いつの日か…   作:かなで☆

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第二十八章【采配】

 翌日の昼過ぎ。

 主要部から外れた所にある人気のない広場に、それぞれが集まった。

 かなめには用意された移動用の籠の中で、事が済むまで待機してもらう手はずになっている。

 9年経っているといは言え、顔を見て気付かれては困ると、そういう事になった。

 鬼鮫が付き添う籠の中から、かなめが弓月に気づき丁寧なあいさつを渡した。

 しかし、顔を見せぬかなめに、弓月の闘志に怒りが上乗せされた。

 「輝穂(てるほ)殿、早く出てきてはいかがか。このままでは鏡を取るどころか、顔を見ぬままにわらわの術に敗れることになりますぞ!」

 どうやらこの状態でも弓月の幻術は効果を発揮できるようで、後の事を考えて、イタチが意識鋭くその言葉に耳を傾けている。

 「まぁまぁ。落ち着いて…」

 なだめる水蓮の声に、イタチが続く。

 「まずはあちらの忍とオレがやる」

 スッと足を進める。

 「ん?…うむ」

 弓月が答えた時には、すでにイタチと鬼鮫が対峙していた。

 いつもと変わらぬ表情のイタチに対して、鬼鮫は「ククク」と喉を鳴らし、どこか嬉しそうな笑みを浮かべている。

 「手加減はしませんよ。あなたも、ご遠慮なく…」

 「そのつもりだ」

 答えたイタチの口元が一瞬だけ引き上げられたように見えた。

 「水蓮。イタチは大丈夫なのか?あの忍、かなりできるようじゃ…」

 鬼鮫から湧き出る気迫に、弓月が額に汗を浮かべる。

 「大丈夫だよ」

 返した水蓮の言葉を合図にしたかのように、二人が地を蹴り…消えた。

 

 ギンッ!

 

 音は上空から。しかし、弓月と水蓮が見上げた時、すでに違う場所で再び音が鳴る。

 

 ガッ!

 

 次は水蓮達の正面。

 すさまじい勢いで互いの腕をぶつけあう。

 そのスピードと気迫がチャクラに混じり、ぶわぁっと二人を中心に風が吹きあがり、砂を巻き込んで辺りに一気に広がる。

 「っ!」

 「う…」

 弓月と水蓮が腕で顔を覆いながら、隙間から二人の姿を追う。

 二人は一度体をはじき合い距離を取るが、互いに一瞬にして間合いを詰める。

 洗練された流れのある動きで繰り出されたイタチの蹴りを、鬼鮫が体を開いてかわし、そのまま反転してイタチの背中を肘で狙う。

 イタチはスッと体を落として逃れ、右手一本で体を支えて持ち上げ、そろえた両足で鬼鮫の顎を狙う。

 ほんの少し体をそらすだけでこれをやり過ごした鬼鮫は、鮫肌を背中から外す勢いを利用してそのまま振りぬく。

 しかし、すでにイタチは先ほどの蹴りの勢いのまま上空へと飛び上がっており、鮫肌は空を切る。

 

 シュッ…シュシュッ!

 

 いくつもの音が空気を切り裂く。

 イタチの放った手裏剣。

 鬼鮫は微々たる動きでそれをかわしてゆく。

 

 ひゅっ!

 

 そのうちの一つが見当違いのところを飛び過ぎるが、鬼鮫はそれに警戒した視線を向ける。

 同時に、違う角度から投げられたイタチのクナイがその手裏剣をはじき、鬼鮫の首筋に向かう。

 

 ギィン!

 

 耳の奥に響く音…

 見れば、鬼鮫の命に迫った手裏剣が、瞬時に構えられた鮫肌によって叩き落されていた。

 互いを狙う手は止まらない。

 「水遁!水龍弾の術!」

 水辺のないこの広場で、鬼鮫の背後から通常の規模から外れた水龍が空へ舞いあがりイタチへ向かう。

 「水遁!水龍弾の術!」

 同じく水龍を発するイタチ。

 だが、鬼鮫の物よりは小さい。

 「それでは私の水龍は返せませんよ!」

 嬉々とした声をあげる鬼鮫。

 しかし、イタチは答える代りにさらなる印を組む。

 「風遁!大突破!」

 

 ゴォアァッ!

 

 風を含み膨れ上がったイタチの水龍が勢いを増して鬼鮫の水龍とぶつかる。

 同じ力で激突した二つの龍が力のゆき場所を求めて、空へと舞い昇りはじけた。

 

 ズザァァァァァッ!

 

 ダダダダダダダッ!

 

 風遁の風によってはじき広がった水が、暴風雨となって襲い降る。

 「ひあぁぁぁぁ!」

 「なぁぁぁ!」

 「わわ…わ」

 体を抱え込む水蓮と弓月の声に続き、かなめの慌てふためく声。

 水蓮が向けた視線の先で、籠が風雨に飛ばされそうになっている。

 どうやらそれを中から必死に抑えているようで、籠がいびつに揺れていた。

 「ちょ、ちょっと…」

 いまだ打ち合う二人に水蓮が声をあげ、それに弓月が続く。

 「お主ら!里を水浸しにするつもりかぁ!加減を考えろ!」

 イタチと鬼鮫は一度距離を取って動きを止め、ちらりと弓月に視線を投げてすぐにまた向き合う。

 「ここでは少しやりにくいですね…」

 「そうだな」

 にらみ合ったまま互いの意見を確認し合う。

 そして、小さく笑みを浮かべて同時に言う。

 『場所を変える』

 「え?ちょっと!」

 水蓮のその声は、すでに二人の姿が消えた場所にむなしく溶けた。

 「お、おい。あやつら、なんか楽しんでおらんか?」

 「は、はは…」

 水蓮が渇いた笑いをこぼす。

 「まぁ、しかし。あ、あちらの忍びがここからいなくなったのであれば!」

 必死に気を取り直す弓月。

 バッと勢いよくかなめの入っている籠に向き直る。

 「輝穂殿!いざ、勝負じゃ!」

 数秒の沈黙の後、籠が開きゆっくりとかなめが姿を現す。

 しかし、その姿がすべて弓月にさらされるより早く…

 

 『覚悟!』

 

 3つの声と影が無防備になった水蓮達にそれぞれ襲い来る!

 「な!なんじゃ!」

 弓月は驚き声をあげたものの、瞬時にクナイを引き抜き、襲い来た者の攻撃を受け止める。

 その隣で、水蓮が自分に向けられた手裏剣をはじき落とし、繰り出された追撃の蹴りをかわして相手を蹴り飛ばす。

 そして、かなめへと飛びかかったもう一人は、スピードを殺さぬままこぶしでかなめを狙うが、それが届く寸前、彼の足元の土が盛り上がり…

 

 パシィッ!

 

 地面から現れ出たイタチによって防がれた。

 「なに!なぜ貴様が!」

 手を掴まれたままたじろぐその人物。そして水蓮と弓月を狙った二人。

 その顔には黒い仮面。

 昨日襲い来た黒仮面の忍に間違いなかった。

 「何じゃお主らは!」

 声をあげつつ、自分に向かい来た相手を2・3発のやり取りで吹き飛ばす。

 

 強い…

 

 横目に見ながら、水蓮も自身に襲い来た一人を体術であしらい、印を組む。

 そして懐に入り込み手のひらを相手の腹にあてがう。

 「風遁!烈風掌!」

 至近距離での風に抵抗できず、黒仮面が弓月の倒したもう一人に向かって吹き飛び重なる。

 そして、その二人の上にたった一度の蹴りで、イタチが最後の一人を折り重ねる。

 「う…」

 「か!鏡を…」

 「よこせ!」

 ふらふらになりながらも、目的の物をあきらめる気配はない。

 「…鏡?」

 弓月の声が低く辺りに響く。

 「どうやらわらわを狙ったようじゃな…。ならば手加減はせぬぞ!」

 両手を広げ、なめらかな動きで印を組む。

 しなやかな曲線を描きながら胸元に寄せられる腕の動きは、まるで日舞のように美しい流れ。

 

 ふわり…

 

 風が生まれる。

 その風は、里の中に満ちていた紅くちなしの香りを集め、どこからともなく舞い呼ばれた紅色の花びらと合わさり、弓月を取り巻いてゆく。

 「すごい…」

 あまりにも量の多い花びらに、水蓮は目を凝らす。

 どうやら、赤く発色するチャクラが、本物の花びらと混じり合っているようだった…。

 「水蓮…」

 その光景に見とれていた水蓮の口元を、イタチが後ろから外套の袖で覆い隠した。

 「………?」

 見上げると、イタチも自身の嗅覚を外套の襟で覆っていた。

 離れた場所では、かなめも口元を隠している。

 

 香りではめる幻術…

 

 そう悟りながら、再び弓月に視線を向ける。

 

 カッ!

 

 弓月の体を包み込む花びらが強く光った。

 「夢忍法!夢幻紅吹雪(むげんべにふぶき)!」

 

 ぶわぁっ!

 

 弓月が降り下ろした腕の動きに合わせ、まるで花びらが命を吹き込まれたかのようにすさまじい勢いで黒仮面達に向かい、一瞬でその姿を強い香りと紅色で包み見えなくする。

 「耐えがたき恐怖を味わえ」

 顎を引き上げ、見下した視線を向けながら弓月がつぶやいた瞬間。

 『ヒッ…!』

 紅色の包みの中から黒仮面達が息を吸い込んだ声がたった一度だけ聞こえた。

 

 戦いはあっけなく終わった…。

  

 

 弓月の術が解かれ、幻術から解放された3人は体を寄せ合ってプルプル震えており、すっかり戦意は消失していた。

 「いったい何を見せられたんだろ…」

 ゴクリと喉を鳴らした水蓮の隣でイタチは無言だ。

 

 同じ幻術使いとして、何か想像がつくのだろうか…

 

 「イタチ。先ほどのは影分身だったのか…」

 黒仮面達をにらみつけていた弓月がクルリとイタチに振り返る。

 「こやつらの事を知っておったのじゃな…」

 鋭く一つ一つを解明してゆく。

 「お前と手合わせした忍も知った顔か…」

 同時に、鬼鮫がどこからともなく姿を現し、水蓮の隣に降り立った。

 イタチと戦っていた鬼鮫も影分身。

 黒仮面達が逃走した際に、その退路を断つため身を隠して待機していたのだ。

 「こやつらをおびき寄せるために、わざとこの場から離れたように見せたのじゃな…」

 「えと…」

 水蓮が何をどこから説明しようかと言い淀む。

 その様子に、弓月はふぅ…と一息つき「まぁ、説明はあとでゆっくり聞く」と、自分の後ろに立っていたかなめに振り返る。

 「輝穂殿。無事か…っ?」

 振り向ききった瞬間。弓月はかなめに抱きしめられていた。

 「なななななな!何を!」

 突然の事にパニックになり突き放そうとする。

 しかしそんな弓月をさらに抱き寄せ、かなめは声をあげた。

 「弓月!会いたかった!」

 どうやらやっと会えた感動がもう抑えられなかったようだ。

 「は!離せ!」

 必死に体を離し、かなめを見上げる。

 「突然なにを!…………ん………?」

 どこか見覚えがあるその顔に一瞬固まる。

 「弓月。僕だよ」

 「は?」

 間の抜けた声がこぼれた。

 かなめは手鏡を取り出して弓月に見せ、ニコリと笑った。

 「なぜそれを!」

 「僕だよ。かなめだよ」

 「…え?は?輝穂…どの…。え?か、かなめ?かなめなのか?」

 かなめが一層ニコリとほほ笑んで、再び抱きしめる。

 「やっと会えた」

 「な…な…な…な…!」

 どんどん弓月の顔が赤く染まりあがり…

 「……………っ!」

 パニックが極まったのか、かなめの腕の中で意識を手放した。

 「弓月!」

 かなめが抱き支えたまま声をあげ、困ったように水蓮達に視線を投げる。

 「あ~。と、とりあえず屋敷に戻りましょうか?」

 苦笑いを浮かべる水蓮の視線の端では、鬼鮫がいまだ震える黒仮面達を縛り上げていた。

 イタチがゆっくりと近づき仮面を外す。

 「あなたたちは!」

 あらわになったその顔を見て驚きの声をあげたのはかなめだった。

 黒仮面達は気まずそうに顔をそむけ黙する。

 「知った顔ですか?」

 立ち上がりざまに鬼鮫が問う。

 「はい…」

 頷くかなめを見て、イタチが静かに言った。

 「話を聞かせてもらおう」

 

 

 

 屋敷に戻ると、弓月はすぐに意識を戻し、それぞれに身を整え、応接間で顔を合わせていた。

 部屋の隅には縛り上げられたままの忍達の姿もある。

 「一体何がどうなっておる…」

 隣に座るかなめに目を向けられぬまま弓月が口を開いた。

 思わぬ形での再会に、まだ少し混乱しているようだ。

 「輝穂殿が、かなめだったなんて…」

 「紫卯月(しうげつ)様…里長は、僕の名前を手紙に書かなかったんだね」

 相変わらずの柔らかい笑みで発せられた言葉に、弓月が顔を引きつらせる。

 「ジィめ。いつもいつも肝心なことを省きよって!」

 全てが勘違いであったことを理解し、頭を抱えてうなだれる。

 「して、この忍らは何者じゃ?」

 その問いにイタチが答える。

 「お前たちの持つ鏡を狙っていた」

 「里でわらわを襲ったのはこいつらのうちの一人だったのか。で?お主らは初めから知っておったのか?」

 顔を覆う手の間から水蓮に視線が向けられる。

 「初めから知ってたわけじゃないよ。本当にたまたまそれぞれ知り合って。最終的にこうなった感じで…」

 その言葉に、弓月は、はぁ…と大きく息を吐きだした。 

 そのため息を聞きながら、水蓮は捕らえた忍に目を向ける。

 「かなめさん。この忍達のこと知ってるみたいだったけど…」

 「はい。ひと月ほど前の事です。

 どこかの戦に巻き込まれてけがを負い、我が国に逃げ込んできた彼らを父が保護したのです。おそらく、城で療養中に、私の家臣から鏡の事を聞いたのでしょう…」

 その通りの様で、縛られた3人はうなだれた。

 「なんという恩知らずな!」

 弓月が怒りに震え、忍びたちの前に立ち、見下ろす。

 「この鏡でいったい何をするつもりだったのだ!何を企んでおる!」

 しかし彼らは口を開かない。

 その様子に、弓月が「ほぉ…」と頬を引きつらせる。

 「まだ恐怖が足りなんだ様じゃなぁ…」

 怒気が溢れていくその言葉に、主格らしき人物が慌てて白状する。

 「そ!その鏡を手土産に!木の葉の里で雇ってもらおうと…」

 思わぬところで木の葉の名を聞き、イタチがピクリと揺れた。

 「どういう事…?」

 水蓮のその問いに、彼らはポツリポツリと語りだした。

 「オレたちは、木南《きな》の里っていう本当に小さな里の忍だ。いや、だった…」

 「大戦中はうちのような小さな里の忍にも声がかかって、戦に出てた…」

 「それで何とか里の生活を守ってきたんだ…」

 主格の忍が話を続ける。

 「でも、大きな戦が終わったとたん、オレたちのような小里の忍は用無し。戦でどんなに活躍しても、どうしても大きな里の忍の方が目立って、同じように戦ったオレ達には光は当たらねぇ。その後戦の減少と共に請け負う物はなくなり、一瞬で里は衰退した。里での暮らしが厳しくなり、皆散り散りになって里は自然に消滅した…」

 …シン…と静寂が落ちてゆく。

 「でも、オレたちは、どこまで行っても忍だ。忍としてしか生きれねぇ。だけど流れの忍じゃぁ、今時どこでも使ってはもらえない。だから、だから…」

 「鏡の真意はわからぬにしても、聞き珍しい【夢叶いの鏡】を木の葉に持ち込み、自分たちを売り込もうと思ったのか…」

 イタチの静かな言葉に、彼らはまたうなだれた。

 「なんと浅はかな!いかに今人手が足りぬからと言って、大国火の国の木の葉隠れが、このような真意のわからぬ物に目がくらむか!」

 弓月の言葉はもっともだったが、綱手の事を知っている水連とイタチは『そうでもないかもしれない』と一瞬思った。

 この鏡は、場所によっては賭けの材料になるかもしれない。

 しかし弓月は続けて声を荒げた。

 「あきれて物も言えぬわ!」

 「う…うぅ」

 とらわれた3人が、言葉を失いうつむく。

 弓月より、10は年上であろう大人達が、すっかり彼女に頭が上がらなくなっていた。

 そんな彼らを見ながら弓月は息を吐き出し、自身を取り巻く空気を緩めた。

 「じゃが、里を失った忍の苦しみは分からんでもない。父がそうであったからな」

 「…え?」

 思わず水蓮の口から驚きが漏れた。

 「父は若い頃に里を失い、ここに彷徨いついたのじゃ」

 父親の過去を思い出すように、少し遠くを見つめてしばし黙り込み、気持ちを落ち着かせるように大きく深呼吸をした。

 そして、弓月はいまだ目を閉じたままの3人の忍に向かって静かに言った。

 「お主たち。この里で働け」

 その場にいた全員が弓月に目を向けた。

 「いいのかい?弓月…」

 かなめが弓月の隣に立つ。

 「こやつらを放っておいたら、また同じことをやりかねん。余計な争いをなくす事が、わらわの忍としての目標の一つだ。それに、罰せられ、世から見捨てられることが償いではない」

 「うん。そうだね」

 かなめはどこか誇らしげな顔で弓月を見ている。

 「ただし!」

 弓月がビシィッ!…と、3人を指さす。

 「チャンスはこの一度きりじゃ!もしまた裏切るようなことをしたら、2度と人として生きてゆけぬほどの恐怖を味あわせてやるからな!」

 『は!はい!』

 恐怖と感謝と忠誠の入り混じった3つの声が部屋に響いた。 

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