いつの日か…   作:かなで☆

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第六十五章【愛する者。守るべき命】

 「イナホ…」

 水蓮の呼びかけにイナホは応えない。

 自身を、母を、そして水蓮たちをしっかりと包み込む水晶の壁の中、イナホの体を研ぎ澄まされた空気が包み込んでゆく。

 そんなイナホに振り返り、アゲハが目を大きく見開く。

 「まさか…そんな」

 その声と同時に、イナホがまるで何かに操られているかのように無表情のままに右手をスッと持ち上げた。

 「やめなさい!イナホ!」

 アゲハが声を荒げて静止するが、ザギの術によるダメージに倒れこむ。

 イナホはそんな母の前に歩み出て表情を変えぬままザギと対峙する。

 「アゲハの【晶遁】の力を引き継いでいたのか」

 「晶遁…」

 聞き覚えのないその力に水蓮は自分たちを包み込む水晶の壁を見回した。

 「空気中のあらゆるものを水晶へと変換させる力だ。その力は地中にもおよび、あらゆる術をはじき返すと言われている」

 イタチの説明に水蓮はハッとする。

 「鏡写しの術…」

 イタチがうなづく。

 「だが…」

 イタチのその言葉をザギが継ぐ。

 「どうやら開花したばかりのようだな」

 アゲハの様子からそう読み取る。

 「その未熟な力で、はたしてオレの術をはじけるかな。それに…」

 すでに印を組み終わっていたザギが術を放った。

 「熱針(ねつばり)!」

 生み出された酸性の針が風に乗って飛び来る。

 イナホは右手を掲げたまま左手で印を組んだ。

 

 

 カッ!

 

 

 水蓮たちを囲む壁が光る。

 その様子を見ながら鬼鮫が眉をひそめる。

 「はじき返しただけでは…」

 「意味がない」

 小南が続き、水蓮がグッと手を握りしめた。

 たとえ弾き返してそれをザギがその身に受けたとしても、自身の術。簡単に解ける。

 それでは勝てないのだ。

 しかしイタチがそれを否定した。

 「いや。違う」

 水蓮を抱えたまま、イタチは瞳を赤く色変えて上を見上げていた。

 その先。水晶でできた壁に黒い渦が生み出されている。

 「あれは…」

 ザギがその異様な光景に目を細めた。が、構わずにもう一度『熱針』を放った。

 その黒い渦の中にザギの放った針がすべて吸い込まれてゆき、渦の色が白く変わる。

 そしてそこから先ほど吸い込まれた針がすさまじい勢いで放たれた。

 その一連の流れはまったくの無音で、それが酷く恐怖を感じさせた。 

 

 …ドッ

 

 …ドッ

 

 …ドッ

 

 唯一聞こえたその音。

 それは、イナホの作り出した渦から放たれた針がザギの体を捉えた音…。

 3度の術を受けたザギは、瞬時に効力を消そうと印を組んだ。

 だが次の瞬間。

 「ぐあぁぁぁぁぁっ!」

 チャクラを練り上げたザギの叫びが響き渡った。

 体が赤黒く光って腫れあがり、内部から焼かれたザギが無言のままその場にどさりと崩れ落ちた。

 「相手の術を吸収して、己の物へと変換した?」

 小南が即座に分析し、それにイタチがうなづいた。

 そのイタチの手から模様が消えていることに気づき、水蓮は自身の手を見る。

 そこにはすでに何もなく、水蓮は慌ててアゲハに駆け寄り手をかざした。

 アゲハは意識を失っており、全身に酷い火傷の症状が見られた。

 水蓮は症状を見ながら治療を施してゆく。

 しかし残りギリギリのチャクラ。

 とても完治はできない。

 それでも何とか命は取り留め、水蓮はほっと息をつく。

 その視線の端でイナホの体がふらりと揺れ、取り囲んでいた水晶の壁が消える。

 「イナホ…」

 水蓮の声にイナホがゆっくりと振り返る。

 が、うつろなその瞳は水蓮を映すことなくゆっくりと閉じられてゆく。

 そしてそのまま意識を失い、その小さな体を大きく開いた穴へと向かわせた。

 「イナホ!」

 慌ててその手をつかみ取るが、意識を失った体は想像以上に重い。

 水蓮はグッと体に力を入れ、遠心力を利用してイナホの体を押し戻す。

 「小南さん!」

 目にうつった小南にイナホを託す。

 小南は両手を大きく広げてイナホをしっかりと受け止めた。

 しかし今度は水蓮がぽっかりと空いた空間へと投げ出される。

 「水蓮!」

 熱の揺れる空間へと放り出された水蓮に向かってイタチが身を投じた。

 その姿を目に映した水蓮の背に、大きく吹きあがった炎の熱が襲う。

 「……っ!」

 熱さに顔をゆがませた次の瞬間、イタチが水蓮の腕をつかんで引き寄せた。

 

 ボンッ

 

 小さな音が鳴り、二人の下に鬼鮫の影分身が鮫肌を掲げて現れ、イタチがそれを足場に高く跳躍する。

 鬼鮫の影分身が噴きあがる炎に消され、その炎から水蓮を守りながら、イタチはまっすぐに腕を伸ばし上げた。

 その腕を鬼鮫がしっかりとつかみ、二人を一気に引き上げる。

 勢いでやや宙を飛び、イタチは水蓮を抱きかかえたまま静かに着地した。

 「大丈夫か?」

 イタチの問いに、地に下されながら水蓮はうなずき息をついた。

 「あなたは本当に!」

 水蓮の両足がしっかりと地に着くと同時に鬼鮫の声が響いた。

 「後先考えずに!」

 グッと詰め寄る鬼鮫から、水蓮が体をそらせながら「はは」と気まずそうに笑った。

 「まったくだ」

 イタチもジトリと水蓮を見る。

 しかし水蓮は「ちゃんと後先考えてるよ」とニコリと笑った。

 「イタチと鬼鮫がいるから何とかなるってね」

 二人が同時に息を飲む。

 が、ほんの数秒後鬼鮫があきれた顔で息を吐き出した。

 「そういうのは後先考えてとは言わないんじゃないですかね」

 「その通りだ」

 「そうかな?まぁ、信用してるってことよ」

 「いいように言いますね、あなたは」

 「まったくだ」

 そのやり取りを黙って見ていた小南のそばで、アゲハが小さくうめいた。

 そしてうっすらと開いた瞳に、小南の腕の中でぐったりとしているイナホを捉え声を上げる。

 「イナホ!」

 「心配ないわ。気を失っているだけよ」

 小南の言葉にアゲハはほっと息をつき、ゆっくりと体を起こした。

 そしてふらつきながらザギのもとへと歩み寄る。

 頼りないその体を水蓮が支え、アゲハと共にザギのそばに姿勢を落とす。

 ザギはまだ死んではおらず、その気配にほんの少し反応した。

 瀕死の状態でうっすらと目を開ける。

 「アゲハ…」

 「ザギ…」

 互いに名を呼びあい、しばし黙する。

 その沈黙の中には、他者にはわからぬ何かが流れている。

 二人で過ごした幼いころの記憶か、それぞれ生きてきた地獄の日々か…

 どちらにせよ、水蓮の胸には切ない痛みが走った。

 

 もうザギは助からない…

 

 「やはり…」

 ザギがフッと笑った。

 「オレとお前の戦いには邪魔が入るな」

 アゲハは言葉なく複雑な面持ちで小さな笑みを返した。

 ザギの瞳がイナホへと動く。

 「あの男の…」

 「ええ」

 今度はしっかりとした声で答えた。

 「そうか。…過去にあいつに邪魔をされ、今度はその子供に…。何の因果だろうな」

 

 『オレ達の戦いには途中で邪魔が入った』

 

 先ほどのザギの言葉。

 それはどうやらイナホの父親だったようで、アゲハもイナホを見つめてどこか懐かしそうな顔をした。

 「あいつの力も引き継いだようだな…」

 「ええ。私の力と、あの人の力。両方を引き継いでしまったようね」

 「そうか…」

 

 また沈黙が落ちた。

 

 「オレも…」

 

 ザギの声が少し震えた。

 「オレもお前のように愛する者を見つけ、守るべき命をこの手にすることができていたら…」

 ゆっくりと右手を持ち上げ、その指の隙間からアゲハの顔を見つめる。

 が、それはほんの一瞬で、ザギはすぐに視線を天井へと向けた。

 「いや。オレは里のために生きてきたこの人生を誇りに思う」

 きゅっと力なく掲げたままの手を握る。

 「そこに後悔はない」

 しっかりとした口調に水蓮の胸が激しく締め付けられた。

 

 それは本当なのだろう。

 だがその言葉の中に別の想いが聞こえる。

 

 

 後悔するわけにはいかない…

 奪ってきた命のためにも…

 

 だがそれでも、また違う生き方が、そして死にざまがあったのかもしれない…

 

 

 そう思わないわけがない…

 

 忍とて、人なのだ。

 

 「アゲハ、よかったな」

 ザギはもう一度イナホに目を向ける。

 「優しいお母さんになる。それがお前の夢だった。叶ってよかったな…」

 「ザギ…」

 「家族ができてよかったな」

 アゲハはうなづき、そっとザギの手を包み込んだ。

 「ザギ。あなたがどう生きてきたとしても、どんな最期を迎えたとしても…」

 二人の手の上にいくつもの涙が落ちる。

 アゲハはキュッと手に力を入れて優しく、柔らかく微笑んだ。

 「あなたも、私の大切な家族。ずっと、家族」

 ザギはスッと目を細めて、どこか子供っぽい表情で「ヘヘ」と笑った。

 

 きっとそれが彼の本当の顔なのだろう。

 

 ザギは一度大きく深呼吸をし、ゆっくりと体を起こした。

 「ザギ?」

 よろよろと立ち上がるザギを支えようと、アゲハも立ち上がり手をさし出す。

 しかしその手をザギが払った。

 よろよろと足を進め、穴の淵に立つ。

 「イタチさんよ…」

 先ほどまでのきつい表情はすっかり消ええている。

 ザギはイタチを見つめ先ほどと同じように、また笑った。

 それは、すべてを悟ったような笑み。

 

 

 自身も、里も、もう救われないと。

 

 そして…

 

 ならばせめてとの想い。

 

 

 「頼むぜ」

 ほんの一瞬アゲハへと向けた視線を、イタチも水蓮も鬼鮫も、そして小南も見逃さなかった。

 「承知した」

 イタチの返答が先だったのか、それとも後だったのか。

 ザギの体が静かに炎の上がる穴の中へと消えた。

 

 「ザギ!」

 

 とっさに駆けだそうとしたアゲハの体を水蓮が必死に抱きしめて止めた。

 「ザギ…」

 もう一度つぶやかれたその声は、イタチが放った情けを見せぬ火遁の勢いにかき消され、3度目の声は、穴の中で大きく上がった爆発音に紛れた。

 

 ドォッ…ゴゴゴ…

 

 大きく地が揺れる。

 

 「ここは結界で音は外にもれません。ですが今の振動は上にも響いているでしょう」

 「急ぐわよ」

 鬼鮫と小南の冷静な声に、水蓮は黙ったままうなづいた。

 その隣で燃え盛る炎を見ていたアゲハが、心身に受けたダメージで気を失って崩れ落ちた。

 さっと鬼鮫がその体を受け止め抱え上げる。

 後ろにはいつの間にか鬼鮫の影分身がザギの姿で立っていた。

 「これで時間を稼ぎます」

 

 このためにザギはその身を消したのだろう。

 

 水蓮はもう一度うなづき、いまだ炎の収まらぬ場所を振り返った。

 

 ザギは、他の血継限界たちが入れ替わっていることをすでに知っていたのかもしれない。

 

 この結末さえもわかっていたのかもしれない。

 

 この幕引きを望んでいたのかもしれない。

 

 なぜなら…

 

 視線をアゲハに向ける。

 

 彼にとって、彼女が『愛すべき、守るべき命』だったのだ。

 

 何より大切で…

 

 その命は、何よりも大きかった…

 

 その彼女がすでに死んでいると思い、ただひたすら里のために生きてきた。

 その手を血に染めながら。

 

 だけれども、死んだと思っていた大切な人が生きていて、こうして再会して、彼は何を思ったのだろうか…

 

 水蓮はザギの姿が消えた場所をその目に映す。

 

 

 里を裏切るわけにはいかないという想い…

 

 何よりも大切な存在であるアゲハ…

 

 その狭間でどんな想いが生まれたのだろうか…

 

 最後の最後まで、その中心で心を揺れ動かしていたのかもしれない…

 

 

 全ては本人にしかわからない

 

 

 「行くぞ。水蓮」

 イタチの声に振り向くとすでに扉の結界は解かれ、小南と鬼鮫の姿はなかった。

 「行くぞ」

 もう一度そう言いイタチは手を差し出した。

 水蓮はその手をしっかりと握りしめうなづいた。

 そのうなづきに、頬を伝っていた涙が切なく散った。

 

 つながれた手から、イタチの胸の痛みが伝わってくるような気がした。

 

 何よりも大切な命を守るために、すべてを手放したザギ…

 

 似通った状況に身を置くザギのその気持ちが分かるイタチだから、その最期を引き受けたのだ。

 

 容赦はしなかった

 

 

 一歩一歩、階段を上がるたびにしずくが落ちる。

 しっかりとつながれたイタチの手の優しさに答えるように、水蓮は言葉を絞り出した。

 「外に出るまでには、ちゃんと止めるから」

 イタチは返事をする代わりに、キュッと手に力を入れた。

 

 

 ザギを死に追いやったのは、経過や状況はどうあれ【暁】だ。

 

 自分はその暁の一員なのだ。

 

 涙は、彼への冒涜にしかならない。

 

 だが、聞かされた忍世界の闇。

 

 答えの出ぬ血にまみれた負の連鎖。

 

 そして、アゲハを守るために死んでいったザギの想い。

 

 すべてがあまりにも悲しかった。

 

 

 水蓮はグッと唇をかみしめ、痛みに意識を向けた。

 そして涙を抑え込み、最後の一段を強く踏みしめた。




守るために戦い、守るために奪う。NARUTOのテーマの一つですね…。
他サイトで知り合った方の小説にもこのテーマに沿ったNARUTO小説があって、
『やっぱりNARUTO関連の物はこれを避けては語れないんだなぁ…』と、
しみじみ(/_;)
他にも、やっぱりそういう漫画やアニメは多く、永遠のテーマなのかもしれませんね。
イタチはまさにその象徴ともいえるのではないでしょうか。
その痛みと悲しみを背負い、戦う人…。
悲しい…。切ない…。痛いですね…。
イタチをアニメや漫画でほんの少し見るだけでも涙が出てしまいます(T_T)
相変わらず夢にまで見て(~_~;)
本当に影響力の強い漫画であり、存在であるNARUTO&イタチ(>_<)
はぁ…最終回をむかえるのが嫌だな…。

なんて思いつつ書いています。
いつも読んで下さり本当にありがとうございます!
今後ともよろしくお願いいたします(*^_^*)
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