いつの日か…   作:かなで☆

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第二十一章【伝令の二人】

 翌日。

 朝早くにイタチと鬼鮫は暁からの任務に出る準備をしていた。

 「だいぶかかるの?」

 やや入念に打ち合わせをする二人の様子に、水蓮が問う。

 「一度本拠地にも寄るので、四日ほどかかりそうです」

 立ち上がり鮫肌を背負う鬼鮫の隣でイタチが影分身を作った。

 「水蓮、お前は今回はここで待て」

行動を別にするのは久しぶりだったが「わかった」と、水蓮は素直にうなずく。

 その様子に鬼鮫が小さく笑った。

 「どこかに捨て置かれる心配がなくなってから、すっかり素直になりましたねぇ。それとも、さすがのあなたでも本拠地には踏み入りにくいですか」

 「さすがのって…」

 今までの数々の言動に、水蓮は鬼鮫から【向こう見ず】【怖いもの知らず】とのニュアンスを含んだ言葉で、事あるごとにからかわれていた。

 ジトリと鬼鮫をにらむ。しかし『踏み入りにくい』という鬼鮫の言葉はある意味では当たっていた。

 トビが帰った後、水蓮はイタチから決して九尾チャクラの事を鬼鮫の前や組織の中で口にするなと釘を刺された。

 そこから糸をたどり、千手柱間の血を引くことが知れれば、その力を利用するために何をされるかわからない…。

 

 「死にたくなければ何も言うな…」

 

 そう言われていた。

 

 本拠地には感知能力の高い者もいることから、微量とはいえ水蓮の中の九尾チャクラを感知される危険性がある。

 その事を危惧し、本拠地に足を踏み入れることは避けたいと二人とも考えていた。

 特にトビを、マダラを避けなければ…

 水蓮はあの日、トビの恐怖を間近に感じ、そう思っていた。

 自分が千手柱間の孫。

 その事実へは、細い細い糸ではあるが、彼ならたどり着きかねない。

 イタチも恐らくそう考えているのだろう。

 「鬼鮫。行くぞ」

 身をひるがえしドアを開けるイタチに、「なるべく早く戻りたいですね」とぼやきながら鬼鮫も続く。

 「行ってらっしゃい」

 ピクリ。と二人の背中が一瞬揺れ、水蓮に半身だけ振り返る。

 そこに生まれた妙な間に、水蓮が「ん?」と首をかしげると、鬼鮫がフッと笑った。

 「悪くないですね。ねぇ、イタチさん」

 「………」

 イタチは無言だが、鬼鮫はやはり笑みを浮かべている。

 「何が?」

 「いえ、何でもありませんよ。では、行ってきます」

 「う…うん。行ってらっしゃい」

 もう一度かけたその言葉に、イタチが「行ってくる」と小さく呟くように言ってすぐにドアを閉めた。

 閉まる直前、イタチを見て「クク」と笑う鬼鮫の声が聞こえた。

 「なに?」

 水蓮は隣にいる影分身(いたち)に問うが「さあな」という一言が返ってきただけで、後に言葉はなかった。

 その瞳には少し厳しい色が浮かんでいる。

 

 サスケのことを考えているのだろうか…

 

 「イタチ。お茶入れるね」

 水蓮は精一杯の笑顔を浮かべる。

 

 この影分身が消えた時、少しでもいい記憶が…心地いい感情がイタチに伝わるように、できることをしよう…

 

 水蓮はそう思った。

 

 

 あれからさらに1か月ほどが経ち、水蓮たちはイタチのアジトを回りながら過ごしていた。

 イタチと鬼鮫は相変わらず情報収集へと日々出ており、水蓮は時折同行することはあったが、アジトで帰りを待つことがほとんどだった。

 変化があった事と言えば、この一か月の間、時折暁のメンバーが怪我の治療に水蓮のもとを訪ねてくるようになったことだ。

 そこには水蓮に対しての監視も兼ねられているのだろうと、それがイタチの見解だった。

 来る顔はいつも決まっていた。

 そして今日も、二人が不在の間に水蓮のもとへとその人物が来ていた。

 「あ~、やっぱ医療忍者がいるとべんりだな。うん」

 負傷していた腕の治療が終わり、両腕をぐるぐるとまわしながら立ち上がったのは主要メンバー最年少のデイダラ。

 高い位置に結んだ金髪を揺らしながら、まだ少しあどけなさが感じられる笑顔を水蓮に向ける。

 「ありがとな。あーね」

 デイダラのいう『あーね』とは『姉』を意味しているらしく、彼はいつの時からか水蓮をそう呼ぶようになっていた。

 「おい、デイダラ…」

 治療の様子を見ていたデイダラの相方…サソリが不機嫌そうに声をあげる。

 ほぼ四つん這いの姿勢となっている傀儡…。その中から低い声が響いた。

 「お前大した怪我じゃないだろ。わざわざそいつに治療させるな」

 水蓮への気遣いではない。

 本来の用件以外のことで時間を取ったことに対しての苛立ち…。

 「でもよぉ、二人ともいないんだぜ。待ってる間に診てもらうくらいいいだろ。うん」

 「まだ戻らないのか…」

 水蓮に向き直り不機嫌な空気を漂わせるサソリ。

 どうやら、今回は二人に用があってきたらしいのだが、タイミングが悪く入れ違いになったのだ。

 まだ組織に入って間もない水蓮には託せない用なのか、苛立ちを現わしながらもサソリは二人の帰りを待っている。

 「今日は昼過ぎには戻るって言ってたから、もう少しかな…」

 「オレは待つのが嫌いなんだ…」

 

 これで5回目…

 

 水蓮は少しひきつった笑みを返す。

 まだ来てから1時間も経っていないが、サソリとこのやり取りを繰り返していた。

 サソリは苛立ちをぶつけるかのようにデイダラに言葉を投げる。

 「だいたい、お前はこいつのところに来すぎだぞ」

 「おいらは旦那とは違って生身で戦ってるんだからな。それに、危険な任務もやってんだ。しょうがないだろ。うん」

 腕を組んで、フンッと鼻を鳴らす。

 そのしぐさが少しかわいく見えて、水蓮はクスリと笑った。

 デイダラは粘土で作った鳥を使い空を飛べるので、その機動力を使った偵察の任務が多いようだが、本来はその粘土を爆発させることを得意といているため、破壊工作などの危険な任務も多い。

 そのため負傷の頻度も高く、水蓮のもとを訪れる回数は多かった。

 それでも急ぎ治療しなければいけないような怪我をしてきたことはまだなく、デイダラは治療目的と言うよりは、水蓮を気に入り、度々足を運んでいるようだった。

 自身が天敵ととらえているイタチがいるにもかかわらず、こうして訪れるのだから、その気に入りようはかなりのものだ。

 だが、それにつき合わされているサソリはいつも不機嫌で、イライラしている。

 「お前といることがオレにとっては危険だがな…」

 相変わらずの重苦しさで、サソリがぼそりと言う。

 「なんだよ、まだこの間の事根に持ってんのかよ…。しつこいと嫌われるぜ。うん」

 しばらく前の任務で、サソリの近くに起爆粘土が落ちたことに気づかずデイダラが爆破したため、サソリは爆発に巻き込まれ被害をこうむった。

 どうやらその事を愚痴っているようだ。

 その任務の後もデイダラは水蓮のもとを訪れていたのだが、爆発でサソリの傀儡に傷が入ったらしくずいぶんもめていた。

 あの時イタチが騒ぎ立てる二人に苛立って、とてつもなく冷めた声で「消えろ」と言っていた事を思いだし、水蓮はまた笑った。

 そんな水蓮を見てデイダラが「へへ」と笑顔を見せた。

 「なに?」

 「いや、なんかあんたといると落ち着くんだよな。なぁ、おいらたちのチームに入りなよ。それがいいぜ。うん」

 勝手に納得して、うんうん…と頷く。

 「鬼鮫の旦那はほっといても傷治るのはえーし、イタチはあんま怪我しねーし。負傷の多いおいらのそばが、適材適所ってやつだろ。うん」

 その言葉にサソリが呆れた声をあげる。

 「お前、それは自分がイタチより弱いと自分で認めたようなもんだぞ」

 「なっ!違う!おいらの方が危険な任務が多いってことだ!うん!」

 あたふたと反論する。

 「それに、イタチといたって退屈だろ?ほとんどしゃべんねぇし。おいらのとこに来たら退屈させねぇ。最高のアートを毎日見せてやるよ。感動の日々だぜ。うん」

 無邪気な感じで水蓮の肩を抱く。

 「何なら今から見せてやろうか?あんたになら、とびきりでかいやつ見せてやるぜ。うん」

 得意げに胸を張るデイダラに水蓮はくすくすと笑いながら返す。

 「だめだよ、そんなことしたらこの場所ばれちゃう」

 「気にすんな。困るのはイタチだけだ」

 水蓮の肩に手を置いたままにっと笑うデイダラに、サソリの冷めた声が飛んできた。

 「おい、殺されるぞ」

 「うん?だれに?」

 サソリの視線の先。アジトの入口へと目を向け、デイダラがピシィッと固まる。

 鬼鮫とイタチが帰ってきていたのだ。

 「デイダラ…。また来てたんですか」

 呆れた口調の鬼鮫と共に、イタチが無言でデイダラをジトリと見ながら歩み寄ってくる。

 そして「離れろ」と短く言い、デイダラの手を水蓮の肩から払いのけ、ちらりと水蓮に視線を向ける。

 あ…と水蓮は気まずくなる。

 九尾チャクラを感知されないように、他のメンバーとの接触には気をつけろと言われていた事を思い出したのだ。

 デイダラの愛嬌ある性格にまるで弟のような感覚を覚え、つい油断していた…と、反省する。

 「また水蓮に治療してもらいに来たんですか?」

 「違う」

 サソリが答える。

 「組織からの伝令だ」

 シュッと巻物をイタチに投げる。

 「この間おいらの華麗な働きで手に入れた物だ。うん」

 「オレたちだ」

 サソリがすかさず言いなおす。

 「そこに書かれてるものを入手してこいとの事だ」

 イタチが巻物を開き、鬼鮫と共に中身を確かめる。

 サソリが「ただし」と言いながら水蓮に視線を向ける。

 「そいつを必ず連れて行け」

 「リーダーからの命令だ。うん」

 「え?私…?」

 組織から自分に対して何か言われるとは思っていなかった水蓮が、思わず声をあげる。

 しかし、イタチと鬼鮫は想定していたのか、冷静な声で答えた。

 「分かりました」

 「承知した」

 二人の返答を聞き、サソリは「確かに伝えた」と言い早々とアジトから出て行く。

 「あ、旦那ぁ!」

 デイダラが慌ててその後を追い、一度水蓮に向き直る。

 「じゃぁな!あーね!また来るぜ。うん」

 「もう来るな」

 水蓮が口を開く前にイタチが返す。

 デイダラはむすっとした顔で「あんたに言ってねぇ」と言い放ち、水蓮に手をあげて笑顔を残し、サソリを追いかけて姿を消した。

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