に傍に寄り一緒になって、青年ランタを睨んでおった。
この三人のやり取りに妙な懐かしさを感じ、とうとう我慢できずに大笑いしてしまう。
「ぶっ、ぐふ、ぶはははは!」
「ちょ、てめえはなに無関係みたいな顔して一人で笑ってやがんだ! あ”あ? だいたいお前のせいで俺様が睨まれてんじゃねーか。責任を取れ、責任を!」
「何トオルちゃんのせいにしてんの! あんたが悪いんのやないか! 人のせいにしたらあかん! シホルもランタになんか言うてやりぃな。それと、トオルちゃんも人が怒うとる時に笑うなんて酷いんと違う?」
「はっはっ、いや、申し訳ない。つい懐かしくてのぅ。思わず笑ってしもうた。ユメ殿、ランタ殿、シホル殿、ありがとう。改めて名を名乗ろう。ワシはトール、ラムリアース王国に生まれ導師級
◆
あの三人の名を知り、介抱されたのも何かの縁だと感じたワシは、己の生国と魔術師でありまた神官でも在る事を正直に告げたのじゃが、残念な事に上手く伝わらなかったようでランタ殿に至っては「へーへー、そりゃあスゲー。んじゃ、礼の1シルバーさくっと稼いでくんの待ってんぜー」と棒読みで返し、ユメ殿とシホル殿も微妙な顔をし「そ、そうなんやねぇ。そしたら今日はこの部屋でゆっくり養生して、明日から頑張りいな」と言った後、どうやら元々この部屋で待ち合わせをしていたらしく、二人の青年が訪ねて来て合流となった。
そうしてちょっとした雑談を交え再度挨拶を終えると、後から来たマナト殿やハルヒロ殿が、皆の集めた情報を部屋の中で確認し合うという流れになる。
ワシには前世の記憶は確かに在っても、ここではかなり曖昧な所があるので部屋の隅に座り、大人しくしていれば話を聞かせて貰える事になった。
最初は仲間内の相談事だと思い出て行こうとした所を、皆のまとめ役をしているマナト殿が、気にせず逆に残って聞いて欲しいと言う事だったのでありがたく申し出を受ける。
まあ本当の理由としては、マナト殿がとても申し訳なさそうな顔で「悪いけど、ランタ達に渡す3シルバー分の情報だと思って聞いて欲しい」と言ったからじゃ。
結局分かった事と言えばこの場に居ない者も含め、皆が辺境軍義勇兵団レッドムーンとやらの見習い義勇兵として、
第三者として聞くなら状況から言って、詐欺に近い酷い選択肢を選ばされたと思う。まあ別の側面から見れば、街の行政が施す一種の救済措置なのかも知れぬがやり方が汚い。
ワシならもっと相手に感謝されつつあくどい契約を……うん、止めよう。
それに何とも信じ難い話であるが、ワシの眼から見ても部屋に居る皆は精々村の青年団員程度の集まりにしか感じず、とても軍人として働けるようには思えん。
無理をせず止めた方が良いと言おうとしたところで、軍人として雇われた際に支払われた契約金から、お金を出して各職のギルドへ参加し鍛えて貰えると言う話が飛び出し、これでは順序が全くの逆ではないかと、皆が不憫に思えこの仕組みを考えた者を罵りたくなる。
何と戦わされるのかは知らぬが、たった七日間の鍛錬で前線に出るなど一時期流行った、エレミア産の安い粗製乱造の直ぐ壊れる消耗品を売るような
まるで宝石の原石を無理に研磨し、その中から輝く良品だけが残るとでも表現すればよいのか、まずもってこんなやり方では尖った能力を持たない者は、どんどん使い潰されるであろう。
確かに選別を目的とするなら問題無いのじゃが、軍とは一定の強さと一貫した指揮系統で運用する個ではない群れであり、命令に忠実に従う個が数揃ってこそ生きるものじゃ。
決してこのような活力に溢れる若者を、使い捨ての魔晶石のような扱いをしてはならん。何より戦で擦り減らすなど、使い方としては勿体無さすぎるからのぅ。
話に聞く義勇兵はどちらかと言えば、一騎当千の数名の班を個別に何個か用意するのと変わりなく、そんな頭の多い者同士では連携もなにも在ったモノでは無いじゃろう。
……思わず領主であった長兄マルコとの話を思い出したのじゃが、よく考えればワシには守る領民も家族も既に失っていることに気付き、その途端なぜかふっと肩に在った重みが消えたような感覚を覚え、寂しいような喜ばしいような新たな自由を得たのを実感する。
そうして各自が己のなりたい職にあった訓練所へと赴く事になり、再開の時はこの日より後の七日後、再度揃って皆で顔を会わせようと言う話で終わり解散となった。
別れ際に、マナト殿が振り返り「直ぐにお金を稼ぐのは無理そうだから、所長の所に顔を出し見習い義勇兵となってお金を受け取り、先ずは確りと訓練を受けた方が良い」に加えドアが閉まる前に「それで倒した敵から、身ぐるみ剥ぐのが最善らしいよ」と告げて再会を約束する。
誰も居なくなった部屋で一息つくと一人残ったワシは、聖印を切り己が最も信ずる神へと改めて誓いを立てるべく祈りを捧げた。
「偉大なる神ファラリスよ、こうして我に新たな人生と自由を与えた事に深く感謝致します。これからもよりいっそう己の求める欲求に従い、知識の研鑽に励みたく思います」
生前行っていたように、神に向かって祈りを捧げたのじゃが妙な感覚に首を傾げる。
普段から感じていた神との繋がりが、少々どころでなく薄く思えるのじゃ。
ファラリス神の加護は間違いなく在るので、何が足り無いのじゃろうと考え、暫くしてホーリーシンボルが無い事に気付いた。
「なるほどのぅ、これは早々に祭壇と一緒に拵えねばならぬな。しかし先立つ物が無い身では……うん? まだ何か妙な感触があるのぅ」
そう考えた所で、改めて転生した己の持ち物を確かめる。
色あせたチュニックに所々ほつれた半ズボン、これだけは新品らしい編み上げサンダル、そして死ぬ前に己の生命力と精神力を枯渇する寸前まで捧げた魔法道具であり、魔法の発動体でもある“魂吸いの指輪”……。
本来は捧げた生命力と精神力に比例した抵抗力を得るが、その代わりに捧げた分虚弱になる呪いの魔法道具だったのじゃが、身をもって転生を成功させたことで隠された能力を解放した事が分かった。
生前、冒険者だった兄上から呪われた道具を外して欲しいと頼まれ、神聖魔法の<リムーブ・カース>で解呪しようと考えた後、それよりも先ずは鑑定を行おうと調べた際に指輪の解除方法を見つけ、兄の代わりに“指輪の主”となる事で魔法を用いず、指輪の解放に成功する。
その“新たな主”になるにはその前の主が死んでない限り、前に捧げられた量より多くの生命力と精神力を捧げる必要があったが、幸いにも兄は試しに装備しただけだったので、針を刺す程度を指輪へ捧げるだけで済んだ。
だがこの魔法道具と出会ったことで、転生と言う死後に新たな人生を得る方法を知る機会を得たと考えれば、とても安い代償だったわけじゃな。
「……呪いの魔法道具と思われていたのじゃが、なんとも凄まじい指輪だったのじゃのぅ。転生を果たす事が出来なかった歴代の主の捧げた生命力と精神力が、今も記憶の断片と一緒に指輪の中に存在し、ワシの肉体と融合しておるんじゃからな」
右手の人差し指をよく見ると、指の付け根部分が節くれ立つように輪の形で膨らみ、更に目を凝らせば指を一周する様に、
「ふむ、この指輪の製作者自らも捧げていたにも拘らず、転生を行う前にワシらの先祖に殺されておったとは、なんとも皮肉な話しじゃな。それにしてもワシの手随分やわっこくて小さいのぅ。まるで
その瞬間嫌な汗がぶわっと背中や首筋、額から噴き出し、己の体から受ける言い知れぬ不安に駆られ、手、腕、足、顔と順に触って行き、そして最後の砦であった股間と胸に触れ、唐突に覚えた違和感の正体を知る。
「ワシ、女子の体になっとるーーーーーーーーーー!!」
そう叫んだ己の声は、確かに若い女性と聞き間違えておかしくない高さだった。
どうやら転生時に、“魂吸いの指輪”に吸収され残されていたワシ以外の歴代の主達の生命力と精神力、それに記憶の断片が男性よりも女性の方が多かったようで、その比率に依って調和が乱れ本来なら男性で転生される筈が、女性の肉を持って生まれてしまったのだと推測するに至る。
地道に研究して行けば、その比率を弄り肉体の変容も可能な筈じゃと思い付いた所で、外見などどうでもよくなり「まあ、あのまま死ぬよりかはマシじゃったろうな」と言う結論に達し、直ぐに精神的にも落ち着いたのであった。
研究者として頭の切り替えが早いワシは、これからの計画を頭の中で練る。
金銭を稼ぐとなれば手っ取り早いのはマナト殿が言ったように、軍属になり契約金を得てそこから3シルバーを礼として渡せば済むのじゃが、軍属など研究の邪魔でしかなく真っ平御免じゃし、何をするにしても生活の基盤ができない事には安心して知識の探求をするのも難しい。
付与魔術師の記憶の断片から良い知恵はないかと検索し、作成できそうな物も在るので個人の研究室と実験道具もそろえる必要を強く意識する。そうして出来上がった物の中で、出来の良い物は手元に残して他は売り払ってもよいじゃろうと、今から取らぬ竜の牙の数を数えるかの如くニヤニヤしながら妄想に耽ってしまった。
暫くして正気に戻った後、ユメ殿の話ではこの部屋の宿賃は一日20カパーの料金で、今日の分は支払い済みなので明日までは自由に使える。じゃから取りあえずは此処を拠点として冒険者の店にでも顔を出し、掲示板にでも依頼が張り出されていれば、簡単な仕事を受けて資金を貯める事が最初の目標じゃな。
今はホーリーシンボルが無い上に、偉大なるファラリス神との信仰による繋がりも少々薄いようなので、古代語魔法の具合はどうかと初歩の呪文<ティンダー>を詠唱しようとして、指輪の発動体を基礎に術式を描く動作を行うつもりが、それより先に魔法が発動した。
即座に疑問が浮かんだが、魔法発動時に感じた“指輪との繋がりを再認識し”それによって絡まった謎が紐解けるように、指輪内で構築された“魂達の繋がり”も理解する。
「ほっ? ……ほほー! なんともまあ。そう言った発動方法があるとはのぅ。ふむふむ、なるほど、“魂吸いの指輪”の中に存在する記憶の断片が、呪文詠唱の補助と支援を行うことで動作が簡略され、コモン・マジックの詠唱のように魔法発動の鍵となる、術式名だけで精神力を媒介に魔力で世界に対する現象の書き換えを行う、か」
ようは呪文詠唱と発動儀式を代行してくれるので、己で同じ事を行えば魔法の二重詠唱と同時発動が可能になったのじゃ! 繋がりを強化すれば更に上を目指せるやも知れん。……まあ消費は減らぬようなので、調子に乗ってばかすか使っていたら、精神力切れになる恐れもあるかのぅ。
じゃが、ワシの生前だけでなく、歴代の持ち主の精神力なども保持しておるから、早々に気絶などまず起こらんであろうな。
もしかしなくとも、ワシって指輪の主として歴代最高じゃないかのぅ?
それと魔法道具作成で魔術付与を行う際は、かなりの精神力が必要だと記憶の断片から分かったし、まさに研究するには持って来いの能力じゃな!
「ふふ、憧れていた兄上のようにワシも今日から冒険者じゃ! この能力を更に解明し有利に使ってどんどん稼ぐぞ!」
◆
「なん……じゃと」
――――まさか国家を跨ぐ程の巨大な組織であった“冒険者”ギルドと言うものが、この要塞都市オルタナでは影も形も存在して無いとは思わなんだ。つい変顔になってしもうたが問題無い。
取りあえず街行く人々に片っ端から話し掛け、冒険者ギルドが何処にあるか尋ねたが、出て来るのは盗賊ギルド、魔術師ギルド、戦士ギルド、他諸々。
冒険者になろうと気合を入れた途端、その出だしから躓くとは流石にワシも考えもしなかったのぅ。
「これも偉大なるファラリス神の与えたもうた、ワシへの試練なのじゃろうか?」
どうやらここは、ワシが生前住んでいたアレクラスト大陸どころか、古代魔法王国から続く由緒あるラムリアース王国と言う名さえ届かぬ地にあるようで、マナト殿たちから聞いた情報にある“グリムガル”と呼ばれる場所に違いないらしい。
言葉と文字に関しては、生前の記憶が戻る前に習得していたようじゃが、その辺の記憶がさっぱり抜けておるようで、名もトールではなく何となく口にしていたらしいトオルが、この地に生まれてから名付けられたものではないかと認識している。
じゃが、どうも親どころか知人の事も思い出せないのは、戦乱の地であるこの街はその中でも最前線らしいので、頭でも打って記憶が飛んだのやも知れん。
以前知識神の神殿で怪我や病気の治療を行っていた際、酷い怪我を頭に負った患者を神聖魔法で癒した事が在るが、怪我そのものは治っても結局記憶が戻らなかった者を実際に診た事があるので、自分も似た症状なのじゃろうと思う。
まあ記憶が一つ二つ新たに戻ろうとも、ワシはワシである事に変わりはないのじゃし、どうでも良い話じゃな。
そうやって色々と考えを整理し通行人から話しを聞きながら、食欲を湧きたてる屋台に誘われそこの店主に話し掛け、売れ行きや良く買いに来る客などの話を聞き、やはり一番の客となる者は、この地で前線に立つ義勇兵達だと教えて貰う。
会話している最中も、鎧を着込み武装したままの者が何人か訪れ、その統一感のない装備の連中の集まりを見て、真っ先に浮かんだのはワシが知る記憶のままの“冒険者達”に似た姿じゃ。
そう言った連中も女子の形で話し掛ければ、警戒される事も無くほいほい釣れて、屋台に立ち寄る前「イイ所に連れてってやるよ、俺に任せて付いてきな」とか言う愚か者が居たので、服を整えるから待てと言い、その辺に落ちていた石に<ストーン・サーバント>を唱え、石の簡易ゴーレムを作り、<クリエイト・イメージ>で手招きするワシの姿を、ゴーレムの待機する路地に作ってさっさと場を離れる。
背後から「へへっ、随分積極的じゃねえか。今度は俺か、がっ?! やめ、苦し……」とか聞こえたんじゃが、“軽く抱きしめてやれ”としか
少々歩き疲れた気がして暫く屋台の横で行き交う者を観察し、金銭のやり取りや世間話に紛れた最近の戦いの様子を盗み聞きするうちに、聞き慣れた名称が耳に飛び込み相手取っている敵の姿が、おぼろげながら脳裏で形となって来る。
断片的な情報なのじゃが、泥ゴブリンやコボル
その姿は媒介となった樫木や木材を元に、木で出来た人型の人形と呼べる存在で、簡易的な物の為大した強さを持たず、ちょっとした作業の手伝いをさせる小間使いのような存在だったはずじゃが、それが前線で戦う相手となる……本命は相手側の
魔術師同士の団体戦など、ワシが生前参戦した戦場でもまず無かった戦いじゃのぅ。
「ふむふむ、なるほどのぅ。となればワシ一人では、そのような軍に近い数多くのオークを出せる相手に挑むのは愚の骨頂、幾らワシでも数の暴力には今は勝てぬ。やはり最初に狙うのはゴブリンかコボル
頭の中では対峙する凶悪で醜悪なゴブリンに向かい合い、相手の剣を躱し果敢に古代語魔法の<エネルギー・ボルト>を放つ己の姿を思い浮かべ、駆けだし冒険者に相応しい様式美の図にうっとりしながら一人で勝手に納得し、屋台の横で興奮気味にうむうむと腕を組んで頷いていると、額の汗を首に掛けた手拭いで拭きながら店主が話し掛けてきおった。
「なんだ嬢ちゃん、さっきから「狙う!」とか「先手はワシじゃ」とか「食らえ!」とか色々ブツブツ言ってるが、一人なのかい? ……悪い事は言わねぇから、ソロで狩に行くのは止めとくんだな。こりゃ受け売りなんだが最低でも神官、それに前衛を出来る戦士、それと狩人か盗賊、できれば魔法使いを入れて、後は組みやすい様に仲間を集めて六人で行動するのが良いらしいぜ」
「然り、店主の言う通りじゃな。だがいかんせんワシにはまだ正式な仲間がおらぬ。ワシが知る中で当てになりそうな者も、今は訓練に励むと分かれたばかりでな」
「うん? なんだ、つまり嬢ちゃんはぼっちか。仲間が訓練中って事は、噂の新人見習い義勇兵を待ってる最中ってわけか。なら酒場にでも行って空きのある連中に混ぜて貰うか、酒でも驕って少しの間臨時で組めばいいじゃねえか」
「いや、ワシ、ぼっちとはちがうのじゃがな……ただちょっと今だけ、一人なんじゃよ?」
親切な屋台の店主は器用にワシと話しながら、ひょいひょいと肉にタレを塗り、実に芳しい匂いを立てながら丁寧に焼き上げつつ語ってくれる。この店主中々できる! 以前は義勇兵として前線にでも立っていたのじゃろうか?
よく見れば太い腕に深く抉れた様な額と頬の傷跡が、そこはかとなく店主を歴戦の勇士のように思わせるのぅ。
「店主、それほど詳しいとは、もしや以前戦いに?」
「ふっ、まあ俺は今でもこうして屋台に立ち、戦いに行く奴らの腹を満たす為に日夜戦っているって寸法よ。あ、へいっらっしゃい! 三つ! いやいやそのガタイなら四つはイケルだろ? へへっ!毎度!……ま、ざっとこんなもんだ」
ワシの予想どおりやはり店主は元義勇兵の勇士じゃったが、今はこうして屋台で活躍し戦争は引退したようじゃのぅ。
店主は話し相手になってくれながら、見事に立ち寄った客を捌きその戦果を上げていく、中々の古強者と言える貫録であった。
残念ながらワシは店主の戦果に応える為の金子が無かったが、腹の音が代わりにグーと応えたので肉とは別の戦果を得る為に、装備を整え街の端へと進んでいく義勇兵一行の後を追い、店主に手を振り別れを告げながら元義勇兵の話した“狩り”を学ぶ為、今の義勇兵の動きを見せて貰おうと考えたのである。
◆
「――――ったく、聞き分けの無い嬢ちゃんだな。いいかもう一度だけ忠告するぞ? この先に進むには団章か許可証を持って無きゃ通せんのだ。だいたいその恰好で本気で外に出るつもりか? むざむざ殺されに行くような者を、我等は職務上見過ごす訳には行かないんだ。それが分かったら家に帰るんだな」
「いや、だからじゃな、ワシはこう見えてもそれなりの修練は積んでおるし、何も心配は要らんのじゃ。早くここを通してくれんと、あの者らを見失ってしまうんじゃよ。分かるであろう? 後生だから何も見なかったと、真面目なお主らの職務倫理をほんの少しだけ曲げて通してはくれぬか?」
この図体の大きい兵士二人に、ワシは己の実力を示すべく全身に力を漲らせ、精一杯背伸びをして対峙しておるのじゃが、一向に恐れを成した様子は見せず残念な者を見るように、ワシの姿恰好を指で示し呆れたように首を振る。
全く服装で弾かれるとはのぅ。チュニックやズボンは中古でもサンダルは新品なのじゃぞ!
「ええい! 分からん嬢ちゃんだな! いい加減にしないと怒るぞ! 我等も遊びでこのような場に立っているわけでは無い! 必ず出入りする者を一人ずつ確認し、間違いの無いように職務を全うしているのだ! 大方さっきのパーティに入れて貰えなかったから、その様な軽装で森に出て、無理してでも仲間へ入れて貰おうと言う魂胆であろう? 諦めて帰るか酒場にでも行って正式に仲間を集めなさい。これは忠告だが……嬢ちゃんの今迄がどうなのか知らないけど、いざと言う時外で
瞬間的に湧いた怒りが頂点に達し、ワシの意思を離れ体が勝手に地団駄を踏む。
「ここでもか! ここでもなのか! どうして皆ワシの事をぼっちぼっちと決めつけたがるのじゃ! ワシだって仲間の一人や二人……一人っきりじゃった」
「……何かすまん。我等も少し言いすぎたようだが、やはりここは通す事はできない。諦めてくれ嬢ちゃん」
後を付けていることを気取らせず、追跡する事は問題なくできたのじゃが、義勇兵達が外に出ようとした所で何やら門番らしき歩哨が、検問も兼ねているようで挨拶のような事をしていたのが遠目に見える。
なるほど、あの動きが所謂合言葉代わりなのじゃろう、特に持ち物の検査もせずに外へと見送るのを見て確信したワシは、義勇兵一行が見えなくなる前に通過しようと、兵たちの顔の前で手を二度振り外へ出ようとした瞬間、チュニックの襟首の後ろを掴まれ捕獲された獣のように吊るされたのじゃ。
ワシはその辺を歩く野良猫ではないのじゃぞ!
しかもそこはかとなく、兵士二人の瞳はワシを憐れんでいるように見えるが、間違い無く気のせいじゃ。……別に一人だからって平気なんじゃからな!
結局どこに問題があったのか分からぬまま、暫く兵士二人と問答となり今はこうして犬を追い払うかの如く「シッシッ」なんて言って酷い扱をされる始末。
ぐぬぬ、これは許せぬよな? 古代語魔法の<ファイアーボール>を打ち込んでもファラリス神は、『汝の心に忠実であれ、しかし結果は自己責任である』と仰り、『汝がやりたいなら許す』と言いそうじゃが、ワシは自己責任と言う言葉が大っ嫌いなので止めておく。
……うん? ワシこんな性格じゃったろうか? どうも時間が経つにつれ、はっちゃけると言うか、若々しい精神に呑まれておる気がするのぅ。
しかも自己責任と言う言葉が嫌いだったのは、ワシじゃなくてトーラ兄上だったような?
門から離れ遠くまできたが、まだあの歩哨二人は困ったようにワシの方を見ている。
試しに民家の脇に足早に隠れた後、こっそり顔を出して覗いて見ると、向こうも同じようにワシの様子を探るみたいにこっちを窺っておった。
どれだけワシは信用がないんじゃ!? これでも高司祭として沢山の信者を獲得していたやり手な爺じゃったのに、おのれ! この女子の形がダメだと言うのじゃな!
悔しいが今回は職務に忠実な働きに免じて、大人しく門を無理に通るのは止めてやる事にする。
次くる時はこのチュニックとズボンは、新調してからにしようとワシは固く誓うのじゃった。
最初からこうしておけば良かったのぅ。
ワシは今要塞都市オルタナの街を眼下に見下ろし、そこそこの高度を保って空から先程の義勇兵達を探している。……あまり高く飛びすぎると風がスースーして寒いし怖いからのぅ。
どうやって空などに滞空しておるのかと言えば、古代語魔法の<フライト>を使用し広い視界を得て、義勇兵かゴブリンでも見つからぬかと探索を行っているわけじゃ。
「むーん。確かに視界は広がったのじゃが、視力までは広がっておらんのじゃ。あの者達ワシを置いて何処へいったのかのぅ? 森や木が邪魔でよく分からぬな。いっそ空から<ファイアーボール>でも降らせてみるのも手か? ほほほ、きっと蛮族共は驚いて右往左往し慌てだすじゃ……いかんいかん。ほんの一瞬、最初の付与魔術師の表層が出とったようじゃ」
古代語魔法の発動が頗る調子良いのじゃが、どうも呪文詠唱の際に過去の亡霊が表層に上がって来て、手助けをするように
だからこそほんのちょっと意識すれば、直ぐに引っ込むから平気なのじゃ。
「うん? あの川縁におるのは噂の泥ゴブリンかの? 丁度良い具合にたった一匹で行動しておるが、ワシの記憶じゃとあ奴ら妖魔はもっと群れを成す種族だと覚えていたはずじゃが、……余程この地域の森には、あ奴らを襲うような凶暴な魔獣等がおらんようじゃな。つまり天敵と呼べるのはワシら人間だけと言うわけか」
しかし背後を気にせず呑気に川に口を付けて水を飲んだり、欠けた器に水を汲む姿はあまりにも無警戒過ぎて、空から奇襲する気分が一気に萎えたわ。
とは言え、他に潜んでいる者がおらぬかワシ自信は警戒を怠ってはおらぬぞ?
ふむ、本気で一匹のようじゃ。十分水を飲んだらしく、今は手に持った粗末な剣を振り回しながら散歩なぞしよる。
ピンと来た! そうじゃ、あ奴らはワシの知るゴブリン語を介して、意思の疎通や会話は可能なんじゃろうか? これは実に興味深い知識の探求だと言えよう。
そうと決まれば早速木陰で一度姿をゴブリンに変え、後ろから声を掛ければきっと飛び上がるほど驚くじゃろうな。
笑いを堪え古代語魔法<シェイプ・チェンジ>で、ワシの視界の前方で背中を見せるゴブリンに変化し、ゴブリン語で話しかけた。
『おい、そこの同胞。言葉が分かるならこっちを向け。話がしたい』
『うはっ!? お前いつからいた? 話なんだ?』
ワシに後ろから話し掛けられたゴブリンは、案の定酷く驚きながら振り向きワシの話すゴブリン語に返事を返した。
どうやら言語は似たようなもののようで、精々違いがあっても地域差で訛りのある共通語のような印象を受ける。
ワシの最初の実験は成功じゃと非常に嬉しくなって、このゴブリンから色々と聞きだそうとした瞬間、目の前のゴブリンの右肩に矢が生えた。
当作品を読む事で、少しでも楽しんで頂ければ幸いです。
旧ソードワールドの内容は色々うろ覚えで書いた部分もあるので、誤字脱字、感想、ツッコミ等お待ちしております。
あらすじやタグ、サブタイトル等で、隠しておきたい事がモロバレしちゃうのって悲しいなと思う今日この頃でした。
魔法の名称が間違っていたので修正致しました。
×<フライ>
○<フライト>
トール爺の転生前の所持技能
某ラヴェ○ナ著「アレクラストの博物学」の写本を手に入れた時は、嬉しさのあまり街中を駆けまわったハッスル爺さんでもある。
グリムガルにて新たな生を与えられたが、実は色々
投稿後数日置いた後に『TS』タグと『のじゃ』タグを追加するか悩み中。
読まなくても問題無い作中に出て来る旧ソードワールド内の「てきとー」な
<ティンダー>:技能レベル1で習得する初期魔法で、手に納まる大きさの可燃物を接触で発火させる便利な魔法。所謂チャッ○マン。
雑感:わざわざ精神力を消費してまで使う必要性を感じないが、とある冒険者の店では焼き鳥をこれで炙って食していたホラ吹き魔法使いが居る。
……しかし、焼き鳥って可燃物か?
<スリープ・クラウド>:ティンダーと同じく技能レベル1の魔法。射程が30mもあり目標を基に半径5m内の空気を変質させ、生き物を瞬時に眠らせるガスを作り出す魔法。敵味方区別なく、範囲内の者は抵抗に成功しない限り眠りに落ちるが、抵抗に成功した者は全く影響を受けない。
雑感:初期魔法だが使い方次第でとても役に立つ反面、敵味方入り乱れる乱戦時には使い難いのも確かである。名探偵コ○ンに出て来る腕時計型麻酔銃並に副作用のない安全な魔法(笑)。
<ストーン・サーバント>技能レベル3で行使できる魔法。1時間の間、拳大の石ころから簡易的な人間大の従者を作り出し、戦闘や簡単な仕事に従事させる事が出来る魔法。術者以外の命令は受け付けず効果時間が切れると元の石ころに戻る。
雑感:石ころ一つあれば、そこそこ便利な従者が出来ちゃうステキ魔法。実際に1.5m位の石の塊で出来た人型が、動いて襲ってくるって怖くね?(小並感)
<クリエイト・イメージ>技能レベル3で行使できる魔法。1時間の間であれば、半径5m内に術者の想像力の及ぶ限りの視覚的幻影を作り出す魔法。静止だけでなく動作も交えた幻影も作れるがその場合5分ほど同じ動きを繰り返す。
雑感:使い道は色々、キミの
……行き止まりの壁に更に先に続く道を幻影で作ったり、深く掘った穴の上に地面を幻影で作ったりと中々重宝するね!
<シェイプ・チェンジ>技能レベル4で行使できる魔法。術の使用者が自由に他の生き物の姿に変われる魔法。効果時間は任意で解除できて望まなければ変化したままでいられる。変化できる姿の限界は術者が詳しく知る生き物だけで、体重の10倍及び10分の1まで変化可能だが、身に付けた物までは変化しない。
雑感:それなりに便利だが服装までは自由に変わら無いので、どこかの地球のどこかの国のどこかの町の子どもな某魔法のプリンセス的少女の活躍は出来そうにない。
ただ「ア○ルトやらミ○キーなタッチで○○にな~ぁれっ!」と気分だけ味わう事は出来そうだが、……服破けるか。
<フライト>技能レベル5で行使できる魔法。術者が空を自由に飛ぶことが出来るようになる魔法。空を飛ぶ速度は最大時速で約50キロ程度になり、仮に飛行中に魔法を解除された場合落下し“落下のルール”に従ったダメージを被ります。
雑感:「お空を自由に飛びたいの~はいっ! <フライト>~!」と軽いノリで使ってみたいが、落ちた高さに比例してダメージを負うので使用に躊躇を覚える魔法でもある。1mの高さで落下した場合受けるダメージは3点。人間冒険者の平均最大HP14を考えると、ちょっとした高さでも下手をすれば死ねるダメージを貰うので注意が必要(一応落下ダメージは、己の持ついずれか最大の技能レベル分減らすことは可能)。
魔法の解除……技能レベル1の古代語魔法<ディスペル・マジック>でも解除可能なのだが、時速50キロの速さで動き回る目標を、範囲半径5m射程10mの魔法で解除って中々無茶だと思うのは作者だけだろうか?
<ファイアーボール>技能レベル4で行使できる魔法。
雑感:視界が通れば遮蔽物を無視して標的を爆破出来るので他の魔法と組み合わせて使うと中々凶悪。例を挙げれば<シースルー>で建物内を透視して中に居る人達を爆殺とか色々。
人は使うなと言われると余計に使いたくなるもんです。