私は今、生徒会室で風紀委員の報告書に目を通していた。
この間、用務員さんと風紀委員、ボランティアの一名で学校のどぶさらいをしてくれたらしい。
予想通り、風紀委員の女子メンバーは参加させず、男子メンバーだけで行ったようだ。女子メンバーは代わりに花壇の手入れを行っていたらしい。
相変わらず風紀委員、というか風紀委員長の間くんは人のあまりやりたがらないことを率先してやってくれる。どぶさらいなんて普通はやらないわよ。
風紀委員の他の子達もあまり不満を持っていないようだし、それどころか全員参加していることに驚く。風紀委員の団結力と風紀委員長の彼の統率力の凄まじさを改めて感じた。
そしてμ’sのマネージャーをやっている便利屋の二年生も手伝っていたらしいので、かなり短時間で終わったらしい。というかほとんどその二年生と間くんでやってしまったみたいね。しかもこの便利屋の二年生、どぶさらいの後、野球部と一緒に野球場の草むしりやボールの手入れも手伝っていたっていう目撃情報もある。間くんも凄いけど、何者なのかしらこのマネージャーの便利屋くん?
風紀委員の仕事ぶりは用務員さんも認めていて、さっきも、あっという間に終わってしまって自分の仕事がなくなってしまいそうだったと笑いながら風紀委員の仕事ぶりを褒めていた。
……………………。
「あれ?絵里ち一人だけなん?」
「希……」
生徒会室に希が入ってきた。今日は生徒会の集会が予定されてて生徒会役員全員に放課後に集まるように声をかけたけど、まだ時間が早いからか私以外の役員はまだ来ていない。
「どうしたの?なんか雰囲気暗いよ?」
「え?そ、そうかしら?」
「うん。眉間にこーんな皺寄せてたよ」
といって希は指で眉間に皺を作ってみせた。希には申し訳ないけどちょっと間抜けな感じの顔になってて思わず笑ってしまった。
「で?何をそんなに悩んでたん?」
「別に悩んでたんじゃないわ。ただ……」
「あ、もしかして間くんのこと考えてたりしてー?」
「え?イタッ!」
その時、私は希に言われたことに動揺して持っていた報告書で指を切ってしまった。
「絵里ち大丈夫!?」
「大丈夫よ。ちょっと切っただけだから」
希が驚いて近付いてくる。安心させるため指を見せる。人差し指に小さく傷が一筋ついた。血が少し滲んでいるけど、このくらいなら平気ね。
「一応絆創膏しておくね」
「ありがとう希」
希が人差し指に絆創膏を貼ってくれた。花が描かれた可愛い絆創膏だった。本当に希は準備が良いわね。
「変なこと言ってごめんね絵里ち。でもカードが絵里ちが悩んでるって告げてるんや。ちょこっとだけ、話してもええんやない?」
「別に悩みとかそう言うのじゃないわ。…………ただ」
一瞬、言うべきかどうか迷ったけど、希は何か言うでもなく、ジッと見つめながら私が話すのを待っている。……希になら、話しても良いかしら?
「…………ただ、彼の方が学校のために色々してるのに、私なんにも出来てないなって思っちゃっただけなの…………」
間くんは常に生徒達の様子や学校のことを気にしていて、何かあれば誰よりもはやく行動する。風紀委員の人達も、そんな間くんに不満も持たずに従って、色んなことをしてくれている。対して私はどうだろう?こうして報告書を提出されるまで、彼らがどぶさらいや花壇の手入れをしてたり、トラブルがあったことにも気づかなかい。
……私は……。
「生徒会長としてそれで良いのか、ってこと?」
希が、私の言いたかったことを先回りして言ってくれた。私は小さく頷く。すると希は、
「絵里ちって、意外と欲張りなんねぇ」
「……え?」
私が欲張り?何が欲張りなのかしら?私はただ出来ることが無いなって思ってるだけで……。
「前に間くんも言ってたんだけどね?『勝手に俺達の仕事を取ろうとするな。自分の仕事だけしていろ。それに中途半端なことをされるほうが迷惑だ』って絵里ちに言っておけって」
「……………」
希が間くんの真似をして腕組みして顎を少し上げて目を細めて彼の台詞を言った。でも、間くんがそんなことを?どういう意味かしら?
「つまり、『心配しなくても絵里ちはちゃんと仕事してるし、そっちだけに集中してほしい』ってこと」
「私の、仕事?」
「うん。絵里ちは生徒会長の仕事、頑張ってるってうちは思うな。だって、絵里ちもまだ廃校のこと、諦めてないんやろ?」
「…………」
「今日も生徒会の皆を集めて話し合おう思ったんやろ?皆を集めて、意見をまとめて解決する。それが、生徒会長の仕事じゃない?」
「…………」
「間くんだってそのこと分かってるからあんな風に言ってるんだと思うよ?それなのにもっともっと頑張るのは欲張りや。だからそんなに肩に力入れんでいいんよ」
本当はもっと肩の力抜いて欲しいんやけどね。と希は優しく微笑んだ。
…………私はまだ、納得出来ないと思うところもあるけど、でも希が言うことにも一理あると思った……。
「ありがとう希。ちょっと、気を張りすぎてたのかもしれないわね」
「ふふふふ。分かってくれればええんや。うちは絵里ちの頑張り屋なところは好きだけど、頑張りすぎるのは心配なんよ」
「……ごめん。でも私、まだまだ頑張らないといけないの。だって私、生徒会長だから」
「うん。分かってる。だからうちも、支えるつもりでここにおるんやから」
「ありがとう。私もあなたのそう言う所、結構好きよ、希」
私はなんとなく立ち上がって希の頭を撫でた。絹のように触り心地の良い髪は、ずっと撫でていたくなるほどだった。
「わっ!なんなん絵里ち?髪が崩れるって!」
「ごめん希。なんとなくこうしたくなったの。もう少しこうしてていいかしら?」
「……もう、しょうがないなぁ絵里ちは。じゃあもうしばらくこのまま……」
ガタン!
「「え??」」
その時、生徒会室の入り口から物音が聞こえた。そちらに目を向けると、
間くんと副風紀委員長、他の生徒会役員の皆が扉のところにいた。
「……………………ごゆっくり」
そう言って間くんは生徒会室の扉を閉めた。
「いやいやいやいやいやいやいやいや!!!!」
「ちょちょちょちょちょちょちょちょ!!!!」
私と希は大慌てで生徒会室の扉に突進する。ごゆっくり??ごゆっくりってどういうこと!?明らかに何かいけない勘違いさせた気がする!
「あ、間くん!い、いつからそこに!?」
「『ありがとう希。ちょっと、気を張りすぎてたのかもしれないわね』の辺りからだ」
「み、皆ももしかしてそこからいたん!?」
「は、はい……。すみません、もうちょっと遅く来たほうが良かったですよね?」
「いやいやいや!何その変な気遣い!?絶対なんか変な勘違いしてない!?」
なんで皆私達のこと見た瞬間顔を赤らめるの!?なんで目をそらすの!?
「ほら!やっぱりえりのぞなのよ!えりのぞで間違いなかったのよ!」
「何言ってんの!さっきの会話聞いてたでしょ!?あれはのぞえり!のぞえりよ!希先輩の包容力見たでしょ!?」
な、なんだか副風紀委員長と庶務の子が盛り上がってるけどどういう意味なの!!??
「すまないな絢瀬生徒会長、東條副会長。お前達がそのような関係だとは知らなかった」
「そのような関係ってどのような関係!?ねえ絶対勘違いしてるよね間くん!?」
「安心してくれ。お前達のことはこの場にいる者以外、他言無用にしておくから」
「勘違いだから!だからその暖かい目は止めて!」
本当に見たことないんだけど!あなたのその慈愛に満ちた眼差し!そのびっくりするくらい優しい微笑み!しかもさっきからいつまのぶっきらぼうな言い方じゃなくって子供をあやすみたいなスッゴい安らかな声色なんだけど!?
「俺はそう言うことに偏見や差別はない。お前達が本当にそう言う関係なら祝福しよう。何か困ったことがあったら相談しろ。大丈夫だ。風紀委員長として俺がついている。あ、一応言っておくが風紀を乱すようなことだけはするなよ。それにさえ注意してくれればお前達のこと、応援しているからな」
「「だから違ーう!!!!」」
………………その後、全員の誤解を解くのに二時間かかった…………………。
「あれ?剣持先輩見てください!花壇にユリの花が咲いてますよ!」
「本当だ。でも誰が植えたんだこれ?」