~前回までのラブライブ!+フォース~
新メンバーを募集することになったμ’s。
後輩の飛鳥は新たなメンバー確保のため奔走し、最終的には3人も連れてくることが出来た。
μ’sはまた新たな一歩を踏み出した。
☆☆☆☆☆☆★★
土曜日の練習は基本的にいつもの神社で体力作りとダンスの練習、それから園田が作ってきた詩や西木野が作った曲を聞くといった感じだ。
昼頃まで続いた階段ダッシュや振り付け、そして少し前から始まった飛鳥監修のもとでのボイストレーニングを終え、俺たちは境内の休憩所のベンチに座っていた。
「穂乃果、凛!鼻にケチャップが付いてますよ!ほらこれを使ってください!」
「モグモグ!ふぁひぃがほー」
「ハグハグ!おいひーにゃー」
「食べながら喋らない!」
「まだあるから慌てなくて良いぞ、お前ら。園田も早く食べろ。無くなるぞ」
「どうだね?我が家自慢の茶葉の味は?」
「美味しい……。この紅茶凄く美味しいよ飛鳥くん!」
「ふん。まあまあね」
「当然だ!僕が手塩にかけて作ったのだからな!遠慮は不要!おかわりもあるぞ!」
「はー♡このスコーンも美味しいー!」
「これ、剣持さんが作ったの?」
「ああ。口に合ったんなら良かったよ」
今日の昼食はホットドッグ。食べやすいように4等分にしてある。それからわざわざ飛鳥が湯沸かし器とかを用意して紅茶を煎れるので、紅茶によく合うスコーンを今回は用意してきた。
休日の練習の昼食は、誰かが提案しない限り、俺達マネージャーが用意してくる。
因みに先週は、新しく入った小泉ちゃんのリクエストによりおにぎりになった。
「ねぇ、剣持くん」
「何だ?」
「にゃっ!?」
暫く紅茶を飲みながら雑談をしたり園田の分にまで手を出そうとした泥棒猫の手を叩いたりしてると、高坂が俺に話しかけてきた。
「剣持くんって来週の日曜って暇?」
「んー。まぁ、特に予定はないけど……」
買い物はいつも練習が終わったら弟と一緒に行くし、2人の姉さん達からは最近何か頼まれ事はされていない。間先輩からも「しばらくは緊急の手伝いはない」って言ってたし、智佳たちを誘って秋葉にでも行こうかと考えてたところだ。
「実は、これを貰ったの」
と高坂に替わって南が四枚の紙片を取り出す。それは、遊園地の入場券だった。
「どうしたんだよそれ?」
「お母さんの友達が買ったんだけど、急に都合が悪くなったんだって。それでどうせならってことで私にくれたの」
「ふーん」
「それで私達で行くとしても一枚余るので、剣持くんも誘おうと3人で話してたんです」
「どうかな?私達、もっともっと剣持くんと仲良くなりたいなって思ってるんだ!」
「ああ、良いぜ。行こう」
「やったー!」
「良かったね、穂乃果ちゃん!」
「うん!」
「では待ち合わせについて決めましょう」
どこかホッとしたような表情で笑い合う高坂達。そんな3人とは裏腹に、俺はほんの少し、不安を抱いていた。
☆☆☆☆☆☆★★
さて、あっという間に約束の日曜日になった。練習は二年生全員いないし、最近は皆頑張っていたので休みになった。今頃一年生達は羽を伸ばしているだろう。
俺は時計を確認する。
9時40分。待ち合わせ時間の20分前だ。
今回はバス停で待ち合わせをし、そこから遊園地までバスで行くという予定だ。
まあ、どうせ高坂のことだ。約束忘れて寝坊する可能性がある。短い付き合いだが、あいつは時間にルーズな奴だということが分かってきた。何せ、練習も毎度ギリギリ遅刻するかしないかばかりだからな、高坂は。そしてあいつを待って、もしくは家に行って起こしに行くから、園田と南も遅れるというのがいつものパターンだ。流石、幼なじみというところだな。ギャルゲーみてぇなことをするなぁ。あいつら全員女だけど。
とにかくそう言う理由から、あいつらが来るとしたら予定の時間ギリギリか、もしくは5~10分くらい遅れて来るだろう。
バスの時間を確認したが、10~20分間隔で来るみたいだし、時間通りに来なくても次のに乗ればいい。なんかあったら園田辺りが連絡してくるだろうし、なんのアトラクションをするか調べながら、ゆっくり待っていよう。
「おーい!剣持くーん!」
「え?」
だから正面から高坂の声が聞こえた時は驚いた。声の方向を見ると、こちらにブンブンと大きく手を振る高坂の姿が見えた。その後ろに同じく手を上げながら近付いてくる南、ぺこりと頭を下げる園田の姿も見えた。
「?どうしたの剣持くん?」
「いや、何でもねぇ……」
いや、何でもねぇっていうか……。時計を確認したが、俺がここに着いてから5分くらいしか経っていないことに驚きを隠せなかった。あの高坂が、遅刻しなかった……だと……?まさか今日は雪でも降るのか!?
「やっぱり驚かれましたか……」
「そりゃあ……そうだろ。だってあの高坂が遅れてこなかったんだから……」
はあ、と俺の反応を予想していたらしい園田が溜め息をつく。実際、俺は今目の前にいるのは高坂によく似た偽物なんじゃないかと疑ってるくらいだからな。
「えー!二人とも酷いよ!私だっていつも遅刻するわけじゃないもん!」
「それは一回でも定刻通りに来たことがある奴がいう台詞だ」
「確か雪穂に起こしてもらったと言ってませんでしたか?もう、いい加減自力で起きられるようになってください。いつまでも誰かが起こしてくれるわけではないんですから!」
「なんだ。やっぱりいつもの高坂だったか」
「えーん!ことりちゃーん!海未ちゃんと剣持くんがいじめる~」
「まぁまぁ2人とも、あんまり穂乃果ちゃんをいじめちゃ駄目だよ」
いつも通り、園田が高坂を注意し、南がそれを止めるという一連の流れ。……しかし困った。予想通りの事態になりそうだ……。
「どうしたの剣持くん?忘れ物でもしたの?」
「いやいや別に、何もねえよ」
不安を顔に出してないつもりだったんだがなぁ。意外と鋭い奴だな高坂のやつ。
さて、俺が何に対して困っているかについてだが、賢明な人には分かるだろう。それは、
3人が可愛いということだ。
それの何が問題なのか、可愛いのは今更だろうと思われるだろうが、よくよく考えてほしい。
μ’sはまだまだ駆け出しなのは間違いない。ランキングだって少し上がってきてはいるがまだ下から数えたほうが早いくらいだ。
だが例のファーストライブの映像、俺達が撮ったのとは別の映像がサイトにアップされてからと言うもの、少なくとも校内でのμ’sの知名度は上がった。おかげで学年問わず声をかけられ、応援の言葉をよく貰うようになったと高坂達から聞かされた。
マネージャーとしてはとても喜ばしいことなのだが、同時に悪い虫が寄ってこないか不安になる時がある。
特に高坂。あいつははっきり言って天然タラシだ。距離は近いはどんな奴にも溌剌とした特大スマイルを向け、明るいポジティブ発言と新鮮な反応、必殺「ファイトだよ!」を食らえば誰もが轟沈不可避だ。男ってのは馬鹿なもんで、「あいつ俺に気があるんじゃね?」とか言うのをクラスの男子の何人かから相談された時は頭を抱えたくなった。
それに園田も自信がないからなのか何なのかそう言うのに疎い。真面目で凛とした姿勢は男女問わず憧れの的だ。厳しいところもあるが基本的に優しい奴だし。
南も可愛い仕草や脳溶けボイスで骨も脳も溶かされた馬鹿野郎は数知れず。柔らかい物腰と人当たり、女の子らしい趣味も多く持ってるのも、男を惹きつける要因になってるんだろう。
そして今回は、彼女達の個性が現れる私服姿だ。彼女達の魅力が十二分に発揮される姿だ。
まず高坂のコーディネート。
グレーのパーカーに赤のチェック柄のスカートというシンプルなコーディネートだ。パーカーには「LOVE」と白抜きでプリントされており、左手首にオレンジのシュシュを付けている。
次に南はというと白いロングスカートのワンピースに緑のカーディガンを羽織っている。白い少し大きめのバッグを持つ姿はラフだがお嬢様っぽい感じだ。左手首には高坂と同じく白いシュシュを付けている。
最後に園田だが、袖にレースのついた白いシャツの上に淡い青系色の上着、同じく青い色のスカートで、スカートの下から黒タイツが見えブーツを履いている。左手首にはやはり青い色のシュシュを付けている。
それぞれの個性が出ている良いコーデだ。これでこいつらに彼氏がいないのが不思議だ。
「どうかしたの剣持くん?」
「ん、ああ。いやー3人ともなかなか似合ってんなーと思って」
「エヘヘ、いいよねこの服。ことりちゃんが選らんでくれたんだ!」
「成る程、てことはそのシュシュは……」
「これは穂乃果ちゃんのアイディアなの。3人お揃いで、私もお気に入りなの」
「いいでしょー!」
「はいはい、ご馳走さまです」
満面の笑顔で自慢げに話す高坂。南も園田も満更でもなさそうに微笑んでいる。まったく、どんだけ仲がよろしいのやら。まあ、いいか。
「そうだ。今日の記念に写真撮っとくか。ブログにもあげたいし」
「ええ!?しゃ、写真ですか!?」
「いいじゃん海未ちゃん!ことりちゃんも撮ろうよ!」
「うん。じゃあ剣持くん、お願いします」
「はいよ。バッチリ撮ってやるからな」
イエーイとVサインをこちらに向ける高坂、左で南も両手でVサインを作り、右で園田も恥ずかしげに小さくVサインを作る。
カメラのシャッターを切りながら、俺は改めてこの3人にもしもの事がないようにしなければと強く思った。
高坂達に今日という日を楽しんでもらう。
寄ってくる悪い虫からこいつらを守る。
両立しなきゃなんねえのが、マネージャーの辛いところだ。
ま、完璧にこなしてみせるがな。
☆☆☆☆☆☆★★
「やーん♡可愛いー!もふもふ~♡」
遊園地に入って早速お出迎えしてくれたのは、雲のような羊のようなマスコットだった。
「お前らも入るか?」
「いえ、ことりだけ撮ってあげてください」
「分かった。おーい、南。はい、チーズ」
マスコットに抱きつく南の姿をパシャリと写真に収める。抱きつかれながらもカメラ目線でしっかりポーズを取るあたり、流石遊園地のマスコット。慣れたもんだ。
「それで最初はどこ行こっか?やっぱり定番のジェットコースター?」
「(!)それだったらゴーカートなんてどうだ?ここのゴーカートはコースが広くてタイムを計ってるらしいぜ。タイムが早かったら景品もあるらしいから人気みたいだ」
「ゴーカートかぁ。よーし!じゃあ2対2に別れて競争しようよ!」
「うん、面白そうだしやってみよう!」
「私も良いと思います。剣持くんも良いですよね」
「へ?あ、ああ、うん。良いぜ」
まず最初のアトラクションは高坂の提案によりゴーカートでの2対2のレースが決定した。
……でも驚いたな。俺も数に入ってたとは。コースの外で3人の写真でも撮ろうかと考えてただけに、ちょっと面食らった気分だった。
受付を済ませた俺達は早速チーム分けを行った。俺と組む奴を決めるため、高坂達3人でじゃんけんを行った。その結果、
「よーし!頑張ろうね海未ちゃん!目指せ、タイムスコア1位!」
「ええ、応援してますよ穂乃果。ことり達も頑張ってくださいね」
「南、俺が運転変わろうか?」
「大丈夫!穂乃果ちゃんには負けないよ!」
高坂と園田、俺と南のチームに別れた。運転手は高坂と南だ。俺達は青いカーに、高坂達は赤いカーにそれぞれ乗り込んで、スタートラインに着く。スタートシグナルが点灯する。赤、黄、そして……。
「いっくよー!」
「ゴー!」
「ちょっと穂乃……ッ!?」
「あぶッ……!!」
青いシグナルが点灯した瞬間、高坂と南は思いっきりアクセルを踏み込んだ。風を切りながら周りの風景が歪む。っていやいやいやいや!なんで遊園地のアトラクションがこんな殺人的な加速してんだよ!誰だこんなもん用意したの!?
「ブレーキ!南!ブレーキ!アクセル踏み過ぎだ!」
「大丈夫!ちゃんとカーブは曲がれるよ!」
「そういう問題じゃ、おげっ!?」
急ハンドルを切り、カーブを曲がる。遠心力でシートに叩きつけられて俺は潰されたカエルみたいな声をあげる。なんでこんなに攻めていくんだよ!?
「ちょっ!?南!おま!ちゃんと運転できんのかよ!?」
「ハンドルにAボタンとBボタンはないけれど、テクニックなら穂乃果ちゃんには負けないから!」
「それ絶対ダメなパターンじゃねえか!?」
コーナーに差し掛かるたびに火花が散りそうなくらいとんでもないカーブをしまくる南。そのたびに俺は振り落とされないように身を屈める。ガッツンガッツンドアに身体を打ちつけられ、Gがかかって胃がひっくり返りそうになるのを感じながら、同じ状況であろう園田の悲鳴を耳にした。
そして最後の直線コースに差し掛かると、南は限界への挑戦とばかりに更に加速をつけた。
「さあ!全て、振り切るよ!」
「振り切らないでくれ!」
そして、
「やったー!勝ったよ剣持くん!」
「う~、悔しい~!もう一回!もう一勝負!」
「「二度とやらせるか(やらせません)!!」」
絶望が、俺達のゴールだった。
☆☆☆☆☆☆★★
「♪~」
「……嬉しそうだな、南……」
「うん!もふもふで可愛いし、皆でお揃いだから!」
「私達も貰えるとは思いませんでしたね」
「ホントに楽しかったねー。ねーまたやろうよ~」
「ダメだ!」
「ダメです!」
ゴーカートで両チーム共に記録を更新した俺達は、景品として先ほどの羊みたいなマスコットのキーホルダーを貰った。モコモコとした手触りで触っていると癒される。南もお気に召したようだし、酷い目にはあったけど良かった良かった。帰ったら麗火にからかわれるか?
「次はあれにしませんか?ちょっとゆっくりしたものに乗りたいです」
園田が指し示した先にあるのは、メリーゴーランドだった。
「おーい剣持くーん!イエーイ!」
「OK高坂ー。園田ー。こっち向けー」
「わ、私は良いですから!」
「海未ちゃん、ほら一緒に撮ろ?それならいいでしょ?」
「うー……」
俺は3人が馬に跨がっているところを撮影する。高坂はノリノリでカメラにVサインを向ける。その少し後ろで園田と南が併走する二頭の馬に乗っている。園田はまだまだ恥ずかしそうだな。まったく、ファーストライブの時はカメラを気にせず歌えた癖に、まだ恥ずかしいのか。やれやれ。
「あのー……」
「はい?」
3人を撮っていると、不意に一組のカップルが声をかけてきた。
「すいません。2人でメリーゴーランドに乗ってる写真撮ってくれませんか?」
「?……ああ、はい。分かりました。良いですよ」
一瞬、なんの事かと思ったら、そういえば今、園田達が乗っている二頭の馬にカップルで乗ってるところを撮ってもらうと結ばれるというジンクスがあるんだっけか。……園田達が今乗ってるけど、同性同士だと、どうなんだろうか?
「ありがとうございます!」
「良かった~」
カメラを受け取ると、嬉しそうに笑い合うカップル。うーん、このリア充オーラ……。
……いや、確かに美少女3人と遊園地とか麗火や非モテの友人たちが聞いたら『ふざけんな勝ち組リア充!裏山けしからん!爆発しろ!』とか言われるだろうが、考えてほしい。
美少女3人と野郎一人というこのものすっごいバランスの悪い組み合わせ。
ぶっちゃけると、気まずいです。
3人が仲良く話しているとかなり疎外感というか蚊帳の外というか……。
その割に時々話を振られたりするし、話題を提供しなければならないこともあるので聞き流している訳にも行かないしな。
……まあ、俺自身さっきからあいつらの邪魔しないように三歩後ろで周りを警戒しながら(勿論あいつらに気付かれないように表情にも出してないけど)だから、こうなるのも仕方ない。それにこういう状況なら慣れてる。クラスメートとは初めてだけどな。
話を戻そう。
俺はカップルの撮影をするためカメラを構えようとした時だった。
「すいません。俺達も撮ってもらって良いですか?」
「いいですよ」
別のカップルが声をかけてきた。俺はすぐにそのカップルのカメラを受け取る。すると、
「すいません!私達も良いですか?」
「はい。大丈夫ですよ」
「写真お願いしまーす」
「はい。分かりました」
「あ、あの!写真撮ってください!」
「はい。カメラ貰いますね」
「すいません。ワシらも撮ってくれますか?」
「はい。お孫さんも一緒に撮られますか?」
「Hey,boy?Would you please take a picture of us?(ねえ君?写真を撮ってくれない?)」
「OK.えーと、確か英語で……り、Leave it to me.(任せてください)」
という具合に次々と写真撮影を頼むカップルが声をかけてきた。
そして、
「……剣持くん、あとどれくらいかかりますか?」
「ごめん、あと5人くらいだから待っててく「お兄さーん!うちらのも撮ってーな」はい。少し待っててください」
結局30組くらいのカップルの写真を撮ることになった。
☆☆☆☆☆☆★★
「わー!見て見て!あそこ!パレードやってるよ!」
「もう既に凄い人の量ですね」
高坂が指差した先には、遊園地自慢のパレードが大通りに差し掛かったところだった。既に見物客で人の壁ができていた。
「きゃ!」
「おっと」
ドン!と南が人にぶつかり倒れそうになる。俺はすぐに腕を掴んで南を引き上げる。しかし鞄までは庇えず、ドサッと落としてしまった。俺は拾い上げて南に渡した。
「大丈夫か南?怪我はないか?」
「う、うん、大丈夫。ありがとう剣持くん」
「人が多くなって来てますし、どこか落ち着けるところを探しましょう」
「そうだな……ちょっと迂回してパレードの前で待つほうが良いかもしれないな」
俺達は人混みをさけながら、パレードのルートを先回りした。
それでも人混みは少なくならず、なかなかパレードを見れそうなところを発見することは出来なかった。
…………………。
「いっ!?」
「お兄さん、ちょっと良いですか?」
俺は、園田の後ろにいたお兄さんの手首を掴むと思いっきり握りしめた。俺はそのまま少し引きずるようにお兄さんの腕を引っ張りながら併走する。
「お兄さん、今何してたの教えてくれませんか?」
「な、なんのこ……」
「いやー、パレード撮ろうしてたらお兄さんが写っちゃったんですよ。これ、ブログにあげようと思ってるんですよ。流石に無断であげるのは駄目かなーって思ったんですが、あげられるの嫌ですよね?」
と言って俺はチラチラとスマホをお兄さんに見せる。すると、お兄さんはみるみる青ざめ始めた。
「それでお兄さん。あんた、園田……彼女の『スカートの中』に『スマホを向けて』、何を『しよう』としてたんですか?」
「…………………………………………」
「……もしも、俺の思ってる通りなら……」
俺はお兄さんに近づいて耳元で、お兄さんにしか聞こえないような低い声で囁く。
「どうなるか、分かってんだろうな」
「剣持くーん、どうしたのー?」
高坂が声をかけてきた。少し距離が空いてしまったので心配させたらしい。
「このお兄さんに道聞いてたんだよ。じゃあお兄さん、分かってますよね?」
「!」
そう言いながら手首を掴んでいる手にギュッと力を入れると、お兄さんは高速で首を縦に降り続けた。それを確認すると俺は手首を離して高坂達に近づいた。
「どうもこの先、まだまだ人混みが続いててパレードがちゃんと見えないらしいぜ。だからさ、今の内に他のアトラクションか、それか昼食でも食べに行かないか?今ならどこも空いてるだろうし。パレードは夕方にもあるだろうし」
「えー、そうなんだ。ちょっと残念」
「仕方ありませんね。時間も丁度良いですし、ご飯にしませんか?」
「そうだね。私もちょっと疲れちゃった」
と言うことで、俺達は人混みから離れ、昼食を食べにフードコートに行くことにした。
俺はその前にチラリと先ほどのお兄さんのほうを見た。目があった途端、お兄さんはダラダラと脂汗を流しながら青ざめて震えていた。ちょっと殺気を込めながら笑顔で会釈しただけなのに蛇に睨まれた蛙みたいになってたのはなんでだろうなー。遊園地でそんな怖い思いするはずないのになー。
ちなみにお兄さんの写真を撮ったというのは俺の思い違いだったらしい。いやー、良かった良かった。
☆☆☆☆☆☆★★
昼食を済ませた俺達が次に訪れたのは、お化け屋敷だった。実は個人的に今回一番行きたかったアトラクションだ。
「剣持くん、先ほどから悪そうな顔してますが何を考えているんですか?」
「いやいや別に」
ただ、屋敷に入ったところでホットドッグ入れてた紙袋を後ろでバンッてしたら園田とかどんな驚き方をするかなーって思ってワクワクしてるだけだよ。
最近、μ’sのメンバーにイタズラするのが、俺の中での密かなブームだったりする。ちょっと前に星空と一緒に園田と西木野に押すと静電気が流れるペンでイタズラした時の反応は本当に傑作だった。
星空と腹が痛くなるほど笑い転げてたら一時間正座させられたけど。
他にもびっくり箱とか上からおもちゃの虫とかのイタズラを星空と一緒に仕掛ける事があるが、そのたびに園田や西木野、小泉ちゃんとかはもうそれはそれは良い反応するから止められない止まらない。だから今回もお化け屋敷の暗さとかを利用してイタズラするつもり、だったのだが……。
「……もし何かイタズラしてきたら本気で怒りますからね。背後で大きな音とか、やめてください」
「そんなことしねえよ」
チッ、ばれてたか。鋭い奴め。
「ひゃあああああああああっ!?」
「きゃあああああああああっ!?」
「ひいいいいいいいいいいっ!?」
「ブフッ!クッ!……ククククク!フフフフフ……!」
あー、やっぱり面白すぎだろ園田の奴。期待通りの反応に、俺は満足していた。
ゴーカートの時と同じく、今回も2人1組に分かれることになった俺達。
じゃんけんの結果、俺と園田、高坂と南のペアになった。
お化け屋敷に入るまではこちらのイタズラを警戒しているのか、チラチラとこちらを伺いながら進む園田。そして入ってからはお化けがでるたびにナイスリアクションをしてくれる。
正直ここのお化け屋敷のお化けや仕掛けの完成度は高く、俺もさっきからしっかり驚いているのだが、隣で大騒ぎしてくれるもんだからこっちも冷静になれる上、反応に腹筋が刺激されて本当に愉しすぎる。
流石に腰抜けそうになっててちょっと可哀想なので声をかけてやるか。
「園田、大丈夫か?」
「え、ええ……だ、大丈夫です……ですのでその満面の笑みを止めてください!」
「あ、すまん」
ニヤニヤ笑ってる頬を抑えながら、園田の様子を確認する。
ブルブル生まれたての小鹿みたいに震えているし青ざめた顔をしている。幸い、まだ歩けるくらいの余裕はあるらしいが……。
「園田、リタイアするか?怖かったら係りの人呼べば帰れるぞ」
しかし園田は予想に反してブルブルと首を振る。
「こ、これくらい大丈夫です!さっ!ほ、穂乃果達が待ってますから!先に進みま……きゃあああああああああっ!」
「おっとと」
先に進もうとした園田の前にろくろ首がニョロニョロと長い舌を出しながら現れたから、園田は悲鳴をあげながら転けそうになった。俺は慌てて園田を支える。細い肩だが、女の子らしい柔らかさを持っている。長い黒髪からはなにやら甘い香りが漂う。うーむ、なかなか魅力的な状況だが早く離れてやらんとな。
「あ!あわわわ!ご、ごめんなさい!」
「いや、こっちこそすまん」
俺に支えられていることに気がついたのか、顔を真っ赤にして大慌てで俺から離れる園田。うーん、失敗したな。気をつけてたのに。
「ごめんな園田」
「な、なんで謝るんですか?今のは、その、私の方が悪いのに」
「……園田ってさ、ぶっちゃけ男苦手だろ。正直、今の状態とか、肩触られんのとか抵抗あるだろ?」
「!」
「別に責めてるわけじゃねぇよ。俺は気にしてないし」
言い当てられて驚いた顔してるけど、お前ほど分かりやすいやつもそうそう居ないぞ?園田が俺に話しかけてきたりするのって大体近くに高坂か南がいる時だけだし、そうじゃない時は微妙な距離をとる。麗火が写真撮りたいって声かけたときも一目散に逃げ出したらしいし。
だからお化け屋敷に入る前、俺一人と3人に別れようかと提案したのだが……。
「ホントは高坂達と一緒に行きたかっただろ?なのになんであん時……」
俺の意見に真っ先に異を唱えたのは高坂ではなく、意外なことに園田だった。そして3人に反論され、今のグループになったのだ。
「……確かに私は男性とあまり接する機会が有りませんでしたから、その……苦手意識が有るというか、ひゃうううううううっ!」
「おおっ!?」
上からミイラが宙吊りで現れ、俺も園田もびっくりして後ずさる。うーお、怖ぇぇっ!流石に今のは油断してた。完成度高いなこのミイラ。今度やってみよ。
「と、とにかく!男性のことは苦手です。ですけど!だからといって、剣持くんを仲間外れにするようなことはしません!」
暗がりだが、園田がこちらを向いて僅かに怒りの表情を見せているのが分かった。恐怖で涙目になってるのも見えた。
「……だって、少なくとも私達は、剣持くんもμ’sの仲間だと思っています。だから、あまりそのように私達から離れるようなことはしないでください。そのほうが、私達は悲しいです」
「……すまん。気が利かなかったな」
まさか、園田からそんなことを言われるとは思っても見なかった。いや、園田達がそんな風に思ってること自体、俺は気付きもしなかった。どおりであの時、こいつらが怒った顔をして反論してきた訳だ。ああ、なんつーか、恥ずかしいなぁ。
「悪かったよ。もうあんなこと言わないよ」
「分かってくれたなら良いんです。さあ、早く進みま、ひゃああああああっ!」
「ブフッ!」
でもやっぱり見てて愉しすぎるぜ、園田のリアクション!
☆☆☆☆☆☆★★
さっき、もうあんなこと言わないと言ったな。
あれは嘘だ。
「いやあのホント勘弁してくれませんか?俺だけ下で待ってるんで」
と言うか帰っていいですか?
「「「ダメ(です)」」」
「ウワアアアアアアアア!!」
俺は断崖絶壁から真っ逆さまに落ちたような悲鳴をあげる。いや、その恐怖への階段を上がっている真っ最中だった。
お化け屋敷を終え、次に俺達が向かったのは、ジェットコースターだった。
「いやあのジェットコースターは止めて他のにしないか?」
俺がそう言うと、
「えー、でも遊園地に来たのにジェットコースター乗らないのは遊園地に失礼だよ!」
「いや遊園地に失礼ってなんだよ初めて聞いたよそんなの」
「大丈夫だよ。ここのジェットコースターそこまで長くないよ?」
「いや俺にはかなりの大きさに見えるんですが南さん」
「先ほどと同じことを繰り返す気ですか?」
「いやそれとこれとは違うと思うんだ」
くそ!いっつもイタズラしていることに対する意趣返しか?嫌がらせか?と疑ってしまう程、俺の心は荒み始めてきた。
昔、母親と乗ったことがあるのだが、あの時の尻が浮いてそのまま吹っ飛ばれそうな浮遊感、あの下に叩き落とされるような感覚、そして隣で怖がる俺を指差して爆笑する余裕そうな母の笑い声が、俺は完全にトラウマになっていた。いや最後のはジェットコースターと言うよりあの人の苦手なところの一つだけど。
仕方ない。ここは隙をみて逃げ出すか。
「おい見ろよ。あそこの子達可愛くね?」
「だな。声かけてみようぜ」
「あ、やっぱり行きます。ジェットコースター超乗りてぇ」
と、少し離れたところにいるチャラ男達の話し声が聞こえたので、つい言ってしまった。あのチャラ男どもめぇ……今度見かけたら絶対に許さねえ。いや、こいつらにちょっかいかけようとした時点で十分に駄目だが……。
「ううっ!?」
「な、なんか寒気が!?」
そして待つこと1時間ついに俺達の番になってしまった。
「一番前かよ!」
なんてこった!ジーザス!なんだってこんな悪魔の乗り物の一番危険なところなんだよ!
「剣持くん大丈夫?やっぱり止める?」
「いいいいいいいいやややややや!こここここまで来たんだ……だだだだだ大丈……夫ゥッ!?」
う、動いたああああああ!動き始めたあああ!
「やっぱ無理!無理無理無理無理!帰る!降ろして!降ろして!!」
「わわわ!危ないよ剣持くん!落ち着いて!」
「落ち着いてられるか!落ちるんだぞ!?あ!ヤバい!上来た!!ああ!!!」
以下、音声のみお楽しみください。
「ああああああああああああああああ!!!!怖いいいいいいいいいい!!!!」
「イヤアアアアアアアアアアア!!!!」
「帰るううううううううううう!!!!帰らせてえええええええええ!!!!」
「ぎゃあああああああああああああ!!!!」
☆☆☆☆☆☆★★
「剣持くん、大丈夫かな?」
「………………………………………………」
「私とことりで何か飲み物買ってきますから、ここで待っててください。穂乃果、任せましたよ」
「………………………………………………」
「うん!任せて!いってらっしゃーい」
「………………………………………いってらっしゃい……………………………」
………………………………………。
はっ。俺今まで何してたっけ?なんでベンチで座ってんだ?
「剣持くん?ずっと遠い目をしてて全然反応しないから心配だったんだけど、大丈夫?」
「……高坂?あれ、おかしいな。さっきまで俺じいさんと川のほとりで花摘んでたのに」
「剣持くんしっかりして!かなり危ないの見えてるよ!?」
いかんいかん。あまりの恐怖で見てはいけない夢の扉を開いていたらしい。高坂に肩を掴んでガクンガクン揺らされる。
「大丈夫だ。もう心配ないって。あれ?この遊園地って死神みたいなマスコットいたっけ?」
「剣持くん!」
「おぶっ!……すまん、今のは冗談だよ」
「質の悪い冗談は止めようよ!」
高坂から思いっきり平手打ちを食らったが、まあ、冗談言えるくらいには回復してきたな。ところで今、頭に輪っか付けてた白い服のおばさんに舌打ちされたんだけど、俺何かしたか?
「園田達は……飲み物買いに行ったんだっけ?」
「そうだよ。もうすぐ来るんじゃないかな?」
そうか。あー、しかし怖かったなぁ。やっぱりあんなもの乗るもんじゃないな。誰だよあんなもの開発した馬鹿わ。もう一生乗らねぇ。
「ふふふ」
「?何だよ?」
「剣持くんにも弱点有るんだなぁって思ってさ。ほら、いっつも私達にお菓子作ってきてくれたり、私達の練習とかも見てくれるし、よく色んな人のお手伝いしてるし、勉強も結構出来るし、苦手な事とか無いのかな~って思ってたから。あんなに怖がる剣持くん初めて見たよ」
「いや俺にだって苦手なもんは有るぜ?勉強だって数学は苦手だし、絵を描くのも苦手だな」
「そうだったんだ!……ねぇねぇ剣持くん、もっと剣持くんのこと教えて!」
「あ?何で?」
「だって私達、剣持くんのことあんまり知らないもん。誕生日とか好きなこととか、趣味とか!ね?良いでしょ?」
「……じゃあ俺の質問にも答えてくれ」
「?」
「何で今日、俺のこと誘ったんだ?別に一枚余ったからってそんなもん別に捨てても良いだろ?それに他にも誘える友達とか、一杯いただろ?」
俺はずっと感じていた疑問を高坂にぶつけた。
最初は荷物持ちか何かで呼ばれたんだと思っていた。誰か荷物を持ち運ぶやつが必要だからだと。でも、あいつらはそんなことせず、俺とアトラクションを楽しもうと積極的に参加させようとしてた。実際俺も、お化け屋敷あたりから普通に楽しむようになってきていた。
だからこそ、何で俺を誘ったのか、分からなかった。何故俺だったんだ?
「誘った時、私、最初に言ったよ?私達、もっともっと剣持くんと仲良くなりたいって」
そんな俺の疑問に、高坂は屈託のない笑顔で、当たり前のように答えた。
「剣持くんって、なんて言うか、私達から一歩引いているよね。今日もずっと後ろから付いてきてたし」
「そりゃあ、俺はμ’sのマネージャーだからな。お前らになんかあったら大変だから」
「うーん、気遣いは嬉しいんだけどね?私達は剣持くんのこと、マネージャーで、それから友達だって思ってるんだ」
友達。園田も同じようなこと言ってたな。μ’sの仲間だって。
「私ね、剣持くんのことが知りたいの。いっつもマネージャーとして助けてくれてるのに、友達なのになんにも知らないから。ジェットコースターが苦手なのも、今日初めて知ったみたいに、剣持くんのことが知りたいの。それにね、剣持くんと遊べたら、きっと楽しいと思ったから!だから今日、剣持くんのことを誘ったの!剣持くんと、一っっっ杯楽しい思い出作りたかったから!」
「…………」
「あ、も、もしかして迷惑だった!?だからこんな……」
「いやいや違うって」
……ただ、そうだな……。
「我ながら、めっちゃくちゃダッセぇって思ってただけだよ」
こんな、女の子達に気を使われていて、その癖勝手に守ってるつもりでいたことが。こいつらがこんなに考えてくれてるってのに、そんな気持ちに気付きもしなかったことが。
あーあ、ダッセぇしちっちゃいなぁ、俺。
全く、こいつらには適わねぇな。
「……ありがとな、高坂」
「エヘヘ、どういたしまして。あっ、そうだ!」
「?」
「名前!」
「は?名前?」
「うん!友達なのに何時までも名字呼びはなんだか変だって海未ちゃん達と話してたの。だから、今度から名前で呼んでよ!私達も名前で呼ぶから!」
「……今のままじゃ駄目か?」
「駄目だよ!さぁ、私の名前、呼んでみて!」
そう言うと、手を広げて期待に満ちた目で俺に呼ばれるのを待つ高坂。
……仕方ない。呼んでみるか。
「えーと、高坂……じゃ、無くって、えっと」
うわ!なんか恥ずかしいなこれ。今更感も半端じゃないな。だ、だが覚悟を決めろ俺!ここで引いたら男が廃る!
「ほ、えっと、ほ、ほ、ほの、ほの……」
その時、
「ほ、穂乃果ちゃーん!剣持くーん!」
「ど、どうしたの?海未ちゃん、ことりちゃん」
大慌てで走ってくる2人。明らかに尋常じゃない慌てようだった。
「あ、あの、私のキーホルダー、知らない?」
「キーホルダーって、あのゴーカートのか?」
確かあれ、鞄に入れてなかったか?
「先ほど飲み物を買いに行ったとき、ことりの鞄の中に無かったそうです」
「すぐに探しに行こう!良いよね剣持くん!」
「ああ、手分けして探せば見つかるはずだ」
「もうすぐ夕方ですね。パレードの前に見つけましょう!」
☆☆☆☆☆☆★★
「剣持くん、見つかった?」
「いや、まだだ。そっちにも無かったか」
「うん……見つからなかった……」
俺は今、昼間パレードがあった大通りに来ていた。キーホルダーを落としたとしたら、昼間に人とぶつかったあの時が一番可能性がある。あの時、鞄も落としたし、その拍子に鞄からでたのかもしれない。とは言え、大通りは広いうえに人通りが多い。それに他の所に落としていないとは言えないので、他のところを3人に任せていた。
「他の2人は?」
「穂乃果ちゃんがこっちに向かってるって言ってた。海未ちゃんはもう少しお化け屋敷の方を探すって言ってた」
「そうか」
となると尚更ここらへんに有る可能性が有るな。
「私もここら辺探してみるね」
「ああ、じゃああの屋台の近くを頼む」
既に探し始めて一時間くらい経つ。少しずつだが日が傾き、園内は黄昏色に染まり始める。もう少ししたら夕方のパレードが始まる。そうなればまた人通りが増えて探すことが出来なくなる。急がなくては。
「……………ごめんね、剣持くん。探すの手伝ってくれて」
「うん?」
不意に謝罪の声が聞こえてきた。本当に申し訳ないという罪悪感が、その声から感じられた。
「あの時、剣持くんが支えてくれたのに、私が落としちゃって……そのせいで穂乃果ちゃん達にも迷惑かけちゃったし……」
「……それはお前のせいじゃないだろ。それに、探すのなんて当たり前だろ?」
「え?」
「俺はお前らのマネージャーで、それから友達、だろ?友達が困ってんなら助けるのは当たり前だし、迷惑なんざ今更どんなにかけられたってどうってことねぇよ」
今日1日で痛感させられた。俺はこいつらの気持ちを、まだまだ理解できていない事を。どんなに危険から守れても、どんなに悪い虫を追い払っても、こいつらの思いを汲み取ることも出来なくちゃ、とてもマネージャーなんて言えない。だから、俺は探す。それが、マネージャーとして、友達としてしなくちゃいけないことだと思うから。
「……剣持くん」
「心配すんな。必ず見つけるよ。それに俺、こう見えてよく物探しとか人探し頼まれることがあるから慣れてるんだよ、こういうの」
「……うん!ありがとう!」
「お礼は早いぜ。まずは、キーホルダーを見つけてからだ。早く探そうぜ」
「うん!よーし、頑張ろー!」
その後、残りの2人も合流し、4人で手分けして探すこと約30分。
「あ、あったぞ!見つけた!」
ついに俺はキーホルダーを見つけることが出来た。蹴っ飛ばされたりしたせいか、埃まみれで道端に転がっていたが、どこも壊れていない。モフモフの手触りも失われていないよいだ。
「良かったー!何とかパレードまでには見つかったね!」
「一時はどうなるかと思いましたが、良かったですね、ことり」
「うん!穂乃果ちゃん、海未ちゃん、それから剣持くんもありがとう!」
「ああ、良かったな」
4人で喜びあっていたその時、
『レディースエーンドジェントルメン!本日は当遊園地に来園していただき、ありがとうございます!間もなく、トワイライトパレードが始まります!皆さんぜひ楽しんでいってください!』
という園内アナウンスが流れた。既に大通りには多くの人が集まっている。俺達は慌てて道の端に移動する。暫くすると、楽しげな音楽とともにパレードがやってきた。
「うわー!すごいすごい!」
「綺麗……!」
「壮観ですね、これは!」
「ああ!こいつはすげぇ!」
黄昏から、少しずつ夜の帳が落ち始める園内。その中で色とりどりの電飾で飾られた大きなバルーンやパレード車の群。その光の中でマスコット達や踊り子達が音楽に合わせて飛んだり跳ねたりと踊っている。手を振る人達にマスコット達も精一杯手を振って応える。そのたびに歓声が上がる。
どこか幻想的なパレードはゆっくりゆっくりと進んでいく。いつまでもいつまでも、俺達を魅了し、夢の世界とも言われるのも頷けた。
日が落ち掛けている中、その光の行進を、俺達はいつまでもいつまでも見続けていた。
☆☆☆☆☆☆★★
「あー!楽しかったー!」
「凄かったねあのパレード!噂には聞いてたけど本当に綺麗だったね!」
「ええ、アトラクションもどれも楽しかったですし、また来たいですね」
パレードを見終えた俺達は一年生のためにお土産を買って遊園地の出口に向かっていた。3人は先程のパレードの興奮が醒めていないらしく楽しそうに感想を言い合っている。
その姿に、俺は口元が緩むのを抑えられなかった。やっぱりこの3人が一緒にいる姿が一番良いな。多分、俺はこいつらが一緒にいるのを見るだけでも満足なんだろうな。
3人が並んで笑いあっている。それを見ているだけで、俺は嬉しかった。
「ねぇ、剣持くん!今日はどうだった?」
「私達と一緒で楽しかった?」
「ああ、勿論。本当に今日は楽しかったぜ」
「良かったぁ!やったね海未ちゃん!ことりちゃん!『剣持くんと仲良くなろう作戦』!大・成・功!」
「なんだそのまんまな捻りのない作戦名」
「えー。いいじゃん、本当に仲良くなったんだから!」
「剣持くんのこと、色々知ることも出来たしね」
「最後の方も助けてくれましたし、ありがとうございます剣持くん」
「……あー、えっと、あのさ……こんな時になんだけど……」
「「「???」」」
「高坂に言われてたことなんだけど、今度からお前らのこと名前で呼ぶからさ、俺のことも『真琴』って、名前で呼んでくれないか?もしくは、親しい連中は皆、『まこ』って呼んでっからそっちでも良いんだけどさ」
俺は頭を掻いて恥ずかしさを紛らわせ、深呼吸してから3人に改まって声をかけた。
「穂乃果、海未、ことり、今日は俺を誘ってくれてありがとう!これからもマネージャーとして、それから、友達としてお前らのこと、支えていくから。迷惑かけるかもしれねぇし、情けねぇ野郎だけど、これからも頑張るから。改めてよろしくな!」
「うん!もちろん!これからもよろしくね!まこくん!」
「私達こそ迷惑かけちゃうかもしれないけど、よろしくお願いします。まこくん♪」
「ええ、これからも仲良くしてください。真琴くん」
「よーし、じゃあ最後に皆で記念撮影しようよ!」
「分かった。じゃあ3人とも並んでくれ」
「もう、まこくん?まこくんも一緒に撮らなきゃ意味ないよ?」
「そうです。真琴くんも一緒に撮りましょう!」
「え?で、でも誰が撮るんだ?」
「あれ、マスコットのわたモフくんだ。どうしたの?」
「え?カメラを指差して、何を……。も、もしかして撮ってくれるんですか?」
「(・ω・)b」
「本当!?じゃあお願いします!ほらほらまこくん!くっついて!」
「ええ!?ちょっ、流石に恥ずかしいんだけど!?止めろってこう、じゃない!穂乃果!」
「良いから良いから!じゃあいくよ!1足す1はー?」
「「「「にー!!!!」」」」
☆☆☆☆☆☆★★
「このビスケット美味しいにゃ~」
「こっちのチョコクランチも美味しいよ凛ちゃん。はいどうぞ」
「へぇ、楽しそうね。良かったわね、4人とも」
「うん!だから今度は皆で行こうよ!絶対楽しいよ!」
「そうだね。またゴーカートに乗りたいね」
「ことり、もうそれは良いですから」
月曜日になり、俺達は練習後に一年生達にお土産を渡した。
やはりお菓子は当たりだな。小泉と星空も気に入ってくれたみたいだ。西木野は先程から写真を興味深そうに見ていた。
「先輩!被ってみました!どうですか!?」
「「「「「「「ブハッ!!!!」」」」」」」
飛鳥にはマスコットのフードを買ってきたが、いやはやなかなかの破壊力だ。
ガタいの良いでかくて彫りの深い顔の男がモコモコファンシーな被り物をしているというのは、物凄いシュールな絵だった。しかも制服でなんかポーズを決めているのが更に面白すぎる。
「あ、そうだ。まこくん。今度買いたいもの有るから、また4人で買い物いかない?また日曜日に!」
「ああ、良いぜ。今度はどこ行くんだ?」
「今度はねー……」
俺は、これからも穂乃果や海未やことり、それに小泉や星空や西木野を支えていきたい。それは、マネージャーとして、というのはもちろんだけど、今度はこいつらの友達としても、支えていきたいと思っている。そんな新しい思いを抱きながら、次の日曜日を心待ちにしていた。
はやく、次の日曜日にならないかなぁ。