やっとこさ仕上がりましたので投稿致します。
あと割と長めです。
結局あの日メリイから聞けた話は、光明神ルミアリスに暗黒神ヘルスカルと白神エルリヒと言う三柱の神が信仰され存在する事、神官への転職と言う不届きな言葉の意味に加えこの地で活動している各種ギルドや、義勇兵と言う組織は基地の維持で手一杯な正規兵の代わりに辺境を取り戻すのに必要な戦力補充の為に作られたとか色々じゃった。
驚きなのは暗黒神の一柱が忌避されずに信仰の対象として認められている事じゃ。これなら堂々と、偉大なる暗黒神ファラリスの神官と名乗っても問題ないかもしれぬな。
まあワシの考えじゃと、アレクラスト大陸で信仰されていたファラリス神を含めた六大神は知名度がほぼ皆無で、逆にアレクラスト大陸にて知られざる神々らしい三柱がこの地では広く知れ渡り知名度が高く信仰の対象なのじゃろう。
それと分かった事なのじゃが、転職と言うのも他の技能職である戦士や魔術師を辞めてと言う事であり、元々信仰が根付いているルミアリス神を更に強く敬い崇める事で神官への道に至ると言う意味らしく、別段不敬でも聖職者を馬鹿にしている訳でも無かった事に安堵を覚えるのじゃった。
単純に疑問に思うたのは何故他の技能も一緒に修めようとしないのかじゃったが、その理由はとても簡単な事に詳しい説明を受け気付く。
そもそも各ギルドでの初期に学べる授業の段階がとても少ない事、たったの七日で学べる範囲しか教われないと言う内容を聞けば、他のギルドも合わせて学ぶと言う事が如何に危うい事なのかが分かる。
じゃからこそ一本に絞って研鑽を続けて行かなかければ、到底一線で戦うなど命がいくらあっても足りぬし生業として続きはしないのじゃろう。
それにギルドで教わる魔法に関しても短期間で敵と戦えるようにする為か、一つの魔法だけしか教わる事はなく、その一つだけを
最初にギルドに支払う金額も内訳は授業料がほんの少しで、8シルバーの半分以上が渡される装備品に掛かる費用を占めているそうじゃった。それでも中古(場合によっては新品)が多いとは言え本来は8シルバーで購入するには到底値段が足りて無いので、恩義を感じる者はそう簡単に所属したギルドを抜けたりはせぬそうじゃな。
これまでの情報を踏まえて仮にワシの取得している技能の
この二つが最初に習う敵を害する魔法であり、直接的な負傷を与えるか状態異常を起こし間接的な無防備を作り出すか、どちらを選ぶかで性格が現れるじゃろうな。
尤もメリイは既に神聖魔法を行使出来て、その魔力を感じ取り扱う事も出来るようなので何方の魔法であろうとも習得はただの素人よりも確実に早い筈じゃと思うておる。
じゃが先ずは基本となる
ただ単に見様見真似で呪文名と詠唱動作を覚えても、魔術師ギルドを創設した賢者マナ・ライ様の編纂した古代語魔法は発動したりはせぬ。呪文名だけで発動する場合“そう設定された”魔法道具でもない限りは、事故以外で発動する等基本的にはありえぬしな。
だからこそメリイとの連携も練る必要があるのじゃが、パーティを組んでいた者達と昨日で契約が切れた事と、正式な仲間として登録する意思のない事を仲介役となった者へ伝えに行く必要があるそうなので、こうしてワシは単独行動をしておるわけじゃ。
目が覚めて朝のお勤めをした後、朝食を食べている時にメリイ曰く――
「トオルの事だから一人で狩に出るのもあまり心配はしてないけど、変な事をして街で騒ぎを起こして目立たったりしないかだけが唯一の気懸りだわ。ただでさえ
――何て師匠に向かって言うんじゃから、どれだけワシは弟子から信用されてないんじゃ? ここはワシ一人でも十分な働きが出来る事を知らしめなくてはならぬよな? じゃが目立つなと言われてはどうしようもないのぅ。
どうすれば目立たずに十分な働きが出来たと示せるか悩んでいると、オルタナに来て直ぐに連れて来られたらしい南区の義勇兵団レッドムーン事務所前まで来ていた。
いくらお金に困っているからと言って、義勇兵になる気はやはりなかったのでさっさと通り過ぎようとして人の群がっていた高札に目を止める。
「これで義勇兵のパーティがやられたのは何組目だ? 犠牲者を増やす前に賞金取り下げて正規兵を送り込んだほうがよくないか?」
「その正規兵もデッドヘッド監視砦やオークどもの野営地から、それ以上奴らが出てこない様に抑える役目だけで精一杯だろう。だからこそ賞金額を上げて新規で義勇兵を募ってんだろ? 本土から送られてくる荷物に混ざって、商人や正規兵以外にもそれなりに人が集まっているらしいしな」
群がっていた人混みを分け入り、交わされる会話を盗み聞きしながら新しく張り直されたらしい賞金首の張り紙に書かれた内容を目で追う。
「ほーん、これが賞金首のぅ。何じゃこのモンスターは? 随分とまた凶悪な面構えをしとるわい。 どれどれ“
ワシの呟きを聞いたらしい両脇に居た者は、互いに顔を見合わせると肩を竦めてゆっくり首を振る。その内の一人がワシを上から下までじろじろと見たあと鼻で笑いおった!
「ふん、嬢ちゃんは義勇兵か? だったら悪い事は言わねぇ、止めときな。デッドスポットにとっちゃお前さんなんかきっと一飲みだぜ?」
「そうそう、二パーティで挑んでも勝ち目がなかったって話だから、相当な強さらしいし腕の良い兵を集めて倒した所であの賞金額じゃ割に合わんさ、なんたって掛け金は自分の命なんだからよ」
「全くだな20ゴールドくらいじゃ、デッドヘッド監視砦のオークを狩ってりゃその内稼げる金額だし、無理をしてまで挑む奴なんて早々いないさ」
どうやら聞こえて来る話の内容から察するに、ワシの心配というよりはデッドスポットを倒す労力に見合った賞金額では無いと言う事に文句を言いたいらしい。
もっと賞金額が上がれば討伐に動くことも在るかも知れないが、今の所は様子見が有力のようで己の仕事に戻る為か群がっていた者達も徐々に掃けて行った。
あと途中オークがどうとか聞こえたのじゃが、メリイの話じゃとオークとはワシの知る
何でも緑色の肌をしたワシら人間よりも一回り大きく逞しい肉体を持ち、外見的特徴としては頭が人では無くどちらかと言うと猪に似ているそうじゃ。
この地にはゴブリン、コボルド、オーク、不死族、エルフ、ドワーフ、セントール、等々他にもワシの知らぬ種族が居ると言う話なので、是非直接見てみたいものじゃな。
今の所は先程のデッドスポットとこのオークが特に気になるのじゃが、厄介なのがオーク達はオルタナの近くに砦を建てており、今も戦争中らしいと言う事じゃ。
ならばどんな者なのか見てもみたいし、どうなるかはまだ分からぬが当面の目標はこのデッドスポットの討伐じゃな!
20ゴールド、つまりガメルにして1000枚なのじゃよ!
……何じゃろ、ガメルに換算すると急にショボく思えてくる。
生前神殿で行っていた呪いなどの解呪儀式の代金は、礼金を含めてほぼ一万ガメルじゃった事を考えると十分の一の額じゃし、そう感じるのも仕方がないのかもしれんのぅ。
「兎に角、まっておれよワシの金貨二十枚、否さデッドスポットよ!」
ところで、サイリン鉱山って何処にあるのじゃ? やはり場所を知らんと話にならんし距離があるなら
早速ワシはサイリン鉱山へ潜り込むために、同じ南区にある職人街の屋台村まで移動し、移動中に食べる物を何点か購入しながらサイリン鉱山の位置情報を集める。
どうやらサイリン鉱山はオルタナの北門を出て更に北西へ人の足で四時間程の所にあるらしい。と言うか、初めてメリイと出会った場所を先に進んだ方向がサイリン鉱山に進む道で、途中分二手にかれる大きな方の道が辺境元第二都市旧ダムローへ続く道で、更に先でオークが野営地を設けるデッドヘッド監視砦に行けるそうじゃ。
最前線は北にありってところじゃろうか?
屋台村と市場で買い物を済ませたワシは、二日分の水と食料を背負い袋に収める。
「なあトオル、サイリン鉱山に行くって本気なのか? 見習い義勇兵になっても最初は無理しないでゴブリンで戦いになれた方がいいって、ギルドのねーちゃんから聞いたぜ。大丈夫なのかー?」
「そうだよー。だからね、無茶しないでさー森でペビーでも探さない? 頑張ればわたし達でもペビーくらいならきっと狩れるよー?」
「嫌じゃ。ゴブリンなど倒すほどの相手ではないし、ワシは今日中にサイリン鉱山へ行きたいのじ……お主ペビーとはなんじゃ?」
ワシにゴブリンで腕試しをしようと先程から誘っているのはキイツという小僧で、ペビーとやらの狩を提案しておるのが、どこかのほほんとしたミクミじゃ。
二人ともワシが屋台村で情報を集めているときに、路地から出てきた所でぶつかりそのままへたばってしまったので事情を聞くと、ここ二日ほど水以外碌に大した物を口にしてないと言う事じゃったので、詫びも含め昼餉を馳走してやったのじゃがお蔭でワシの財布の残りは1シルバーと2カパーなのじゃよ。
話を聞くと二人とも西区のスラムを根城にしていて、朝から仕事が無いかオルタナの街の中を探し回っていたそうじゃ。
しかし中々子供を雇ってくれる場所は無いそうで、あっても競争率が高くしかも毎回必要とされる訳でも無い為に昨日から腹を空かせていたらしい。
キイツがワシと同じくらいの背丈で暗い茶髪を短く刈った頭をした小僧で、服装は擦り切れたズボンとややぴっちりとしたチュニック……若干小さいのを着ているようじゃな。
ミクミはワシよりも背が低く、ややふっくらした卵型で愛嬌のある顔立ちをしておるが食事を抜いていたせいか少しばかり窶れておる。それにワシより長い金髪は汚れて結構傷んでいるように見えた。
服装はキイツもミクミも似たようなものじゃったが、どちらも小型のダガーを持っていてそれなりに使い慣れた風じゃな。
結局ワシは「目立つな」と言われたメリイの言葉に従い、この突如増えた二人の子供を供に森へペビーを探しに行く事に決めた。
……決してペビーの肉が美味しいらしいとか、見た事のない動物に惹かれたとかそう言う安易な理由では無いのじゃよ。
二人は西区から外に出る抜け道を知っていると言うので、そこからぐるりと回って門の外で合流することにした。ワシもそこから一緒に行こうと言うたのじゃが、ワシには教えられないと素気無く断られたのじゃ。理由を尋ねるとはっきりとは言わぬが、どうも盗賊ギルドが関わっているらしいのが窺えたので大人しく引き下がった。
下手に藪を突いて、蛇どころかバジリスクを出しては大損じゃからな。
そう言う訳で今日は街外れにある歩哨の立つ北門に着く直前で、空は飛ばずに今回は古代語魔法<コンシール・セルフ>(姿隠しの魔法)を使い正面から堂々と出るつもりじゃった。魂吸いの指輪のお蔭で詠唱動作が要らないと、目立つ事が無いので安心して街中でも魔法が使えるのは注意して見られねばバレ難いし楽でいいのぅ。
そうして門の手前まで来て、二日前にも見かけた真面目に歩哨に立つ見覚えのある二人の兵士の姿に、「うむうむ」と一人頷いておると立ち話がふと耳に届いたのじゃ。
◆
「昨日はあの嬢ちゃん来なかったな。案外気付かん内に小っこいから見落としてたりして」
「ん? ああ、あの随分と威勢の良い爺臭い口調の嬢ちゃんか? ありゃあかなりの時間外に出せって理屈捏ねては粘ったもんな。最初は挨拶してきたのかと思ったら、俺らの事をそのまま素通りしようとして焦って慌てて摘み上げちまったさ」
今は通行が途切れて暇らしく、不意に相方に話し掛けられた事でその時の事を思い出すかのように摘み上げる動作をする兵士。
……ワシだって、まさか摘み上げられるとは思わなかったのじゃよ!
「確かに、まさか歩哨の俺ら二人を前に堂々と素通りしようとするとは思わんわな。まあ、あの後街へ戻ったと思ったらどうやって外に出たのか分からんけど、暫く後でぼっちの筈が義勇兵達と一緒になって入って来て門を通るとは思わなかったよな。何処かに抜け道でも作られていたのかね」
「様々な荷に商品が運び込まれる南区は元より、この街は城壁に囲まれているだろ。北区は我ら辺境軍の司令本部があるし、抜け道と聞いて心当たりと言えば西区のスラムだろう? 大方
ゴキリと音を立て首と肩をほぐしつつ、ここからは全く見えぬが手で南区の門がある方向や西区の方を指しながら、他の地区の事情を交えて相方の質問に真面目に返答しているが別に答えを聞きたかった訳でなく、単に思った事を口にしただけのようで持っていた斧槍の先端を地面に下げだらしなく柄に寄り掛かる。
こ奴ら暇そうなのではなく、本当に暇そのものだったようじゃ。
それにしてもキイツやミクミの言う話は割とよく知られていることらしいのぅ。
「そう言やそうか。だけど馬鹿正直にこっちの門に帰って来たし、あのみすぼらしい格好で一人ぼっちだっただろ? きっと最近流れ着いた孤児か食うに困って大方見習い義勇兵の募集を知って外から来たんだろうな。あの義勇兵達は人数的にはもう六人を超えていたから、やる気があるならきっと最初は荷物持ちからでも頑張るんだろうよ」
「あんな小っこい嬢ちゃんがか? 荷物持ちを始めたからって本当に見習い義勇兵になんかなれると本気で思うか? ……たまに居るらしいんだが、西区のスラムからそう言った連中を上手い事言って高めの報酬を前払いで釣り、雇った荷運び役を敵の囮や逃げるときの殿にして盾にする連中がさ。あの子もそう言った奴らに騙されて使い潰されなきゃいいんだが。まあ、俺らが歩哨に立つ時だけでも注意してみていれば避けられるさ」
「いやいや、そんな心配要らないと俺は思うな。あの時の何とか俺ら二人を煙に巻いて外に出ようって根性と考えた頭の良さは、そんな連中に騙されたりはしないだろうよ。きっと上手い事取り入って、その内ちゃっかり冗談抜きに義勇兵になっていたりしてな」
こっそり立ち聞きした不穏な内容の話しなど参考にしつつも、ワシを話題に失礼な事も喋っていたから通り過ぎ様に軽く足でも蹴飛ばしてやろうかとも思うたが、そうすると<コンシール・セルフ>の集中が解けてしまい魔法がそんな事で切れるのは、はっきりいって面白くない。
仕方なく先程の“みすぼらしい”や“ぼっち”と言われた事は不問にしワシは門を通り抜けた。
――いや、やっぱり我慢はよくないし、今度会ったらぼっちと連呼したひょろい方を文句言って蹴っ飛ばしてやるのじゃ!
◆
日もだいぶ高く昇り頬に感じる風の心地よさは中々じゃが、ここは既に森の中。辺りに気を配りながら偶然見つけた複数の足跡を、ワシらは薄らと掻いた額の汗を袖で拭い追っていた。
「ふえーのど乾いたねー。ちょっと休もうかー」
「なんだよもう疲れたのか? オレはまだまだ平気だぜ! けど、まあトオルも休みたいなら少しだけ休憩もいいかもな」
「そうじゃのぅ。飲み過ぎぬ程度に飲むのは構わぬじゃろ。あと二人ともこれも一緒に少しだけ舐めるがよい。ただの塩じゃが無いよりマシじゃ」
ミクミの上げた声で一端立ち止まり、各自が用意した背負い袋を地面に下ろし水袋を取り出すと縛っていた先を緩め、少々革臭い水を口に含む。
生前行軍の際にこうして水分補給には塩と少量の砂糖を用意したものじゃが、オルタナの市場で買える砂糖は高く今回は用意してない。
一応干した果物も持ってきてはいるが、今は必要ないじゃろう。
オルタナを出て直ぐは道なりに沿って進んでいたつもりじゃったが、ふと気が付けばいつの間にか森の中へと足を踏み入れておったのじゃ。
理由は簡単で、探索開始直後にキイツがぺビーの姿を見つけ、ミクミが足跡を追い市場で買う様に言われた干し肉を使い、簡易的な罠を作って小ぶりのペビーを小一時間ちょっとで仕留めたからじゃった。
見た目は可愛らしくて思わず撫でようとしたら、ミクミがあっさりとその首を圧し折るとキイツと共に瞬く間に血抜きと解体を行い、手早く片付けてしもうたのじゃよ。
何でも西区では鳥やミルミで罠の練習を何度も重ね、今では西区にミルミは寄り付かないそうじゃ。いったいどれだけ罠に仕掛けたのやら。
二人曰く「ミルミはあまり美味しくない」との事じゃった、あの可愛らしいミルミまで食したとは……本当に逞しい子らじゃな。
ワシはその話をペビーの解体中に聞いて遠い目をした。
そう言う訳でこの前のように古代語魔法<ストーン・サーバント>で石の従者でも周りに配置する方が安全なのじゃろうが、二人のお供に見られた場合ワシが妖し過ぎるので止めたのじゃ。
途中引き返そうかとも思うたのじゃが、そもそもどちらから来たのかワシには既にわからん。でも両隣を歩く二人の歩みに戸惑いが無いのできっと道も分かっておるのじゃろう。
「足跡途切れそうだねー。けどまだ追いかけられるから行ってみよー! ペビーのお肉は美味しいし、沢山捕れたら屋台村でも買い取ってくれるからねー」
「そうだな。でもペビーの肉もいいけど、俺は断然パルートが食べたいな。屋台村の店で美味い店を知ってんだ。だから金が入ったら絶対三人で食べに行こうぜ!」
水を飲んで少し楽になったのか、先程まで割と無言で歩いていたのにぽんぽん話題が出て来る。と言ってもその中身は欠食童子らしく食べ物の話ばかりじゃがな。
ワシもここは乗っておくべきかのぅ。
「ふむ、パルートとな? いったいどんな食べ物なのじゃ? 興味があるのぅ」
「なんだよ、トオルは本当に何にも知らないんだなー? いいかパルートって食いもんは焼いた肉をうすーくきって、パンに挟んで食うんだ。スッゲー美味いんだぜ!」
「いいなー、わたしも早くパルート食べてみたいよー」
「なるほど。ペビーを首尾よく捕まえた暁には、そのパルートで祝おうぞ。では、水も飲んだしそろそろ先へと進もうか」
「おう!」「いこー!」
ミクミが膝下に生える草の茎や葉の踏まれ具合を見て進む方向を定め、他にも得物となりそうなものが居ないかをキイツとワシで互いに確認しながら進んでいる訳じゃが、追っていた足跡以外にも爪らしき物で付けた傷なども序に見つけ、ワシはこの辺りに生息する獣の縄張りに入ったのじゃと思う。
この爪痕と足跡から推測すると……ペビーよりも大きい。狼当たりかのぅ?
基本的に野外で獣道や罠を探すとなれば
こうして色々と痕跡を見つけられたのは、ミクミとキイツあとは単なる運のお蔭じゃな。
日の光も通しにくい暗い森まで来たのじゃが、普通ならばこの辺りで遭難の心配をする所なのじゃろうけど、キイツもミクミも堂々としたものじゃ。
二人と違いワシは魂吸いの指輪の“四代前の持ち主”であった、若干目付きの険しい妙齢の女ダークエルフの知識を少々使わせて貰っておるので不安はない。
今のワシは例えるなら物語を読むような感覚で、森に潜む得物を追う際の動きを追体験しているような感じは中々に新鮮で楽しめる時間じゃった。それに生命力がやたらと強化されているお蔭で、整地されてない地面を歩こうが多少暑さを感じても疲労はほとんど感じない。
寧ろワシについて来れている二人の体力に少々驚いておるくらいじゃ。
これで弓でも持っておればもっと狩人ぽくって様になったのかも知れぬが、はっきり言うて本格的な狩や探索に行くには随分と舐めた装備で、背負い袋に入れた二日分程度の水と食料に拳大の石ころを十個以外は外套すら持ってきてない。ぱぱっと行って帰って来るつもりじゃったし今のワシの恰好を示すとすれば、ふわふわの髪をぎゅっと束ねる青い髪紐に、新調したばかりの袖の長い革の服と丈夫なズボンと、メリイの古代語魔法の発動体として渡そうと思っておった長めの杖のみ。
キイツとミクミは言うまでもないじゃろうが、背負い袋と言うよりは頭陀袋で所々ほつれているのが哀愁を誘う。水袋は二人で一つ毛布も半分こ……何気にワシより物を持ってきておる様じゃ。
飲み水に関しては足り無い場合、無理くり魔法で作る事も可能なので節約せずに飲むよう言いつけてある。三人だけのパーティで誰か一人でも倒れると負担が増え、途端に生還率が下がるからじゃ。
指輪の記憶の中に眠る長身のダークエルフとワシを比較すると、手足の長さに身長や胸も何もかも足りぬが、ふわふわな銀髪と信仰する神だけはお揃いなのじゃよ。
今日はサイリン鉱山に着くのは無理でも、もう一匹ペビーを捕まえるくらいは何とかなるじゃろうと冒険者気分に浸りながらどんどん先へ進む。
ダークエルフお得意の
もしかすると古代語魔法<シェイプ・チェンジ>で記憶にあるダークエルフの姿に変われば感覚を掴んだりできるかも知れぬが、下手に変化して記憶の表層が極端に流れ込めば人格が混ざる可能性も否定できぬので、余程の事が無ければやる気はおきぬ。
そもそも周囲に漂う精霊力の働きなど全く見えぬし、光と闇、知られざる生命の精霊や土の精霊に風が吹いている現在、風の精霊が働いている事を
だからこうして森を進んではいるものの、狩人技能の無いワシはミクミの探索能力とキイツの眼の良さに頼りっぱなしで、実は絶賛迷子中じゃったりする。
じゃが日の出てる内ならば空を飛べばよいし、最悪転移でもして街に帰る事も出来るから大丈夫なのじゃ!
とまあ周囲から手に入る情報とキイツとミクミの働きで、指輪に収まっている記憶を使いながらペビーの捕獲方法を色々と考えている内に、最初に見つけた足跡の主らしい目標のペビーでは無く、キイツがゴブリンらしき後ろ姿を捉えたと小さな声で囁く。
「不味いぜトオル。この先にゴブリンが六匹も居やがる。きっとあいつらが狙っているのもオレ達と同じペビーに違いないぜ」
「えぇー。じゃあわたしのペビーは横取りされちゃうのー? せっかくここまでがんばって追い掛けたのにー」
「ふむ、キイツよ。他にゴブリンらしき者はおらぬのか? それとペビーの姿は見えたのか? ペビーが見つかって無いのであれば、まだ少しの間は大丈夫じゃろう。それよりもワシらが見つからぬ方が大事じゃな」
キイツは相手の数が多い事に焦っているし、ミクミはその言動からも分かる様にゴブリンを恐れるよりはペビーを取られる方が不満らしい。随分と肝の据わった女子じゃ。
立ち止まった事で、二人の疲労具合を確かめ思案する。
(あれらを追って行けば労せずにペビーを捕まえてくれるかもしれぬ、捕獲後は様子を見て住処まで案内させるか、範囲魔法で眠らせ無力化しペビーを逆に横取りすればよい。棲み処まで行けばお宝があるじゃろうし、それが手に入ればきっと10シルバーなど簡単に稼げるに違いない。ここは下手に手を出さずにこのまま追跡が正解じゃろう)
僅かに見えるゴブリン特有の赤褐色の肌色を目印に、先頭をミクミからキイツに変えて息を潜め三人で暫く後を追っていたのじゃが、どうも少々様子がおかしいことに気付く。
先頭を歩くゴブリンとそれに続く似たような姿形をしておる個体、あのような体色をしたゴブリンは見た事がないし体格もまちまち。更にゴブリンとは生来赤褐色をした肌が特徴で、黄緑や妙な体色をした
キイツはゴブリンが六匹と言うたが、この薄暗い森の中では見間違いもあり得る。
ここはもう少し近寄って確認するべきじゃろうか?
この距離ではあちらの会話は碌に聞こえぬが、急に立ち止まり振り返った先頭に居たゴブリン以外は頭を寄せて何やら揉めているようにも見えなくもない。
じゃが、そうでないかもしれぬ。こんな時こそ
今手を出すべきか出さざるべきか、それが問題じゃな。
「あ奴ら急に立ち止まったが、ペビーでも見つけたのかも知れぬ。ただ動きが妙じゃな……。もしや、ワシらの追跡が気付かれたか? キイツ、ミクミ、二人ともワシの後ろに下がるのじゃ」
ワシは一気に仕留めるか、それとも眠らせるか考えを巡らせる。
会話で説得も出来ぬわけでは無いじゃろうが、今はキイツとミクミの安全を優先じゃ。
となれば<スリープ・クラウド>で即眠らせるか、<エネルギー・ボルト>の目標の拡大で十分じゃな。手早く戦闘の算段を頭の中で整えると、障害物の向こう側を覗けるようになる古代語魔法<シースルー>を小さく呟き手早く発動させる。
これで三分間は目標が何処に隠れようとも、ワシの攻撃魔法の標的となりえるのじゃ。
「トオル、一人で六匹を相手なんて無理だ。ここはオレも残る。逃がすならミクミの方が足も速いし体だって小さいから隠れやすい。生き残り易いのは間違い無いぜ」
「三人の中でわたしが一番足は速いんだから、キイツが先に逃げれば丁度いいの。でもトオルは武器も杖しか持って無いし、一番どんくさそうだから最初に逃げてねー」
二人はワシの呼び掛けを無視して頭陀袋を地面に投げ捨てると、覚悟を決めた様にダガーを抜いて構える。……二人ともお主ら本当にワシより子供なのか? 辺境で生きる事は子供でさえ一人の戦士へと鍛え上げていくらしい。
「二人の心遣い嬉しく思うぞ、じゃがワシにはそんな優しい気遣いは無用なのじゃーって、一番どんくさそうとはどう言う意味じゃ!? こう見えてもワシって結構足は速い方なのじゃよ! 彼の有名な魔女であり賢者でもあるラヴェルナ女史の編纂した写本を手に入れた時は、嬉しくて街中を走り回り見回りの兵士も追いつけなかったくらいじゃからな!」
「トオル、お前って見かけによらずスゲー奴だったんだな。だけど魔女だかの本を貰ったくらいで人に迷惑かけんなよ。市場で走り回ったりなんかしたら、屋台のおっちゃん達やねーちゃんに拳骨で怒られるぜ」
「人は見かけによらないのよって、こういうことかー。じゃあ逃げるのはキイツが最初で、わたしはその次で最期がトオルねー」
二人はダガーを持った構えを解き、一息つくようにして語る。
と言ってもキイツは先程の緊張した表情から、一転若干呆れたものに変わり。
ミクミはペロリと上唇を舐めたあと、ダガー握ったまま右手の一指し指をピンと立てて逃げる順番を訂正した。
「ぐぬぅ。酷いのじゃー! 今ビビッと脳裏に二人を背に襲い掛かる六匹のゴブリンを決死の覚悟で杖を構え迎え撃とうとする格好良いワシの姿が浮かんだ筈が、ミクミのせいで逃げる二人を追いかける最中に、滑って転ぶワシの姿に書き替えられたのじゃー! 肖像権の侵害に加え謝罪と賠償を請求するのじゃー!」
未だ頭を寄せ合っているらしいゴブリンに対し、むしゃくしゃした気分をぶつけるべく首から下げた財布に入った最後の1シルバーを親指で弾き、掌に落とす。
ピイン と澄んだ音が耳にの奥まで響く。
表なら取りあえず眠らせて裏なら一気に殲滅する……表じゃ!
ワシは掌の中のコインを握り締めた。
先ずは古代語魔法<スリープ・クラウド>で眠らせペビーはワシらが狩る。
こちらは木々に隠れながらでも、最初に掛けた<シースルー>のお蔭で相手の姿ははっきり見えるので、後は発動の鍵となる呪文名を唱えるだけじゃ。
右手を突きだし発動体となる魂吸いの指輪へと、魔力を注ぎ込む。
「ほほほ! 醜い子鬼達よ、我が眠りの雲に驚く間もなくその意識を刈り取られるがよいぞ!<スリープ・クラウド>」
……
撃った先を見通そうとして<シースルー>の魔法効果が惜しくも切れる。
「おお! 何だかよく分からねえけどピカッとしたらゴブリンが一気に倒れたぜ! 今のって魔法か? 魔法だよな? トオルがやったんだな? お前スゲー!」
「今のが魔法なのー? わたしも! わたしも魔法使いたい! トオル、ねえ、わたしにも教えて教えてー!」
「うむうむ、もっと褒めても良いのじゃよー今のが魔法じゃ。黙っていて悪かったが、ワシは導師級
「おう!」「はーい!」
二人は興奮した様子を隠さずに、瞳をキラキラと輝かせて返事をする。
うむうむ、魔法の成功や失敗に喜んだり沈んだりした若い頃のワシを思い出すのぅ。
過去に浸るよりも残ったゴブリンに注視するが、視界の先では獲物に矢が当たったのかぴょんと小さく飛び上がって喜びを表し、早速とばかりに弓を持ちかえ腰に差していた剣を抜いて前方へと一人(匹)走り出すゴブリン。
後ろで仲間が眠っている事は、全く目に入って無かったようで安心したわ。
距離がある為小さくそれでも微かに聞こえた声は、ゴブリン語で『やった! 突撃だー!』と調子外れに上ずっていたように感じた。
普通魔法に抵抗した場合不審に思い警戒くらいする筈が、全くその素振りが見えずまるで財宝を見つけたドラゴンのように脇目も振らない様子は、ワシらだけでなくゴブリンにとってもお宝であるペビーを捉えたのかも知れない。
ワシは「ありえそうじゃな」と一つ頷くと、つるりとした己の滑らかな顎を撫でてゴブリンが進んだ先の様子を窺うが茂みが邪魔過ぎるのじゃ。
年を重ねると自然と独り言が多くなるものじゃな。
やはり獲物はペビーであったのじゃろかと、確認するのに茂みを左に迂回して移動しゴブリンが突撃して行った先を覗いて驚く。
何故なら縄張りを同じように散策していたらしい黒色の毛を生やした狼の八匹ほどの小集団が、ペビーを仕留めたゴブリンへ正面から襲い掛かっていたからじゃ。
あのゴブリンに勝機があるとすれば……いや無かろうな、運悪く矢が当たったらしいペビーは地面に倒れ既に事切れているようじゃが、それを横から持ち去ろうとしたのがあの狼達なのじゃろう。
そこからの展開は最初こそゴブリンに勢いがあり、『突撃! 突撃―!』と再度必死に叫ぶが、仲間が眠りこけている事に気付かずどこからも返事が来る気配もなく次第に叫ぶ力も無いほど負傷を重ね己の流した血に沈む。
必死に叫んでいたあの『突撃』は、虚しく森の中へ木霊するだけじゃった。
死んだと思われるゴブリンに哀れと聖印を切っていると、同じようにして覗き見ていたキイツが横で「ヤバイ、あれって森の掃除屋の黒狼だ」と切羽詰まった声で呟く。
隣に居たミクミも食い千切られて小さくなって行くゴブリンを見て「は、早く速く逃げなきゃ、でもでも」と怯え切って同じ言葉を繰り返す。
どうしたものかと思案していると、臭いを嗅ぎつけたのか群れの中の一匹が吠えだし反応した内三匹がまだ眠ったままのゴブリン達へと駆けだし再度襲い掛かる。
突然奇襲された形になったゴブリン達は、数の多さなど関係無いとばかりに蹂躙され肉片へと変わった。
あれでは森の掃除屋というよりは、森の散らかし屋に改名するべきじゃろうな。
「二人とも安心せい、よいか? よく聞くのじゃ。今からワシは魔法で宙に浮き狼の爪と牙が届かぬ位置へ移動する。じゃから確りとワシに掴っておるのじゃぞ? 何が在ろうと絶対に離してはならぬ。離せばあのゴブリンのようになってしまうからのぅ」
「ええ? 何言ってんだよ! いくら魔法があったって人が浮く分けないだろ!」
「うん、わかった。トオルの魔法なら信じる。絶対落とさないでね」
「はあ!? ミクミもトオルも怖くてどうかしちゃったんだな。今なら間に合うかも知れないから、走るんだ急いで逃げれ!」
走って逃げた所で狼の足の速さには到底及ばぬ。誰かが犠牲になっている間に少しでも遠くに離れるのが精一杯で、全員が怪我一つ無く助かるにはこれしか無い。
攻撃魔法で一気に殲滅も考えたが、動きの速い狼八匹に対して範囲魔法や単体魔法を撃っても下手をすれば二人を撒き込み兼ねん。
ワシは形こそ小柄で小娘じゃが、身体能力は既に成人した大人と変わらぬばかりか魂吸いの指輪のお蔭で一部は大幅に量増しされておる。
子供を二人くらい抱えるくらいならば、何ら支障はないのじゃ。
「万物の根源たるマナよ、我を大地の束縛たる軛から僅かなる間解き放ちたまえ!<レビテーション>」
狼が此方へ近づく前にゆっくりと宙に上昇し、驚くキイツを左手で掴み上げミクミが背負い袋と背中の間に腕を通し確りと抱き付いたのを確認し、二人が落ちない様に支える。
「わわっ! スゲーよ! オレ達本当に宙に浮いてる! トオル! 魔法ってスゲーぜ!」
「うわー! うわー! わたしも魔法を習えばトオルみたいに飛べるのー? ねえねえ!」
さっきまで怯え切っていた二人は宙に浮かび上がった事で、狼の脅威から逃れた事も相まってかゴブリンを眠らせた時よりも興奮し、声を大にしてワシに話し掛けた。
こうまで喜ばれると怖い思いをさせた事が余計に申し訳なく思うのぅ。
足下では黒狼達がワシを見て激しく吠え立て飛びかかって来るが、地面に転がるだけで全く届く様子はない。
「そうさのぅ。三年程師に学び確りと勉強をすれば出来なくもない筈じゃな。ワシもそうやって長年の研鑽を積重ねて今の魔法を使える様になったのじゃよ。焦らずに学ぶ姿勢が大切なのじゃ経験したワシが言うのじゃから間違いは無いぞ」
「勉強かぁ、オレ勉強は苦手だなぁ」「三年、三年だけ頑張れば宙に浮けるー!」
「さて、森の掃除屋には悪いがここで退場して貰わねば降りれぬしな。ミクミよ、背負い袋の中から石ころを一個ずつ手渡してはくれぬか?」
「あっ、オレ分かったぜ! 石をあいつらにぶつけて追い払うんだろ? トオルの代わりにオレが当ててやろうか?」
「ちょっとまってね……はい。けど石ころなんてどうするの? 数も少ないし当てても逃げなかったら困るよー?」
「まあここはワシに任せて欲しいのじゃよ。我が石の従者よ狼達を何処までも追い掛けよ!<ストーン・サーバント>」
手渡して貰った石ころに<ストーン・サーバント>を唱え、地面に落とした頃には人間大の石の従者となりワシの命令通りに黒狼達を追いかけ始める。
次々と大きくなって狼を追い立てる石の従者を見て、キイツもミクミも大いに納得しワシにしがみ付きながら石の従者を応援しだす。
「ほらそこ! ああっ惜しい。頑張れ! 行け! 捕まえろ!」
「いけーいけー! どんどん追いかけてー狼なんておっぱらっちゃえー!」
これで黒狼達は遠くへ行くじゃろう。石の従者は攻撃も反撃もせぬが、ワシの命令通り効果時間が切れるまでは延々と何処までも追いかける。
それに多少攻撃されようとも、石で出来た体に爪と牙がどれほど役に立つか。
安易に殺すのは忍びないし効果時間を倍にしておいたから、狼達も暫くはこの辺りに戻っては来れぬじゃろう。
「さて、そろそろ安心じゃから下へ降りようかのぅ。降りたら体の残ったゴブリン共を埋葬してやらんとな。下手に放置し不死者の王の呪いでアンデッドになられては困るしのぅ」
◆
体の大半を残したゴブリンの遺体を小さく解体し、二体のストーン・サーバントの力で地面を掘らせ、それらを地中深く埋めた後、ワシら三人はオルタナへと戻りゴブリンが倒したペビーは殆ど無傷だったので解体した後売り捌き、ゴブリンの持ち物もメリイと行った店や二人の顔馴染みの店に行きそこそこの収入となったので三人で分けたあと、キイツの提案でオルタナ北区にある「ヨロズ預かり商会」という変わった店員が店番をする商会に行き預けた。
ワシはこの埋葬時初めてゴブリンが、赤褐色の肌色以外にも存在する事を知る。
「ふーむ、冒険者ギルドの走りみたいな店もあったんじゃな、ワシの情報収集不足じゃったわ。それにしても預かり賃が百分の一とはかなり安いのぅ。有難い事じゃな」
ペビー二匹と、ゴブリンの持ち物を換金し一人頭3シルバーと22カパーになった。
それにしてもお金を預けるときに右手を掴まれ「随分と変わった物を装備しているな。それを重石に感じた時はいつでも預けに来ると良い。尤も金以外の預かり賃は鑑定評価額の五十分の一だがな。ではまた金をたっぷり貯めて来るがいい」と言った金縁モノクルを付けた嬢ちゃんが、革張りの椅子に踏ん反り返って、煙管をぷかぁーっと吹かして唇を笑みに歪めておったのがとても印象的じゃったな。
というか、あの金縁のモノクルもしかすると魔法道具かのぅ? 何やらワシの右人差し指に同化しておる魂吸いの指輪に気付いておったようじゃし。
重石になったら預けに来いとは、随分と遠回しなお節介じゃったな。
今はヨロズ預かり商会を離れ、懐も少し暖まったので約束を果たす為に南区の屋台村へと移動中じゃ。
「やったぜー!3シルバーを預けても19カパーもあればパルートをいっぱい食えるぜーひゃほーう!」
「これで三人みんなパルートを食べに行けるね! ペビーのお肉も食べたかったけど、わたしお金貯めて魔術師ギルドに通って魔法を習うんだ!」
夕日は既に沈みかけ、もうじきこの辺りは薄暗い闇へと色を変えるだろう。
其処彼処では浮かれた声が聞こえ、街は昼と違った夜の顔を見せ始める。
「あー、それなんじゃがな。先ず今日見た魔法は全て秘密にして欲しいのじゃ。とは言ってもうっかり喋ってしまう事が在っても咎めはせぬ。それに宙を浮いたなど誰も信用せぬじゃろうしな」
そう言って二人に向かってニヤリと笑ってやると、釣られたようにして二人もあの時の事を思い出したのか頬を弛めて笑みを浮かべて返す。
「それと、ミクミには悪いがこのオルタナの街にある魔術師ギルドでは、今日ワシが使った魔法はどれも教わる事は出来ぬ「ええー!? なんでー!! トオルは嘘ついたのー!?」落ち着くのじゃ。嘘ではない」
言葉を一度区切るとミクミの眼の高さへと合わせ、瞳を見つめながら話を続ける。
「もし本気であの魔法を教わりたいと願うのならば、お主は決断せねばならぬ。あの魔法を教えられるのはこのオルタナにはワシ一人しかおらん。じゃから「そこまでにして貰おうかお嬢ちゃん? 先にこの子らにツバ着けといたのは私らなんだからね」ほう、ツバとは随分な言いかたじゃが、何処の何方様かのぅ?」
「あっ、ねー「キイツ、先生だろ?」はいっ! バルバラ先生! だけど、本当にトオルは別にそんなんじゃ無くて、ただオレ達と一緒にペビーを狩に「ペビーを狩りに行っただけで3シルバーもヨロズに預けられたって? たった子供三人だけでかい?」……うん。けど嘘じゃないんだ」
ワシとミクミの間に手を差し込み逆光で顔がはっきりとは見えないが、眼鏡をかけた女性らしい事は声の高さや質からも窺えた。
ミクミはバルバラと言うらしい女性が怒っていると勘違いしてか、目に涙を溜めてぐっと口を引き結んで泣かない様に耐えている。
子供にしては違和感のある二人の身のこなしや、ゴブリンら敵を前にしての覚悟を持って対峙する心構えを教えたのもこの御仁じゃろう。
二人の生い立ちを聞いた覚えは無いが、例え飢えても性根は真っ直ぐだったことも間違い無くこの女性の生き方が影響している筈じゃ。
途轍もなく大きい。ワシには到底真似できる生き方では無いじゃろう。
仕方あるまいワシから事情を話さなければ、このままでは埒が明かぬからな。
「あー、済まぬ。ワシが無理を言って二人を森の奥まで連れて行ってしまってな。それで予想外の事に出くわしその結果儲けた泡銭じゃから、犯罪になる様な行いは決してこの子らは関与しておらん。ワシの命と信仰する神の名に掛けて誓おうぞ」
聖印を切って軽く光らせると、やっとバルバラと呼ばれた女性から発せられていたワシ
「「ええっ!? トオルは魔法も使えるのに本当は神官だったの!!」」
「うむ、ワシはこう見えて歌って踊れる神官なのじゃよー? 驚いたかのぅ?」
とぼけた風に言ってやると、雰囲気がやっとこ変わりキイツやミクミにも笑顔が戻って来る。
うむうむ、やはり子供は笑っておる顔が一番じゃな。
「……勘違い、だったようだね。最近何かと物騒でねぇ、西区を根城にしてるスラムの子供達にも口をすっぱくして言っているんだけど、中々言う事を聞いてくれなくてね。困ったもんさ」
腹が空いて飢えれば分別のある大人であろうと、簡単に犯罪に流される事をワシはとぉーっても良く知っておる。なんせワシの崇める暗黒神ファラリスは自由を尊ぶ神じゃからな! そうして破滅の道を直走って行った輩を随分と見たもんじゃ。
じゃからこそ、ワシは切実にそうなりたくはなかった故こうして今も無事なのじゃからな。
「うむうむ、分かっておる気にするでない。が、子がどのように先を見据え道を切り開くかは大人がでしゃばるべきではないともワシは思う。精々がどのように進めばよいのかヒントを与えるまでが勤めじゃと考えるがどうじゃろ? ミクミもキイツも選択肢を増やすと考えるならば問題はないのではないかな?」
「まさかルミアリスの神殿で神学でも学ばせようって事かい?」
バルバラの声には若干疲れたような、呆れたような響きが混ざっていた。
「ふむ? ワシは光明神ルミアリスの信徒ではないし、ミクミやキイツが学びたいのは別の学問じゃよ。強いて言うならこの世に存在する、万物の事象とその在り方を変える為の方法を学ぶ事かのぅ?」
「ややこしいね。あんた本当に見かけ通りの年齢なのかい? まるでヨロズ預かりの……いや、何でもない。兎に角あんたの言う通り、選ぶのは二人の意思に任せるわ。二人ともそれでいいね?」
この後バルバラの返事にキイツとミクミが何と答えたかは言うまでもなく、バルバラを伴い四人揃ってパルートを美味しく頂き「また明日」と言って分かれた。
じゃが帰宅後にメリイに冷え冷えとした視線と口調で「随分遅かったわね」と言われ、「それで夕飯は?」と聞かれ「……食べた」と答えたワシはとてもとても肩身の狭い思いをしたのは、弟子を待たせた上に借金まである師匠としては当然の事である。
当作品を読む事で、少しでも楽しんで頂ければ幸いです。
旧ソードワールドの内容は色々うろ覚えで書いた部分もあるので、誤字脱字、感想、ツッコミ等お待ちしております。
今回素敵で無敵で原作では
オリキャラ増やしてごめんなさい! 二話に分けなくてごめんなさい! バルバラ先生ごめんなさい! 別作品更新遅くてごめんなさい! 以上!
ネOリベいらないよ様の感想にあった魔法の効果の間違いを教えて頂いたので、ゴブリンの遺体を古代語魔法<アシッド・クラウド>で溶かした~の文章をストーン・サーバント二体に掘らせた穴へ埋めた的な表現に、差し替えさせて貰いました。