いつの日か…   作:かなで☆

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第六十三章【死への導き】

 ゴォ…ッ!

 

 大きく開いた穴の底で、一つ大きな炎が噴き出した。

 その炎に照らされ、黒く揺らめいていた影が姿をあらわにする。

 他に誰の気配も感じないことから術者が眼前の者であると悟り、水蓮の前に立つ3人の背中が一気に空気を鋭く変えた。

 その背の間から見えた姿は、細身の長身。少し長めに伸ばした黒髪はツンととがり、忍び装束ではないがすっきりとしたその服装と、姿勢よくたたずむ姿はどこかカカシを彷彿させる。

 歳も近しく見えることから余計にそう感じるが、カカシとは似ても似つかぬきつく吊り上った目。

 それがギロリとこちらを睨み付けていた。

 「あなたにこんな力があったとは驚きですね。ただの雑用係かと思ってましたがね」

 鬼鮫が鮫肌を握る手に力を入れる。

 「ザギ…」

 それが男の名前なのだろう。

 「能あるタカは何とやらだ。お前らは油断ならないからな」

 「なるほど…」

 この里で滞在中に面識があったらしいそのやり取りを、水蓮はじっと見据える。

 

 この人、強い…

 

 暑さとはまた違う汗が背筋を走った。

 

 今まで戦闘となる任務への同行は少なく、そう多くの忍びを見てきたわけではない水蓮だが、ザギと呼ばれた男の佇まいと、醸し出される【気】。そこから只者ではないことをひしひしと感じていた。

 本能に訴えかけてくる危機感にあおられ、水蓮は無意識にイナホと母を背に隠す。

 

 「おどけた人格は芝居でしたか…」

 二人の見てきたザギはそう振舞っていたのだろう。

 鬼鮫は小さく笑い、一歩前に出た。

 「そんなあなたは私の知り合いに似ていましたよ。彼もあなたほどの力を隠し持っていれば、もう少し役に立ちそうですがね」

 水蓮の脳裏にトビが思い浮かぶ。

 知らぬうちとはいえ的を得ているその言葉にイタチがほんの少し目を細めた。

 そんなイタチの前に出るように、鬼鮫がまた一歩動きながら話を続ける。

 「そういえば、昨夜あなたとの話に…」

 「時間稼ぎはお勧めしないな」

 ピクリとイタチの肩が揺れた。

 ザギは鼻で小さく笑い無防備なしぐさでゆらりと足を進ませ、扉があったあたりに立ちふさがる。

 「鬼鮫さんよぉ」

 どこかおどけを含めた口調。

 「あんたがしゃべって時間を稼ぎ、その間に策を練る。だろ?イタチさん」

 きつい目を少し下げて、ニコリと笑う。

 浮かべられた愛想の良い笑顔。しかしそれとは裏腹に、体からあふれ出る得体のしれない【気】。

 先ほども感じたそれに、水蓮は鳥肌が立った。

 

 何かが違う…

 

 今まで見てきた忍と、何かが違うのだ。

 術の余韻なのか、ザギを取り巻くその【気】は、重く深く、だがそれでいて研ぎ澄まされた鮮麗さをも感じる。

 色彩でたとえるなら、極度に濃い紫。その中に暖色系の物が絶妙なバランスで入り混じり、そして中心に澄み切った青い筋が入っているような。

 その複雑な構造にもっとも強く感じるのは…

 思考を絡ませ、行き着いた答えに水蓮の心臓が冷たさを感じた。

 

 ザギの持つ【気】の奥。

 そこにある物。

 

 【死】の気配。

 

 確たるものがあるわけではない。

 

 だが、この男の術は死に結びつくものなのだ。

 水蓮はそれを感じ、自分の心臓の冷えに体を小さく震わせた。

 

 それは恐怖…

 

 水蓮の様子に気づき、小南がほんの少し体を寄せた。

 「どうしたの…」

 明らかに怯えている水蓮に聞こえるか聞こえないかの小さな声をかける。

 「だめ…」

 空気に消え入りそうな水蓮の言葉にイタチが一瞬だけ振り返り、様子を確かめてすぐに前に向き直る。

 まるで言葉の先をすでに予想しているかのような落ち着き。

 それが分かりつつも、水蓮は言葉を続ける。

 「イタチ。この人と戦っちゃだめ…」

 かすれたその声にイタチは表情を変えず無言を返し、小南と鬼鮫が顔をしかめた。

 「ほぉ…」

 ザギが関心の息を漏らす。

 「その女、感知タイプか?それも、かなり鋭い」

 「…え?」

 そんな事を今まで考えたこともなかった。

 鬼鮫も、そしてイタチさえも。

 だが、二人には思い当たる節があった。

 

 感知タイプは鋭い。

 頭がいいという事ではない。感がいいのだ。

 チャクラだけではなく、物事を察知する能力が高い。

 

 今までの水蓮を思い返せば、そう言った場面は少なくはなかった。

 

 ほんの小さなことから徐々にその力が芽生え、今目の前にある命の危機に、本能がその力を一気に引き出したのかもしれない。

 イタチのその思考に鬼鮫が視線で同意する。

 「どういうこと?」

 小南の問いにイタチが答えるより早く、ザギが言う。

 「イタチさんよ。もうあんたも感じているだろ?今まで隠すのが大変だったんだぜ」

 浮かべていた愛想笑いが不気味な笑みへと変わった。

 ゾワリと背筋を凍らせた水蓮をかばうように小南が前に立ち、更にその前にイタチと鬼鮫が立つ。

 水蓮を完全に覆い隠し、イタチが静かに声を響かせた。

 「あいつの術は血継限界ではない。いや、それにあることは違いないが通常の物とは違う」

 小南がハッと息を飲み、ザギに目をやる。 

 「まさか、血継淘汰(けっけいとうた)

 鬼鮫が驚いたように体を揺らし、イタチが小さくうなづく。

 聞いたことのないその言葉。

 戸惑う水蓮に小南が説明を入れる。

 「3つの性質変化を合わせることによって新たな性質を生み出す能力よ。現土影オオノキの操る塵遁がそれにあたる」

 「あれは、風遁、土遁、火遁を合わせた物でしたね。ですが血継淘汰は確か先代土影が研究の末開発した独自の物と聞きますがね」

 「先代のゆかりの者か」

 イタチのその疑問にザギはまた鼻で笑う。

 「しらねぇよ。そんなの。まぁ、オレにこれを教えたやつがどうだったかは分からないがな。そんな事より、あんましゆっくりしてると、死ぬぞ。そいつ」

 顎を軽く上げる。

 イタチと鬼鮫の後方。小南と水蓮を通り過ぎてゆくその示し。

 「お母さん!」

 水蓮の背に守られていたイナホが声を上げた。

 見ると、イナホの母が体を抱えてうずくまっていた。

 手のひらにつけられた模様が赤黒く光り、そこを中心にその光が体へと広がりだしている。

 「う…」

 激しい痛みがあるのか、顔をゆがめ呻きを漏らす。

 「どうしたの!」

 イナホが慌てて母の体を支える。

 「あつ…っ!」

 母に触れた小さな手がはじかれたように離れる。

 「イナホ!」

 「先生…」

 イナホの手は少し赤くなり、軽いやけどのような症状を見せた。

 「はなれなさい。イナホ…」

 額に大粒の汗を浮かべ、イナホの母が声を絞り出す。

 その体は徐々に赤い光に浸食されてゆく。

 「うぁ…っ」

 「お母さん!」

 こらえきれぬ呻きに、イナホが再び身を寄せる。

 だが触れることができず、そばでただ涙を流す。

 「先生。助けて…」

 懇願の表情に、水蓮はグッと奥歯を噛んだ。

 

 どうすることもできない…

 

 水蓮だけではない。その場にいる者全員が、術者以外に解きようがないことを感じていた。

 「灼遁(しゃくとん)か?」

 イタチが漏らしたその言葉にザギが大きく息を吐き出す。

 「やだねぇ天才ってやつは。少ない情報ですぐに正解をたたき出す。だが、それだけじゃぁないぜ」

 スッと右手を持ち上げてチャクラを集めてゆく。

 

 ザァッ…と風が集まり手のひらの上で渦を巻く。そこに炎が合わさり一度大きく燃えてギュッと縮まった。

 炎を凝縮した赤黒い球体…。リンゴほどの大きさのその塊には並みならぬ熱が生成されている。

 その熱の塊の上に左手を掲げ、ザギはさらにチャクラを練る。

 生み出されたのは、水。

 同じほどの大きさの球体となって手の中で揺れ、一滴のしずくが高温の塊の上に落ち、音もなく蒸発して白く霧立つ。

 だがそれは水蒸気とは少し違う…。

 「酸?」

 空気中に漂った鼻を突く臭いに、水蓮がつぶやいた。

 「そうだ。オレは体内のチャクラを酸に変換する力を持って生まれた。水遁と火遁を合わせた沸遁と言われるものだ。その力に、風と火を組み合わせた灼遁を融合させる。それが俺の能力。蒸遁(じょうとん)だ」

 「蒸遁…」

 水蓮の声に答えるように、生み出された特別な二つの力がその手の中でシュゥッ…と鋭い音を立てて合わさって行く。

 「酸に変換した俺のチャクラをこの熱塊(ねっかい)と合わせて酸の蒸気を作る。そして…」

 空気中に浮かんだ酸の蒸気が細い針へと姿を変えた。

 「これを風に乗せて相手の体に打ち込み、チャクラコントロールを狂わせ、チャクラ生成のバランスを崩す。その上チャクラを練ると体が焼ける」

 

 ザリッ…と、ザギが足元の土を音立てる。

 

 それに反応して水蓮たちが警戒に体を揺らした。

 だが、ザギは手の中にあるその術をスッと消した。

 「それが一度目の効力」

 「一度目?」

 イタチが警戒を解かぬままほんの少し前に出た。

 「そうだ。そして同じ術を2度受けると…」

 水蓮はハッとしてイナホの母を見る。

 その体は未だ術の浸食を進め、苦しそうに表情をゆがめていた。

 「体内に埋め込んだ蒸気の針を通じて、オレのチャクラが徐々に熱を発する。たとえ本人がチャクラを練らなくともな」

 徐々に高温に犯されてゆくイナホの母を見つめたまま、水蓮の鼓動が高まって行く。

 このままでは…体内からすべて焼かれてしまう…。

 「そして…」

 ザギが静かに声を上げ、一層不気味に笑った。

 「3度受けると、オレのチャクラが対象者のチャクラと混ざり、無制限に練り上げる。一瞬でな。オレが解くか、オレ自身が死なない限りその効力はなくならない」

 さらに水蓮の鼓動が大きく波打つ。

 すでに一度目でチャクラコントロールを乱され、チャクラを練れば普段の何倍ものスタミナを奪われる。

 

 その状態で勝手にチャクラを練り上げられたら…

 

 すべてのスタミナが一瞬でなくなる…

 

 それはすなわち…

 

 水蓮は自身の手に付けられたおぞましい模様に視線を落とし、ごくりと喉を鳴らした。

 

 

 3度目に受けたその先には避けようのない死が待っているのだ。

 そうでなくとも、2度目を受けた時点でカウントダウンが始まる。

 

 相手を倒すには…

 

 「2度目を受ける前に倒さなければならないということですか」

 鬼鮫が、やれやれ…と面倒な息を吐く。

 「もしくは…」

 「そうね…」

 イタチと小南が少しずつ位置をずらして縦に並んだ。

 その様子に、水蓮は無意識に体に力を入れた。

 もう一度受けるのを覚悟で飛び込むつもりなのだ。

 話を聞く限り、チャクラを練れないわけではない。

 3人はスタミナの異常消費とやけどを覚悟の上で決着をつけるつもりだ。

 しかしそれに感づいたのは水蓮だけではなかった。

 「そうだなぁ…」

 ザギが顎に手を当ててわざとらしく考えるそぶりを見せる。

 「そこの女の情報はないが…」

 小南をちらりと見る。 

 「まぁ、搖動か目くらまし…ってとこか。それで隙を作り、水牢の術でオレを捉えて幻術…。もしくはオレを穴に落としてここの炎を利用し、チャクラ消費を抑えた火遁でけりをつける。そんなとこか」

 イタチと鬼鮫の情報はしっかりと調べ上げられているのだ。 

 

 読まれている…

 

 「何にしても、もう一度受けるのを覚悟で突っ込んでくるんだろ?いいのか?それで」

 その視線はイナホの母に向けられていた。

 「さっきは逃さぬために少し慌てて術を放ったからただ風に乗せるだけしかできなかったが、この術は地中からも対象者を狙える。避けられない」

 母親の死を本能に感じてイナホの体が震えだす。

 「たとえ俺を倒せても、そいつは死ぬ。かわいそうに。子供の前で母親を殺すのかよ。残酷だねぇ暁は」

 水蓮の胸がズキリと痛んだ。

 イタチにその言葉を向けられたことに対しての痛み。

 誰も何も言葉を返せぬ沈黙の中、ザギが言葉を続ける。

 「その女を返せば、そいつと娘は助けてやる」

 イナホがはじかれたように顔を上げた。

 「こんな事をしているくらいだ。もう情報はつかんでいるんだろう」

 こちらの無言を肯定ととらえ、ザギは言葉を続ける。

 「事が終わればちゃんと町に返してやる。悪い条件じゃないだろ?まぁ、その二人以外は今ここで始末させてもらうがな」

 ザギは腰に両手を当てて、はぁ…と大げさに息を吐き「オレのノルマはお前たちじゃなかったんだがな」とぼやいた。

 

 体の内側から焼きつくし、絶対的に死に追いやる術。

 水蓮の脳裏には飛段と角都が浮かんでいた。

 実際にザギの術が二人の【死】につながるのかどうかは分からないが、戦えばそれ相応の結果になるのかもしれない。

 「さぁ…その女を返してもらおうか」

 ザギが一歩足を進ませる。

 その足音に、声が重なった。

 「もうやめて。ザギ…」

 消え入りそうなその声…。

 それは水蓮の後方から聞こえた。

 「もうやめて…」

 もう一度聞こえた声に振り向く。

 そこには苦痛に顔をゆがませながらも、立ち上がりザギを見つめるイナホの母の姿があった。

 「お願い…。もうこれ以上その力で命を奪わないで」

 痛みと熱に耐えながら必死に言葉を絞り出し、ゆっくりとした歩みで水蓮の横を通り過ぎ、先頭にいた鬼鮫の前に立つ。

 「こんな事、あなたが望んでいた事じゃないでしょ」

 ザギは答えない。

 「あなたが望んでいたのは、あなたの夢は…」

 「うるさい!」

 荒げたザギの声が響いた。

 「黙れアゲハ」

 低い声でイナホの母を睨み付ける。

 互いを知っていたその様子に、イナホが戸惑いを見せた。

 「お母さん?」

 娘の声に、アゲハは肩を揺らしながら答える。

 「私とザギは…」

 しかし言葉半ばに、苦痛に襲われその場に倒れるようにして座り込む。

 イナホが慌ててそばに駆け寄った。

 そんなイナホと、体の半分が術に侵され言葉が出ないアゲハをじっと見つめたまま、ザギはしばらく黙っていたが、ややあって静かに口を開いた。

 「オレとアゲハは、同じ家で育った」

 

 

 ザギの言葉と同時に、穴の底で炎が大きく吹きあがった。




久しぶりに、筆が進みます(*^_^*)

この話くらいから特に、ちょっと術に関しては勝手な設定と解釈を使わせていただいています。
ご了承いただければと思います(^_^;)

久しぶりに登場人物多く、何度も読み返して確認する私…(-_-;)
人が多いと難しいのは現実も小説も同じですね(苦笑)

でも、順調に書けているので、この調子で進めていければな~と思います☆

いつも読んで下さり、本当にありがとうございます!
お気に入り登録もいつの間にか700を超えて…感動と感謝でいっぱいです(T_T)
これからもなにとぞよろしくお願いいたします(^◇^)

感謝をこめて…(^v^)
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