いつの日か…   作:かなで☆

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第五十章 【素直な想い】

 その日の夜。

 水蓮とイタチは共に竜の洞窟へと向かった。

 時間の条件を変える事で、水晶の形をした石に、何か変化があるかもしれないというのがイタチの考えであった。

 それを聞いた鬼鮫も、その可能性を考慮して、夕飯後に再び池へと出向いて行った。

 「真っ暗だね」

 山道に差し掛かり、すぐ先の足元も見えない状況に水蓮が思わずつぶやく。

 「今夜は特にな」

 見上げた空には、星は見えるが月は姿を隠していた。

 「あ、今日が新月?」

 「ああ」

 イタチは宿で借りてきた懐中電灯で足元を照らし、水蓮に振り返る。

 「行くぞ」

 どちらともなく差し出した手が自然につながれる。

 伝わるぬくもりに、簡単な事だったのだと、互いに思う。

 「洞窟まではすぐだ」

 「うん」

 柔らかく響くイタチの声が、暗闇の不安を取り除いてゆく。

 「水晶は月とは相性がいいと言われている」

 「イタチはホント何でも知ってるね」

 その知識の幅の広さに、いまさらながら驚く。

 「少し調べてきたからな。特に新月から満月にかけてのこの時期は、水晶が月の力を充電する期間と言われているようだ。だから、もしかしたらと思ってな」

 「なるほど…」

 「もし今夜なにもなければ、数日この町にとどまり、ここを含め他の場所もさぐることになる。だが、あまりうろうろしていては怪しまれる。長期になるようなら、一度町を出たふりをして最悪この山で野宿になるかもしれない」

 この時期の野宿はかなり厳しい。

 「それはできれば避けたいがな」

 水蓮もうなずく。

 自身の事よりも、心配なのはイタチの体調だった。

 ここ最近は激しい任務もなく、大きく体調を崩すことはないが、冷え込みが厳しい日は少し咳が出る事もあった。

 そばにいる自分や鬼鮫には、うつることなく過ごしていることから見て、感染症では無く、やはり瞳術を酷使してきたことによる過度の負担が、何かしらの異常を体にもたらしているのだろうと水蓮は考えていた。

 サスケとの終焉までは大丈夫なのだろうと思いつつも、自分の知らないことも起こる現状に、水蓮は不安を隠せなかった。

 知らず知らず、つないだ手に力が入る。

 イタチは水蓮に視線を落とし「心配ない」と、柔らかく言った。

 どのことに対しての言葉なのかは分からなかったが、水蓮はうなずいた。

 本当に辛いときは素直に話そうと、そう思えるようになったからなのか、すべてを口にしなくとも今までのように不安になることはなく、不思議と強くいられる。

 しばらく歩き、二人は竜の石像のもとへとたどり着く。

 「特に変わりはないか」

 近づき、注意深く観察しながらイタチがつぶやく。

 懐中電灯の明かりに照らされ、竜が抱く石が闇に浮かんだ。

 その少し独特な形状に、水蓮は「丸じゃないんだ…」と言葉をこぼす。

 水晶をかたどった石と聞いて、水晶玉をイメージしていた。

 「そういう事だ」

 「そういう事?」

 イタチの言葉に首をかしげる。

 「水晶と言われて連想しやすいのは、水晶玉か、六角柱で先がとがっているようなものだ。だが、この石は意図的にこの形に作られている」

 水蓮はハッと息をのむ。

 「見たことのある人が作った」

 「そうだ。水晶は実在していたと考えられる」

 イタチはそう言って「竜の話の真偽は分からないがな」と、小さく笑った。

 「もしかしたら、そのありかを示すような仕掛けがあるかもしれない。さっきはあまり調べられなかったからな…」

 イタチはそう言って、石像を注意深く観察する。

 水蓮も少しだけ石にチャクラを流して調べてみる。

 が、特に封印術がある様子もなく、ただの石のように感じられた。

 「んー。特に何もなさそうだけど」

 「そうだな。まぁ、何もない方がいいんだがな」

 少し苦笑いを浮かべる。

 組織が何のために【竜の心】を欲しているのかは分からない。

 だが、決して良い結果を生むことはない。

 木の葉に被害をもたらすものかもしれないのだ。

 かといって、おろそかにするわけにもいかない。

 結果を出して信用を得ることも、イタチにとっては重要なのだ。

 「そうだね」

 イタチの複雑な心境を考え、厳しい顔で答えた水蓮の頭にイタチの手が乗せられた。

 「そんな顔をするな」

 柔らかい表情の中に見える決意…。

 「お前は何も心配するな。それはオレの役目だ」

 

 木の葉を守る。

 

 その想いが瞳にあふれていた。

 「うん」

 水蓮は、ただイタチを支える事だけを考えようと、うなずいた。

 イタチは少し安心したように笑みを浮かべ、再び石に手を乗せて、特に変化のない状態に目を細める。

 「この石はあまり関係ないのかもしれないな」

 「そうだね」

 二人の指先が石の上で少しふれ合う。

 水蓮はふいに、ヒヨリの話を思い出した。

 

 『想い合う者同士で石に触れると、素直に互いを求めあうことができるようになると言われているのよ』

 

 素直に…

 

 今自分はどうしたいのだろう…

 

 そんなことを思う。

 「水蓮…」

 「えっ?」

 考え込んでいたところに声をかけられ、肩が小さく跳ね上がる。

 「しばらくここで様子を見る」

 イタチがすっと立ち上がり、体温が離れたことに心寂しくなる。

 「朝までとはいかないだろうがな…」

 壁に背をつけて座るイタチに、水蓮も続く。

 「そうだね。外よりは少し気温が高いみたいだけど、朝方はかなり冷えるだろうしね」

 隣に座り、地面の冷たさに体を少し硬くする。

 と同時に、イタチがふわりと外套を開き水蓮を包み込んだ。

 そっと引き寄せられて、ほんの少し開いていた距離が一気に縮まる。

 「……っ」

 思わず揺れた水蓮の肩を、イタチは改めて手に力を入れてキュッと抱きしめた。

 「火を起こせればいいんだが、なるべく自然の環境で調べたい」

 「…あ、う、うん…」

 寒さをしのぐためと思いつつも、水蓮の鼓動は大きく音を鳴らしていた。

 それでも、先ほど一瞬脳裏に浮かんだ望みが形になりそっとイタチに体を寄せた。

 「それに…」

 「え?」

 つぶやかれたイタチの言葉に顔を上げると、そこには少し照れたような…優しい笑みがあった。

 「少しこうしていたい」

 「イタチ」

 

 なぜか胸が苦しくなった…

 

 切なくなった…

 

 そして、同じくらいあたたかくなった…

 

 「私もそう思った…」

 

 笑顔を見せて、イタチの胸元に頬を寄せる。

 

 「そうか」

 「うん」

 

 こうして少しずつ重ねていこう…

 

 一つ一つ大切に…

 

 二人は同じように思い、互いのぬくもりをその身に刻む。

 

 「話を聞いた」

 ふいに、ぽつりとつぶやかれたイタチの言葉に、水蓮はヒヨリとリョウタの顔を思い浮かべながら「私も」と答える。

 「水蓮お前は…」

 「同じだよ」

 戸惑うようなイタチの声に、水蓮ははっきりとした声で返した。

 「ヒヨリさんたちと一緒だよ。イタチの求めてるものを聞きたい。知りたい」

 「オレもだ」

 互いの存在を、想いを確認するように見つめ合う。

 「特別な事じゃなくていいの。一緒に歩いて、同じものを見て、二人で笑っていたい。笑っていたい…」

 言葉に反して、涙がこぼれた。

 「ごめん」

 「すまない」

 そっと涙を拭ったイタチの手に、水蓮が手を重ねる。

 「謝らないで。私は幸せだから」

 「水蓮…」

 「あなたのそばにいれることが幸せだから」

 きゅっと指に力を入れる。

 ほほに当てられたイタチの手にも少し力が入った。

 「お前に辛い思いをさせている」

 水蓮が首を横に振る。

 「怖い思いをさせている」 

 「私は…」

 「それでも…」

 言葉を挟もうとした水蓮の声をイタチが遮る。

 水蓮が見つめる先には、泣きそうにも見える笑顔があった。

 「それでも、自分のために泣いてくれるお前がいることに救われている」

 「……っ」

 胸が詰まった。

 「オレにはもうそんな存在はいないはずだった。だが、お前がいてくれる。そのことに救われている」

 「イタチ…」

 

 自分の涙に愛を感じ、幸せを感じてくれている…

 

 求められている…

 

 伝わりくる想いに、涙が追って溢れる。

 「お前は出会ってからずっとオレのために涙を流してくれていた」

 過去を思い出すように、瞳が揺らぐ。

 「初めからずっと。ずっとオレは救われていた」

 まるで自分の中に確認するように、丁寧に言葉を紡ぐ。

 「感謝している」

 拭いきれないほどの涙が零れ落ちていく。

 「すまない。オレは、お前を泣かせてばかりだな」

 「私こそごめん。泣いてばかり…」

 「すまない」

 「ごめん」

 繰り返したその言葉をかき消すように、唇が重なった。

 

 この言葉はこれで最後にしよう…

 

 お互いにそう誓い、笑みを交わした。 

 イタチはそっと水蓮を抱き寄せ直し、今の望みを言葉にする。

 「水蓮。お前の話を聞かせてくれ」

 「私の話?」

 「ああ。なんでもいい。お前の事を知りたい」

 水蓮はうなずいて、やさしい声とぬくもりに身をゆだねた。

 穏やかな空気が広がり、二人を包み込む。

 「何を話そうかな」

 そう言葉をはじめ、水蓮は自分の子供の頃の話や、両親との思い出を、記憶を手繰り寄せながら話した。

 水蓮が経験してきた様々なことに、イタチは時に笑い、驚き。今と変わらぬ水蓮の無茶な性格が引き起こした出来事にあきれたりと、その表情は今までになく、多く変化した。

 

 

 そうして水蓮の話は続き、1時間ほどが過ぎた。

 

 

 「…あいつ、お前にそんなことを言ったのか?」

 変化のない石を観察しながら話を聞いていたイタチが、顔をしかめて少し驚いた様子で水蓮に視線を向けた。

 この間の修行で鬼鮫に言われたことを話しての反応だ。

 「うん」

 うなずき、言葉を続ける。

 「止まらないと印が組めないようでは、隙だらけだ。って」

 少し口調を真似をしながら言う。 

 それが面白かったのか、それとも内容に対してなのか、イタチは小さく笑った。

 「無茶を言うな」

 しかしすぐに否定する。

 「いや、まぁ、あいつが言うなら、できるんだろうな。お前には」

 「かなり難しいんだけど。手がぶれて」

 風遁の印を胸の前で形作る。

 「そうだな。鬼鮫は何かアドバイスをくれるのか?」

 二人の修行はイタチが単独で動いている時がほとんどで、その内容をまともに見たことがなかった。

 「えーと。走りながら印を組むときは、態勢を少し落として、脇を閉めて、臍の前あたりで印を組むとやりやすいって」

 イタチはまた少し驚いた様子で言葉を返す。

 「あいつ。ちゃんと教えてるんだな」

 「うん。鬼鮫は結構わかりやすく教えてくれるよ。厳しいけど…」

 「そうか…」

 イタチは少し難しい顔を浮かべる。

 まだ今の水蓮に対して教えるにしては、少し難しい事を言っているようにも思えた。

 それだけ鬼鮫は水蓮の能力を見込んでいると同時に、気に入っているのだろう。

 だからこそ、水蓮をマダラから離さなければいけない。イタチはそう考えていた。

 何かが原因で、マダラが水蓮を生かしておけないと判断した場合、おそらくその命を奪うことになるのは、自分より信頼の厚い鬼鮫だ。

 

 そしてあいつは従うだろう…

 どちらにとっても、それは重い…

 

 そう考えをめぐらせて、イタチは『そうはさせないが…』と、心の中でつぶやく。

 だが、自分がいなくなった後の事を考えておかねばならない。

 

 その時、水蓮を託せるのは…

 イタチがその人物を思い浮かべると同時に、水蓮の体が少し揺れた。

 落とした視線の先で、水蓮がうとうとしながら、眠気と戦って顔をゆがめていた。

 その必死の表情に思わず「ふ…」と、笑いをこぼす。

 それに気づいた水蓮がハッとしたように顔をそらした。

 「どうした?」

 イタチの問いに水蓮は振り向かぬまま返す。

 「変な顔してた?」

 「ああ。してた」

 「…う……」

 イタチはうなだれる水蓮の頭を引き寄せて「少し眠れ」とやさしく言う。

 降り下りてきたその柔らかい声に、水蓮はうなずいて素直に目を閉じた。

 

 

 イタチは水蓮をより深く包み込む。

 

 

 互いのぬくもりがそれぞれの心に穏やかな感情をあふれさせた…。

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