いつの日か…   作:かなで☆

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第七章  【緊迫の帰還】

 あれから4日が過ぎた。

 イタチはまだ戻らず、水蓮はネコ婆のもとで武器の販売の手伝いや、倉庫の片づけなどをしながら過ごしていた。

 空いた時間にイタチからもらった薬草の本を読んではイタチを思いだし、その身が心配になる。

 「水蓮、ネコ婆が呼んでるフニィ」

 どこからともなく現れたヒナの声に本を読む手を止める。

 「時間が空いたから、薬草の調合を見てくれるってさ」

 ふわりと現れたデンカが水蓮の肩に飛び乗る。

 薬草の本を読みふける水蓮を見たネコ婆が、水蓮に薬草の調合を教えてくれるようになったのだ。

 様々な方面の客と商売をしてきたからか、ネコ婆の知識は武器だけにとどまらず、幅広い。

 その知識を惜しげもなく水蓮に与えてくれていた。

 明るく真面目な人柄と、ヒナとデンカの懐き様も手助けとなり、どうやら水蓮はネコ婆に気に入られたようだった。

 ヒナとデンカからもチャクラの練り方を教わり、水蓮はこの世界で生きていくための力を身につけつつあった。

 「わかった」

 本を手にネコ婆のもとへと向かう。

 「ネコ婆様、水蓮です」

 「入りな」

 ドアを開けて中に入ると、ネコ婆の前に色々な薬草が並べられていて、少し独特なにおいが部屋の中に漂っている。

 「薬草をいくつか仕入れた。今日は新しい薬の調合を教えてやろう」

 「ありがとうございます」

 並ぶ薬草を見ると、どれも本で見たことのある種類で、水蓮はそれぞれ名前を思い浮かべる。

 「どれが何か大体わかるかい?」

 「あ、はい。この本に載っていたものばかりです。大体わかります」

 ネコ婆は「うむ」と満足そうに頷いた。

 水蓮の覚えの良さや手先の器用さに、ネコ婆は教え甲斐を感じ、畑違いの薬草の事ではあるが、まるでよい弟子を見つけたような気分になっていた。

 「とりあえず、昨日教えた薬の調合を復習でやってみな。本を見ながらでいいから」

 「はい」

 水蓮は調合用の道具をそろえて、本の分量に沿って手際よく調合していく。

 分量の間違いがないよう慎重に。そして、いつも思い浮かべる。

 イタチの事を。

 はじめは無意識であったが、イタチが飲むことを想定して作ることで慎重さが増し、作業の精密さが自分の中で上がるような気がして、水蓮はそうしていた。

 丁寧で正確な動きにネコ婆は関心を覚えながら目を細める。

 「あんた、イタチが好きなんだね」

 「え!」 

 ガチャッ!

 動揺したことで、薬をすっていたすり鉢を倒す。

 中身はこぼれなかったものの、水蓮は慌てて元に戻した。

「だてに長く生きてないよ、イタチを見るあんたの顔を見たらすぐにわかる。あの子の役に立とうと思ってやってるんだろ?」

 「…いえ…あの…」

 「分かりやすいフニィ」

 「バレバレだな」

 ヒナとデンカのからかいに顔が赤くなる。

 「しかし水蓮。お前もイタチのしたことを知らんわけではあるまい」

 「…はい」

 「それでも、か」

 水蓮は再び薬をすり始める。

 「はい」

 言葉と共に手に力が入る。

 ネコ婆は少し遠くを見るような目でため息をついた。

 「あの子の事は小さいころから知ってる。幼くして戦争を目の当たりにし、命の在り方について考えるようになった」

 幼い頃のイタチが思い浮かんでいるのか、優しく目が細められた。

 「イタチは父親に言われて、時折一人でうちに買い付けに来ていてね。そんな話をよくしとったよ」

 水蓮は改めてこの世界の厳しさと、イタチのすごさを感じる。

 「そのうち弟が生まれて、一緒に来るようになって。自分が守るべき存在ができたことで、より生命の尊さを感じるようになり、とにかく争いのない世を望んでいた。そんなあの子がねぇ…」

 目を閉じ、うちは一族の事を思い浮かべている様子に水蓮は切なくなった。

 「争いの耐えぬ今を生きながら争いのない未来を願って、その矛盾の中で苦しんでいたのかね。それでもサスケだけは、というのがなんともな…」

 水蓮の手が止まる。

 「他人が関与するものではないが、イタチもサスケもよく知っているだけに孫のようなもんだ。何があったかは知らんが、他に道はなかったのかと思わずにはいられないよ」

 「…はい…」

 イタチの悲しい瞳を思いだし、水蓮の胸が苦しくなった。

 過去の道は変えることはできず、そしてこれから向かう道も変えられない。

 それはイタチが望むことではないことを水蓮は分かっている。

 「できました」

 胸の痛みを抑え込み、水蓮は笑顔を向ける。

 そこに強い決意の色を見て、ネコ婆はフッと笑う。

 「あんたがあの子のそばにいてくれるんだね」

 薬の入った器を渡しながら、水蓮は笑顔をたたえたまま力強く答えた。

 「はい」

 この先にあるのはイタチの望む【終焉】

 それは別れを意味する。それでももう水蓮は心を決めていた。

 その日までそばに寄り添い、支えていくことを…。

 ネコ婆は安心した表情を浮かべ、薬の出来を確かめる。

 「問題ないね。じゃぁ次は新しい薬の調合だ。それが終わったら、ヒナとデンカにまたチャクラの練り方を見てもらいな。しっかり鍛えれば、あんたの医療忍術も上達するだろうよ」

 「はい」

 

 ここでしっかり学んで、イタチの役に立てるようになりたい…

 

 しかし、意気込みながらも、なかなか戻ってこないイタチに水蓮は不安を募らせていた。

 何か嫌な予感がしていた。

 

 そしてそれは現実のものとなった。

 

 

 水蓮がネコ婆に言われて薬草をいくつか手にとった時、部屋の隅にある何やら文字の書かれた石版の上に煙が上がり、そこからすさまじい熱風が吹き荒れた。

 その熱は一気に部屋の中に広がり、ピリピリと空気を乾燥させながら、布や武器の入った箱を吹き飛ばし、水蓮たちに迫る。

 「ヒナ!デンカ!」

 「あいよ!」

 「フニィ!」

 ネコ婆の声に答えて、二人は立ち上がりパンッと両手を合わせた。

 その瞬間その体が水蓮の3倍ほどに膨れ上がり、ヒナが水蓮とネコ婆を抱え込み、デンカが大きく息を吐き出して熱風を裂く。

 デンカの吐き出した息に切り裂かれた熱風は、水蓮たちの真横を吹き荒れてゆく。

 ヒナに守られてはいるが、その勢いと熱に水蓮は一瞬息が止まった。

 数秒後、部屋の中は静けさを取り戻し、ヒナとデンカも元の姿に戻る。

 「大丈夫かフニィ」

 「うん。ありがとう。ヒナ、デンカ」

 いったい何が…と石版に目を向け、水蓮は今度は心臓が止まりそうになった。

 石版の上に、鬼鮫とイタチがぐったりとした様子で倒れていたのだ。

 服のあちこちが焦げており、一部が燃え、小さく火がくすぶっている。

 「イタチ!鬼鮫!」

 慌てて走り寄ろうとするが、その腕をネコ婆がつかんで止めた。

 「待ちな水蓮!あそこのカーテンを水に濡らして、上からかぶせるんだ!」

 「は…はい!」

 勢いよくカーテンを引きちぎり、水の入った水瓶(みずがめ)に沈める。

 水分を含んで重くなったカーテンを必死に引き上げ、水蓮はイタチと鬼鮫にかぶせて押さえた。

 じゅっ…と音を立てて隙間から煙が立つのを目にして、水蓮の体が震える。

 

 どうしてこんなことに…

 

 「この石板は時空間移動の術式が書かれているんだよ」

 デンカが走り寄ってきた。

 「一部の客だけだが、これに連動している忍具を渡してる」

 「イタチ…まだ持ってたフニィ…」

 二人の話に、どうやらそれでここに戻ってきたことを悟るが、水蓮にとってそんなことはどうでもよかった。

 二人が無事なのか。そのことで頭はいっぱいだった。

 少ししてカーテンをどけると火は消えていた。

 しかし、二人の状態は決して無事とは思えない。

 二人ともかろうじて息はしているものの意識はなく、服はあちこち燃えてなくなっており、あらわになった肌は焼け爛れ、薄黒く変色している個所もある。

 「こりゃいかん…」

 ネコ婆の言葉に水蓮の体から血の気が引いてゆく。

 「イ…イタチ…。鬼鮫…」

 体の震えが止まらない…

 「いったい何があったフニィ」

 ヒナが二人を覗き込む、そして鼻をひくひくと動かす。

 「このニオイ…。ネコ婆、これはガマの油のにおいだフニィ」

 「妙木山のガマか…」

 ネコ婆のその声に、かすかに鬼鮫が目を開いた。

 「三忍の一人に…たまたま出くわしましてね…」

 「鬼鮫!しっかり」

 水蓮がその肩に手を置く。

 妙木山のガマ…三忍…

 「自来也…か」

 ネコ婆の言葉に鬼鮫が小さく頷く。

 「水蓮、私は大丈夫。体質が特異なんでね。回復力は強い。それよりイタチさんを…早く」

 「わ…わかった!」

 「ちょっと待ちな水蓮」

 イタチの体にかざしたその手をネコ婆がつかんで止める。

 「まずは全身の状態をよく観察するんじゃ。むやみやたらに治そうとしてはいかん」

 「は…はい」

 ネコ婆は素早くイタチを布の上に寝かせ、服を切り裂く。

 「もっとも症状の重い個所を見極めて、そこから治療する。少しずつだ。そして全体の症状を薬でも効果が出る程度まで、同レベルにするんだ」

 「はい!」

 「デンカ、ヒナ!あんたたちはそっちのでかいのを見てやりな」

 「了解」

 「分かったフニィ」

 素早く薬の瓶をくわえて鬼鮫のもとへと二人が駆け寄る。

 水蓮はイタチの状態を観察しようとするが、症状の重さに思わず目をそむけた。

 「しっかりおし!イタチを支えるんだろうが!」

 その叱咤に、水蓮は目に浮かんだ涙をグイッと拭った。

 「はい!」

 ネコ婆の指導に沿って水蓮は術でイタチの火傷や傷に手をかざしてゆく。

 「いいかい、少しずつだよ。忍術で治すと言っても、こういった外傷の場合、本人の治癒力の手助けをしているに過ぎない。傷が深ければ深いほど、それを直そうとする力が強く働いて、本人の体力を奪う」

 集中しながら頷く。

 どれほどの時間そうして治療に集中しただろう。

 重度のダメージを受けていた箇所のほとんどの治療が一段落ついた。

 水蓮の額には緊張と疲労による汗がびっしりと浮かび、顔が少し青ざめていた。

 「ひとまず休憩だ。水蓮」

 「いえ、まだ大丈夫です」

 しかしネコ婆は「だめだ」と厳しく言う。

 「あんたが倒れたら誰もイタチを救えないんだよ。今無理をして、明日一日動けなかったらどうするんだい」

 もっともなその言葉に、水蓮は素直に従う。

 「まぁ、ここまで来たらうちにある塗り薬でも効果は期待できる。明日の朝までは薬で様子を見て、状態にあわせて治療を進めればいいだろう」

 「はい。あ、あの…」

 不安な様子の水蓮に、ネコ婆は優しく笑った。

 「大丈夫。死にゃしないよ。あんたの腕の良さと、その想いがイタチを救ったんだよ」

 「こっちも大丈夫フニィ」

 「ま、何とかなったぜ」

 声に振り向くと、鬼鮫がふらつきながらではあるが体を起こしていた。

 「よかった…」

 ぽたり…と、膝の上に握りしめた手の上に涙がいくつも落ちた。

 「う…うぅ…」

 張りつめていた緊張が一気に解かれて、体がまた震えだす。

 抑えきれない感情が嗚咽となってあふれでる。

 「よく頑張った」

 ネコ婆に頭を撫でられ、余計に涙があふれる。 

 「ありがとう…ございます…っ」

 にじんでゆくその視線の先で「水蓮」と本当に小さな声がイタチの口から発せられ、イタチの指がピクリと動いた。

 「イタチ!」

 顔を覗き込むと、うっすらとイタチが目を開ける。

 「イタチ。もう大丈夫だよ。大丈夫だから…」

 ぽろぽろと涙が零れ落ちる。

 イタチは少し顔色の悪い水蓮を見て、痛みに顔をしかめながら、ゆっくりと手を持ち上げその涙をぬぐった。

 「大丈夫か?泣くな…」

 「…………っ」

 こんな時に…私の心配なんか…

 水蓮はまた泣きそうになったが、必死にこらえた。

 「私は大丈夫。イタチ、私が絶対助けるから。心配いらないからね」

 火傷が痛まぬよう、気を付けながら水蓮はイタチの手に自分の手を重ねる。

 「大丈夫だから…」

 

 ここで死なせたりしない…

 

 イタチはその心の声が聞こえたかのようにほっとした表情を見せ、目を閉じまた意識を失う。

 意識を手放す寸前、イタチは「泣くな…サスケ…」と小さく呟いた。

 意識が混濁しているようだ。

 「イタチ…」

 また涙がこぼれた。

 重ねたイタチの手は熱く、ほてりを帯びている。額に手を当てるとかなり熱い…。

 「しばらくは熱にも苦しみそうだ」

 イタチの顔をネコ婆が覗き込む。

 「ヒナ、デンカ、二人をベッドに運んでやりな」

 二人は先ほどのように大きくなり、イタチと鬼鮫を抱き上げる。

 鬼鮫もまた気を失ったようで、目を閉じ動かない。

 その様子にネコ婆がため息をついた。

 「イタチがあそこまで追い込まれるとはね。さすがは伝説の三忍と言ったところか…」

 水蓮はペインと自来也の戦闘シーンを思い出していた。

 敗れたとはいえ、6人のペインを相手に渡り合った自来也だ。

 たとえイタチと鬼鮫でも、そうそう敵う相手ではないのだろう。

 「私も行く」

 水蓮は少しふらつきながらデンカ達の後に続く。

 「水蓮、無理はするな」

 そのネコ婆の言葉に、水蓮は頷く。

 「せめてそばに…」

 傷ついたイタチから離れたくなかった。

 

 何もできなくても、そばにいたい…

 

 水蓮は苦しそうに顔をしかめるイタチの表情に、また涙がにじんだ。

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