いつの日か…   作:かなで☆

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原作の描写を引用しております。
ご了承のほどお願いいたします。


第百三二章【兄と弟。戦いの幕開け】

 小さな命が生まれたあの日の事を、今でも覚えている。

 父も、母も、今まで見てきた中で一番幸せそうな笑顔だった。

 二人の目からぽろぽろとこぼれる涙の一つ一つにさえも、幸せが溢れていた。

 だから、オレも泣いた。

 悲しくなくても、人は泣くのだと初めて知った。

 嬉しくて流す涙もあるのだと。

 

 

 小さな小さなその命は、本当に小さいくせに、泣く声は大きかった。

 計ったように3時間に一度起きてきては泣き声を上げ、母を求めた。

 朝でも昼でも、夜中でも。

 おなかがすいたと泣くその声は、少しも嫌に思う事はなく、かわいくて仕方がなかった。

 オレの顔を見て泣きやむお前を見たときは、大きな安心感に包まれた。

 自分はお前にとって必要な存在なのだと…

 自分はここにいてもいいのだと…

 いつも居場所を与えられているようで心地よかった。

 自分はこの世に生まれてきてよかったのだと、そう思わせてくれた。

 

 

 大きくなってゆくお前に、オレ達はいつも振り回されていた。

 何でも口に入れる時期には、せわしなく動くお前の後をついて周り、手にした物を取り上げては泣かれ、なだめてと、そんなことの繰り返しだった。

 つかまり立ちを始めると、さらに目が離せなくなり、物を置く位置がどんどん高くなっていった。

 高くなると今度は物が落ちては危ないと、棚には父の手によって扉がつけられていった。

 ずいぶん手際がいい父を不思議に思っていると、母が笑って言った。

 「あなたの時もお父さんがつけてくれたのよ」と。

 オレが大きくなり一度外したそれを、父さんはどこか嬉しそうに取り付けていた。

 オレの時も、あんな顔をしていたのだろうか…。

 想像して、そうだといいなと思い、そしてもしそうなら嬉しいと思った。

 オレは案外気難しくて頑固な父さんの事が好きだったのだと、気づかされた。

 

 

 歩き出すといよいよ本格的に目が離せなくなって、眠っている間も誰かが必ずそばについていなければならなくなった。

 目を覚ましたら勝手に歩いて家の中をうろうろしてしまうから。

 一度そうして縁側から落ちそうになって、母さんが瞬身で助けたことがあった。

 初めて見たそれは見事なもので、母さんが忍だったという事を思い出した。

 改めて、そうだったと思った。

 

 お前は見たことがないだろ?

 母さんの瞬身は、本当に早かったんだぞ。

 

 きっと、すごい忍だったに違いない。

 

 

 歩き方がしっかりしてくると、今度は走り出す。

 その頃のお前は何が面白かったのか、オレと目が合うと「きゃー!」と叫んで走って逃げる事にはまっていた。

 始めはオレも面白くてそうやって遊んだりもしたが、危ないと思い目を合わせないようにしていると、お前は大泣きした。

 急に「ごめんなさいー」って、そう言って大泣きした。

 オレが何か怒っていると、そう勘違いして。

 なんだか申し訳なくて、泣き止まないお前を見ているうちにオレも悲しくなって、一緒に泣いた。

 何事かと駆けつけた父さんが事情を知って、大きな声で笑ったのを覚えている。

 そんな父さんを見たことがなかったから、オレもお前も驚いて泣き止んだ。

 あの時父さんはオレ達を抱きしめてくれたんだったな。

 

 いつまでも笑いがおさまらず揺れていた背中に手をまわした時、父さんの背中がすごく大きくて広くて、あたたかい事を知ったんだ。

 

 

 家族の絆

 

 ぬくもり

 

 大切さ

 

 そして自分が生まれてきたことの意味を、お前はオレに教えてくれた。

 

 オレはいつもお前に支えられ、生きる力を与えられてきた。

 お前からもらってばかりだった。

 そうして大切な物をもらったというのに、オレがお前に与えた物は

 

 恨み

 

 憎しみ

 

 悲しみ

 

 そして孤独

 

 ひどい兄だな。

 

 だけど、オレ達は唯一無二の兄弟だ。

 

 オレはお前の兄だ。

 

 だから、最後にお前に残していくよ。

 オレの力を。この眼を。

 

 どうか受け取ってくれ。

 そしてこの辛く悲しい現実を、生き抜いてくれ。

 

 そのために

 

 

 オレを

 

 

 オレの命を

 

 

 超えて行け

 

 

 「サスケ」

 

 

 うす暗闇の中、イタチの低い声が響いた。

 その響きの向かう先には、兄を睨み付ける弟の赤い瞳が光っていた。

 そこに浮かぶ紋様は基本巴の写輪眼。

 同じ色を浮かべた目でその深い光を見つめ返し、力を探る。

 どうやら流れるチャクラを見る限り、サスケは万華鏡を開眼してはいないようであった。

 「その写輪眼」

 イタチは静かに言葉を発した。

 「お前はどこまで見えている」

 兄の問いかけに弟は答えた。

 見ているのはあんたの死にざまだと。

 憎い仇を目の前にして、やはり頭にのぼった血は熱いらしく、イタチは少し眼を細めてサスケを見据えた。

 目的を前に熱を上げ冷静さを失うようでは、甘いのだ。

 感情をどのようにコントロールするのか。

 それができるのか。

 

 まずは試させてもらう…

 

 「では…」

 

 イタチの瞳の赤が光りを放った

 

 「再現してみろ」

 

 

 長い年月を経てようやくたどり着いた兄と弟の戦いは静かに始まった。

 お互いに一歩も動かぬままに…

 

 始めに仕掛けたのはどちらだったのか。二人はそれぞれに作り上げた幻術の中を渡りながら、力をぶつけ合ってゆく。

 その力は拮抗しているようにも見えたが、うちはの血を持つ者とそうでない者の教えの差か、やはりイタチの力が幾分か上回っていた。

 だがそれはさほど問題ではなかった。

 重要なのは感情のコントロールなのだ。

 それができなければその隙に入り込んだ相手の感情の力に圧倒され、抜ける事の出来ない幻の奥深くへと落ち入ってしまう。

 しかしコントロールすることができたなら、必ずどこかに出口を見つける事が出来る。

 精神力の強さが重要なのだ。

 うちはの強さは幻術をかける強さではない。

 幻術を見抜く力こそが真意なのだ。

 それを見つける事が、幻術の強さにもつながる。

 

 怒りと憎しみに染まり生きてきたサスケがその事に気付いているのかどうか…。

 

 もっとも重要な根本となるその事を確かめたかった。

 

 そのためにイタチはサスケが仕掛けてくる幻術を受け止めながら自身の術を絡ませてゆく。

 徐々に強さを増し、サスケのそれを導き高めてゆくように。

 

 そうして幾度かの幻術を重ね、イタチは安堵の色をにじませた。

 小さかった弟は、恨むべき兄を目の前にしっかりと冷静な心を持ち挑んできていた。

 感情に飲まれる事なく、幻術に心をとらわれることなく。

 その冷静さを確認し、イタチはサスケにうちはマダラの存在を語り、次なる段階へと進めるためにグッと目に力を込めた。

 しかしその視界がうっすらと滲む。

 

 あまり時間はない。

 

 それでも見せておかねばならない物がイタチにはあった。

 

 「少し昔話をしてやろう。うちはの歴史にまつわる話だ」

 

 そう切り出し、イタチはゆっくりと瞳にチャクラを集めてゆく。

 「かつてマダラには兄弟がいた。…弟だ」

 (いざな)った幻術の中で、イタチはマダラとその弟の姿をサスケに見せてゆく。

 

 写輪眼を…万華鏡を開眼した二人の運命。一族の闇深い歴史と狂気。

 そして万華鏡写輪眼の力と光を失わぬためのその仕組みを。

 

 いつかサスケの目が光りを失い始めたときに、どうすればよいのかを伝え残すために。

 

 自分のこの眼を必ず受け取るように。

 

 

 たった一つ。弟に残すことが許されたこの眼を…

 

 

 その想いをこめてイタチはさらに自分の心の中へとサスケを引きこんでゆく。

 その先にはイタチが作り上げた偽りの深層心理。

 

 光を失いゆく万華鏡を永遠の物とするために、弟の目を奪おうとする狂気に狂った兄の姿。

 お前はスペアなのだと。それこそがお前を生かしておいた理由なのだと、激しくサスケにぶつけて放った。

 

 作り上げたその存在は、怪しまれぬよう、見抜かれぬよう、本当の自分の居場所のぎりぎりに仕掛けた。

 自分の手助けがあるとはいえ、その深い場所にたどり着けぬようでは弱い。

 

 しかし兄の心配をよそに、弟はしっかりとたどり着いた。

 

 「すべてはこのためか」

 

 兄の見せたかったものをしかと受け止め、サスケは静かに呟いた。

 

 その体から醸し出される空気は冷たく、悲しげな揺らぎ。

 だがその奥からふつふつと熱く激しい憤りの湧き上がりを感じさせる。

 

 「やっとたどり着いた」

 

 きついまなざしでイタチを睨み付け、サスケは自身の気を研ぎ澄ませて行く。

 

 「目的を果たす時が来た」

 ぶつかりくるその気を身に受け止めながら、イタチもまた気を研ぐ。

 「お前にはオレの死にざまが見えているらしいが、万華鏡写輪眼を持つオレには勝てはしない。お前の目的は残念だが幻に終わる」

 なぜならば、万華鏡を持っていないからだと、イタチは念を押すように言葉を重ねた。

 だがサスケはひるむことなく言葉を返してきた。

 「あんたがいくらその眼を使おうが、このオレの憎しみで幻は現実になる」

 強い意志を秘めた赤い瞳が兄の万華鏡を睨み付ける。

 

 「あんたの現実は、死だ」

 

 …それでいい…

 

 深く光るサスケの瞳に、イタチは胸中で返す。

 

 何者をも寄せ付けぬ怒りと憎しみ。

 家族を、一族を奪ったオレへの恨みを忘れるな。

 それこそがお前の生きる力になるのだから…。

 

 これからも…

 

 

 互いの間に存在している空気が徐々に冷たさを帯びて一点に集約されてゆく。

 そしてその冷たさが極限をむかえ…

 

 

 …ボッ!

 

 

 サスケの腕につけた忍具から手裏剣が現れた音を合図に、二人の本当の戦いが始まった。

 

 

 無数の手裏剣が飛び交いぶつかり合う。

 

 硬い金属音のその中で、イタチは思い出していた。

 

 『新しい手裏剣術を教えてくれるって言っただろ』

 

 幼いころの弟の声が耳の奥を走り、頬を膨らませていた顔が浮かぶ。

 

 …そうだったな…

 

 イタチはほんの一瞬口元をゆるませて、手裏剣を投げ放った勢いのままに印を組み込む。

 

 やがてすべての手裏剣が放たれ、二人は瞬時に距離を詰めてその中心で互いの手をつかみ合った。

 

 押し合い、にらみ合い、次の一手を読み計る。

 

 先に仕掛けたのイタチであった。

 サスケと組みあうイタチの背後から、さっとイタチの影分身が飛び出でてクナイでサスケを狙う。

 

 サスケは動揺はせぬものの、いつの間に組まれていたのか分からぬ印に目を細めた。

 

 

 そうだサスケ。これも一つの手裏剣術だ。

 

 覚えておけ。

 

 

 シュッと影分身の放ったクナイが空気を斬った。

 

 それを防ぐべくサスケは埋め込まれた呪印の力を練り上げる。

 ボコリと肩が盛り上がり、そこから生み出された大きな白い蛇がサスケの体を包み守った。

 

 なるほど…。これが呪印の力か。

 

 もとは大蛇丸の術であるそれは、長い期間を経てすっかりサスケのチャクラになじみ巣食っているようであった。

 

 サスケの体から引きはがすには、まず本人のチャクラを限りなく空に近づけねばならない。

 そうなれば自由になった大蛇丸の力がサスケを取り込もうと表に出てくるだろうと、イタチはそう考える。

 

 もっともチャクラを多く消費させるには…

 

 やはり幻術での戦い。

 

 長引かせるわけにはいかないこの戦いで、イタチは自身の消費も覚悟の上で高密度の幻術をサスケに仕掛けた。

 

 

 見抜けよ。サスケ。

 

 

 これを見抜くことができたなら…。

 

 イタチの脳裏にマダラの姿が浮かぶ。

 共に過ごす中で、唯一イタチの力がわずかに勝っていたのが幻術であった。

 それでもその力で全てに対抗できるわけではなかったが、サスケが自分の月読を返せたのなら、その力はいざという時の救いになるだろう。

 なによりその場面を今ここでみせしめる必要があった。

 

 暁に。ゼツに。マダラに。

 

 見張られているこの戦いの場で、サスケのその力を見せねばならない。

 

 体の弱り始めた自分に勝てぬようでは…。その幻術を返せぬようでは弱い。

 

 そう認識されては困るのだ。

 

 

 この戦いの後おそらくサスケは動けぬ状態になるだろう。

 その時写輪眼を持つサスケをマダラが放っておくとは思えない。

 木の葉に渡り敵に回す様な事はしないはずだ。

 

 そうなれば、マダラの選択肢はサスケを仲間に引き入れるか、殺すか。だ。

 

 マダラの手の内に引き込まれてはならない。だがマダラが手駒に…と思えるほどの力がなければサスケは殺されてしまう。

 そうならぬために全力でかからなければならない。

 全力の自分に勝つサスケの姿を見せつけねばならない。

 うちはサスケは利用価値があると感じさせなければ。

 

 もしもそれでマダラに引き込まれても、サスケにはナルトがいる。

 里の仲間がいる。

 必ず救い出してくれるはずだ。

 それを信じて自分の成すべきことをする。

 

 

 グッと体に力を込めて、イタチは深く厚くチャクラを練り込み術をかけ、サスケの目を奪うその光景を作り上げた。

 

 現実として見せられたその光景の中、サスケは片目を奪われ恐怖と痛みに苦しみもだえた。

 そのサスケにイタチは執拗に万華鏡写輪眼と、ただの写輪眼の力の差を誇示した。

 その力を欲するように。

 

 「もう片方ももらうぞ」

 

 ここが最も大きな分かれ道になるだろう…。

 

 

 どうか弟が自分の力を超えてくれるようにと、イタチは祈りにも似た想いで手を伸ばした。

 

 血に濡れた細い指。それが赤い瞳に届く寸前。

 

 ピシィッ!

 

 硬い音が耳に響き、イタチの作り上げた世界が音を立てて崩れ落ちた。

 

 万華鏡の持つ強い力を、万華鏡を持たぬ瞳が上回った瞬間であった。




いつも読んでいただきありがとうございます。
更新遅くなりスミマセン(-_-;)
いつもの倍近い時間がかかりました…。
流れと描写が難しくておろおろしていたのもありますが、やっぱりこの箇所はイタチが辛すぎてなかなかうまく書き進められませんでした。
しかも長くなってしまって一話で終わらすことができなかった(>_<)
書いていたら知らない間に8000字超えていて。
二つに分けました(^_^;)

原作にとっても大きな起点となった兄弟の戦い。
うまく描けているのかどうかわかりませんが、自分なりの想いはいっぱい込めました!
次回、またちょっと時間かかるかもしれませんが頑張って書きますので、何卒よろしくお願いいたします(*^_^*)

いつも本当にありがとうございます☆
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