いつの日か…   作:かなで☆

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第百三八章【決断】

 「正確には、あなたのお母様と会うためにこの世界にきたの」

 青葉はそう言って出されたアイスコーヒーを一口飲み、ニコリと笑った。

 

 

 チャクラの暴走で荒れた部屋を簡単に片づけ、リビングで向い合せに座りひとまずは落ち着いた。

 だが香音はいまだ戸惑いが抜けぬ瞳で青葉を見つめて返す。

 「この世界って、先生…」

 「そう。私はあなたのお母様と同じ世界の人間よ」

 突然の事に香音は信じられない気持ちで青葉を見つめた。

 それでも先ほどの印を組む動きを見れば疑いの余地はない。

 今目の前にいる人物は紛れもなくあの世界から来たのだ。

 「今日はあなたにその話をしにきたの」

 ドクドクと香音の鼓動が急に音を立て始めた。

 「私の考えが合っていれば、あなたは一度あちらに飛んで戻ってきた…。違う?」

 言葉を返せぬままうなづく。

 青葉は「やっぱりそうだったのね」と小さく笑って続けた。

 「あなたが事故にあったあの時、たまたまその場に居合わせたんだけど…」

 その言葉に「…あ」と、香音が声をこぼす。

 「あの時の声…」

 

 『あなたを必ず助ける!』

 

 意識を失う寸前に聞いたその声が、先ほどの青葉の声と重なった。

 青葉がうなづきを返す。

 「あの時、かすかにあなたの体からチャクラを感じたの。だから、もしかしたらってそう思ったの。あなたのお母様がこちらの世界に来た時期から考えてあなたはこの世界で生まれ育ったはず。それなのにチャクラを操れるという事はって」

 「そうですか」

 何と返してよいのかわからず、そんな言葉しか出てこない。

 それでも聞かねばならない事はある。

 香音は自分の前に置いたカフェオレを一口だけ飲み、気持ちを落ち着かせて口を開いた。

 「お母さんに会いに来たとは、どういう事ですか?」

 その問いに「まずは私の事を話すわね」と、青葉は静かに話を始めた。

 「私は少し特殊な能力を持っていて、あの世界でその力を利用しようとする人物に狙われていたの。それをある忍びに助けられてなんとか生き延びることができた」

 それでもその時に親しい者を全て殺され、一人生きて来たのだと青葉はそう言った。

 そしてある人物に出会ったのだと香音を見つめた。

 「楓様のお婆様に出会ったの」

 「お母さんのおばあさん。でも確かその人はお母さんを逃がすために…」

 命を落としたはずだと、思い当たる。

 「話を聞いたことがあるの?」

 驚いた様子の青葉に香音はあちらの世界でチャクラと思念から具現化した母に会った事を話した。

 その時母から話を聞いた限りでは、うずまき一族が滅ぼされそうにうなった際に、母を時空間忍術で飛ばした状況は命の(きわ)だったように思えた。

 それに加えて、その後十拳の剣の封印が記されたあの部屋の事が誰にも引き継がれなかった事を考えると、その人物はその時に命を落としたのだろうと思っていた。

 だがそうではなかったようであった。

 「あなたのお母様を逃した後、あなたのひいお婆様にあたる初音様は、なんとか生き延びて小さな村でひっそりと過ごしていらしたの」

 「そうだったんですか…」

 「初音様はそこで暮らしながら何とかして楓様を探し出そうとしておられた。だけどどうすることもできず、心を悩ませていたわ。かなりお年を召していらしたし、自分の命がいつまで持つかわからないと。そんな時に初音様と私は出会った」

 高齢の身で一人生きる初音。当時まだ10代であった身寄りのない青葉。二人は出会い話をする中で共に過ごすようになったとの事であった。

 青葉は献身的に初音に寄り添い、信頼を得て楓の事を聞くこととなった。

 「全てを聞かされたわけではないと思う。それでも楓様を見つけて、しかるべきことを伝えねばならないのだということは十分に理解できたわ。うずまき一族のみが引き継ぐべき何かがあるのだと。そして私は初音様から楓様を見つけ出すという使命を受けた。自分にはもうその力がないからと…」

 初音は先の争いで無理のある戦いをした事が原因か、チャクラを練れなくなっており、自身では追えず信頼を置く自分に術を授けたのだと青葉はそう話した。

 

 「訓練を積んで術を会得して飛んだ先が、この世界だった」

 たどり着いたその時に出会った人に救われ支えられ、後に結婚したのだとの話に、香音は自分とイタチを重ね、父と母もそうだったのかもしれないとそんなことを思った。

 「必死に楓様を探した。でもなかなか見つけ出すことができなかった。そして、ようやく出会えたのがあの日だった。だけど、私が駆け付けた時もう楓様は…」

 

 命途絶えていたのだろう。と、その沈黙に香音はそう捉え、「でも…」と疑問を投げた。

 「どうして母だと分かったんですか?」

 母親はこの世界に来てからもうずいぶんと歳を重ねていた。青葉が聞かされていた風貌とはずいぶん変わっていたはずだった。

 その問いに青葉は胸元からペンダントを取り出して見せた。

 「これよ」

 青い小さな石がきらりと光った。

 「それは…」

 目の前で揺れているそれを見て、香音はハッとして自身の胸元に手を当てる。

 そこには同じ青い石のついたペンダント。

 

 母の形見であった。

 

 いつも肌身離さず持っていた物であり、事故の当日も身に着けていた。

 

 「これは初音様から預かった物で、一つの石を二つに分けた物なの。そのもう一つがあなたの持っている物…もとは楓様の物だったその石よ。私はこの石を目印に飛んで来たの」

 「石を目印に…」

 青葉はうなづき、真剣なまなざしを浮かべた。

 「私が初音様から授かった物は3つ。時空間忍術。この石。そして…」

 青葉はカバンから一つの巻物を取出し、香音の前に差し出した。

 「私には開くことができない。でもきっとあなたなら…」

 言われて香音は巻物を手に取る。

 懐かしいその手ざわりにも涙が一瞬滲んだ。

 先ほどのように暴走しないよう、集中して慎重にチャクラを練る。

 浮かんだ術式は母から受け継いだ封印術の一つであった。

 

 だが印を組もうとして戸惑う。

 さすがに術を使う程のチャクラを練るには不安があった。

 「大丈夫」

 青葉が一つうなづき笑った。

 「また同じような事が起こったら、私がすぐに抑える。それにさっきよりはチャクラの動きが落ち着いてきてるから、大丈夫よ」

 促されて香音はより慎重にチャクラを練りあげ印を組む。

 「解!」

 暴走することなく発動した術により巻物の封印が解かれ、淡い光が香音の顔を照らした。

 緊張の面持ちで巻物を開く。だが、何が記されているのかは分かっていた。

 

 十拳剣の封印についての記述であった。

 

 イタチと共に歩んだその軌跡が思い浮かんで涙がこぼれた。

 

 拭っても溢れる涙に青葉がハンカチを差し出した。

 「それが最も重要な事なのだと初音様はそう言っていたわ。内容は聞かされていないけれど、間に合わなければ世界には多くの悲しみと闇が訪れると」

 香音は受け取ったハンカチで涙を拭い、うなづいて返した。

 「大丈夫です。ここに記されている事柄は、無事に成されました」

 その言葉に青葉は深く安堵の息をついた。

 「よかった…。本当に」

 その事が今までずっと青葉の背に重くのしかかっていたのだろう。

 青葉の目にもうっすらと目に涙がにじんでいた。

 

 剣の解術での事を思い出しながら香音は再び巻物に視線を落とし、後に記されている文字にドキリとした。

 内容は時空間忍術についての事であった。

 「これは…」

 その記述に読み入る。

 

 鼓動が鳴ったのは、そこに知った名前が記されていたからであった。

 

 この術をうずまき一族に授けたのは過去の歴史に神と呼ばれた存在。

 

 【女神ナキサワメである】

 

 そう記されていたのだ。

 「ナキサワメ…」

 「時空間忍術についてのことも書かれているのね?」

 「はい」

 「ナキサワメの事は知っている?」

 聞かれて香音はあの世界で会ったことがあると話した。

 その事に驚きつつも、青葉はそれならば話しやすいと笑った。

 「多分そこにも書かれているとは思うんだけど、遠い昔、ある兄妹と出会ったナキサワメが、二人に力を授けたという説話があるの」

 ナキサワメの能力である再生の力を兄に、封印の力を妹に。それぞれ分けて授けたのだとのその話に、香音はふと思い当たる。

 「再生と…封印の力を分けて…」

 そこに二つの種族を思い浮かべる。

 青葉が静かに言葉を紡いだ。

 「封印の力を継いだ者の末裔がうずまき一族を築き上げ。そして、再生の力を継いだ者の末裔が…」

 「千手一族を…」

 「ええそうよ。それによってそれぞれの一族の者に力は広く引き継がれ、栄えて行った。そしてその中でも両族の宗家の中で、最も強いチャクラを秘めて生まれた子に、より強い力が引き継がれていった」

 青葉の言葉に香音は考えをめぐらせる。

 

 後のNARUTOを見た限り、千手柱間の再生能力は六道仙人の子であるアシュラの力を引き継いだからであった。

 その力と、ナキサワメから授かった力が合わさって、木遁という術が生まれたのかもしれない。

 

 「そして、もう一つナキサワメが兄妹に授けた物がある。それが時空間移動の術よ。あの術は、ナキサワメが自分が授けた力を長く守り抜いてほしいという想いから二人に授けた物なの」

 「守り抜くために」

 「そう。もしも宗家の血が途絶えかねない危機が訪れたならば、この術をもってしてその血を別の世界へ逃れさせよと」

 「別の世界へ…」

 青葉がうなづく。

 「危険が決して届かぬ世界へと逃れ生き延び、その血と力を絶やすことなく守り引き継ぎ、いつの日か元の世界へ帰るように。そしてその力を、また世界を守るために使ってほしいと。そうして力を守るために、時空間忍術には再生の力も組み込まれた。もし深い傷を負っていても、術で飛ぶときに治癒するように」

 「だから…」

 母は飛んだ際にその身に負っていた怪我が治ったのだ…

 

 そう話した母の言葉を思い出し、腑に落ちる。

 

 

 曾祖母である初音が母を術で飛ばしたのは、ただ孫を救いたいという事だけではなかったのだ。

 

 母楓が、ナキサワメの力を繋ぐ者であったから…。宗家の血をひいていたから…。

 

 伝承の通りにその存在を、うずまきの血を、ナキサワメの力を後世に残すためにそうしたのだ。

 

 

 そしてこの事を知らずして、母もまた自分を…。

 血を、力をつなぐ役割を持つ自分を…

 

 『偶然のようですべては必然』

 

 ナキサワメの言葉が思い出された。

 

 

 いくつもの物が腑に落ちてゆく。

 そして、どうしても分からなかったことが今分かった。

 

 なぜイタチが術の印を知っていたのかという疑問。

 

 イタチはそれをあの時ナキサワメから…。タゴリから聞いたのだ。

 自分を命の危機から守るために。この世界に逃がすために。

 「………っ…」

 

 どうしてあの人はそうやってすべてを背負ってしまうのか…

 

 悔しかった。

 あの時術をためらい、手を離せなかったイタチの顔が浮かぶ。

 

 離れたくない

 

 イタチも強くそう思っていたのだ。

 それなのに、それでもと自分を守ろうとしてくれた。

 あの世界にとって大切な力を守るために、血を守るために決断した。

 

 大切な物を手放し、そうすることで守る。

 

 うちはイタチという人間の人生は、常にそうであった。

 最後の最後まで。

 

 涙が止まらなかった。

 

 その涙に深い物を感じ、青葉は香音の手をそっと握りしめて微笑んだ。

 「今度はあなたの話を聞かせてくれる?」

 香音は止まらぬ涙を拭いながらうなづいた。

 

 「はい」

 

 震える声でそう答え、あの世界での3年間をゆっくりと静かに語った。

 

 

 時間をかけて語り終わったその話を聞き、青葉は再び香音の手を包み込んだ。

 「本当に大変な時間を生きてきたのね」

 「いえ…。私なんて何も」

 本当に大変で辛かったのはイタチなのだ。

 またこぼれた涙を拭うと、視界に子供たちの眠るベッドが映った。

 

 子供たちを一目見たかっただろう。

 抱きしめたかっただろう。

 成長を見たかっただろう。

 

 そのすべてを捨てて、彼は守ってくれたのだ。

 そうして守られ、未来へと力を、血を、命をつなげる事が出来たのだ。

 

 「あの時空間忍術はね、過去に術を授かった二人の血を継いでいる必要があるの。つまり、宗家の血が必要不可欠なのよ」

 

 イタチを思い出し、考えをめぐらせる香音に青葉がそう言った。

 

 だからイタチはあの方法を取ったのだろうと、また一つ腑に落ちる。

 その血を持たぬイタチには使えなかったのだ。

 そう考えて、香音はハッとして顔を上げた。

 「それじゃぁ…先生…」

 「祖先にうずまき一族、もしくは千手一族どちらかの宗家の血があるのだろうと、初音様はおっしゃっていたわ」

 その言葉に香音の胸が締まった。

 はるか遠くではあるが、同じ祖先をもつ人物が目の前にいるのだと思うと、胸の奥が熱くなった。

 ともに大きな運命を背負い生きてくれる存在がいるのだという事が、これからの支えになるように感じた。

 その心強さに、香音の表情が少しほころびを見せた。

 心の落ち着きを感じ取り、青葉は再び話を始めた。

 

 「あの術には時空を渡る力がある。だけどたとえ術を使えたとしても、異なる世界を必ずしも繋ぐわけではないの。そのためにはある条件が必要とされた」

 

 

 『今夜は星が降る』

 

 

 イタチの言葉が再びよみがえり、香音はうなづいた。

 

 「流星群…。カシオペア座流星群」

 「その話は楓様から?」

 少し驚いた様子の青葉に、香音は小さく首を横に振る。

 「いえ。でも、母から聞かされた話や、他にも色々あってさっき気づいたんです」

 「そう」

 青葉は窓から見える星空を静かに見上げた。

 「いくら神と呼ばれる存在とは言え、どんなことでもできるわけではない。だから、術の発動には条件が課せられているの。異なる世界をつなぐのは夏に流れる流星群。それがカシオペア座流星群にあたる。それと他にもまだ条件がある」

 「他の条件…」

 「ただ流星群が現れればいいわけじゃない。時空を渡り異なる世界へ飛ぶには、ある一定量以上の流星の数がなければならないの」

 青葉はカバンから新聞の切り抜きを二枚取り出してテーブルの上に広げた。

 「カシオペア座流星群は毎年出現する。だけど、流れる星の量が毎年違う。これが去年あなたが飛んだ時の流星の数」

 指さした先には流れた星の量を表しているのであろう数値が書かれていた。

 「そして、これが今年の流星の数よ」

 示された数値を見て、一度止まっていた涙が香音の瞳からまたあふれ出た。

 

 昨年の数値を大きく上回っていた。

 

 「去年は数十年ぶりの大突出と言われていたの。それでも星の量が足りず、あなたは本体で飛べなかったのだと思う。だけど、その数値を今年は大きく上回っている。この数値はあくまでも予測だけど、分かるのよ。チャクラの戻り方が今までと違う。この世界に来て一番強く戻ってる。だから…」

 

 青葉は一度言葉を切り、いつの間にか両手で顔を覆い、子供の様にしゃくりあげて泣き出していた香音を見つめた。

 

 

 「だから…」

 

 柔らかい笑みで優しく伝える。

 

 「確実に飛べるわ」

 

 

 静かな声が香音の心の中に染み込んだ。

 

 「だけど、時空を渡れたとしてもどんな世界にたどり着くかは分からない。確実にあの世界に戻るためにはもう一つ条件が必要なの。迷うことなく飛ぶための目印が」

 青葉は初音から譲り受けた石のついたペンダントを香音の前に置いた。

 「私がこの石を目指して飛んだように、あなたが持つ何かと同じ物があの世界にもなくてはならないの」

 そう言った物が何かないかと問われ、香音は胸元を握りしめてうなづいた。

 「あります…」

 震える声で答える。

 香音はあの世界に自分のチャクラをある物の中に残していた。

 剣の事を伝え残すために。

 だがそれはあの忍界大戦での被害に壊れてしまっているかもしれない。

 それでも、もう一つ。香音の中には確かな物があった。

 「一つの物を、二つに分けた物が私の中にはあります」

 

 胸の奥深くで、ぽう…と温かい力が揺れた。

 

 

 そこに存在しているのは、九尾のチャクラ。

 

 ナルトの中にあるそれと、間違いなくひとつであった物。

 

 この力が自分をあの世界に導いてくれる。

 

 「あります」

 

 もう一度答えると、さらに涙があふれた。

 

 あの世界で触れたナルトの温かいチャクラが思い出された。

 優しく包み込むようなあの光。

 そのぬくもりが涙を誘った。

 

 「その様子だと聞くまでもないとは思うんだけど、それでもよく考えて答えて頂戴。子供たちの為には、この世界で生きる事の方が安全で、環境は整ってる。巻物に書かれていた事が無事に成されたのなら、私はその選択も許されるのではないかと思う」

 「はい」

 涙でかすれた声。

 青葉はゆっくりと一つ呼吸をし、問いかけた。

 

 「香音さん。あなた、あの世界に戻りたい?」

 

 問われるまでもなかった。

 他に答えなどなかった。

 子供たちはきっとわかってくれるだろう。

 

 あの人の…

 

 うちはイタチの想いを継ぐ子供たちなのだから。

 

 

 香音は涙を拭い、まっすぐに青葉を見つめて答えた。

 

 

 「帰ります。あの世界に」




お待たせしてしまってすみません(~_~;)
しばらくこんな感じで間が空くかと思いますが、何卒よろしくお願いいたします。
今回の内容に関してはまだ次の話にも色々続いて行くかも…と思いますので、ちょっと説明カ所が続く感じになるかもしれません(^_^;)
なるべく読み良いように書けるよう頑張ります!

いつも読んでいただき本当にありがとうございます(*^。^*)
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