いつの日か…   作:かなで☆

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原作の描写を引用させていただいております。
ご了承のほどよろしくお願いいたします。


第百三四章【うちはイタチ】

 雨が激しさを増し、サスケは何かを確かめるように一度空を見上げて、笑んだ。

 

 バチィッ…と、サスケの左手で光りがはじけて輝く。

 

 雷遁。と考え否定する。

 もうサスケにチャクラはない。それは間違いない。

 だがサスケの手の中には確かに雷撃の光が生み出されている。

 その光に共鳴するように、空が嘶いた。

 

 響く雷鳴…

 

 

 - 雷に気をつけて -

 

 

 耳の奥に声が蘇った。

 

 

 そうか。そういうことか…。

 

 目を細めて空を見上げる。

 雲の合間で光る雷は徐々にサスケの頭上へと集約されている。

 その様子に、イタチはサスケの考えにたどり着く。

 

 雷の力を使って雷遁を…

 

 先程の火遁も狙いは自分ではなく、空へと放ち大気に熱を与え積乱雲を作りだすため。

 恐らく天照の熱をも利用するために術を誘ったのだろう…

 

 「そうか…」

 

 この事を言っていたのかと、イタチは水蓮の言葉を思い返す。

 そして今ようやく分かった。

 

 彼女はすべてを知っていたのだと。

 

 「…っ」

 

 意図せず滲んだ涙が視界を揺らした。

  

 この最期を知りながら、何も言わず自分を導き見守り続けてくれていた。

 その温かさが一気に体の中を…心の中を駆け抜けた。

 

 が、そのぬくもりを奪うように空が嘶く。

 イタチはグッと手を握りしめ自身の中のチャクラを確認する。

 

 足りないか…

 

 スサノオを使うだけのチャクラは残してある。

 だがそれは十拳剣を振るうための物。

 この攻撃を防ぐために使えば後に残らない。

 

 それでも…

 

 やるしかない。

 今ここには自分しかいないのだ。

 いつも自分を助けたその存在は今はもう…

 

 

 - イタチ -

 

 姿を思い浮かべると声が聞こえた。

 

 - 私が絶対守るから。忘れないで…。私を思い出して -

 

 あの時瞳に映した優しい笑みが蘇る。

 

 

 そうか…

 

 そういうことかと、再びイタチは思い当たる。

 

 お前はいつもオレと共に在った…

 最期を迎えるその時まで決して孤独にはしないと、その想いでそばにいてくれた…

 

 今も…

 

 ゆっくりと細い指を持ち上げ、額あてに触れる。

 

 

 共に行こう。最期の時まで…

 

 

 指の先でチャクラが揺れた。

 

 瞬間。

 

 額あてが淡く光り、放たれたそれがイタチの体を包み込んだ。

 

 赤みを帯びた柔らかい光。

 

 今まで幾度となく自分を救い、そばに寄り添い続けてくれた物。

 

 

 …水蓮…

 

 

 力を残し与えてくれたその存在を想い空を見上げる。

 

 キィィィィッ!

 

 空が甲高く鳴き、サスケが声を響かせた。

 

 「雷鳴と共に散れ!」

 

 

 ドッ……!

 

 聞こえたのは初めの一音だけだった。

 サスケの導きによって降り落ちた雷はチャクラによって人が作り出す雷遁とは比べ物にならない威力。

 その衝撃に、寸前で繰り出したイタチのスサノオはかろうじて絶えていた。

 だが轟音が耳の機能を奪い、防ぎきれぬ威力が暁の衣を吹き飛ばし、イタチの体を押さえつける。

 「…く…っ」

 膝を地に着き襲う雷を見上げる。

 

 防ぎきれないか…

 

 そんな事がよぎった瞬間。一筋の太い雷撃がスサノオの壁を破ろうと強く光った。

 

 まずい…

 

 破られる。と思わず目をつぶった。

 が、襲い来るであろうと予想した衝撃がこず、眼を開く。

 ドキリとした。

 サスケの術を防ぐ八咫の鏡と自身の間に、いるはずのない姿があった。

 

 まるで守るように、そこに…

 

 長く黒い髪が、赤く染まりながら揺れた。

 

 「水蓮…」

 

 呼びかけに振り向いたその存在はほんの一瞬の笑みを見せ光へと変わりイタチを包み込む。

 その輝きはスサノオにさえも広がり、八咫の鏡の力を増した。

 

 

 ゴガァァァァッ!

 

 

 大きな爆音が響き渡り空気を震わせた。

 

 雷撃による地面の揺れ。捲き上る爆煙。

 人には作り出せぬ雷は容赦なく威力を振るった。

 が、水蓮の想いから生まれた八咫の鏡は、イタチのその身をしっかりと守りきっていた。

 それでもダメージは皆無ではない。

 地面に倒れ伏したその体に、激しい痛みと痺れが襲う。

 「…っ」

 痺れを払おうとするようにイタチはグッと手を握りしめた。

 手のひらに爪が食い込む。

 わずかではあったがピリッとした痛みが走り、どうやら生きているらしいと一つ息を吐いた。

 そうして小さくうめき顔をしかめる。

 ほんの少しの呼吸にさえも体は痛みを感じる。

 それなのに、少しも重さを感じない。

 まるで宙に浮いているようだった。

 漂うような感覚に意識も誘われ、一瞬薄れを見せる。

 だが、それを引き留めようとするかのごとく、再びイタチの額当てが淡く輝き、小さな光の粒が現れた。

 いつか見た蛍の輝きに似た小さな光。

 それはイタチの目の前に漂い止まり、チカチカと光った。

 行こう…

 まるでそう言っているようであった。

 

 「ああ。そうだな」

 

 渾身の力を込めてイタチは体を起こす。

 硬く冷たい大地に膝をつき、体を持ち上げ、小さく笑む。

 つ…。と、一粒の涙が頬を伝った。

 半身を起こすと、その目の高さに合わせて光の粒も浮き上がる。

 イタチはゆっくりと手を伸ばして光をそっと握りしめた。

 何かにチャクラを残すのはひどく難しく、そう多くの力を潜ませることはできない。

 故に、一気に癒すような力ではない。

 十分と言えるほどの回復ではない。

 それでもそれはじんわりと、優しく、暖かく、穏やかに、イタチの中に染み込んでいった。

 その温もりはチャクラや力を回復するよりも、痛みを取り除くことよりも、イタチを救うものであった。

 「行こう」

 最後の仕上げだ。

 イタチは静かにいくつか呼吸し、喉に力を入れた。

 「これがお前の再現したかった…死にざまか…」

 「…っ!」

 サスケが息を飲むのが分かった。

 「くそがぁっ!」

 起き上がる兄を見て、あり得はしないと慌てた様子で呪印の力を練り上げる。

 サスケの肌の色がくすんだ色に染まり、目の周りに暗い藤色の筋が入った。

 

 大蛇丸のそれと同じ物。

 イタチは薄れる視界にそれを捉えて、チャクラを練った。

 赤く揺れながら膨れ上がるそのチャクラは、イタチの周りに骨を形どってゆく。

 

 その力の流れの中に、確かに感じる水蓮のチャクラ。 

 イタチはフッ…と笑みをこぼした。

 「これがなければやられていたな」

 自分の力だけでは先ほどのサスケの攻撃で終わっていたかもしれない。

 

 小さかった弟は、幾多の困難を乗り越え、孤独に耐えながら成長した。

 

 自分を超えてゆけるほどに。

 

 経験の差による未熟さはあるが、それでも…

 

 「本当に強くなったな…サスケ」

 

 思わずこぼれたその言葉。

 つい柔らかい口調になってはいなかっただろうか…

 そんな事を考えた。

 見据えたサスケはどこか怯えたような顔をしていた。

 切り札を破られ、手をなくし、困惑しているようであった。

 

 もう少し…。もう少しだからな。

 

 「今度はオレの最後の切り札を見せてやろう。スサノオだ」

 

 それは月読と天照を開眼した時に宿ったもう一つの能力だと話し、イタチは言葉を続ける。

 

 「サスケ。お前の術はこれで終わりか?隠している力があるなら、出し惜しみはしなくていいぞ」

 

 …いつの間にか、雨は止んでいた…

 

 「ここからが本番だ」

 

 低く響いたイタチの声と共に雲が切れ、隙間から日の光が差しこみはじめた。

 どうやら先ほどの術は一度が限界らしいと、イタチは最期の時を確信した。

 

 力を振り絞ってチャクラを練り上げる。

 スサノオの姿が女神の様な形に変わり、最後にその上から鎧が覆いかぶさった。

 ただ事ではない術。

 その光景にサスケはジリ…と、後ずさった。

 「どうした?チャクラが切れ、万策尽きたか」

 追い詰めて呪印の力を使うよう誘導する。

 無理に引き出されたそれは、弱ったサスケの抑えを振りほどくだろう。

 そしてそれに伴い取り込んでいる大蛇丸が出てくるはず。

 

 その考えにそう間を空けず、サスケの体から大蛇丸の力が零れ出し術となり現れた。

 八つの頭と尾を持つヤマタノオロチ。

 「この感じ…」

 蠢く大蛇の中にかんじるチャクラには確かに覚えがあった。

 「大蛇丸の八岐の術か」

 これこそが待っていた機。

 グッとこぶしを握ると、スサノオもまた剣を握る手に力を入れる。

 その様子に八岐の大蛇がうなりを上げてスサノオに襲い来た。

 が、そのすべてを剣が次々と切り裂き、最後に残った一本の(こうべ)から大蛇丸がその身を現した。

 「出る物が出てきたな」

 しかしイタチが姿を見たのはほんの一瞬。

 距離と位置を確認したのみ。

 何か言葉を発していたようであったが、イタチの耳には届いていなかった。

 

 先ほどのサスケの術の爆音でほとんど音が聞こえない。

 だがそうでなくとも、何も聞く気はなかった…。

 

 

 ドッ…

 

 

 イタチが目を向けずとも、スサノオが狂いなく大蛇丸の体を十拳剣で捕えて仕留める。

 

  

 こういう物か…

 

 

 あまりにもあっけない事の成り行きにイタチは小さく笑んだ。

 剣を手に入れるまでああも苦労したというのに、と。

 だけれども、それでいいのだ。とも思った。

 長くサスケを苦しめてきた物を一瞬で取り除けたのなら、それでいい。

 物事と言うのはそういう物なのかもしれない。

 苦しめば苦しむほどに、それが消えるときはパッと一瞬でなくなるのかもしれないと…。

 そして己が死ぬことで、サスケの中のもう一つの苦しみも…

 

 「さてサスケ。次はどうする気だ」

 

 もはや大蛇丸を気に留める事もなく、イタチはサスケへと目を向ける。

 サスケは力なく地面に膝をつきうつむいている。

 そんな弟の体から完全に大蛇丸の力が引きはがされ、剣の中へと封じ込まれた。

 

 「仕上げだ…サスケ」

 

 これで終わる…

 

 ようやく訪れた時。

 サスケの中に力の一部を残す。

 

 イタチはマダラがサスケを狙うという万が一に備えて、自身の持つ力、天照をサスケの目に仕込もうと以前から考えていた。

 だがそのためにチャクラを練り…

 「…っ!ぐ…」

 胸に痛みが走った。

 激しい咳が幾度も襲う。

 息は荒く。肩が大きく上下に揺れる。

 だが、倒れるわけにはいかない。まだ…

 

 あともう少し…

 

 「これで…お前の眼はオレの物だ」

 

 最後まで嘘をつく…

 

 「ゆっくりいただくとしよう」

 

 念を押すように。

 

 一歩足を踏み出す。

 だが今までにない激痛がイタチの胸の奥ではじけた。

 まるで骨をも砕くような…。爆発を起こしたような痛み。

 「ぐあ…っ…」

 ゴポリ…と、口から大量の血があふれ出た。

 ドサリと音を立てて地に膝をつく。

 痛みは増すばかりで、咳き込むたびに溢れる血が大地を染めてゆく。

 集中もチャクラも途切れ、スサノオが姿を収めてゆく。

 それを目に留めサスケが起爆札をつけたクナイで攻撃を仕掛ける。

 が、一度消えかけたスサノオを何とかつなぎ止めたイタチが防ぐ。

 もう一つのチャクラを帯びた八咫の鏡で…。

 それはしっかりとイタチの身を守り、そこに在る…。

 

 一人ではない…

 

 イタチは今度こそ足を踏み出した。

 

 サスケが後ずさる。

 その瞳は恐怖と怯えに染まっていた。

 

 そうだ…

 

 少しずつ。ゆっくりと距離を詰める。

 「くそぉっ!」

 恐怖にあおられ、サスケは自棄に攻撃を仕掛ける。

 何枚もの起爆札を連ねてつなげたクナイがイタチに向かう。

 だがそれは少しも兄には響かない。

 「…っ」

 サスケの恐怖が増した。

 

 それでいい…

 

 「オレの眼だ…オレの…」

 

 さらに狂気を演じる

 

 にじみ出た偽りのそれは、しかしサスケにとっては真実であり、その恐ろしさにサスケはまたも自棄に攻撃を仕掛ける。

 刀を握りしめ飛びかかり、イタチを守る八咫の鏡に突きつける。

 もちろんイタチに届きはしない。

 サスケは鏡によってはじかれ地面に転がり落ちる。

 「く…っ」

 何とか身を起こし兄を見る。

 ゆらりとイタチの右手が揺れて持ち上げられた。

 血に濡れた指先がサスケに向かう。

 

 ジリっと下がったサスケの背が、壁にぶつかり退路が断たれた。

 

 過度の疲労と恐怖でサスケの膝は震えていた…

 

 …サスケ…

 

 その名を呼ぼうとしてやめた。

 もはや多くを残すべきではない。

 それらは全てこの胸の内に…。

 

 だけど、少しだけ…

 

 イタチはゆっくりと足を進める。

 

 先ほどとは違い、体は重くもはや鉛のようであった。

 それでも一歩一歩、弟に近づく。

 

 …なぁサスケ…

 

 弟への想いがまるでふわふわと舞う雪のように静かにイタチの心の中に降る。

 

 

 聡いお前の事だ。いつかオレの真実にたどり着く日が来るかもしれない。

 

 その時はどうか里を憎むな。仲間を恨むな。うちはに絶望するな。

 

 大きな嘘をついたオレを恨め。兄を憎め。

 

 お前はあの美しい里でお前を愛してくれる人たちと共に生きろ。

 

 そして、お前はお前自身を…

 

 「許せ、サスケ」

 

 お前に伝える言葉は…

 

 「これで最後だ」

 

 そこに浮かんだ笑みは無意識だった。

 止めることはできなかった。

 

 

 それがサスケにどう映ったのかわからない。

 

 嘘をつき通してきた自分の最後のミスだと思った。

 

 だけれども、きっとあいつが許してくれるだろう…

 

 

 ― イタチ ―

 

 

 声が聞こえた。

 

 

 ― 兄さん ―

 

 

 声が聞こえた。

 

 

 この世で最も愛おしい声が聞こえた。

 

 

 オレは幸せだ。

 

 

 最期の時に、その声が聞こえるなんて…

 

 

 オレは誰かを愛し、愛された時間を生きた。

 

 

 もういいんだ…

 

 もう大丈夫だから…

 

 

 

 

 コツン…

 

 

 

 

 小さな音を立ててイタチの指先がサスケの額に触れた。

 もはや何も感じなくなっていたはずの指先に、あたたかいぬくもりを感じた。

 変わらぬぬくもりを。

 

 

 溢れるのは愛おしさばかりだった。

 

  

 

 ゆらり…とイタチの体がゆっくりと崩れ落ちてゆく

 

 

 

 …どうかお前たちも幸せに生きてくれ…

 

 

 

 愛する存在がイタチの胸の中に浮かび…

 

 

 意識と共に

 

 

 命の灯と共に

 

 

 薄れて消えて行った…




いつも読んでいただきありがとうございます。
更新したくてしたくないような…そんな回でした。
ずっとどう描くか悩んできたカ所でもありました。
何度も原作を見返しては、イタチの最期の時がどうか孤独ではありませんようにと、そんな想いを持ちながら練り上げ書き上げました。
大好きなイタチへ…。想いをこめて捧げるストーリーです。
皆様読んでいただき本当に感謝です。

最終話までどんどん近づく今日この頃。
最後の最後まで頑張りますので、何卒よろしくお願いいたします!
年内…もしくは新年早々に更新したいなと思っております☆
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