批評、ご指摘は随時受け付けています。受けたところはできるだけ改善していくつもりです。
「スクールアイドル?高坂たちが?」
「うん!海未ちゃんとことりちゃんと一緒にやるんだ!」
「そういやこの間から何か騒いでたな、お前ら」
「うん!それで今度の新入生歓迎会でライブをやろうと思ってて。まあでも、まだ講堂の使用許可もらっただけなんだけど」
あははは、と少し困った顔で笑っているのは、この学校でも屈指のやかまし元気娘、高坂 穂乃果(こうさか ほのか)。眩しいくらいの笑顔が特徴の元気な奴だ。
「で、何だよ?それを俺に話すってことはなんか用なんだろ?」
「そう!そうなんだよ!実は剣持くんにお願いがあるの!」
ガシッ!と力強く俺の手を取って高坂はこれまた力強く言った。
「お願い!私達のマネージャーになって!」
「オーケー。任せろ」
これが俺、剣持 真琴(けんもち まこと)がμ’sのマネージャーになったきっかけだった。
☆☆☆★
「そんなあっさり引き受けていいんですか!?」
「え?だって頼まれたんだから当然じゃん。断る理由もないし、面白そうだしな。それに女の子が頼んできたんだ、断れるわけ無いだろ」
「おおー!流石『音ノ木坂学園一の断れない男』!かっこいい!」
「止めろ!何か優柔不断男みたいだからその呼び方止めろ!」
「た、確かに私も照明や私たちのダンスを客観的に評価してくれる人材が必要だといいましたが、そんなあっさり……」
少し納得いかないといった感じで眉根をひそめているのは高坂の幼なじみその一、園田 海未(そのだ うみ)。しっかり者でクラス一の努力家。男子からはその見た目と言動から「ストイック娘」「厳しめ大和撫子」「高坂の保護者」などと言われている。それだけにスクールアイドルをやろうと思ったのが意外だった。
「それにマネージャーは必須だよ!」
「そうですか?」
「だってマネージャーだよ?アイドルといえばマネージャー。マネージャーといえばアイドル。スケジュール言ってくれたりお茶出ししてくれたりお菓子持ってきてくれたりマッサージしてくれたりサインの代筆してくれたりお昼ご飯作ってくれたり宿題を代わりにやってくれるのがマネージャーなんだよ!ね、必要でしょ?」
「その説明だと、ただのお手伝いさんなのですが……」
「つか半分くらい願望入ってね?」
俺と園田が高坂の話に呆れていると
「こんなもんかな。見て、ステージ衣装考えてみたんだけど」
と高坂の幼なじみその二、南(みなみ) ことりがスケッチブックを俺たちに見せてきた。そこには可愛らしいピンクの衣装に身を包んだ高坂が描かれていた。
「わー!かわいいー!」
「へー。上手いな、南」
「ホント?ここのカーブのラインが難しいんだけどなんとか作ってみようかなって」
「え!?南って服も作れんのか!?」
「うん。まだまだだけどね」
「は~、それでも凄いな。あ、何か手伝えることあったら言ってくれ。ボタン付けくらいはできるし、買い出しも手伝うから」
「ホント!ありがとう!」
「こ、ことり」
「海未ちゃんはどう?」
「かわいいよね!かわいいよね!」
ステージ衣装に大はしゃぎの高坂と感想を求める南。対する園田はというと、
「こ、ここの、スーッと伸びているのは…」
「脚よ」
「素足にこの短いスカートってことでしょうか…?」
「アイドルだもん」
「アイドルだからな」
「アイドルだもんね!」
それを聞くとチラリと自分の脚を見る園田。もじもじと自信なさげにしている。それを見て「大丈夫だよ!」と言ってのける高坂を見たとき、ふと、我が校のある男性教師の言葉を思い出した。
『お前ら、女性を見るとき、まずどこを見る?』
『顔か?それとも胸か?』
『ああ、確かにどちらも大切だ。特に、男達が母性の象徴に引き寄せられるのは有史以前からある業だ』
『しかし、だ』
『敢えてお前らに言おう。お前らが真に目を向けるべきは天を貫く気高き山脈だけじゃあない』
『脚、だよ』
『人間を支える部位。しなやかでその姿は胸と同じく千差万別』
『見ろ、園田を』
『未だに発展途上な彼女は最近自身の胸が幼なじみの南や高坂より劣っているのを僅かだが気にかけているという話だ』
『確かに美しいフォルムをしているだろうが今はまだよくて丘といっていいだろう』
『だが!今度は脚に注目して見ろ』
『分かるか?弓道部の練習で鍛え上げられた筋肉。余分なものを限界まで削ぎ落としたその姿はまるで刀匠が打ち上げた業物の名刀よう。それでいて白雪のごとき輝きとハリ、日焼けもシミもない艶やかで汚れの無い肌。なによりその脚・線・美!まるで見えない神の手によって整えられたかのようなパーフェクトフォルム!』
『……どうだ、お前ら』
『園田の新たな一面を知ることができただろう?』
『現状で妥協してんじゃねえ。それで満足してんじゃねえ』
『大切なのは観察し、推察し、新たなる黄金の道を探すことだ』
『そしてその先で、お前らは新たなる世界を知ることになる』
『その時は歓迎するぜ、盛大にな』
現国の教師なのにわざわざ体育の時間にやってきて、女子と別れて運動してた男子たちに力説していたその教師は、大多数の男子から賞賛の拍手を送られ、そして体育の女性教師に耳を摘ままれながら連行されていった。ゴミを見るような目のオプション付きで。
「うん、大丈夫だろ。心配すんなよ園田」
「な!剣持くんまで!」
「ほら!剣持くんもこう言ってるんだし大丈夫だよ!」
「貴女は人のことが言えるのですか!」
ワーワー!と騒ぐ園田と高坂。
安心しろ園田。お前の脚は我が校きっての(変態)紳士が保障してくれてるから。
と、ここで俺はふと思いついたこんな質問を投げかけた。
「高坂、衣装や舞台が決まってるってことはダンスや歌も出来てんだよな?」
「え?」
「当然練習場所も決まってんだろ?」
「あ」
「そういや俺、グループ名聞いてなかったけどなんて名前なんだ?」
「……」
「……」
「……」
「……えぇ~……」
そこからかよ……。
☆☆☆★
取り敢えず、高坂たちがグループ名を考えている間に俺は校内の使えそうな場所を探すことにした。グラウンド、体育館は当然無理だし、空き部屋は部活動ではないと使えないので、部活じゃない俺たちは使えないと言われた。バカ正直にスクールアイドルのことを話したら思いっきり鼻で笑われたけど。
「うーん、やっぱり屋上か」
残ったのは屋上になってしまった。まあ、日差しや雨降ったときは駄目だけど、広いし音も気にしなくてよい。あそこくらいしか思いつかないな。
取り敢えず、空き部屋について聞いた時に先生方に頼まれた書類を数学科の部屋、辞書を図書館にさっさと置いてこないとな。
「だから、鬱陶しいって言ってるでしょ!」
「何を言う!一人黄昏の中でピアノを練習するより、仲間達と共に研鑽し、喜びを分かち合いながら練習するほうが良いと僕は言ってるんだ!安心したまえ、同じ音楽教室で切磋琢磨した仲だ!腕に自信はあるぞ!」
「そういうのが鬱陶しいっていってんの!あんたと二人でとか死んでも嫌!」
「なる程!一人より二人、二人より三人、三人よりもっとということだな!よし、明日音楽教室の仲間達を呼ぶとしよう!」
「止めてって言ってるでしょ!ホントもうわけわかんない!」
「フッハッハッハッハッハ!遠慮することはないぞ!」
「あああああああ!もう!」
そんな話し声と共にツカツカと早足で歩く赤毛の女子生徒が前の廊下を通り過ぎる。その後ろを、ガッシリとした体型の長身の男子生徒が朗々としたテノールボイスで笑いながら付いていく。女子生徒が必死に男子生徒を引き離そうとするも、男子生徒はその長い足で悠々と追いついていた。と、
「む?そこに居られるのはもしや?」
「げ」
女子生徒を追いかけていた男子生徒はこちらに気付いたのかクルッ!!と綺麗なターンをしてこちらに近付いてくる。
日本人離れした彫りの深い顔、毛筆で描いたのかというくらいぶっとい眉毛、外国の俳優みたいな顔をしたそいつは暑苦しい笑顔でこっちに接近してきた。
「おお!剣持先輩ではないですか!」
「うん、相変わらず元気だな飛鳥」
「ええ!先輩も壮健そうでなによりです!先輩は何かのお仕事中ですか?」
「うん、これ運ぶように言われたんだ」
「何と!随分な量ですね!先輩!差し出がましいこととは思いますが、不肖、この飛鳥 麗(あすか れい)!お手伝いさせていただきます!」
そう言うが早いか飛鳥は辞書全部と書類の半分を奪った。流石に重かったので、軽くなった安堵から思わず溜め息がでた。
「ありがとう、助かるよ。ってかさっきの女の子のことは良いのか?」
「確かに彼女のことは気になりますがまた明日会えますので!しかし、流石は剣持先輩!まさかご自分が大変な時に周りの気遣いを忘れないで声をかけてくださるなんて!やはり剣持先輩は尊敬に価する素晴らしい御方だ!一生ついて行きます!」
「ああ、うん。有り難いんだけど……ちょっと離れて……」
中学からの後輩である飛鳥 麗。こいつの周りはマジで2、3度くらい暑くなる。しかも興奮するとパーソナルスペースとかガン無視で顔を近づけてくるので、俺はできるだけ飛鳥から距離を取って歩くことにした。
☆☆☆★
「作曲を一年に?」
「うん!スッゴく歌の上手い子がいるの!ピアノも上手で、きっと作曲もできるじゃないかなーって!もうすごいんだよ!だから作ってくれるように明日頼もうかなぁって思うんだ!」
「穂乃果、近いですよ。剣持くんも困っていますよ」
書類と辞書を置いて、教室にいる高坂たちに練習場所が屋上しかないことを伝えた後、歌について話し合うことになった俺たち。因みにグループ名は募集する事にしたらしい。丸投げかよ。
作曲は明日、高坂が見つけたという歌の上手い一年のもとに頼みにいくそうだ。
その一年の話をしているときの高坂は、どれだけ素晴らしかったかを伝えようと必死で、興奮したようにどんどん顔を近付けてきた。園田が止めてくれたから良かったが、お前はあの暑苦しい後輩と同じかよ。
「曲は良いとして、作詞のほうは?誰かに頼むのか?」
「それもなんとかなるよねって話してたんだ。ね?」
「うん!」
「そうなんですか?」
俺の質問に自信満々で答える高坂と南、対してまったく話を聞いていないという感じに困惑する園田。その園田に二人が笑顔で近付き、
「海未ちゃんさぁ、中学の時、ポエムとか書いたことあったよね~」
「え゙っ」
「読ませてもらったこともあったよね~」
へー、園田がポエムか。意外というか。でもそれなら確かに作詞は問題なさそうだな。と、思っていたら園田は素早い動きで机から立ち上がり、走り出そうとした。かなり動揺していたのかすっころびそうになったので、俺は園田の腕を掴んで捕まえた。
「やめてください!帰ります!離してください剣持くん!」
「おいおい園田、逃げることはないだろ?」
「そうだよ!海未ちゃんしか出来ないんだから逃げないでよ!」
「お願い~!」
俺たちは三人掛かりで園田を捕まえて説得し、取り敢えず座って貰うことにした。
「お断りします!ポエムだって思い出したくないくらい恥ずかしいんですよ!」
「えー」
「つっても出来るやつがやらなきゃ駄目じゃねえか?」
「私も衣装で精一杯だし」
頑なな園田の様子に俺達三人は困り果てた。頑固だな園田。
「穂乃果や剣持くんがいるじゃないですか」
「無茶いうな。経験もセンスもないのに出来るわけ無いだろ」
「私も~。海未ちゃんだって知ってるでしょ?」
「ムググ、それは……」
「俺たちもネタ出しとか手伝えることあったら手伝うぜ?」
「お願い海未ちゃん。せめて元になるものだけでも!」
俺と高坂がサイドから頼みこむ。園田も揺れているのか困った顔をしている。と、
「海未ちゃん……」
南のその切なそうな声に俺たちは思わず南のほうを見た。そして、
「お願い!!!」
「ッ!」
「ッッッ!!」
南の「お願い」に思わず園田が顔を赤らめて膠着。余波を食らった俺も余りの脳溶けボイスに撃沈する。そして
「はう!」
「おっふ!」
「グワーッ!」
「ブフッ!」
「我が生涯に一片の悔い無し!」
「ブヒイイイイイ!」
同じく余波は教室全体に広がり、教室に残っていた奴らは男女問わず骨抜きにされた。そして、
「もう……ずるいですよ、ことり。それでは断れないじゃないですか……」
園田は、顔を赤らめながらも渋々と了承した。
こうして、作詞は園田に決定した。
でも……さっきの南の声、録音しときゃ良かったなー……。
☆☆☆★
「ペース落ちてるぞ二人ともー。もう一踏ん張りー」
「はぁ……はぁ……はぁ……5往復……きついよ~……」
「もう……足動かない……」
翌朝、俺たちは近くの神社の階段にいた。スクールアイドルとして歌って踊るための基礎体力作りを行うそうだ。
当の俺はというと、階段の中腹で走る二人に激励を送りながら、写真部所属の悪友から借りたカメラで二人を撮っていた。
この写真は所謂、広報やブログ用に使おうと考えていた。
「スクールアイドルにとって注目を集めるのはなにより重要らしい。目立ってなんぼだ。校内での認知度も低いし、特に俺らの目標はこの学校の廃校阻止だからな。お前らの練習風景やライブを見てもらって、アピールしまくらなきゃいけない。そのためにも、今後俺は広報作成とブログを行い、校内外を問わずお前らのことを知ってもらおうと思っている。つーわけだから園田、逃げんの無しな」
「うぐっ!で、ですが!」
「スクールアイドルだろ?ライブすんだろ?これくらいで恥ずかしがんなよ。後で見てもらうつっても、ここにいんのは俺と高坂と南だけなんだから」
「あううう……」
園田は顔を真っ赤にして目を泳がせている。正論なだけに言い返せないようだ。
園田っていつも凛としているイメージだったが、恥ずかしがり屋だったのか。ちょっと面白いな。
俺は高坂達にドリンクとタオルを渡しながら、撮った写真を確認してもらう。
「おお!真琴くん写真上手!」
「私たち、あんなに走ってたのに綺麗に撮れてるね」
「カメラ借りるついでに撮り方レクチャーされたんだ。心配だったけど、うまく撮れて良かったよ」
取り敢えず一安心。さてと、後はどんな記事にするかだな。
その後巫女さん姿をした、我が学園の生徒会副会長、東條 希(とうじょう のぞみ)先輩に勧められて神社に参拝し、またしばらく階段登りをすることになった。
どうでも良いけど巫女さんって素晴らしいよな。東條先輩の巫女姿、最高でした。
☆☆☆★
「お断りします!」
まあ、そうなるな。
学校にくるとすぐに、俺達は穂乃果が発見したという美声の持ち主、西木野 真姫(にしきの まき)に作曲依頼をしたが、見事に断られてしまった。
なんとなくそんな気はしてたけども。
俺と園田と南は、西木野の反応をある程度予想していたので特に驚きはしなかった。が、ここで一つ問題が、
「お願い!貴女に作曲してもらいたいの!」
「そうだ真姫君!先輩達の熱意と君の曲が合わされば素晴らしいライブになること間違い無しだ!」
「「なんでお前(あんた)まで居んだよ(のよ!)」」
何故か飛鳥まで付いてきて高坂と一緒に西木野の説得をしていることだった。
「丁度先輩達に用があったのだが、先輩達が真姫君の力を借りたいという話を偶然聞いたので!真姫君のことだから先輩達だけでは恥ずかしがって逃げると思い、真姫君のライバルである僕がいれば、恥ずかしがらずに先輩達の頼みを受け入れてくれると考えて付いてきたのだよ!」
「大きなお世話よ!てかあんたなんてライバルでもないし!」
「なに?では中学生の時、ピアノのコンクールの時の『あんたみたいなのに負けるわけないじゃない!』と強気で言って「言わなくて良いから!と、兎に角!作曲はしません!」
「あっ、もしかして歌は歌えるけど作曲は出来ないとか?」
「なっ!出来ないわけ無いでしょ!」
「その通り!彼女には作曲の才能がある!何せ彼女は中学生時代に己のセンスの高さを自認し、自らのことを「止めてって言ってんでしょ!」ぶばぁっ!」
ついに平手打ちで飛鳥をぶっ飛ばした西木野。まあ、誰だって過去のことをカミングアウトされるのは嫌だよな。ところで何で園田さんは下向いてるんですかね?何か西木野の話に思い当たる点でもあるんですかね?
あ、園田に睨まれた。いかんいかん、考えが顔にでてたかな?
「……ただ、やりたくないんです。そんなもの……」
飛鳥を黙らせた西木野はため息を一つ吐いて、高坂から目線を反らした。
「学校に生徒を集めるためだよ?その歌で生徒が集まれば……」
「興味ないです!」
そう言って、ついに西木野は屋上から出ていった。
☆☆☆★
……うーん。
西木野が居なくなった後、すぐに俺達の前に現れたのは、生徒会会長、絢瀬絵里(あやせ えり)先輩だった。先輩は、スクールアイドル活動が失敗したときのリスクを、俺達に言ってきた。
俺達の行動は「駄目でした」で済むようなもんじゃないのは、最初から分かっていたことだ。まあ、高坂は考えていなかったが。
確かに。絢瀬先輩の意見は最もだ。全くの正論だ。……けど
「…………」
「ん?どうかしたか?」
「なんでもないです」
そう言いながら、俺は学校で飼っているアルパカの壊れた柵の釘を抜いて、新しい板を張っていく。
「そういえばお前、スクールアイドルのマネージャーやっているんだってな?」
「そうですよ。まだまだ練習中、ってか体力作りとダイエットに走り込みしてるだけですよ」
ドリルのスイッチを押してネジを締める。隣では先輩が、同じく板を押さえながらネジを締めていた。何故俺がアルパカの柵を直しているかというと、単純に隣にいるメガネの風紀委員長、間 歩(あいだ あゆみ)先輩に頼まれたからだ。
間先輩率いる風紀委員は、生徒が出来る範囲での備品の整備や、清掃を自分達で率先して行っている。その際、人手不足だったりした時は、手伝いを頼まれることがことが多く、代わりに授業で分からないところを教えてもらったり、テスト勉強を見てもらっていた。
「だとしたらすまんな、忙しい時期にこんなこと頼んでしまって。用務員の勝田さんが腰を痛めてしまったので風紀委員でやることになったんだが、みな予定が入ってしまってな。他に頼めそうなやつが居なかったんだ」
「良いッスよ、俺も好きでやってるんで」
「先輩!見てくださいこのアルパカ達!とっても人懐っこいですよ!」
「頭かじられてるぞ」
そして俺が先輩と柵を直している間、輝く笑顔でアルパカ達と戯(たわむ)れているのは飛鳥だった。まあ、モッシャモッシャと茶色の毛のほうに頭をかじられているのを、戯れていると言って良いのか、遊ばれてると言って良いのか。
「あいつもマネージャーか。なかなか面白そうな奴だな」
「まあ、退屈はしないっすね」
実は西木野の作曲依頼の失敗&絢瀬先輩からの忠告のあと、頬に紅葉がついた状態で飛鳥はマネージャーを申し出てきたのだ。
「先輩方の熱意と母校愛に感動いたしました!この飛鳥 麗、粉骨砕身、先輩方のお手伝いをさせていただきます!遠慮なさらず何でもお申し付けください!さあ!
さあ!!
さ あ ! ! ! ! ! ! ! 」
という具合で暑苦しく迫られたのであった。こちらも別に断る理由がなかったので了承し、今は一緒に手伝いとしてアルパカ達の見張りをしてもらっていた。
「よーし、直った!」
「ありがとう二人とも。助かったぞ」
「これくらいなら大したことはないですよ」
「そうですよ。それに僕としてはアルパカ達と仲良くなれて嬉しいです!」
「ペッ!」
「おい、顔に唾吐かれてんぞ」
「ハッハッハ!照れ隠しをするなんて可愛いな!」
ようやく柵が直ったので、片付けを始める俺達。このぶんなら放課後の練習には間に合いそうだ。
「では先輩!先に神社に行ってます!」
「うん、でも先にシャワー浴びていけよ。臭いから」
「分かりました!では間先輩、お疲れ様でした!」
そう言うやいなや飛鳥は道具を持って、校舎に走っていった。恐らくシャワー室に行ったのだろう。さてと、俺も行くか。
「間先輩、お疲れ様でした。さよなら」
「ああ、お疲れ様。……剣持」
「?はい、なんですか?」
工具を担いだ俺に先輩が声を掛けた。
「頼まれたからにしろ、なんにしろ、もしマネージャーをやっていくのなら、二つ、アドバイスしてやる」
「え?」
「一つ、マネージャーは支える奴の前では常に笑顔でいろ。二つ、そいつのことを信じ続けろ」
「……」
先輩は二つ指を立てて、そう言ってきた。
「さっき何か悩んでそうだったからな。大方、自分達のやっているのは正しいのか。失敗したらどうなるか、と考えているのだろう?」
「……」
「心配することはない。まだまだお前達の活動はそこまで広まってはいないが、応援している奴や期待している奴もいるんだ。失敗した時のリスクを考えて行動しない方がそいつ等にとっても、お前達にとっても悲しいことになる」
「……」
「だから失敗を恐れるな。安心しろ。お前達マネージャーは支えてやらなくてはならん。支える奴が悩んでいると支えられている方にもそれが移る。だから笑顔でいろ。そして信じろ。お前達が支える奴らは必ず成功すると」
「……はい!ありがとうございます!」
「いやいや、ただの一先輩として、意見を言っただけだ。まあ、頑張れよ。応援しているぞ」
「はい!」
俺は先輩に一礼すると走り出した。何時もの神社へ。そこで待つ、俺が支えるべきアイドル達のもとへ。
☆☆☆★★
「μ’s(ミューズ)?」
「そうなんだよ!一つだけ箱に入ってたんだ!」
神社に着て、最初に高坂が俺達に伝えたのは応募していたグループ名が決まったことだった。
「ほほう!もしやギリシャ神話の9人の文芸の女神達の名ですね!この名前を考えた人はなかなかセンスが有りますね!」
「うん!私もこの名前結構好き!」
付けられたら名前が気に入ったのか嬉しそうな飛鳥と南。
俺は、間先輩に言われたことを思い出していた。
「……応援してくれてる人もいるんだよな」
「うん!」
「ええ、何だか照れ臭いですけど」
同じく嬉しそうにはにかむ高坂と園田。応援されているという実感が、二人を笑顔にさせていた。
……そうだ。俺はこいつらを支えるんだ。きっかけは頼まれたからだけど、これから、マネージャーとして支えていくんだ。
スクールアイドルは失敗するかもしれない。逆効果かもしれない。でも、
「……高坂、園田、南、飛鳥」
「なになに?」
「どうかしましたか?」
「?」
「どうしましたか、先輩」
俺の呼びかけに答えて4人がこちらに向く。俺は、出来るだけ最高の笑顔で言った。
「スクールアイドル、絶対成功させようぜ!応援してくれてる人のため、学校のため、何より俺達のために!」
「うん!もちろんだよ!」
「ええ!頑張りましょう!」
「うん!皆で一緒に!」
「はい!この飛鳥 麗が皆さんを支えます!」
「よーし!んじゃ早速、練習始めようぜ!」
☆☆☆★★
翌日、俺達の元に一枚のCDが届いた。
そこには、どこかで聞いたことのある歌声で一つの歌が込められていた。
同時に、音ノ木坂学園 アイドル部(μ’s)のアイドルランキングはランキング圏外から999位になった。
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