「練習着」
「練習着について、お前は考えたことはあるか?」
「何?ただのジャージ?動きやすい服?」
「おいおいおい?お前は今までの人生で何を見てきたんだ?そんなことじゃあ15点しかやれねぇなぁ。女の子だったら65点くらいだったな」
「あ?当ったり前だろうが!甘ったれんな!俺のモットーは男子に厳しく、女子には優しく、勉強は平等にだ!俺は女の子にはベタ甘だぞこの野郎!オマケにチョコパフェ奢るくらいに甘々だぜ!」
「…………話を戻すか」
「お前は練習着の真の価値を知らない。確かに練習着は着て練習するやつがいなきゃただの動きやすい服でしかない」
「俺が言いたいのは使用した時の話よ」
「練習着に身を包んだ乙女の目標に向かって練習する姿。溢れる情熱が燃えるような熱となり、輝く青春の汗は一瞬一瞬で宝石のように煌めく。さらに汗と熱が合わさった時、練習着は肌に張り付いて分かりそうで絶妙に分かりづらいボディラインを露わにし、本人の知らないところで視覚的な暴力を持って俺たちを翻弄する!」
「そしてここからが、練習着の真骨頂だ」
「練習に熱中し、更に動きは激しく、内なる炎はより熱く燃え上がる!全身を駆け巡る熱い思いを自らの身を持って表すべく飛び上がった瞬間垣間見える!まるでそれは日蝕が生み出すダイヤモンドリングのような一瞬の美……!!」
「……人はそれを『HA☆RA☆TI☆RA』と呼ぶ!」
「『HE★SO★TI★RA』も忘れんなよ!」
「使用後には使用後の良さがあるがそっちは『練習着:使用後編』として別の機会にしよう」
「さあ、ここまで言ったら分かるだろう、練習着の真の魅力!」
「練習着……それは、着用者の熱い思い全て受け止め、吸水性、撥水性、動きやすさ、生地の薄さ、その全てで『青春』を体現する輝きの結晶なんだよ!」
「……どうだ、新しい黄金の道は開けたか?」
「こんなもんじゃあない。まだまだ練習着の奥深さは断じてこんなもんじゃあない。俺もまだ解明できていない奥深さがある。それはある意味、紳士の永遠の課題の一つだと思わないか?」
「どうだ剣持?お前も俺とともにこの道を進んでみないか?」
「俺まで巻き込もうとしないでください。いい加減でるとこ出ましょうか?浮竹変態先生」
全世界の紳士の皆さん、練習着のメーカーの皆さん、失礼な発言の数々、誠に申し訳ありません。全てこの変態が頭に付く紳士の戯れ言です。
「つーかマジでいい加減にしてくださいよ浮竹エロ先生。先生は俺の一番上の姉の職業知ってますよね?告げ口しますよ?」
「えー?つれないな剣持~。今の話、麗火(らいか)なら一緒に大盛り上がりしてたぜ?」
「あんたの阿呆みてえなエロ談義を布教すんなつってんですよ浮竹スケベ先生!」
「ふっ。生徒に新たな道を指し示すのも、教師の大事な仕事だと思ってるぜ、俺は」
「明らかに踏み外しまくった道じゃねぇか!謝れ!真面目に働いてる全ての教職員に謝れ!」
「アッハハハ。でも今はお前にしか話してないぜこの話。だからセーフだよセーフ」
「穂乃果達の練習見ながらそんなこと話してる時点でアウトだよ!色々狂ってるよ!あいつらに聞かれてたらどうするつもりだったんだあんた!俺のほうが怖いわ!」
「そう言えばさっきから何作ってんの?」
「あんたのその度胸だけは本当に見習いたいですよ浮竹変態(せんせい)…………ことりの手伝いで次のPVの衣装作りしてるんです。言ったと思うんですが……」
数日前、生徒会が部活のPRのための動画を撮ることになったのでその手伝いをした。もちろんμ’sもPRをさせてもらい、更にカメラまで貸してもらえることになった。なので俺達はカメラを使ってPVを撮ることにした。
今俺はブルーシートの上でみんなの練習を見ながらその衣装を作っているところ……だけど。
「お前ってそんなに裁縫苦手だったっけ?」
「いや、裁縫自体はそれなりに出来るんですけどイテッ!」
ッつー!また刺しちまった!これで何度目だ?
俺はさっきからことりから貰った完成予想図を元に衣装を作っているが、自分でもビックリするほど進まない。
寸法間違えそうになったり簡単に糸が解けたり、何度も指を針で刺したりと凡ミスばかりしている。
「前にお前らの担任のジャージ直してたよな?」
「ええ。直しましたよ。今日もクラスのやつからこれ直してほしいって言われたんですよ」
俺は鞄から壊れたぬいぐるみを取り出す。ぬいぐるみは綿が飛び出て腕も取れている。毛皮も手垢だらけで何かのシミや汚れがついてたりくたくたになってて、目も片目だけない。まさに半壊状態だ。
俺は針に糸を通すと補修を始める。
おおよそ3分弱でぬいぐるみを直すことが出来た。
「はやっ!?えぇ!?なんだこれ、新品みてえだ!」
ボロボロのぬいぐるみは、なんとか直す事が出来た。綿も詰め直して皮も張り直して手触りや柔らかさを取り戻した。縫い目も目立たなくしたし、さっきまで作ってた衣装用の生地の切れ端でリボンや新しく服を作って着せてみたが、悪くない出来だと自画自賛する。服も前に穂乃果達が使ったあの衣装を真似たものが出来た。
「こんなふうに直したりアレンジしたり、完成品を複製したりは出来るんですけど、どうも新しいのを作るのが苦手で……」
「……ロボットみたいなやつだなぁお前」
「一応人間なんですけど」
「で、どうなんだよ衣装?本当に作れんの?」
「……まあ頑張るつもりですけど……今回はみんな違う衣装だからことりに完成品を作ってもらってそれを複製、みたいなことも出来ませんし……最終的にはことりに見てもらうことになるかも」
「出来ないならことりちゃんにそう言えば良いじゃねぇか」
「手伝ってくれって言われたら断るわけにはいかないでしょ」
「やれやれ。相っ変わらず頼まれたら断らねえなお前は。つーよりただの優柔不断か?ま、俺もことりちゃんに頼まれたら断れねえかもなぁ」
「あんたと一緒にされたくねぇ」
「二人とも!ちゃんと練習見ていたんですか!?」
俺と先生が話していると、海未がサボっていると思ったのか怒ったように近づいてきた。まあ、実際この阿呆教師に馬鹿みたいな話聞かされてたけど。
「大丈夫大丈夫。先生ちゃんと見てるから。園田が前から気をつけてるところがだんだん出来るようになってきて嬉しいってのも分かってるから。でもまだちょこっと笑顔が固いなぁ。練習の時も笑顔は忘れずだぜ園田」
「そうそう、練習してたスマイルをここで発揮するとこだぜ海未。本番にはバシッと決めてくれよ?」
「うぅっ!?え、えっとあの、み、見ているなら、良いんですけど……というかあれは忘れてください真琴くん!プライバシーの侵害だって言ったじゃないですか!?」
「それより剣持くん。あんたが言ってた専門家はいつ来るの?」
「もうすぐ来ると思いますよ。時間に正確なやつなんで後一分くらいしたら来ますよ」
顔を赤くして騒ぐ海未に代わって、今度は矢澤先輩が話しかけてくる。実は今回のPV撮影に当たって助っ人を呼ぶことにした。流石に俺一人の力では限界があるので、専門家を呼ぶことにした。それから、多分穂乃果が情報を漏らしたんだろうけど、あの「3人」も手伝うと名乗りをあげた。
数分後、
「ちわーッス。まこに呼ばれて来ましたー。写真部二年生の麗火ッス。んでこいつはアシスタントの智佳(ちか)ッス」
「…………よろしく」
「穂乃果ー。私達も手伝いに来たよー」
「PV撮るんだよね!面白そうだから来ちゃった!」
「正にアイドルって感じだね。さあ、なんでも言ってよ!どんなことでも手伝うよ!」
予想通り予定していた時間ピッタリにやってきたのは俺の親友二人とヒデコ、フミコ、ミカのヒフミトリオだった。
「え!?なんでヒデコちゃんたちもいるの!?」
「あ、アハハハ。実は3人にPVのことポロッと言っちゃって……」
「穂乃果!あなたまたペラペラと喋ったんですか!?」
穂乃果が予想通りに言っていたらしくそのことを言うと、いつも通り海未の説教が始まる。ヒフミトリオは仲裁に入りながら撮影を手伝うことを海未に改めて伝えていた。
俺もあの3人からそのことを言われたときは驚いたけど、3人は、友達が頑張ってるんだから自分達も頑張りたい!ファーストライブのリベンジをしたい!と言ってくれた時は、3人の背後に後光が差したように見えた。本当に友達思いな良い奴らだ。頼りがいが有ることこのうえない助っ人達だった。
え?海未にヒフミのことを言わなかった理由?もちろん情報漏らしたどっかのお馬鹿を思いっきり怒って欲しかったからに決まってるだろ?
ヒフミトリオのことはともかく、俺は自分の悪友達に声をかけることにした。
「麗火、お前、智佳まで連れてきたのかよ」
「当ったり前だろ。こいつにはいっつも手伝わせてんだからカメラの扱いはバッチリだし、俺達3人全員いなくちゃ始まらないってやつだろ?」
「だからってお前……一応こいつ水泳部のエースだろ?智佳も。たしかお前大会控えてんじゃなかったか?良いのかよこっち来て」
「…………ジャリジャリ君4つで手を打った」
「安いなお前は!毎度毎度ジャリジャリ君に釣られやがって!」
「それに俺、誰にも負けないし」
「そりゃお前なら余裕かもしんねぇけどなぁ……」
他の水泳部の皆は驚くってもんじゃないだろうなぁ。
「まこくん、麗火くんが専門家ってどういうことなの?」
「ああ、こいつは中学の時から自主制作の映画を作ってんだよ。俺と智佳はその手伝いをしてんだ」
「おおー!凄いよ映画なんて!どういうの作ってるの?」
「アクションとかサスペンスとか、時々恋愛ものとかかな。基本的に自分たちがスタッフ兼役者って感じだな。ま、撮影や編集はこの麗火様に任せなさい!バッチリ可愛いPVを撮ってやるよ」
ことりの質問に答えると、穂乃果は目を輝かせた。麗火も自信満々で穂乃果達に宣言した。
「先輩!お待たせいたしました!頼まれたもの買ってきました!」
「生徒会や先生方にも校内の一部を使っての撮影許可を取ってきた。これで何時でも撮影出来るぞ」
今度は大量のレジ袋を両手に抱えた飛鳥と同じくレジ袋を持って間先輩が現れた。二人には撮影のための飾り付けの材料を買ってきてもらっていた。さらに先輩は生徒会とかに許可を取りに行ってきてくれた。そう言えば昨日も生徒会室に許可を取りに行ったみたいだけど、結局取れなかったらしい。何かあったのか?
「じゃあ早速撮影の打ち合わせでもしますか!えーっと、取りあえずμ’sの意見聞きたいから音楽担当と作詞担当、あと代表一人来てください。どんな風なPVにするか決めますんで」
「仕方ないわねぇ。ここは部長のこの私が代表でPVを決めてあげるわよ!」
「分かりました。早速始めましょう」
「ふぅ。面倒だけど行かなきゃ駄目よね……それににこ先輩だとどんなPVになるか分かったもんじゃないし」
「何よ!文句あるの!?」
「じゃああたしも撮影班に入るね。どんなふうな撮ればいいのか聞いときたいし」
「…………頑張る」
麗火の呼びかけに矢澤先輩、海未、西木野が答え、更にヒデコと智佳もその打ち合わせに行くことにした。後であっちに出て編集とか打ち合わせしないとな。
「じゃあ衣装作りだけど、他に誰か手伝ってくれる人いるかな?」
「はーい!じゃあ衣装作りは私がやるよ!」
「わ、私もお手伝いしても良いですか?」
「ミカちゃん、花陽ちゃんありがとう!じゃあ二人はこの衣装をお願い」
「悪いな二人とも。俺も頑張るから一緒に頑張ろうぜ」
次にことりの呼びかけでミカと小泉ちゃんが衣装作りに加わることになった。二人はことりから完成予想図を手渡されると気合い十分というように大きく頷いた。俺も四苦八苦しながらようやく一着完成した。出来るだけ3人に迷惑かけないようにしないとなぁ。
「じゃあ残りは飾りの作成だ。どこにどんなふうな飾りが良いか決めながらやるぞ」
「よーし!頑張ろー!」
「凛、いっぱい可愛い飾り作るにゃー!」
「高いところに飾りを貼るときはこの飛鳥 麗にお任せください!見事な装飾を施してみせましょう!」
「楽しみだなー!私も皆に負けないくらい頑張るよー!」
「やれやれ、おっさんも老骨に鞭打って頑張ろうかね」
間先輩の呼びかけに穂乃果、星空、飛鳥、フミコ、浮竹先生が答える。早速どんな飾りを作るか決め始めた。
こうして俺達は、μ’sの初めてのPV撮影に向けて準備を始めた。
そして、撮影当日。
「ムムムム!何だか緊張してきた~!」
「へえ、穂乃果も緊張することあるんだな」
「そりゃするよ!だってカメラがあるんだよ!?なんか意識しちゃって……」
「ま、ライブの時より近くに有るからな」
撮影前、何となく穂乃果の様子を見に行くと、珍しく緊張しているようだった。他の皆も緊張しているようで、小泉ちゃんもさっきからウロウロしてるし、海未も鏡に向かって何度も笑顔の練習している姿は、かなり面白かったので思わずスマホで録画してしまうほどだった。
皆の緊張も分かんなくもないけど。
「大丈夫だろ。お前らなら」
「え?」
「他の皆にもいったんだけどさ、そりゃPV撮影なんて初めてだろうけど、いつも通りにやれば大丈夫だ。いつも通り、ありのまま楽しめば良いじゃねえか。良く言うだろ?楽しんだ者勝ちだってさ」
「……」
「でもありのままって言ったって、緊張解すためにパン食って、口にパン屑付けたままにしてるのはどうかと思うけどな」
「えぇ!?どこどこ!どこについてるの!?」
「う・そ」
「まこくーん!!」
「アハハハ、すまんすまん。でも、お前らなら大丈夫だって思ってるのは本当だから」
「……うん!ありがとうまこくん!おかげでちょっと緊張しなくなったよ!そうだよね!楽しまなきゃ損だよね!よーし!楽しくPV撮ってこう!」
「ああ!その意気だ!バッチリ楽しんでこい、穂乃果!」
「うん!」
「そろそろ撮影始めまーす!皆集まってー!」
「あ!始まるみたい!」
「んじゃ、行きますか」
「うん!」
「カメラ、マイク、照明係、準備OK?」
「いつでもどうぞ!」
「音響係は?」
「問題無し」
「μ’sの皆、準備OK?」
「うん!皆いつでもいけるよ!」
「よーし!それでは撮影始めまーす!本番5秒前!4、3、2…………………」
『『『μ’s!ミュージック!!スタート!!!!』』』