いつの日か…   作:かなで☆

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暁秘伝のネタバレが少し入っています。
ご注意・ご了承下さい。
よろしくお願いいたします。


第三十八章【特性】

 夜露に濡れる森の奥深く。

 小さな小屋の中で水蓮はデイダラの治療に向き合っていた。

 どうやら頬と腕についた切り傷から毒が介入したようだった。

 デイダラは意識はあるものの、グッと固く目を閉じ、毒の浸透に耐えている。 

 「どうだ。解毒できるか?」

 水蓮の後ろでヒルコの尾がゆらりと揺れる。

 状態を診終わり、水蓮は一度息を吐いて苦しげなデイダラの汗をタオルで拭った。

 「何とか。でも、かなり強い毒。任務で?」

 カバンから解毒薬や、治療道具を取り出し準備を進める。

 「いや、追い忍だ」

 「こっちも…」

 その呟きにサソリが「そっちもか」と返し、小さく舌打ちした。

 「どいつもこいつも、油断しやがって」

 「…う…」

 デイダラが痺れと苦痛に顔をゆがめるのを見て、水蓮は手を早める。

 「デイダラを狙って…」

 「いや。砂の追い忍だ。それゆえ毒が強い」

 「……え?砂の追い忍って」

 「他の抜け忍を追っていたようだがな。俺を知る奴がいて戦闘になった」

 「じゃぁ、デイダラはあなたをかばって?」

 水蓮の問いに、サソリが無言で踵を返す。

 その動きに合わせたように、デイダラが小さくつぶやいた。

 「()けた」

 「え?」

 視線の先、デイダラは痺れる腕を持ち上げて、人差し指でサソリを指す。

 「避けたんだ」

 

 ・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 「避けた」

 もう一度言ってデイダラは腕をポトッと布団の上に落とし、苦痛に顔をしかめる。

 短いその言葉に、水蓮は大体のことが読み取れた。

 

 追い忍の毒の攻撃。

 クナイか手裏剣かその手法や状況までは分からないが、サソリなら避けずとも傀儡を使ってうまくはじくと思い、デイダラは後方で何か仕掛けようと準備していたのかもしれない。

 

 だが…

 

 砂忍の扱う毒が強いのを知っていて…

 デイダラが後ろにいるのを知っていて…

 

 「避けたんだ…」

 ジトリと向けられたその視線に、サソリは「フン」と不機嫌そうに鼻を鳴らす。

 「そいつの油断だ」

 「避けんたんだ」

 「砂の毒はきつい。傀儡に着くと、変色するかもしれないからな」

 「……………」

 あきれで思わず表情が歪んだが、水蓮はもう何も返さなかった。

 準備を終え、デイダラに声をかける。

 「デイダラ。今から毒抜くからね」

 傷口を消毒し、手をしっかりと洗って器に入れた解毒薬にチャクラをためた手を浸す。

 次第に解毒薬がチャクラに吸収されてゆき、器の中が空になる。

 「チャクラに解毒薬を溶け込ませているのか」

 融合させたままの状態をキープするのにかなりのチャクラコントロールが必要なため、サソリのつぶやきに答える余裕がなく、水蓮は無言でデイダラの頬の傷と、腕の傷に手を当てる。

 ゆっくりと一度深呼吸し、神経を集中してチャクラを流し込んでゆく。

 「……う…」

 傷や疲労の回復時に流し込むチャクラとはまた違い、体の中の毒を打ち消しながら体内を進むチャクラ。

 強い痛みはないものの、違和感とピリピリとした刺激を感じ、デイダラが顔をしかめる。

 多少痛みのリスクはあるが、毒に直接解毒薬をぶつけられるため即効性は高い。

 うずまき一族の力ではないが、水蓮の母が使っていた医療忍術であった。

 ただ、チャクラコントロールが難しく、消費も激しいため、術者の心身ダメージはかなり大きい。

 それでも、あまりに強い毒性に、ただ解毒薬を飲ませるだけでは追いつかないとの判断だった。

 いったんすべてを流し終えて、水蓮は息をつく。

 先ほど鬼鮫の治療でチャクラを使っていたこともあり、ドッ…と疲労が襲う。

 が、まだ毒は消し切れていない。

 「解毒薬を器に入れてもらえる?」

 額にびっしり浮かぶ汗を見てか、それともデイダラに多少は罪悪感を感じているのか、サソリは「分かった」と素直に手伝う意思を見せる。

 そうして、3度作業を繰り返し、ようやくほとんどの毒を消し終えた。

 水蓮のチャクラもギリギリで、何とか限界を目前に終えれたことにホッとした。

 「あとは明日の朝、解毒薬を飲めばもう心配はいらないと思う。だけど1週間は安静にしたほうがいいかも」

 「そうか」

 サソリの低い声を聞きながら、ふぅ…と大きく息を吐く。

 「あーね」

 デイダラがまだ少し顔をしかめながら体を起こす。

 「まだ無理だよ」

 しかし、デイダラは割としっかりとした動きで起き上がった。

 「いや、もうここまで来たら起き上がれる。うん」

 両手を何度か握って、にっと笑う。

 「オイラ、毒の耐性は強いほうなんだ。子供の時から、免疫つけるために色々飲まされてるからな」

 「そんな…」

 壮絶な子供時代を垣間見て、水蓮は言葉が出なくなった。

 「今回のはきつかったけど、まぁ死ぬほどじゃねぇぜ。うん」

 体を伸ばしながらまた笑う。

 当たり前のように口にされた過去の事実。そして、彼のこの先…

 いかに暁の一員とはいえ胸が痛まずにはすまなかった。

 それはデイダラのまだ若い年齢と、どこか憎めない性格が大きな理由なのかもしれない。

 「無理しないでね」

 そう言うのが精一杯だった。

 「うん?大丈夫だって。ありがとな、あーね」

 「…うん」

 力なく返したその声に、サソリの声が続いた。

 「デイダラ、動けるのか」

 「あー。1週間もいらねぇけど、2・3日は難しいな…うん。痺れで手がうまく動かねぇ」

 「役立たずめ」

 チィッとヒルコの奥から聞こえた舌を打つ音に、デイダラのこめかみがピクリと揺れる。

 「誰のせいっスかね」

 「お前の油断だと言っただろう。オレの動きを見てなかったからこうなったんだ」

 「いやいや、あそこは旦那がはじいてからの、オイラの喝だろ!うん!」

 「お前の爆破ですべて飛ばしてからのオレだろ。普通に考えれば」

 「くそー!かみ合わねぇ!」

 痺れの残る手で髪をぐしゃっとつかみ、デイダラはむすっとそっぽを向いた。

 しかし『かみ合わない』という言葉を聞きつつも、水蓮は二人の中に形は違えども、イタチと鬼鮫のような何かが少し見えたような気がして、不思議な空気を感じていた。

 「せっかくこの間手に入れた新しい粘土で盛大にやってやろうと思ったのによ。うん」

 その言葉に、サソリが少しあざけるような口調で続く。

 「二度と毒に負けないように、この間手に入れた【釉薬(ゆうやく)の秘伝書】から作った毒を飲ませてやろうか。新しい免疫が付くぞ」

 「いらねぇ!」

 しばらく黙ってそのやり取りを見ていた水蓮だったが「まぁまぁ、落ち着いて」とデイダラをなだめる。

 「あんまり騒いだら、もっと長引くよ。とにかく今は体を休めなきゃ」

 水蓮に促されて、デイダラは体を横にする。

 「でもよ。旦那、どうする?」

 布団をかぶりながらのデイダラの言葉にサソリがしばらく黙してから答える。

 「任務の日取りは変えられん。明日の夕方、オレが忍び込ませた手下の潜脳操砂の術が解けるからな。必ず落ち合わねばならない」

 聞き覚えのない術ではあったが、サソリが人を操り、潜入させる術を使っていたことを思い出す。

 「明日任務だったの?」

 「うん?ああ」

 「でも明日はさすがに無理だよ」

 水蓮はサソリに視線を向ける。

 「役立たずめ」

 その言葉にデイダラが言い返すより早く、サソリは部屋から出て行った。

 「む、むかつくぜ…。うん」

 デイダラは顔をひきつらせながらフンッとそっぽを向いたが、すぐに水蓮に振り返った。

 「なぁ、あーね。もう帰るのか?」

 そのつもりにしていたが、デイダラの経過も気になり、水蓮は首を横に振った。

 「明日の朝まではいる」

 デイダラは「そっか」と嬉しそうに笑った。

 その笑顔はどこかあどけなさが残っていて、それが先ほどの胸の痛みをよみがえらせた。

 「デイダラは、なんで暁に入ったの?」

 ついとそんな言葉が出てしまい、水蓮はハッとした。

 質問には質問が返ってくる…。

 自分の事を聞かれないよう、気を付けなければと思っていたのだ。

 「それは…」

 ぼそりとデイダラが口を開いた。

 「それはイタチのやろうが…」

 「え?」

 思いがけずイタチの名が出てデイダラを見る。

 その視線に、デイダラは少し黙り「なんでもねぇ…」とそっぽを向いた。

 どうやらイタチが何か関係しているようだったが、それ以上話す気がないデイダラの雰囲気に、水蓮も口を閉ざした。

 「それより、あーね」

 しばらくしてからデイダラが水蓮に向き直る。

 「大丈夫なのか?」

 「何が?」

 「うちは一族って、あれだろ。異常なまでの執着だっけか?そんなんあるんだろ?それって束縛みたいなもんだろ?」

 「え?」

 「あーねの事、無理矢理そばに置いてんじゃねーのか?」

 「違うよ。イタチが私に執着って、それはないよ」

 考えてもなかったことに、思わず笑う。

 「そっか…」

 「いや、そうでもないな」

 同じように笑ったデイダラに、突然サソリの声が重なった。

 その低い声がすぐ後ろから聞こえて、水蓮がビクリと体を揺らす。

 「気配消して近づかないでよ」

 「忍にそれを言うのか」

 「何も今消すこと…」

 「それより」

 サソリが水蓮の言葉を無感情に遮る。

 「これは全部お前が作ったのか?」

 見せられた手には、水蓮が調合した薬や解毒薬がいくつかあった。

 「ちょっと!勝手にかばん触らないでよ!」

 「いやそれより、旦那!さっきのはどういう意味だよ!」

 ガバッとデイダラが起き上がる。

 「使えそうだからいくつかもらっておいてやる」

 「何で上から…」

 「そうでもないってなんだよ!」

 「とりあえず、明日からの任務は組織との話で鬼鮫と行く事になった」

 「…え?」

 「そんな事聞いてねえ!やっぱ噛み合わねー!って、うん?鬼鮫の旦那と?」

 ようやく3人の会話が一つになる。

 「日程は変えられない。だが我々は基本ツーマンセルだ。お前が動けないなら他に誰か連れて行くしかない」

 「それで、鬼鮫を」

 「そうだ。ちなみにデイダラ、お前は明日本拠地に放り込みに行く。オレが帰るまで待ってろ」

 その言葉に、デイダラは「ゲ…」と顔をゆがめた。

 「ぜってートビがうるせぇ。うん」

 うんざりしたようにそう言い、大きな欠伸を一つする。

 その様子に、水蓮は布団を少しめくる。

 「騒ぎすぎだよ。もう寝て」

 デイダラはまだ何か言いたそうな顔をしてはいたが、さすがに体の疲労を感じたのか、促されるまま横になり、すぐに寝入った。

 「明日こいつが起きたらすぐに出る」

 「でも、明日はたぶん鬼鮫すぐに動けないと思う。霧隠れの追い忍と…」

 言葉半ばに事を悟り、サソリはまた舌を鳴らした。

 「先にこいつを放り込みに行くか。おまえらが落ち合うのは西アジトだったな」

 「うん」

 「なら、午前中はここで待て。鬼鮫にも組織から連絡がいく。昼には片を付けるだろう」

 サソリは水蓮の返事を聞く気なく、早々と部屋を出て行った。

 パタリとしまったドアの音の後に、窓の向こうで小さく鳥のさえずりが聞こえた。

 

 窓の曇りを手のひらで撫でて消し、そっと見上げた空は少しずつ白み始めていた。

 

 やさしく切なげなその色を見ながら、水蓮は昨夜のことを思い出す。

 

 鬼鮫が負傷し、イタチが月読を使うような相手…

 

 激しい戦いになるのだろう…

 

 それに、追い忍となれば、逃がすわけにもいかない…

 

 イタチがまた心に傷を負うのかと思うと、辛くなった…

 

 「イタチ…」

 

 

 揺れる花びらから夜露をすくった小鳥が、明るさを帯び始めた空にはばたいた。 

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