いつの日か…   作:かなで☆

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第百十一章【空を彩る芸術】

 崖の上にあるイタチの西アジト。

 二人の帰りを一人で待つときは決まってこの場所であった。

 イタチと離れてからすでに1週間以上がたつが、その間これと言った変わり事はなく静かに過ごしていた。

 3人でいてもここで過ごすことが多く、今思えば自分のために最も安全なこの場所を選んでくれていたのかもしれないと、水蓮は今更ながらに二人の気遣いをありがたく思う。

 この辺りは毎年雨季の明けが早いらしく、イタチと別れてここへ来たときにはすでにその気配を遠ざけていた。

 

 湿り気を消した風が時折洞窟の中にも吹き込み、水蓮の髪をふわりと揺らす。

 その乾きが先にある夏の気配を感じさせ、水蓮は日に日に胸の奥が重くなっていくのを感じていた。

 

 「これでいいかな」

 

 増えていく重い何かを吐き出すように、ふぅ…と一つ息をつく。

 その手には小さな透明の容器。

 薄い緑色の液体が中で揺れていた。

 それはサソリが残した店のハルカから教わった目薬であった。

 イタチの視力の低下がどういう仕組みなのかは分からない。

 それでも少しでも和らげばと、炎症を抑え清涼感を感じる物を、少しずつ配合を変えていくつか作りだめておこうとの想いだった。

 そのいくつ目かを作り終えてふと気配を感じ取る。

 よく知るそのチャクラに外へと足を向ける。

 

 無事であることに安堵するとともに、その存在をきちんと確認したいという気持ちから、無意識に少し小走りになる。

 洞から出ると、快晴の光に一瞬目が細まり…

 

 

 「あーね!」

 

 

 変わらぬ明るい元気な声が、普段静かなアジトに響いた。

 「元気にしてたか?」

 見上げるより早く、デイダラを乗せた鳥が水蓮のそばに舞い降りる。

 トビは別行動中なのかそばに姿はない。

 「デイダラ。声が大きい」

 鳥の背から飛び降りたデイダラをジトリと少し睨み付けると、デイダラは「あ」と気まずそうに口元を抑えた。

 「すまねぇ」

 へへ…と笑うその笑顔に陰りはない。

 「相変わらず元気だね」

 どうやら怪我ではなさそうだとホッとして見つめる。

 

 問題なく動いている様子の腕。

 

 どことなくたくましくなったように感じる体つき。

 

 日の光に揺れる金色の髪。

 

 その揺らぎの合間に見える生き生きとした瞳。

 

 すべてに感じる…

 

 

 

 デイダラはまだ生きている…

 

 

 

 そうある限り、イタチの時は確実に続く。

 今までが原作の流れに沿っていた事を考えれば、まずそれは間違いないであろうと、幾度目かの安堵を感じる。

 だがその事を考えなくとも、多く深く関わってきたデイダラがこうして生きていることは、ただ単純に嬉しかった。

 

 「なんか久しぶりだね」

  

 「そうだな」

 ニッと浮かべた笑顔が少し大人びてきたように見え…

 「あれ?」

 距離が近づきふと気づく。

 「うん?」

 「デイダラ、背伸びたね」

 出会ったころはさほど感じなかった背の差が、いつの間にか開いていた。

 「そうかな…」

 「そうだよ、前はこんな感じだった」

 水蓮は少し背伸びして、自分が覚えている高さまで顔を上げる。

 不意に近づいた距離に、デイダラが息を飲む。

 「あーね…」

 「ん?」

 「ん?じゃなくて…」

 無防備に身を寄せ首を傾げる水蓮に、デイダラはどこかがっくりした様子で息をついた。

 「どうしたの?」

 「いや、まぁ、いいんだけどな…うん」

 ハハ…と顔を背けて小さく笑う。

 「それより、オイラこれからちょっと任務なんだけどよ…」

 水蓮の胸がぎくりと音を立てた。

 「難しい任務?」

 思わず強張った表情になる。

 それを見てデイダラは少し驚いたような顔をしたが、すぐにフッと笑って水蓮の鼻先をつまんだ。

 「なんだよそれ。変な顔」

 「ちょっと、やめてよ…」

 水蓮は吹き出して笑うデイダラの手を軽く払いのけて鼻をさする。

 「あまりにも変な顔してたからよ」

 デイダラがクク…と笑いを重ねて再び手を伸ばす。

 それをさっとかわす水蓮。だがさらにデイダラがそれを追い、水蓮がまた身をかわす。

 幾度かの繰り返しにいつの間にか軽い手合わせのようになり、久しぶりの感覚に心地よさを感じてしばらく二人は体を動かした。

 

 

 幾度かの打ち合いを重ね、デイダラが水蓮のこぶしを受け止めた。

 

 パシィッ…と心地の良い音が響き、デイダラがにっと笑う。

 「なまってねぇな。うん」

 「当たり前でしょ。ちゃんとやってるよ」

 息を整えながら水蓮も笑みを返す。

 デイダラは嬉しそうに笑いを重ねてググ…と体を伸ばした。

 「任務終わったら、またこっちも見てやるよ」

 クナイを取り出してくるくると回すその姿には少しの不安の色もなく、いつもと変わらぬ明るい笑顔。

 だが水蓮は逆に表情を沈ませた。

 「どんな任務?」

 不安げな顔で問う水蓮にデイダラは一瞬笑みを消したが、すぐに笑ってクナイを収めた。

 「大した事ない。簡単な探し物だ。うん」

 「ホントに?」

 「本当だって。何かトビと組んでからはそういうの多くてよ。もう見当もついてんだ。トビは先にそっちに行ってる」

 デイダラは「すぐに終わる」と、行き先なのであろう方角を見つめた。

 「デイダラ…」

 不安を拭いきれていない声。

 デイダラは少し心配そうな表情を浮かべた。

 「どうしたんだ?あーね。なんかあったのか?」

 

 何かが起こるからこそ怖いのだ…。

 

 「危険な任務の時は私も連れて行って」

 

 真剣なその表情と言葉に、デイダラはきょとんとした顔を返した。

 

 「なんで?」

 「なんでって…」

 

 今まで原作の通りに進んでいる。

 だが水蓮はデイダラの死を何とか防げないだろうかと考えていた。

 

 鬼鮫ほどではないにしても、手ほどきを受けた相手。

 その上まだ自分より若い。

 そして何より、自分を「あーね」と呼び慕ってくるデイダラを死なせたくなかった。

 

 その流れを何とか阻止したいと、ずっとそう思っていた。

 

 「ほら…回復役に」

 

 どこか取り繕ったような口調で水蓮は必死に言葉を並べる。

 「デイダラには修行もつけてもらったし、その時にたくさん手合わせしたし、デイダラの動きにも必死で頑張れば少しはついて行けると思う。戦闘でも何か役に立てるよ多分。囮とか、陽動とか、それから…」

 詰まりながらも、それでもなお言葉を続けようとする水蓮。

 その様子にデイダラがプッ…と吹き出した。

 「なんだよ。どうしたんだよあーね。なんでそんな必死」

 デイダラはククク…と肩を震わせた。

 「心配すんなって。オイラにかかればどんな任務も余裕だぜ。うん」

 腰に手を当てて胸を張り、ニッと無邪気に笑う。

 幾度となく見てきた明るい笑顔に、やはり何とかこのままデイダラの時を止めずにいたいと、水蓮はグッと手を握りしめた。

 「デイダラが強いのは知ってる。それでも、絶対に連れて行って。お願い」

 水蓮は「お願い」と重ねてデイダラを見つめる。

 「あーね…」

 あまりに必死な様子にデイダラは少し戸惑いを見せたが、すぐに笑みを戻してうなづいた。

 「わかった。ちゃんと連れて行く」

 「絶対だからね」

 「ああ。約束だ。うん」

 デイダラが水蓮の前に小指を出す。

 水蓮は想いをこめて強く小指を合わせた。

 「約束だからね」

 「おう」

 目の前にある満面の笑み。

 水蓮は少し安堵して笑みを返した。

 その笑顔にデイダラが「へへ」と嬉しそうに頬を赤くした。

 「あーねはそうやって笑っててくれよ」

 「え?」

 デイダラは静かに指を外して照れ隠しに視線を逸らした。

 「なんていうか、あーねの笑顔は落ち着くんだよ、うん」

 「そう?」

 「ああ。すっげーほっとする…」

 つぶやくようにそう言って、デイダラはゆっくりとした足取りで歩き出した。

 水蓮もそれに続き、そのまま自然と歩きながらの会話になる。

 「でもイタチと鬼鮫には、荒っぽいとか危なっかしいとかよく言われてたけど…」

 暁に入って間もないころ、そんな事を言われていたな…と懐かしくなる。

 「あーねが?」

 意外そうなデイダラに「うん」と水蓮がうなずいたとき、岩の間から突風が吹き、水蓮の体が押し浮かされた。

 「わっ…!」

 「あーね!」

 そのまま流されて地面にできた段差から落ちそうになり、デイダラが慌てて後ろから抱き寄せた。

 「あぶねぇ…」

 「びっくりした…」

 さほど高くはないが、落ちずに済んで水蓮はほっと息をつく。

 同じくデイダラも息を吐きながら「確かに危なっかしいな。うん」と、つぶやく。

 「ごめんね…」

 気まずく笑いながら振り向こうとするが、デイダラが腕にぐっと力を入れてそれを止めた。

 「デイダラ?」

 デイダラはしばしそのまま黙っていたが、ややあって静かに口を開いた。

 「あーね。ありがとうな」

 「え?」

 「心配してくれて、ありがとうな」

 まるで子供が親に甘えるようなしぐさを見せ、デイダラは黙り込んだ。

 「デイダラ…」

 

 確かデイダラが里を出たのはかなり幼かったはずだと水蓮は思う。

 原作では両親の描写もなく、どんな環境で生きてきたのか分からないが、幼くして里を出た背景にはやはりさまざまなことがあっただろう。

 こうして誰かに甘えたり、安心して過ごせる場を見つけられなかったのかもしれない。

 

 当たり前にあるはずの物がない場所で、一人で生きてきたのかもしれない…

 

 何をしてあげられるのだろう…

 

 

 「ご飯…」

 

 ポツリとこぼれた言葉。

 デイダラが「ん?」と戸惑い首をかしげた。

 「ご飯食べに来て。任務が終わったら」 

 

 今はまだ他には思いつかない。

 それでも、今できることをしてあげたいと、そう思った。

 デイダラは少し黙った後「ああ」と答えて水蓮からぱっと身を離し、へへ…と嬉しそうに笑った。

 「ささっと終わらせてくるぜ!うん!」

 大きな声でそう言い、何かを吹っ切るかのように白い鳥に飛び乗る。

 ふわりと風を起こしながら青い空に溶け込む白。その中に揺れる金色の髪がまぶしく光った。

 それは本当に美しい構図で、まさしく、彼の言う【芸術】だった。

 水蓮はそのまぶしさに少し目を細めて手を振った。

 「行ってらっしゃい!」

 デイダラは水蓮の頭上を大きく旋回し、手を振りかえした。

 「行ってくるぜ!あーね!待っててくれよな!うん!」

 「まってるから!」

 「おう!」

 グッと握りしめた手を突き上げて返し、デイダラは「空を見ててくれ!」と言い残してあっという間に飛び行き、その姿を見えなくした。

 水蓮はその背を追って、言われたように空を見つめる。

 

 ポッ…

 

 一瞬小さな光が合図のように浮かんだ。

 その数秒後に、突然パッ…といくつもの小さな光が爆発音とともに散らばり、色とりどりに輝きながら空に広がった。

 

 「きれい…」

 

 デイダラのはなったいくつもの小型爆弾のその光は、まるで花火のように空に花を咲かせた。

 

  

 「行ってらっしゃい」

 

 もう一度繰り返したその言葉が、色鮮やかな光とともに空の中に溶けて行った。

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