いつの日か…   作:かなで☆

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第百二六章【水蓮と鬼鮫】

 夏の一日にしては、風が妙に冷たかった。

 昼を過ぎてもそれは変わらず、その風を身に浴びて、あぁそうか。きっとそうなんだ…。と、水蓮はおぼろげにそんなことを思った。

 

 

 大蛇丸のアジトを発ってから二日が経った。

 今身を置いているのはかつてのうちはのアジトに一番近い位置にあるイタチのアジト。

 最終決戦の場であるあの場所までは30分もあればつく距離。

 水蓮たちはそこで待っていた。

 

 サスケが来るのを…

 

 あれからイタチのチャクラの暴走は見られず、むしろ体調は今までになく良かった。

 熱はおさまり、続いていた胸や眼の痛みも引き、時折見られた吐血もない。

 全ての物が嘘のようにその存在を潜めていた。

 

 それは表情にも表れており、イタチは何かスッキリとした、落ち着いた顔をしている。

 

 そんなイタチを見て、水蓮は時が来たのだと息の詰まる時間を過ごしていた。

 

 時間を止めることが出来たなら…

 そんな術があったなら…

 

 思わずにはいられない。

 だがそんな事はできず、たとえできたとしても、それはイタチの望む事ではない。

 自分たちが目指した物ではない。

 

 進むべき場所

 目指すべきもの

 それは…

 

 イタチの目的を成し遂げる

 

 始めにたてたその指標

 

 その為に命を懸けてイタチを守る

 

 心に刻んだ覚悟

 

 それが全てなのだ。

 一時期はイタチの死を乗り越えられるか。受け入れられるか。

 その事ばかりを考え、原点となるそれを見失った。

 だけど、もう見失わない。

 水蓮はぐっと手を握りしめ空を見上げた。

 

 恐ろしい程に晴れ渡り、全てを吸い込むかのような青。

 

 自分たちに迫る何かを感じ、来るなら来いと水蓮は強く空を睨み付けた。

 

 

 何があってもイタチを守る!

 

 

 ビュウッと、強い風が水蓮の髪をなびかせた。

 

 そのなびきに、静かな声が重なった。

 落ち着いた、イタチの声が…

 

 「サスケが来た」

 

 水蓮の鼓動は静かだった。

 もっと動揺するだろうと思っていた心が、案外騒がない。

 その事に驚いた。

  

 「明日にはうちはのアジトに着くだろう」

 イタチは呟きながらゆっくりと立ち上がり、水蓮の隣に並んだ。

 「そう…」

 空に視線を向けたまま水蓮は一言だけ返す。

 どうやらいく箇所かに配置したイタチの影分身の一つがサスケと接触したようだ。

 「来ましたか」

 鬼鮫もゆっくりと立ち上がり、並び立った。

 三人の衣が風に揺れ、赤い雲がはためく。

 「うちはのアジトへ行く」

 イタチはそう言って鬼鮫を見た。

 「分かっていますよ。先に行って様子を見ておきましょう。邪魔の入らないように手を打ちます」

 小さく笑う鬼鮫に、イタチは同じように少し笑って返し「すまない」と、その一言を残しアジトの中へと戻って行った。

 「イタチさんを頼みますよ」

 鬼鮫が静かに足を踏み出す。

 その歩みを水蓮が慌てて止めた。

 「待って!」

 背を向けたまま鬼鮫が立ち止まり、風に揺れた衣の袖先を水蓮が掴んだ。

 「待って…」

 ギュッと握りしめた手が小さく震えた。

 

 この後に起こるであろう事を脳裏にめぐらせ、水蓮は言葉を詰まらせた。

 

 もう会えないかもしれない…

 

 鬼鮫の背を見て、そう思った。

 もしそうなのだとしたら、自分はあまりにも鬼鮫に何も話していない。

 自分の事も、自分が知っているイタチの事も。

 鬼鮫が暁の一員だとしても、自分の師であることに違いはない。

 共に過ごしてきた仲間だという事に違いはない。

 それなのに、何も話せていない。

 

 このままでいいのだろうか…

 

 急にそんな思いに駆られた。

 「鬼鮫…」

 「わかっていますよ」

 先ほどと同じセリフに、水蓮は無言のまま鬼鮫の背を見つめた。

 鬼鮫は水蓮の手をそっと外し、ゆっくり振り返った。

 なぜか少し呆れたような笑顔を浮かべた。

 「彼はもう戻らない」

 「…え?」

 思いもよらぬ言葉。それでいてそれはあまりにも確信をついていて鼓動が大きく波打った。

 鬼鮫はやはり小さく笑みを浮かべたまま続ける。

 「忍なんて物を長くやっていると、そういう事が分かってしまうんですよ。彼はおそらくもう戻らない。それが生きて戻らぬという事なのか、この組織に戻らぬという事なのか、そこまでは分からない。だが彼は戻らない。それは分かる。だけどそれはおそらく組織も分かっている。あの人も…」

 マダラの名が二人の脳裏に浮かぶ。

 「組織がそれを良しとするなら、私は何もいう事はない。もちろん追えと言われれば追いますがね」

 その時はやっと本気で彼とやり合える。と、鬼鮫は心底嬉しそうに笑った。

 そしてひとつ息を吐き、水蓮の頭にポン…と、手を乗せた。

 「もう一つ分かっていることがある」

 

 ポタリ…と、水蓮の目から涙が落ちた。

 

 「あなたも戻らない」

 「…っ」

 声にならない声がこぼれた。

 「あなたも彼と共に行くつもりだ」

 「…うん」

 頷き、水蓮は涙を拭った。

 イタチの戦いを見守り、終えた後自分がどうなっているかはまだわからない。

 

 生きているのか死んでいるのか。

 だがもし生きてイタチのそばにいる事が出来たなら、ももうここには、暁には、鬼鮫の元には戻れない。戻らないとそう決めていた。

 「それがイタチさんの意思であるなら、私は口を出すことはできない。ただ、それを組織がどうとるかは分からない。あなたの中には僅かと言えど、九尾のチャクラがある」

 イタチはどうあれ、おそらく追う事になると、鬼鮫は厳しい目でそう言った。

 「わかってる…」

 「まぁ、できれば穏便に済ませたいですがね」

 強い視線をフッとゆるめて、やれやれと言った様子で鬼鮫は笑った。

 「まったく、あなたは本当にトラブルを呼ぶ」

 「ごめん…」

 「謝る必要はない。元々あなたは彼のためにここにいたようなものだ」

 「何もできなかったけどね。鬼鮫にも…」

 最後の時をむかえて、水蓮は自分が二人にしてあげられた事がなかったような…そんな気持ちでいっぱいだった。

 しかし鬼鮫は「十分だ」と笑った。

 「あなたは私たちを任務に送り出し、戻るのを待ち、むかえいれてくれた。それで十分だ」

 「鬼鮫…」

 「我々はきっとそれを最も求めていた」

 「…………っ!」

 優しい風が吹き抜け、一度拭い去った涙がまた溢れた。

 「あなたはそれを与えてくれた。これ以上の物はない」

 大きな手のひらが水蓮の髪を撫でる。

 「水蓮。あなたは私の唯一の弟子だ。それも優秀な弟子だ。人はすぐれた弟子を持つと人生が大きく変わる。あなたに会ってそれがわかった。感謝してるんですよ。あなたには」

 鬼鮫の手がポンポン…と髪の上で数回優しく動き、水蓮は思わず鬼鮫に抱きついた。

 「ありがとう。ほんとに…ほんとに…。ありがとうございました…」

 鬼鮫は少し戸惑ったように水蓮を抱き寄せた。

 「イタチさんに見られたら、殺されそうだ」 

 思わず二人に笑いがこぼれた。

 「では、私は行きます」

 「うん」

 鬼鮫は背を向けようとして思いとどまり、水蓮を見つめて笑った。

 「もしもまた会うことがあったなら、その時は敵でないことを祈りますよ。…あなたは案外厄介だ」

 「…うん…」

 涙にくぐもった声に、鬼鮫は思わずもう一度水蓮を抱きしめた。

 「それでもあなたとの約束は違えない」

 

 命を懸けて守る…

 

 もしも戦うことになっても、その約束を守ろう。

 

 それはひどい矛盾であった。

 それでも、そこに込められた鬼鮫の精一杯の想いを水蓮はひしひしと感じ取っていた。

 

 

 「うん」

 

 水蓮は何度も何度もうなづいて返した。

 だがそこには感謝の気持ちよりも、罪悪感の様なものが勝って溢れていた。

 

 組織に従順でありながら、組織を去ろうとしている自分を引きとめず、もう十分だと、感謝していると言う。

 

 何があっても守るとそう言う。

 

 ここまでの想いを与えてくれた鬼鮫に、自分は何も真実を伝えていはいない。

 その事が胸につかえて苦しかった。

 

 「鬼鮫…私。私ホントは…本当は…」

 「それも分かっています」

 「え?」

 ドキリとして顔をはじきあげる。

 鬼鮫は落ち着いた表情で小さくうなづいた。

 「あなたの本当の事はちゃんと知っている」

 「本当の事って…」

 

 自分が別の世界から来たことを知っているというのだろうか…

 もしそうならどうして…

 

 と、水蓮の鼓動がどくどくと波打つ。

 だが鬼鮫の応えは違っていた。

 

 「あなたは、おかしくて不思議で読めなくて、おもしろくて馬鹿で、向こう見ずで怖い物知らずで、それなのに雷が怖い」

 鬼鮫は淡々とした口調で続けてゆく。

 「それから単純ですぐに突っ走る。頑固で意地っ張りでこうと決めたら譲らない。だけど、無茶苦茶な性格の割には鋭くて頭がいい。覚えもいい。根性もあるし、強い」

 「鬼鮫…」

 水蓮の目にうつる鬼鮫の顔がほんの少し赤く見えた。

 鬼鮫はそれを隠すように水蓮の顔をグッと引き寄せて胸元に沈めた。

 「それがあなたの真実だ。あなたの本当だ。それだけでいい。それで充分だ」

 「………」

 

 どこからきたのか、何者なのか。それを問うことなくずっとそばに居続けてくれた。

 

 守り続けてくれた。

 

 そんな鬼鮫の想いがまっすぐに伝わってきた。

 

 この人は自分を愛してくれていたのだと。

 

 水蓮は鬼鮫の背に手をまわしてギュッと抱きしめた。

 

 

 …いつかまた同じときに生まれる事が出来たなら、その時は必ずまた出会おう…

 

 

 

 それは二人の心に描かれた、言葉なき約束。

 

 その未来をしっかりと胸に刻み、鬼鮫は今度こそ背を向けて足を踏み出し、水蓮はその背を静かに見つめた。

 

 自分をいつも守ってくれた大きな背中。

 

 きっとこれが最後になる…

 

 水蓮は刻み込む思いで静かに言葉を紡いだ。

 「行ってらっしゃい」

 鬼鮫はほんの少しだけ振り向き、答えた。

 「行ってきます」

 今までで一番優しい笑顔を残して、鬼鮫は姿を消した。




いつも読んでいただきありがとうございます(*^^)
前回に続き鬼鮫重視の回だったので、なるべく間を開けずに行きたいと思いちょっと早い更新となりました。
もうほんとに、鬼鮫への妄想と願望が尽きず…。私の中でとんでもなくかっこいいキャラになってしまった(~_~;)
アニメBORUTOで今霧隠れのstoryをしているという事もあって、かなりの鬼鮫ブームですwww
今後鬼鮫が登場するかどうか、ちょっと自分の中でも未定ですが…。もしかしたらこれが最後かも…と思いガッツリ入れ込みました!www

次からはまたいつものペースで更新していきます♪
今後ともよろしくお願いいたします☆
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