ラブライブ!+フォース    作:愚民グミ

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~前回のラブライブ!+フォース~

 二年生で遊園地に行くことになり、剣持先輩と穂乃果先輩、海未先輩とことり先輩は3人で遊園地に行ってきた。

 楽しそうにしている先輩方の間に何があったのかは分からないが、前以上に仲良くなってるみたいだった。その姿を見て、僕はとても嬉しい気分になった。

 ところでお土産に戴いたフードを被ったら皆笑っていたのは何故だろうか?




第5話「アイドル研究部」

☆☆☆☆☆☆★★

 

 

 コンコン!コンコン!

 

「はい、空いてるわよ」

 

 放課後。私、綾瀬絵里はちょっとした書類仕事が残っていたので、一人で生徒会室に残っていた。

 

「失礼する。……絢瀬生徒会長一人か」

「あら、間くん、どうしたの?」

「イジメ実態調査の報告書が出来たんでな。渡しに来た」

 

 ノックをして生徒会室に入ってきたのは、眼鏡をかけていて、吊り目の風紀委員長、間 歩くんだった。

 

 私は彼から報告書を受け取ると、その報告書に目を通した。

 

「……今回も0。でもアンケートには記入してないって子いるかもしれないのよね」

「ああ、今後も警戒して見回りを行っていくつもりだ。が、実際少なくはなっているんだろう。まだ多少のいざこざは有るが、あの時よりはまだまだマシだろう」

 

 はぁ……と深い溜め息をつきながら、目頭を揉む間くん。その姿は、明らかに疲労しているって感じだった。

 

「間くん、なんだか疲れてない?イライラしてるって言うか」

「……さっきまた野球部副部長とソフトボール部副部長が睨み合いをしていたからな……仲裁に入っていた」

「またあの2人?……もう逆に仲が良いんじゃないかしら……」

 

 野球部の副部長とソフトボール部の副部長は昔から仲が悪く、何かにつけて喧嘩をする姿を目撃することがあった。

 そもそも野球部とソフトボール部はあまり仲が良くない。お互い練習で野球場を使いたいけど、相手がいるから決まった曜日しか使えない。特に大会前はどちらの部もピリピリしてるから、副部長同士はもちろん、一部の部員同士が喧嘩をする事がある。

 それに野球部とソフトボール部程じゃないけど、男女間で不仲な部や異性への不満などがよく生徒会や風紀委員に寄せられることがある。

 

 

 これは共学になった影響なのかもしれない。

 

 

 元々女子高だった音ノ木坂学園が共学になったのは私達が入学する二年前。事前に面接や生活調査などを行いながら、調整を計ってはいたものの、女子高だったそれまでどうりにはいかない。そのせいで、異性間でのすれ違いや格差、一年前にあった更衣室覗き魔事件を初めとしたトラブルは後を絶たず、生徒達のストレスの元となったことがある。

 しかも時としてそういったトラブルは教師や生徒会などの目の届かないところで起きる可能性もある。

 だから、男女間のトラブルの解決や調査、いざこざの仲裁を行うのが生徒会や風紀委員の主な仕事の一つになった。特に風紀委員長の間くんは、常にそういったいざこざの仲裁やトラブルがないか調査を行ったり、校内の美化運動や備品修理も一手に引き受けてくれている。

 ストレスも溜まるはずなのに、彼は本当に学校のために頑張ってくれていた。

 

(……あいつらめ、少しは歩み寄りというものが出来んのか。意地ばかり張り合って面倒くさい。周りの迷惑や後輩への影響というのを考えんのか。事実を言っても何かと反論するし、そんな時だけ息が合うのはどう言うことだ。全く、これだから体育会系は……。大体、俺の身長は関係ないだろう……好きで成長が止まったわけではないというに……!)

 

 ……よく分からないけど、だんだん険しい顔になって負のオーラを纏い始める間くん。何か嫌なことでも言われたのかしら?

 

 

『『『♪~、♩ー!♬ー!』』』

 

 ふと、誰かの歌声が、窓の外から生徒会室に爽やかな風とともに入ってくる。屋上から聞こえてくるその歌声を、私は覚えていた。

 

 

 スクールアイドル・μ’s。彼女たちの歌声だ。

 

 

「生徒会長、知っているか?」

「え?」

 

 不意に、間くんが話かけてきた。間くんは、先程の仏頂面から、僅かに目尻を下げ、風に乗って流れてくる歌声を微笑みすら浮かべて聴いていた。

 

「最近、生徒の間でμ’sが噂になっていることを」

 

 ……それは知っている。実際クラスメート達が時折その話題をあげることが、あの新入生歓迎会以降、増え始めていることは。

 

 前は「スクールアイドルを始めた生徒がいるらしい」という程度の噂だったのが、次第にサイトにあげられていたライブの話になり始めていた。中にはマネージャーの、あの便利屋の二年生が作成した壁新聞を見た、練習しているところを見た、ブログも面白い、メンバーの子が可愛いなどという話をよく聞くようになった。

 

「前に剣持……μ’sのマネージャーが言っていたぞ。自分たちはあげていないが、誰かがあげたライブの映像を見て、μ’sを知ったという話を色んな生徒から聞いたと喜んでいたぞ」

「……そう」

 

 ……何故かしら。彼の目を見ると、全て見透かされている気分になる。私はなんとなく視線を机の上の書類に落とす。記入漏れがないか確認するため、視線を書面に走らせる。

 

「生徒会長はμ’sの活動に懐疑的なんだったな」

「ええ。アイドルなんて、そんなもので廃校を本当に阻止できると思えるほど、私は楽観的に考えることができないわ」

「そうだろうか?俺は逆にあいつらに可能性を感じているがな。少なくとも、手をこまねいている誰かよりはな」

 

 間くんは反論に、思わず身体が固まる。私にはあの眼鏡の奥の吊り目が、私の発言から、反応から、態度から、常に私の様子を観察しているように感じた。……彼は、私の何を探っているのかしら?

 

「実は最近、生徒間でμ’sが噂にあがりはじめてからというもの、男女間のトラブルやいざこざが減ってきている。それどころか、μ’sの話題で男女間で交流が生まれてきているという話しだ」

「…………」

「無論、トラブルは未だにあるが、しかし彼女たちの活動が、生徒達に良い影響を与えているようだ」

「……何が言いたいの?」

 

 私は思わずイライラとした声で問いかけた。さっきから彼の話を聞く度に、間くんにチクチクと私の嫌なところを刺されている気分になる。彼はよく私に対してそう言う風に言ってくることが多い。思えば、私が生徒会長になったときも「意志が強そうなのは見た目だけか」とか「お前のようなやつが生徒会長で不安だ」とか嫌な言い方をしてくることが多かった。

 

「俺は事実しか言わん。ただ単にμ’sという存在がこの学校を変えつつあることと、それから個人的に、義務感から一人で全て抱え込んで解決しようとする阿呆より、やりたいことをやりたいようにやる、失敗なんぞ全く考えていないような馬鹿共のほうが好感が持てるという話しだ。しかもその阿呆は変なところで不器用で面倒臭いと来ている。まったく、どうしてこうもうちの学校には面倒臭いのが揃うんだろうな?」

 

「……それは」

 

 どういう意味?と続けようとした時、ブー!ブー!と携帯のバイブレーションの音が聞こえた。

 

「……すまん。でてもいいか?」

「……どうぞ」

「ありがとう。もしもし、どうした?……うん……成る程、分かった。俺が行くまでそいつらを見張っていろ」

 

 そう言って、電話を切る間くん。何かトラブルでも起きたのかしら?

 

「どうしたの?」

「また馬鹿な男子達が馬鹿なことをやらかしたらしい。他の風紀委員では話を聞かないから俺を呼んだようだ」

「……あなたも大変ね」

「好きでやってることだ。この程度、苦行ですらない」

 

 そう言うと間くんは生徒会室のドアに向かう。しかし、開く前にこちらに振り向いた。

 

「生徒会長、風紀委員長として一つ、お前に言っておくべきことがあった」

「……何かしら?」

「人間なんて単体では限界のある生き物だ。俺もまた、他の風紀委員や後輩の力を借りなければ風紀委員長なんぞ出来ない。所詮俺はただ嫌みったらしく口うるさいだけの男だ。だからこそ、自分の限界も、頼るべきものも知っているつもりだ。綾瀬生徒会長、お前には頼ることが出来る相手はいるか?」

 

 それだけ言うと、失礼した。と言って間くんはさっさと生徒会室から出ていった。

 

 

 そうして広い生徒会室には、私だけが残った。ただ、窓の外からは賑やかな歌声が風に乗って流れてきて、生徒会室を満たしていた。

 

☆☆☆☆☆☆★★

 

「いっち、にー、さん、しー」

「5、6、7、8」

 

 いつもの神社での早朝練習を行う前に、俺はことりの準備運動に付き合っていた。とりあえずお互い背中合わせにして行うかつぎ上げを行っていた。

 

 当たり前だが本当に軽いな。名前のとおり羽のような軽さだ。力加減に注意しないとな。

 

「ことり、担ぐ時は重心を低くして足の間隔を広げろ。俺の腰を下から突き上げるようにするんだ。言っとくけど無理に持ち上げようとしなくてもいいからな。無理だと思ったら止めるんだ」

「うん、分かった。いっち、にー、さん、しー」

「そうそう、そんな感じだ。5、6、7、8」

 

 しばらくかつぎ上げを繰り返してから、柔軟体操を手伝おうとしたとき、ことりが少し不安そうな顔で近付いてきた。

 

「ねぇ、まこくん。後ろの……」

「ああ、あそこの隠れているやつだろ。気付かないふりしててくれ」

「え!?「しっ」ッ!(……気付いてたの?)」

「(まあな。ことりが来たくらいからあそこにいたぞ。俺が見張ってるから心配しなくても大丈夫だ。それに多分、隠れているのは150半ばの小柄でかなり体重が軽めの女の子だと思う。マスク越しの呼吸音と眼鏡を直す音とコートの音以外、カメラの部品の音とか変な音は聞こえないし、大丈夫だろ)」

「……まこくんって、エスパーか何かなの?」

「いや、人より気配と音に敏感なだけだよ」

 

 集中してもこのくらいしか分からないし、やっぱり姉さんのようにはいかないな。

 

 しかし、あそこに隠れているやつ。何か険のある視線をこっちに送ってるな。そこまで悪い気配はしないし心配することはないだろうが……仮に変なことしてきたら、ちょーっと、「お話」する必要があるな。様子を見るためにもう少し気付かないふりをしてみるか。

 

「ごめんごめーん!待ったー?」

「おはよう穂乃果ちゃん。私も今来たところだから」

「よう、おはよう」

『穂乃果!また遅刻ですか!?』

「ごめんなさい海未ちゃん!……ってあれ?」

「ブフッ!ククククク!」カチッ!『ホノカ!マタチコクデスカ!?』

「あー!ボイスレコーダー!まこくん酷いよこんなイタズラー!」

「ごめんごめん。ちょっとした遊び心だよ。本物の海未は弓道部の朝練だってさ。良かったな、遅刻して怒られなくって」

「むー!まこくんの意地悪!根性悪!……あれ?あそこ誰かいるのかな?」

「あっ、ちょっと」

 

 人影に気づいたのか、穂乃果は止める間もなく例のやつが隠れているところに近付く。例のやつの気配も逃げるように移動する。

 

「あれ?」

 

 そのまま穂乃果が例のやつを追って建物の影に隠れた。あ、やべ!

 

「うわ~~~!うわわわわわ!?」

 

 すぐに穂乃果の素っ頓狂な叫び声が聞こえた。俺とことりは慌てて穂乃果の元に向かう。

 

「ひゃう~」

 

 なんとも間抜けな穂乃果の悲鳴。穂乃果はデコピンを食らっていた。かなり強力だったのか、穂乃果はそのまま倒れてしまった。

 

「穂乃果ちゃん!?」

「あんたたち!」

「!?」

 

 倒れた穂乃果とそれに駆け寄ることりを仁王立ちで睨みつけるツインテールの少女。グラサンにマスクとコートという分かりやすく不審人物な格好をしている。そいつはビシッと指をこちらに突きつけてくる。

 

「さっさと解散しなさい!」

 

 それだけ言うと逃げようとするツインテール少女。

 

「逃がすかこの不審者!」

「きゃ!」

 

 当然、逃がすわけにはいかない。俺はツインテール不審者少女の手首を掴んで逃げるのを阻止する。背丈からして中学生くらいか?まったく、イタズラか何かか?

 

「ちょっと!離しなさいよ!」

「いいや、離すわけにはいかないな。ちゃんとあいつらに謝るまでは……」

「きゃー!痴漢!変態!襲われるー!」

「な!誰が変た……いィっ!?」

 

 こ、このガキッ!全体重かけて爪先踏みつけてきやがった!しかもブーツで!

 

 俺が怯んだ一瞬の隙をついて、少女は一目散に逃げ出した。なんて逃げ足だ。もう見えなくなった。

 

「今の、誰?」

 

 ☆☆☆☆☆☆★★

 

「それでは!メンバーを新たに加えた、新生スクールアイドル、μ’sの練習を始めたいと思います!いつも恒例の、1!」

「2!」

「3!」

「4!」

「5!」

「6!」

「くぅ~!><」

 

 嬉しさに身悶えている穂乃果。一年生3人が入ってからと言うもの、毎度こんな事を行っている。

 

「だって6人だよ、6人!アイドルグループみたいだよね!いつかこの6人が、神シックスだとか仏シックスだとか言われるかもしれないんだよ!」

 

「仏とかなんだか死んじゃってるみたいだけど……」

「毎日同じことで感動できるなんて羨ましいにゃー」

「それだけ穂乃果先輩は毎日が楽しく、新鮮な刺激を感じておられるのだろう。あの素晴らしい感受性と前向きさ、しっかり見習わせてもらおう!」

「あんたはもう鬱陶しいくらいポジティブだけどね」

 

 星空が言うようによくまあ毎日楽しそうだよな。穂乃果らしいと言えば穂乃果らしいけど。でも仏シックスはないだろう。

 

 ちなみに俺達二年生が名前呼びで呼び合うようになってから、飛鳥は俺以外の全員を名前呼びするようになった。

 

「まっ、それくらい言われるくらいにしないとな。今朝のやつみたいなのもいるし」

「『解散しなさい!』って言われたんでしたっけ?」

「でも、それだけ有名になったってことだよね!」

「当然の結果だな!皆の日頃の練習、そして我々マネージャーの広報活動の成果が出てきたと言ったところか!」

 

 飛鳥の言う通り、μ’sの話題は少しずつ広まっていっている。この間もヒフミトリオから学校中がμ’sの話題で持ちきりだと聞いた時は本当に嬉しかったなぁ。

 

「それより練習。どんどん時間無くなるわよ」

「真姫ちゃんやる気満々!」

「べ、別に!私はただとっととやって早くやりたいの!」

「何を謙遜しているんだ真姫くん!昼休みの時、君は皆に隠れて練習していたではないか!皆の足手まといには決してならない!いや、自分が早く上達して他のメンバーを教えるくらいになってみせるという燃え上がるような情熱がオゴォッ!?」

 

 真っ赤になった西木野の放った中段蹴りが飛鳥の脇腹に突き刺さる。あーあー、あの無駄にプライドの高くて完璧主義の西木野が、努力しているなんて人に言いたくないに決まってるのに、あの馬鹿は何でそういう人の思いとかに疎いんだか。

 

 ちなみに、西木野が一人隠れて練習しているのをマネージャー含めたμ’s全員が知っていることを、西木野は知らない。飛鳥が言わなかったら穂乃果か星空あたりが煽ってただろうな。

 

「そうそう!真姫ちゃんは照れくさいだけだよねー!」

「凛ー!」

「あわわわ!凛ちゃんも真姫ちゃんも落ち着いて!練習時間なくなっちゃうよ~」

 

 予想通り星空が煽り、西木野がそれを追い、小泉ちゃんはあわあわと慌てるいつもの流れになり、二年生達で微笑ましくその光景を眺めていると、

 

「あ……」

「雨だ……」

 

 いつの間にか、ザーザーと滝のような雨が降り始めていた。

 

 

 

「土砂降り~」

「梅雨入りしたって言ってたもんね」

 

 扉の窓から見た屋上は、雨で水浸しになっていた。これじゃあ雨があがっても練習できないか?

 

「お前らちゃんと傘持ってきたか?特に穂乃果とか」

「降水確率60%って言ってたから持ってきてないよー!絶対練習出来ると思ってのに!」

「やっぱりか。じゃあ後で貸すよ。全員分の折りたたみ傘用意してきて大正解だったな」

「おおー!流石マネージャー!気が利くー!」

 

 一応、練習中に降り始めた時のためにバスタオルと着替えも全員分用意してある。これでこいつらに風邪でも引かれたらマネージャーの責任だからな。

 

「あ、雨少し弱くなったかも」

 

 窓の外を見るとことりの言うとおり、雨音が小さくなり、雲間から僅かに青空が覗いている。

 

「本当だ!やっぱり確率だよ!良かった!」

「このくらいなら練習出来るよー!」

「うむ!これも日頃の行いのおかげだな!」

 

 そう言うと穂乃果と星空、さらに飛鳥まで雨に濡れた屋上に飛び出していった。あの元気馬鹿どもめ……子供か。

 

「ですが、下が濡れて滑りやすいですし、またいつ降り出すかも……」

「大丈夫大丈夫!練習出来るよー!」

「うー!テンション上がるにゃー!\>ω</」

「よーし!行くぞ凛くん!」

 

 海未の心配をよそに何故かテンション上がりまくりの一年生2人は、前転バク転宙返りにターンにエアートラックスとかいう腕だけで回転するブレイクダンスの技を披露。

 

「イエイ!」

「グッド!」

 

 最後にビシッと息ぴったりに決めポーズを決める二人は、一瞬にして土砂降りの雨に濡れることとなった。

 

「わー!PVみたいでカッコイイ!」

「馬鹿だ」

「馬鹿みたい」

「馬鹿なんです」

「「アハハハ……」」

 

 二人の踊りに同じくテンション上がりまくりの穂乃果に、俺と海未と西木野は呆れて溜め息を吐き、ことりと小泉ちゃんも苦笑いを浮かべる。てかあいつらいつの間にかあんな芸当を。あ、よい子の皆さんは絶対に真似しないように。危ないから。あと二人がラストにした技が分からない人は

 

 

「よー、探したぜー。アイドルたちー」

 

 その時、階段の方から誰かが上がってきた。それは我が学校の現国教師にして純度100%の変態という名の紳士、浮竹 稔先生だった。

 

「先生、どうしてこちらに?」

「いやー、ちょっとお前らに用事があってよ」

 

 海未が代表して聞いてみたが、用事?なんだろうか?浮竹先生みたいな人が俺達、というかμ’sに、しかもわざわざ探しにくるほどの用事とは。……その前に、

 

「先生、確認したいことがあります」

「おう、なんだ剣持。そんなおっかない顔して」

「……もしかして先生、雨に濡れたμ’sを見にきたとかじゃないですよね?もし、そのつもりなら、ちょっとだけ、顔の骨格が変わる覚悟、ありますか?」

「お前って時々ビックリするくらいバイオレンスになるよね。でも期待してたのは事実だ……待て待て落ち着け!ちゃんとここに来たのは理由があるんだって!」

「本当ですか?あんたの場合、雨で服が張り付いてどうとかそれ言うためだけに現れるじゃないですか」

「普段の俺ならそうだな。え?何?聴きたいの?しょうがないなぁ。じゃあ特別にμ’sと一緒に『濡れ透け』について講義してやろう」

「先生、はやく要件を言うか、黙るか、それとも俺に黙らされるか、どれがいいですか?」

「悪かったって。とりあえず色々おっかないから指鳴らすの止めてくれ。ちゃんと話すから。ま、ここじゃなんだし、場所変えようぜ」

 

 まったく、穂乃果達の前でエロ談義とか何考えてんだこのセクハラ教師は……。

 

 俺達は浮竹先生について移動する事になった。

 

 

「アイドル研究部?」

 

「おう、実はうちの学校にはもうアイドルに関する部が出来てんだよ」

 

 ずぶ濡れになった馬鹿3人に着替えとタオルを渡して着替えさせてから、俺達は浮竹先生について教務室の隣にある、生徒相談室にやってきた。そして浮竹先生から教えられたのは、この学校のアイドルに関する部の存在のことだった。……ってか、

 

「穂乃果、お前部活申請してなかったのかよ」

 

「いやー、メンバーが集まったら安心しちゃって」

 

「まったく、そんな事じゃないかと思ってましたが……部活として認められないと教室も使えないんですよ?」

 

「でも、そのおかげで、同じような部活は出来ないって生徒会室に行く前に知ることができたんだし、結果オーライじゃないかな?」

 

「相っ変わらず仲良いねぇお前ら。おっさん羨ましいよ」

 

 穂乃果がボケて、海未がツッコミ、ことりが穂乃果のフォローをするいつも通りの二年生ノリをニヤニヤ笑って聞いている浮竹先生。本当に楽しそうだな。

 

「で?話はそれだけですか?」

 

 俺は全員に温かい飲み物を出しながら質問する。教務室のポットとカップを許可をとって使わせてもらった。

 

「ありがとー。はぁ~……ココア美味しい~!温まる~」

 

「あ、本当だー、美味しいー♪ありがとう、まこくん!」

 

「あ、梅昆布茶……すいません、私だけ。いただきます」

 

「ありがとうございます。ホッとするね、凛ちゃん」

 

「にゃ~……身体ポカポカにゃ~」

 

「あれ、コーヒーにしてくれたのね。……うん、砂糖の量も丁度いいわね」

 

「うーむ、このレモンティーの程良く飲みやすい温度とこの味……まさに絶妙な淹れ加減!流石は剣持先輩!お見事です!」

 

 どうやら好評のようだ。こういうお茶、特に紅茶を淹れることに関しては、俺よりも飛鳥のほうが何倍も上手いから不安だったんだが良かった良かった。特に雨に濡れて体温が下がった3人はホッと息をつきながら、手も温めている。

 

「サンキュー。もちろん、お前の読み通りそれだけじゃないぜ。実は俺、アイドル研究部の顧問なんだよね」

 

「「「「「「えぇ!?」」」」」」

 

「え?そ、そんなに意外?」

 

 浮竹先生の発言に女性陣が一斉に驚きの声をあげる。浮竹先生もその反応には目をパチクリさせながら驚いた。

 

「先生、部活の顧問なんて先生らしいことしてたんですか!?」

 

「いつも生徒をナンパしてただけじゃないんですか!?」

 

「いっつも私達の担任の先生に怒られることしてただけなんじゃないんですか!?」

 

「放課後に生徒と喫茶店に遊びに行ってるだけじゃないんですか!?」

 

「ヒマだからって体育のサッカーの時、乱入するだけじゃないの!?」

 

「そもそも仕事してたの!?」

 

「おっさん泣くよ?流石に女の子にここまで言われるとおっさん泣いちゃうよ?」

 

「本気で仕事してるところ見せたことないからじゃないですかねぇ」

 

 多分かなりの名推理だと自画自賛する。

 

 実際に女生徒達が浮竹先生のことどう思っているのかは始めて聞いたが、穂乃果、海未、ことり、小泉ちゃん、星空、西木野の順に予想通りの感想を聞くことが出来た。実際この人、チャラいしチャランポランだし女の子好きだしよくナンパしてるからな。当然の反応だな、仕方ない。

 

 

 話を戻そう。

 

 

「ま、まあ、とにかくだ。このままだとアイドル研究部の部長が反発するはずだからな。まずは明日そいつを部室に呼ぶから、そいつと話をつけてからにしてくれないかっていうアイドル研究部の顧問としてのお願いってわけ。お前らとしても、生徒会に申請突き返されたくないだろ?大丈夫。あいつは悪い奴じゃないから、ちゃんと話せば分かってくれるさ」

 

 ☆☆☆☆☆☆★★

 

 

「「「え?」」」

 

「げ!」

 

 翌日、アイドル研究部の部室の前に来た俺達の目の前にいたのは、どこかで見覚えのあるツインテールをした女生徒だった。

 

「お、なんだお前ら知り合いか。なら話が早い。こいつは三年生の矢澤にこ。アイドル研究部の部長な」

 

 あ、三年生だったのか。あ、本当だ。リボンが三年生の緑だ。……ああ、成る程。アイドル研究部部長の矢澤先輩。もしかするとあの解散しろ発言は、μ’sを敵視しての発言だったわけか。

 

「ちょっと稔先生!大事な話があるから必ず来いって聞いたからきたのに!なんでこいつらも来てるのよ!聞いてないわよ!?」

 

「えー?いいじゃねぇか矢澤。お前だってμ’sに興味、あったんだろ?」

 

「な!べ、別にあたしは……!」

 

「またまた~、そんなこといって~!この照れ屋さんめ☆」

 

「殴っていい!?今、生徒と教師の垣根を越えて殴っていい!?」

 

 ヘラヘラ笑いながら矢澤先輩を煽る浮竹先生。どうも先生は俺達がいることを黙って矢澤先輩を呼んだようだ。怒り狂った矢澤先輩は先生を殴りつけるも浮竹先生はヒョイヒョイと拳を避けていた。完っ全に遊ばれてんなありゃ。

 

「えっと、とにかく、あなたがアイドル研究部の部長さんですよね。ちょっとお話が……」

 

「む!」

 

 穂乃果が代表して矢澤先輩に話しかけたが、こちらを睨んだあと、矢澤先輩は俺達を押しのけてアイドル研究部の部室に逃げ込んでしまった。更にガチャリと鍵が閉まる音が聞こえた。

 

「あ、待って!部長さん!開けてください!部長さん!ぐぅ~!開~か~な~い~!」

 

 扉を開けようと穂乃果はガチャガチャとドアノブを捻っているが、扉の向こうからズリズリと何か重いもので扉を塞ぐ音が聞こえてきた。これじゃピッキングして開けても逃げられるな。

 

「飛鳥!先に外から回ってて捕まえろ!」

 

「はい!おまかせあれ!」

 

「凛もいくにゃー!」

 

 俺の命令に従い飛鳥は矢澤先輩を捕まえるために飛び出す。その後に何故か星空まで付いていく。あの身体能力抜群コンビなら大丈夫だと思うが、俺も別ルートで追うことにした。

 

 ☆☆☆☆☆☆★★

 

「待てーい!神妙にお縄につけーい!」

「まてまてまてまてー!」

「しっつこい!」

 

 窓から脱出した私はあのμ’sの一人とマネージャーを名乗る大男に追い回されていた。

 

 私もそれなりに体力には自信が有るほうだ。アイドルになるためにも、私は常に体力作りとスタイルの維持に努めているんだから同然よ。……そりゃあ、もう少し身長とか……ムネ……とかもう少し欲しかったのは事実だけど。で、でも今の体系維持も大変なんだから!だいたいあんな重いもの必要ないもん!邪魔なだけよ!

 

 とにかく、そんな私を超えるとんでもないスピードであの二人は迫ってきた。大男のほうは男ってのもあんでしょうけど、何よあの長い手足!さっきから私の頭くらいなら掴めそうな馬鹿みたいにでかい手が私を捕まえようとしてくる。なんとかギリギリのところで避けているけどかなり怖いわ!

 

 もう一人のほうもいやにすばしっこくって大男の攻撃とほぼ同時にこっちに何度も手を伸ばしてくる。とんでもなく厄介な連携技ね。

 

「ああもう!こっちこないでよ!」

 

 私は二人の攻撃をなんとかかいくぐりながら逃げていると。

 

「剣持先輩!」

「え!?」

「今度こそ逃がすか!」

 

 目の前にはもう一人のマネージャーが待ち構えてた!しまった。先回りされていたなんて!

 

 一瞬の間に私はこの状況を打破する方法を考えるため、今までにないくらい思考をフル稼働させる。

 

 考えろ~!このままだと捕まっちゃう!捕まらないようにするには……!

 

「これだ!」

 

 私は急ブレーキをかけて身を屈めた。

 

「何ぃっ!?とうっ!!」

 

 私の後を追っていた大男は私の動きに対応できず、特撮のヒーローみたいな掛け声でジャンプして私を飛び越える。当然、

 

「バッ!?こっちくんな!うわあああ!?」

「すみませーん!」

 

 私の前にいたもう一人のほうに突撃する形になった。

 

「つーかまーえたー!」

 

 今度はμ’sの一人が私にガシィッ!と抱きついてきた。甘い!私は身体を捻って腕の下からくぐって脱出する。……べ、別に薄かったから助かったなんて思ってないんだから!

 

「あ!ちょっとー!まつにゃー!」

 

 

 3人の追跡をかいくぐった私は振り向いて3人を見る。まだまだ一人がしつこく追ってくるけど、ふんっ!馬鹿ね!無駄よ!無能な男どもはいつまでもそこで這いつくばってなさい!この宇宙No.1アイドルのにこが捕まるもんですか!この程度逃げられなくて、ファンの追跡から逃げられるはずがないもの!当然よ!

 

 

 でもそこで油断したのが悪かった。

 

 

 私は知らない間にアルパカの小屋に向かっていたみたいだった。そして小屋の前には、

 

「よーしよし、雨が続くからストレスも溜まるだろう。どれ、ブラッシングしてやろう。うん?」

 

 こちらに気づいたのかくるっと振り向いたのは見覚えのある眼鏡に吊り目、そして腕に「風紀委員」の腕章をしたあいつだった。

 

「ど、退いてええええええ!!」

「止まらないよおおおおお!?」

「な!にこ!?」

 

 私達はもうブレーキをかけれないところまで接近していた。更に、

 

「「あ!!」」

 

 ズルッ!と私ともう一人は足を滑らせて前のめりになる。とっさに顔を守るため顔の前で腕をクロスした私は、しかし予想に反してそのまま落ちるのではなく、眼鏡のあいつに向けて二人でもつれ合いながらロケットみたいな勢いで突っ込んだ。

 

「ウゲエエエエエエエエエ!!??」

 

 私達のタックルをお腹に食らって、この世のものとは思えないような悲鳴をあげながらあいつは背後の柵に叩きつけられた。

 

 ☆☆☆☆☆☆★★

 

「いいかにこ。お前は我が学校の最高学年なのだぞ。だというのに走り回って、挙げ句人にぶつかるなど小学生並、いや今時小学生すらしないような愚かしい行為だと思わないのか?そもそもぶつかったのが俺だから良かったものの、もしこれが他の生徒だった時どうするつもりだ?」

「わ、分かってるわよ」

「俺の目を見て発言しろ」

「分かったわよ!」

「剣持、お前もだ。一年生達に婦女子を追い回させ、挙げ句衝突事故だ。他の生徒の迷惑も考えろ。前にも言ったが二年生として後輩の指導をするのがお前の役割だ。きちんと注意してだな……」

「はい、すいません……」

「(にゃ~……あ、足が痺れてきたにゃ~)」

「星空一年生、背筋を伸ばせ。それから意見が有る場合は顔をあげて目を見て発言しろ」

「はいぃぃぃっ!?」

「返事は伸ばさない。後、足が痺れたのなら崩していいぞ」

「はいっ!」

「まあまあ、間。こいつらも反省してるみたいだしそれくらいに……」

「浮竹先生、そもそもあなたが矢澤に事前連絡をしなかったのも原因の一つではないんですか?あなたの考えや趣向も理解できますが、今回の場合逆効果であると考えなかったんですか?」

「あ、ハイ。サーセン」

「浮竹先生」

「あ、ハイ。すいません」

「はい、の前に『あ』をつけないでください」

「そこもかよ!?……はい、なんでもないです。すいません」

「先輩!僕にも何か!」

「大声をあげながら婦女子を追い回すな。あと剣持から聞いたが他にもお前は以前から……」

「はい!ありがとうございます!気をつけます!」

「先輩、湿布貼り終わりました」

「ありがとう、南二年生」

 

 矢澤先輩を捕まえた後、俺と飛鳥、星空と矢澤先輩はアイドル研究部の部室で正座させられていた。間先輩のお説教だ。騒動を起こしたとして、俺達はまとめて怒られていた。しかもこの人の場合は普通に怒るんじゃなくて、絶対零度の目で睨みながらクドクドとお小言を言うから精神にくるものがあるな。

 ……目の前でもじもじしてる星空の足を突っついたら面白いことになりそうだったけど、一時間延長コースになるので止めた。

 

 その後、矢澤先輩の普段の生活態度仁摩で話が発展し、更に小泉ちゃんが部室内で見つけて大騒ぎしてた「でんでんでん」なるDVDの購入金の出所と使用目的などで更にお説教が長くなり、俺達が解放されたのは、それから30分後だった。

 

「先程は説教などと見苦しいところを見せて申し訳ない。初めて顔合わせした者ばかりなので、改めて自己紹介をさせていただく。俺は間 歩。三年生だ。未熟者ながらこの学校の風紀委員長をさせてもらっている。よろしくお願いする」

「高坂穂乃果です!二年生でスクールアイドルしてます!」

「園田海未です。穂乃果と同じ二年生です。よろしくお願いします」

「南ことりです。私も穂乃果ちゃん達と同じ二年生です。よろしくお願いします、先輩」

「西木野真姫。一年生よ。よろしく」

「小泉花陽です。一年生です。よ、よろしくお願いします。ほら凛ちゃん、大丈夫だよ」

「ほ、星空凛です!あの、さっきはごめんなさい!」

「ああ、よろしくなμ’sの諸君。……星空一年生には怖がらせるようなことをしてしまったな。こちらこそすまなかった」

「えぇ!?だ、大丈夫です!凛こそぶつかっちゃって本当にごめんなさい!」

 

 深々と頭を下げて謝る間先輩。星空はさっきから恐縮しまくりだ。まあ、初対面で怒られりゃそうなるか。

 

「あれ?でもさっき私達の名前、分かってましたよね?」

「風紀委員長として、この学校の生徒全員の顔と名前を覚えることは至極当然のことだ。それに剣持からも君達のことは聞いている。実に面白いな、君達は。俺は君達を応援している。これからも頑張りたまえ」

「あ、ありがとうございます!」

 

 ことりの質問に、先輩は当たり前のように答え、穂乃果達に応援の言葉を贈った。穂乃果もそれがうれしいのか深々と頭を下げた。

 

「じゃあ俺達も改めて紹介しとくか。こいつがアイドル研究部の部長の矢澤にこ。んで、俺こと浮竹 稔が顧問をしてるってわけだ!んじゃまあ、仕切り直しとしようや」

「……ふんっ!」

 そういって、浮竹先生の言葉で俺達はとりあえず仕切り直すことにした。

 

「それで?何しに来たの?」

 

 真っ先に口を開いたのは矢澤先輩だった。部室の机には矢澤先輩とμ’sの6人、それから背中を痛めた先輩が座り、俺達マネージャーと先生は壁際に立って話を聞くことにした。

 

「にこ先輩、実は私達、スクールアイドルをやっておりまして……」

「知ってる。この、セクハラ教師が、話つけろって、言ったんでしょ!」

「えー?良いじゃんそれくらいー。カリカリすんなよ矢澤ー」

「誰のせいよ!誰の!」

「矢澤ー、お前最近カルシウム足りてないんじゃねぇの?昔っから牛乳飲んでっとデカくなるつーし、全然飲んでない証拠だな」

「うっさいエロ教師!セクハラで訴えるわよ!」

「えー?俺は『背』がデカくなるって言いたかったのになんでセクハラなんだー?何と勘違いしてたのー?教えてくれよ矢澤パイセーン?」

「キィーッ!このセクハラエロ教師ィィィ!!!!一度地獄に墜ちろ!!!!」

 

 立ち上がって必死に何度も先生の足を踏みつけようとする矢澤先輩とそれをヘラヘラしながら紙一重で避ける浮竹先生。先輩、遊ばれてんなぁ……。

 

「ハァ、ハァ、ハァ、チッ!…………まっ、いずれそうなるんじゃないかと思ってたんだけどね」

 

 あ、諦めた。

 

「なら!」

「お断りよ!」

「え?」

「私達は、μ’sとして活動出来る場が必要なだけです。別に廃部にしてほしいとかではなく……」

「お断りっていってるの!」

 

 海未が補足して説得に当たるも、矢澤先輩は頑なに拒否する。

 

「いい!?あんたたちダンスも歌も全然なってない!プロ意識が足りないわ!」

「え?」

「あんたたちがやってるのはアイドルに対する冒涜!アイドルを汚してるの!」

「でも!歌もダンスも練習してきたから……」

「そう言う事じゃない」

 

 穂乃果が反論すると、矢澤先輩は先ほどとは打って変わって静かな口調で口を開いた。恐らく矢澤先輩が俺達を認めない理由を話すつもりだと感じ、俺達は矢澤先輩の次の発言を待った。

 

 

 

「あんたたち……ちゃんとキャラ作りしてるの?」

 

 

 

『『『『??????』』』』

 

 

 しかし矢澤先輩の発言に、μ’s全員が疑問符を浮かべることになった。しかし間先輩と顧問である浮竹先生は違った。間先輩は何か思い当たる節があるのか明らかに嫌そうな顔をし、逆に浮竹先生はニヤニヤとした笑いを浮かべている。

 

「キャラ?」

 

「そう!お客さんがアイドルに求めるものは楽しい夢のような時間でしょ!?だったらそれに相応しいキャラってものがあるの!たく、しょうがないわね。いい?」

 

 そう言って矢澤先輩はこちらに背を向けた。何が始まるんだ?

 

 

 

「    にっこにっこにー!

 

   あなたのハートににこにこにー!

 

   笑顔届ける矢澤にこにこー!

 

  にこにー!って覚えてラブにこー!    」

 

 

 

『『『『……………………………』』』』

 

 

 え、えぇ………………。

 

 

「ぅ……」

「これは……」

「キャラというか……」

「あたし無理」

「ちょっと寒くないかにゃあ?」

「ふむふむ!」

「えぇっと……?」

「こ、これが真のアイドル!?なんという斬新かつ独創的!世のアイドル達はこんなことを平然としているのか!?」

「くだらん」

「ーッ!ッ!ーーーーーーッ!!!!」(←膝を叩きながら声にならない声で爆笑中)

 

「あんた、今寒いって?」

 

「い、いや、スッゴい可愛かったです!最高です!」

 

 皆が矢澤先輩の放った衝撃に固まる中(小泉ちゃんだけ真剣にメモしてる)、さらっと本音を言った星空が矢澤先輩から怒りの視線を向けられる。なんであいつはこう言いづらいことをズバッと言うんだか……。

 

「で、でもこれいいかも!」

「そうですね!お客様に喜んでいただくのは大事ですよね!」

「流石です!にこ先輩!」

「うむ!長年の研究から生まれた理論とキャラ!そしてそれを実践する勇気!感服いたしました!」

「よーし!そのくらい私だって……」

「出てって!」

「え?でもにこ先輩……」

「とにかく話は終わりよ!いいから出ていきなさい!」

 

 俺達の必死のフォローも虚しく、激怒した矢澤先輩に押されて、俺達は部室から追い出されてしまった。

 

「あんたたちも邪魔よ!さっさと出てって!」

「おいおい、俺もかよ」

「おい!背中を押すんじゃあない!痛いだろ!」

 

 間先輩も浮竹先生も追い出され、ガチャリと鍵の閉まる音が廊下に響いた。俺は間先輩に肩を貸しながら完全に閉められた扉を見つめる。

 参ったな。話を聞いてくれそうにないな。このままじゃ部活のことも……。俺達は途方に暮れながら部室前で立ち止まっていると、

 

「やっぱり追い出されたみたいやね」

 

 後ろから声をかけられた。振り向いた先にいたのは、

「……東條副生徒会長……」

「間くんもおったんね。呼びに行く手間が省けて良かったわ」

 

 肩を貸している間先輩が苦々しく東條先輩の名を呼んだ。あー、そういや間先輩って東條先輩のこと苦手なんだっけ。

 

「副会長さん、どうしたんですか?」

「うん。μ’sの皆に伝えとこうと思ってたことがあるんよ」

「なにをですか?」

「もちろん、にこっちのこと」

 

 穂乃果が質問すると、東條先輩は意外なことを言ってきた。矢澤先輩のこと?一体何のことだ?

 

「ここじゃなんだし、どっか落ち着けるとこにしない?稔先生と間くんも一緒に来てくれる?」

「えー?俺も?悪いけどおっさん、真面目な話するとじんましんがでるんだよねー」

「何故俺まで……」

「だって二人も当事者やろ?説明一緒にしてほしいんよ。お願い」

「んー。まー、いっか!希ちゃんのお願いなら断れるわけねーもんなー」

「…………」

 

 東條先輩の頼みに浮竹先生はヤレヤレと肩をすくめながら応じ、間先輩もあからさまに嫌そうな顔をしたものの、溜め息と共に小さく頷いた。

 

「んじゃー相談室にでも行くかい?あそこならこの人数も入れるし、真面目な話はゲームでもしながらしようや」

 

 ☆☆☆☆☆☆★★

 

 

「スクールアイドル?」

 

「にこ先輩が?」

 

「一年生の頃やったかなー。同じ学年の子と結成してたんよ」

 

「そうだなぁ。お前ら二年生が入学してきた頃まではライブもしてた、な。と悪いな希ちゃん、赤でドロ4!UNOだ!今日こそ勝たせてもらうぜ!」

 

「はいはい。でも今はもう、やってないんやけどね。ごめんな凛ちゃん。赤のドロ2でUNOや」

 

 ……今更かもしれないけど、真面目な話してんのにUNOしてていいのか、俺達?

 

「止めちゃったんですか?」

 

「うー、ごめんねかよちん。緑でドロ2!」

 

「矢澤以外のやつが、な」

 

「すいません剣持先輩、緑でドロ2です……で、でも、何でですか?にこ先輩、あんなにアイドルのこと……」

 

「アイドルとしての目標が高すぎたんやろうね。ついていけないって、一人止めて、二人止めて」

 

「……先生は止めなかったんですか?顧問なんでしょ?あ、西木野、悪いけど色変えて黄色でドロ4」

 

「んー?止めたよ、一応ね。つっても、付いてけないって奴を無理やりやらせるほうが、俺の主義に反するし、何よりおっさん、生徒の自主性を重んじるタイプだから。あいつらが決めたことに口出しして、考え改めさせることが出来るほど、出来た人間でもないし口も起たないしねー」

 

「……それ、やらなかったことの言い訳じゃないの?はい、黄色のドロー2でUNOよ」

 

「だねー。実際辞めさせちゃったし、言い訳だわな」

 

「そう言えば間先輩は?なんで関係者なんですか?」

 

「間先輩!赤のドロー2でUNOです!」

 

「……俺はあいつと中学からの付き合いでな。まあ、所謂腐れ縁というやつだな。やれ風紀委員なら見回りついでにビラ配れだの、同じ中学のよしみなら照明とかの機材の準備を手伝えだのと……雑用をさせられていたわけだ。まったく、風紀委員は雑用係ではないと何度も言っているのに話を聞かないやつだった。園田二年生、黄のドロー2だ」

 

「マネージャー、というわけですか。穂乃果、すみません。青のドロ2です」

 

「そんな大層なもんじゃない。ただただあいつに付き合わされただけだ」

 

「じゃあ、にこ先輩が私達にあんなこと言ったのって……」

 

「多分、あなたたちが羨ましかったんじゃないかな?」

 

「羨ましかった?」

 

「歌にダメ出ししたりダンスにケチつけるってことは、それだけ興味があって、見てるってことやろ?」

 

「……そっか。そう考えると確かに、あのきつい言い方も……」

 

「うむ!まさしく矢澤先輩のおっしゃるプロ意識というものですね!しかしだからこそ、プロ意識から来るあの岩石の如き頑なさ、恐らく並大抵のことではこゆるりともしないでしょう」

 

「……なかなか難しそうだね、にこ先輩……」

 

「そうですね……先輩の理想は高いですから、私達のパフォーマンスでは納得してくれそうも有りませんし……」

 

「説得も、無理だなあれは……」

 

「そうかなー?はい!青のドロ2!それからUNOだよ!ことりちゃん!」

 

「?……何が言いたい、高坂二年生」

 

「にこ先輩はアイドルが好きなんでしょ?それでアイドルに憧れてて……私達にも興味が有るんだよね?」

 

「うん。あ、ごめんなさい先生、色を変えて黄色のドロ4です」

 

「………………oh…………………」

 

「それって、ほんのちょっと何かあれば上手くいきそうな気がするんだけど……」

 

「…………ほう」

 

「…………ふふ」

 

 穂乃果の、フワッとした説明に、しかし間先輩は眼鏡の奥の吊り目をキラリと光らせながら、東條先輩は意味深な笑みを浮かべて穂乃果を興味深そうに見ていた。そして先生はうなだれながらカードを山から引いている。

 

「え?あ!いや!あの!別に何か分かったとか、解決策が有るとかそういうんじゃないですよ!?ただあの……えーっと!う~!出てこない~!ここ!喉まで出てるんだけど~!」

 

「いや、別に急かしているわけではない」

 

 穂乃果は必死でこめかみに指をグリグリと当てながら言葉を探している。でも、

 

「俺も穂乃果と同じ意見ですよ。だって、わざわざ隠れて俺達の話聞いてますもんね、矢澤先輩」

 

 わざと声を張り上げて背後の扉に声をかけると、ガタンと扉が揺れ、走り出す気配と足音が聞こえた。ことりと海未と穂乃果が慌てて扉を開けて外に出たが、どうやらすでに見えなくなったらしい。すぐに戻ってきた。

 

「真琴くん、気づいてたんですか?」

 

「まあな。それより穂乃果、その顔、なんか閃いたんだろ?」

 

「フッフッフッ、分かっちゃう?」

 

 そう言いながら、穂乃果はニマニマと笑いながら海未を見る。

 

「これって海未ちゃんと同じじゃない?」

 

「私ですか?」

 

「ほら!あの時だよ!海未ちゃんと知り合った時!私とことりちゃんと他の友達で遊んでた時、海未ちゃん恥ずかしがって声かけられなくって、隠れながら私達のことずっと見てたじゃん!その時の海未ちゃんとにこ先輩ってそっくりだなって!」

 

「あー!あの時の!あの時の海未ちゃん、涙目で可愛かったよねー」

 

「そ、そんなことありました?そもそもなんでそんなこと覚えてるんですか!?もう!そもそも今回の件と関係有るんですか!?」

 

「あー!でもそれなら真姫ちゃんがμ’sに入ったときと同じだよねー!」

 

「うぇっ!?わ、私は関係ないでしょ!」

 

「でも真姫ちゃんってμ’sに入る前、ビラ持って帰ってたり、張り紙とか壁新聞とかよく見てたよね」

 

「は、花陽まで……もー!なんなのよー!」

 

「フハハハハ!恥ずかしがることはないぞ真姫くん!君は自分の意志でμ’sに入った!恥ずかしがる要素など一つもない!」

 

「なんであんたは上からなのよ!あー!あんたと話してるとイライラするのよ!入ったのだってあんたが無理矢理連れてきたのもあるし、大体いっつもいっつも……………!」

 

「真姫ちゃんまた照れ隠ししてるー」

 

「ま、真姫ちゃん、飛鳥くん、あんまり喧嘩しちゃ駄目だよ……」

 

「……やはり、面白いな。μ’sは」

 

 昔話で盛り上がる穂乃果達3人、飛鳥に突っかかる西木野と、そんな二人を見て笑う星空と止めようとする小泉ちゃんを見て、間先輩は小さく笑った。

 

 ………………、やっぱりこの人に頼むのが一番だな。

 

「間先輩、前から言おうと思ってたんですが……」

 

「なんだ?突然?」

 

 こちらを見る先輩を見ながら、μ’sのマネージャーとして果たすべき役割を教えられたあの日を思い出した。アイドル研究部の手伝いをして、矢澤先輩を支えたことがあるこの人なら……。

 

 

「間先輩、μ’sのマネージャーになってください」

 

 

☆☆☆☆☆☆★★

 

 

 翌日の放課後、

 

『『『お疲れ様でーす!!!!』』』

「!」

 

 アイドル研究部の部室に入ってきた矢澤先輩はまるで鳩が豆鉄砲でも食らったかのような表情で固まった。

 

 当然だ。まさか俺達が部室で彼女が来るのを待っていたとは思いもよらなかっただろう。

 

「どうぞ席にお掛けください、部長」

「お茶です部長!」

「今年の予算表です部長」

「部長!?」

 

 俺が矢澤部長を座らせると穂乃果がお茶を、ことりが予算表を出してきた。

 

「部長ー、ここにあったグッズ邪魔だったんで棚に片付けましたー」

「種類別、年代別、グループ別に整頓してあります部長!」

「こら!勝手に……」

 

 二人でグッズやDVDを片付けたことを誇らしげに報告する星空と飛鳥。

 

「参考にちょっと貸して。部長のお気に入りの曲」

「な、なら迷わずこれを!」

「ちなみにもう一度確認するがこれの購入費はまさかとは思うが部費から捻出したのではないだろうな、部長?」

「わー!それは!てかなんで歩まで!?」

 

 今度はお気に入りの曲を要求する西木野に例のDVDを勧める小泉ちゃん。相変わらずDVDの購入費のことを気にする間先輩がいることに驚く矢澤先輩。

 

「言ってなかったが、俺もμ’sのマネージャーになったんだ」

「はあ!?」 

「部長!次の曲の相談をしたいのですが部長!」

「やはり次は、更にアイドルを意識したほうが良いと思いまして」

「それと、振り付けも何かいいのがあったら」

「演出やステージについてもご相談があります部長」

「おうおうモテモテだねぇ、部長」

 

 更に畳み掛ける穂乃果達と俺も次のライブやPVのことを相談する。その様子を浮竹先生はニヤニヤと笑ってみていた。

 

「……こんなことで押し切れると思ってんの?」

 

 俺達が一斉に矢澤先輩に報告や相談を持ち込むと、矢澤先輩は低い声で凄む。明らかに敵対意志を感じる。

 

「押し切る?私はただ相談してるだけです」

 

 しかし、そんな矢澤先輩に穂乃果は真っ直ぐな目で矢澤先輩を見ながら答えた。

 

「音ノ木坂アイドル研究部所属の、μ’sの7人が歌う次の曲を!」

「7人?」

 

 矢澤先輩は周りを見渡し、穂乃果達6人を見る。それから俺達にも目を向けた。

 

「にこ先輩!私達頑張ります!厳しいのは分かってます!だから!」

「……はっきり言って、あんた考えが甘々!あんたも、あんたも、あんたたちも!アイドルの厳しさがまるで分かってない!」

 

 矢澤先輩は6人一人一人を指差しながらぐるりと部室を見渡すと、腕を組んで仁王立ちになって、全員を睨みつける。

 

「いい?アイドルってのは笑顔を見せる仕事じゃない!笑顔にさせる仕事なの!それを、よーく自覚しなさい!」

 

 そう言うと今度はビシッと俺達マネージャーを指差す。

 

「あんたたちも!中途半端なことしないでよ!マネージャーを名乗るんならそれなりの覚悟をしなさい!稔先生も!あんまりグダグダだと許さないんだから!」

「当たり前ですよ。だって俺はμ’sのマネージャーですから」

「ええ!この飛鳥 麗にお任せください!」

「当然だ。この程度、出来なくてどうする」

「ま、ぼちぼち頑張りますよ」

 

 ☆☆☆☆☆☆☆★★★★

 

 

「なんであんたマネージャーになったのよ」

 

「何?」

 

 早速6人にアイドルになりきるための特訓を指導して、休憩に入ったとき、私は歩に近づいてマネージャーになった理由を聞くことにした。

 

「だってあんた、風紀委員長でしょ?だったらマネージャーなんてやってる場合じゃないじゃない。マネージャーと両立してたら風紀委員の仕事だってちゃんと出来ないかもしれないのになんで?」

 

「……理由は、五つあるな」

 

 私の質問に、歩は指を折りながら数え始めた。

 

「一つ目は、μ’sという存在はこの学校を変えるきっかけになると思ったからだ。μ’sの活動は、確実にこの学校に変化の嵐を与える。その変化をもっと近くで見たいと思ったからだ。二つ目は剣持に頼まれたからだ。あいつにはよく手伝ってもらっているからな。たまには奴の要求も聞かなくてはな。三つ目は……まあ、どこぞの阿呆への当てつけだが、個人的なことだ。忘れろ。それから四つ目は……」

 

 そう言うと歩はチラッとこちらを見た気がした。なんとなく、あのキツい吊り目が少し緩んで、優しそうな視線を向けられた気がした。もちろん気がしただけで瞬きしたあとにいつもの仏頂面になった。

 

「……ただ、中学校のよしみを今度は中途半端に頼まれたからではなく、キチンと支えてみようと思ったからだ」

 

「………………」

 

「それから五つ目はお前が部費を無駄遣いしてないか監視するためだ。むしろこちらのほうが問題だ。南二年生と一緒に予算表をまとめたがなんだあれは。無駄なものばかり買って、領収書の管理も雑だ。大体お前が書いた予算表や報告書、なんだあの出来は?酷すぎる。適当にもほどがある。まったく、それでもこの学校の最高学年か。お前は本当にそこらへんの自覚が「あーもう!うっさいわね!ほら!剣持が呼んでるわよ!さっさと行ってきなさいよ!」」

 

 なんか良い話し始めた思ったらすぐにこれよ!またグチグチ言われる前に、私は背中を押して剣持のほうに押していった。本当に面倒臭いわねあいつ。昼ドラの小姑かっての!

 

「いよっ。休憩か?」

 

「稔先生遅い!」

 

「アハハハハ、すまんすまん」

 

 今度はガチャンと扉を開けて稔先生が現れる。まったく、どこで油売ってたのかしらこのダメ教師は。

 

「まったく、私達の顧問なんだからもっと自覚持ってやってよね!示しがつかないじゃない!」

 

「だなー。うちの部も一気に大所帯になったなー」

 

「あんたもその大所帯にした原因の一人でしょ?」

 

「あれー?そうだっけ?」

 

「まったく本当に読めないわね、あんた……さっ、あんたたち!休憩終わり!次はダンスよ!稔先生も見ててなんかあったら言ってよね」

 

「はーい!いこ!海未ちゃん、ことりちゃん!」

 

「そうですね。振り付けも確認しないといけませんし」

 

「あとで衣装のことも相談しないとね」

 

「またさっきの練習じゃなくって良かった」

 

「よーし、頑張ろうー!」

 

「私は、さっきの練習もう少ししたいかなぁ」

 

 皆やる気に満ちた顔をしている。特に二年生達がまだまだ元気そうだった。

 

 ……あの子達も、「あんなライブ」を経験したってのに、全くへこたれていない。

 

 一年生達も何だかんだ言ってるみたいだけど、気合い十分、て感じね。

 

 ……もしかしたら、この子たちとなら……。

 

「どうした矢澤ー。始まるぜー」

 

「い、今いくわよ!」

 

 稔先生に声をかけられて我に帰る。いけない。今は感慨にふけってる場合じゃない。

 

 だってこれから始まるんだもの!私の、宇宙No.1アイドルへの道は!きっとこの子たちと一緒なら、叶えられるはずだもの!

 

 

「良かったな、矢澤。やっと、同じ夢を目指せる仲間が出来たな」

 

 

 

 

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