学校の帰り。灰色に濁った曇り空と霧雨の中、俺は自転車をカラカラと押して歩いていた。隣を歩くのはピンク色の鞄を背負った俺の彼女。
既に花の散った桜並木の下は葉に細かな雨が遮られるので、俺は傘を差さずに彼女の隣をゆっくりと進む。彼女は道路の端に設置された縁石の上を、水色の折り畳み傘を差しながら歩いている。
「こう云う風に一緒に帰るのは初めてかもね」
「そう云えばそうだな」
付き合って日の浅い俺と彼女はこんな事を言うだけでも、互いに顔を見合わせて笑みを零す。いいものだなぁ、何て漠然とした感想を抱く。
今までは一人で自転車を漕いで帰っていた。その分時間も掛からなかったが、今は彼女と別れる交差点までは自転車を押して一緒に歩いて帰っている。
勿論時間は掛かるが、逆に考えればその分だけ彼女と過ごす時間が増えると云う事だ。
○
道を歩く俺達の後ろから、白色の車が俺達には目もくれずに走り抜ける。映画やドラマでは水飛沫から彼女を守る彼氏がよく現れるが、俺にそんな芸当が出来る訳もない。何より俺は今日雨が小降りなのを良い事に傘を持って来ていない。一応俺が車道側を歩いてはいるが、その程度だ。
幸運か不幸か、その車は水溜りを踏み付ける事なく通り過ぎていった。
「……」
彼女は突然周囲を見回し、誰も居ない事を確認した。それから悪戯を思い付いた小児の様にクスリと微笑む。
どうしたんだと俺が聞くよりも早く、彼女は俺と彼女の間に傘を持ってきた。俗に言う相合傘。
突然の彼女の行動に驚く。羞恥で色と温度が変わってしまった頬を隠す様に、彼女から目を逸らして声だけで問う。
「どうした」
「いや、濡れるじゃん」
さも当たり前と云った感じで言う彼女。勿論それはそうだ。
しかし恥ずかしい。俺は返事が自然とぶっきらぼうになるのを自覚する。
「お前ちっちゃいからさ、傘が頭に当たるのよね」
「あ、ごめん」
結局俺が言えたのは、動揺している本心を隠す言葉だけ。そんな俺にも素直に謝って傘を引っ込める彼女。何となく申し訳なくなった俺は俺は言い訳をする様に続ける。
「それにさ、傘って入れてもらうより入れてあげたいじゃん? 男の子として」
「そういうものなの?」
「そういうものなの」
嘘ではない。他の男子はどうなのか俺は詳しい事は分からないが、少なくとも俺は傘に入れられるよりは入れてあげたい。
彼女は最初は俺の言葉に納得していなかった様だったが、
雨の日も悪くないかな、なんて。