本拠地から一番近くにあるアジトに、イタチは水蓮を抱えたままたどり着く。
水蓮を座らせて自身も正面に座り、少し震えの小さくなった細い肩に両手を置き、覗き込むように見つめる。
「水蓮。お前はやはり空区へ行け。ここから離れろ」
水蓮は予想していたその言葉に首を横に振った。
「大丈夫。大丈夫だから…」
平静を取り戻そうと息を吐き出すと同時に、髪の色が元に戻る。
「大丈夫…」
「ダメだ」
強く放たれた言葉。
その目には懇願の色が浮かんでいた。
「わかっただろう。ここには、組織にはお前をどうにでもできるやつらばかりだ。危険から身を離せ」
肩に置かれた手に力が入る。
「今回は運が良かっただけだ。いつ気が変わって九尾のチャクラを無理やり取り出しにくるかわからない。やり方によっては、お前が無事に済む保証はない」
イタチはもう一度強く「ここを離れろ」と言った。
水蓮はジッとイタチの目を見つめて返す。
「離れない」
「お前の、うずまき一族の力を利用して、危険な任務につかされるかもしれない」
「構わない」
「母親の気持ちを無下にするな!」
それはイタチがずっと気にかけてきたことだった。
自分は両親の想いに答えられず、その命を奪った。
だから、せめて水蓮の母親の願いをと、その気持ちがずっと心の中に残っていた。
「組織から命令が下れば、誰も助けてはくれない」
まして、自分はいずれサスケに討たれる。
その言葉を含ませた表情。
「それに、お前は元々この世界には関係のない人間だ。ここにいる必要はない。元の世界に戻れないなら、空区へ行け!」
叱るようなその口調に、水蓮は一瞬息をのんだが、それでも引かない。
「行かない。確かにお母さんは私に生きろって言った。でも、こう言ったのよ。あなたの幸せを見つけて生きなさいって。私の幸せは、私の生きる場所は私が決める」
水蓮は「それに」と言葉を続ける。
「私が空区へ行ったら、ネコ婆様達に危険が及ぶ。私の中に九尾チャクラがある限り、組織は私を放ってはおかない」
「あそこには強力な結界が張ってある。そうそう入れない」
「入ってくるかもしれない」
イタチは一瞬言葉に詰まる。
組織にはマダラがいるのだ。
「だが、お前の九尾チャクラは微量だ。無理をしてまでは組織も追って来ない」
「追ってくるかもしれない」
じっと合わされた視線に、言葉を返せずイタチは黙り混む。
確かにその可能性は高い。
微量とはいえ、水蓮が木の葉の手に渡れば、ナルトが更に九尾チャクラを手にすることになる。
それがどういった効果を生むか分からないが、組織にとっては決して良しとはできない事だ。
黙するイタチに水蓮は静かな口調で言う。
「それに、私はもう組織に入ってる」
「……………」
水連も、そしてイタチも分かっていた。
生きて組織から出る事はできない。許されない。
まして主要メンバーであるイタチと鬼鮫と共に任務に携わっている。
もう後には引けないのだ。
だがそれでも、イタチは
「オレがうまくやる」
諭すような口調に水蓮は首を横に振る。
「出来ないよ」
暁はそんな簡単な組織ではない。
必ず誰かが水蓮を見つける。
「どこにいても同じなら、私はここにいたい」
強く放たれた言葉。
だが、体はまだ震えている。
イタチはその様子に戸惑いすら浮かべて問う。
「なぜだ。なぜそうまでして…」
その言葉に水蓮は問い返す。
「なぜなの?」
組織に背いて水蓮を匿えば、立場が悪くなる。
疑われ、自分の目的が知られるかも知れない。
その危険をおかしてまで
「なぜそうまでして私を離そうとするの…」
「それは、お前の母の…」
返しながら、イタチは自分の中に違和感を抱いていた。
「お前はもともと忍ではない…」
口にした言葉に、何かが反発してくる。
「ましてこの世界の人間でもない…」
理由を言えば言うほど『何かが違う…』そんな気持ちが湧き出る。
だがそれが何なのか分からず、何も言葉が出なくなる。
その答えの代わりに、沈黙の中、水蓮がゼツに連れ去られたときに感じた物を思い出す。
しかし、それは瞬時に無意識のうちに胸の深くに沈められていく。
「私は医療忍術が使える」
黙り込んだイタチと入れ替わりに水蓮が強い口調で言う。
「だから、お願い」
「水蓮…」
まだ震えがおさまらぬほどの恐怖を味わい、それでも離れようとしない水蓮に、イタチは再び「なぜだ…」と投げかけた。
少しの沈黙を置いて、水蓮が何かを言おうと口を開いた。
が、その時…
「あーね!」
アジトの入り口からデイダラが走りこんできた。
その後ろには鬼鮫もいた。
「やはりここでしたね」
「鬼鮫…」
イタチのつぶやきと同時に、水蓮が立ちあがり、デイダラに歩み寄る。
「デイダラ、どうしたの?」
「どうしたって。トビのやつが、あーねがリーダーにいじめられてたみたいだって言ってたからよ。うん」
その言葉に、イタチも水蓮も、組織がデイダラに様子を見に越させたのだと察する。
「何それ」
水蓮はとわざと笑いを作った。
「違うのか?」
返された言葉と表情から、どうやら詳しくは聞かされていないようだ。
「勘違いだ」
その考えを肯定するようにイタチが言う。
そこに水蓮が言葉を続けた。
「まだ会った事なかったから、あいさつに行っただけだって」
「そうなのか?」
デイダラがイタチに視線を向ける。
イタチは「そうだ」と短く答えて鬼鮫をジトリとみる。
「勝手についてきたんですよ」
肩をすくめる鬼鮫の後ろにはサソリの姿もあった。
「おい、デイダラ。お前が行く先には俺もついて行くことになるんだ。巻き込むな」
「いいだろ。旦那はどうせ傀儡磨いてるだけなんだからよ。暇だろ。うん」
「一度殺してやろうか…」
「まぁまぁ、落ち着いて…」
荒々しい空気をなだめる水蓮の姿に、イタチは組織の狙いが気に入らないものの、デイダラが来てよかったのかもしれないと少し思った。
デイダラを前に、平静を取り戻そうとして水蓮の震えが止まったようだ。
にぎやかな3人を眺めるイタチの隣に鬼鮫が並び立ち、同じように視線を向ける。
「木の葉へ渡るような事がないようにしろとの事です」
やはりな…
イタチは内心で溜息を吐く。
それは、鬼鮫にも監視させる意味を持つ。
鬼鮫が水蓮を一応は弟子としてとらえ面倒を見ているとはいえ、自分とは違う。
いざとなれば組織のいかなる命令にも従う男だ。
下手なことはできない…
「わかった」
「しかし、驚きましたねぇ」
鬼鮫のつぶやきにイタチは「すまない」と一言返す。
「いえ。まぁ元々彼女の処遇はあなたに任せていましたから。考えがあってのことでしょう」
「……………」
イタチの無言を肯定ととらえ「構いませんよ」と笑う。
「ですが、これからはそうもいかない。組織の目がありますからね」
「わかっている」
言葉を交わす二人の前で、3人はいまだにぎやかにやりあっている。
その様子を見ながらイタチが「それにしても」と、鬼鮫に目を向ける。
「お前、よく本拠地にいると分かったな」
鬼鮫は少し首をかしげ「あなたではなかったんですか」と、手裏剣を取り出して見せた。
刃が一か所かけたそれを見て、イタチは「あいつ。あの状況で…」とつぶやいた。
それは、落ち合うことなく移動することになった場合に、移動先を伝えるための手段として取り決めた合図。
種類はいくつかあるが、鬼鮫の持つ手裏剣は『本拠地』を意味するものだ。
「てっきりあなたが残したんだと思っていましたが…」
二人は同時に水蓮に視線を向ける。
あの状況でとっさに本拠地に連れて行かれると予想して、鬼鮫に合図を残したのか…
イタチは驚きを隠せなかった。
「どうやら…」
鬼鮫がその手裏剣をしまいながら笑う。
「我々が思っているより彼女はやり手のようだ。こうなると、彼女が欠けるのは避けたいですね。受ける痛手は小さくはなさそうだ」
「そうだな」
「特に、あなたの体のためには…」
そうだ。そのために過ぎない。
ゼツに水蓮が連れて行かれた時に感じたものを、イタチは思い起こしていた。
失うかもしれない…
あの時感じたそれは恐怖だった。
だがそれは、自身の目的を達するために必要な『医療忍者』を失うかもしれないという不安だったに過ぎない。
それ以外にはない…
それを決定づけるように、思考の中に練りこむ。
しかし、その半面で水蓮を危険から離そうとする自分の本意が分からず、その矛盾を振り払うように「そうだな」ともう一度強く答えた。
いつもありがとうございます。
何とかかんとか三十六章まで来れた次第ですが、皆様に少しでもお楽しみいただけていたら嬉しいです~(^○^)
二人はだいぶやきもきしてきた感じですかね…
進展させるか…どうか…私もやきもきしながら書いてます(笑)
その加減もあり、いつもより少し間が空くかもしれませんが、これからもよろしくお願いいたします☆
しかし、書き出すと止まらなくて…毎日2時…3時…と夜更かししてしまってます(^_^;)
たまには早く寝ないと…ですね(~_~;)
では、また次話…なるべく早くお届けできるよう取り組みます(^v^)
皆様に感謝をこめて…(*^о^*)