いつの日か…   作:かなで☆

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第十一章 【ひと時の和み】

 水蓮は夢を見ていた…

 

 

 朝、リビングから母の声がする。

 「起きなさぁい!」

 「起きてるってば!」

 

 いつもこんな感じで、ちょっと愛想なく返事して…

 部屋から出ると卵焼きのいい匂いがして…

 なかなか同じ味にならないんだよね…

 

 そんなことを考えながら食卓に着く。

 お父さんはいつもこの時間、庭での稽古を終わらせて、さっとシャワーを浴びて着替えて先に座ってた。

 お母さんはいつも私が座ってからお味噌汁をよそって、席につく。

 「食べましょ」

 「今日もうまそうだな」

 いただきます。と絵に描いたようにみんなで手を合わせて食べる。

 

 いつも同じ光景…同じ言葉…

 同じ時間に同じことして…

 なんだか当たり前に過ごしてた…

 でも、それってすごいことだったんだね…

 

 失ってからわかる…

 

 本当に月並みの言葉で、いまどき歌の歌詞にも使われない…

 でも、その通りだ…

 お父さんともお母さんとも、これと言って何の問題もなく、よくある仲のいい家族に分類されるだろう…。

 だからこそ、当たり前が当たり前で…

 当たり前のことが、当たり前に目の前にあることが、本当は奇跡なんだと気付かなかった…

 

 「ちょっと焦げちゃったかなぁ」

 お母さんが卵焼きを箸で持ち上げて、向きを変えながら確かめる。

 「そんなことないよ。いつもおいしいよ」

 お父さんが笑う。

 娘が大人になるほどの期間一緒にいるのに、二人はいつまでたっても仲が良くて、それは娘としては嬉しいことだけど、ちょっと呆れてた…。

 だけど、二人は分かっていたんだね…

 当たり前が奇跡だって…

 そんな大切なことが分かっている二人が死んで…気付かなかった私が一人生き残った…

 ごめんね…

 もっと早く気付けばよかった…

 もっともっと話したいことあった…

 伝えなきゃいけないことあったのにね…

 「ごめんね…」

 二人がこちらを見て笑った。

 「一緒に行ってあげられなくてごめん…」

 「お前のやるべきことをやりなさい」

 お父さんが言う。

 「あなたの信じた道を行きなさい」

 お母さんが言う。

 二人は優しく微笑んで頷いた。

 その姿が薄れてゆく…

 

 …私やり遂げてみせるから…

 

 こんなにも大切な時間を、あの人はその手で消し去らねばならなかったのだ…

 その苦しみは計りしれない…。

 

 必ずあの人の想いを遂げさせてみせる…

 見守っていてね…

 

 「お父さん…お母さん…」

 

 つぶやいたその自分の声で、水蓮は目を覚ました。

 ゆっくりと目を開ける。

 と、自分を見下ろすイタチの顔があった。

 「わぁっ!」

 思わず声をあげて起き上がる。

 「なんで!」

 「なぜと言われても、ここはオレのベッドだ…」

 「あ、そうか」

 呟いてハッと気づく。

 「イタチ…起きてる…」

 ベッドの上に身を起こすイタチに、目を見開く。

 「起きてる…」

 「ああ。起きてる」

 「よかった…」

 ぽろっ…とまた落ちる涙に、イタチは目を細めた。

 「すまなかった」

 「え?」

 思わぬ言葉に水蓮は驚き涙が止まる。

 「無理をさせた…」

 首を横に振ると、止まったはずの涙がまた落ちた。

 「お前はよく泣くな」

 フッと表情を緩め、体勢を直そうと身じろぎをしたとき、体に痛みが走り顔をしかめる。

 「イタチ、まだ横になってたほうがいいよ」

 そっと体に手を添える。

 「ああ。すまない。水蓮、鬼鮫はどうした?」

 「鬼鮫はもうすっかりいいよ。ここ数日はデンカとヒナに倉庫の片づけ手伝わされてる。治療してやったんだから、手伝えって言われて…今日も朝からしぶしぶ手伝ってるよ」

 「そうか。デンカとヒナにかかれば元忍刀七人衆の名も、霧隠れの怪人の名も形なしだな」

 小さく笑い、体をベッドに戻しながらイタチは自分の体に添えられた水蓮の腕に痣を見つけて顔をしかめる。

 「どうした?」

 「え?」

 イタチの視線の先に気づき、水蓮はさっと手を引っ込める。

 鬼鮫との修行でついたものだ。

 チャクラを酷使しているからか、修行でついた傷がすぐに消えないこともあり、その痣も昨日よりは薄くなったもののまだ少し残っていた。

 「ちょっとぶつけただけ。大したことないよ」

 鬼鮫との修行はイタチにはまだ話さないでおこうと水蓮は考えていた。

 「やめろ」と言われそうな気がして、水蓮は鬼鮫にも自分から話すまでは黙っていてもらえるように頼んである。

 「水蓮…」

 「なに?」

 痣の事を追及されるかとドキリとするが、イタチは少し言いにくそうに口を開いた。

 「両親の夢を見ていたのか…?」

 「……あ……」

 寝言を聞かれていたのかと気まずくなる。

 しかし、寝言に関してはイタチも同じことだった。

 熱にうなされている間、両親の事やサスケの事をよくうわごとで言っていた。

 水蓮の夢も、イタチのその言葉に影響されたのかもしれない。

 「うんそうみたい…」

 「そうか…」

 沈黙が落ちる。

 「でも、大丈夫だよ」

 水蓮の言葉に、イタチの手がピクリと揺れる。

 「大丈夫じゃないけど大丈夫」

 「…………」

 「そりゃぁ辛いし悲しいし、さみしいし。なんかいろいろ痛いけど。いつまでも立ち止まってはいられない。進まないと何も見つからない…」

 イタチの視線が水蓮に向けられる。

 「生きる目的を見つけることができれば、強くなれるから…」

 イタチが目を見開き、また「そうか」とつぶいて、どこか少し安心したような表情で窓の外を見つめる。

 その目に浮かぶ優しくて切なげな色に、水蓮はハッと気づく。

 イタチがサスケを思い出していることに。

 

 …そうか。イタチは両親を目の前で亡くした私と、両親の死をその目に見たサスケを重ねてたんだ…

 

 初めに合った時、水蓮が両親の死を呟いたあの時、イタチはこう聞いた。

 

 「見たのか?」と。

 

 あの時から時折見せる表情の変化は、サスケを重ね合わせて…

 思い出して…

 いつでもサスケを思って…

 

 水蓮は一瞬の切なさを押し込め、両手にギュッと力を入れてもう一度言った。

 「目的があれば、強くなれる!」

 

 サスケも…

 

 その想いを込める。

 イタチに自分の進む道が、サスケに課した道が間違いではないと、そう感じてほしい。

 少しでも心の負担が取り除ければ。そう思った…。

 イタチは水蓮の勢いに少し驚いたような顔をしたが「そうだな」と笑った。

 

 

 

 それからさらに3日が過ぎ、二人が戻ってきてから20日ほどたった。

 イタチの熱や痛みの症状はほぼおさまり、回復は順調だった。

 鬼鮫はすでに完全に回復し、イタチの回復を待っている。

 水蓮と鬼鮫の修行も順調に進み、水蓮のチャクラコントロールは驚くほどのスピードで上達しており、空手と組み合わせての使い方はかなり形になってきていた。

 「鬼鮫はまたこき使われているのか?」

 ベッドから体を起こし、イタチは部屋の中を見回す。

 「うん。鬼鮫大きいからね。高い場所に置きっぱなしになってたものとか、重い物とかの移動を手伝わされてるみたいだよ」

 「デンカとヒナでもできるだろう」

 確かに、どちらも大きくなる術を持っている。

 「そのこと鬼鮫知らないから。うまく使われちゃって…」

 イタチもデンカとヒナに何かそういうような思い出でもあるのだろうか。

 気の毒そうに目を細めた。

 「まぁ、あいつもいいリハビリになるか」

 そして少し柔らかく笑う。

 長く床にいてしばらく戦いから離れたからか、その空気から少し警戒が薄れているように思い、水蓮は嬉しさを感じていた。

 この場所が、古くから知る所だということもあるのかもしれない。

 それがたとえ一時的なものでも、水蓮にとっては貴重な、穏やかな時間だった。

 「そうだね」

 笑顔を返し、水蓮はイタチの薬の時間になっていることに気づき、椅子から立ち上がる。

 「薬持ってくる」

 「…あ…ああ」

 その表情が一気に曇る。

 イタチの憂鬱の原因は、薬ではなく合わせて飲んでいる栄養補給と治癒力を高めるための薬草にあった。

 苦みがひどく、甘いものが好きなイタチにとって、その苦さは地獄のようで、いつも飲むまでにかなり時間を要する。

 表情はあまり変えないものの、まとう空気があからさまに重くなるイタチに、水蓮は「今日は大丈夫だから」と笑う。

 と、その時ドアが開き鬼鮫が入ってきた。

 「イタチさん、調子はどうですか」

 「ああ。だいぶいい。もう数日すれば動けるだろう」

 「それはよかった。早くここから出ないと、毎日毎日こき使われてたまらない…」

 うんざりとした顔を浮かべる。

 「ゆっくりしてればいいんだぜ」

 憂鬱な表情の鬼鮫の足元から、ひょこっとデンカが顔を出す。

 「水蓮、薬持ってきたぜ」

 器用に二本足で立ち、デンカがお盆を手にイタチのそばに歩み寄る。

 「ほら」

 差し出されたそれを見てイタチは顔をしかめる。

 そこに乗っていたのは、いつもの炎症止めの薬と水。そして温かいお茶と草色の四角いスポンジケーキが二切れ。

 「なんだこれは…?」

 水蓮を見上げる。

 「抹茶といつもの薬草を練り込んで作ったの。特性の薬草ケーキ」

 「ぱうんどけぇき…って言うらしいぜ」

 デンカの言葉に、顔をしかめながら一切れ手に取る。

 今までに経験のないふんわりとしたその感触に、イタチは少し戸惑う。

 「お前が作ったのか?」

 手に取ったケーキを、じぃっと見つめる。

 「ネコ婆様のお孫さんがね、お菓子作りにはまったことがあるらしくて、材料も道具もかなりそろってたのよ」

 イタチは手の中の物を見つめたまま動かない。

 「早く食べろよ」

 デンカに促されるがなかなか食べない。

 何やら警戒するその様子に「毒は入っていませんよ」と鬼鮫が笑いながらデンカの持つお盆を取って、イタチのベッドの上に置く。

 「作るところを一応見てましたから」

 「え?…あ、ああ」

 頷くが、しかし、食べない。

 「イタチ?」

 水蓮が覗き込むと、イタチは少し額に汗を浮かべている。

 「いや……………苦くないのか……?」

 小さな声でぼそりと言う。

 「毒よりそっち?」

 思わず突っ込む水蓮の後ろで鬼鮫が「クク」と笑うのが聞こえる。 

 

 そんなにこの薬草嫌いなんだ…

 

 「子供かよ…」

 デンカが小声でぼやき呆れている。

 「大丈夫だよ」

 笑い交じりに答えながらベッド脇の椅子に水蓮が座る。

 「何のためにケーキにしたと思ってるのよ。そりゃぁ完璧に苦味はなくせないけど、そのままよりはずいぶんましよ」

 それでもしばし見つめたまま動かず「さっさと食え」とデンカの苛立ちに触れてようやく、イタチは意を決したようにかぶりついた。

 手で感じるよりもさらにふんわりとした触感。

 一瞬感じる薬の苦みを抹茶の香りが和らげる。

 「……う」

 小さくうめいて水蓮に背を向けるように体の向きを変える。

 「え?苦い?おいしくなかった?」

 「いや。問題ない…」

 いつもの低い静かな声でそう答え、黙々とすべてを食べ終わり、薬とお茶を飲む。

 「大丈夫だったでしょ」

 「ああ」

 答えはしたものの、目を合わせない…

 心なしか体が少し震えているような気がする…

 「まだあるフニィ」

 ヒナが山積みのパウンドケーキを持って入ってきた。

 それに気付いたイタチの肩がピクリと揺れた。

 「こっちは普通のケーキだフニィ」

 軽い足取りでイタチのそばに歩み寄る。

 しかし水蓮はケーキを取り上げた。

 「こんなにいっぺんに、しかも続けて食べれるわけないでしょ。まだ体調も良くないんだから。イタチ、またあとで食べれそうになったら持ってくるね」

 立ち上がろうとする水蓮を、しかしイタチがその手首をつかんで止めた。

 「まて」

 「え?」

 まるで逃げおおせる敵に向けて放たれたような低く研ぎ澄まされた声。

 部屋の中に沈黙が落ちる。

 

 ・・・・・・・・・・・・・・

 

 「イタチ?」

 首を傾げる水蓮に、小さな小さな声でイタチは言う。

 「食べる」

 「ん?」

 水蓮はそれが聞き取れず顔を近づけると、イタチは少し頬をひきつらせながら

 「今食べる」

 そう言って水蓮の手からケーキの乗った皿を奪いとり、また背を向ける。

 「へ?」

 そのスピードにあっけにとられる水蓮の足元でデンカが呆れた声で言う。

 「うまかったんならそう言えよ」

 「素直じゃないフニィ」

 「そうですね」

 「うるさい…」

 背を向けたままのイタチの耳が少し赤いことに気づき、水蓮は肩を揺らして笑い声をこらえた。 

 「おいしかった?」

 あえて聞いてみる水蓮に、イタチは顔をそむけたまま、また小さい声で言った。

 「…ああ」

 ベッドの上に飛び乗ったデンカとヒナにはその表情が見えているようで、どちらもイタチをみて「ククク」と、喉を鳴らして笑った。

 「気に入ってもらえたみたいでよかった」

 水蓮は嬉しさが溢れたが、

 「でも、あと2つだけね。食べ過ぎはダメだよ」

 そう言ってお皿を取り上げる。 

 ケーキを取り上げられたイタチの顔が少しいじけて見えたのは水蓮の気のせいではなさそうだった。

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