旧魔法王国からの転生譚   作:秋野よなか

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 評価とお気に入りを頂いて嬉しく思います、では三話目も投稿させて頂きますぞー!

 サブタイ変えました。(気分


 ヘッドバットで赤く染める女の友情!(捏造

 目の前で繰り広げられる狂乱と惨劇、義勇兵達の突然の豹変と崩壊、一人は精神に異常をきたしているのか今もゲラゲラと笑い転げ、一人は絶叫と共に割腹して死にかけ、一人は石の従者(ストーン・サーバント)に押し潰されて血の海に沈み、一人は石の従者(ストーン・サーバント)の打撃をもろに受け伸びている。

 まだ立っているのは、よく分からない魔法らしき技能を使い石の従者(ストーン・サーバント)を一体破壊してもう一体に殴られ気を失う様にして倒れた女魔法使いと、最初から戦いに加わる気のなかったように見える女子(おなご)だけじゃった。

 

 もう一度言おう、どうしてこうなったんじゃろ?

 

 ワシが使った古代語魔法は、せいぜい正魔術師から二段位上程度の難易度の低い物ばかりで、ゴブリンの特性も活かせる事じゃし最初は初歩の古代語魔法<ダークネス>を弓の牽制に使ったのじゃが、随分と驚いておった様に見えるのはゴブリンが古代語魔法を使ったからじゃとワシは思っておった。

 じゃから直ぐに義勇兵の中に居た魔法使いが古代語魔法<ライト>による、対抗効果のある魔法で<ダークネス>で作った闇を消してくるじゃろうと、一時的な優位のみを考えておったのじゃが、何故か一向に闇を打ち消そうとはせずに、視界の利かないまま奴らは必死の形相で戦いを始める始末。

 きっと何か打開策があるのじゃろうと、構わず石の従者(ストーン・サーバント)を嗾けてみれば忽ち義勇兵の男四人が倒れ、女魔法使いも変わった魔法の行使と打撲による気絶で終わる惨憺たる結果となりおった。

 

 これはもしかしなくとも、マナト殿やハルヒロ殿達のように見習い義勇兵になり訓練を終えたばかりの連中なのかも知れぬのぅ。

 ちょっと義勇兵の“狩”の仕方を見るつもりじゃったのに、こんな事になるとはファラリス神でさえ思いもよらなかったに違いない。

 ……そうとでも思わなくてはやってられんのじゃ!

 

 取りあえずまだ稼働している石の従者(ストーン・サーバント)達の動きを止め効果を解除し、未だぽかんと口を開け言葉を失い呆けているゴブリンを帰らせ、ワシは倒れた四人の治療を施す為に神聖魔法<キュアー・ウーンズ>を唱えるのじゃった。

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 一通り怪我の治療を行った後、狂乱していた者には神聖魔法<サニティ>を使い強制的に精神の安定を取り戻させたのじゃが、また直ぐに精神の均衡を崩しだしたことから原因はこの<ダークネス>で作り出した闇が発端じゃと漸く気付き納得する。

 何かしら精神的外傷を負っている事は確かなので、早々に闇を取っ払っても良いのじゃが、そうするとワシがこのゴブリンの姿のままでいてはあまり得策では無いじゃろうし、変に噂が広がって貰っては困るのじゃ。

 仕方なく未だ残っている者を含め、古代語魔法<スリープ・クラウド>で眠って貰い、全員意識を失っているのを確かめた後、<シェイプ・チェンジ>と<ダークネス>の効果を解除し再度精神の安定の為に神聖魔法<サニティ>を掛け、更に石の従者(ストーン・サーバント)が倒れ込み潰れて酷い骨折をした者の治療する為に、神聖魔法<リフレッシュ>を掛けようと試みたが残念ながら魔法は不発に終わり、死なぬように<キュア―・ウーンズ>で出血は止めはしても、やはり高度な神聖魔法が今一つ使えない己に溜息を吐く。

 

「やれやれ、折角貼り切ったのに上手く行かんものじゃ。と言うかよーく考えてみると、魔法使えば前の姿にも戻れたんじゃったな。何だかもう全ての事が面倒じゃ、……こ奴らから少しばかり金目の物を頂いたら、適当に起こして今日はもう街に戻るとしようかのぅ」

 

 そうして眠っている全員から、怪我の治療代と“迷惑料”を合わせ話に聞くそれなりの価値があるらしい銀貨を一枚ずつくすねると、最後まで立っていた女子の肩を揺すって眠から起こす。

 本当にこの地ではガメル硬貨は出回って無いのじゃなと、両面に打刻された模様を指で確かめるように撫ぜながら考える。

 冒険者ギルドだけでなく、普段から接していた通貨さえ違う事に改めて遠い場所へと転生したんじゃなと感慨深く思うた。

 

「ほれ小娘、早う起きぬか。こんな所で眠っておると、またゴブリンらに襲われてしまうかも知れんぞ?」

 

「……? っ! そんな……私、何時の間に!?」

 

 まあ驚くのも無理は無いじゃろう、知らぬ間に意識を失い寝ておった……とでも思っておるんじゃろうな。

 服装や装備に乱れが無いか他手探りで確かめた後異常が無いと分かると、周りで倒れている仲間を見回して何かしら思う事が在るのか、注意深く見た後にワシの方を何度か振り返り、急に眼を細めると幾分顔付きが変わったように見えた。

 この小娘の不可思議な行動から、さっさとこの場から離れるに越した事は無さそうじゃと思い、適当に話を振って別れようと声を掛ける事にする。

 

「何ぞ悪い夢でも見ておったか? うん? まだ寝惚けておるのか? ワシは街に帰る途中でお主らを見つけたのじゃが、そ奴らもさっさと起こして「あなたの服装、どう見ても私達と対峙していたあのゴブリンと一緒。どういうこと?」……どういう? お主が何を言っているのか、ワシにはとんと分らんのじゃがのぅ?」

 

 倒れた時に着いたらしい土埃を軽く叩いて払うと、この小娘の方が若干背も高かったのじゃが、そのままワシを澄んだ鋭い眼差しでみつめ話し出す。

 

「どう考えてもおかしい。ついさっきまで此処で殺し合いをしていたのに、まるで何事もなかったかのようにされている(・・・・・)。だけどツメが甘かったわね、あなたの服に着いているその血の臭いは誤魔化せない」

 

「何じゃその訳の分からぬ理屈は? まるでワシがその殺し合いをしたゴブリンだとでも言う様な口ぶりじゃが、それこそ夢でも見たのじゃろ? ワシには“お主らが全然死んでいるようには見えぬ”からのぅ。それとこう見えてもワシは神官じゃからな、こ奴らの負っていた怪我の具合を確かめ治療を施した。血は大方その時に着いた臭いに違いなかろうて」

 

 ふふん、そんな言葉で動揺を見せる程ワシは若くは無いのじゃよ? 中々勘が良いようじゃが、確証を得られるほどの証拠もなければ、ワシがそのゴブリンじゃったとどうやって証明する気かのぅ? 本当にワシが件のゴブリンなら何故お主らは生きている? とでも言えばどうせ小娘には答える事など出来ぬであろうよ。

 今もワシを睨むかのように見つめ刺々しい視線を送ってくるが、全然何の痛痒も覚えぬな。そもそもワシの知識の探求の邪魔をしてきたのは小娘らが先なのじゃからな!

 そう思い腕組み胸を張りながら不敵な笑みで返してやると、何を思ったのかこの小娘は肩を竦めて溜息を吐く。

 

「はあ、もういいわ。私が何を言っても無駄なのは分かったから、一つだけ聞かせて。何故助けたりしたの?」

 

「はあ? お主は何を言うんじゃ? 何故も何もそ奴らの半分は冗談抜きに死にかけておったからな。まだ助かると分かる命なら最後まで諦めず手を差し伸べようとするのは、神に仕える者として当然のことじゃろ?」

 

 どんな質問が来るかと思い多少身構えておったが、別段ワシを嵌めるような内容でも無かったので、首を傾げつつ正直に答えてやったのじゃが、何故この小娘はそんな質問をした上でワシの答えを聞き驚きの表情を一瞬浮かべたのじゃろう? その後も右手で左腕を抱きしめながら酷く苦しそうな顔をしよるし、己で質問しておいて苦しむとはよくよく分からぬ奴じゃのぅ。

 とは言え、流石のワシとて危害を加えると明確に分かる相手を癒す気は更々無いがのぅ。こ奴らがワシを襲う理由は既に無いし、例え何らかの要因で敵対するにしても弱点が分かっていれば脅威にもならん。

 逆に最後まで残っていたこの小娘、妙に勘が利くようじゃし顔と名を今の内にしっかり覚えて後々に備えておくのが得策じゃろうな。

 少しばかり助言でもして舌の回転を滑らかにしてから、少しずつこの娘との会話をしやすくしようと考え口を開く。

 

「何をそう苦しんでおるのかは知らぬが、過去を思い己を責め続けても救いの無い自虐でしかないぞ? ワシ程長生きをしていれば自然と分かるようになるじゃろうが、過去は懐かしむものであって決して苦しむものに在らず。より良い生き「やめてっ! あなたに……あなたに何が分かるって言うの。さも私の幸せを分かっています、何て説教聞きたくないわ。だいたい私よりも若く見えるあなたが、長生きってどう考えてもおかしいでしょ!」……ふむ、余計な事を言ってしまったようじゃ。どうもワシは昔からお節介な一言で誰かを怒らせるのが得意でのぅ」

 

 普段ならもう少し思慮深く先の事を考えて何事も行うのじゃが、ふと思った事をそのまま口に出した途端、激情に駆られ怒りの感情を剥き出しにする小娘に噛み付かれよった。

 あの様な表情をする者を過去に何人も見てきたワシは、うっかり口を滑らせついニヤニヤとお節介が得意などと言った結果、両肩をがっしりと掴まれ現在進行形で激しく前後に揺さぶられて非常に気分が悪い。

 

「人の、気持ちを、簡単に、言い当てて、お節介が得意!? 馬鹿に、してるのっ!!」

 

「こ、これ! そんなに揺すっ、っ痛! 舌がっ、やめっ! 離さぬっ、かっ」

 

 駄目じゃ、こうも押さえ込まれ揺さぶられては、視界が定まらぬ上にこの小娘体術の心得もあるのか、振り解こうにも巧みに力加減を変えてワシの手を掴ません。

 いい加減吐き気が込み上げて来て、頭への血の巡りもおかしい。

 このままでは、ワシ、この小娘如きに止めを刺される!? 脳裏に浮かんだのは領内での殺人の動悸の確認で聞いた「ついかっとなって殺った(・・・・・・・・・・・)」が真っ先に連想され、悪寒と共に背中やうなじに脂汗がぶわっと吹きでるのを感じる。

 折角転生したばかりに、こんな下らない事でまた死ぬなどアホ過ぎて承認できぬわ!

 そうじゃ! この揺さぶりに合わせて頭を振子のように……今じゃ!

 

「私が! どんな思いでっ! こんな奴らとぉ!」 「とあーっ!」

 

「ぐえっ!」 「あがぁっ!」

 

 決死の覚悟で気合を入れて頭突きを敢行した途端、とても鈍い音と一緒に目の前が真っ白になる様な衝撃と痛みがワシを襲うと同時に、捕まれていた体が投げ出され地面を転がり視界がぐるりと回った。

 額を押さえ何とか上半身を起こしたところで、あまりの痛さに我慢ができず声を上げる。

 

「ぐぁあああ、額が、額が割れるように痛いぞ! ううぅ。勝手に涙が、おのれ小娘ぇ!」

 

 火を当てられたように熱く吐き気がする程痛む額を押さえ、後から後から零れる涙を拭いながら憎きあの小娘を探す。

 よく火事場の馬鹿力などと言うが、先程の小娘が発揮した腕力はよっぽどじゃな。

 痛みで集中が途切れるなど、神官としての修行が足りぬからじゃと昔は思っていたが、今だけはその考えをなかった事にしても良いなと思いつつ、ファラリス神に祈りを捧げ神聖魔法<キュア―・ウーンズ>を何とか行使し、額の痛みを弱めるがこの頭痛は暫く続きそうじゃ。もう早く帰って寝台に潜り込み毛布を被って眠りたい気分じゃよ。

 そんな弱気に一瞬なりかけたが少し離れた所で、あの小娘の掠れた声が聞こえた。

 

「くっ、光よ、ルミアリスの加護のもとに……こんな事で魔法を使うなんて」

 

「ほほう、随分と変わった神聖魔法の行使じゃのぅ。この地で信仰される光の陣営の神はその様な名前なのか、それと小娘、治療だけじゃなく顔も拭いた方が良いぞ? 吹き出た鼻血で上着も真赤じゃからのぅ」

 

「いったい何処の誰のせいでこうなったのかしらね。……ちょっとまって、この地で信仰されている神の名って! まるであなた、光明神ルミアリス以外の神を知らないとでも言う様なその口ぶり、どう言う事!?」

 

 結構な量の鼻血が出たせいか少しばかり顔色が悪いが、それでも冷え切った声音でワシに皮肉を言えるくらいには元気があるようじゃった。

 しかし唐突に何事か考え込むような表情になり、顔を拭けと言うたのにも関わらず血気迫る様子で言葉を捲し立てるとまた掴みかかってきおる。

 

 本当にこの小娘はどうしようもない奴じゃのぅ。

 取りあえずこのような場所では落ち着いて話も出来ないじゃろうと言い、まだ寝ている者を叩き起こしたのじゃが、その時起きた三人はワシの説得で渋々荷物を纏めていた小娘の姿と顔を見た途端、何を思ったのか箍が外れたように笑い転げ、腹を抱えて涙を流しひいひい言うて悶え苦しみだしおった。

 

 その姿にワシは慌てまだ狂気に囚われたままじゃったのかと、治療の甲斐なく無念の思いを抱いたのに、何とその理由が普段すまし顔で何事もそつなくこなす小娘が、鼻血塗れで機嫌悪くしながら皆の荷物を纏めていたのを見て、男どもは大いに笑いが込み上げたと息を切らして語るのじゃが、身内でしか分からぬ事が原因らしい。

 こ奴らそんな事で笑い出すとは正気かどうか疑いたくなったのじゃが、先程とは違う別種の怒りを湛えた小娘を見て余計な口は挟まず、やれやれと呆れながら怪我でまだ気絶している者は起きた男どもに運ばせ、ワシらはオルタナの街へと帰るべく来た道を戻り始めた。

 

 ……まさか、また門であの歩哨ら二人と出くわし、ひと悶着あるとは思わなかったがのぅ。

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 一緒に帰ってきた見習い義勇兵の男どもは血を流し過ぎていて、それを無理矢理神聖魔法にて補った為に体力が極端に落ち込みはしたが、ワシでは治せなかった酷い骨折をした者はそのままルミアリス神殿へと運び込んだ事で、その怪我も問題なく魔法で治療出来たようじゃった。

 この地で信仰されてる神の神殿だけあって、ワシのように魔法が不発で終わる事も無くその効果を遺憾なく発揮しているのは羨ましいのぅ。

 まあ、結局男共は全てが片付く頃にはすっかり疲れ果ててしまい、死に態の様子で体を引き摺る様にして宿へと戻ったようじゃが、あの様子じゃと暫くはまともに体を動かせはせぬじゃろうな。

 件の小娘はワシを絶対に逃がさぬとばかりに手を繋ぎ、漸く鼻血を拭いてまともに見えるようになったのに酷く血走った目付きで何処かを目指し進む。折角門で手桶と水を頂き拭いたのに、この形相では可愛さの欠片もないのぅ。

 そんな小娘の様子を恐れ道行く者は脇に退くようにして道を譲り、街の奥側にある高い位置の建物へと連れて来られると、そこのテラスにあるテーブルへと座らせられる。

 

 見回してみると他にも何席か同じ様にテーブルが用意され、簡単な茶屋のような設備も備わっているようじゃった。

 どうやらこの小娘はここを定宿とし、見習い義勇兵を生業としているらしい。

 

 色々と時間を食った為座った席から見える景色は、もう直ぐ地平線へ沈みゆく夕焼けで眼下に見えるオルタナの街と空を薄らと赤く染め上げていた。

 

 

「それで、ワシに何を聞きたいのじゃ? 光明神ルミアリス以外にワシが知る他の神々の話でも聞かせようか? それともここグリムガル以外の大陸の話はどうじゃ? これでも他の者よりは長生きしたつもりでのぅ。まあその分余計な知識もワシの頭の中には詰まっておるが、小娘には良い刺激になるんじゃなかろうかのぅ?」

 

「メリイ、私の名前。小娘じゃないから名前で呼んで」

 

「ふむ、ならばワシも名乗らねばいかんな。ワシの名はトー……トオル、この辺境の地ではなく遥か遠いアレクラスト大陸にある、ラムリアース王国にて生を受けし者じゃ」

 

「トー・トオル? 変わった名前ね。何か飲む?」

 

「いや要らん、余人を交えず話をしたいからのぅ。それとワシの名はトオルじゃからな。正式にはもっと長いのじゃが、取りあえず間違えんで欲しいのじゃ」

 

「そう、トオルね分かったわ。一応私も義勇兵になってそれなりにこの街を拠点に過ごしてきたつもりだけど、トオルの言うアレクラスト大陸やらラムリアース王国何て名前、残念だけど全然聞いた覚えは無いわ。私達人間族の唯一の国家はもうアラバキア王国しか残って無いし、他の地域はダムローみたいに諸王国連合、不死者の王が君臨した帝国に全て飲み込まれてしまった筈よ」

 

「不死者の王じゃと!? 古代魔法王国が滅んでからも度々歴史の舞台に名を表しておったが、己の在り様を巧みに隠し闇に潜む事を好む者が堂々と表に出て来て存在していたと言うのか? しかも帝国何てものを築くほどに勢力を伸ばす力があるとは、余程凄まじい力を持った者なのじゃろうな……」

 

 不死者の王、その名を聞いて思わず叫んでしもうたが、その詳細を詳しく知れば知るほど声を荒げるのも仕方のない事じゃろう。

 流石のワシも文献の中でしか知らぬ存在じゃが、強さを比較できる様な者がおらず推定でエルダー・ドラゴンにさえ匹敵する、最高位の暗黒魔法や古代語魔法に精通した恐ろしい死霊術師(ネクロ・マンサー)でもあるアンデット。それが地上へと現れ人の支配領域を塗り替えるとは、ワシはなんとも凄まじい時代に転生してしまったもんじゃのぅ。

 もしやその不死者の王を倒す者の手助けをする為に、この難題を如何にかせよとこの地へとワシを転生させたのが神の思し召しなのじゃろうか?

 ええい、飲み物を聞かれた時断らず茶の一杯でも所望すればよかったわ。

 難題どころでは無い厳しい現実をこうも突き付けられると、どうすべきか悩み処じゃわい。

 

 確かにその様な状況なら、前線に近いらしいここでは呑気に冒険者ギルド何ぞ運営できる筈も無いし、だからこそ軍属である義勇兵として戦う者が集っている訳じゃな。尤もその運用方法が上手く行っているかは少々疑問じゃが、それも仕方のない事なのじゃろう。

 

「百面相で驚いている所悪いけど、百五十年も前に現れた不死者の王は一応もう滅んだって話。だけど……今もこの地には忌々しい呪いが残っていて、死んだ者をそのまま放置すれば、一週間もしない内にアンデットになって、起き上がるわ」

 

 なんと不死者の王は既に滅んでおったか、それを聞けてほっとしたが少しばかり肝を冷やす思いじゃったわい。……とは言え呪いが残っておるのは何かしらの呪いを常駐化させる道具に当たる祭器が隠されてあったり、広範囲に渡って影響を与える儀式魔法でも施した後なのかもしれぬな。

 メリイはワシの驚いた様子を見て少しばかり意外そうな表情を見せた後、とても苦しそうに一言一言確かめるように言葉を吐きだすその姿は、街に戻る前に「何故助けたのか」と言う質問をした時と同じ様な苦い物でも含んだみたいな表情を浮かべておる。

 

 これは単なる勘じゃが、この小娘いやさメリイは、過去に家族か親友はたまた恋人の内誰かは分からぬが、その何れかを亡くしアンデットにされでもしたのじゃろうな

 その気持ちは分からぬではないが、感情の面までになると理解出来ぬがのぅ。

 

「ふむ、その話の流れじゃと一応不死者の王を倒した者は、『邪なる土(アンホーリー・ソイル)』と呼ばれる魂の依代もきっちり処分したんじゃろうて、でなければ日を跨いだ夜には不死者の王は復活しておるはずじゃしのぅ。まあ消滅してないのなら逆にさっさとワシら人間を滅ぼしておるじゃろうしな」

 

「そんな事まで知っているなんて何者なの? けどそんな不吉な事は他所では言わない方が良いわ。今だってまだ不死者の王が何処かで蘇り生きているって噂が絶えた事はないの。あまり変な事を言いふらしていると、それこそ治安維持の名目でこの前線を守備している領軍に捕まって刑罰ものよ」

 

 先程とは違い視線で素早く左右を確認した後声を潜めメリイはそう告げた。

 余り滅多な事を言うては本当になった時、罪に問われるなど下らない事になりそうじゃなと思い黙って頷く事にする。

 ワシの知る魔法で唯一アンデット化した者の魂の救済を行えるのは神聖魔法<セーブ・ソウル>じゃが、残念な事にワシにはまだ使う事は出来ぬし、そもそもアンデット化した者を既に祓っていれば必要は無い。

 他にも死者蘇生の魔法である神聖魔法<リザレクション>は以前なら行使出来たのじゃが、今のワシの状態じゃと行使するのは少々厳しいじゃろう。

 

「ワシばかり色々とお主に教わっては、天秤の秤の釣り合いは取れぬ。今度はお主の質問に答えよう。して何が聞きたいのじゃ?」

 

「そう、じゃあお言葉に甘えて。最初に言った光明神ルミアリス以外にトオルの知っている光の神々の事、あと深く追及はしないけど昼間のトウイチとアジンの倒れていた傍の出血量だと、私の知る<癒し手(キュア)>や<癒光(ヒール)>の魔法で癒しても、どう頑張った所で死んでいたわ。それなのに、どうしてアイツらは生きていたのよ!」

 

 今度はワシが答える番じゃと、兄上のように行儀悪く椅子を傾け足で揺らしながら質問が無いか促すと、メリイは椅子に座っては居ても、話し出すとその興奮から前のめりに半分腰を浮かし、握り締めた拳がテーブルの上で細く震えているのが目に入った。

 あまり声が大きくなっては意味が無いので、一端落ち着かせる為に言葉を挟もうと、手の平をメリイの前に翳して止める。

 

「その怒鳴り様、何やらあ奴らと並々ならぬ事情がありそうじゃが、ワシには全く縁も所縁も無い事じゃからお主が何に怒っているのかさっぱり分からぬ。が、今の言いかたじゃとまるであ奴らには死んでいて欲しかったような語り草じゃな」

 

「っ!! だって、許せないじゃない。馬鹿なあの連中は生き残って、私の仲間は! オグやムツミは私の腕の中で「死にたくない」って言いながら死んでいったのよ! それにミチキは! ……ミチキは残りの仲間と私を生かす為に一人残り、その最期だって私は看取って上げる事さえ出来なかったわ。回復魔法の配分を間違えた馬鹿な私のせいで……けど、馬鹿な話しだけどあの時トオルの話しを聞いてから、もしかしたらって考えちゃうの。トオルの知っている神さまに祈っていれば、私もあの時三人を死なせる事は無かったんじゃって、そう思うと、とても苦しくて、悔しいの」

 

 ワシの疑問に答えるうちにメリイの高まっていった感情は、まるでプツリと糸が切れるように突然萎み、最後は辛うじて聞き取れる大きさの声で囁くかのようじゃった。

 話を聞き終え胸に去来する何とも遣る瀬無い気持ちに、どう収拾を付ければよいやらと思案しながら、メリイから視線を外せば橙に染まる空と昏く濃い蒼が混ざる夜の境界を遠くに見て、この雰囲気を払拭する為に古代語魔法<ライト>を発動させ、テーブルの上にあった燭台を目標とし光源にする。

 立ちどころにテラスが淡い光に包まれ、少しずつ降りてきていた夜の帳が遠のく。

 目の前で起きた現象に頭が着いて行かないのか、言葉を無くし口をぱくぱくさせながらメリイは燭台に光を灯したワシの指先を、慌てて周りから隠す様に両手で掴む。

 

「ほほほ、どうじゃ驚いたであろう? 蛮族の小むす……んん、あーうん。メリイよ、気にせんでくれ。ちょっとだけワシが魔法を使おうとする時、稀に妖精さんがこうちょっかいを掛けて来てな? それで困ったことに少しばかり悪戯をしてくるんじゃよ」

 

「え、ええ。十分驚いたわ。トオルがとても変だって事と、私の知らない何かとそれを応用して実践できる確かな技術を持っているって事は」

 

 少々頬を引き攣らせながら答えたメリイの様子を見れば、少しは気分を変えられたようじゃとこっそり息を吐く。他にワシがメリイにしてやれそうな事と言えば……ここでふと気付いたのが、ワシは生前足繁く魔術師ギルドにも足を運び、導師級魔術師の称号を受けてはおったが、神殿での奉仕が忙しく同時に研究もしていた為、弟子を取った事はとんと無かった事を思い出す。

 

 これぞ天啓に違いなかろう、最初の内は苦労するじゃろうがこの娘をワシの弟子一号として育ててみるのも一興じゃなかろうかと考える。

 では早速とばかりに誘ってみて、メリイの反応をみるとするかのぅ。

 ふふふ、ワシは年甲斐もなくとてもわくわくしておるぞ!

 

「そう、ワシはお主の知らぬ知識と技術を持っておる。例えばこの光を灯す魔法があれば、突然現れた闇をも立ち所に打ち消し、戦況を変えることができるじゃろうて。それに光と闇は元々表裏一体の存在、光なくして闇は無く、また闇無くして光は在らず。どうじゃメリイよ、少しは興味が湧いたじゃろ? ならばこの技術、お主は学んでみる気はあるか?」

 

 くつくつと笑いが込み上げ、唇の端がキュッとつり上がり満面の笑みでワシはメリイに向かって掴まれた指とは反対の手の平を差し出す。

 メリイはワシの言った意味が分からなかったのか、険が取れきょとんとしたこの娘本来の表情が見えて更に笑みが深まる。

 漸くワシが手を差し出した意味が理解出来たのか、恐る恐る右手の掴んでいた指を離し、そっとまるで焼けた鉄板でも触るかのようにして左手を重ねた。

 

「ふむ、ワシはこう見えて導師級魔術師と高司祭位神官を修めし者じゃ。ワシが何処までお主に伝え、又、お主がどれだけワシの知識に応えることができるか分からぬが、少しずつでも前に進んで行こうと考えておる。メリイよ、この地ではワシは不慣れじゃがこれからよろしく頼むぞ」

 

「ええ、分かったわ。こちらこそよろしく。……それで、やっぱりあの“昼間の事”ってトオルの仕業だったのよね? 最初に会話した時確か「またゴブリンに襲われる」って言った筈、どうして知っていたのかしらね? 師弟関係を結ぶなら私達の間に嘘や偽りに隠し事はダメ、さあ切りきり白状してもらうわ」

 

「うん? ちょっと待たぬか! どう考えても師弟の立場を持ちだすなら、ワシが師匠でお主が弟子に違いないじゃろ? 何故に師匠であるワシが弟子に虐げられるような立場になっておるんじゃ!? ワシは師匠として弟子に断固抗議するぞ!」

 

 折角丸く収まったと思うたのに、出来たばかりの弟子はその丸い枠を早速打ち壊し、早々にワシの立場を覆し畏まった様子を全く見せず、堂々とした態度で言いたい事を話し、聞きたい事を教えろと言ってくる。己で考える事も確かに必要な事じゃが、最初はそれで良いのじゃ。

 まったくこの良くできた弟子は、学ぶ者としての“基本”を教える必要が無いと分かり、更に弟子の強かさを感じ益々これからの事が楽しくなってきおったわい。

 

 こうしてお互いの持つ知識を擦り合わせながら、ワシの知る流儀とメリイの語るこの地での常識を比べこの日は過ぎて行った。

 ワシとメリイが離れた後、テラスが何時になっても明るいままで他所からもこの淡く光る灯が煌々と見えたそうで、後々騒ぎになるのはまだ知る由も無い。

 




 当作品を読む事で、少しでも楽しんで頂ければ幸いです。
 旧ソードワールドの内容は色々うろ覚えで書いた部分もあるので、誤字脱字、感想、ツッコミ等お待ちしております。

 作中での光明神ルミアリスの癒しの魔法と、トオルが使う神聖魔法の違いについて。
 二つとも怪我の治療を目的としたとても優しさ溢れる魔法ですが、グリムガル由来の治癒魔法は怪我などによる出血は戻らず(・・・・・・)、アレクラスト大陸の神の加護による治癒魔法は、出血をしていても“強制的に造血を促進させ”足り無い物を補わせます。
 その分反動は大きく死にかけた者ほど体力が消耗し、暫くは安静が必要になるわけです。
 戦闘中だと中々描写し難い面でもありますが、脳内エンドルフィンやアドレナリンがだばだばと流れ興奮しているので気にならない。
 と、解釈して頂ければ幸いです。


 尚、この作品内でのメリイさんは原作と違い、ハルヒロ達と出会う前に既にサイリン鉱山へ覚悟を決めて足を踏み入れ、お金を稼ぐために形振り構わず己を磨く為、スキルも増やし着実にオグ、ムツミ、ミチキの三人を解放しようと頑張れる女性となっています……が、多少脆さも持ち合わせているのは変わらずと言う感じです。
 原作ファンの方は、全然片鱗も残って無いし違うやんけ! と思うかもしれませんがどうぞ広い心で流してやってくださいませ。

 投稿後間違いを見つけた為改訂致しました。
 ○昼間のトウイチとアジンの倒れていた
 ×昼間のホウヤとアジンの倒れていた

 修正致しました。○メリイ
         ×メリィ

         ○死霊術師
         ×霊術師

 感想で神聖魔法<キュア―・ウーンズ>についてのご指摘があったので、効果についても問題無いように文章の追加を行いました。

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