いつの日か…   作:かなで☆

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第百二章 【参のかけら】

 全身を襲った浮遊感。

 そのおさまりと共に目を開く。

 

 そこには限りなく黒に近い濃紺に染まる空間があるのみで、その中に自分たちが浮いているのだと気づく。

 

 「わ…」

 

 落ちたりはしない。

 だが思わずイタチの腕にしがみついた。

 「大丈夫だ。足元はしっかりしている」

 イタチの言うように、見えはしないが足場はしっかりとしていて、透明な床の上にいるような感じであった。

 

 「ここはわらわの作り上げた空間だ」

 タゴリが黒い長笛を手に取り八尋に差し出す。

 そこに八尋が練り上げた力を注ぐ。

 「この中にさらにもう一つ時空間を作ってある。その空間ごと最後のかけらを封印しているのだ。まずその空間の封印を解く」

 「そしてその空間の封印は」

 「ボクたち3人が揃わなければ解けない」

 それぞれに笛を構え、何もない空間の中に見事な奏でを響かせてゆく。

 その音を受けて空間の中に小さな光が生まれ、濃紺一色であった空間に広がりゆき、それに導かれて描かれていくかのように景色が生まれた。

 

 しばらくして空間の全てが彩られ、そこに現れたのは深く美しい森であった。

 その中の開かれた場所には小さな泉があり、タゴリ、サヨリ、タギツがそこへと向かって歩き出す。

 

 「あなた方も」

 八尋がそう言って水蓮とイタチを促した。

 「行こう。イタチ」

 水蓮が手を差し出す。

 「ああ。行こう」

 イタチが強くその手を握りしめた。

 

 泉の前で姉妹が水蓮とイタチを見つめる。

 「かけらはこの泉の中に封印されている」

 タゴリの言葉を受け、水蓮は不安げな表情を浮かべた。

 今度はどうすればよいのか…。

 またその方法を探さなければならないのだ…。

 

 「心配するな」

 

 その思考を読み取ったのかタゴリがフッと笑った。

 

 「ここにおいて、お前たちがしなければならないことは何もない」

 「え?」

 うつむいていた視線を上げた水蓮に、サヨリが笑みを向ける。

 「ワシとタギツがかけらを持ちここに来ること。それが最後の封印を解くカギだ。あとは姉者の術で最後のかけらを封印から解き放ち、再生する」

 「まぁ…やることがあるとすれば、祈るくらいかな」

 そう言ってニッと笑ったタギツにイタチが首をかしげた。

 「祈る?」

 水蓮の問いかけに3姉妹は低く鋭い声で答えた。

 「そうだ。この剣を欲するその理由を。お前たちの願いを」

 「それがボクらの力にもなり…」

 「剣の力にもなるのだ」

 最後にタゴリが力強く声を響かせ泉に身を向け印を組む。

 合わせてサヨリとタギツがかけらをその身より取り出した。

 かけらは泉の水の少し上に漂いふわりと浮かびとどまった。

 

 「ワタクシの後ろにいてください」

 八尋が水蓮とイタチをかばうように前に立ち、スッと右手を体の前に持ち上げた。

 その手のひらから薄い紫の光があふれ出て、八尋と水蓮たちを包み込む。

 「結界か…」

 「かなりの衝撃が予想されます。備えてください」

 イタチにほんの少しだけ振り向いて笑みを見せ、八尋はすぐに前に向き直る。

 水蓮とイタチは身構えながらも手をつなぎ目を閉じて祈る。

 

 その祈りは、口に出さずとも同じであった。

 

 

 サスケを救いたい…

 

 サスケの力がいつかこの世界を救えるよう…

 

 導けるように…

 

 

 この世界に生きた人々…

 今を生きる人々…

 そして、未来を生きる子供たちのために…

 

 

 

 この世界の平和のために

 

 

 

 

 強く、強く祈られたその想い。

 

 まるでその想いの強さを受け取ったかのように、タゴリの体から何か大きな力があふれ出るのを感じた。

 

 

 閉じた瞼の向こうにその存在を感じ、水蓮とイタチが目を開き息を飲んだ。

 

 印を組み続けるタゴリの体が黄金に光り輝いていたのだ。

 

 チャクラではない何か別の力がそこに感じられる。

 

 タゴリはその光をまとい最後の印を組み、泉に手をついた。

 

 「解!」

 

 

 その瞬間。

 

 

 どうんっ!

 

 

 深く重い音がすさまじい音量で響き。

 まるで爆発を起こしたかのように泉から光が広がり、走り、空間の中を白く染めた。

 連動して嵐のごとき風が吹き荒れ、タゴリ達の衣を激しく揺らす。

 激風は八尋の結界をもすり抜け、飛ばされるほどではないにしても水蓮とイタチに強く吹きつけた。

 「……っ」

 「…く…」

 すさまじい勢いに一瞬呼吸を止められる。

 イタチがすかさず水蓮を抱きしめて風から守った。

 

 目を開けていられないほどのまばゆい光。

 それは極限まで広がり輝き、少しずつおさまりを見せ、最後には小さな粒となって形をとどめた。

 

 事の収まりを十分に確認して八尋が結界を解く。

 水蓮とイタチは泉の上に浮かぶ3つのかけらに近寄った。

 

 先の二つの緑色のかけらの中心にふわりと浮かぶそれは濃い赤色。

 

 大きさはやはり蛍の光ほどの粒…

 

 こんなにも小さなかけらにあれほどまでにすさまじい力が…

 

 思わず水蓮の喉がごくりとなった。

 「一番強い力を持つかけらをここで封印していたのだ」

 タゴリの言葉にイタチがうなづく。

 その瞳にはすべての感情を読み切れない複雑な色が浮かんでいた。

 隣では水蓮もまた言葉に表せない気持ちで佇んでいた。

 

 

 かつてイタチから聞いた過去の話が順を追ってよみがえる。

 

 

 

 幼いころに戦場を目の当たりにし、争いをなくしたいと願った。

 その人生の中で、悩み、迷い、苦しみ…失い…それでもと進んできたイタチの最後の望みを叶える物…

 

 それが十拳剣。

 

 やっと手に入れることができる。

 

 探し続けてきた剣がここにある…

 

 

 すっ…と、水蓮の視線が落ちた。

 イタチの望みが叶う事を願ってきた。

 うずまき一族が…母が受け継いだものを自分が形にし、たどり着いたことも喜ぶべきことだ。

 

 よかった…

 

 

 その気持ちは嘘ではなかった。

 それでも、本当は心の奥底にずっとあった…

 

 

 

 

 見つからなければいい…

 

 

 

 

 そうすれば、もしかしたら別の道があるかもしれない。

 そうでなくとも、見つかるまで…それまでは一緒にいられるかもしれない。

 

 

 それはどうしても消しきれなかった想いであった。

 だがもし剣が見つからなくても、近くイタチはきっとサスケと戦っただろう。

 なんとかしてサスケを救い、そしてサスケに討たれる。

 

 その事はきっと変わらない…

 

 だから剣が見つかってよかったのだ

 

 イタチの望む最高の形で、イタチの望みが叶うのなら、これでよかったのだ…

 

 「よかったね。イタチ」

 

 笑顔でイタチにそう言った。

 それでも、瞳からは大粒の涙が次々と溢れていた。

 イタチは無言で水蓮を抱きしめた。

 水蓮の体が小さく震え、その体を支えるイタチの腕も同じように震えた。

 

 

 そこに水蓮は感じ取っていた。

 

 

 イタチも同じだったのだと…

 

 深い決意を持ちながら、同じように葛藤と結論を繰り返し、切なさの中を歩んできたのだ。

 

 

 

 タゴリ達は静かに二人を見守っていたが、ややあって水蓮とイタチの前に並んだ。

 

 「剣を再生する」

 タゴリの声が低く響き、水蓮とイタチがゆっくりとうなづく。

 「では、ワタクシは先に戻ります」

 八尋が静かに頭を下げた。

 「うむ。あちらを頼むぞ」

 「はい。お戻りをお待ちしています」

 ゆっくりとした動きで美しく辞儀をし、八尋は穏やかに笑んで姿を消した。 

 「元いた空間は八尋の力で安定しているのだ。あ奴が長時間離れるとうまく保てない」

 タゴリの言葉に、他の二つの空間もそうなのだろうと、市杵とハヤセがその役張りを果たすために残ったのだと知る。

 「始めるぞ」

 鋭く放たれたタゴリの一言に一気に緊張が走り、水蓮は胸元をキュッと握りしめた。

 

 

 

 それは本当に静かな執り行いであった。

 

 

 泉の上に浮かぶ3つのかけらをタゴリが両手で包み込んで一つにし、そっと泉に沈める。

 

 

 ただそれだけ…

 

 

 タゴリが泉から手を出すと、泉の水が静かに空へと舞いあがり、直径1メートルほどの球形となって空中にとどまった。

 時折ゆら…と揺れるその中には、小さな光。

 

 「イタチ。スサノオだ。ありったけの力でやれ」

 

 タゴリの言葉にイタチはほんの少し間をおいてうなづいた。

 その一瞬の間…。その意味を感じ取り、水蓮はイタチの背に手をついた。

 

 「水蓮」

 

 肩越しに振り返るイタチに答える代わりに、水蓮はイタチにチャクラを注いだ。

 

 

 これまでの出来事でイタチのチャクラはかなり消費されている。

 しかも先ほど一度スサノオを使ったばかり…

 

 

 【ありったけ】と言えるほどのチャクラがもう残っていないのだ…

 

 

 ぐっと力を入れてチャクラを練り上げる。

 そこにあふれた自身のチャクラに、水蓮は九尾のチャクラを合わせてゆく。 

 赤みを帯びたオレンジ色のチャクラに二人がつつまれてゆく。

 

 「任せて」

 

 力強いその言葉にイタチは「頼む」と笑みを見せ、回復した力で極限までチャクラを練り上げた。

 

 

 …ざぁ…っ…

 

 

 地面から風が巻き上がり、スサノオが存在を現す。

 先ほどの物とは比べ物にならない。

 大きさも、その身に帯びるチャクラの強さも、放たれる力の質量も…

 

 ゴゴ…と、地響きが鳴り、風を音たたせながらスサノオはさらに大きくなる。

 その風の音が、オォォォォォッ…と、まるで雄叫びのように辺りに響いた。

 

 

 「……っ!」

 

 あまりのすさまじさに、水蓮のチャクラが少しの遠慮もなく吸い取られてゆく。

 額に大粒の汗が浮かび、一瞬めまいを起こす。

 その揺らぎに離れかけた水蓮の手をイタチが掴み取った。

 

 見上げるとイタチの額にも汗が浮かび、そのいくつかが流れ落ちた。

 

 

 水蓮はギュッとイタチの手を握りしめさらにチャクラを練り上げた。

 同時にイタチもスサノオに力を注ぐ。

 

 

 二人の間には何の迷いもひるみもなかった。

 

 

 互いを信じる想いだけがそこにあった…

 

 

 

 二人の体が浮かび上がり、スサノオの額辺りで止まる。

 ちょうどその正面に、泉の水の球があった。

 

 イタチが力を操り、スサノオの手が光りに伸ばされた…

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