いつの日か…   作:かなで☆

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原作の描写を引用させていただいています。
ご了承の程お願いいたします。


第百三三章【兄として】

 先に崩れ落ちたのはサスケであった。

 月読を返したことでかなりのチャクラを消耗し、それが体への負担となってサスケを襲う。

 荒い息で肩が大きく揺れる。

 その揺れがイタチの目にうつり、かすみ…うすれ…

 ガクリとイタチの体も膝から崩れ落ちた。

 「…っ!お前…」

 術を返された反動でイタチの全身を激しい痛みが走った。

 特に月読を繰り出した左目の痛みは強く、体が小さく震えた。

 「…オレの月読を」

 きちんと返したことに安堵しながら、手で瞳を抑え込む。

 「言ったはずだ。あんたがいくらその眼を使おうと、このオレの憎しみで幻は現実となると」

 言い放ったサスケの言葉を聞きながら、イタチはゆっくりと立ち上がる。

 

 幻は現実に…

 

 

 イタチの脳裏にはごくまれに自分の夢に現れる、幸せな家族の場面が浮かんでいた。

 自分自身で作り出した幻術の様な…あの幻。

 

 そして、心に描いた大切な人との温かい未来。

 

 

 お前は現実にしろよ…。

 

 「それこそ、そのセリフそのまま返しておこう」

 すぅっ…と、イタチの体から醸し出される空気が変化してゆく。

 さらに鋭く。さらに厳しく。恐ろしいほど静かな物に。

 

 終わりは近い。

 

 研ぎ澄まされたイタチの感受の力がそう告げている。

 

 本気で行くぞ。

 

 力を込めて印を結ぶ。

 閉じた右目に徐々に熱い熱が集まりくる。

 

 ついて来いよ。サスケ。

 

 最後が近いというこの状況。

 されどイタチの心は場違いなほどに躍動していた。

 

 

 ようやくだな。

 

 

 『修行つけてよ』

 

 

 懐かしい光景が浮かぶ。

 純粋に自分の背を追ってきた弟の姿。

 遠ざけるためにいつも「また今度だ」と、突き放してきた。

 だけどやっとこうして向き合えた。

 

 ずっとこうしてお前と戦いたいと思っていたんだ。

 力をぶつけ合い、共に高め合って行きたいと。

 

 あの時お前の想いには応えてやれなかったが、今やっと…

 

 胸の内でイタチは笑みを浮かべた。

 

 待たせたな。サスケ。

 

 ようやくのお前との時間だ。

 

 イタチにとってのこの時間はまるで兄弟での修行の様に感じられた。

 とはいえ、やはり力をつけたサスケとのそれは簡単な物ではない。

 印を組ませぬスピードで放たれた大型の手裏剣。

 かわそうと身をかがめて気づく。

 一枚ではなく二枚の手裏剣が風を切り向かってくる。

 

 影手裏剣の術か…

 

 大ぶりな手裏剣で行うのはコントロールが特に難しいその術。

 サスケはそこにさらに千鳥を組み込みイタチを狙う。

 イタチは赤い瞳を光らせ、動きを見切り二枚の手裏剣の間をすり抜けた。

 

 が、刹那に手裏剣の刃が外れてはじけ、そのうちの一つがイタチの足に深く突き刺さった。

 ドサリと体が床に落ちる。

 見ればサスケが腕につけたワイヤーを引きちぎり、口角を上げていた。

 

 仕込み手裏剣…。

 

 実にうまく仕込まれていたそれにイタチはただ素直に感心した。

 が足から伝わる重い痛みに顔が歪む。

 

 決して避けられぬものではなかったが、月読を返されたことによるダメージと、これまでに積み重なった瞳への負担。それらによる目のかすみがイタチの動きを鈍らせた。

 「くっ…」

 

 体を起こして刺さった刃を抜き捨てる。

 ズキリとしたその痛みは足だけではない。先ほどから瞳の痛みも増すばかり。

 赤い瞳に映るサスケの姿がにじんで揺れた。

 

 

 やはりあまり時間はないか…。

 

 

 惜しむ気持ちは抑えきれない。

 もっと長くサスケと共にいたいというその気持ちは。

 

 たとえそれが恨まれ憎まれての物だとしても、共にいたいと、やはりそう思わずにはいられなかった。

 

 だけど、これがもう最後だから。

 もう二度とお前とこうして手を合わせる事はないから。

 

 だから…サスケ。

 

 オレの力を思い知れ。

 この眼の力を思い知れ。

 

 そして必ず欲しろ。

 手に入れろ。

 

 そしたら、オレがお前の目となり力となりお前を守るから。

 

 どんなことがあっても、オレがお前を守るから。

 

 

 

 二人の戦いは火遁のぶつけ合いへと展開していた。

 場所をアジトの屋根の上…屋外へと移す。

 

 飛びあがりざまにイタチが印を組み火を放った。

 サスケはその炎から身を守るために呪印の力で姿を変化させ応戦する。

 

 静かにイタチが着地し、双方同時に印を組んだ。

 

 『火遁!豪火球!』

 

 ゴウッ!

 

 互いの炎が燃え揺れ轟く。

 

 サスケの炎はこれまでにチャクラを消費したにもかかわらず、しっかりとした手ごたえ。

 自分の炎を押してくるその威力に、たゆまず必死に力を磨いてきたのであろうことが読み取れる。

 一人でよくここまでと、嬉しくもあり、その場に自分がいられなかったことがやはり寂しくあった。

 

 ぶつかり合う炎はやがてイタチの力を押し始めた。

 だが炎で負けるわけにはいかない。

 

 よく見ておけよ…

 

 イタチの右目に力が集まって行く。

 深く熱く集約されたそれは解放を求めて大きく膨れ上がり…

 

 赤い雫が瞳から流れ落ちた。

 

 

 ― 天照 ―

 

 

 イタチの導きによって漆黒の炎が解き放たれた。

 それはサスケの赤い炎を食らうように広がり覆い、サスケの眼前に迫った。

 

 初めて見る黒い炎。

 

 ジリ…と、サスケの足が無意識に下がった。

 

 己の強いうちはの火を食い尽くした黒炎。

 サスケの心には知らず恐怖が生まれていた。

 だが次の瞬間。サスケの瞳が少し揺らいだことをイタチは見逃さなかった。

 何かを狙っているようなそんな揺らぎ。

 

 それが何か、イタチがその答えに至らぬままに、サスケが駆けだした。

 しかりとイタチを見据えたままで、円を描くように。

 

 …オレの炎を誘っているのか…

 

 どこかにそんなことを感じて、イタチは走るサスケを追うように天照を繰り出した。

 

 ほとばしる黒い炎はサスケの背をすり抜けてあたりの木々へと飛び散り、黒い焔を上げてゆく。

 それをちらりと目に映すサスケ。

 やはりこれを狙っているらしいとイタチは思い至るが、もうあまり時間がない。

 すでにチャクラの消費も激しい。

 そろそろ次の段階へ進めなければこちらのチャクラが先に尽きてしまう。

 イタチは抑えていた天照の速度を上げ、呪印の力で作り出されたサスケの翼へと黒い炎を焼き付けた。

 「ぐあぁぁぁぁっ!」

 熱に苦しみ地に伏せるサスケ。

 その様子をじっと見つめるイタチ。

 息が乱れ、疲労に肩が大きく揺れる。

 

 もう少し…。

 あと少しだ。

 

 スタミナもチャクラもゆとりある状態ではない。

 だがそれはサスケも同じであろうとイタチは一つ深い呼吸をした。

 自分の予想通りなら、天照を回避するためにサスケは変わり身を使うはずだ。

 それも気づかれぬよう高度な物を。

 

 それを確かめるべくイタチは静かにサスケに近寄る。

 ゆっくりと身をかがめ、倒れ込むサスケに手を伸ばす。

 が、指先が触れるその寸前。サスケの体が溶けて地面へと吸い込まれた。

 地面には亀裂が入っており、その割れの向こうにサスケの気配が感じ取れた。

 

 これは、大蛇丸の変わり身。

 

 以前見たことのあるその術。

 この術は他の術とは比にならないほどチャクラを消費する。

 

 これまでの流れを考えれば、もうサスケのチャクラは…

 

 イタチがそう考えた瞬間。ほとんど尽きているであろうサスケのチャクラが動き、足元から術の気配がした。

 

 何か仕掛けてくる…

 

 それを避けるべくイタチはその場を退こうとする。

 が、今の今まで成りを潜めていた胸の痛みが急にその身を襲った。

 「…っ!」

 激痛に続き咳がこぼれ、体の奥から血の匂いがこみ上げる。

 

 ここまで来て急に…

 いや、ここまでもったことに感謝すべきか…

 

 思えば長く付き合ってきたこの病。

 イタチはそれに幾度となく感謝してきた。

 

 もしも自分が先短い命でなければ、覚悟を仕切れずにいただろう

 

 何とかしてサスケと生きる道を探そうとしていたかもしれない

 

 その道を探し、あがき、もがき苦しんだかもしれない

 

 

 そうならずにいられたのは、自分は長く生きられないというこの病のおかげであったのだ。

 

 そんな事を言ったら、きっとあいつは怒るだろうな…

 そして困ったような顔をして、泣きそうな顔をして、それでも優しく笑って抱きしめてくれただろう…

 

 ふわりと愛した人の香りが揺れた。

 

 その香りに目を閉じた瞬間。

 サスケのチャクラが解き放たれた。

 

 「火遁!豪龍火の術!」

 

 「っ!」

 

 ゴォッ!

 

 激しい音を立てて足元が割れ、龍と化した強烈な炎が空へと舞いあがった。

 術をくらいはしなかったものの、その衝撃にイタチの体が弾き飛ばされる。

 「くっ!」

 何とか態勢を取り戻したイタチだが、すぐに追撃の火龍が襲い来た。

 幾発目かの龍がイタチを上空へと弾き上げ、細くなった右腕を焼く。

 龍はその勢いのまま雲をも焼く威力で空へと昇って行った。

 

 辺りに広がる熱と土埃。

 舞い上がった塵が視界を埋め尽くし、徐々に風にさらわれ景色をあらわにしてゆく。

 

 払われた砂塵の後には、力なく地に膝をつけるイタチの姿があった。

 体が荒れた呼吸と共に大きく揺れている。

 

 直撃は免れたものの、体をむしばむ病の痛み、チャクラの消耗、眼の痛み。

 様々な苦痛がイタチを襲っていた。

 だが疲労とチャクラの枯渇はサスケも同じ。

 

 おそらくもう術を使えないはず…

 

 イタチの考えを肯定するかのように、サスケもまた地に膝をつけて体を崩した。

 体から呪印の模様が消え。瞳が黒く染まってゆく。

 

 大蛇丸の呪印を引きずり出す時か…

 

 ようやくその時が来たかとイタチは目を細めた。

 が、サスケが小さくほくそ笑んだ。

 「これがオレの最後の術になるだろう」

 上空で小さく雷鳴が響いた。

 

 「…写輪眼はチャクラを見る眼だ」

 サスケを見下ろし、イタチは言葉を発する。

 「強がりはよせ。もうお前にチャクラが残っていないのは分かる」

 一層強い雷鳴が雲を光らせる。

 その光を背負う兄を見上げ、弟は言葉を返す。

 「確かに今のオレにはチャクラはない。さっきの火遁ですべてを使い切ったからな」

 

 ポタ…

 

 空から雫が降り落ちた。

 それは徐々に数を増やし、大地を…兄弟を濡らしてゆく。

 その水滴を受けながらサスケは笑みを浮かべていた。

 「だが、あんたを殺すのにオレが何もせずここへ来たと思うか?」

 強く、それでいて冷静な口調でサスケは言う。

 「一瞬だ。この術は天照と同じだ。絶対にかわす事はできない」

 瞳が赤を取り戻し、自信を溢れさせて兄をじっと見据えた。

 

 

 「さて。ご希望通り再現しよう。あんたの死にざまを!」

 

 ゴァッ!

 

 空で雷が轟き、サスケの赤が光りを帯びて揺れた。

 




遅くなりすみません(ーー;)
苦しみながら書いておりました。こんなにも筆が重いのは初めてじゃないかと思うほどに難しいです。
故に長くなってしまって…。この一話にまとめたかったのですが、8000字超えそうだったので切りました(>人<;)
くどくないか…心配ですが、どうせならガッツリ二人の戦いを書こうと思います。
次回はもう少し早く更新できればなぁ…と思いますので、またよろしくお願いいたします。
いつも読んでいただきありがとうございます☆

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