旧魔法王国からの転生譚   作:秋野よなか

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 食事を抜いて、お菓子を食べながら書いていたら胸やけが酷く
今も胃もたれに呻きながら公正していました。

 今回やたらサブタイが長いですが、他意はありません。
 一話より短いですが、そんなわけで投稿させて頂きます。

※今回のお話しは、微グロ注意です。
 他にも不快要素があるので、読む際はご注意くださいませ。



 人の知恵とゴブリンの特性が合わさり、種族の壁を越えた          愛と友情のバロム・クロス! ……が、なんでこうなったんじゃろう(謎)。

『ギィヤァアアアアアア! 腕ニ、腕ニ、俺ノ腕ニ矢ガァアア! イテェエエエエエッ!』

 

『ムッ、不意打チジャト! オノレ、ワシノ崇高ナ目的ノ邪魔ヲシオッタノハ、ドコノダレジャ! 許サヌゾ』

 

 会話最中に右肩に矢の刺さったゴブリンは、突然撃たれた事に動揺し驚きとその痛みに叫び声を上げ、持って居た剣を取り落とし地面へ倒れよった。

 瞬時に湧いたイラつきで、ついうっかり口調が素に戻うてしもうたが、素早く矢の飛んで来た方へ体ごと頭を向けると、見覚えのある義勇兵の斥候らしき弓兵が恨みの籠った濁った瞳で此方へ弓を構え、矢を番えなおしているのが目に映る。

 

 瞬間ワシの脳裏に浮かんだ事は1.追撃が来る、2.勿論対象はどう料理するも自由な倒れたゴブリンではなく無傷のワシ、3.直ぐには逃げられない。の三点じゃ。

 何故逃げられぬかと言えば、ワシは今でこそ“魂吸いの指輪”のお蔭で生命力と精神力は満ち溢れて垂れ流せる程あるのじゃが、他の身体的能力はどうかと聞かれれば生前のワシとさして変わらぬようで、足の速さと身のこなしは良く訓練された兵士長程度。

 遠距離射程武器を持った相手を巻くには、流石に少しは準備が要るのじゃよ。

 

 

「チッ、頭を狙ったのに余計な邪魔が入りやがった。ゴブリンお前は楽には殺さねぇ、生きたまま生皮を剥いでやる」

 

 弓に番えた矢は案の定、ワシに狙いを定めていた。

 

 

「はっはっは! 間が悪かったな。まあいい、サイリン鉱山に行く途中だったが、見つけちまったもんは仕様がねえよな。おいお前ら、少しばかり小遣い稼ぎといくか」

 

 陽気に笑うその男は、頑丈そうな鉄の鎧を着込み己の身の丈程の両手剣を肩に担ぐと実に楽しそうにワシを見つめ、そうに告げる。

 

 

「へっ、“運”が無いのはあいつらの方さ。生かしておいても糞の役にも立たねぇゴブなんざ、俺がいの一番にさくっと狩ってやるよ」

 

 革鎧と所々金属で補強した籠手を装備し、感情を感じさせない声音で両手に短刀を抜き構えると、俊敏そうな肢体のしなやかな筋肉に命が吹き込まれ、肩幅程度に足を開くと小刻みに体を揺らしながらその速さを上げて行く。

 

 

「おいおい、何を本気になっているのさ。それより止めは是非僕に任せて欲しいな。その二匹はスカルヘル様へ捧げる悪徳(ヴァイス)にしてあげる崇高な使命が、高貴な生まれの僕に在るからね」

 

 爽やかさを感じさせる顔なのにその瞳は虚ろ、中々派手なマントを纏いゆっくりとした動作で腰に納まった細い剣を抜き、顔の前で立て礼のつもりかフェイントを交えた型を見せる。

 

 

「……命を弄ぶなんて」

 

 姿恰好から見るに軽装の神官、白と青を織り交ぜた清潔感のある服に似つかわしくない何とも気怠い雰囲気を漂わせていた。

 

 

「まったく新入りは、毎回ノリが悪くて仕方ないねぇ……まあいいわ。どうせアンタがそんな口を叩けるのも、精々今の内」

 

 最後は帽子とマントに赤と黒の色遣いをした体の線を出すような、ピチピチの上下服を着こみ太腿と二の腕が丸見えで、持っている武器は杖と言うよりも槍と呼んでも良さげな、先端の尖った棍を両手で持ち弄ぶ。

 

 

 何とも間の悪い事に、ワシが探していた義勇兵一行が弓兵を皮切りに、ぞろぞろと道の端から木の枝と草を分けて出てきおった。しかも街で擦違った愛想良さそうな顔と違って、かなり人相や口を開き話す内容が、一名を抜いてどこぞの物語の登場人物のように悪役臭く思わず鼻を摘まんでしもうたわ。

 どうしてこう探し物と言うのは必要な時は全然見つからず、どうでも良い頃になって自己主張をするかの如く現れるのかのぅ。

 湧いた怒りが早くもぐだぐだになってきそうじゃ、これはもう一層開き直って楽しむしかないであろうな。

 

 序にあの者らで、記憶の断片から今は遺失呪文扱いの魔法を試し撃ちでもして見ようかのぅ。

 何て考えながら、相手の武装と人数を確認する。

 

 向こうが完全武装六人組みに対しこちらはたったの二匹。

 しかも唯一の刃物は手を離れ防具と言うのも烏滸がましいただの服、幾らワシでも三倍に値する人数差には、少々理不尽さを感じてならぬ。……なんてのぅ。

 だが逆にこう言う時こそ、相手には無い“種族的特性(・・・・・)”を大いに活用するのは当然弱者(・・)の権利じゃよな?

 では宣戦布告と参るとしよう、ワシら(・・・)妖魔の得意とする場での戦い方を見せつける為に!

 

 

「貴様ラ人間ガ安穏トスル真昼ニ、一寸先モ見通セヌ闇ヘト突然(いざな)ワレル恐怖ヲ、篤ト味ワウガヨイ!<ダークネス>」

 

 ただの古代語魔法<ダークネス>では、少し動けば範囲から逃れられる可能性が有るので、効果範囲を拡大して義勇兵達を中心に半径四十メートル内を闇に閉ざす。

 この闇は魔法で生み出したものなので、松明程度の光源では見通す事もできぬ。

 さあ、先程まで己の勝利を信じて疑わなかった義勇兵達よ、一応命までは取らぬつもりだがその噂の強さをワシの前で示してみよ!

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 さっきの返事を聞けば分かる通り、メリイの奴ははっきり言っていけ好かない女で、鉱山で運悪く落死した古参の仲間、神官だったカグナの臨時穴埋め要員だ。

 確実に仲間に入る腕利きだからと、安くない仲介料を支払って紹介されただけあって、回復の腕はベテランだけどアタシらの命令は平気で無視するわ、兎に角その態度が最初に続き三回目の仕事中も生意気で、いい加減アタシも我慢の限界に来ていた。

 

 それに怪我を即座に治さない事で、パーティ内の男達からの評価が最低最悪で、今回の仕事であの女を態と疲労させ弱った所を襲って宿に連れ込み、今迄躾のなってなかった体を甚振り、誰にでも喜んで股を開くメスに調教すると聞いて、今回の鉱山調査の依頼を楽しみにしていたわ。

 

 あの何時も澄ましたキレイな顔が涙を流し、苦痛と恥辱で歪む様を想像するだけで、アタシの内に昏い喜びが生まれると同時に、下腹部が焼けるような熱を伴い痺れに似た軽い疼きを感じた。

 これからボロクズのように解体し殺される運命を待つゴブリンと、一糸纏わぬ姿で沢山の男達に慰み者にされ、穢されていく想像の中のメリイの姿とそれが重なり、渇きを覚え思わず舌舐めずりをした唇の端が、弓を引き絞られた弦のように攣り上がり笑みを形作る。

 

 いやらしい笑みを浮かべ男達が殺意を漲らせ前に出た瞬間、このアマナ様の理解の範疇を超える詠唱速度で、何かを行ったと思える“ただの(・・・)ゴブリン”に、形を伴わぬ名状し難い感覚を覚えた。

 

「あのみすぼらしい姿のゴブリンが、まさか人語を操り尚且つ詠唱までも織り交ぜ、今の魔力光を発したと言うの!?」

 

 

 斥候と偵察役を兼ねた狩人であるホウヤの放った弓の一撃は、運悪く致命傷となる頭こそ外したが狙い違わず最初に見つけた一匹へと命中し、既にその戦闘力は奪ったに等しかったのは確実だ。

 後は戦士のダイクの言う様に、高が二匹の泥ゴブリンを狩るなどアタシらパーティの力量相手では、最近の主な狩場であるサイリン鉱山で対峙するコボルトに比べると、必要な手間もほんの小銭稼ぎ程度の感覚でしかない。

 それに普段から殊更“運”に拘りを持つトウイチの言う様に、片手間で片付く程度の脅威でしかない相手、つまりアタシらに出会った事は間違いなく、ゴブリン二匹にしてみればこれほど真昼に見る最高の悪夢はないだろう。

 

 もしアタシらから逃げ出せず本当に寝ってしまったのなら、それは当然永遠に醒めない夢を見続ける事に成るだろうけどね。

 

 今から面白可笑しくあいつらで遊ぶ、まるで子供が生きたまま虫の手足をもぎ取る様に、こいつ等は何も理解出来ずに哀れなアタシらの玩具になり下がるわけだ。

 実にいい気分、この真昼の何処までも晴れ渡った空のよう。今この一瞬ならあの女の事も……いや、それは無い。

 まさに今から二匹は碌な抵抗も出来ず殺され、アジンが忠誠を捧げる暗黒神スカルヘルに抱かれ、バラされた部品は供物に成る筈だった。

 

 そう、間違いなくだった(・・・)筈であり、『生きとし生ける者は、何れ皆須らく平等に死に至る』そんな当たり前の答えを、今更語るのは馬鹿々々しいと誰もが知る事実。

 だが、そんな運命をも容易く覆すように目の前が一瞬で闇に閉ざされ、皆の怯えと焦りの気配が徐々に伝わりだし、病的興奮状態に近い乾いた笑いと誰かのゴクリと唾を嚥下する音が妙にハッキリと聞こえ、胸が締め付けられるような怖気が全身を駆け巡る。

 

 今のこの状況は非常に不味い、兎に角最速であのゴブリンを殺しこの闇を払わないと私達パーティはメリイを抜かし最悪、皆、狂う。

 

 

 同時に耳障りな甲高い声が辺りに響くと、重い何か(・・)が地面落ちる衝撃が何度か伝わり、それに加え地面を削りながら這いずる複数の音が、この闇の中まるでアタシ達が“何処に居るのか見えているかのように”、ゆっくりとしかし確実に全員のもとへと近付いているのだ。

 そう、先程まで感じていた“ゴブリン二匹以外の何かが”現実にソコ(・・)には居た。

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 

 既に自分らの勝ちを疑わぬ驕った相手へ逆転劇を演出し、完膚無きに叩き伏せるには少しばかり地味な手法だったが、ここではワシは芸を見物できる“たった一人の観客”を楽しませる事こそが使命よな。

 そう思考しながら作られた闇の中(舞台)で、今も動けず錯乱気味の人間共もこの喜劇の舞台役者に加えようと、更なる演目の準備にかかる。

 題名は差し詰め「人と人形が織りなす闇の円舞」じゃな、残念ながら芸術や美的感覚は兄上よりも無い故安っぽい名だが、義勇兵共には満足行くまで思う存分舞って貰おうとしようぞ!

 

 闇を見通せるワシには、慌てふためき声を荒げ地面を転がる義勇兵達の姿と、先程まで肩を射ぬかれた痛みで地面に転がっていた同胞が、徐にヨロヨロと膝立ち口を開けたままワシに向き直り固まっている所を観て、牙を剥き出し満足げな笑みを浮かべる。

 途中錯乱し頭を押さえて走り出そうとした者だけ、闇の中(舞台)から出ぬよう<スティッキングストリング>と言う、付与魔術師の記憶の断片から編み出した、粘着性の高い糸を対象者へと絡み付かせ捕縛する古代語魔法を放ち、うっかり転んで無駄な怪我などせぬよう、演目の準備の整う三分間だけ身動きを取れぬように配慮した。

 

 うむ、これでこそ人間種の生存戦略の宿敵たる邪悪な妖魔、ゴブリン族の迫真の演技よな! 今ワシってまさにゴブリンの鏡であろうぞ!

 ……ワシ、一人で何やっとるんじゃろなぁ。いかんいかん! 空腹が響いたか素に戻ってしまいそうになりおった。ダメじゃのぅ役になり切るのじゃ!

 

 脳裏では馬鹿をやっても、作業は進み最後の準備を整える為ワシは未だ固まるゴブリンに近寄り、あっと言う間に肩から矢を引き抜き神聖魔法<キュア・ウーンズ>を発動させ矢傷を癒し、足で辺りに落ちているそれなりの大きさの石を掻き集めた後、古代語魔法<ストーン・サーバント>で対象の拡大を行いながら、魔法を発動させる。

 そして今度は人語では無い、演出が分かり易い様にゴブリン語で語り出す。

 

『出ヨ、我ガ石の下僕達。我ガ命ズルママニ動クガヨイ! ソコナ人間共一人ニツキ一体ガ対峙シ確実ニ蹂躙セヨ! ……「最初は脅す程度で押さえよ、途中合図を送るその際に限り一発は当てろ」』

 

 後半は上位古代語(ハイ・エンシェント)での命令だったが、問題なくコマンドは実行されたようでワシの命に従い石ころから、人間大の簡易ゴーレムが出来上がり紡ぎ上げた魔力に従って、石の従者が闇に呑まれた各義勇兵のもとへと歩みを進め、その気配を察したのかどうかは分から無いが、真っ先に舞台(闇の中)から逃げ出そうとして、魔力の糸に絡み捕らわれた者の前で一度止まる。

 

 そうして捕らわれた者の一人は、石の従者が眼前にいることに気付くと連続して起きた出来事と、襲ってくる極度の緊張の波に堪えられなかったらしく、口の端から泡を噴き出し精神の均衡を崩したのか、耳障りな奇声を上げ自分の体に爪を立てると、血が滲み出すのも構わず肉を抉り取り、ゲラゲラと笑いながらその肉を次々に己の口に入れ咀嚼し始めおった。

 

 他にも向かってくる“石の従者”の気配や、辺りに響く仲間の奇声や悲鳴に負け、絶望を言の葉に乗せ叫ぶ者の声を耳にし、鞘に納まっていた剣を抜き「今スカルヘル様の御許へぇええええええええ!」と喉を潰さんとするかの如き怒声を上げた瞬間、己の腹を割った者まで出る始末じゃ。

 

 ……何この狂気に彩られた惨状、もしかしなくともワシのせいじゃったりするのかのぅ?

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 

(ハァハァ、糞っ! これじゃあまるでいつかのような嬲り殺しだ!)

 

 先程から何とか躱している相手の攻撃には些かの遅滞もなく、彼の鋭敏な感覚はできれば間違って(・・・・)いて欲しい“その事実”を如実に間違ってない(・・・・・)と感知してしまった。

 己の回避に掛ける勘働きは、それでもパーティ随一だと言う事も間違いない。

 どうやら漂う血の臭いから、既に仲間の何人かは……悔しいが殺されたのだろう。

 俺の予想が正しければ、ホウヤは既に戦闘不能だ無理も無いこの闇は、否応にもアレを思い出させ、それはあいつには厳し過ぎる。

 だが、俺はまだそれでも生き残っているのだから、相手を倒せないまでも“機”を計り、スキルを行使する体力の在る内に、あの恐ろしいゴブリンの情報を持ち帰り例え俺一人になろうともオルタナへ伝えなくてはならない!

 

 臆病な俺は“運”以上に拘るものがあまり無かったが、死の間際に立ちそれを越えて皆の帰る街を守りたいと言う強い気持ちが己の内側に在ったのだと気付き、一人では仲間の仇を取れない憤りと、こんな絶望の中でもまだ俺にも希望は見つけられるのだと、より一層生きぬいて再び帰る意思と活力が湧く。

 

(行ける! 前にいるモノが何かは分からないが、攻撃は重く風圧から測れる威力も強い。しかし、その分単調な為か俺は既にその規則性も掴んだ。後は次の一手に合わせて、スキルをぶつけ、相手が体勢を崩した隙に一気に駆け抜ける!! 攻撃力を手数で補っていた俺にはこれしか道は無い!)

 

 再度トウイチに迫る風圧を伴う攻撃に、最初に胸中で抱いた脅威は覚えずただ通り過ぎるのを待つ嵐に似た感慨が浮かび、疲労で憔悴していた表情は既に無くトウイチは己で気付かぬまま、今の心情に沿った不敵な笑みへと変化していた。

 

(いよいよ運命を賭けた一撃が来る! 大丈夫絶対に外さない! 俺にはできる! この【光の帯】みたいなのが、以前聞いた覚えのある特技(アーツ)なのだろう。仲間と共に暮らした帰るべき場所が俺には在るんだ!――やはり計ったように正確な韻だ。三……二……今だっ!)

 

「お前の動きは見切った! ここだっ!」

 

 トウイチの相手の動きの読みと、スキル<膝砕(シャター)>を放った“機”は完璧(・・)で見事としか言いようの無いもの、真にこの時狙いを定めた彼の感覚を鋭くさせた特技(アーツ)は、実際“奇跡”と呼んで差支えない程に神懸かっていただろう事は間違いない。

 そこに狂いは一切なく、まるで稀代の名工の手によって作られた、時の流れに朽ち果てるまで、正確に動き続ける時計の歯車のように精密な動きである。

 相手の動きに合わせ、己を完璧に律する鋼の如き挙動は確かに相手の体制を崩した。

 

 ……が、しかしここで彼が知る由もない、生物に非ざるモノ(・・・・・・・・)に対する肉によって動く生身を持つ者に生じる()、“例えるならとても硬い構造材を力任せに殴った後”のような痛みと痺れ(・・)が体に残ってしまった事、更に運の悪い事に(・・・・・・)ただ一点に集中を向けていた為に、突然今までにない鼓膜を揺さぶる程の二つの“声”に無意識に反応してしまい、地面を踏みしめ加速する為の足への命令が、ほんの僅か二秒遅れ(・・・・・・・・・)てしまう。

 

 そのたった二秒が、“彼の運命を決定づける結果”になるとは何と言う皮肉(・・)であろう事か。

 彼が今迄拘りを持って居た“運”と言うものは、確かに無視できない要素であったと彼の人生を第三者視点で見る事が出来る者が現れれば、きっと頷かざるを得ない筈だ。

 なんせ予定(・・)より二秒も遅れた彼は、彼によって狂わされた攻撃時の加速&体制を崩した際の運動エネルギーを加味された、高さ二メートル近い石で出来た人型の物体の重さに押し潰されたのだから。

 

 

 ついに石の従者が、目標の一人へ最初で最後の一発をもう直ぐ当てようとしていた頃、この男は闇を前に“何が起きたのか?”と言う、至極当然な疑問が湧いたが、己はパーティの前面で敵を倒す事だけを考えればよく、余計な事を考えるのはリーダーであるアマナの役目だと割り切って、一瞬浮かびかけたホウヤの事も己にとって今は面倒な事だとあっさり切り捨て放棄した。

 この時ダイキは目を瞑り只管気配を読む事だけに集中し、飛んで来る攻撃を躱す。

 奇しくも明確な敵を倒すと意識した瞬間と、もう一人の前衛であるアジンの叫びに重なり、同時にそれは石で出来た拳が主の命に従い「途中一発は当てて良い」との命令に、何の葛藤も躊躇もなく降り下される瞬間でもあったのだ。

 

 頼もしく聞こえた仲間の声に悲痛な成分が混じった気もしたが、何かの間違いだろうと己も爆発するような勢いで怒声「うぉおおおおおおおお(ウォークライ)!」を上げ、見えない筈の敵の攻撃へ、起死回生のカウンターを狙って放った義勇兵一行(パーティ)中一番頑健な男(タフガイ)なダイキの秘中の秘であり、更なる思考の先で彼は<雄叫び(ウォークライ)>の効果で怯んだ相手を、激しく流れる水の如く手にした両手剣で更なる追撃<憤怒の一撃(レイジブロー)>で止めを刺していた。

 

 

 筈だったのだ(・・・・・・)。だがダイキは知らなかった、その秘中の秘を放った瞬間も相手は怯む事が無く、その凄まじいまでの勝利への執念が、もう一人のやたら運に拘る仲間を一瞬だけ驚かせ(・・・・・・・)、その致命的なまでの一瞬の隙が彼の明暗を分け、幸運の女神の前髪を掴み損ねる結果に繋がった事は、最後まで知らずに彼が闇へと沈んだのは、果たして“幸運”だったのであろうか?

 

 

 メリイは自分ではどうしようも出来ない事態の中、只管どうやってこの闇から抜け出し生き残るかだけを考えていた。

 こんな場所で私は無駄に命を散らす気は更々無いし、この戦闘が起きた理由だって単に馬鹿な連中のせいで巻き込まれただけ。

 仮にあの人語を解すゴブリンに事情を話し、「私は彼らとは無関係」だと分かり何もせずこの場から立ち去っても良いと言うなら、私は喜んで手を振ってオルタナへ戻る。

 今回までの契約だったけど、こんな無謀な戦いで死んで良い程のお金を受け取った覚えは無いし、更に言うとチームアマナのメンバーには義理や友情と呼べそうな友好的な関係は全く築いて無い。

 ……代わりに溜まりに貯まった苛立ちと、魔術師の使う火の魔法でも起こせそうな怒りと両方の貯蓄の合計で、大きなお城でも買えそう。

 勿論そんな支払い方法で買える城なんて、仮に在ったとして碌なモノじゃない。

 

 後はただ一緒に顔を突き合わせている間、彼らのいやらしい視線と言動による性的嫌がらせと、リーダーのアマナから来る契約外と分かっている従う必要のない命令の数々。

 いっそ契約違反だと言ってさっさと抜けようとも考えたけど、お金が欲しいとパーティ契約の斡旋を酒場のおじさんに頼んだ手前、彼の顔を潰す様な事だけは私からは極力したく無かった。……お蔭様で忍耐力は彼らといた分だけ、日々向上して行く事になる。

 

 だからこの契約の最終日を明日に控え、最後のお勤めと自分に何度も言い聞かせてサイリン鉱山の調査の依頼を受けたチームアマナへと着いて来たのが、このとても長く感じる一連の面倒な騒動の始まりだった。

 

(今日の晩御飯、何にしようかしら? ムツミの好きだったなぜかほんのり甘い優しい風味のオムライスと彼女が名付けた卵料理、あの秘伝のレシピの隠し味は日記を読めば分かるし、オルタナへ帰ったら早速卵と材料を買に行きましょう)

 

 既にメリイは今の所全く自分に危害が無い事から、どうせ闇の中だと開き直り目を瞑って軽い現実逃避をし始めていたのである。

 彼女は経験に裏打ちされた実力に、冷静な判断力と大胆な行動力も併せ持つ、実年齢よりも確りとした大人の考えで行動できる稀な女性だった。

 尤もそれが本人にとって、幸せか不幸せかは誰にも分からない。

 それにそんな曖昧な基準では、彼女を秤ようが無いのかも知れない。

 

 

 斥候だったホウヤの声が耳に聞こえたが、明らかに“箍”が外れていたのに今はゲラゲラと調子外れな笑いを時折響かせ、聞く者に不快感を覚えさせている。

 いえ、何時の頃からかアイツらは、不快感を他人に与える天才に昇華したんだったわね。最近の主な被害者は酒場の女中や色街で働く女達だけじゃなく、私がだけど。

 そしてあの気障ったらしい割に、人の体を舐め回す様に眺め喜色悪い笑みを浮かべる変た……暗黒騎士アジンの叫び声と、弱者を痛めつけるのと鍛える事を勘違いし、何度もオルタナの住人と問題を起こしている戦士ダイキの怒声が重なる。

 皆それぞれ心に傷を負い、今もそこが治り切らず膿んで腐敗を広げていたのだ。

 

 

「ジール・メア・グラブ・フェル・カノン!」

 

 くっ、何なのよアレは!? あんなのが二体目も来るなんて冗談じゃないわ! 足止めが一応効くから<凍てつく血(フリージングブラッド)>で何とかなっていたけど、これだけでアレを倒すのは無理。

 

「マリク・エル・パルク!」

 

 続けて撃った<魔法の光弾(マジックミサイル)>で凍って動けない所を当ててはいるけど、漸く一体を倒したと思ったら後ろに次のが来ていたなんて、何て悪夢よ。

 これが本当にただの夢なら、起きた後であの生意気女メリィに嫌がらせの一つや二つに三つでもして、ほんの刹那の憂さ晴らしをしたんでしょうね。

 疲労に活を入れながら覚えのある呻き声が一度だけ響き、その後忽然と二人の声は途絶えてしまう。

 

「今の呻き声は!? あの糞ゴブリンがぁあ!! アジンにダイキまでやられたなんて……」

 

 あの得体の知れない人型の地面を削るように近付いて来る足音に気付いた頃、既に完全に異常なホウヤの声音や、笑い声で私は確信する。ホウヤはまた戻った(・・・・・)に違いない。

 ……あれは数年前、まだホウヤの妹ミヤユが生きていた頃、何も知らない見習い義勇兵として旧市街ダムローを狩の練習場にし、ゴブリン共を殺してはその日の稼ぎの足しにしていた毎日。

 慣れればそれなりに自信も付き、習得したスキルも増え自分の成長を感じ取れた頃だ。

 

 その日も何時ものようにゴブリンを探して、狩の最中の事だった。

 突然どこからそれほど集まったのかと、叫びたくなるほどの数に周りを包囲され、気付けば近くに居たパーティも退路を断たれ、互いを補う様に守り一つの建物の中に合流したのは必然である。

 

 ……ただしそれがゴブリンの仕掛けた、大掛かりな罠の狙いだと気付くまでは。

 

 奴らは決してただの馬鹿では無い。

 泥ゴブリンのような“はぐれ”は除外するが、奴らは徒党を組み場合によっては、此方の軍やクランに匹敵する数を揃えて行動する事だって在るのだから。

 そうして罠に掛けられたと気が付かない私達は、一応の安全を確保できたことで長い緊張を保つ事ができなくなり、次第に包囲していたゴブリンの姿も減り弛んだ空気になるのは最早必然。

 敵地だと言うのに経験の浅かった若い皆は、夜になると連戦のせいで疲れている事も在って、最低限の見張りを決めた後心地よい疲労に任せ深い眠りについた。

 

 突然の絶叫と、鉄と鉄がぶつかり合う剣戟に叩き起こされ、まだ鈍い意識のまま辺りを見回し明かりが無いまま、本気の斬り合いをしている事に気付き、音を立てて血の毛が引くのを感じる。

 誰かが言った、「ゴブリンは建物内部から湧いて出た」その為発見が遅れ、既に何人かが攫われ、外の様子を窺っていた見張りが偶然気付き、武器で攻撃そのまま乱戦になったのは誰もが予想できた。

 ゴブリン共は狡猾に闇に潜み、抜け道で建物の外と中を繋ぎ私達が罠の腹に納まり寝静まるのを今か今かと待っていたわけだ。

 

 そうしてオルタナに戻ってきた事に気が付けば、生き残った仲間はたったの三人。

 私とトウイチ、それにこの頃から強かったダイキだけ。

 二つのパーティ合計十二名の内、四分の一しか生還できなかった。

 

 その二日後、偶々旧市街で生き残りを見つけてきたパーティが、怪我だらけのホウヤと目が虚ろなアジンを連れて戻り、辺境軍にその詳細の聞き取り調査をされたのだが、ホウヤはこの時すでに壊れていて、碌に喋る事も出来ず何とか話せたアジンが言うには、彼がこうなった理由は目の前で妹を生きたまま解体され、更にその肉を生で食わされたからだそうだ。

 その後ホウヤは光明神ルミナスの神殿で半年過ごし、何とか少しずつ自分を取り戻したが、ゴブリンへの憎しみは強かったが闇への恐怖だけは克服できず、常に部屋は明かりを灯して寝ていた。

 

 ああ、もう冗談抜きに魔法が撃てない……詰んだわ。

 もしかして、あの人語を喋るゴブリンって今迄散々殺してきたゴブリンらが、恨んで化けて出て来でもした? それこそ今更イイ迷惑よ。

 ゴブリン共だって散々オルタナの住人や、見習い義勇兵を沢山殺してんじゃない。

 だいたい逆恨みするぐらいなら、戦争なんて直ぐ止めて人間の住む領域への侵攻なんて諦めて欲しいわ。

 




 当作品を読む事で、少しでも楽しんで頂ければ幸いです。
 旧ソードワールドの内容は色々うろ覚えで書いた部分もあるので、誤字脱字、感想、ツッコミ等お待ちしております。

 前回の後書きに書いた『TS』タグと『のじゃ』タグを追加するかですが、友人にも訪ねたところこんな返事が返って来た「要素が薄いし感想も一件、気にしなくていいんじゃね?」作者は彼の言を信じ、このまま暫く行くつもりです。

 修正致しました。○メリイ
         ×メリィ
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