いつの日か…   作:かなで☆

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第七十二章【負、漂う】

 一年の中で最も寒い季節を迎え、日に日に冷え込みはさらに鋭くなり始めた。

 それでも暁の名が表立ってきたこともあって、水蓮たちは宿をとることはなく野営が続いていた。

 この時期夜は特に火を絶やせないため、人目につかない高台にある西アジトでの滞在が多くなった。

 

 「鬼鮫。これは?」

 水蓮が地面から一本の枯枝を拾い鬼鮫に見せる。

 「ああ。大丈夫ですね」

 その枝を受け取り、鬼鮫はうなづいた。

 「これだけあれば、しばらく大丈夫でしょう」

 太い腕の中にはかなりの量の木の枝。

 それを抱えなおし、鬼鮫はアジトへと足を向けた。

 

 人目につかないとはいえ大きく煙を立たせるわけにはいかず、二人は薪に煙の立ちにくい種類の物を探していた。

 「今日はいい天気だね」

 寒さ厳しいこの季節には珍しく、今日は朝からあたたかい日差しが降り注いでいる。

 「小春日和ってやつだね」

 水蓮は腕を頭の上で伸ばして深く空気を吸い込む。

 今日の温かい空気がまだ遠い春を少し感じさせる。

 「気持ちいいね」

 つぶやかれたその言葉に、鬼鮫は苦笑いを返した。

 「そう言う顔には見えませんけどね」

 「え?」

 返した水蓮は不思議そうな表情を浮かべる。

 日差しを浴び、心地よく言ったつもりのその言葉はどこか覇気がなく、浮かべた表情は全く逆に見える。

 しかし本人が全く気付いていない様子に、鬼鮫はもう一度苦笑いを浮かべて何も言わず歩き出した。

 

 

 サソリの死から1週間が過ぎ、日を増すごとに水蓮の気持ちは自身が気づかぬうちに沈み込んでいた。

 

 知る者の死に加え、先を知りながら表には出せないその重々しさ。

 

 いつ何が起こるかわからない不安。

 

 イタチの死が近づく恐怖。

 

 それらが水蓮の心を少しずつ暗く深い水底に連れ去り始めていた。

 

 だが、すべて本人の気付かぬところで進んでおり、それを何とかできるのは自分ではないだろうと、鬼鮫なりに『どうしたものか』と考えをめぐらせていた。

 それはイタチも同じようで、少し曇った瞳で戻ってきた水蓮を見て内心で溜息をついた。

 それでも何か言葉をかけようと口を開いたその時、空から声が落ちてきた。

 「あーね!」

 それぞれが声の主を思い浮かべながらそちらを見上げる。

 「また彼は大きな声で」

 「何度言えば分るんだ」

 「まぁまぁ」

 なだめるように言って水蓮がデイダラを迎え入れる。

 「もうよさそうだね」

 会うのはあの日以来。すっかり調子を取り戻した様子のデイダラに、水蓮はほっとする。

 「おう!もうばっちりだぜ!うん」

 「ばっちりすぎてうるさいくらいですよ」

 大きく腕を振って見せるデイダラの後ろからトビが顔を出す。

 今まではおっていなかった暁の外套をその身にまとい、サソリがつけていた指輪をはめている。

 その事に、口にせずともトビがデイダラのパートナーになったのだとそれぞれが察する。

 それは確実に事態が進んでいる事の証であり、水蓮は知らぬうちに瞳を陰らせる。

 そんな水蓮とは対照的に、トビが明るい声を上げた。

 「まぁ、ばっちり治るまでもうるさかったですけどね。寝言であーね。あーね。って」

 「んなっ!トビてめぇ、作り話してんじゃねぇ!」

 「本当ですよ」

 「言ってねぇ」

 「いやでも、寝言だから本人分からないじゃないですか」

 「……っ」

 自分なら言いかねないと思ったのか、デイダラは言葉に詰まった。

 が、すぐにトビに詰め寄って声を荒げる。

 「だとしてもだ!いちいち言うんじゃねぇよ!空気読め!」

 言ってすぐにバカな事を言ったと思ったのか、デイダラの顔が引きつった。

 「空気読めって…」

 水蓮がつぶやき、鬼鮫が言葉を続けた。

 「無理でしょう」

 ガクリとデイダラが肩を落とす。

 「やだなぁ。ちゃんと空気読めますよ。たとえば、先輩が『あーね、助けて…』って言ってたこととかは言いませんから」

 「なっ!」

 デイダラの顔が一気に赤くなる。

 「てめぇっ!」

 わなわなと体を震わせ、トビに向かってこぶしを振る。

 「うわっ!何するんですか!」

 ひょいっと器用にそれを避ける。

 デイダラかわされてふらつき、怒りに体を震わせた。

 「避けるんじゃねえ!空気読め…って、あぁもう!」

 「デイダラ」

 苛立つデイダラに鬼鮫の手が伸びる。

 「それはあなたもですよ」

 大きなその手でデイダラの外套をつかんで軽く持ち上げ、そのまま水蓮の前に突き出す。

 「アジトで騒がないで」

 「う、すまねぇ…」

 まるで子供を叱るような水蓮のその口調に、気まずそうに顔をそらしながら謝る。

 「怒られた―」

 ひょこっとデイダラのそばに身を寄せ、トビが笑った。

 デイダラはまた体を震わせて目を吊り上げる。

 「誰のせいだと思ってんだ!」

 「デイダラ」

 荒げられたデイダラの声に水蓮が声を重ねて叱咤する。

 「あ、す、すまねぇ」

 「また怒られてる~」

 「うっ!く、トビ、てめぇ後で覚えてろよ…」

 わなわなとしてはいるものの、とびかかる様子は見られず鬼鮫がデイダラを離す。

 「アジトに帰ったら締め上げてやるからな」

 「こわーい」

 大げさなそぶりで鬼鮫の後ろに隠れ、顔だけをデイダラに覗かせる。

 「でも、ぼく~これからリーダーのところに行くんで、一人でやきもきしててください」

 「ああ?なんだよそれ」

 「さっき連絡来たんですよ。用事があるから戻って来いって。ぼくが戻るまでデイダラ先輩は一人寂しく過ごしててください。じゃぁそういうことで」

 言うや否や、トビはさっと姿を消した。

 「戻ったらしめてやる」

 「にぎやかだね。デイダラは」

 グッとこぶしを握り締めるデイダラを見ながら水蓮がクスリと笑う。

 久しぶりに見るその顔に、一瞬鬼鮫とイタチが顔を見合わせた。

 「それで、どうしたの?」

 見る限り腕の具合は良さそうで治療目的ではなさそうだ。

 「ん?ああ、いや、ちゃんと礼言っとこうと思ってよ。うん」

 「え?」

 きょとんとする水蓮にデイダラは向き直りニカッと笑った。

 「ありがとうな、あーね。治してくれて」

 腕を軽く持ち上げて改めてすっかり良いことを見せる。

 「あのまま治らなかったらって考えるとよ、正直恐ろしいぜ。うん」

 素直にほっとした表情で笑う。

 手はデイダラにとっては術の要。心底安堵している事が伝わり来て、水蓮は笑顔でうなづいた。

 結果的に暁の戦力を守ったこととなり胸中は複雑であったが、自分の力が誰かの役に立つというのはやはり嬉しい。

 それでも拭いきれぬマイナスの感情が表情に現れ、デイダラがそれに気づく。

 「あーね。なんか元気ないな?どっか悪いのか?」

 「え?ううん。そんなことないよ」 

 首を振る水蓮にデイダラがグッと顔を寄せる。

 「いや、なんか顔色ちょっと悪くねぇ?」

 「大丈夫だって」 

 「そうか?」

 腑に落ちない声で、デイダラがさらに水蓮に身を寄せる。

 その様子にイタチが目を細め、水蓮の袖口をつかんで引き寄せた。

 「わ…と」

 バランスを崩しながら、水蓮はイタチの背にその身を隠される。

 「デイダラ、用が済んだら早く帰れ」

 「なんだよ。あんたにはかんけーねぇだろうが。うん」

 「アジトに溜まるな…」

 ジトリとにらむイタチにデイダラも睨み返す。

 「一人増えたからってどうってことねぇだろ。うん。小さいこと言ってんじゃねぇよ」

 「ちょっと二人とも」

 どうにも相性が良くない様子の二人に水蓮は苦笑いを浮かべて間を取り持つ。

 「落ち着いてよ」

 デイダラを背にかばう形でイタチに向き合う。

 「少しデイダラの腕の状態も見たいし、もう少しだけ、ね?」

 水蓮の背後でデイダラが勝ち誇った顔で笑みを浮かべ、イタチが不満げな顔で背を向けた。

 「終わったらすぐに帰れ」

 「いえ。少しデイダラにいてもらいましょう」

 思いがけぬ言葉が鬼鮫の口から発せられ、イタチの肩が小さく揺れた。

 「水蓮。診終ったら彼に少し手合わせしてもらうといい」

 「え?デイダラに?」

 「ええ。どうせひまでしょう、デイダラは」

 「なんか癇に障るな。まぁけど、あーねと手合わせってのは面白そうだぜ。うん」

 すっかりやる気のデイダラとは逆に水蓮は少し戸惑っていた。

 

 デイダラはサスケと互角と言える内容で戦ったほどの実力者であり、あのサスケに『思ったより強かった』と言わせた人物。

 

 そんなデイダラと手合わせ…

 

 普段鬼鮫と組み手をしているとはいえ、鬼鮫は十分自分の事をわかった上での相手。

 一度も手合わせしたことのない人物。しかもそれがデイダラとなると思わず尻込みしてしまう

 「なにを気弱な顔してるんですか。普段私が手ほどきしてるんですよ。デイダラくらい相手にできないでどうするんですか」

 「やっぱり癇に障るな。うん」

 ジトリと鬼鮫をにらみ、デイダラは次に水蓮にいつものなつっこい笑顔を向けた。

 「やろうぜ。あーね。オイラもちょっと体動かしてぇしな。リハビリってやつだ、うん」

 そう言われると断りずらい。

 水蓮は少し考えてから小さくうなづいた。

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