いつの日か…   作:かなで☆

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第四十三章【うちはの兄弟】

 暗闇が生み出す静けさの中、夜を生きる者達の鳴き声が、まるでその存在を競い合うように、確認し合うように響く。

 その中にひときわよく聞こえるのは、強者の咆哮。

 「ついてきて正解だったな。狼の群れだ」

 サスケのその言葉に、水蓮は顔をひきつらせた。

 「そうね…じゃない!全然時間に余裕あったじゃない!」

 サスケに連れて来られたのは、森の奥、地下に作られた空間。

 どうやら今は使っていない大蛇丸のアジトのようだ。

 保管庫のような用途だったのか、そう広くはない。

 その限られた空間に響いた水蓮の声に、サスケは無表情で背を向けた。

 

 この場所までそう短くはない距離を歩いたが、夜になったのはここに着く寸前。

 十分に森を抜けれた距離だった。

 「あんな所から落ちてくるような、どんくさい人間の足ではという意味で言ったんだ」

 無言で睨み付ける視線を背中に感じたのか、振り向かぬままサスケが言う。

 

 か、かわいくない…

 

 わなわなと手を握りしめる水蓮の視線の先で、サスケは様々な瓶が並んだ棚を見ていた。

 「これか」

 その中の一つを取り、ふたを開ける。

 ツンと鼻に刺すようなにおいが立った。

 どこかで嗅いだことのあるにおいに記憶をたどる。水蓮の脳裏に浮かんだのは、デイダラの顔。

 「それ…」

 数日前にデイダラの治療の時に感じた毒の匂いだった。

 何をするのかと、水蓮が見つめる前で、サスケは無造作にその瓶に口をつけた。

 「ちょっと!なにしてるの!」

 とっさにサスケの手からその瓶を取り上げて蓋をする。

 思いがけぬ速さで奪われ、サスケは一瞬驚いた顔をしたが、すぐに表情を戻し取り返そうと手を出す。

 「返せ」

 「だめよ」

 さっと手を引いてかわす。

 「何考えてるの。これ、毒でしょ」

 「わかってる」

 「わかってるって」

 返して、再びデイダラを思い出す。

 

 

 『子供の時から、免疫つけるために色々飲まされてるからな』

 

 

 その言葉が耳によみがえった。

 「免疫?」

 「そうだ。それを取りにここへ来た」

 再び奪い返そうとするサスケの手を、身を引いて避ける。

 「おい。いい加減に…」

 「分量!」

 サスケの言葉を遮って声を上げる。

 「…?」

 きつく言葉をぶつけられて、サスケが少したじろいだ。

 「免疫をつけるにしても、分量があるでしょ!」

 本当なら止めたい。だが、この世界に生きる彼らにとっては、これもまた、命を守るための物なのだと…水蓮はデイダラを見て感じていた。

 訓練してなければ、あの時デイダラは死んでいたかもしれないのだ。

 「今、一気に飲むつもりだったでしょ。この毒はかなり毒性が強い。量によっては訓練を受けてる人でも命に関わる可能性があるものよ」

 「詳しいな。あんた医療忍者か?」

 水蓮はうなずき、カバンから器を取り出して数滴毒を入れた。

 デイダラが受けた傷。そして、治療で感じた量からはじき出した分量。

 「これくらいが限度よ」

 だがサスケは不満な顔を浮かべ、受け取ろうとしない。

 「俺は普通のやつより耐性が強い。それくらいでは意味がない。それの数倍飲んでも、一晩眠れないくらいだ」

 こともなげに言うサスケに、水蓮は思わずいらだつ。

 

 あまりにも自分を無下に扱いすぎだ…

 

 そう感じていた。

 強くなりたい。イタチに勝ちたい。その力を求めての段階、手段の一つなのだろう。

 もしかしたら、大蛇丸のところで様々な薬物を投与されて、毒が効きにくい特殊な体質になっているのかもしれない。

 それでも、腹が立った。

 イタチの気持ちを考えると、無性に腹が立った。

 あんなにサスケを思い、自分のすべてをかけて彼を守ろうとしているのだ。

 それを知らないとはいえ、許せなかった。

 「もっと自分を大切にしなさい」

 大きな声ではない。抑えた静かな叱咤。

 サスケはほんの少し身を引き、一瞬だが表情に子供らしさを浮かべた。

 が、すぐに元に戻し「あんたには関係ない」と不機嫌に言い放つ。

 「関係ある!」

 「何の関係があるんだ」

 「迷惑よ!」

 ぐいっと毒を入れた器をサスケに押し付ける。

 「夜中にあなたがうなされたら、気になってしょうがないでしょ!」

 「ほっておけばいいだろ」

 「ほっとけないわよ!一応医療忍者なんだから!そばで人がうなされてたら無視できないの!それに、うるさくて眠れない!言うこと聞かないなら、手伝わないから!」

 「…………」

 さすがに言葉に詰まるが、すぐに気を取り直す。

 「別に構わない。解けない術なら、調べて会得してから解くまでだ」

 「あ、そ。じゃぁ、この毒捨てる」

 「まて!」

 サスケは慌てて水蓮の手をつかもうとする。

 だが、水蓮は身をひるがえして距離を取る。

 その動きに水蓮の力量が見えたのか、サスケは真剣な空気をまとわせて水蓮ににじり寄った。

 「それはここにしかない。もう一度作るには時間がかかる」

 「だったら」

 サスケの空気に押されまいとグッと体に力を入れる。

 「言うこと聞いて」

 

 引くわけにはいかない…

 

 サスケを愛し守ろうとするイタチの想いを考えると、サスケの行為を許すわけにはいかなかった。

 「聞かないなら捨てる」

 「……………」

 しばしにらみ合いが続き、サスケが大きくため息をついた。

 「分かった…」

 体の力を抜き、諦めたように言い放ったサスケに水蓮もほっと息をつき、器を渡す。

 「そっちも返せ」

 瓶を目で刺すサスケに、水蓮は「だめ」とその瓶をカバンに入れた。

 「勝手に飲まれたら困る。どうせ明日も飲むんでしょ?明日また分量計って渡すから」

 免疫をつけるには少しずつ量を増やして、数日続けて飲むはずだ。

 サスケは無言でそれを肯定し、不機嫌そうに毒を口に含んで器を水蓮に返し、部屋のすみにある長椅子に横たわった。

 「もう寝る」

 吐き捨てるようにそう言って目を閉じたサスケから少し距離を取って、水蓮は壁に背をつけて座った。

 はぁぁ…と、思わず深いため息が漏れた。

 「なんか疲れた」

 もう一度息を吐き出し、その姿勢のまま目を閉じる。

 いつの間にか外はすっかり静になっており、時おり虫の羽音による小さな音色が聞こえるのみとなっていた。

 その心地よい響きに誘われ、水蓮もいつの間にか眠りに落ちていた。

 

 

 どれほど時間が経っただろう。

 小さく呻く声に、水蓮は目を冷ました。

 部屋の中央にあるテーブルに置かれたランプの灯りの先。サスケが少し顔を歪めていた。

 少量とはいえかなり強い毒。やはり、症状は軽くなかったようだ。

 「もう。何がそれくらいでは意味がないよ…」

 呆れた息を吐きながら、水蓮はサスケのそばに座り手をかざした。

 しかし、チャクラをためたその手をサスケが掴んだ。

 「やめろ。毒を抜くな…」

 薄く開いた目は、苦しげな色を浮かべながらも厳しく光っている。

 「意味がなくなる。すぐにおさまる」

 額にも汗を浮かべ、時折襲う痛みと痺れに表情を変えながら、それでも耐えようという意思。

 

 先程のように、怒りはわかなかった。

 かわりに、胸が苦しくなった。

 

 「分かってる」

 その声は、優しく空間の中に響いた。

 「痛みを少し和らげるから。じっとしてて」

 その柔らかい声と表情に、サスケはどこか安心したような顔で目を閉じた。

 水蓮の手から、あたたかいチャクラが注ぎ込まれ、少し表情が和らぐ。

 「名前…」

 「え?」

 目を閉じたまま、サスケが呟くように言った。

 「名前聞いてない」

 「あ。えと、香音」

 さすがに水蓮という名前は伏せた。

 「俺の事は知ってるな…」

 「え?」

 「俺の顔見て、驚いてただろ。いや、目か…」

 「うん」

 水蓮は頷く。

 それでも、サスケは目を開け、自分の名を口にした。

 「うちはサスケだ」

 そこにはやはり、【うちは】への誇りが感じられた。

 「うん」

 もう一度頷きを返すと、サスケはまた目を閉じた。

 

 しばらくたち、水蓮のチャクラの温もりに誘われて、サスケが静かな寝息をたてる。

 まだ少し辛そうなものの、眠るサスケはどこかあどけなさを感じさせ、知らぬ間に水蓮の目から涙がこぼれた。

 

 どうして…

 

 どうしてこの二人は戦わなければいけないのだろう…

 

 本当ならそんな必要はどこにもない…

 

 誰よりも大切に想い合ってきた兄弟なのに…

 

 それなのに…

 

 

 イタチは、恨まれ、憎まれ闇に染まりながらサスケに討たれ、死ぬことを望み。

 サスケは、恨み、憎み、闇を求めてイタチを討つために生きる。

 どちらも、自分を傷つけ苦しみながら…

 

 どうしてこの二人なのか…

 

 【うちは】を想い守ろうとするその気持ちは同じなのに…

 

 

 ただただ胸が苦しかった。

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