ラブライブ!+フォース    作:愚民グミ

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第2話「はじめてのライブ」

前回のラブライブ!+フォース

 

 音ノ木坂学園に通う高校2年生の俺、剣持真琴(けんもち まこと)はクラスメイトの高坂穂乃果、園田海未、南ことりにスクールアイドルのマネージャーを頼まれた。

 色々と決まってない俺達だったが、応援してくれる人がいることを励みに、新入生歓迎会で行うライブに向け、頑張っていくことになった。

 俺も三人のマネージャーとして支えていく覚悟を胸に、暑苦しい後輩と共に活動を開始した。

 

 ☆☆☆★★

 

「登校中の生徒諸君!音ノ木坂学園に舞い降りた歌の女神達、μ’sの初ライブだ!さあさあ友人と共にぜひ見に来てくれ!日時は新入生歓迎会の午後4時!場所は講堂だ!そこで伝説の始まりを共に見よう!」

 うん、やっぱりビラ配りを飛鳥に任せて正解だったな。俺は二階の窓から玄関口にいる飛鳥の様子を伺った。あいつの無駄に濃いキャラと背の高さ、押しの強さと朝っぱらなのにマックス状態のテンションと声のボリュームなら、嫌でも目立つから次々ビラが消費される。ビラを渡された生徒も困惑しつつもしっかりビラを受け取ってくれていた。

 さてと、俺も自分の仕事をしますか。

 俺は鞄から昨晩作ってきたものを掲示板に貼り付けた。

 うん、我ながら上出来だ。

「あっ、剣持くん!」

「よう、練習お疲れ。二人とも」

 丁度登校してきた高坂と南が声をかけてきた。

「悪いな、俺らだけ先に練習上がって」

「ううん、ビラ配りとかするためだったんでしょ?なら仕方ないよ」

「ねえ、剣持くん。これは?」

 俺の詫びに仕方ないと納得してくれた南。そして俺が貼った物に興味津々の高坂。

「ああ、これが前に俺が言ってたお前達のことを校内に広める広報だよ」

「へー!『スクールアイドル通信』か~」

 俺が掲示板に貼り付けた物を二人に見せる。

 これはμ’sの活動を出来るだけ多くの人達に知ってもらうために用意した物だ。今後も定期的に広報を上げていくつもりだ。因みにブログも作っておいたし、この広報の内容とは違う内容で上げている。URLは広報にも記載されているので、広報を見た生徒がそちらも見てくれるようにしておいた。

 これを玄関近くの掲示板に貼ったとき、一年生に睨みつけられた時は驚いたなー。何か気に障るような記事だったかと思ったぜ。

 

 ん?でもリボンは三年生の物だったような……。

 

「ねえ、ところで海未ちゃんこっちに来てない?」

「園田?いや、来てないぞ」

 そこで、高坂がこちらに質問してきた。何時も一緒にいる園田がいないのは気になっていたが、どうやら遅れているのではなく、どこかに行ってしまったらしい。

「どうした?何かあったか?」

「ええっと、実は……」

 とても言い辛そうに、南は園田がいない訳を話した。

 

 ☆☆☆★★

 

「……園田……お前なー……」

「し、仕方ないじゃないですか!ひ、人前だと思うと、どうしても!」

 園田は屋上にいた。三角座りで膝に頭を埋めているが、よく見ると耳が真っ赤だった。

 何故園田がここにいるかというと、ある生徒に声をかけられ、ダンスを見せてくれと頼まれたらしい。しかし、人前だということを意識した途端、怖じ気づいたらしい。そしてここに逃げ込んだということだ。

「あのな、何度も言うようだが、いい加減覚悟決めろよ。新入生歓迎会まで時間がないし、もう大分校内にμ’sの名前が知れ渡ってるんだぞ?俺達が広げたんだけども。逃げ場もないし、怖がってちゃ出来ないだろ」

「分かってますよそれくらい!私だって分かってるんです!でも!人前でなければ!人前でさえなければ!」

「うーん」

 俺の意見に子供みたい反論して頭を抱える園田。

 話には聞いてたしそんな気はしてたけど、これは重症だな。

 前に南に聞いたが、何でも園田は、小さな頃からあがり症だったらしく、小学校の学芸会のシンデレラの義姉A役をしたときは、本番、あまりの緊張でガチガチの噛みまくりで、終了と同時に気絶してしまったらしい。

 元々の才能に加えて努力を重ねるような文武両道の大和撫子、努力の鬼のような園田にも、弱点はあったらしい。

 が、だからといってこのままというわけにもいかない。ならばここは荒療治だが、人の多いところで慣らすしかないだろう。

 

 ☆☆☆★★

 

「すいませーん!μ’sです!ライブやるので是非来てくださーい!」

「お願いしまーす!」

 というわけで放課後。

 俺達二年生は校門前でビラ配りをしていた。元々放課後もやるつもりだったが、今回は三人も含めてのビラ配りだ。

「ほら、園田。これお前のノルマな」

 といって俺はビラの束を園田に押し付ける。量としては俺の二分の一以下、高坂達より十枚以上も少ない。

「む、無理ですよ絶対に!」

「ほう、園田さんはここで恥をかくよりも本番で大観衆の前で恥をかきたいのか。そっかそっか。いやー、見に来てくれたお客さんどう思うかなー。たのしみだー」

「!」

 俺の挑発に対して園田は顔を真っ赤にすると

「分かりましたよ!やります!」

 そう言ってビラ配りを始めた。普段の彼女ならこんな安い挑発に乗るはずないんだが、そうとう切羽詰まっているのと自覚が有るからだろう。あっさりと乗ってしまった。

「もう、剣持くん。あんまり海未ちゃんいじめないでよ。流石の私も怒るよ」

「悪かったよ。流石に言い過ぎたと思ってるよ。あとで謝っとく。高坂も南もごめん。友達いじめて」

 園田が離れると、俺と園田の会話を聞いていた高坂が話しかけてきた。ぷーと頬を膨らませて、怒ってます!とアピールする高坂。まあ、そりゃ怒るよな。

 俺は高坂と少し離れたところからこちらを窺っている南に頭を下げる。まあ、ぶっちゃけあんな挑発しなくても、他にも方法はあった。高坂達を引き合いに出して『あいつらに迷惑をかけたくないだろ?』と言うのも考えたが、こっちのほうが効果的だと思ったのでやってみただけだ。あいつがビラをしっかり配り終えたら謝ろう。

「先輩!予約取れました!」

「よし、よくやった飛鳥!」

 俺に言い渡された任務をこなしてきた飛鳥が戻ってきた。

 さて、もう一つの方も上手く行くといいんだが。

 

 ☆☆☆★★

 

「おお!ヒフミ、88点か!流石仲良し三人組!」

「「「まとめて呼ばないでよ!」」」

 ビラ配りを終えた俺達は、次にカラオケにやってきた。ついでにクラスメイトのヒデコ、フミコ、ミカの仲良し三人組(通称:ヒフミトリオ)と俺のダチ二人を呼び、予約を取ってきた飛鳥もいれて10人で来た。

 これは園田のあがり症対策の一つであるとともに、μ’sの今の歌唱力の確認と人前で歌う訓練も兼ねている。

「三人ともー!ハイチーズ!いやーやっぱ写真撮るなら女の子に限るわ!」

 といってヒフミを撮るのは、俺にカメラを貸してくれた小太りの写真部員、麗火(らいか)と、

「……………」

「あー!智佳くん独り占めしちゃ駄目だよ!私も食べたいのに!」

 無言でモソモソとポテトを食いながら高坂と奪い合いをしているガタイの良い奴は水泳部の智佳(ちか)。因みに女みたいな名前だが、こいつら二人は男だ。

「さて、場も大分温まってきたし、次はお待ちかねのμ’sに歌ってもらうか!曲は三人で歌える歌だから思いっきり歌えよ!」

「はーい!エントリーナンバー5!μ’s!行きまーす!」

「わ、わたしもですか!?」

「ほら、曲始まっちゃうよ?」

 俺が振ると、三人はノリノリで歌い始めた。ついでに俺もスマホのビデオカメラを起動させて、三人の様子を撮り始める。

 高坂はもう楽しくてたまらないという感じで熱唱し、南も楽しそうに歌っている。園田は、最初は人前だと言うことで少し緊張した様子だったが、次第に緊張も解けたのか堂々と歌い出した。しまいにはウィンクまで披露するほどだ。

「結果は……おお!95点!スゲェ!」

「よっ!流石はスクールアイドル!日本一!」

「穂乃果サイコー!」

「ことりちゃん歌声キレーだったよー!」

「海未ちゃん良いぞー!」

「流石は先輩方!ああ、この歌声、まさに女神のごとし!高坂先輩はまるで(以下略」

「…………」(←口一杯にポテトを咥えながら拍手)

 それぞれがμ’sに賞賛の声をあげる。三人は顔を見合わせると今日一番の笑顔を見せた。俺はすかさずスマホのビデオカメラから普通のカメラモードに切り替えて、三人を撮った。あっぶねえ、ギリギリ。あの笑顔は撮れなかったら後悔するところだった。

 しかし、うん。これなら、本番のライブも大丈夫だな。

 カラオケのもう一つの目的は、彼女達に自信を付けてもらうことだ。

 身内とはいえ、やはり自分達の歌を聞いて評価してくれる人がいるのは嬉しいと思う。なので、わざわざヒフミや、あまり親交のない麗火達を呼んだのだ。これで少しは自信を持ってもらえるとありがたい。後は俺が、マネージャーとして、お客を呼び込まないとな。あいつらには、最高のステージで躍ってもらわなくっちゃな!

「よーし!このままもう一曲いこうか!」

 こうして、俺達はしばらく歌い続けたのだった。

 

 ……蛇足だが、

 

「よーし、ミュージカルくんの点数は!?……あ……100……点……」

「「「………………」」」

「……空気読めよォ!!」

「ごめんなばい゙っ!」

 

 本日最高得点を叩き出した飛鳥(バカ)の顔面に俺は右ストレートをくれてやった。

 

 ☆☆☆★★

 

 さて、ついに新入生歓迎会の日がやってきた。生徒会長の挨拶が終わると早速各部が、新入生の呼び込みを開始した。

 

「ちょっ!お前らは来なくて良いから!先に講堂行ってリハーサルしてこいよ!」

「えー!私達だってビラ配りするよ!」

「そうですよ!剣持くんばかりでは不公平です!」

「そうだよ!まだ開演まで時間があるし手伝えるよ!」

「良いんだって!これはマネージャーの仕事なんだから!」

 

 呼び込みを行おうとしたら、なんと三人が手伝うと言ってきたのだ!気持ちは嬉しいが、しかし、正直な話をすれば、俺としては三人には最後の調整をしてもらいたいという思いがあった。

「それに剣持くんだって、機材の搬入とか照明とかあるでしょ?だったら……」

「それだったら今飛鳥にやらせてるよ。だから……」

 お前らは戻れ。と言おうしたとき、

 

「うおおおおおおお!」

「待ってくれ飛鳥くん!君には是非、我が演劇部に入っていただきたいんだ!」

「そうよ!あなたなら必ず最高の舞台を生み出せる!だから!」

「それに君、中学のとき演劇部だったじゃない!是非!是非!」

「すみません!だが僕にはスクールアイドルが!支えなければならない人達がいるんだああああ!」

「じゃあ兼部でも良いから!お願いだああああ!」

 

 ……どうやら演劇部の連中に目を付けられて追い回されているらしい。ああなるのも当然か。なんせ飛鳥の両親は揃ってミュージカルの舞台俳優、しかも本場で修行してきて、大きな公演を何度もしているという大物。そういうのに詳しくない俺でさえなんとなく名前を知っているようなスターの息子。正にサラブレットだ。当然、飛鳥もミュージカルの俳優になるため、幼少期から仕込まれている。中学時代はその演技力から「太陽の王子様」と呼ばれていた。その結果、あんな風になるのは考えなくても分かる。というか以前から猛アプローチされていると言ってたな。どうやら新入生歓迎会で勝負をかけにきたらしい。あれでは飛鳥は搬入や照明どころではない。

 

「ね?飛鳥くんもあんな状態だし、手伝わせてよ」

「むぐぐぐ……」

 確かにあんな状態では飛鳥は役に立たない。搬入や照明、音響だけでなく、ライブ映像を撮るため、カメラのセッティングの最終確認をしなければならない。更に来た人達に渡すパンフも持ってこなければならない。呼び込みも疎かにできない。後、飛鳥を助けに行かなきゃいけない。正直、体が足りない状況だ。呼び込みを高坂達に任せてしまいたいという思いもなくはないが……。しかし彼女達には最高の状態でライブをしてもらいたい。

 どうする?やはり高坂達に任せるか?しかし……。

「おーい、お前ら。呼び込みしなくていいのかー?」

 と、そこに声をかけてきたのは、

「あ!浮竹先生!」

 なんかチャラそうな雰囲気で、Yシャツを着崩した、ぶっちゃけ教師には全然見えない現国の男性教師、浮竹 稔(うきたけ みのり)先生だった。

 またの名を「黄金の道の求道者」「変態(ジェントルマン)」「音ノ木坂学園のセクハラ魔人」と呼ばれる男である。

「……先生、まさか一年生をナンパしに来たンスか」

「ひでえなぁ、剣持。ただの見回りだよ。おっさん一応教師ですよ?上級生が過激な勧誘してないか、あぶれてるやつがいないか見て回んのが今の俺の仕事だよ」

「……本音を言うと?」

「デスクワークしてるくらいなら女子生徒がキャッキャッと騒ぎながら、どの部に入るか悩んでもじもじしてる姿が見たくなったからな!」

 ……駄目だこの教師、早くなんとかしないと。ホント暇そうな人だな。こんなだが、教え方が上手くて、男女関係なく生徒達と良好な関係を保っているコミュ力の塊というんだから、世の中分からない。

 まあ、変態なんだけど。高坂達がドン引きしてるけど。

 そこでふと、俺はある考えがよぎる。

「先生、今、暇ですよ」

「仕事中だけど、手は空いてるな」

「なら先生、ちょっとだけ手伝ってください!こいつら三人はこのあとリハとかあるから人手が足りないんです!お願いします!」

「ああ、いいぜ。それくらいならお安いご用だ。どれ、俺の力でお客を「ありがとうございます!じゃあ、カメラの最終確認をお願いします」っておい!」

「なんすか?」

「今の話の流れ、完全に俺が呼び込みする感じだったじゃねえか!」

「何言ってんですか。先生が呼び込みしたら、そのまま女の子数人と近くのカフェにいくでしょ?」

「ぐ」

 否定しない時点でやる気だったと自白してるようなもんだな。

 その後、少し揉めたものの最終的に、

「わーったよ。やりますよー。その代わり高坂達には後でサイン貰おうかな。もしかしたら、そのうち値打ち物になるかもしれないから、な」

 ということで浮竹先生は了承してくれた。

 さて、これで一つは何とかなった。後はどうするか、と悩んでいると。

「あ、四人みっけ!」

「もー、探したよー」

「でも良かった。まだ始める前みたいだね」

 と俺達に声をかけてきたのは、ヒフミトリオだった。

「剣持くん、私達も手伝うよ。良いでしょ?」

「え!?良いのか!?」

「うん。だって穂乃果達、学校のために頑張ってるんでしょ?」

「剣持くんだってやらなきゃいけないことあるだろうし。呼び込みくらいなら私達も出来るよ」

「お前ら……」

「みんな……」

 俺達は驚きと共に胸に熱いものが込み上げてくるのを感じた。良い友達を持つことが出来たことに、俺は感謝した。

「……分かった。じゃあ、二人は呼び込みしてくれ。一人は俺と一緒に照明と音響を頼む」

「うん!」

「任せて!」

「了解!」

「さーて、高坂、園田、南。お前らも準備するぞ!」

「うん!ヒデコちゃん、フミコちゃん、ミカちゃん、ありがとう!」

「必ずお礼しますから!」

「絶対ライブ成功させるね!」

「せ、先輩!遅れて申し訳ありません!」

「よく戻ってきた飛鳥!行くぞ!」

「はい!」

「俺も頑張りましょうかねぇ」

 俺達はライブの準備のために行動を開始した。

 

 ☆☆☆★★

 

 開始まであと十数分。俺は三人を呼びに行く。

 控え室に近づくにつれて、三人の騒ぐ声が聞こえてきた。

 俺は、一瞬躊躇したが、気を取り直して控え室の扉をノックする。「はーい!どうぞー!」と扉の向こうから元気な声が聞こえた。

「準備出来たか?」

 俺は扉を開いた。そこにいたのはこの日のために南が用意した衣装に身を包んだ三人がいた。

「ねえねえ!どうかな?似合う?」

「………………」

 

 ……俺は、言葉を失っていた。

 

 はっきり言って、三人の姿に見惚れてしまって思考が停止しかけていた。

 

 三人は色違いの衣装で、高坂は活発なイメージを与えるピンク、南は落ち着いた緑、園田は名前から連想される青。ノースリーブから覗く、健康的で年頃の少女らしいほっそりとした腕が肩まで見え、スカートからは浮竹先生絶賛の脚がスラリと伸びている。三人並ぶとお揃いということもあって、更に可愛らしさが際立ち、正にアイドルの王道を行く衣装だ。以前、南にスケッチを見せられたことがあったが、はっきり言って比べものにならないくらい、今の三人は可愛かった。

 

「剣持くん?」

「あの、大丈夫?」

「……ぇ……あ……」

 ヤバい。三人が俺から反応がないため少し不安そうにしている。俺は茹だる思考で必死に言葉を導き出そうとする。

 

「あ、いや、あの、うん。三人共……その、似合ってる。うん、スッゴく可愛い……です」

 

 ウワッ恥っず!俺、今なんかめちゃくちゃカッコ悪りぃし、キモくなかったか!?大体何だよスッゴく可愛いって小学生か!キョドりすぎだろ!?

 

 俺は、余りの恥ずかしさから顔を手で覆った。顔がめちゃくちゃ熱い。正に火が出そうな感じだ。

 三人は、そんな俺の姿をマジマジと見た後、クスリと小さく笑い、

「うん!ありがとう!」

「はい。何だか少し自信がつきました」

「えへへ。褒めてくれてありがとう剣持くん」

 それぞれが魅力的な笑みを浮かべる。特に、高坂の、向日葵の大輪が咲くような笑顔を見た瞬間、血液が沸騰したような感覚を覚えた。

「ああもう!笑うなよ!ほら!もうすぐ開演だから行ってこいよ!」

 俺は思わず乱暴な口調で三人を促す。

 三人は「はーい」と言うとステージへと向かっていった。

「ねえ!剣持くん!」

「?」

 俺は、呼ばれたので取り敢えず顔を上げて三人を見る。

「マネージャー、引き受けてくれてありがとう剣持くん。練習とか、ビラ配りとか手伝ってくれて助かったよ」

「私の緊張を解くために、いろいろ考えてくださってありがとうございます」

「衣装作りのとき、色々買ってきてくれたり、手伝ってくれてありがとう」

「だから私達、頑張ってくるね!剣持くんや飛鳥くん、ヒデコちゃん達のために!ライブ、成功させるから!」

 俺は、三人から受けた感謝の言葉に強い衝撃を受け、動きが止まった。俺は、

「……ああ、頑張れよ!」

「うん!」

 ただ、そう言って、三人を送り出すことしか出来なかった。 

 

 ……………。

 

 ピッ。ピッ。ピッ。プルルルル。プルルル……ガチャ!

 

「……ああ、飛鳥?どうだ?状況は?」

 

 …………………。

 

「うん、そっか。落ち着け、お前のせいじゃねえって。他の二人は?」

 

 ………………………。

 

「……そっか。分かった。大丈夫だよ、開演まであと十分も有るんだ。きっと来るって」 ……………………………。

 

「ああ、頼んだぞ」

 

 ピッ!

 

「…………………ッ!」

 

 俺は思わず拳を振り上げ、近くの壁を叩きそうになった。だが、済んでの所で冷静になり、ゆっくりと拳を下ろした。

 違う。違うだろ、俺。何やってんだよ。この状況は、誰のせいでもない。強いて言えば、俺の考えが足りなかっただけだ。

 分かってる。最悪の状況を考えなかった訳じゃない。そうなる不安がなかった訳じゃない。ある程度想定してたことじゃないか。

 だが、だからこそ。これを避けるために1ヶ月やってきたんじゃないか。飛鳥を入れたのも、あいつが志願したからだというのもあるが、あいつのあのキャラの濃さを利用すれば、もしかしたら回避できると考えてたのもあったからだ。ビラ配りを早い段階で行ったのもこのためだった。

 いや、分かってる。俺達にはそもそも実績がない。歌や踊りを生徒の前で披露したことはない。だからどんなに広報やブログを作っても、興味を引く決定打に欠けていたのは事実だ。もしかしたらもっといい方法があったかもしれない。もっとやれることがあったかもしれない。それを、その努力を怠った結果がこの状況だというだけのことだ。見込みが足りなかった。考えが足りなかったのだ。

 

 分かってる。想定してたことだ。だからある意味当然のことなんだ。

 

 なのに、

 

「…………くそ」

 

 …………なんで俺、こんなに悔しいんだ!

 

 ☆☆☆★★

 

「そりゃそうだ!世の中そんなに甘くない!」

 

 ああ、あんな顔にさせたくなかった。

 

 開演時間を向かえ、幕を開けたμ’sのライブ。

 しかし、三人を迎えたのは、観客の拍手や歓声ではなく、静寂だった。

 

 一年生は、集まらなかった。呼び込みをしていた飛鳥やフミコ、ミカの健闘むなしく、一年生は他の部に流れていった。

 

 ……幕が開いた時、三人の顔は間違いなく、希望と自信に満ちていた。

 しかし、誰もいない観客席を見て、最初は困惑し呆然とし、次第に状況が飲み込めるに連れ、三人の顔は落胆と悲しみが浮かんだ。南に至ってはもはや涙が決壊寸前だった。園田も、深く傷付いたような顔をしていた。

 そして高坂は、先ほどの言葉を口にした。誰から見ても空元気だと分かるような無理矢理な明るい声と笑顔。しかし、すぐに瞳の水面は波打ちはじめた。

 呼び込みから帰ってきた飛鳥とフミコとミカも、悲しそうに俯いている。

 ……こんなはずじゃなかった。あいつらはこの日のために練習を続けてきたんだ。何一つ決まってない状態から、この日のために、努力したんだ。……なのに……なのに、これでは……何のために……。

 

 

「はあ、はあ、はあ……!」

 

 

 その時、講堂の入り口から誰かが息を切らしながら入ってきた。

 

 俺達は一斉に入り口を見た。

 

 入り口には、走ってきたのか、扉に寄りかかって息を整えようとする女生徒が一人いた。

 

 息を整えた女生徒は、キョロキョロと辺りを見渡し、「ライブは?あれ?あれ?」と困惑していた。

「……あの」

 俺は女生徒に声をかけた。

 

「……丁度良かった!さあ!もうすぐライブが始まりますよ!はいこれパンフです!」

 

 俺は女生徒にパンフレットを手渡した。女生徒は少し困惑したものの、もうすぐ始まるという言葉に瞳をキラキラさせている。

 ステージを見ると、高坂と目があった気がした。そしてその瞳にも、表情にも、先程までの失望や悲しみの影は見えなかった。

「やろう!歌おう!全力で!」

「穂乃果……」

「だって、そのために今日まで頑張ってきたんだから!」

 講堂に響く高坂の声。そして高坂の意志を聞いた二人はハッと息をのむ。

「歌おう!」

 もう一度、強く宣言した高坂。

 

 ……そうだ。そうだよな!高坂!例え、例え客が一人だけでも!お前らがやってきたことを無駄にしないためにも!来てくれたあの子のためにも!

 

 なら、俺も、俺に出来ることをする!

 

 俺は手を振って照明室のヒデコに合図する。飛鳥にも指を指して、カメラの所に行って準備をするよう合図する。

 

 俺も大慌てで、飛鳥が向かったカメラとは別のカメラに向かう。

 

 カメラを起動すると、すぐに三人を移した。

 

 そして、μ’sのライブが始まった。

 

 それは、理想とはかけ離れた状況だった。観客は僅か一人。他に見に来る生徒はいない。試合で言えば、無惨なまでの完敗だ。

 だが、だからこそ俺はあいつらのライブを撮らなくちゃならい。これは間違いなくあいつらの初めてのライブ。ここにいる僅かな者達しか知らない彼女たちの歌。これを、多くの人達に届けなくてはならない。そして、今度は彼女たちの歌を見に来る観客を増やすためにも。何より俺自身が、届けたいと思っている。

 俺は俺の役割を果たす。それが、μ’sのマネージャーとして、一人のファンとして、彼女たちしてやれることだと信じて、俺は彼女たちのライブをカメラに収めた。

 

 ☆☆☆★★

 

 μ’sの歌が、終わった。

 

 見に来てくれた女生徒と途中からやってきたその友達と思われる女生徒。ヒフミトリオ、行つの間に来ていたのか西木野と間先輩、浮竹先生飛鳥、そして俺の拍手が講堂にまばらに響く。

 女生徒二人は興奮したように拍手を繰り返し、飛鳥に至っては滝のように涙を流しながら拍手している。間先輩とヒフミトリオも安堵の笑みを浮かべながら、西木野はなんとも形容しがたい笑みを、浮竹先生は何度も頷きながら拍手をしている。

 ステージ上の三人の表情には、やり遂げた達成感と拍手を貰った喜びから笑みが浮かんでいた。

 俺も、拍手を繰り返していた。

 ……初めてだった。歌や踊りを見て、ここまで心臓が高鳴るのは。胸の中で熱い何かが燃えているのを感じるのは。頭の中が白くなり、目頭が熱くなるのは。

 その時、背後から金色の髪をなびかせ、生徒会長が現れた。

 

「どうするつもり?」

 

 三人を見て、質問を投げかける生徒会長。その眼は、強い意志とともに三人を射抜く。

 

「……続けます!」

 

 しかし、高坂は真っ正面からその眼を見つめて、同じくらい強い意志の眼で答えた。

 

「何故?これ以上続けても、意味があるとは思えないけれど?」

 

「やりたいからです!今、私もっともっと歌いたい、踊りたいって思っています。きっと海未ちゃんもことりちゃんも。こんな気持ち初めてなんです!やって良かったって本気で思ったんです!今はこの気持ちを信じたい。このまま誰も見向きもしてくれないかもしれない、応援なんて全然貰えないかもしれない。でも、一生懸命頑張って、私達がとにかく頑張って届けたい!今、私達がいる、この想いを!……いつか、いつか私達必ず、ここを満員にして見せます!」

 

 

 ☆☆☆★★

 

 

 その後、生徒会長は何も言わずにその場を後にした。すれ違った時に見た彼女の表情は、何とも言えない、言いたいことをかみ殺したような表情だった。

 女生徒二人は頭を下げると、まだ興奮しているのか浮き足立った様子で講堂を出て行った。

 間先輩と浮竹先生はいつの間にか居なくなり、西木野も何も言わずに居なくなった。

 そして、三人はステージから降りた。

 

 俺は、ヒフミトリオに手伝ってくれた礼を言い、後片付けはこちらですると言って帰らせた。飛鳥には機材の片付けを任せ、俺は掃除とカメラの回収を始めた。

 

「ごめんね。あんなに手伝ってもらったのに……」

 

 掃除とカメラの回収を終わらせ、三人の様子を見に行くと、着替えを終え、控え室から出てきて、開口一番に高坂が謝ってきた。

 俺は一瞬、何を謝っているのかと、理解出来なかったが、理解した時、

「……何今更なこと言ってんだよ」

「ええー!?」

 呆れて溜め息が漏れた。

「マネージャーを引き受けた時点でこんな事になるくらい予想の範囲内だよ。大体手伝わせるためにマネージャーさせたんだろ。違うのか?」

「うう……」

「ですが、私達ももっと剣持くんに協力していれば……」

「もっと私達も、お客さんが来てくれるように工夫すれば良かったってさっき三人で話してたんだけど……」

 

「無理だろ。そもそも実績もない無名の素人アイドルがいきなり成功させるなんて難しいに決まってんだろ。知恵絞っても、精々数人増える程度だったよ。……だから、」

「わ!」

「ええ!?」

「きゃ!」

 

 俺は高坂、園田、南の順に頭を撫でた。少し強引に撫でたので、髪型を少し乱してしまったが。 

 

「お前らは変なこと考えてないで、『次のライブ』のこと考えて頑張ってればいい。今回ダメなら次はいっぱい人が来るようにすればいい。講堂をいっぱいにするんだろ?なら、クヨクヨしてないで練習しなきゃなだろ。俺達マネージャーは、こんくらいじゃへこたれねぇよ。そもそも呼び込みしてた俺達も、もっと頑張れば良かっただけだし。だから別に謝んな」

 

 三人はきょとんとした顔をしていたが、次第に理解してきたのか、ホッとしたような顔をした。俺はそれを確認すると、

「よし、んじゃー腹も空いたし、反省会も兼ねて、どっか食べに行こうぜ」

 明るく三人に呼びかけた。三人は満面の笑みになり頷いた。

「よーし!じゃあ早速出っぱーつ!」

「急に元気になったなおい」

「あ、でも私今お金があんまり……」

「実は、私も……」

「私も今月ちょっとピンチかも。衣装とかで……」

「……分かったよ!俺の奢りでいいよ!」

「やったー!」

「ありがとうございます。でも剣持くん、その前に一つだけ。無闇に人の頭を撫でるのは感心しません。髪も乱れましたし」

「うぐっ。すいませんでした……」

「あははは」

 

 こうして俺達は、更に飛鳥も加えてバーガーを食べながら、反省会をすることになった。

 

 反省会では、どうでもいい世間話や練習中の失敗の愚痴、次のライブはどうするか、どんなことがまだ苦手だとか色んな話をした。

 

 俺は話をしているうちに、彼女達三人を、今後もっと支えていこうと改めて思た。

 

 マネージャーとして、一人のファンとして、彼女達と共に頑張りたいと、そう思ったのだった。

 

 

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