いつの日か…   作:かなで☆

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第十四章 【戦い】

 しばらくして、姿を現したのは14・5歳くらいの少年だった。

 

 こんなところに子供?

 

 水蓮が顔をしかめる。

 しかし、額当てを付けていることを見ると忍。

 その額当てを見てイタチの体が一瞬ピクリと揺れ、水蓮もその隣で息を飲む。

 額当てには音符のマーク。

 

 …音忍…

 大蛇丸の手下…

 

 一気に水蓮の中に緊張が走る。

 大蛇丸の配下なら子供と言えども侮れない。

 

 でも、なぜ…

 

 二人が見つめる中、その少年は石柱を覗き込み目を細めた。

 

 目当てはさっきの巻物…?

 

 水蓮の手に汗がにじむ。

 

 とそのとき、少年が声をあげた。

 「隠れても無駄だよお二人さん。出てきなよ」

 こちらの人数を把握しているその言葉に、はったりではないと悟り、イタチが静かに柱の陰から歩み出る。

 そして、続く水蓮を背にかばって立つ。

 少年は小さく鼻を鳴らしながら得意げな表情を浮かべる。

 「僕からは隠れられないよ」

 所どころに赤い色がのぞく少し癖のある深い緑色の髪を揺らしながら、二人に体を向けるその動きは、こちらを警戒している様子はなく、ゆったりとしている。

 しかしまとうその空気はどこか冷たく固い。

 「臭いで感知するタイプか」

 低い声で言うイタチの言葉に答えず「へぇ。その服知ってるよ。暁でしょ」と少年はイタチの姿を物珍しそうに見る。

 「お前を殺したら、大蛇丸様が喜ぶかな」

イタチを見てニヤリと口の端を上げる。

 大蛇丸がかつて暁にいたことや、抜けてその命を狙われていることも知っている。その事からかなり大蛇丸の近くに身を置く者だと二人は悟る。

「ねぇ、ここに巻物なかった?」

 軽い口調で石柱の上を指さす。

 しかしイタチは答えない。

 「あったでしょ。困るんだよねぇ。これ、大蛇丸様が必要なんだよ」

 その言葉に、水蓮は大蛇丸が3代目火影の封印術で両腕と術を封じられたことを思い出す。それを解く術を探して、封印術に長けていたうずまき一族の巻物を集めているのだろうか…と考えを巡らせる。

 「持って帰らないと殺されちゃうかもしれないんだよね」

 少年は子供らしい可愛い笑顔を浮かべ、巻物のあった場所を指でスッとなぞる。

 その指についた臭いを確かめ、イタチと水蓮に向き直る。

 鼻がピクリと動いた…

 「巻物を持ってるのは、あんただ」

 なめらかな動きでイタチを指さす。

 そして、一気にチャクラと殺気が湧き上がる。

 「…………っ!」

 気圧されて息を飲む水蓮を、イタチは軽く後ろに押し下げる。

 「水蓮。下がっていろ…」

 「わ…わかった…」

 修行をしたとはいえ、そばにいては邪魔になりかねない空気を察し、水蓮はその場から下がり、イタチから距離を取る。

 イタチの醸し出す空気が変わった事からも、只者ではないことがうかがえ、水蓮の中に緊張が広がる。

 戦闘の中にまともに身を置くのはこれが初めてだ。

 イタチがいれば大丈夫だと思いつつも、空間を埋め尽くしていく緊迫感に足が少し震える。

 二人はお互いに少し前に歩み出て対峙する。

 距離が縮まり、少年の目がイタチの写輪眼をとらえた。

 「うわぁ。それ、写輪眼…」

 驚きというよりは喜びに近い声を漏らす。

 「あんた、うちはイタチか。光栄だなぁ、こんなところで一族殺しで有名なあんたと戦えるなんてさ」

 わざとらしく姿勢を正す。

 「一流の忍を相手にするときは、礼儀正しくしないとね。大蛇丸様からそう教わったんだ。僕の名前は榴輝(りゅうき)お手合わせお願いします」

 その言葉に、イタチの表情が一瞬ピクリと動いた。

 榴輝はまたわざとらしいしぐさで、うやうやしく頭を下げる。

 どこか軽くてばかにしたようなその態度。

 しかし水蓮はその様子に、腹立たしさより、不気味さと妙な恐怖を感じる。

 イタチはさして動じる様子もなく、榴輝を見据え、二人の間に目には見えぬ鋭い何かが渦巻いてゆく。

 辺りを支配してゆく静寂の中、どこからか染み込んできた水滴が、その張りつめた空気の中に落ちた。

 

 ポタ…

 

 ほんの小さなその音が合図となり、二人が駆けた。

 

 シュッ…と、どこから繰り出したのかわからぬスピードでイタチがいくつもの手裏剣を投げる。

 が、それは榴輝に届く前にことごとくはじかれ、それが地面に落ちるより早く二人のクナイがぶつかり合う。

 

 キンッ!

 

 固い音が辺りに響き、二人はにらみ合う。

 その瞬間、水蓮は勝負がついたと確信した。

 あの距離でにらみ合えば、イタチは幻術を使ったはずだ。

 ガッ…と音を立ててイタチが相手のクナイを押し返し、水蓮の前に飛びすさる。

 「イタチ」

 ほっとして駆け寄る。

 しかし、その水蓮をイタチは後ろに押し返した。

 「まだだ…」

 「え?」

 イタチの視線の先。榴輝を見ると、彼の顔の前に額当てと同じくらいの大きさの何かが浮かんでいる。

 ちょうど彼の髪の色と同じ…緑と赤のコントラストを描く、石でできた板のような物体。

 それが榴輝の目をふさぐように浮かんでいた。

 「なに?あれ…」

 その物体がサァッと細かい霧になって消え、その向こうから、にやりと笑う榴輝の顔。

 「あれで視界を守り、幻術を防がれた」

 イタチは「あれもな」と、先ほどはじき落とされた手裏剣に視線を投げる。

 「空中で何かにあたって落ちた」

 「何かって…」

 写輪眼を持つイタチにもわからない『何か』

 水蓮はゴクリと喉を鳴らした。

 榴輝はニコリと不気味な笑みを浮かべてこちらを見つめ、サッと片手で印を組む。

 「片手印…」

 水蓮のその呟きとほぼ同時に、榴輝とイタチの間に小さい石のような物体がいくつも現れ、榴輝の振りかざした手の動きと同時にイタチに襲い来る。

 イタチはそれをクナイで弾くが、細かく、数も多いためさばききれず水蓮を抱えて飛びすさる。

 その先にすでに飛び上がり待ち構えていた榴輝が二人に蹴りを繰り出す。

 イタチはその動きに目を細めた。

 

 …早い…

 

 水蓮を抱えていることもあり対応が一瞬遅れ、その蹴りを交わしきれずに空いた腕で受け止める。

 「くっ!」

 見た目からは想像できない重い蹴り…

 癒えきらぬ傷に少し響き、イタチは顔をゆがめる。

 「イタチ!」

 その様子に気を取られた水蓮に向かって、榴輝が足をイタチの腕に当て置いたまま、もう片方の足で追撃を繰り出す。

 「………ッ!」

 とっさにチャクラをためて、動きの取れぬイタチに変わり、水蓮がその一撃を両腕で受け止める。

 「う…」

 

 重い…

 

 「でも」

 水蓮はグッと体に力を入れる。

 鬼鮫の攻撃よりは軽い!

 「このぉ!」

 イタチに抱えられたままの姿勢で榴輝の腹に蹴りを入れる。

 「なっ!」

 榴輝はイタチに守られていた水蓮から攻撃されるとは思っていなかったのか、まともにそれを受けて、音を立てて地面にたたきつけられた。

 イタチと水蓮も反動で少し後ろに体をはじかれながら着地する。

 榴輝はゆらりと立ち上がり、擦りむいた頬から血が出ていることに気づき、体を震わせながら水蓮をにらみつけた。

 「お前ぇ…!」

 先ほどまでとは違う、憎悪に満ちた瞳…

 「僕を…僕を傷つけたなぁっ!」

 ぶわぁっ…と、榴輝の周りにすさまじいチャクラが溢れ出る気配が水蓮にも感じ取れる。

 「な、なに?」

 明らかに自分に向けられた怒りに、水蓮はたじろぎ、数歩下がる。

 「お前もあいつと同じだ。あの女と…」

 

 あの女?

 

 誰かに対しての恨みを向けられ水蓮が顔をしかめる。

 その視線の先で榴輝の体が、ユラ…と動いた

 

 …くる!

 

 本能でそれを感じる水蓮。

 イタチがその前に立ちふさがろうとするが、二人の間に先ほどの石版より大きい物体が現れて壁となり、瞬時に分断された。

 「なに!」

 「え?」

 ほんの一瞬その壁に視線を投げた間に、榴輝は水蓮の目の前に迫った。

 「許さない!」

 叫びと共に水蓮の体が蹴り飛ばされた。

 「くぅっ!」

 かろうじてガードしたものの、吹き飛ばされて壁に激突する。

 「つぅっ!」

 チャクラのガードは間に合った。

 しかし衝撃によるダメージに顔をゆがめる。

 「水蓮!」

 隔てていた壁が消え、イタチは、なおも水蓮に向かう榴輝を止めるべく駆ける。

 しかし、

 「あんたの相手はこっちだよ!」

 榴輝が指を噛み切りその血で契約を交わした存在を呼びよせる。

 「口寄せの術!」

 吹き上がる煙の中から現れたのは、スラリとした体を揺らめかせるチータ。

 黄金の毛並みに黒い模様が美しさを際立たせる。

 その瞳は赤と緑、左右違う色をしている。

 「榴輝。どっちだ」

 榴輝の隣に並び、駆けながら精悍な声を響かせる。

 「エクロ!お前はあいつだ。目を見るな」

 「幻術使いか。問題ない!」

 榴輝の命令に、立ち上がればイタチよりは大きいであろうその体がしなり、屈強な骨格を浮かび上がらせながらイタチに向かって駆ける!

 すさまじいスピード。

 「く…」

 イタチは水蓮への道筋を絶たれ、奥歯をかみしめた。

 巨体を持ちながらに風を切る音が聞こえるほどの速さ。

 その合間に、鋭い爪で襲い来る。

 イタチはクナイで受け止めつつすきをうかがうが、一瞬苦い顔を浮かべた。

 エクロと呼ばれたチータの目が閉じられている。

 目で見なくとも気配でイタチを追える能力。

 幻術をかけるのは難しいか…

 しかし、長引かせるわけにはいかない…

 ちらりと投げた視線の先では榴輝が水蓮に迫っていた。

 

 

「殺してやる!」

 恐ろしい怒声とともに、榴輝が水蓮に襲い来る。

 水蓮は一瞬目をつぶりそうになってふと鬼鮫の言葉を思い出す。

 鬼鮫との修行で、そのスピードと気迫に水蓮が思わず目をつぶった時。

 『何があっても、目をそらしてはいけない。恐怖で一瞬目をそらせば、それで終わりです』

 

 そうだ…

 目をそらしたら負け!

 

 …落ち着け…

 

 自分の師匠はあの干柿鬼鮫。

 その事が水蓮の心に落ち着きを呼ぶ。

 

 グッと足に力を入れて構え、迫る相手をにらみつける。

 榴輝は顔をさらにゆがめてこぶしを振り上げた。

 「その目。気に入らないんだよ!」

 

 ガッ!

 

 水蓮は榴輝の拳の下から腕をすくいあげてはじき、そのまま懐に入り込み肘を入れる。

 しかし、榴輝がパシィッとそれを受け止めてそのままつかんで引きながら飛び上がり、前のめりになった水蓮の背に向かって足を振り下ろす。

 水蓮は前に飛んでかわし、体を反転させてすぐさま地面を蹴り、着地した榴輝の脇腹を掌底で狙う。

 だが、榴輝はそれを下に押さえてはじき、蹴りを水蓮に繰り出す。

 

 バシィッ!

 

 と音を立てて、水蓮がその蹴りを両腕で受け止め、二人は一度飛びすさり距離を取る。

 

 ふぅぅぅぅ…と、静かに息を整えながら、水蓮は鬼鮫との修行の成果を感じていた。

 

 …動ける!

 

 見据える先では、榴輝が先ほどよりは少し冷静さを取り戻した顔で、しかし厳しさを浮かべたままの目で水蓮をにらみつけていた。

 「少しはできるみたいだね」

 水蓮はその眼光をしっかりと受け止めながら、構えなおして大きく深呼吸する。

 

 …落ち着けば、かわせる…

 

 榴輝の動きはスピードがあり繰り出される攻撃は細かい。だが水蓮にはその一つ一つがしっかりと見えていた。

 「鬼鮫のほうが早い」

 小さく呟くその声が聞こえたのか、榴輝が目を細めて構えを解き「じゃぁ」とスッと印を組んだ。

 突然榴輝と水蓮の間に無数の小さな粒が出現し、「これはかわせるかな!」との言葉と同時に一気に水蓮に向かって襲い来る。

 「…………っ!」

 

 数が多すぎる!

 

 慌ててチャクラを全身に巡らせようとするが間に合わず、チャクラが回りきらなかった腕や足、体の数か所に傷を負い、吹き飛ばされる。

 「きゃぁっ!」

 

 ずざぁぁぁぁぁ! 

 

 砂埃を立てながら倒れ込む。

 「水蓮!」

 駆け寄ろうとするイタチのゆく手を遮り、エクロが立ちふさがり、咆哮と共に大きな前足をダンッ!と地についた。

 その瞬間地面がうごめき、大きな岩が次々とイタチに向かって突き上げられる。

 「くっ…」

 後ろに飛びすさり、水蓮からさらに引き離される。

 「…っつぅ…」

 水蓮はふらりと立ち上がり、唇をかみしめながら体に力を入れた。

 傷からぽたりと血がしたるが、少しずつその傷がふさがり、痛みも消えてゆく。

 「へぇ…」

 大蛇丸のそばで変わった人材を見慣れているのか、榴輝がその様子にさして驚くでもなくつぶやく。

 「お前を大蛇丸様のところに連れて行ったほうが喜んでもらえるかもな」

 にやりと口を引き上げたその不気味な表情に水蓮はぞっとする。

 

 大蛇丸のところなんて一体何をされるかわからない…

 

 水蓮は額に汗を伝わせる。

 榴輝は今度はちらりとイタチに目をやり、あざけるように笑った。

 「あんたはいらない。写輪眼はもうすぐ手に入るって言ってたから」

 ほんの一瞬イタチの表情が揺れた。

 水蓮とイタチの脳裏には同時にサスケが浮かんでいた。

 

 …サスケの里抜けは近い…

 

 水蓮は少しずつ事が進んでいることに、不安が膨れるが、必死にそれを振り払った。

 

 とにかく今はイタチがあちらを終わらせるまで、何とか攻撃をかわして持ちこたえなければならない。

 

 水蓮はゴクリと息を飲んだ。

 体術だけなら何とか時間は稼げそうであった。

 しかし、術を使われるとやはりなかなか対応できない。

 その上どのタイミングでどこから来るのかわからない術。

 飛びくるつぶての正体もわからないうえに、数が多くチャクラを全身に巡らせないといけない。

 長くなればそれだけ不利になる。

 「…………」

 唇をかむ水蓮と同じく、イタチも思考を巡らせる。

 

 鬼鮫が鍛えただけのことはあるが、長引かせるわけにはいかない…

 

 二人はしっかりと構え直し、それぞれの敵と向き合う。

 イタチは早急に決着をつけるために。

 そして水蓮は。

 

 自分にできることをする!

 

 キッと榴輝をにらみつけて構えた。

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