いつの日か…   作:かなで☆

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第六章  【忍猫】

 辺りに立ち並ぶ建物はすべてがその機能を失っており、人の気配はまるでなく。吹き荒れる風に砂埃が舞い上げられ、景色を灰色に染めてゆく。

 

 廃墟…

 

 二人は静かに歩みを進める。

 

 「この先だ」

 イタチが見上げた大きな門には「空区」と書かれており、どうやら大きな町の入口のようだ。

 水蓮はその門をどこかで見たことがあるように思い、記憶をたどる。

 

 …ここは確か、サスケがイタチとの最後の戦いの前に来てた…

 

 サスケがあの時に訪れていたうちは一族御用達の武器屋を思い浮かべる。

 

 「行くぞ」

 「あ、うん」

 門をくぐると、先ほど同様町に人気はなく、(さび)れきった感じだ。

 やや歩いて二人はある建物の中に入る。

 中は暗く、壁や天井には水道管のようなパイプがいくつも並んでいる。

 「離れるな。迷うぞ」

 こんな薄暗いところではぐれては困ると、水蓮は思わずイタチの外套を掴んだ。

 そんな水蓮をちらりと見て、イタチは水蓮に見えぬ角度で小さく笑みを浮かべた。

 「ここはうちは一族が利用していた武器屋だ。来るのはかなり久しぶりだがな」

 一族を抹殺したイタチには来にくい場所であろうことと悟り、水蓮は言葉を返せなかった。

 「ここにいる、武器商人のネコ婆にお前を預ける」

 水蓮はコクリと頷く。

 とその時、少し先の暗闇から声が飛んできた。

 「おい、珍しいやつが来たぞ」

 「本とだフニィ」

 壁に反響してあたりに響く。

 イタチは立ち止まり、その声の主を待つ。

 ややあって、闇の中から現れたのは服を着た猫だった。

 「久しぶりだな。デンカ、ヒナ」

 呼ばれてその2匹はちょこんと座り、イタチを見つめた。

 「本当にいつぶりだろうな。大きくなったな、イタチ」

 「デンカ、たぶんイタチには10年近く会ってないんじゃないかフニィ」

 お互い懐かしそうな表情で見つめ合う。

 「で、いったい何の用だい」

 デンカがスッと立ち上がる。

 額には毛の模様なのか特殊なものなのか【忍】の文字が浮かんでいる。

 ゆらりと揺れるフサッとした長い尻尾。

 少し硬い質だが、よく手入れされている毛並みとピンと伸びた耳。

 「か、かわいい…」

 イタチの後ろから覗き込んでいた水蓮が思わずポツリとつぶやき、デンカに向かって手を伸ばした。

 「よせ水蓮!こいつらは凶暴な忍猫で……?」

 慌てて制止したイタチの声が途中で力を失った。

 視線の先で、デンカが水蓮に触られて気持ちのよさそうな顔で伸びていたのだ。

 「なっ…」

 見たことのない光景にイタチが驚きの声をあげる。

 「私猫マッサージ得意なの」

 巧みに動く手のひらにもみほぐされ、デンカの体がどんどん長く伸びる。

 「んにゃぁ。お前、なかなか…」

 恍惚の表情でごろごろ喉を鳴らす。

 「気持ちよさそうフニィ…」

 「あとでしてあげるね」

 うらやましそうなヒナの頭を水蓮が撫でる。

 その一撫ですら気持ちいいのか、ヒナは水蓮の体にすり寄った。

 驚いた様子でそれを見ていたイタチが「…ふ」と小さく笑った。

 「お前は本当に不思議な奴だ」

 柔らかいその笑顔を見て、デンカとヒナは目を細めて水蓮に向き直る。

 「へぇ…」

 「フニィ…」

 2匹ともふわりと飛び上がり、イタチの前に降り立つ。

 「で?」

 「武器を買いに来たのか?」

 「いや、ネコ婆に用がある」

 「ふぅん。持ってきたかフニィ?」

 「ほら、またたびボトルだ」

 イタチが懐から瓶を取り出してヒナの口にくわえさせると、ヒナは満足そうに笑った。

 そしてデンカと共に先ほど出てきた薄暗闇のほうへと歩き出す。

 「ついてきな」

 「案内するフニィ」

 イタチと水蓮は後に続き、その先にあったドアを開けて中に入った。

 「わぁ…猫いっぱい」

 部屋の中に何匹もの猫が思い思いにくつろいでおり、水蓮は思わず声をあげた。

 どうやらデンカとヒナのような忍猫ではなく普通の猫のようだ。

 数匹が水蓮の足元にすり寄ってきた。

 「可愛い」

 久しぶりに動物と触れ合い、その心が和む。

 「誰かと思ったら…」

 部屋の中央に座る人物が二人を見据える。

 灰色の髪を一つに束ねたややかっぷくのいい老婆…

 鼻の頭が少し灰色に色づいており、頭に猫耳をつけている。

 「イタチか?」

 目を細め、静かに見つめる。

 「はい。ご無沙汰してます。ネコ婆…」

 姿勢を正すイタチに習い、水蓮も背筋を伸ばす。

 「まさかお前がここに来るとはねェ」

 うちは一族の事件を知っているのだろう。

 かもし出す雰囲気がやや警戒を現わし、どう対処するべきか考え込んでいるようだ。

 しばらく言葉のないまま対峙し、ネコ婆はふぅ…と息を吐き出した。

 「ま、他人のごたごたはどうでもいい。大口の顧客を失ったことは痛手だがな」

 皮肉交じりに笑う。

 とりあえずは受け入れてもらえたようでに水蓮はほっとした。

 「で、なんだい?何か武器が必要なのかい?」

 「いえ…実は」

 イタチは水蓮の背を少し押して、前に出す。

 「この水蓮を数日の間預かっていただきたいのです」

 「あ、初めまして。水蓮と言います」

 緊張しながらのその挨拶に、ネコ婆は声を少し荒げた。

 「はぁ?イタチ、うちは宿じゃない。武器屋だよ。何の冗談だい」

 その空気がピリッと張り詰める。

 ネコ婆のそばにいた猫がその雰囲気の変化に数匹逃げていく。

 「戻ってきたら武器を買わせていただきます。預かっていただいたお礼も。2 . 3日お願いします」

 頭を下げるイタチの横で、水蓮も慌てて頭を下げる。

 しかし、ネコ婆は「ダメだ」と冷たく突き放す。

 「うちに何のメリットがあるんだい。他人の世話なんて御免だよ」

 まったく聞き入れてもらえそうにない…

 ところが、思いがけず助け舟が出た。

 「まぁまぁ、ネコ婆いいじゃないか」

 水蓮の足元にデンカが走り寄り、その肩に飛び乗った。

 「この子使えるよ」

 「そう、使えるフニィ」

 ヒナも足にすり寄る。

 その光景にネコ婆が目を丸くし、しばらく考え込み、フッと笑った。

 「その子たちが初対面の人間になつくなんてね…」

 腕を組んで、じぃっと水蓮を見据える。

 「まぁ、ちょうど孫が買い付けに出ていて人手不足だし…」

 うんうんと、デンカとヒナが首を大きく縦に降る。

 「…わかったよ。その代わり、うちの商売を手伝ってもらうからね。水蓮」

 「は、はい!よろしくお願いします」

 「ありがとうございます」

 イタチはほっとした様子で頭を下げた。

 そして水蓮に向き直る。

 「オレは行く」

 「うん。気を付けてね…」

 イタチの向かう先がどこなのか、その目的が何なのか、水蓮には分からないが危険であることに間違いはない。

 不安で仕方なかった。

 「では…」

 イタチはもう一度ネコ婆に頭を下げて、ボンっと音を立てて消えた。

 「イタチ…」

 どこからか生ぬるい風が入り込み、水蓮の胸に何か言い知れぬ不安を広げた…

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