いつの日か…   作:かなで☆

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第十八章 【鼓動】

 母のチャクラが消え、しばらく涙の止まらなかった水蓮だが、次第にその心が落ち着きを取り戻し、まだ少しにじみ出る涙をぬぐい「もう平気…」と、少し笑う。

 「そうか…」

 「うん。ありがと…」

 先ほどまで互いの体温が近くにあったせいか、水蓮は離れた体が急に冷たく感じ、一瞬寂しさ増した。

 「水蓮…」

 呼びかけてイタチが戸惑う。

 どちらの名前で呼ぶべきかと、言葉を詰まらせた様子に気づき「今まで通りでいいよ」と水蓮が笑う。

 「水蓮、この事は誰にも、鬼鮫にも話すな。オレが機を見る」

 イタチの神妙な顔に水蓮は無言でうなずき、地面を見つめる。

 自分が滅び里の生き残りで、初代火影の孫。しかも九尾チャクラを体の中に封印していて、その上異世界から来たなどと、鬼鮫や暁、ましてマダラに知れたら、ややこしい事態を招くことは間違いないだろう…。

 「そうだね…」

 水蓮は力なく呟き、大きく息を吐き出す。

 涙は止まったものの、思いもしなかった展開にまだ頭は少し混乱していた。

 「大丈夫か?」

 「うん。ちょっと自分の生い立ちとか、他にも色々すごすぎて頭がまだついてこないけど。考えても仕方ないもんね!」

 語尾に力を入れてニコリと笑う。

 

 そうだ…考えたところで現実は現実…

 この先どうするかを考えよう…

 

 水蓮は自分に対して「うん」と一つ頷いた。 

 そしてイタチに向き直る。

 「あの、ごめんなさい。違う世界から来たこと黙ってて」

 「いや、仕方ない。どう説明すればいいかわからなかったんだろう?」

 頷きを返す。

 「あの時点で聞いたところで、オレも信じなかっただろうしな」

 「じゃぁ、信じてくれるの?」

 「理解はしがたいがな。偽りを述べているようにも思えない」

 イタチは水蓮の母が立っていた場所に目をやり、言葉を続けた。

 「常識の中の物だけが真実ではないからな…。それに、色々と解けた謎もある。深まった物もあるが。しかし、それを今考えたところですぐに答えが出る物でもない。それより…」

 イタチはそう言って水蓮に向き直る。

 「時空間忍術は使えそうか?」

 「……………」

 水蓮はしばし目を閉じて自身の中を探り、小さく首を横に振った。

 「かなり高度で、この先は分からないけど今は無理そう」

 それは嘘ではなかった。

 「そうか…」 

 そう返して珍しくふぅ…と息を吐き出した。 

 どの出来事に対してのため息かは分からなかったが、そのしぐさに疲労を感じ取った水蓮は、急ぎ部屋を出ようと扉に手をかけた。

 「戻ろうか。鬼鮫も心配してるだろうし」

 しかし、イタチは「少し待て…」と水蓮を止め、壁に向かって立ち万華鏡写輪眼を開く。

 そして印を組み、トンっと手をついた。

 先ほどの水蓮の時と同じように壁に光と文字が走る。

 「…え?なに?」

 まだ何かあるのかと、水蓮は目を見張る。

 「初めにこの部屋に入った時、壁一面にチャクラが複雑に流れているのを写輪眼でとらえた。この壁には術が施されている。これはオレの知っている術式と同じ物だ…」

 光の筋が壁全体に広がり、それと共に何かの絵が浮かび上がる。

 「これって、壁画?」

 「ああ」

 イタチはその壁画を、端から順番に見ていく。

 その瞳がどんどん鋭い光を脹れあがらせていき、絵の終着まできてイタチはじっと一か所を見つめ、ややあってから目を閉じて静止した。

 そして、しばらく黙した後ゆっくりと瞳を開きながら「なるほどな」と小さく呟いた。

 水蓮も同じように歩きながら絵を目で追ってゆくが、文字がまったくないことから、イタチのように何か納得できるような情報を感じ取ることはできなかった。

 「何が書いてあるの?」

 水蓮の問いにイタチはしばし考え「少し説明が難しい。この話はまた今度だ」と答えた。

 そしてその言葉と同時に壁の絵がすぅっと消え、イタチの瞳もいつもの写輪眼に戻る。

 すべてが見えなくなったことを確認してから、イタチは扉に手をかけた。

 「戻るぞ」

 「あ、うん」

 二人は扉を閉める前にもう一度中を見つめた。

 「お母さん…」

 小さくこぼれたその言葉に、イタチは水蓮に視線を落とした。

 「お父さん…」

 水蓮の目には、笑顔の母と、その隣で同じく笑みを浮かべる父親の姿が見えていた。

 「ありがとう」

 柔らかい微笑みと共に紡がれた最後の言葉が部屋の中へと吸い込まれてゆく。

 その瞳は、悲しさと寂しさが入り混じり、少し潤みを帯び光っている。

 だが、それでいて何か強い決意を感じ取れる眼差し…。

 

 トクン…っと、一瞬イタチの鼓動と感情が揺れた。

 

 しかし、イタチがその正体を探るより早く水蓮が顔を上げて笑った。

 「行こう」

 「…ああ」

 ゆっくりと、二人の手で扉が閉じられる。

 音もなく閉まった扉は、淡い光を放ちながら消えゆき、まるで何もなかったかのように元の壁へと姿を戻した。

 

 

 外へと出ると、涼しい空気を含ませた風と美しい星空が二人の疲れを和らげた。

 「気持ちいいね」

 「そうだな」

 答えてイタチは後ろを振り返る。

 その視線の先に、月の明かりを頼りにこちらへと向かってくる鬼鮫の姿が見えた。

 「やっと見つけましたよ」

 なかなか戻らない二人を探しに来たようだ。

 「邪魔が入って時間を取られた」

 鬼鮫は「ああ」と小さく笑う。

 「大蛇丸の手下ですか?」

 「お前もか」

 鬼鮫も同じ状況だったことを悟り、イタチは「それで?」と聞き、すぐにその言葉を打ち消した。

 「いや、聞く必要はないな」

 「ええ。そちらも、ですかね」

 鬼鮫は水蓮に目を向け、体の傷や服の汚れを見てフッと笑った。

 そしてイタチに向き直る。

 「少しは役に立ちましたか?」

 イタチはジトリと鬼鮫をにらみつけ「鍛えすぎだ」と言って歩き出した。

 鬼鮫が少し機嫌のよさそうな声で「行きますよ」と水蓮に声をかけイタチに続く。

 「うん」

 その背を追う水蓮の心には、拭いきれない戸惑いと寂しさが残っていたが、それを振り切り顔をあげた。

 

 すべてのことに意味がある…

 

 母のその言葉が不安を消してゆく。

 

 ここで、イタチのそばで生きるために私はこの世界に来た…

 

 改めてその答えを心に刻んだ。

 

 

 

 渦の国での目的を遂げ、水蓮たちは船で帰路へとついていた。

 船の上で、水蓮は母から引き継いだ術について色々と調べ、自分が使えそうなものとそうでないものを少しずつ整理していた。

 母親が、自身を医療忍術のエキスパートだと言っていただけのことはあり、その術のノウハウはかなり高度な物だった。

 しかし、風遁や火遁などの攻撃系の物はなく、医療と封印に関してものばかりだった。

 それでも、忍術の基本的な知識はある程度得ることができ、これからの自分を助ける力に十分なり得た。

 その中から、すぐに使えそうなものや、役にたちそうなものを二人の目に触れぬよう少しずつ訓練し、渦の国を発ってから3日後の深夜、水蓮たちはイタチがよく使うアジトへと帰り着いた。

 慣れない船、そして渦潮の里での様々なことに疲労がたまっていた水蓮は、ついてすぐに深い眠りについた。

 しかし、やや時間がたってから、イタチと鬼鮫の話し声をかすかにその耳に捉えて、目を覚ました。

 うっすらと開いたその目には、外へと向かう二人の姿。

 小さく話す言葉の中に自分の名前を聞き取り、水蓮はドキリとする。

 二人が外に出てしばらくしてから、気配を消してその後を追う。

 何とか声が聞き取れる場所で岩陰に身をひそめて水蓮は耳を立てた。

 「水蓮はやはり空区へ置いていく。今後、関わることはないだろう…」

 イタチのひどく冷たい声に、水蓮の体が凍りつくように固まった。

 「しかし、よろしいんですか?あなたが問題ないと判断したとはいえ、彼女は我々の事を知っている。渦の国でのことも…」

 「それは心配ない。考えがある」

 

 …幻術をかけるつもりだ…

 

 水蓮はきゅっと唇をかんだ。

 母のチャクラがなくなり、もう中から幻術を解くことはできない。

 イタチは幻術で催眠をかけ、記憶をすり替えるつもりなのだと水蓮は悟る。

 「まぁ、あなたがそう言うのなら問題ないのでしょうがね」

 説明せずとも、鬼鮫がそう言うのも計算の上なのだろう。

 「明日巻物を取りにトビがここに来る。その前に事を済ませる」

 「トビが…。そうですね。今更彼女を見られてはややこしい」

 「ああ」

 「しかし、少し残念な気もしますねぇ。彼女はなかなかいい素材でしたし、あなたの体の事を考えても…」

 そんな鬼鮫の言葉にイタチは表情を変えずに静かに言い放つ。

 「元に戻るだけだ」

 「そうですね」

 「ただ何もなかったことになるだけだ」

 その言葉に、水蓮はイタチが鬼鮫にも幻術をかける気でいることに気付く。

 

 そしてまた、自分だけが様々なことを覚えたまま…

 

 水蓮はグッと手を握りしめた。

 「では、我々もそろそろ休みましょうか。巻物のこともありますし、一応私の分身を見張りにおきましょう」

 鬼鮫がそう言って印を組んで影分身を生み出す。

 水蓮は唇をキュッと噛みしめながら、気づかれぬようそっと元の場所に戻った。

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