いつの日か…   作:かなで☆

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第二十三章【闘志燃やして】

 夢隠れの里、里長の屋敷。

 屋敷と言っても、普通の家に比べて少し大きいと言った感じで、ぜいたくをして暮らしているような雰囲気はない。

 水蓮とイタチはいわゆる応接間に通され、「待っておれ」と言って出て行った弓月の戻りを待っていた。

 部屋の中には大きめの長机と、椅子が10脚。

 どうやら会議室としても使われているような感じだ。

 「なんか静かだね…」

 先ほどまでいた所とは違い、主要部であるこの近辺は静けさが漂っている。

 「人が出払っているんだろう。国に従していないとはいえ、忍たちは色んな形で仕事を請け負う物だ」

 イタチは大きな窓を覆っていたカーテンを開け、外を眺める。

 「おそらくこの周辺は忍の住居が中心なのだろう」

 「なるほど」

 いわゆる【出稼ぎ】というものだろうか…

 水蓮はそう理解してイタチと同じく外を眺める。

 「それにしても、屋敷の中も静かすぎない?」

 その言葉に答えたのは部屋に戻ってきた弓月だった。

 「今この屋敷にいるのは、わらわと、お付きのくノ一だけだからな」

 机の上にティーカップが並べられる。

 ふわりと、里の中を流れていた香りと同じ物が部屋の中に広がる。

 「いい香り…」

 カップの中を覗き込むと、飴色の紅茶の上に赤い花びらが浮かんでいる。

 「紅くちなしの紅茶じゃ。はちみつを少し入れるのがポイントだ」

 得意げに話しながら、それぞれのカップにはちみつを少し入れる。

 「あの、弓月さんが入れてくれたの?」

 里長の孫娘が直々に客にお茶を入れるというのは若干違和感がある。

 「弓月でよい。ふだんは、わらわ付きの花夢(はなゆめ)がするんじゃが…」

 弓月は顔をしかめながら、部屋の奥にあるふすまをスッと開けて、中を二人に見せるように体を開いた。

 その先には6畳ほどの和室があり、部屋の真ん中で誰かが布団にくるまり寝ていた。

 「あれが花夢じゃ。風邪で寝込んでしもうてな…」

 顔をひきつらせながらふすまを閉めようとすると、か細い声が聞こえてきた。

 「ゆ、弓月様。客人でずが…」

 鼻がつまり、喉も荒れているのか、言葉に濁点がついて聞こえる。

 表情もかなり辛そうだ。

 「ああ。町で知り合った忍だ」

 水蓮が顔を出して頭を下げる。

 イタチはちょうど対角線上にある窓際から動かず、離れた場所から遠巻きに様子を見守っている。

 「お前がこんな状態だからな。雇ってきた」

 その言葉にピクリと体を反応させ、花夢は布団から顔を出す。

 紫がかった長い髪。切れ長の瞳。年は水蓮と同年代だが、体調が悪いせいか顔が疲れ切っており、やや老けて見える。

 熱が高いのだろうと見て取れるうつろな瞳を浮かべながら、ずりずりと布団から出てくる。

 「ま!まざが私は解雇でずが!ぞうなのでずね!風邪などひいだがら!役立たずだがらぁ!」

 濁った声で必死に叫びながら弓月のところまで這いより、しがみつく。

 「何を言うておる!違う!」

 「ひどい!そりゃ、ごんな時に風邪をひぐなんで我ながら情げないでずよ…。でも、いぎなり解雇だなんで…。長年あなだのそばに寄り添ってぎだのにぃ…」

 ぼろぼろと涙を流しながら、弓月の腰にすがる。

 「だから!違うと言っておるだろうが!お主、その早とちりと勘違い癖を直せ!」

 弓月はそのまま布団まで花夢を引きずってゆき、べりっと引きはがして無理やり布団の中に押し込む。

 「例の事が終わるまでの間だけじゃ」

 「ほんどにぃ…?」

 疑いの眼差しで弓月を見つめる花夢。

 「ほんとじゃ。どうやら、わらわに敵わぬと思い忍を雇ったようでな。先ほど攻撃を受けた」

 「ええ!」

 がバッと起き上がり、すぐにふらついて倒れ込む。

 「じっとしておれ」

 布団をかけ直して、弓月は水蓮とイタチに振り向く。

 「あ奴らに助けられた。なかなかの手練れだ。それで雇ってきた」

 水蓮とイタチの動きを見てそう感じたようで、弓月はにっと笑い、花夢に視線を落とす。

 「そうでしだか…。ありがとうございましだ」

 寝たままだが、花夢はほんの少し頭をあげて礼を述べた。

 「まぁ、そういう事だから、お前は寝ておれ。早く治せ」

 「はい…。申し訳ありません。あの、弓月様をお願いいだじまず…」

 花夢は本当に申し訳なさそうに布団を深くかぶり、顔を半分隠しながら水蓮に言う。

 「お、お大事に…」

 水蓮のその言葉と同時に、弓月がふすまを閉め椅子に座った。

 「お前たちも座れ」

 イタチと水蓮がその正面に並んで座る。

 「少し冷めてしまったな…」

 弓月がそう言いながら紅茶を飲む。

 それに続き、カップに口を付けた水蓮が「うわ。おいしい…」と言葉を漏らす。

 上品な甘さ。そして後から来る酸味。そのままでは少しきついであろう香りと風味をはちみつが絶妙な加減でまろやかにしている。

 「こんなおいしい紅茶初めてかも…」

 それを聞き、弓月が「そうじゃろ」と、嬉しそうに返す。

 イタチは飲んだことがあるのか特に反応はしなかったが、ゆっくりと味わっているようだった。

 そして、静かにカップを置き口を開く。

 「今、里長はいないのか?」

 「穂の国へ行っておる。穂の国からこの里に、守り里として従事てほしいとの申し出があっての。

 その契約にジィは出向いておる。先日無事に契約が済んだが、しばらくあちらに滞在することになっておる」

 「穂の国は確かつい最近国主が代替わりしたばかりだったな…」

 「そうじゃ。国主の長女が跡を継いだ」

 「女性が国主かぁ。すごいね…」

 その呟きにイタチが返す。

 「まだ若いが、政治力や外交に有能だという話を聞いたことがある。その事から、兄ではなく妹が継ぐことになった様だな」

 イタチの話に、弓月がピクリと体を揺らし、声を荒げた。

 「それだ!その兄が問題なのだ!」

 ダンッと机をたたく。

 そして一枚の紙を二人に差し出す。

 「これを見てくれ」

 無数のしわがついており、どうやら一度握りつぶされたような感じだ。

 イタチがそれを受け取り広げる。

 隣から水蓮も覗き込む。

 

【無事に契約が済んだ。

  それと共に、国と里、良き関係を築ける様、

  国主家のご子息とお前の縁談が決まった。

 

                  以上。

              

 追記:一か月程こちらに滞在する。里を頼むぞ】

 

 

 短い内容だが、どうやら、里長から弓月に宛てられた手紙のようだ。

 「これって…」

 水蓮のつぶやきにふすまがバンッと開き、花夢が床に這いつくばったまま顔を出す。

 「政略結婚でずよ!」

 「出てくるな!うつる!」

 瞬時にふすまを閉める弓月。

 「まったく。まぁ、とにかくそういう事じゃ」

 「政略結婚…」 

 本当にそういう事があるのかと、水蓮はその手紙を見つめる。

 「だが…」

 少し言葉に詰まりながらイタチが弓月に言う。

 「確かここの里長は代々天羽家が引き継ぎ、時期里長はお前だという噂を聞いているが…」

 「え?」

 水蓮が声をあげる。

 里長が弓月の祖父なら、次はその子供…つまり弓月の親が里長なのでは…

 そう考えを巡らせる。

 それに気付いた弓月が「ああ」と小さく頷く。

 「わらわの両親はもう死んでおるからな…」

 「………………」

 無言の水蓮に弓月が続ける。

 「父様は優れた土遁の使い手だったのだが…そのせいで無理やり戦に駆り出されてな。戦場で死んだ。かあ様はそれが原因で床に臥せって、8年前に病で死んだ…」

 やはり言葉を返せず水蓮は黙り込む。

 その隣でイタチが口を開く。

 「では、穂の国から養子に来るという事か…」

 「そういうことだ」

 「普通、政略結婚となれば立場が下のものから上のものに嫁ぐものだ…」

 イタチの言葉に、水蓮がハッとする。

 「あ、逆…」

 「普通はそうじゃが…」

 弓月は手紙をイタチから受け取りながら返す。

 「おそらく役に立たない長男を体よく厄介払いする為じゃろう」

 「役に立たない…」

 イタチが少し顔をしかめる。

 「そうじゃ。妹に国主の座を奪われるような男だぞ。ろくなものではあるまい!」

 怒りがよみがえったのか、手紙をぐしゃりと握りつぶす。

 「じゃが、そんな思惑には乗らん!大体わらわには、わらわには…」

 そう言い淀む弓月に水蓮は「ああ」と声をあげる。

 「好きな人いるんだ…」

 「…っ!」

 弓月の顔が赤く染まる。

 「なるほどね」

 「と、とにかく、そんな勝手な話を引きうけるつもりはない!」

 「だが、内容からすると向こうは了承しているようだな」

 「そうだ」

 弓月は、ため息をつく。

 「簡単には断れまい。だからこちらから条件を出した」

 「条件?」

 水蓮のつぶやきに、弓月はあの手鏡を取り出した。

 「これは【夢叶いの鏡】というものだ。1週間以内に、わらわからこの手鏡を奪えたら受けるとこの間伝令を送った。わらわより強い男でなければ認めぬという旨を向こうに伝えたのだ」

 「でも、もしその人が強かったらどうするの?」

 「わらわは時期里長だぞ…。忍でもない者に負けぬ。それに、向こうが忍を使ってきたという事は、自分では、わらわには敵わぬという証拠だろう…」

 言いながらまた怒りが湧き上がったようで、弓月はこぶしを握り締める。

 「まったくもって許せぬ!正々堂々向かってくるならまだしも、忍を雇うとは!しかも里の者を危険な目に合わせよった!そんなやつにこの里に住む資格はない!」

 弓月は、怒りに満ちた目で話を続ける。

 「期限までは明日を入れてあと3日。その間、お前たちにこの事に関して手伝ってもらいたい。お前たちはあちらの忍びをやってくれ。邪魔が入らぬようにな。本人はわらわが…やる…」

 そう言い放つ弓月の瞳が鋭く光り、口元にニヤリと笑みを浮かべる。

 そして「フフフ」と不気味な声をこぼした。

 「二度とわらわに近づけぬよう、完膚なきまでに叩きのめしてくれるわ!」

 弓月の背中に燃えたぎる炎が見えたような気がして、水蓮は苦笑いを浮かべながらイタチをちらりと見る。

 イタチは何も言わずその様子を見ていたが、水蓮の視線に気づいて小さく頷き「承知した」と静かな口調で言った。

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