今は昼休みも半ば。友達と駄弁りながら突っ突いていた弁当箱の蓋は既に閉じられ、今は友人と『彼女欲しいけれど居ない談』で悲しくも盛り上がっていた。
いつもならば俺が彼女の欲しさを身振り手振りを交えて切実に訴える度に、首を縦に振って肯定するはずの友人達が、目を合わせてクスクス笑うのが何とも妙だ。
「ナニナニ? 何の話?」
内心で首を傾げて訝しんでいると、俺の肩から首を出すようにしてアイツが話に入ってきた。
シャンプーの薫り。サラサラとした黒い絹糸みたいなアイツの髪が頬の近くで揺れる。髪の隙間から覗くのは対照的に肌理細かな白い肌。
「あのなぁ、いつも言ってるが」
「勘違いしちゃう、でしょ?」
彼女はクスリと小さく微笑み、ピョコっと跳ねるように俺から距離を取る。無駄に早く動く心臓と、真っ赤になってしまった頬を隠す為にアイツから目を逸らすと、今度はニヤけながら俺の顔を見る友人達の姿が視界に入った。
悔しさ半分羞恥半分で友人達を睨み付けると、友人達は遂に腹を抱えて笑い出した。目の端には涙さえ浮かんでいる。俺の抱いている気持ちを知っているから一層可笑しいのだろう。
頬の照りも漸く落ち着いた。
ねぇ。と呼ばれて俺はアイツの声がした方を振り返る。
「彼女欲しくないの?」
アイツは髪を掻き上げ、純粋な瞳と共に俺に質問した。
俺は目を合わせて答えようとするが、やっぱり目を彼女の瞳から背けてしまう。
「欲しいけど告白するのは怖いしねぇ……」
本当はお前の事が好きなんだよなぁ。
でもそんな事が俺に言えるはずもない。俺は生まれてこの方告白なんてした事もされた事も無いのだ。
思いながらそう返したら、アイツはそっそりとした指を頬に当てて考え始めた。十秒も数えない内にアイツは何かを思い付いたのか、小悪魔的な微笑みを湛えて俺に話し掛ける。
「じゃあ次教室に入ってきた子に告白。強制ね?」
「えっ」
驚きの声が口から漏れてしまう。突然動き出した事態に救いを求めて周りを見渡すと、爆笑しながら親指を立てる友人達。全く助けてくれない辺り、どうやらアイツは俺の友人には既に根回しを済ませているらしい。
一旦落ち着こうと胸に手を当てて深呼吸をする。そんな俺の姿を見て、何が可笑しいのかクスクスと笑いながら、言い出しっぺのアイツが鞄を持って立ち上がる。
「私、喉乾いたからジュース買ってくるね」
俺が止める間も無くアイツは教室の扉をガラガラと開けて出て行ってしまう。
猛スピードで進んでいく事態に理解が追い付かない。しかもアイツが出て行ってから二秒も経たずに誰かが教室に入ってきてしまった。
「財布忘れちゃったや」
いつものアイツの姿からはまるで想像も出来ない照れ笑い。頬を桜色にほんのりと染めながら教室に入ってくるアイツに、俺はどうやら告白しなければならないらしい。